2022年11月26日土曜日

「リボルバー」2022リミックスを深掘りしてみる(3)



 <ラバーソウルから音楽性の変化が始まっていた>

ジョージが生前インタビューで「ラバーソウルとリボルバーは兄弟みたいな
アルバムで、どっちにどの曲が入ってるかよく憶えていない」と言っていた。
時系列ではラバーソウル→リボルバーだから記憶が曖昧なのだろう。

確かにラバーソウルでは、内省的で陰影のある歌詞と美しいメロディー
ンションやクリシェを活かしたコード進行、ルート外しのベース、複雑で美
しいコーラスワーク、アコースティックギターの多用(フォークロックへの
傾倒)など、ビートルズが新しい次元に入ったことを示す要素が多い。

Norwegian Wood、Nowhere Manはディランの影響と思われる。
If I Needed Someoneはバーズのサウンドを取り入れたものだ。



↑5フレットにカポをしている。たぶんGirlのレコーディングだろう。
J-160Eのピックアップはブリッジ側に付け変えられている。
ロセット(サウンドホールのリング)が一本であることから、ジョンの2台目
の1964年製ではなくジョージ所有の1962年製を借用していると判明。


サウンドも変化し始めた。

ポールはレコーディングにリッケンバッカー4001Sを使用するようになった。
(ステージでは軽くて動きやすいホフナー500/1を使っている)
Think For Yourselfではベースをファズ(VOX社の試作品)に通して弾いた。

リンゴはラディックのオイスターブラック・パールのセットを2台購入。
バスドラムは22×14インチに、フロアタム、タムタムも大きくなった。
スネアは14×5.5インチのジャズ・フェスティバル。
シンバルはジルジャン製かパイステ製。スタンド類はラディック製。
スネアの底面にはテープが貼られ鳴りを抑えて重くする工夫がされた。


ラバーソウルではパーカッションも多用された。

ジョージは映画「ヘルプ!」撮影中にシタールに興味を持ち、バーズのデヴ
ィッド・クロスビーの紹介でインド音楽とシタールにのめり込んで行く。
そしてNorwegian Woodで初めてシタールを弾いた

Nowhere Manのキャッチーな間奏・オブリはヘルプ!でも使用したストラト
キャスターだが、後処理のイコライジングで高音を強調している。
ラバーソウルではコンプレッサーやイコライザーでギターやピアノの音を変
える技術が用いられた。




10月12日から11月15日の約1ヶ月間でレコーディング行われている。
ヒット曲量産のレノン=マッカトニーもさすがに曲が足りなかったらしい。
前アルバム「ヘルプ!」セッション時に録音したWaitを引っ張り出して、オ
ーバーダブを施して体裁を整え加えている。


急場で制作されたにもかかわらず、美しい粒揃いの曲が並び、全体を通して
統一感がある(ブライアン・ウィルソン談)ため、ビートルズ初のコンセプト
・アルバムと評価されることが多い。

ラバーソウルというアルバム・タイトル(本場のブルースマンがストーンズ
を揶揄したプラスティック(まがい物の)ソウルという言葉をもじった)
4人の歪んだ写真が使われたジャケット・カヴァー(ロバート・フリーマン
がジョンの家で撮影した写真をボール紙へ写したところ歪んで見え、メンバ
ーたちは面白がりそのまま採用した)もその評価に一役買っている。



↑ラバーソウルのジャケットに使用された写真(本来の歪みのない状態)




<Tomorrow Never Knowsから始まった革新的なロック>

1965年12月にラバー・ソウルをリリースした後、1966年1月から3ヶ月4人
休暇をとり(1)それぞれ自由に新しい音楽の探求をしていた。


ポールは前衛芸術と前衛音楽に刺激を受け、創作意欲を掻き立てる。
ジョージはシタールの弾き方を学び、インドの神秘主義を学び出す。

ジョンとジョージはLSD服用による幻覚症状を体験。(2)
リボルバーの制作に大きく影響している。
ジョンは「ラバーソウルはマリファナをやりながら作った。リボルバーはLSD
体験が大きい」とインタビューで答えている。


スタジオに入る数週間前に「一つ言えるのは次のアルバムが今までとかなり
違ったものになるということ」とジョンは語っていた。
世界中に、そして彼ら自身にも影響を与え次の大作、サージェント・ペパーズ
への布石となる革命的なアルバムを生む確信を持っていたのだろう。





ビートルズのアルバム・セッション(アルバムに入れずシングで発売する
2曲も含む)はジョンの曲からスタートするのが慣例だった。(3)
アルバムの景色はそこから見えてくる。


セッションの初日、ビートルズはTomorrow Never Knowsに取り組んだ。
ジョンが8世紀の仏教と幻覚剤についての書(4)に影響を受け書いた曲だ。

曲のタイトルはリンゴが何気なく呟いた一言に由来している。(5)
(レコーディング時は「Mark I」と記されていた)
「リンゴの言い回しを拝借し、重い哲学的な詩を書いた」とジョンは言う。

チベット仏教の儀式の雰囲気を取り入れたいと考えたジョンは、マーティンに
数千人もの僧侶がヒマラヤ山の頂上で経典と唱えているような感じにしたい
」と伝えている。
ジョンは「天井から自分を吊し周りながら歌う」ことも提案。
それは不可能だったが、代わりにジェフ・エメリックの妙案でジョンが望む効
果は得られた。(後述)



