2015年12月26日土曜日

襟裳の秋はなにもない秋です。

「襟裳岬」(詩:岡本おさみ・曲:吉田拓郎)は日本ビクターの創立五十周年、
同社から独立したビクター音楽産業株式会社の一周年記念の特別企画の一貫(1)
で「新しい発想のレコードを」ということで採用された。

森進一が拓郎の曲をカバーしたのではなく、森進一のために書かれた曲である。
ディレクターの高橋卓士の提案だが、拓郎が以前「森さんのような人に書いて
みたい」と発言していたことがきっかけらしい。

ビクター上層部や渡辺プロダクション側からは「フォークのイメージは森に似
合わない」「字余りの曲は森向きでない」と不評で当初はB面扱いだった。
しかし3番の歌詞に感動した森が反対を押し切ってA面に変更させた。


「襟裳岬」は元は「焚火1」という北海道の昆布採りの女を描いた詩だった。
高橋ディレクターが発売前の岡本おさみの詩集から選び、これを曲にして欲し
いと岡本に申し出た。


焚火Ⅰ

北の街では もう 悲しみを 暖炉で 燃やしはじめているらしい
理由のわからないことで 悩んでいるうちに 老いぼれてしまうから
黙りとおした歳月を ひろい集めて 暖めあおう

君は二杯目だね コーヒーカップに 角砂糖ひとつ
捨ててきてしまった わずらわしさを くるくるかきまわして
通りすぎた夏の匂い 想い出して 恥ずかしいね

いつもテレビは、ね! あまりにも他愛なくて かえっておかしいね 
いじけることだけが 生きることだと 飼いならしすぎたので
身構えなければ なにもできないなんて 臆病だね

寒い友だちが来たよ  
えんりょはいらないから 暖まってゆきなよ


曲をつけてみた拓郎が電話で「いくつかことばを変えたい」と岡本に申し出る。
「二杯目だね」を「二杯目だよね」に、「角砂糖ひとつ」を「角砂糖ひとつ
だったね」に、「恥ずかしいね」を「懐かしいね」に。
最後の「寒い友だちが来たよ」は「寒い友だちが訪ねて来たよ」に変更。

「いつもテレビは〜」の一節は「日々の暮らしはいやでも やってくるけど
静かに笑ってしまおう」に、「身構えなければ」の一節は「身構えながら話す
なんて ああ 臆病なんだよね」に拓郎の提案で改められた。


拓郎から「タイトルの焚火がちょっと弱い」という話も出た。

そこで同じく昆布採りの女を描いた「襟裳岬」という詩からの一節「襟裳の
秋はなにもない秋です」を持ってきてタイトルも「襟裳岬」に変更された。



襟裳岬

こうして鈍行列車に揺られながら したためた短い便りは 
電話の鳴り続ける忙しいきみの机に 名も知らぬ配達夫が届けるだろう 
都会のなすがままになっているきみは 素直さをすりへらし 
わずかなやさしさを守るのに精一杯で 人に分け与える余裕がない

襟裳の秋はなにもない秋です 昆布を採る人の姿さえも
そうしてほんのひととき  きみはわずらわしさを忘れ 
襟裳の民宿で汚れたシャツを洗うぼくを想い浮かべ
そのたどたどしい手つきに ふと 微笑むかもしれない



「秋」が「春」になったのはその方が響きがいいからだろう。(2)
岡本おさみも柔軟であり、自分の立ち位置は詩人ではなく作曲家と組んでこそ
の作詞家であると自覚していたようだ。
彼自身、活字よりも歌に強く影響を受けていて、歌を好むのはビートルズを
聴いたからだ、とも語っている。




   ↑写真をクリックすると吉田拓郎ヴァージョンの「襟裳岬」が聴けます。



吉田拓郎のデモテープはあっさりとしたフォークのテイストで、同年12月に
アルバム「今はまだ人生を語らず」でセルフカバーしたヴァージョンに近かった
らしい。

それを編曲家の馬飼野俊一(3)がテンポを落とし、コッテリとこぶしの効いた
みごとな歌い上げ系演歌にアレンジした。(4)



森進一の「襟裳岬」は100万枚を超えるヒットとなり、1974年の日本レコード
大賞と日本歌謡大賞をダブルで受賞。
同年のNHK紅白歌合戦で森進一は初めての大トリをこの曲で飾った。

「襟裳岬」の成功は歌謡曲・演歌と和製フォークの融合の先駆けとなった。


<参考資料:Wikipedia、「ビートルズが教えてくれた」岡本おさみ>

2015年12月20日日曜日

過ぎてゆくばかりだな、僕の旅。

岡本おさみさんが亡くなった。骨太の男臭い詩を書く人だった。
社会には辛辣だけど人を見つめる目がやさしく、体温や息遣いまで感じられ
る詩だったと思う。

岡本おさみといえば吉田拓郎。吉田拓郎といえば岡本おさみ。
これ以上ないくらいのソング・ライティングチームだった。


あまりにも有名な「旅の宿」「襟裳岬」や拓郎ファン必聴の「落陽」。
他にもこの二人の作品には名曲がいっぱいある。


愛の絆を
蒼い夏
赤い燈台
アジアの片隅で
あの娘が待っている街角
いくつもの朝がまた
いつか夜の雨が
いつも見ていたヒロシマ
歌ってよ夕陽の歌を(森山良子提供曲)
襟裳岬(森進一提供曲)
おきざりにした悲しみは
悲しいのは
からっ風のブルース
君が好き
君去りし後
こっちを向いてくれ
サマーピープル
暑中見舞い
聖なる場所に祝福を
制服
旅の宿
地下鉄にのって(猫提供曲)
月夜のカヌー
都万の秋
望みを捨てろ
野の仏
話してはいけない
花嫁になる君に
晩餐
ビートルズが教えてくれた
ひらひら
古いメロディ
歩道橋の上で
また会おう
又逢おうぜ あばよ
祭りのあと
まにあうかもしれない
まるで孤児のように
マンボウ
夕立ち
夢を語るには
世捨人唄
LAST KISS NIGHT
落陽
リンゴ
ルームライト(由紀さおり提供曲)
竜飛崎


