2018年6月6日水曜日

ロックな青春映画10選(6)何が何でも見たい!少女たちの執念。

今回ご紹介するのはお気楽な青春コメディ映画。

「抱きしめたい」(原題:I Wanna Hold Your Hand) 。(1)
1978年公開のアメリカ映画。
後に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をヒットさせたロバート・ゼメキスの
初監督作品である。(製作はスティーヴン・スピルバーグ)


タイトルはビートルズの楽曲より。邦題の「抱きしめたい」ものそまま。
日本では公開されず、ジョンの暗殺直後の1981年にやっと封切られた。

映像作品は長らく廃盤になっていたが、Blu-ray+DVDで8月8日発売されるよう
なので、ビートルズ・ファンは見てみてください。



↑写真をクリックすると「抱きしめたい」のトレーラーが観られます。



舞台は1964年2月、ビートルズが初めて米国を訪れることになった時のこと。
ビートルズ観たさに大騒ぎし奔走するニュージャージーの男女6人の若者たち。
なんとかエド・サリヴァン・ショーのチケットを入手することができた。

ニューヨークへ向かう珍道中。が、肝心のチケットを無くしてしまう。
はたして彼女たちはビートルズを観ることができるのか?


プラザホテル(2)のビートルズが滞在している部屋に潜り込む女の子はナンシー
・アレンが演じている。僕はけっこう好きな女優だ。
映画「キャリー」(1976年)で同級生の主人公をいじめるチアリーダー役、
「ロボコップ」(1987年)ではサイボーグ警官の相棒役を好演していた。

彼女はポールの愛器ヘフナーを見て感極まり、ベースにキスしてしまう。
その気持ち、分かるよね(^^)






三人娘の一人、スーザンケンダル・ニューマンはポール・ニューマンの実娘。
当初はキャリー・フィッシャー(レイア姫)がこの役の候補だったそうだ。

さて、ロージーが忍び込んだ部屋にビートルズの4人が戻って来てしまう。
焦った彼女はとっさにベッドの下に隠れる。

ベッドの下で息を殺してるロージーからは、話しながら部屋を歩きまわる4人の
ビートル・ブーツが見える。
ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの声、しゃべり方がまたそっくりで笑える。






そしてなんとかもぐりこんだCBSのエド・サリヴァン・ショーのスタジオ。
女の子たちは客席でビートルズを観ることができる。

このシーンだけで見る価値あり!だ。
カメラ・モニターに映る本物のビートルズの映像とロングショットで捉えた代役
動きがみごとにシンクロしているのがすごい。





コーラスの際マイクに近寄るジョージの足の動き、リンゴのスティックの返し
に至るまで、放映された映像の分析とその念入りな再現に尋常じゃない手間暇
をかけているのだ。

まるで本物のビートルズがそこで演奏しているかのような錯覚にとらわれる。
エド・サリバンのそっくりさんも秀逸(笑)





さすが、ロバート・ゼメキス!
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でのマイケル・J・フォックスの演奏
シーンも、彼のロック愛があふれていた。


この映画はビートルズの初アメリカ上陸の熱狂、視聴率70%を記録した伝説の
エド・サリヴァン・ショーに狂喜するファンの姿を描いた青春コメディーだ。
アンチ・ビートルズ、バリケードを張る警官も登場する。

この作品と、ビートルズ側からの視点で描かれたドキュメンタリー・フィルム
「The Beatles The First U.S. Visit」(1991年製作)と対比しながら見ると
面白いのではないかと思う。



↑写真をクリックすると「The First U.S. Visit」トレーラーが観られます。




話は逸れるが。。。。

エド・サリヴァン・ショーの1曲目はなぜ「All My Loving」だったのだろう?


まず一発目は「Twist And Shout」でもぶちかましそうな気がするのだが。
おまけに続く2曲目は「Till There Was You」。これも控えめだ。

レコードコレクターズでどなたか評論家の方が「アメリカでのお披露目なので
優等生のポールの歌を2曲続けて、というブライアン・エプスタインの意向だ
ったのではないか」と書かれていた。
僕はそうではないと思う。


デッカのオーディションで失敗してから、エプスタインは「あんたは選曲に口
を出すな」とジョンから釘を刺されていた。
「ヒット曲を中心に、間奏でアドリブはやらない」というのがエプスタインの
精一杯の要求だったが、それも4人に無視されることが多かった。

エド・サリヴァン・ショーの演奏曲は4人が決めたことで「All My Loving」
をオープニングに持ってきたのも彼らの思惑があったからだ。



「All My Loving」は演奏なしの「Close your」2拍から、いきなりF#m→B7
→E→C#m→A→F#m→D→B7と演奏に入る。
曲のキーはEで、いきなりF#m→B7(IIm→V7)から始めるのも意表をつく。

リズムギターはジョンの3連の早弾き。(真似してみるとかなり難しい)
ポールは歌いながらその歌メロと対位法の4ビートのウオーキングベース。

リンゴのドラムは右手でハイハットを8ビートを刻み、左手でスネアをシャッ
フル気味に叩く、という難しい技を披露している。


きわめつけは間奏のジョージのチェット・アトキンス奏法。
チェットはサムピックを使うが、ジョージは知らなかったのかもしれない。
この時代、カントリーの演奏を英国で映像で見る機会は少なかったはずだ。

ジョージはフラットピック+中指、薬指でチェットらしさを出している。
後半のヴァースではポールとのハモりも披露。





「All My Loving」は曲としての完成度はもちろん、楽器ごとに複雑なリズム
感を組み合わせながら盤石のグルーヴ感を構築している。
コーラスの組み立ても完璧だし、アレンジも演奏力もみごとだ。

ビートルズはアメリカでの1曲目で「俺たちはそんじょそこらのロックバンド
とは違うぜ」と実力を見せたかったんじゃないかと思う。
多少なりとも楽器をかじってる連中、いや、プロもビートルズの想定以上の
演奏力にガツンとやられたはずだ。



そして2曲目の「Till There Was You」。
ブロードウェイ・ミュージカル「ミュージック・マン」の劇中で使用された曲
だが、ビートルズはラテン調バラードにうまくリアレンジしている。

maj7、m7、m9、9th、aug、dimなどテンションコードを多用。
ジョージの間奏、ジョンのリズムギターと重なる所などうまく練られている。
そして間奏の最後のコード、F#7(+#9)の響き。

ポールによるとこの隠し玉は「Michelle」でも使ったそうである。


「All My Loving」「Till There Was You」の2曲で文句をつけたがるうるさ型
を黙らせてしまったビートルス。
英国から来た4人組は一発屋のアイドルではなく、幅広い音楽性を身につけた
洗練されたバンドであることを証明したのだ。

エド・サリヴァン・ショーでまずこの2曲を披露したのは正解だったと思う。