↑クリックするとTomorrow Never Knows テイク1のPVが視聴できます。
ジョンは逆さになってを歌っている。
音響的効果があったかは疑問だが、本人は高揚感が得られたのかも(笑)



テイク1で「今までのビートルズではない」ことがよく分かる。
Cのコードを鳴らした音を逆回転させたループを延々と繰り返す
それに合わせ同じ音を繰り返すベース、単純なビートを刻む重いバスドラム
とシンバルインド音階の単調なメロディーの反復(メロトロンか?)。
そしてお経を読むようなジョンのヴォーカルが乗る。

逆回転という発想はジョンのメカ音痴の産物である。
オープンリール・テープが終わったことに気づかず、そのまま逆回転で再生
したことで、ジョンは思いがけない効果を発見したのだ。

この時点で既にライブ演奏で再現することを全く考慮していない。
当然だがヒットチャートを狙うことも意識していない。
スタジオで様々な実験を行うことで、誰もなし得なかった、想像もつかない
新しい音楽を探求していたことが伝わる。




テンポを早くしたテイク3が採用された。
イントロから全編にわたりタンブーラが響きドローン効果が続く
コードはずっとCだがSEのオーケストラでB♭も入る。(ベースはCを維持)
轟くようなドラム(コンプレッサーで圧縮した)とベースはミニマムな演奏

無数に乱舞する摩訶不思議な音は30本のテープループをコラージュしたSE(6)
ほとんどはポールが自宅で作った(前衛音楽の影響)もの。
現在は当たり前のサンプリングを手作業でやっていたのだから驚きだ。


間奏には逆回転させたジョージのギター・ソロが入る。(7)
ジョージのシタールジョンのレズリー・スピーカーを通したボーカル(後述
をオーバーダブして完成した。



↑ポールは完成したTomorrow Never Knowsを周囲に聴かせ反応を見た。
ストーンズは興味を示したが、ディランは「やめてくれ」と言ったらしい。
写真をクリックするとTomorrow Never Knows 2022 Mixが聴けます。



こうした異次元的な音楽を発表したということ自体、挑戦である。
Tomorrow Never Knows、そしてリボルバーというアルバムはアシッド・
ロック(サイケデリック・ロック)の先駆けと言っていいと思う。(8)




<ジェフ・エメリックがスタジオで起こした奇跡の数々>

リボルバーが革新的なアルバムになったのは、このセッションからチーフ・
・エンジニアに就任したジェフ・エメリックの貢献度が大きい。

エメリックはEMIのアシスタント・エンジニアとして働いていた。
ポールが気軽に声をかけてくれ、いろいろな話をする仲になったという。
そのエメリックに思いがけないチャンスが巡ってきた。




それまでビートルズのレコーディングにおいて、ジョージ・マーティンの下で
チーフ・エンジニアを担当していたノーマン・スミスがプロデューサーに昇格。
別なアーティストを任せられることになった。
それはビートルズのレコーディング作業から外れるということを意味する。

後任のミキシング・エンジニアを選ぶにあたって、ポールはマーティンにジェ
フ・エメリックが適任だと進言した。
エメリックとの会話から、彼の可能性を見出していたのだろう。


エメリックはノーマン・スミスの助手としてレコーディング・テクニックの
基本を徹底的を学びマーティンとの相性もよかった
ポールの意向どおり、エメリックはビートルズのチーフ・エンジニアとして、
ジョージ・マーティンの下で働くことになる。

この時エメリックは弱冠19歳。プレッシャーは相当大きかったはずだ。



↑左からブライアン・エプスタイン、ジョージ・マーティン、ジェフ・エメリック。


リボルバー・セッションの初日スタジオにエメリックが入ると、ジョージは
わざと聞こえるように「ノーマンはどこ?」と言った。
ジョンとリンゴもエメリックを無視した。もちろんポールは歓迎してくれたが。

ビートルズのレコーディングはクローズドであり、気心知れた信頼できるスタ
ッフしかスタジオに入れない主義である。
ポール以外の3人のエメリックへの態度は拒絶からすぐ称賛と信頼に変わった



前述のTomorrow Never Knowsにおけるジョンの「数千人もの僧侶がヒマラヤ
山の頂上で経典と唱えているような感じ」という抽象的な要求に対し、エメリ
ックは画期的な方法を発案しジョンを喜ばせた

ハモンドオルガン用のレズリー回転スピーカーからジョンのボーカルを流し、
それをマイクで拾う、という方法だ。
レズリーを通すとエフェクターのコーラス、フランジャーのようなドップラー
効果(当時はそんなエフェクターはなかった)が得られる。(9)




Tomorrow Never Knowsではボーカル以外のバッキング・トラックもレスリー
・スピーカーへ送り、ワン・コードでミニマム・ノートの曲に対して斬新な
アプローチを試みている。


さらにエンジニアのケン・スコットのと共に、テイクを2度重ねしなくてもダブ
トラッキング(2重録音)効果を作り出すADT(Artificial Double Tracking)
という方法を考案。(10)
ボーカルを2度重ねするのが苦手だったジョンはこれにも喜んだ




        ↑エンジニアのケン・スコット


モータウンレコードみたいな迫力のある太いベース音にしたい」というポ
ールの要求に対しては、アンプ集音マイクの代わりにウーファーを代用
Taxman、Paperback Writer、Rainのブンブン唸るベースがその成果だ。

ギターをコンソールに直接つなぎ録音するダイレクトボックスの開発もエメ
リックとケン・スコットの功績の一つ。
ギターはコンプレッサーで圧縮されイコライジングもされてる。