「祭りのあと」や「おきざりにした悲しみは」はいかにも岡本おさみらしく
拓郎節とのマッチングが最高だ。

僕はほのぼのとした感じの「野の仏」「ひらひら」「蒼い夏」が大好き。




      ↑1976年「セブンスターショー吉田拓郎リサイタル」(1)
   「蒼い夏」45:13「ひらひら」52:50「落陽」1:03:45が聴けます。



「花嫁になる君に」「リンゴ」「こっちを向いてくれ」「蒼い夏」、猫への
提供曲である「地下鉄にのって」など、恋人同士や夫婦の日常的な会話や
距離感を題材にした詩は拓郎本人も書きそうである。

そういう意味で岡本おさみと吉田拓郎は相通ずるものがあり相性がよかった
と思うのだが、本人たちは必ずしもそう思っていなかったようだ。



二人の共作はおそらく1971年発表のアルバム「人間なんて」に収録された
「花嫁になる君に」が最初ではないかと思われる。

CBSソニー移籍後は「元気です」で6曲、「伽草子」で7曲、「LIVE'73」で
8曲とピークを迎え1974年の「今はまだ人生を語らず」では3曲、「明日に
向って走れ」で1曲、「ぷらいべえと」で2曲と収束しその後3年間途絶える。


共作が一番多かった1973年頃は二人とも超売れっ子で、岡本おさみはその
煩わしさから逃れたい気持ちもあったのか旅ばかりしていたらしい。
もちろん詩のインスピレーションを得る目的もあったと思う。


拓郎とは手紙や電話でやり取りをしながら曲作りをしていたそうだ。
「岡本おさみと自分とは違うところで生きている、自分とは接点がないから
話をしてもしょうがない」と拓郎は感じ「会っても喧嘩になるのではないか。
岡本おさみは岡本おさみでやればいい。自分は自分でやる」という考えに
至ったようだ。

その一方で「自分が書きたいと思っていたテーマを岡本おさみが先に書いて
しまうのが悔しかった」とも述べている。
岡本おさみの方も「吉田拓郎はもう自分の言葉だけで自分の世界を作り上げ
ている。入る余地はない。もう関与してはいけない」と感じていた。



拓郎は「今はまだ人生を語らず」では脱・岡本おさみを図る。
岡本おさみとの共作は世捨人唄」「おはよう」「襟裳岬」の3曲に減った。

実はこのアルバムは当初2枚組が予定されていたが、レコーディングの時間が
足らず16曲しか用意できなかった。(2)
そのうち12曲はアルバムに収録されたが、「ルームライト」「蛍の河」「私」
「地下鉄に乗って」の4曲は録音されたものの宙に浮いた。(3)




             ↑「蛍の河」のアウトテイク
         (自宅デモと書いてあるがスタジオ録音だろう)



「ルームライト」は由紀さおり提供曲、「蛍の河」は小柳ルミ子提供曲、
「地下鉄に乗って」は猫への提供曲でいずれも岡本おさみとの共作である。

確定していた「襟裳岬」「世捨人唄」が森進一提供曲、「おはよう」も桜井
久美提供曲で3曲とも岡本おさみとの共作。
「戻ってきた恋人」は安井かずみ作詞だが猫への提供曲。

その他の候補曲も他の歌手への提供曲ばかり。
これ以上増やすと「オリジナルの新曲で勝負」(4)というコンセプトが揺らぐ。
岡本おさみとの共作が多すぎるという思いも拓郎にはあったのだろう。


岡本おさみ+吉田拓郎チームが復活したのは1980年の「Shangri-La」で4曲、
「アジアの片隅」で5曲、1985年の「俺が愛した馬鹿」で1曲共作している。

                              (続く)
※タイトルは「竜飛崎」の歌詞の一節です。

2015年12月13日日曜日

丘の上のジェニファー。

「Jennifer Juniper」はドノヴァンの曲の中でもひときわ親しみやすくポップで
ありながらも、どこか牧歌的な美しいメロディーが魅力的な作品である。
1968年に英国、アメリカ、日本でシングル盤が発売。(B面は「Poor Cow」)
同年のアルバム「The Hurdy Gurdy Man」にも収録された。

「Jennifer」というのは当時ドノヴァンが夢中だったジェニー・ボイドのこと。
ジェニーはあのジョージハリソンの妻であり後にエリック・クラプトンの妻と
なった(後に離婚)パティー・ボイドの妹である。




           ↑クリックするとYouTubeで視聴できます。



パティー、ジェニー、そして末妹のポーラは三人ともモデルであった。
今の日本で言うと道端カレン・ジェシカ・アンジェリカ三姉妹みたいな感じ?
(個人的には高橋メアリージュン・ユウ、蛯原友里・英里の方が好きだけど。
んなこと、どうでもいいよね)
分かりやすい例を挙げたが、影響力が比ではないことは言うまでもない。

パティーはかわいくて着こなし上手でスゥンギング・ロンドンの象徴のような
女性で同性からは憧れられ、男性たちは彼女の虜になったそうだ。
ジョン・レノンやミック・ジャガーもパティーに惹かれたことを明かしている。




        左がジェニー、右がパティー (パティーの勝ち〜♫)




        左がパティー、右がジェニー (パティーの勝ち〜♫)



パティーほどではないにしろ妹のジェニーもモテモテだったようだ。
ドノヴァンも彼女にメロメロだったが結局二人はうまく行かなかった。

ジェニーはその後(クラプトンと付き合ってたという話もあるけど?)ミック・
フリートウッド(フリートウッドマックのドラマー)と結婚して離婚して再婚
というややこしいことをした後、元キングクリムゾンのドラマー、イアン・
ウォーレスと結婚してまた離婚。


姉のパティーが二人のギタリストを渡り歩いたのに対してジェニーはドラマー
(にこだわったのかどうか知らないけど)続けて二人というのがおもしろい。

ジェニーは心理学の学位を取ったそうで(あまり深く考えないタイプに見える
けど→失礼)ミュージシャンの心理を分析した本を書いている。
(「素顔のミュージシャン/ジェニー ボイド」– 1993/8)



「Jennifer Juniper」の二つ目のJuniperはアロマオイルやジンの香りの元として
使われるセイヨウネズ(ジュニパーベリー)のことらしいが、Juniperという名前
は実際に男子にも女子にも付けられることがあるようだ。

ドノヴァンがなぜ「Jennifer Juniper」と歌っているのかは分からない。
単なる語呂合わせ?



