「フィッシュストーリー」は、1975年に「逆鱗」という売れないパンクバンド(1)
が残した「FISH STORY」という曲が時空を超えて巡り巡って、地球の危機を救う
という荒唐無稽だがよくつながってるな〜と感心してしまう映画だ。
伊坂幸太郎の短編小説×中村義洋監督が映画化、の第二弾目である。(2009年)
前作の「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007年)、第三弾の「ゴールデンスランバー」
(2010年)もとてもよかった。どの作品も見て損はないと思う。
三作品に共通してるのはロックがキーポイントになっている点だ。
「アヒルと鴨」はディランの「風に吹かれて」がストーリーで重要な役割を担っている。
「ゴールデンスランバー」はビートルズの同名楽曲。(2)
「フィッシュストーリー」は「逆燐」という架空のバンドが登場。
楽曲プロデュースは斉藤和義が担当した。
ロック云々は別としても楽しめる映画でお薦めです。
<映画のあらすじ>
1975年、日本に「逆鱗」というパンクバンドが登場した。
セックス・ピストルズがデビューする1年前。(3)
パンクという言葉さえ日本にまだなかった。
早すぎたパンクバンド「逆鱗」はなかなか世間に理解されないが、マイナー・レーベル
の担当者、岡崎(大森南朋)は彼らの可能性を見出しスカウトする。
しかし、一向に売れない。
レコード会社の上層部からは契約を打ち切るよう岡崎に圧力がかかる。
岡崎(大森南朋)が持っていた本に触発され、リーダーでベース担当の繁樹(伊藤淳史)
は彼らの最後のレコーディングのため「フィッシュストーリー」を作曲する。
僕の孤独が魚だったら、 巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出す きっとそうだ
僕の孤独が魚だったら、巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出す
オレは死んでないぜ オレは死んでないぜ 音の積み木だけが世界を救う
(伊坂幸太郎/斉藤和義)
「FISH STORY」というのはホラ話、作り話のこと。
釣り師が獲物を誇張して言いがちなことが語源らしい。(4)
「フィッシュストーリー」という本は印刷後、誤訳でデタラメだったことが発覚しすべ
て回収され、処分された。
その出版社で働いていた岡崎の叔母がこっそり持ち帰った幻の一冊だったのだ。
だから著作権は発生しない、とのことだった。
↑クリックすると逆鱗の「フィッシュストーリー」が視聴できます。
「逆鱗」のメンバーは「これが最後」という覚悟で一発録りに臨む。
曲間でボーカルの五郎(高良健吾)が「岡崎さん、俺たちの歌、誰かに届いているのか
な」と思いをぶつける。
五郎のモノローグが入ったためプロデューサーは録り直しを命じるが、岡崎は「いや、
今のテイクで行こう」と主張する。(5)
五郎の語りの部分は無音にする、その方が謎めいていていい、というのだ。
「逆鱗」は売れないまま、解散した。
時は流れ1982年。
「フィッシュストーリー」の謎の無音部分が一部の若者の間で都市伝説となっていた。
人によっては無音部分に女性の悲鳴が聴こえるというのだ。
弱気な大学生、雅史は深夜、運転中そのカセットテープを聴いたことがきかっかけで、
運命の女性(大谷英子)と巡り会う。
さらに時は流れ2009年。
フェリーで修学旅行へ向かう女子高生の一人、麻美(多部未華子)は眠りこけて下船
できず、シージャックに巻き込まれてしまう。
しかし「正義の味方」と名乗る青年(森山未來)が現れ、傷を負いながらもシージャッ
ク一味を倒し、麻美たち乗客が助かった。
「正義の味方」は雅史の子供。
1982年に雅史が「フィッシュストーリー」を聴いたことにつながっている。
そして2012年。