↑クリックするとTaxman 2022 MixのPVが視聴できます。



リンゴのドラムの音もこのアルバムからクリアーでラウドな音になった。
マイクはドラムセット全体の収音用のオーバーヘッドの他に、ハイハット&
スネア用、フロアタム用、バスドラム用、と4本のマイクを使用したと思わ
れる。(2022リミックスを聴くとそれぞれ別に定位されている)
初期はトップのみ、ラバーソウルでやっとトップとキックの2本だった。(11)


バスドラムには音を重くするためのセーター(12)が詰め込まれ、収音用マイク
オンマイクで(録りたい音にできるだけ近づけ)セット。
フェアチャイルド660コンプレッサー/リミッターで処理した。
Taxmanではアタック成分を強調したドラムが聴ける。




Got To Get You Into My Lifeでもブラス・セクションをオン・マイクで収録
し、迫力のあるサウンドに仕立てた。


エメリックはテープ速度を落とすと特定の楽器のニュアンスが良くなり、音
の深みも増すこと、ドローン効果が得られることに気づいた

Rainは速度を上げて録音。マスタリング時にノーマルに戻している。



↑写真をクリックするとRain Take 5 速度を落とす前の音が聴けます。



I'm Only Sleeping、She Said She Saidはバッキング・トラックをテープ
速度を上げて録音したものを再生時にノーマルに戻す
結果テンポがゆっくりでキーが下がる。ボーカルやコーラスをオーバーダブ。
ジョンが望んだレイドバック感、トリップ感を表現した。


イエローサブマリンも同じ手法で録音され、波間を漂うようなゆったりと
リラックスした味わいを醸し出している。







<EMIをぶっとばせ!>

4人は「アメリカの(特にモータウンの)レコードはどうしてこんなサウンド
が出せるんだろう、低音、音量、音圧がすごい」と憧れていたという。
それはジェフ・エメリックも同じだった。



↑1964年に初渡米後、ロンドンのヒースロー空港に到着。
ポールはアメリカで購入したと思われるLP(R&Bだろうか)を抱えている。


EMIのスタジオでは厳格なルールがあり、機材の保護のためオフマイク(収音
するアンプや楽器から離してマイクをセットする)(13)、コンソールへの入力
音量の制限など、厳しい規定があった。
機材もEMI製、あるいはEMIがテストし承認したものしか使えない(14)



↑エメリックによるとEMIの技術者は丈の長い白衣を着用するよう求められた。
レコーディングも1日5時間以内と規定があった。
もちろんビートルズは例外で、いつでも好きなだけ優先的にスタジオを使えた。


EMIはビートルズのレコーディングでは通常より2〜2.5dB音量を下げていた
クラシックの名門EMIはそれまで大量にレコードをプレスするような経験がなく
、音飛びを防ぐためにそうせざるを得なかったらしい。
またシングル盤は50Hz以下の低音はカットするよう指示されていた。
(アメリカのレコードに比べて迫力不足なのは当然。4人は不満を抱いていた)


当時のEMIは上層部がロックのレコード作りに対する認識が薄く、旧態然と
した制約が多すぎ、設備的にも技術的にも限界があったのだ。
そのためビートルズが出すサウンドを拾い切れていなかった。

裏返せば、既にビートルズはスタジオのレコーディング・テクニックを上回る
サウンドを出していた、ということになる。
ヴェートーベンだけでなくEMIのスタジオまでぶっ飛ばしていたわけだ(笑)




ジェフ・エメリックは既成概念にとらわれなかった。
EMIの厳格ルールを次々と破ることで、ビートルズの貪欲なまでのサウンド
へのこだわり4人の突拍子もないアイディアを現実化する。

それによりビートルズは実験的でより野心的な音楽を創り出した。
ビートルズ、マーティン、エメリックの飽くなき探究心が、革新的な(しかも
時代を超越して愛される)傑作を誕生させたのである。

ピンクフロイドがデビュー・アルバムのレコーディングのためアビイロード
・スタジオを訪れた時、今まで聴いたことがない洗練された音が第2スタジオ
から流れてきたという。
ちょうどビートルズがリボルバーをレコーディングしていたのだ。



さて、今回も長くなってしまいました m(_ _)m

続きは次回。



<脚注>もたっぷりありますよー↓

2022年11月16日水曜日

「リボルバー」2022リミックスを深掘りしてみる(2)




 <1CD、2CD、5CD、アナログLP、どれを買うのが正解?>


一連のリミックス同様、今回も以下のエディションが発売された。



1CD(オリジナル・アルバムのリミックスのみ)


2CD(Disc2はアウトテイクのハイライト、ブックレット付)
 ※今回は見開きジャケットとブックレットが箱に収まっている。





5CDスーパー・デラックス(豪華ブックレット付、箱入り
 Disc2&3はアウトテイク集、Disc4はモノラル・ミックス、
 Disc5はシングル2曲それぞれのステレオ/モノ計4トラックのみ
 ※今回はボックスの形状がLPサイズ





1LP(オリジナル・アルバム、ハーフスピード・マスタリング)


4LP+7inchシングル・スーパー・デラックス
豪華ブックレット付、箱入り





Amazonのレビューでこんなことを書いてる人がいた。

  今回もボックスを買ったが、毎回大きさも形状も違う
  場所を取るので困る。

  年に1回。いつまで続くのだろう。生きてるうちに終わるのか。
  そう思うと憂鬱になる。


同感だ。
ボックスをありがたがる人もいる(神棚にでも置いて祀るのかな?)
場所を取って邪魔なだけだ。箱を開けるのが面倒で聴かなくなる。(1)