Jennifer Juniper
(Donovan Leitch 訳:イエロードッグ)

Jennifer Juniper lives upon the hill, 
Jennifer Juniper, sitting very still.
Is she sleeping ? I don't think so.  Is she breathing ? Yes, very low.
Whatcha doing, Jennifer, my love ?

ジェニファー、ジュニファー、丘の上に住んでいる
ジェニファー、ジュニファー、じっと座ってる
眠ってるの? そうじゃないと思う 息してる? うん、ゆっくりね
何をしてるんだろう、僕のかわいいジェニファー

Jennifer Juniper, rides a dappled mare,
Jennifer Juniper, lilacs in her hair.
Is she dreaming ? Yes, I think so.  Is she pretty ? Yes, ever so.
Whatcha doing, Jennifer, my love ?

ジェニファー、ジュニファー、ぶちの馬に乗っている
ジェニファー、ジュニファー、髪にライラックをさして
夢を見てるのかな? うん、きっとね。 きれい? うん、すごく
何をしてるんだろう、僕のかわいいジェニファー

I'm thinking of what it would be like if she loved me.
You know just lately this happy song it came along
And I like to somehow try and tell you.

彼女が僕のことを好きになってくれたらなあ、って思うんだよ
最近ね、このハッピーな歌がふと浮かんだんだ
なんとか君に伝えたくてね

Jennifer Juniper, hair of golden flax.
Jennifer Juniper longs for what she lacks.
Do you like her ? Yes, I do, Sir.  
Would you love her ? Yes, I would, Sir.
Whatcha doing Jennifer, my love ? 
Jennifer Juniper, Jennifer Juniper, Jennifer Juniper.

ジェニファー、ジュニファー、 亜麻色の髪
ジェニファー・ジュニファー、ないものねだりの子
あの娘が好き? ええ、もちろん 愛せるかな? ええ、そう思います
何をしてるんだろう、僕のかわいいジェニファー

Jennifer Juniper vit sur la colline, 
Jennifer Juniper assise trs tranquille.
Dort-elle ? Je ne crois pas. Respire-t-elle ? Oui, mais tout bas.
Qu'est-ce que tu fais, Jenny mon amour ?
Jennifer Juniper, Jennifer Juniper, Jennifer Juniper.

(フランス語で最初のヴァースと同じ内容)



レコードではオーボエやクラリネット、ストリングスが入り英国ののどかな
田園風景を彷彿させるようなアレンジになっているが、ライブでは十八番の
弾き語りが堪能できる。






ドノヴァンのギター・スタイルの特徴の一つでスリーフィンガーやアルペ
ジオに歌のメロディーを組み合わせていることが多い(時には主メロ
3度下の場合もある)が、この曲もそのいい例だ。
つまり歌いながら同じメロディーを入れた複雑なフィンガーピッキングを
しているのである。

余談ではあるが、和製ディランと評された吉田拓郎もドノヴァンから影響を
受けたこと、ドノヴァンの音が欲しくて加藤和彦にギブソンJ-45を譲って
もらったことを石川鷹彦との対談で明かしている。

2015年12月7日月曜日

涙あふれて。

「As Tears Go By(邦題:涙あふれて)」(1)はローリング・ストーンズの楽曲
中でもとびきり美しい作品の一つと言えるだろう。

この曲は1964年にマリアンヌ・フェイスフルのデビュー曲として提供された。
ミック・ジャガーとキース・リチャーズの共作だが、マネージャーのアンドリュー
・ルーグ・オールダム(2)の名前もクレジットに入っている。




マリアンヌは貴族の血を引く修道院育ちというプロフィール(3)、ロリータ的な
美貌と透明感のある声で人気を博し、ポップアイドルとしての地位を確立。

ジャン=リュック・ゴダールの映画で女優としてもデビューする。
アラン・ドロン主演の「あの胸にもういちど」ではヒロインに抜擢。
全裸に革のライダースーツでバイクに乗るシーンは峰不二子のモデルになった。


ミック・ジャガーの恋人であったことも有名だ。ミックは夢中だったとか。
そんないい女か? ま、好き好きだけどさ(笑)

パティー・ボイドが好きかマリアンヌ・フェイスフルが好きかって、ビートルズ
とストーンズとどっちが一番好きかに関係あるような。。。。違う?



その後マリアンヌはドラッグ過剰摂取が発覚し(全裸で倒れていた写真が新聞
載る)、アイドルから一気に「地に堕ちた天使」「天使の顔をした娼婦」へ。
流産、ミックとの破局、薬物中毒、自殺未遂、アルコール依存症、転がる石
(rolling stone)のような転落人生を歩むことになる。

透き通った声も1オクターブくらい低いドスの効いたしゃがれ声になった。
アルコールと煙草、不摂生が原因だと思われる。


1987年には「As Tears Go By」をセルフカバーしているが、かつてのファンは
涙あふれてしまうのか?それでも嬉しいのか?どうなんだろう。






「As Tears Go By」はローリング・ストーンズ自身もレコーディングしている。
アメリカではシングルA面で1965年12月、イギリスでは「19回目の神経衰弱」
のB面として1966年2月にリリースされた。
僕はこの本家ストーンズの「As Tears Go By」が馴染み深い。大好きだ。