巨大隕石の地球衝突が迫り、世界中がパニックに陥っている。
荒廃した街の片隅で、いつもと同じように中古レコード店を営む店長がいた。
あの「逆鱗」を手がけた岡崎の子供(大森南朋、一人二役)だ。
レコードを物色する客に、店長は「逆鱗」の「フィッシュストーリー」を聴かせる。
地球の危機は救われるのか・・・・
<逆鱗というバンド>
「逆鱗」のメンバーを演じたのは、俳優の伊藤淳史(ベース)、高良健吾(ボーカル)、
渋川清彦(ドラム)と、ロックバンドDrive Farの大川内利充(ギター)の4人。
劇中で逆鱗が歌う曲は斉藤和義がプロデュースを手がけた。
渋川清彦は高校卒業後、バンドでプロを目指し上京。アートスクールのドラム科を中退。
その後、俳優に転じたがドラムの経験はあった。
伊藤淳史はまったく楽器経験がなく2ヶ月間、必死で練習したそうだ。
楽器の持ち方、弦の押さえ方から習い、泊まりがけの仕事にもベースを持って行き、
毎日どんなに忙しくてもベースに触るようにしていたらしい。
高良健吾はニルヴァーナ、エレファントカシマシ、サンボマスター、東京事変、奥田民生
などを好んで聴いていたロック好きで、ボーカルもサマになっていた。
大川内利充はフランス人のボーカル+3ピースの爆音系バンド、Drive Farのギタリスト
で、「逆鱗」のサウンド作りに貢献している。
メンバーたちは週2~3回集合して練習し、その後飲みながら曲や音について話し合った。
そのためか劇中の「逆鱗」のシーンは、ざらっとした生々しさがあった。
理解してもらえない、売れないミュージシャンの哀愁、虚しさも切実に感じられた。
映画公開に先駆け、2009年02月にCD「FISH STORY 逆鱗×斉藤和義」をリリース。
3月にタワーレコード渋谷店、HMV渋谷店でミニライブを開催している。
「FISH STORY」を作曲した斉藤和義自身もセルフカヴァーしているが、この曲に関し
ては僕は「逆鱗」のヴァージョンの方がいいと思う。
<脚注>
ロックな青春映画10選、後半は邦画をご紹介したい。
一発目は「リンダ、リンダ、リンダ」。(2005年公開)
タイトルでピンと来た方もいるだろう。
1980年代後半に活躍した日本のパンクロック・バンド、ザ・ブルーハーツのメジャー・
デビュー曲「リンダ リンダ」がこの映画のフックになっている。
文化祭でバンド出演。夏に教室や屋上で練習をした思い出。あるよね?
<映画のあらすじ>
とある地方都市の高校(撮影は群馬県の前橋工業高校で行われた)が舞台。
文化祭を数日後に控えたある日、軽音楽部所属の5人組ガールズバンドのギター担当
(湯川潮音)が指を骨折してしまった。
高校生活最後の文化祭にどうしても出たいキーボードの恵(香椎由宇)。
オリジナルメンバーでやらなきゃ意味がないというボーカルの凛子(三村恭代)。
二人は対立し、バンドは空中分解。
恵がギターに転向し、ドラムスの響子(前田亜)、ベースの望(関根史織)とバンド
を続け、文化祭に出ることにする。。。。が、何をやるか決まらない。
軽音の部室で古いLPやカセットをひっくり返しているうち、ザ・ブルーハーツの「
リンダ リンダ」を聴き、3人はノリノリ。
問題はボーカルだ。恵はギターを弾くのに精一杯。
文化祭の準備で慌しい校内でどうしようか悩む3人。
じゃあ、あそこを最初に通った子にしようよ、といい加減な提案をする恵。
最初にやってきたのは、よりによってバンドを抜けたばかりの凛子だった。
次に韓国の留学生ソン(ペ・ドゥナ)に恵が声をかける。
「バンドやんない?ボーカルでいいよね?やるのブルーハーツだから」
ソンは適当に返事をする癖があり、意味も分からないまま引き受けてしまう。
2日後の本番まで時間がないため、さっそく練習を始めるが4人の音はバラバラ。
特に恵は慣れないギターがうまく弾けない。
夜の部室に忍び込んで、体育会座りで練習する4人。屋上で一人ギターを弾く恵。