今回のリボルバー2022リミックスは2CDを買った
アウトテイクはハイライトで充分じゃないかと判断したので。

5CDのDisc2&3は4/6〜6/22のリボルバー・セッションを時系列で追って
いるので、レコーディングの流れが分かる。そこがいい点だ。





5CD収録のアウトテイク(Disc2&3)と2CDのアウトテイク(Disc2)の
比較どのテイクがダブっているかをしてみた。

聴きたい音源かどうか、どれを買うか、の参考になれば幸いだ。
(もちろんアウトテイクは不要、オリジナル・アルバムの1CDで充分という
選択肢もアリだ)




<2CDか、5CDかはアウトテイクを吟味してから選んだ方がいい>

以下、5CDのDisc2&3収録トラック中、2CDのハイライトでも聴けるテイク
には
マークを付けてある。

聴く価値大と思うテイクにはを付けた。あくまでも私見だが。




Disc 2 CD Sessions

01. Tomorrow Never Knows (Take 1)  
  →アンソロジーと同テイク、収録時間が長い
02. Tomorrow Never Knows (Mono Mix RM 11)
  →モノ・ミックス、SEの入り方が違う(ステレオよりいい)
03. Got To Get You Into My Life (First Version / Take 5) 
  →アンソロジーと同テイク、収録時間が長い
04. Got To Get You Into My Life (2nd Ver./Unnumbered Mix) ◉ 
  →ホーンの箇所でジョージがファズギター、コーラス掛け合い



↑Got To Get You Into My Life (2nd. Ver./Unnumbered Mix)が聴けます。



05. Got To Get You Into My Life (2nd Version / Take8)
  →トランペットとサックスが入る。演奏のみ
06. Love You To (Take 1)
  →ジョージのアコギ弾き語り、ポールのハモり
07. Love You To (Unnumbered Rehearsal)
  →シタールとタンブーラだけ(聴いてて退屈)
08. Love You To (Take 7) 
  →公式と同テイクだが演奏時間が長い、ポールのハモりが入る
09. Paperback Writer (Takes 1 & 2 / Backing Track)
  →テイク1はすぐ中断、テイク2は公式で採用した演奏のみ
10. Rain (Take 5)
  →速いテンポでの演奏のみ(歌入れで回転を落とすため)
11. Rain (Take 5 / Slowed Down)
  →回転を落としたもの、ハモり・コーラスなし、演奏が長い
12. Doctor Robert (Take 7) 
  →ジョンの声はADTなし、演奏が長い、公式テイクとほぼ同じ
13. And Your Bird Can Sing (First Version / Take 2)  
  →アンソロジー 収録テイクと同じ、笑い声なし、ギターが違う
14. And Your Bird Can Sing (First Version / Take 2 / Giggling)
  →アンソロジー収録、2人が笑いながら歌う、間奏ギターが1人分






Disc 3 CD Sessions

01. And Your Bird Can Sing (2nd Version / Take 5) 
  →少しテンポが遅いラフなテイク。間奏でAh....のコーラスが入る。
02. Taxman (Take 11)  
  →公式テイクと同じ。最後はギターソロ(間奏をコピペした)がない
   ジョンとポールの早口コーラスanybody got a bit of moneyが入る
03. I'm Only Sleeping (Rehearsal Fragment)
  →ヴィブラフォンの入る演奏、アンソロジー収録と同じだが長い
04. I'm Only Sleeping (Take 2)  
  →アンソロジー収録と別テイク、ハモリ付き、ジョンが間違えて中断



↑写真をクリックするとI’m Only Sleeping (Take 2)が聴けます。



05. I'm Only Sleeping (Take 5)
  →後で回転を落として歌を入れているため、テンポを早めて演奏
06. I'm Only Sleeping (Mono Mix RM11)
  →モノ・ミックス、逆回転のギターの入り方が違う
07. Eleanor Rigby (Speech Before Take 2)
  →弦楽器のリハーサル、ヴィブラートを入れるか相談してる
08. Eleanor Rigby (Take 2) 
  →ストリングスのオケ(ヴォーカルなし、聴いてて退屈)
09. For No One (Take 10 / Backing Track) 
  →ポールのクラヴィコードとピアノ、リンゴのドラムだけの演奏




10. Yellow Submarine (Songwriting Work Tape / Part 1) 
  初登場音源!ジョンが自宅で録音したデモ(元はジョンが作った曲
11. Yellow Submarine (Songwriting Work Tape / Part 2) 
  初登場音源!ポールが完成させた曲をジョンが歌ってみる
12. Yellow Submarine (Take 4 Before Sound Effects) 
  →回転を落とし歌を録音している、元のピッチだと歌まで半音高い
13. Yellow Submarine (Highlighted Sound Effects)
  →SEを強調したミックス、FOでない終わり方
14. I Want To Tell You (Speech & Take 4) 
  →タイトルについて意見交換、演奏のみ、中断する ※
15. Here, There And Everywhere (Take 6)  
  →アンソロジー収録と同じだが、最後までポールのデモが聴ける
16. She Said She Said (John's Demo)
  →ジョンが自宅で録音したアコギ弾き語りデモ、歌詞が異なる
17. She Said She Said (Take 15 / Backing Track)  
  →演奏のみ、完成形に近い 





Want To Tell You は曲名がまだ決まっていない。(2)
ジョンが言ってるGrany Smith part friggin' two!(Grany Smithは林檎
の品種)はLove You Toの仮タイトルがGrany Smithだったから。
リンゴはTell Youを提案し、いいだろ?と言う。
ジェフ・エメリックがLaxton's Superb(これも林檎の品種)と呼応。


※ She Said She Saidはジョンと口論になってスタジオを飛び出した
ため録音に参加してない」とポール自身が告白している。
公式テイクのベースはジョージが弾いている。コーラスもジョージ1人。
しかしテイク15ではポールがカウントを取りベースを弾いている
公式テイクとほぼ同じ完成度。ジョンは「最後の曲だ!」と言っている。
この後、何で口論になったのだろう?