演奏はキースの12弦ギターと弦楽四重奏のみで他のメンバーは参加していない。
そのためビートルズの「Yesterday」の模倣と揶揄された。
ちなみに弦楽四重奏のアレンジは後にビートルズの「She’s Lieving Home」
のストリングス・アレンジ(4)を手がけたマイク・リーンダーである。


この曲はイタリア語でもレコーディングされ1966年5月にイタリア・デッカから
「CON LE MIE LACRIME」というタイトルでシングル盤が発売されている。




イタリア語で歌っているのはミックではなくブライアン・ジョーンズ。
演奏も別テイク。
あのイントロではなくギターのストロークから始りハプシコードが絡む。


1996年にはナンシー・シナトラもカバーしている。
スローから中盤ミディアム・テンポのボサノヴァになるアレンジもなかなか。







最後は2013年のローリング・ストーンズとテイラー・スイフトの共演。
若くてキレイな子と一緒でミックじいさんもキースじいさんも嬉しそう。
ぜんぜん涙あふれてません(笑)





2015年12月1日火曜日

ビートルズ「+1」がやって来た!<CD全曲レビュー3>

19. Hello, Goodbye
ポールのボーカルとベースがセンター、ドラムとピアノとパーカションは左、
ギターとストリングス、掛け合いのコーラスは右という定位は大きく変わらず。
ただしドラムはセンターでどっしりかまえるようになった。
そのおかげで中間部のWhy why…と後半のHela heba helloでのドッスンバッタン
が迫力が増した。
中間でのポールのWhy why ….do you say goodbyeが右よりから左寄りへ。





20. Lady Madonna
左のピアノとリンゴのドラム(ブラシ)に続いて右にドラムとベース、ギター。
ボーカルとコーラスとサックスはセンターという定位は同じ。
しかし左右が遠くから鳴ってた感じが音圧が上がったせいか近くに聴こえる。

中間部のPa pa pa pa〜はセンターだったのがやや左右に振り分けられた。


21. Hey Jude
ほとんど変化なし。ポールのボーカルなのにピアノは右。
弾きながら歌ってるんだよね?どうも違和感があるなあ。
コーラスもタンバリンもセンター。ドラムはセンター〜やや左寄り。

ベースはセンター。
(プロモ・ビデオではジョージがフェンダーの6弦ベースを弾いているが、
レコーディングではポールがベースを弾いている。たぶんジャズベースだろう)

ジョンのギターが左なのは同じだが今回のミックスではより大きく聴こえる。
プロモ・ビデオではEpiphone Casinoを弾いてるので、この鳴りの悪さは
Casinoをプラグインせずマイクで拾ったのか?(センターブロックがない
完全なホローボディー構造なので生でもけっこう鳴る)と思いがちだ。

しかしトライデント・スタジオでの録音を撮影したフィルムにも写っている
ように、ジョンは塗装を剥がしたGibson J-160E を弾いている。
鳴りが悪いのは、トライデント・スタジオで録音したテープをアビーロードに
持ち帰ったところ機材の違いから音質が劣化した(イコライジング処理で
事なきを得たというが)せいかもしれない。


終盤のブラスがセンターだったのが左寄りになったのが唯一の変化か。
後半のポールのシャウト、I wanna na na na〜Make it Jude(カッコイイ!)
とジョンのPain won't come back, Judeもセンターのまま。

最後のWell, then I na〜のでフェイドアウトが早いのも改善されなかった。
(モノラル盤ではこの後リンゴの表情豊かなドラミングが楽しめるのに)





22. Get Back
これは王道のミックスだから基本的に変える必要なし。
センターでベースを弾きながら歌うポール。
左にジョンのギター、右にジョージのギター。
複数のマイクで拾ったドラムはセンターから左右に広がりステレオ感あり。
ビリー・プレストンのフェンダー・ローズはセンター。

が、音量配分が変わったように思う。
左右のギター、フェンダー・ローズが迫ってくるようになったがリンゴの
ドラムが後退したようで残念だ。

グリン・ジョーンズがミックスしたシングル・ヴァージョンである。
一度演奏が終わる2:30辺りの話し声は今回もしっかり聴こえた。
ちなみにブレイクする前の演奏は1月27日の録音、ブレイク後のOohで始まる
アドリブ部分は1月28日演奏。2つのテイクをつなげているのだ。
曲が固まってくるとテンポもドライブ感も揺らぎないのはさすがである。



23. The Ballad of John & Yoko
変化なし。
この曲はジョンとポールの二人だけで短時間で録音された。
ジョンがボーカル、アコースティックギター、リードギター(2回)、マラカス。
ポールがセカンド・ボーカル、ベース、ピアノ、そしてドラム。

センターにボーカル、アコースティックギター、ベース。
ドラムはセンターから右に定位。マラカスと何かを叩く音が左。
ジョンが弾くオブリが左右で交互になる。ピアノが右。

エンディングのドラムがなぜか右だけで音が小さいのも変わらなかった。
1969年のシングル盤は真ん中でバスドラがドスンと迫力あったのに。
ポールのベースが重く響くのがいい。




24. Something
左にギターとキーボード。右にベース。
センターにボーカル、リード、ストリングスという定位はそのまま。

音の分離がよくなりそれぞれの楽器の輪郭がはっきりした。
ポールのメロディックなベースラインは右チャンネルを独占する価値あり。
左から聴こえるジョージのコード・プレイはフェンダー・テレキャスターの
オールローズをレスリーの回転スピーカーから流した音。

サビの前のオブリの前に小さく別なオブリが聴こえる。
少なくと2回弾いているようだ。
ジェフ・エメリックの話ではジョージの間奏のギターはスライドだそうだ。
1トラックしか空きがなかったためストリングスと一緒に一発で録音した結果
がこの素晴らしいソロである。


25. Come Together
変化なし。
ボーカル、ベースがセンター。ドラムはやや右。
歪みを効かせたジョンのギターは左。オルガンが右。
ジョージのリードギター(ツイン)はセンター。

ジョンの声がおとなしくなったような気がするのは気のせい?







