2020年3月22日日曜日

レット・イット・ビー2020リミックスはどうなる?映画は?

ネットでは早くも昨年10月にこんなフェイク広告が出ていた。






ジャイルズ・マーティンが昨年アビイ・ロード2019リミックス発表時に、既にレット
イット・ビーの作業に入っていることを明かしているので出るのは間違いない。

気になるのはいつ出るか?内容はどうなるのか?である。



レット・イット・ビーのアルバムがリリースされた1970年5月8日(日本は6月5日)
からちょうど50周年となる2020年5月8日に発売されるのでは?と噂されていた。

映画公開が1970年5月20日(日本は8月25日)だったので、映画のリマスター版は
2020年5月20日に上映、またはDVD、Blue-Ray化。
もしかしたら2020リミックスのCD、LPもそれに合わせるのでは?という説もある。



しかし、新しいニュースが飛び込んできた。

新たなドキュメンタリー映画「The Beatles: Get Back」として2020年9月4日に
米国とカナダで一般公開されることになった、というのである。

配給はウォルト・ディズニー・スタジオ。

「最新のレストア技術により、まるで昨日撮影されたかのように美しく蘇った映像を
通して、音楽史において独創性に富み、強い影響力を放っていた天才クリエイター
たちによる制作現場を目の当たりにできる貴重な作品」とディズニー社はコメント。







監督はピーター・ジャクソン。(1)
「ロード・オブ・ザ・リング」「キングコング」を手がけた監督である。

まさかCGてんこ盛りでビートルズの4人がありえないくらいジャンプしたり崖から
落ちて絶体絶命・・・なんてことはないだろうけど(笑)




ピーター・ジャクソン監督は「このプロジェクトは嬉しい発見に満ちていました。
史上最も偉大なバンドが彼らの最高傑作を創り上げていく制作風景の全貌をこっそり
と観察する特権を与えられたことは大変光栄です」と述べている。


新しい映画は1969年の1月2日から31日にかけてマイケル・リンゼイ=ホッグ(2)
撮影した55時間分の未公開映像とレット・イット・ビーのアルバム・セッション
で録音された140時間に及ぶ未公開オーディオを基に制作されるとのこと。




↑右側のベストを着た人が監督のマイケル・リンゼイ=ホッグ。


マイケル・リンゼイ=ホッグが監督した1970年公開のオリジナル「レット・イット
・ビー」は映像も暗く陰鬱な印象を与えた。(屋上ライブ以外は)
メンバー間の衝突、まとまりのない演奏が記録され世間にさらされることになった。

仕切ろうとして空回りするポール。やる気のないジョン。辛抱強く待つリンゴ。
ジョージは自分の曲を真剣にやってくれないことに不満を募らせる。
あれこれ指図するポールとジョージが衝突する場面もあった。






寒々とした映画スタジオ。照明は暗く赤や青の色を当ててるしズームインは早すぎ。
カメラは鼻のアップとかどうでもいいモノを撮ってるし(またそれを使ってるし)。
誰も見たいと思わないオノ・ヨーコの姿を執拗に追ってるし。

カメラやライティングのクルーが下手なのか。監督のセンスが悪いのか。
何でこんな監督を起用したんだろう?と思ったものだ。


マイケル・リンゼイ=ホッグはペイパーバック・ライター、レイン、ヘイ・ジュード、
レボリューションのプロモーション・フィルムを監督しており、それらはいい仕事だ。

お蔵入りとなったストーンズのロックンロール・サーカス(3)も彼が手がけている。
その実績を買ってポールは依頼したのだろう。
もともとロックバンドを撮ることを得意としている監督なのになぜ?




↑右側の葉巻を持って立っている人がマイケル・リンゼイ=ホッグ。



駄作とはいえ崩壊していくビートルズを捉えた貴重な記録ではある。
アップル・ビルに移ってからのセッション、屋上コンサートなど見所もある。


映画は1980年代の始め、解散当時のマネージャー、アラン・クレイン(4)によって
米国でソフト化(VHS、ベータ、レーザーディスクでリリース)されたが、ビート
ルズ側がストップをかけ、販売中止となる。
以降正式にリリースされることはなく、コピーされた海賊盤が流通していた。






2004年以降、ポールを含め複数の関係者の口からDVD・Blue-Ray化に向けての
作業が進められていることが語られた。
ポールは既にリマスター済でボーナストラックを選んでいるはずだと言っていたが、
その後立ち消えになってしまった。ポールもどういう状況か分からないという。