こうして見直すと、あえてアウトテイク2枚分も必要ないように思う。
2CDのDisc2ハイライトも半分は要らないと思えるくらいだ。



そんな中で白眉のレアテイクがあった。
ジョンがアコギ弾き語りで歌うYellow Submarineの原型である。
こんな音源、ブートでもお目にかかったこともない。驚いた。



↑Yellow Submarineの原型。ジョンによるデモが聴けます。



「僕が生まれた街は誰も人のことなど気にしない」という寂しげな歌詞
Nowhere Manや後のソロ作品にも通じる内省的なもの。
これが楽しいマーチのYellow Submarineになるとは想像できない。


In the place where I was born, no one cared, no one cared
And the name that I was born, no one cared, no one cared
In the town where I was born, no one cared, no one cared
If you're right, then you're wrong, no one cared, no one cared
In the town where I came from, no one cared, no one cared



この曲はポールがリンゴのために書いたというのが通説だった。
しかし、元ネタはジョン。
これ以上発展させられなかったのか、ポールが書き変え完成させたようだ。
Yellow Submarineとなった曲をジョンが歌いポールが意見を言い一緒に歌う
デモ音源も聴ける。
We all live in a Yellow Submarine♫の合間にLook out”、Get downの
合いの手?が入る。


↑Yellow Submarineとなった曲をジョンとポールが歌うデモが聴けます。



この2つのデモは貴重。
だけど、このためだけに5CDを買うのも。。。

2CDのDisc2ハイライトにもこの2つを入れてくれればよかったのに。
Yellow SubmarineのSEなしのテイク4は不要だった。
(早いテンポで演奏し、回転を落とし歌を録音している。
 歌入のまま演奏時のテンポに上げているから子供の声のようで不自然)




<5CDのDisc4 2022モノ・マスターについて>

1966年のモノラル・ミックスから起こしたマスター・テープを2022年の最新
デジタル技術で蘇らせた一枚。
つまりリミックスしたわけではない。
当時のモノラル・ミックスからマスタリングし直した、ということだ。


ジョージ・マーティンもジェフ・エメリックもリボルバーとサージェント・
ペパーズはモノラルで聴いてほしい、と言っていた。
音の万華鏡のようなサージェント・ペパーズまでモノ推しという。

ビートルズの作品はホワイト・アルバムまではモノラルを重視してた。
英国ではアメリカや日本に比べるとステレオの普及が遅く、多くの家庭でポ
ータブル・レコードプレーヤーで聴かれていたためである。
(ステレオ盤とモノラル盤の2種類が発売された)(3)




このためミックスダウンはモノラルに時間をかける
4人もモノラルのミックスダウンには立ち会っていたが、ステレオはモノラル
に準じるということでマーティンたちにお任せだった。
当時は手作業のミックスダウンでエンジニアはテープを回しながらフェーダー
を細かく調整し、かなり大変な作業になる。

結果としてステレオとモノラルではSEの入り方が違う、タンバリンが入るタ
イミングが違う、ギターの入り方や音量が違う、ヴォーカルがダブルトラック
か否か、フェイドアウトのタイミングが違う、時にはテイクが違う(4)という
こともあった。

時間がない中、ステレオ・ミックスは妥協、やっつけ仕事になりがちなので、
エンジニア、プロデューサーとしては納得してない面もあるのだろう。



1986〜1987年にビートルズが初CD化された際は初期4枚はモノラルのみ、
ルプ以降はステレオのみ。(ジョージ・マーティンによる判断)

2009年、全作品がリマスターされる。
この時すべてステレオになるが、限定でモノ・ボックスも発売された。

モノラルに関してはこの2009年リマスターで充分だと思う。
(2022モノ・マスターと比較したわけではないが)





初期のビートルズは中域で塊になってガツンと前に出る音が魅力だった。
Please Please Meなんかは確かにモノの方がすごい。パンチがある。
2009年リマスターのモノラル盤は、英国盤1st.プレスを上質なオーディオ装置
でかけたのと同等の音質、と評論家たちも絶賛していた。


2009年リマスターはその良さ(野太い中域の迫力とふくよかさ)が味わえる。
ステレオ・リミックスなら分かるが、当時のモノ・マスターから最新技術でデジ
タルトランスファーしたのでよりクリアーです、と言われても触手が動かない。
なんか違うんじゃないか?と思うのだが。
当然、定位は今までと同じわけだ。やる必要があったのか?疑問。



<5CDのDisc5 EP盤について>

出ましたよ。またやっちゃいましたね。枚数稼ぎのあこぎ商法。
(Let It Beもこの手口でした)

80分入るディスクにPaperback Writer/Rainの2曲だけ。
それぞれステレオ(リミックス)とモノラルで計4トラック。10分程度。
もったいなーい。
ステレオだけDisc2か3の頭に入れておけばいいんじゃないの?
こんなんでCD5枚組ですって、胸張って言えるのか?