26. Let It Be
グリン・ジョーンズがミックスしたシングル・ヴァージョン。エコーが深い。
これは良くなった。

オリジナルはセンターでピアノを弾きながらポールが歌う。
Oohのハーモニーが左から右に動く。ビリー・プレストンのオルガンは左。
ドラムとベースはセンター。
間奏のギターは右。裏でこもったように鳴ってるギターはセンター。
オブリの歪んだギター(アルバム・ヴァージョンではメイン)は右。

2015年版は最初のLet It Be〜からやや左寄りでオルガンが鳴りだす。
Oohのハーモニーはやや右寄り。
ドラムとベースはセンター。
ハイハット、スネア、トップシンバルの音がシャープになった。
躍動感あるベースはポールが後から重ねたものだろう。
映画ではジョンがフェンダーの6弦ベースを弾いてるがこんなに上手く弾けない。
この曲の録音時には既に「重ねない」コンセプトは反故になっていたはずだ。

間奏のギター(右)の間ずっとビリー・プレストンのオルガンが左から攻めて
くるのが実にいい。
センターでポールが変化を付けてコードを刻んでるのもよく聴こえる。
ジョージのソロはオールローズのテレキャスターをレスリーの回転スピーカーから
鳴らしフランジャー的効果を出してるが、その音色も今回は堪能できる。
裏でこもったように鳴ってるギター(センター)は後退。
エンディング近くのジョージのギター(右)も前はごちゃごちゃで何をやってるか
分からなかったが今回はよく聴こえる。

最後のヴァースのMonther Marry(2:58)でのポールのピアノのミスタッチも
ちゃんとそのまま残された。めでたし、めでたし(笑)


27. The Long and Winding Road
定位は変わっていない。
ポールのボーカルとピアノ、リンゴ、ジョンの6弦ベースがセンター。
ジョージのギターは左。オーケストラは左右。

オーケストラの左右の分離が良くなりきれいに広がるようになった。
ストリングス、ブラス、コーラスそえぞれのメロディーラインがくっきり浮かぶ。
ジョンの6下手くそな弦ベースは引っ込み粗が目立たなくなった。

フィル・スペクターの分厚いオーケストレーションに激怒したポールが脱退を決意
したという曰く付きの曲であるが、このアレンジが多くの人々の記憶に残っている
のもまた事実である。これはこれで美しい。

DVDには映画ヴァージョンの4人とビリー・プレストンのシンプルな演奏も収録され
ているので聴き比べてみるといいだろう。

2015年11月25日水曜日

ビートルズ「+1」がやって来た!<CD全曲レビュー2>

12. Day Tripper
ギター(ダブルトラキング)が左右から鳴るのは同じだがややセンター寄りに
改められパワー感が増した。
間奏の後、1:42辺りで左のリフが落ちるのが以前から不思議だったのだが、
今回のミックスでジョージがミスって4拍の裏を弾いていないのが確認できた。

ユニゾンで同じラインを弾くポールのベースが左からセンターへ。
これによってこの曲の売りであるリフがしっかり前に出て来る。
また左のベースが移動したことで同じく左のジョンのリズムギターが鮮明に。
ああ、Eを弾きながら時々7thの音を入れてるんだなあ、と分かった。

左のドラムは少しセンターに移動しビートが強くなった。
タンバリンが右なのは変わらないが歪みがなくなり硬質で抜ける音に。
従来は右だったボーカルがセンターに移動して聴きやすくなった。
同じく右のコーラスがセンターから右へと広がる。いい感じだ。


13. We Can Work It Out
以前は左にほとんどの楽器、右にボーカルとハーモニウムという極端な左右泣き
別れだった(Rubber Soulのミックスの特徴)。 
今回は左にアコースティックギター、ベース、ドラム、タンバリンという定位は
踏襲しながらややセンターに寄せられ、右はハーモニウム、ボーカルはセンター
で聴きやすくなった。

それだけではない。
ポールのボーカルのダブルトラッキングの片方が右に定位し、センターと右から
聴こえるピーター・コビン方式が取られステレオ感が楽しめてうれしい。
ジョンが弾くハーモニウムは伸びやかな音で拡がり二音なのが分かるようになった。
余談だが一音ずつ別なトラック(一つはフェイドイン)に録音されたらしい。





14. Paperback Writer
これも劇的に変わったと思う。カッコイイ!
従来は左にギター、ドラム、タンバリン、右にベースとコーラス(歌い出しのみ
右と左)の分離が効きすぎで、せっかくのリフが遠くから聴こえ不満だった。

今回は歌い出しからハーモニーが左右に拡がり美しく響き渡る。
ポールのダブルトラックのボーカルはセンター寄りの左と右でステレオ感が出た。
ギター、ドラム、タンバリンはセンターに移動(おそらく同じトラックに一緒に
録音されたのだろう)。
そのせいで迫力が出た。リンゴのドラムは重くギターは力強い。


15. Yellow Submarine
まず従来。
アコースティックギター、ドラム、ベースが左でボーカル、コーラスは右の泣き別れ。
終盤のYellow Submarineのリフレインは左からも声が聴こえセンターに動く。
ティンパニーはセンター。
管楽器がセンター、波などの効果音がセンター〜やや左に配されていた。

1999年のYellow Submarine Songtrack版は別物と思うくらい大胆に変えられている。
それと比較するのもナンなのでパスして2015年版のレビューに移りたい。

アコースティックギターは左。
リンゴのボーカル、ドラム、ベースはどっしりセンターへ。
We all live in a yellow submarineのコーラスが両側からリンゴを囲む。
波の音は右、他の効果音も右と左に振り分けられる。
管楽器は左から右へマーチングバンドが動いてるのが想像できるようだ。
この曲も今回のミックスの勝ち〜♫

尚DVDの5.1だと波や声が後ろに回っておもしろいらしいが、残念ながら我が家は
サラウンドが楽しめる環境にない。



16. Eleanor Rigby
これも劇的に変わった。本当に(笑)

まず従来。Ah look at all the lonely people〜のボーカルは左右。
Eleanor Rigby〜で右のみになるが最初のEleaだけ左に残っている。
これは単純にミックス時にフェイダーを下げるのが遅れたためだろう。