2007年にアップル社長だった生前のニール・アスピノールが「この素材は未だに
議論を呼んでいる」と語っていた。

一説によると、ジョージの遺族であるオリヴィア夫人が強く反対していたという。
ジョージがポールと口論しているシーンが映画に収められていて、ジョージが不快
思っていたこと、センッションに嫌な思い出があることを考慮しての上だろう。

オノ・ヨーコも「本当はもっと楽しそうなシーンもあったのよ。監督がああいいう
(陰鬱な)作品にしたかったんでしょう」と言っている。




写真をクリックすると楽しそうなビートルズ(ゲット・バックのPV)が観られます


今回新たに編集し直されるドキュメンタリー作品は陰鬱だった1970年の「レット・
イット・ビー」を明るい視点から描くことを目的としている。


映像を見たピーター・ジャクソン監督は「(この時期メンバーの間には緊張感が
あったと言われるが)現実は伝説とはとても違うことを発見した。
確かに感情的になっている瞬間もあった。でも長い間連想されていた不和ではない。
ジョン、ポール、ジョージ、リンゴが一緒になって、ゼロからあの名作を生み出して
いくのを見るのは魅力的というだけでなく、面白く高揚感があり、驚くほど親密だ
とコメントしている。




↑1969年1月9日にシー・ケイム・イン・スルー〜を演奏中のビートルズ。


ポールもこのプロジェジェクトを応援していると述べた。
「ビートルズのレコーディングの真実を示す映画を作るために、ピーター・ジャクソン
が僕らのアーカイヴスを掘り下げてくれたことが嬉しい。
僕らの間に友情と愛があって、素晴らしい時間を過ごしたことを思い出させてくれる

リンゴ・スターは映画について以下のように評している。
「ピーターは素晴らしくて、映像全体がクールな装いなんだ。
既に出ているバージョンとは違って、笑いながら演奏した時間がたくさんあったんだ。
楽しさがあって、僕らが実際そうだったように、穏やかで愛らしいものになると思う」

オリヴィア夫人、オノ・ヨーコもこのプロジェクトに賛同の意を表している。





楽しそうはいいんだけど、見ていて楽しめるセンッションになってるんだろうか?

流出したフィルムのナグラ・テープ(5)を元とした膨大な音源の海賊盤に僕はかなり
投資をしてきたのだが(笑)、それらはマニアにとっては貴重なお宝であるものの、
客観的に評価すると大半はクズかもしれない。(聴きどころもあるけどね)

流出してるモノクロの映像も、ジョンとポールがお遊びでフィードバック音を出す傍
でヨーコが奇声を発する(本人たちは楽しそうだけど)という見るに値しないもの。
そういうのは省いて欲しい。


1月30日にアップル・ビル屋上で行ったゲリラ・ライプ、42分のパフォーマンスに
も旧映画より光を当てているそうなので、ルーフトップ・コンサート完全収録(6)
無理としてもかなり期待できそうだ。




↑ルーフトップ・コンサートの模様。
(写真をクリックするとドント・レット・ミー・ダウンが観られます)

歌詞を覚えるのが苦手なジョンのためにカンペが用意されているのが見える。
にもかかわらず、ジョンはドント・レット・ミー・ダウンの1回目で2番の歌詞を
間違え、2回目では1番の歌詞を間違えた。
「1+」映像版に収録された屋上でのドント・レット・ミー・ダウン演奏時に
ジョージとポールが笑っいるのはそのためである。またかよ、みたいな(^^)
音源は2テイクのいいとこ取り=間違い箇所がないので笑ってる理由が解らない。



本作のためニュージーランドのウェリントンに拠点を置くパーク・ロード・ポスト・
プロダクションが映像の修復作業を担う。

画質が悪かったのは、本来はテレビ放映のために16mmフィルムで収録されたもの
劇場用の35mmフィルムに焼き直した(7)という事情もあった。
最新の技術でそれを鮮明にするのだろう。

映画に使われる音源はジャイルズ・マーティンとサム・オケルがアビイ・ロード・
スタジオにてミックス作業を行う予定だ。






この50周年記念式典は5月ではなく秋、2020年9月4日に行われる。

1つの理由は、新しいドキュメンタリー映画用のサウンドトラックのリミックス作業
7月になるからだ。

もう1つの理由は、これらの高価なパッケージはアップル社と小売業社にとっては5月
よりも秋(10月になればクリスマス商戦に向けて活気づく)発売の方が有利だから。



尚、1970年の映画「レット・イット・ビー」のリマスターも併せて発売される。
映画公開ではなく、DVD、Blue-Ray化されるのだろう。
新映画とカップリングで発売されるのか、別売なのか今の時点では不明である。