↑Rainのプロモビデオ撮影。


とはいえ、今回のPaperback Writer/Rainは聴きごたえがある
2CDのDisc2ハイライトの頭に収録されてるのでそっちで聴く方がお得。




<LPについて>

まず、デジタルでリミックスした音をLPで聴くことに疑問がある。
昔のプレス盤の方が音の親和性が高いような気がする。
(いわゆるアナログならではの温かみとか、ふくよかさとか)
それに高級なオーディオ機器じゃないとLPはいい音で聴けない。

LPを所有・収集する趣味もない。再生機もない。よって除外。




<結論(個人的見解)>

2CDと1CDとの価格差は400〜500円。
Paperback Writer/Rainも聴きたいなら(聴いた方がいいと思う)
2CDを買うべし
アウトテイクもそこそこ楽しめます。

完全制覇を狙いたいコレクターさんは5CDのボックスやLPをどうぞ。
そもそもリミックスに抵抗がある人は買わない方がいいです。




<続く>


<脚注>

2022年11月6日日曜日

「リボルバー」2022リミックスを深掘りしてみる(1)追記あり



 <デミックスという新技術で生まれ変わったリボルバー>

リボルバー2022リミックスが発売された。
2017年のサージェント・ペパーズから昨年のゲット・バックまで一連のリミックス
同様、ジャイルズ・マーティンとサム・オケルが手がけている。


特筆すべきは、デミックスという新技術が使われた点だ。
映画「ゲット・バック」のためにピーター・ジャクソン監督の音響チームが開発し
た技術で、AIに4人の声を学習させることで楽器や騒音に埋もれた会話から各自の
声を鮮明に抜き出す、というものだ。(1)


ジャイルズはジャクソン監督に頼んでこの新技術を使わせてもらった。
ローリングストーン誌のインタビューで、ジャイルズはデミックスについてこう説
明している。

「たとえばもらったケーキを小麦粉、卵、砂糖と元の材料に戻して1時間後に戻っ
てくるようなものなんだ。
その材料にはケーキの痕跡、他と混ざっているものは残っていない」





従来はオーヴァーダブする前の4トラック・テープに遡って、デジタル化し再構築
という作業であった。
複数の楽器や声が同じトラックに録音されている場合は限界がある。


だがデミックス技術なら、ドラム、ベース、ギターが1トラックに録音されていて
も、それぞれをAIに学習させて分離できる
4トラックで録音してた頃はドラムに1トラックしか割り当てられなかった。
その1トラックからスドラム、タム、ハイハットを分離させて、ステレオで立体
感が出るように再構築することも可能だ。

ジョンとジョージが1本のマイクで歌っていても、声を個別に抜き出せる
4人の演奏や歌のディテールが、今まで以上に明瞭に聴こえるようになるわけだ。




ジャイルズはラバーソウルとリボルバーのリミックスに意欲を示していた。

特にリボルバーは当時としては革新的な技術が使われ、4人がスタジオでの実験的
な音作りに没頭して行く、まさに変革期の作品である。(次回解説予定)
それまでと比べ、音質も格段に良くなったアルバムである。

そのリボルバーをデミックス技術を使い、より鮮明で迫力のあるサウンド、古さを
じさせず聴きやすいステレオミックスで蘇らせたのが今回のリミックスだ。(2)



<デミックス効果でリボルバーはどう変わったか?>

一番驚いたのは先行シングルPaperback Writer/ Rainのリミックスだ。
(5CDスーパー・デラックスのDisc5 EP、または2CDデラックのDisc2に収録)

・Paperback Writer
従来は冒頭のドラムとギターは左で、ベースは右に入っていた。
今回はドラムとベースを中央に寄せ、ギターは中央やや右に配置。
ドラムとベースの迫力はビートルズ史上最高かも。ぐいぐい攻めてくる。
重層構造の掛け合いコーラスも左右と中央と広がりがある。



                                                                             (写真:gettyimages)

写真はPaperback Writerのプロモ・ビデオ(スタジオ篇)撮影。
クリックするとPaperback Writer (2022 Remix)が聴けます。


・Rain
スネアを叩く音の抜け感が良くなった。
この曲でのリンゴのドラミングは芸術的と言える。
ポールの唸るようなベースの鳴りもすごい。
キーはGだが、ジョンのギターは1弦をDに落としドローン効果を得ている。
また速度を上げて演奏したバッキングトラックの再生速度を落とすことで、レイ
バックしたサイケデリック・サウンドを創っている。
ヴォーカルのテープ逆回転もトリップ感に一役買っている。
それらがリミックスでより鮮明で煌びやかに聴こえる。
コーラスが中央やや左と右に振り分けられヴォーカルを包み込むようにだ。



Rainのプロモ・ビデオ(スタジオ篇)撮影。



次にアルバム本編(Disc1)を聴いてみよう。
1曲目のTaxmanからリミックス効果絶大だ。


1. Taxman

従来はギター、ベース、ドラムが左から聴こえでヴォーカルはセンター。
右は2ndヴァースでタンバリンとカウベルが入るまで無音だった。
今回は全体が中央寄りにミックス。
ベースはど真ん中ものすごい太さで力強くグルーヴしている。
ギターのカッティングはやや右。タンバリンは左、カウベルは右。
ドラムは立体感がある。途中からライドシンバル連打もよく聴こえる。
ジョージのダブルトラックのヴォーカルは中央から左右に響く。
ポールによるリードギターは右だったのがセンターに定位された。
フェイドアウトが若干早い。