All The Lonely People〜はセンターに聴こえるが左右でユニゾンで歌っている。
この頃ADTが導入されたので1つのトラックをずらしてるのだと思う。
最後に小さく聴こえるAh look at all the lonely people〜は左。
ストリングスはまとめてセンターに定位されていた。

で、今回。
Ah look at all the lonely people〜が左右なのは同じだがセンター寄りに。
Eleanor Rigby〜からセンターでしっかり歌う。
左chのEleaの取り残しもなし(笑)
All The Lonely People〜はセンター寄りだが左右のステレオ感も充分だ。

ストリングスの配置も大きく変わった。
左に第一バイオリン、第二バイオリン、センター右よりにビオラ、右にチェロ
とまるで弦楽四重奏がポールを囲むように伸びやかな音色を奏でている。





17. Penny Lane
従来はほとんどの楽器とボーカルがセンターに寄せられ、クラリネットとピッ
コロとオルガンが右、鐘は左、サビのand in my eyesで入るトランペットは
左右に振り分けられてた。
有名なピッコロ・トランペットの間奏は左だが終盤のオブリは左に移動。

2015年盤ではポールのピアノが左に定位されはっきり聴こえる。
peasure to know〜でセンター(と右からややずれて鳴る)他のピアノが聴
こえ、二台で弾いている(一台はジョンらしい)ことが初めて確認できた。
右からのオルガンは前よりはっきり弾聴こえる。

クラリネットとピッコロが右、鐘が左、サビのand in my eyesで入るトラン
ペットが左右なのは同じ。
間奏のピッコロ・トランペットはセンターで誇らし気に鳴り響く。
終盤もセンターだがエンディングのみ左へ。

センターはポールのボーカルとベース、ドラムと王道。
ベースは伸びやかに重く響く。
リンゴのハイハットの刻み方、スネアの入れ方は抜群のセンスだ。

ポールのボーカルはセンターで変わらず。
There beneath the blue suburban skiesのコーラスは左右に広がるよう
になった。


18. All You Need Is Love
ラ・マルセイユのイントロは右にトランペット、左にピアノの単音、セン
ターでドラムロール。
次に左からハプシコードとLove love loveのコーラス。右からチェロ。
ジョンのボーカルとベース、ドラムがセンター入るのがオリジナルのミックス。

流れるようなストリングスとAll You Need Is Love〜で入る管楽器は右〜
やや右に配されていた。
ジョージのギターソロはセンター。
All You Need Is Love〜でジョンのダブルトラックの片方のボーカルが左に
振られる。
ジョージとポールのコーラスは左。
終盤のポールのAll together nowはセンター。


1999年のYellow Submarine Songtrack版では劇的に変わる。
ラ・マルセイユのトランペットが左右中央に広がり響く。音量も大きくなる。
ピアノの単音は聴こえなくなった。
Love love loveのコーラスもセンターから左右に広がり音量も上がった。
ハプシコードの左、チェロの右は同じ。
ストリングスは左〜やや左へ。All You Need Is Loveの管楽器はやや右寄り。

All You Need Is Love〜でジョンのダブルトラックの片方のボーカルが左
からややずれて聴こえるのが顕著になり広がりが出た。
ジョージのギターソロ、終盤のポールのAll together nowはセンタで同じ。


そして2015年版「1」である。
ラ・マルセイユのトランペットが右、ピアノが左という定位はオリジナルと
同じだが、両方ともよりクリアーに聴こえる(特にピアノの単音)。
左からハプシコード、右からチェロという入り方もオリジナル準じているが、
Love love loveのコーラスは左右に広がるようになった。

ジョンのボーカルとベース、ドラム、間奏のギター、終盤のポールの掛け声
センターという定位もストリングスとAll You Need Is Love〜で入る
管楽器が右〜やや右に配されているのもオリジナルのミックスに忠実。

つまりオリジナルのミックスに敬意を表しあまり変えなかったということか。
個人的には1999年のピーター・コビンの激変ミックスが好みであるが。




2015年11月19日木曜日

ビートルズ「+1」がやって来た!<CD全曲レビュー1>

◆全体的な音の傾向

オリジナルのミックスで極端に左右にふられていた楽器やボーカルの定位がセンター寄り
に改められ、不自然さがなくなり聴きやすくなったと思う。


ポールのベースとリンゴのドラムがどっしりセンターでかまえる王道の定位が多い。
ボーカルも基本的にはセンター。(他の定位とのバランスで右寄りの曲もある)
ダブルトラックの声を左右どちらかのチャンネルで小さめに鳴らすピーター・コビン方式
も復活した(個人的には好み)。

ギターは左右、センターと分けられ今までより何をやってるか鮮明に分かる。
ストリングスなどは左右から背後に広がるミックスで奥行き感も出た。






ポールのリッケンバッカー・ベースが太くずっしりと量感が増し伸びやかになり、ブン
ブンうねるベースラインの躍動感が出るようになった。
エレキギターの音は引き締まり音の輪郭が明確に、アコースティックギターの音はかなり
鮮明に生々しく響く。
リンゴのドラムはタムの音がしっかりし、シンバルの金属音が抜けるようになった。
時にうるさすぎたタンバリンなども音量、定位で調整されている。

ボーカルはクリアーでパワーアップしている。
左右どちらかかセンターで重なるように聴こえていたコーラスが、ボーカルを囲むよう
に左右に広がり歪み感が消えてますます美しく響くようになった。







以下、前半1〜11曲目の聴きどころ(個人的な所感)をまとめてみた。



1. Love Me Do
2. From Me To You
3. She Loves You
以上3曲はモノラル。
モノラルミックスしか残っていない(残念なことに元テープは誤って破棄してしまった)
She Loves Youはともかく、他2曲はステレオミックスも可能なはずだが2トラックの音源
ではバランスのいい定位が無理と判断したのだろう。
Love Me DoとFrom Me To Youはポールのベースがはっきり聴こえるようになった。

それにしても「1」なのにPleas Please Meが入ってないのは解せないなあ。
英国で初のNo.1ヒットだったんだよね?