また「エイト・デイズ・ア・ウィーク」の時のように、劇場公開でルーフトップ・
コンサート完全版を同時上映し、DVD、Blue-Rayにはルーフトップの完全版は
ボーナス・ディスクとして付かない、という可能性もありえる。





さて、レット・イット・ビー2020リミックスはどうなるか?
これまでの傾向を踏まえつつ、希望的観測も交え、勝手に予測してみた。




●通常盤(1CD)

1970年のアルバム「レット・イット・ビー」のリミックス 

フィル・スペクターが手がけたこのアルバムに「馬鹿なことをした」と痛烈だった
ジョージ・マーティンの息子であり、ポールとも近しいジャイルズ・マーティンが
どういうリミックス処理を行うのか?興味深い。(8)


●デラックス・エディション(2CD)

Disc1. 1970年のアルバム「レット・イット・ビー」のリミックス
Disc2. アウトテイク、ハイライト(アルバム収録外の屋上演奏曲も収録されるかも)
   シングル「ゲット・バック/ドント・レット・ミー・ダウン」のリミックス


●スーパー・デラックス・エディション(6CD+Blu-Ray Audio+ブックレット)

Disc1. 1970年のアルバム「レット・イット・ビー」のリミックス
Disc2〜3. アウトテイク集、セッションのハイライト
                シングル「ゲット・バック/ドント・レット・ミー・ダウン」のリミックス
Disc5. ルーフトップ・コンサート(ほぼ完全版)
Disc6. 「ゲット・バック」グリン・ジョンズ1st.Mixのリミックス(2nd.Mixの
     アイ・ミー・マイン、アクロス・ザ・ユニヴァースはボーナス収録?)(9)

※ブックレットは1970年発売時の写真集(10)とは別かもしれない。


他1LP、2LP、ボックス4LP(1枚はグリン・ジョンズ版ゲット・バック)+写真集


・・・と踏んでいるがどうだろう?こういう読みもまた楽しかったりする。


CD、LP用のリミックスはもう終わっているはずだから、5月8日に発売されるのか?
それなら、そろそろAmazonで予約受付を開始してるだろう。

それよりは映画公開に合わせて9月4日に同時発売で相乗効果を狙う線が濃厚だ。


<脚注>

2020年3月10日火曜日

ムーン・リバーはヘップバーンの弾き語りが一番。

「ティファニーで朝食を」(1)は特に好きな映画というわけではない。

しかし冒頭のシーン、人気のない早朝のニューヨーク5番街にイエローキャブ(タク
シー)で乗り付けたヘップバーンが、ティファニーのウィンドウを眺めながらクロワ
ッサンを頬張りコーヒーを飲むシーンは印象的だ。




↑クリックすると「ティファニーで朝食を」のオープニングが観れます。


原作となったトルーマン・カポーティの小説ではこういうシーンはない。

自由奔放に生きる女性、ホリーが言う「ティファニーで朝食を食べる身分になっても」
(2)というたとえが小説のタイトルになっているだけで、実際にティファニーの前で
朝食を食べたりはしていない。


それをそのまま絵にして冒頭に持ってくるというのはあざといというか、芸がないと
いう気はするけれど、このシーンが素敵だと思えるのはホリーを演じたヘップバーン
の美しさとマンシーニ・オーケストラによる「ムーン・リバー」の美しさのせいだ。


ヘップバーンが着ている黒いドレスはジバンシィがこのシーンのためにデザインしたも
ので、細身の彼女だからこそ映える服である。

黒のオペラ手袋、大きめの黒のサングラス、パールのネックレスとともに、この作品
でアイコニックなビジュアルとなり、ヘップバーン・スタイルとしても有名になった。


映画の影響で、ティファニーで食事ができると勘違いした来店客が多かったようだ。
ティファニーは世界的に有名な宝飾店で朝食を食べるような場所は店内にない。(3)

店先でパンを食べたりコーヒーを飲んでオードリー気分に浸る女性も多かったようだ。
今でいうインスタ映えみたいな感じだろうか。



それと劇中でホリーが飼っている猫がもう身悶えするくらいかわいくていじらしい。
猫好きの人は必見の映画!と言っても過言ではない。





余談だが、演じているのはオランジーという俳優猫。(4)
オスカーの動物版のパッツィ賞を2度受賞した唯一の猫として知られている。

見たところアメショーなどの純血種ではなく、和猫でもよくいるトラ猫だ。(5)
アメリカではGinger(生姜の意味)と呼ばれる。


ホリーは猫に名前さえ付けていない。ただ「Cat」と呼んでいる。

If I could find a real-life place that made me feel like Tiffany's, 
then I would buy some furniture and give the cat a name.