ビートルズのアルバム史上、唯一ジョージの曲が1曲目に据えられた。
(アルバム中ジョージが3曲提供というのも異例である)
ジョージが間奏のソロをうまく弾けず、ふてくされてスタジオを出てる間にポール
が見事なリードギターを録音。ジョージも満足の出来だった。



↑写真をクリックするとTaxman (2022 Remix)が聴けます。



2. Eleanor Rigby

従来のストリングスが中央、ポールのヴォーカルが右という違和感を解消。
ストリングスとコーラスは左右で振り分けられ、掛け合いの妙がよく分る
ストリングス・アンサンブルの持つ緊張感がぐっと増した。
主役のヴォーカルは中央。All the lonely people〜のダブルトラッキング部だけ
少し左右に分かれるのもいい。
歌い出しの「Ele」が左チャンネルに入っていた(ジョージ・マーティンのミッ
ス時のミス)音を中央に重ねる、という心憎い残し方をしている。


3. I'm Only Sleeping

従来はヴォーカルとベースが中央、ジョンのアコギとドラムは左でコーラスとジ
ョージの逆回転ギターが入って来るまで右チャンネルは無音だった。
新ミックスではすべての楽器が中央寄りにうまく配され広がりもある
ジョンのダブルトラッキングのヴォーカルは中央。
Runnning everywhere at such a speedでパッと左右に広がる。
掛け合いコーラスが左右から包むのもいい感じだ。
今まで目立たなかったドラムとベースの存在感が増した
リンゴのスネアのアタックってこんなに強かったのか、と感心する。

この曲は早めに演奏した録音を再生時にテープスピードを半音落として、ヴォー
カルを入れている。レイドバック感を表現するためだろう。




↑写真をクリックすると I'm Only Sleeping (2022 Remix)が聴けます。



4. Love You To

楽器の定位はあまり変わっていない。各楽器の音が鮮明にになった。


5. Here, There And Everywhere

特筆すべきはポールのベルベット・ヴォイスがより艶やかに聴こえること。
しかし左右の分離はなくなった。somethingの歯擦音が以前より気になる。
左寄りで塊で聴こえたコーラスが左右に拡がりヴォーカルを包み込む
ドラムとベース、ポールが弾くギターのアルペジオは控えめ。
最後のLove never diesで入るジョンのフィンガースナップ(指パッチン)が
埋もれて目立たなくなったのが残念だ。

ポールがジョンの家を訪ねた時、昼だったにもかかわらずに彼はまだ寝ていた。
ポールはプールサイドのサンデッキでギターを弾き始める。
ジョンも「このアルバムで1番好きな」美しいバラードはこうして生まれた。




↑クリックするとHere, There And Everywhere (2022 Remix)が聴けます。



6. Yellow Submarine

従来はリンゴのヴォーカルとコーラスは右、アコギ、ドラム、ベース、
パーカッションは左。波などのSE(効果音)やブラスとティンパニー、参加
者全員のよるYellow Submarine♫の合唱は中央という泣き別れミックス。
今回は主役のリンゴのヴォーカルを中央に配置している。
楽器は中央から左、コーラスは左右に振り分けSEはいろいろな方向から聴こ
えるように変更され、聴いてて楽しい。

この曲は「ポールがリンゴに歌わせるため作った曲」と言われて来たが、ジョン
が歌うデモが発見され、その定説が覆された。
内省的な歌詞はNowhere Manや後のソロ作品にも通じるものがある。
ジョンはそれ以上この曲を発展させられず、ポールに託したようだ。
Yellow Submarineに改作された曲をジョンが歌うデモも発表された。(後述)




7. She Said She Said

イントロのギターが別物に聴こえ、だいぶ印象が変わった。
ジョージの歪んだリードギターが中央で響き、左右にディレイが広がる
ジョンのリズムギターは右。
驚いたことに左から別なギターがイントロからヴァース途中まで単音を繰り返し、
Everything was right〜ではオルガン(これも初めて聴こえた)と同じリフを
オクターブ下で弾いている。たぶんジョージだろう。
以前は右にギター2台が一緒くたで、この隠しトラックのギターは埋もれてた。

左で鳴っていたドラムが中央寄りになりリンゴが暴れてる感がよく分る
空いた左チャンネルで上述のオルガンと3台目のギターが聴こえるように。
ボーカルは中央のままだがダブルトラッキングがよく分る。
ボーカルと混ざっていたコーラスは、やや左右に振り分けられた。
ベースは中央のまま。ポールと思えないくらい地味なプレイである。

ジョンのLSD体験を元にしたサイケデリックな曲。
リボルバー・セッションの最後、6/21に録音された。
珍しくリハーサルだけで25テイクを費やしている。
後半ジョージがベースを担当(?)し、練習が必要だったのかもしれない。
ポール自身が「ジョンと口論してスタジオを飛び出したため、この曲の録音
には参加していない」と発言している。
(クレジットではポールがベースを弾いたことになっているが)