4. I Want To Hold Your Hand
変わった!と最初思ったのだが、定位はあまりいじってないようだ。
変わったという印象はジョン、ジョージのギターが鮮明になったからかもしれない。
イントロ後にセンターから聴こえるボーカルが以前は唐突な感じだったが、音量配分の
せいか自然になった。






5. Can’t Buy Me Love
これは劇的に変わった。
今まで左だったベース、ドラム、アコギのリズムセクションがセンターで安定。
ジョージが刻むコードカッティングは右。
ポールのダブルトラックのボーカルが従来はセンターでモノラルで聴こえていたのが、
やや左寄りと右になった。
間奏前のギャーッ!というシャウトは左寄りと右で違うことが判明。
間奏のジョージのギターはセンターで左右に揺れ感がいい感じになった。


6. A Hard Day's Night
定位はあまり変えていない。
左からベース、リズムギター、ドラム。右にアコギ、間奏のピアノ(早回転)。
センターにボーカル。
しかし左のリズムギターと右からシャンシャン鳴るアコギの迫力が増した。
全開のハイハットは歪みなくシャープに、以前はうるさすぎたボンゴが抑えられた。


7. I Feel Fine
楽器の定位は基本的に同じ。
左のボーンというベースに押し出されるように右からジョンが弾くイントロが入る。
ちなみにこれはJ-160EのP-90ピックアップを通しての音である。
その間左から聴こえるスタジオ・ノイズが目立つようになった(こういうの好き)。
ジョージの間奏がセンターなのは同じだが左右に揺れすごくいい感じだ。
最後にジョンと同じリフを弾いて右からまたジョンだけに。ここがいいんだよね。
サビでのリンゴのリムショットがシャープになった。

ジョンのダブルトラックのボーカルはセンターと右に振り分けられ、ジョージと
ポールのコーラスはやや左。ハーモニーのほ拡がりを感じる。





8. Eight Days A Week
左にアコギ、リズムギター、ベース、ドラムが固まり右は手拍子とイントロのギター
のトレモロといういささか偏ったミックスは同じだが、以前よりセンターよりに定位
されたことで聴きやすくなった。
そのせいもあって各楽器の音がとても鮮明で聴き分けられる。
それからフェイドインの頭からわりと演奏がはっきり聴こえるようになった

ボーカルはセンターだがHold me love me….からセンターと右に。
Eight Days A Weekで左右に広がるミックスに変わった。



9. Ticket To Ride
これも楽器の定位は基本的に同じ。ボーカルはセンターのまま不動。
My baby don’t care….では右チャンネルのギターが何を弾いてるかも聴き取れる。
真ん中だったタンバリンがやや右に逃げ鈴やかに鳴るようになった。


10. Help!
左にベース、ドラム。右からジョンの12弦アコギ、ジョージがきざむエレキ。
ボーカルとコーラスはセンターという定位は変わらなかった。
が、歌い出しのHelp!のみコーラス(特にポールの声)は左から聴こえる。
どうせだったら掛け合いのコーラスも左右で拡がりを出して欲しかったと思う。

ジョンが弾くフラマスの12弦ギターの音が今までで一番よく聴こえる。
Won’t you please….でのジョージの下降オブリのステレオ感も気持ちいい。
ポールのベースの音像が明確。
リンゴのリムショット〜スネアは鋭角的でちょっと強すぎ?という印象。





11. Yesterday
この曲は今回のハイライトの一つと言っていいだろう。
ポールの声が実に美しく生々しい。ベルベットボイスと言われる所以が分かる。
サビのsomething wrong〜yesterdayの部分でダブルトラックがわずかに違うのまで
分かり興奮してしまう。
右から聴こえるアコギの音もすぐそこで弾いてるかのような臨場感がある。
エピフォンのテキサンを1音緩めるとこんな音なんだなあと感動した。

そして弦楽四重奏も生まれ変わったように美しく響く。
左に第一&第二バイオリン、ビオラ、右にチェロとという定位は変わっていない。

2015年11月14日土曜日

ビートルズ「+1」がやって来た! Vol.2<CD篇>

◆ビートルズのリマスターの歴史

初めにビートルズのこれまでのリマスターの経緯をさらっと説明したいと思う。
リマスターはその時代のテクノロジー、音のトレンドを反映してるからである。
そしてビートルズのリマスターは常にその時代のリマスターの先駆けだからだ。


まず1985〜1986年に全作品が初CD化された。
マスタリングはジョージ・マーティンによって行われている。
サンプリング周波数は44.1kHz、サンプリングレートは16bitのCD音質。

初期の4枚はモノラル、Help!以降はステレオ・ミックスであった。
A Hard Day’s Nightのみ音質の問題から若干ピッチが高くなっている。
左右泣き別れが激しいRubber Soulはややセンターよりに定位し直された。
(つまりRubber Soulに限ってはリミックスも行われたということだ)


1993年にはデジタル・リマスタリングされた青盤・赤盤Live At BBCが発売。

1995〜1996年のAnthologyはリマスターではなく、できるだけ古い音源に遡っ
ての新たなミックスだがジョージ・マーティンが当時のアナログ機材で編集。

1999年のYellow Submarine Songtrackはピーター・コビンの手により大胆
リミックス作業が行われ聴きなれた曲の印象ががらっと変わった。
(この後コビンはジョンのアルバムのリマスターも手がけている)
サンプリングレートは20bitだったと思う。




↑左右泣き別れのNowhere Manも生まれ変わった。
センター定位のボーカルをややずらして片チャンネルからも鳴らすのがコビン流。
(写真をクリックするとYouTubeで視聴できます)


2000年にベスト盤の「1」を発売。(今回の「1」と収録曲は同じ)
この後しばらく続く大音圧で音の強弱があまりない(ずっと強のままの)リマスタ
の先駆けとなった。
確かここから24bit/96kHzで取り込んでCDに落とし込むようになったと思う。
(音がよりきめ細かくなって表現力が増した、ということだ)