「ティファニーにいるような気分になれる本当の生活の場を見つけたら、家具を買った
り猫に名前をつけるわ」とホリーは言っている。


猫が無名であるのは、ホリー・ゴライトリーという女性の人生観のためである。(6)
私も猫もお互いに誰のものでもない。独立した「個」だと彼女は考えている。
自分の居場所を見つけるまで何も所有したくない。
ホリーの描くその理想卿は「ティファニーにいる気分になれる場所」ということだ。






そしてこの映画の最大の魅力は、ヘップバーンがアパートの窓辺に腰掛けてギターを
爪弾きながら「ムーン・リバー」を歌うシーンである。
決して上手いわけではないが、ヘップバーン本人の歌声はとてもチャーミングだ。


この曲はジョニー・マーサーが作詞、ヘンリー・マンシーニが作曲を担当した。
ヘップバーンが演じるホリーが劇中で歌うシーンのために作られた曲で、映画のストー
リーとは直接的な関係はない。


しかし優れた楽曲に仕上がったため、映画の主題歌としても使われることになった。

オープニングはマンシーニ楽団による優雅なインストゥルメンタル、エンディングでは
それに混声コーラスを加えたものが流れる。
パーティーのシーンではチャチャチャ風アレンジが施されたヴァージョンも使われた。


ヘップバーンは歌の上手い女優ではなかったので、他の映画の歌唱シーンはプロの歌手
による吹き替えが行われている。

だが「ムーン・リバー」だけは彼女自身が余程気に入っていたようで、珍しく本人が
自らギターを爪弾きながら(後述)歌っている。

その素朴な歌い方が、かえって吹き替えでは得られないリアリティが出てていい。




↑クリックするヘップバーンが「ムーン・リバー」を歌うシーンが観れます。



しかし完成後の試写会で、就任したばかりのパラマウント映画の新社長は「この歌は
ストーリーの展開と関係ないからカットした方がいい」と言い放った。
(本音はヘップバーンの歌が下手だったから、というのもあるかもしれない)

プロデューサーのリチャード・シェファードが「絶対にカットさせない、やるなら
俺を殺してからやれ!(Over my dead body!)」と声を荒げたため、その剣幕に
圧倒された社長は引き下がるしかなかった。

ヘップバーンはその場で何か言いたげだったが、同じ思いだったのだろう。
既に「ローマの休日」「麗しのサブリナ」で名声を得ている大女優のお気に入りの
シーンを、いくらパラマウントの社長でも強引にカットはできない。
こうしてヘップバーンが「ムーン・リバー」を歌うシーンは無事日の目を見た。





映画もこの曲も大人気となり、RCAからサウンドトラック盤(マンシーニが改めて
録音したもので映画で使用された音源とは異なる)(7)LPとシングルが発売される。
1961年アカデミー歌曲賞、グラミー賞では最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀
曲賞の3部門を受賞した。


翌1962年アンディ・ウィリアムスがヒットさせ、彼の持ち歌としても有名になった。
ヘップバーン自身が歌ったヴァージョンは、「自分はプロの歌手ではないので」と本人
断ったため発売されることはなかった。

「ムーン・リバー」は長く愛され、現在まで世界中のポップスだけでなくあらゆるジャ
ンルの歌手にカヴァーされ続けている。



ヘンリー・マンシーニは後に自伝で以下のように述懐している。

オードリーが映画に登場していなければ、私自身もジョニー・マーサーもこの曲を作る
ことができたかどうか想像できません。


「ムーン・リバー」はオードリーのために書かれたのです。
彼女以上にこの曲を完璧に理解した人はいませんでした。
「ムーン・リバー」には数えきれないほどのヴァージョンがありますが、オードリーの
これこそが文句なく最高の「ムーン・リバー」と言えましょう。




アンディ・ウィリアムスが後に「この歌には意味がよく分からないところがある」と
語っているが、確かに歌詞は抽象的で摑みどころがないような部分がある。


作詞を手がけたジョニー・マーサーは主人公のホリーがテキサス出身という設定のため
、自分が生まれ育った南部での少年時代の思い出を歌詞に盛り込んだ(8)と語っている。