↑バーンズ(イギリスのメーカー)のNu Sonicベースを弾くジョージ。


8. Good Day Sunshine

イントロだけ中央であとは右チャンネルに入っていたピアノが、やや左寄り(コ
ド)と右(ベースライン)に振り分けられた。
左右逆の定位の方が鍵盤を弾いてる臨場感が出ると思うが)
マーティン卿によるピアノの間奏もやや右寄りで音像が鮮明になった。
ヴォーカルとコーラスも以前より前に出ている
最後のヴォーカルとコーラスの掛け合いは左右を駆け回る。
ドラムとベースはおとなしい。

この曲ではポールはピアノに専念しジョージにベースを任せている。
(クレジットにもベース:ジョージと記されている)




9. And Your Bird Can Sing

大きな定位の変化はないが、クリーンアップされスピード感が増した。
ドラムが中央やや左で音が大きくなっている
右後方で鳴るジョンのリズムギター、右のタンバリン、両側のハンドクラッピング
(手拍子)が前より鮮明に聴こえるようになった。
ポールは派手なベースラインを弾いているが、音量は抑えめ。

イントロと間奏のキャッチーなツインギターはジョージとポール。
ジョン本人はアルバムの穴埋めと言っているが、カッコいい曲だ。



↑クリックするとAnd Your Bird Can Sing (2022 Remix)が聴けます。



10. For No One

以前はポールの弾くクラヴィコードとピアノとドラムは右で、An in hereyes, 
you see nothingでベースとタンバリンが入るまで左は無音だった。
今回はクラヴィコードはやや左、ピアノはやや右と振り分けられた
それぞれの音が鮮明で美しい。
リンゴのドラムのキックは中央、スネアは右、キックとオープンハイハットは左
から聴こえる。(今まで埋もれていたが)
タンバリンとフレンチホルンは左で変わらず。
ベースは左から中央へ移動。音量は抑えめである。

この曲はポールとリンゴの2人だけで録音されたようだ。
アウトテイクではリンゴが「どうすればいい?」と言ってるのが聴ける。





11. Doctor Robert

ヴォーカルとジョンのギターがおとなしくなった印象。耳馴染みはいいが。
一方でやや左で鳴るリンゴのドラムは力強くなった。マラカスも聴こえる。
ベースもセンターで音が鮮明になった。
左から聴こえるジョージのギターは従来より歪みが少なくマイルドである。
Well well well you're feeling fineの単音連続でも何か物足りない。
右のオルガンは音がふくよかになった。これはこれでいいと思う。
全体にサイケデリック・ロック色が後退した感は否めない
これもLSDを題材にした曲なのだが。


12. I Want To Tell You

ジョージのギターの音色がストラトらしくなった。悪く言うと線が細い。
イントロは右からフェイドインして左へ、エンディングは左から右へフェイドア
ウトするように変更された。
従来はベースが右、ヴォーカルとハーモニーは中央右寄り、ピアノはやや左、手
拍子は左右、とセンター抜けのミックスだった。
今回はヴォーカルとハモり、ベースは中央。ピアノは左右に振り分けられた。
バスドラムとスネアは中央、フロアタムは右寄りで、連打では立体感が出る
手拍子とマラカス(なぜか頭拍だったり後拍だったり不規則?)は右。




13. Got To Get You Into My Life

従来はヴォーカルと最後に入るギターとキーボードのみ中央に定位。
ベース、ドラム、タンバリンは左。
曲の肝でもあるブラスが右からしか聴こえずステレオ盤は迫力不足だった。
新ミックスではイントロからブラスが左右めいっぱい拡がり、ブラスロックの
迫力が一気に増した
ヴォーカルとベース、タンバリンは中央。
バスドラムはスネアとタムは中央、ハイハットは左、フロアタムは右
連打ではマルチで録ったドラムのように立体的に聴こえる
最後に登場するジョージのギターはセンター。
以前、左でかすかに聴こえた低音弦のギターのリフ(ブラスを重ねる前に録音
)を潔くカットしたのは正解。
今回のリミックスの中で特にすばらしい出来だと思う。



↑クリックするとGot To Get You Into My Life (2022 Remix)が聴けます。


14. Tomorrow Never Knows

全編で流れるシタールのドローン音が中央からやや左右に振り分けられた
ドラムのテープループも中央から右に流れるように変更された。
かもめの鳴き声などSEのテープループも左右に乱舞するように行き交う
逆回転のギターとエンディングのピアノも左右に移動
サイケデリック・ロック感が増した。これもリミックスの成功例。

この曲の課題はMark 1.だった。
カモメの鳴き声はポールがAh...Ah...と言ってる声の速度を上げて作成。
ワイングラスのぶつかる音、ディストーションをかけたギターやベース。
そのテープループを5台のテープマシーンでかけフェーダーを上げ下げした。
ミックスダウンの際、エンジニアは大忙しだっただろう。


これまでと同じくリミックスには賛否両論あり、評価が分かれるだろう。
当時聴いた音を重視するファンにとって、リミックスは冒涜かもしれない。

しかし当時の技術的な制約から解き放って、ビートルズを古く感じさせな
い(1960年代のステレオ・ミックスは今聴くと不自然だ)現代でも輝く
音楽として蘇らせることは、個人的には賛成だ。

リボルバー2022リミックスは世界の音楽誌も絶賛している。(3)

デミックスという新しい技術の恩恵を受けたこともあるが、もともとリボルバー
が挑戦的で完成度の
高いアルバムであったという事実が大前提にある。


<続く>


<追記>
週プレNEWSで市川紗椰さんがリボルバー2022について解説してます。
目、いや、耳の付け所が違う。なかなか面白いです。

<脚注>