2003年にはLet It Be…Nakedが発売。
ポールが不満を抱いていたフィル・スペクターによる厚化粧のLet It Beを選曲〜
テイクの選択からやり直し、編集前のマルチトラックから当初のコンセプト「音
を重ねない」素の音でリミックスされた。
素顔とはいえ複数テイクのいいとこ取りの切貼り編集であることからノーメイク
の整形美人という評価もある。


2006年にシルク・ドゥ・ソレイユのサウンドトラック「Love」を発表。
ジャイルズ・マーティンの手により楽曲は分解され再構築され生まれ変わった。




↑地味目のThe Word、What You're Doing もカッコよくなって嬉しかった。
(写真をクリックするとYouTubeで視聴できます)

2009年には待望の全作品リマスター化。
初期4枚も含めすべてステレオミックスで別にモノラルミックスのボックスも出た。
(ホワイトアルバムまでのモノラルミックスが作られたアルバムとシングル曲)
2000年の「1」とは逆に音圧は抑えられ、艶やかで温かみのある音になった。


そして今回の「1」は「Love」を手がけたジャイルズ・マーティンによってオリジ
ナルとは大きく異なる大胆なリミックスが行われている。



◆2015年版「1」のリマスターは何が違うか?

まずオリジナルのミックスをリマスタリングしたのではなく、編集前のトラック
まで遡ってリミックスしてある、というのが大きなポイントだ。

その際、オリジナルとは違う新しい解釈でリミックスが行われている。
その点は1999年のYellow Submarine Songtrackと似てるもしれないがYellow…
ほどアヴァンギャルドではなく、オリジナルを長年聴き込んだ人も違和感ない
はずだ。

一言で言うと「1」は曲ごとに何が主体なのか、何を聴かせたいかが伝わって来る
ミックスだと思う。
そして聴きやすい。言葉を変えると今の時代でも現役と思える定位になっている。


それはビートルズの楽曲や演奏自体はいつまでも新鮮だが、オーディオマテリアル
しては古さを禁じ得ないからだ。

ビートルズの音源はほとんど4トラックのレコーダーで録音され限りがあった。
録音済みの複数トラックを1つのにまとめて録音し空きトラックを作ったとしても
(リダクション、バウンス、ピンポンと言われる方法)1つのトラックにギターと
ベースとドラムが入ってて分離できない、ということも多い。





マルチトラックでドラムだけで5本もマイクを立てるのが当たり前の今とは違う。
その制約下でボーカル、楽器を定位させるのは一苦労だったはずだ。



聴き手のオーディオ環境の問題もある。
当時はまだステレオシステムが普及していなくレコードプレーヤーが一般的だった。
またステレオとはいえ一体型が主流であまりステレオ感が味わえない。
そういう人たちにステレオミックスのレコードを聴いてもらうことが前提なのだ。

同じ理由からEMIではモノラルミックスがメインと考えられていた。
モノラルミックスには時間をかけビートルズのメンバーも立ち会っているが、ステ
レオミックスは後回しでビートルズも関与していない。
(ステレオミックスのみになったのはAbbey Road、Let It Beで、シングル盤は 
Get Back以降である)



   ↑アビーロード第2スタジオのコントロールルームとTG12345 コンソール



さらに1年にアルバム2枚、シングル5〜7枚という過密スケジュールである。
(1966年まではライブもこなしていた)
編集にじっくり時間をかけられず雑になってしまった面も多々あったはずだ。
(特にステレオミックスにおいては)

あの時代はあれでよかったけど、改めてビートルズを「今の音」で聴きたい。
そんなニーズに応えるのが「1」ではないかと思う。



◆2015年版「1」のリマスターの音

音質については、とにかくめちゃくちゃクリアーですよ、と言いたい。
2003年のLet It Be…Nakedも2009年の全作品リマスターも音はすばらしかった。

Nakedはすぐ側で演奏しているような臨場感があったし、あれ?ジョンのギター
ってモコモコかと思ってたけどこんなにブライトだったの?と印象が変わった。
2009年リマスターも今まで引っ込んでた音までしっかり聴こえて驚いたし、
ボーカルは艶やかでギター(特にエレキ)の音が力強く生々しかった。


ではどこが違うか?というと「1」はクリアーすぎるくらいクリアーだ。

特にボーカルはパワーアップした印象。
エフェクトをかけたのか?と思うくらいきりっと締まっている。
スピーカーで流すとボーカルが強すぎなきらいがあるけど、ヘッドホンで聴くと
ちょうどいい。
(これは再生装置にもよるので何とも言えないが)

エレキの音は芯が太く音像がはっきりして、12弦やアコギのギターが生々しく
ベースはどっしり伸びやか、ストリングスはふくよかで広がりを感じる。
これは各楽器の定位のさせ方を変えたことも大きい。



↑2015年版のPenny laneはパワーアップしている。
(写真はCD+DVD Audioのセット。クリックするとYouTubeで視聴できます)



2009年のリマスターはあくまでも1963〜1970年のオリジナルのミックスを使っ
当時アナログの最高の機材でレコードを聴いていた音に近づける、というのが
使命だったが、今回のは新時代のリミックスであり音創りである。

個人的には今回の「1」はメリハリが効きすぎてずっと聴いてると疲れるかも?
2009年リマスターの方が安心して聴けるような気もする。

でも新しいリミックスは大歓迎だ。生きててよかった〜とつくづく思う(笑)


さあ、こうなると欲が出てきてしまう。
ぜひ全アルバム、リミックスしてもらいたい。
左右泣き別れのRubber Soulを聴きやすくしてくれないかな。
Abbey Roadはどう料理するんだろう?


「リマスターするたびに、バンドの演奏力が上がって聞こえるっていうのがすごい
 ですよね。粗が目立つんじゃなく」と友人が言ってたが、まったく同感だ。



次回は<リマスターCDのハイライト>を書く予定です。

To be continued….