ムーンリバー(月の河)とは架空の河であり、擬人化して語りかけているのだ。





ホリーは幼い頃からこの河を親友と見なし、語りかけながら育って来たのだろう。
そして不幸な境遇から抜け出し自由になるために、この大きな河をいつか渡りたいと
いう憧れと、ずっと一緒にいたいという思いが交錯していたのではないか。。。


アンディ・ウィリアムスはその深い意味まで知る由はなかったが、ホリーの役に入り込
んでいたヘップバーンは共感することができた
マンシーニがいう「彼女以上にこの曲を完璧に理解した人はいない」はそういうことだ。



歌詞を訳してみた。


Moon River 

Lyric: Johnny Mercer  Music: Henry Mancini.1961 拙訳:イエロードッグ(9)


Moon river, wider than a mile I'm crossing you in style some day 
ムーンリバー 大きな河 いつか渡ってみせるわ
Oh, dream maker, you heart breaker 
夢を見させてくれるかと思えば 心を打ち砕くのね
Wherever you're going, I'm going your way 
あなたの行くところなら、どこへでも行くわ

Two drifters, off to see the world 
二人して漂うの 世界を見るための船出よ
There's such a lot of world to see 
知らない世界がまだたくさんあるはず
We're after the same rainbow's end, waiting, round the bend 
私たちは一緒に虹の彼方へ それはすぐそこにあるのよ
My Huckleberry Friend, Moon River, and me 
かけがえのない友、ムーンリバーとわたし


この歌詞は随所に韻を含んでいるので聴いていて心地よく響く。
メロディー、曲の流れにもうまく乗っていると思う。
マンシーニは1オクターブと1音しかないヘップバーンの声域に合わせて作曲している。


ヘップバーンがギターを爪弾きながら歌うシーンだが、ボーカルはこのシーン撮影
に生で収録されているようだ

リップシンクでは間の取り方とか、ここまで上手くいかないだろうし、歌い終えて
上の階から見ていたポールに「Hi」と挨拶する声質も歌っている時と同じだ。

ただしギターはヘップバーンが生で弾いてるわけではないようだ。
予め録音されたギター伴奏に合わせて歌っていると思える
(歌の後半で入るマンシーニ楽団の演奏は後からオーバーダブされている)


ヘップバーンは一見ちゃんとコードポジショを押さえ、コードチェンジも上手く
こなしているように見える。
おそらく彼女自身もギターを弾けるか、弾き方の指導を受け練習したのだろう。

だが実際に流れている音とは違う。
キーはFだが、彼女はF#の辺りでセーハ(バレー)している。
押さえやすいように半音下げてチューニングした?とも考えられるが、それでは
開放弦を活かしたコードの箇所が弾けない。


このギター伴奏はマンシーニのオーケストレーション(編曲)ではなく、コード理論
を習得したプロのジャズ・ギタリストに委ねたのだと思う。

ジャズならではのテンションコード、分数コードを巧みに使いながらベース音を半音
ずつ下げる(クリシェ)など、高度な技が効果的に使われているからである。


たとえば最初のヴァースのOh,Dream…ではDm→F7 on C→B♭maj7、2回目のヴァ
スではDm→Dm on C→Bm7(♭5)としている、など完全にプロの技だ。

Gm7on E→A7でそれぞれ6弦と5弦の開放弦の響きを活かしているのも心憎い。
A7で7thの音をオクターブで強調しているのもお見事!いい仕事してます。


採譜してTAB譜にしてみたので、ギターの心得のある方は参考にしてください。
アルペジオではなくヘップバーンのように親指でやさしく弾くのがお薦め。

あとはオードリーみたいに歌ってくれる女性を探すだけ(^^v)




ヘップバーンが歌ったヴァージョンは、彼女が死去した1993年に発売されたCD
「Music From The Films Of Audrey Hepburn」に初めて収録された。





このCDはヘップバーンの映画のサウンドトラックを権利元のレコード会社の垣根を
超えて収録したものである。
シャレード、暗くなるまで待って、マイ・フェア・レディ、いつも2人で、など美しい
曲がいっぱい聴けるので、幸せな気分になれる。


2013年にはINTRADA社から映画で使用された「ティファニーで朝食を」の本当の
オリジナル・サウンドトラック全曲が初めて発売された。

途中からオーケストラが被さるヘップバーンの「ムーン・リバー」とは別に、オーケス
トラを被せる前のヘップバーンの歌とギターだけのヴァージョンもボーナス・トラック
として収録されている。


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