一人カラオケで歌うソン。気持ちが一つなり、音も良くなってきた。
前日からスタジオに泊まり込みで猛練習するが、4人は疲れて寝てしまう。
軽音の部員からの電話で恵は目がさめる。出番の時間に間に合わない。
どしゃぶりの中バスに乗る4人。体育館に着いた時、残り時間は10分足らず。
雨を避けて集まって来た生徒たちを前に、4人は裸足のまま壇上に上がる。
「私たちはパーランマウム(파란 마음、韓国語でBLUE HEARTS)です」と名乗り、
「リンダ リンダ」「終わらない歌を歌おう」を熱演した。観客は総立ち。
4人は力を出し切り満足そうな笑みを浮かべていた。
舞台の袖で見ていた凛子でさえも。
↑クリックすると「リンダ、リンダ、リンダ」の予告編が観られます。
<映画の見どころ>
大きな盛り上がりもなく、まったりとした高校生活にリアリティがある。
古い教室、廊下、体育館、下足入れが並ぶ玄関、部室、文化祭の準備風景。
高校生バンドらしい大雑把でまとまりのない演奏。そうそう、こんな感じ。
この映画を見てると、遠い昔の空気感や匂いが蘇ってくるようだ。
監督の山下敦弘はわざとらしい盛り上げを極端に嫌う人らしい。
唯一のハイライトはどしゃぶりの雨の中、文化祭に駆けつけるバンドと、演奏
シーンだが、それも淡々と描かれている。
長回しの多用、ロングショット、移動カメラ、そして間の取り方が上手い。
<キャストのキャラが絶妙>
気が強い恵は当所は木村カエラがキャスティングされていたらしいが、結果的に
香椎由宇が適役だったと思う。
クールな凛子(三村恭代)との確執、反りの合わない所もリアルだった。
前田亜季演じるおっとりしたドラムスの響子。
無口な望役の関根史織はBase Ball Bearというバンドのベーシストでもあり、
3人のプレイヤーの中で一番、音楽的にしっかりしている。
そして韓国から来た留学生ソン(ペ・ドゥナ)はたどたどしい日本語といい加減な
返事、絶妙の「間」で笑いを誘う。
ペ・ドゥナは韓国でファッション雑誌のモデルやCMモデル、テレビタレント、映画
女優として活躍。シリアスな作品からコメディーまでこなす実力派・個性派である。
個人的には脱退したボーカルの凛子(三村恭代)の冷めた感じも良かった。
だいうじょうぶ?がんばってね、と声をかけるが最後まで恵と和解しなかった。
屋上で漫画喫茶やってた一つ年上の留年生(どこの学校にもいたよなあ)は山崎優子
(me-ism)が演じている。
けだるい雰囲気とハスキーな声。恵のギターでブルースを奏でるがこれが上手い!
パーランマウムの4人が遅れているため、指を骨折したギターの萠(湯川潮音)がアカ
ペラで「The Water Is Wide」を歌い穴埋めするシーンがある。
湯川潮音はシンガーソングライターで実際にギターも弾ける。
さらに時間稼ぎのため上述の山崎優子が奥田民生「すばらしい日々」を弾き語りし、
山崎優子のギターで湯川潮音が細野晴臣の「風来坊」を歌うがこれもよかった。
<使用楽器>
ギターはESP、アンプはRoland、ドラムスはPearlが提供している。
恵(香椎由宇)が弾いてるのはセミホロウボディーのレトロなデザインのギターだが、
これはESPのオリジナルだっろうか?(知ってる方、教えてください)
望(関根史織)の水色のベースは一見プレシジョンっぽいがヘッドが違う。
たぶんこれもESPのオリジナルなのだろう。
ちなみに関根史織はBase Ball BearではフェンダーUSAプレシジョンベース、
ムスタングベース、プレシジョンベース、Freedom Custom Guitar Research
製のジャズベース、ギブソン・SGベースなどを愛用しているようだ。
高校生のロックっていいよね。ガールズバンドっていいな!
<参考資料:Amazon、Wikipedia、YouTube、シネマトゥデイ、他>