ジャズ・ドラマーを目指す青年を主人公とした映画についてだ。
日本でも「セッション」という的外れでセンスのない邦題(翻訳が難しい
のは同情するが)で2015年に公開された。
<「Whiplash」に込められた意味>
原題は「Whiplash」で「鞭打ち症」という意味の造語だ。
首に大きな負荷がかかるドラマーの職業病でもある。
whip=鞭で打つ、打ち負かす、たたきのめす。
lash=鞭打ち、鞭のしなやかな部分、激しい衝突。
主人公のドラマーの力強くしなやかなスティックさばきも表している。
指導者の苛烈なしごき、ぶつかり合いもイメージできる。
またスラングで、人の態度の豹変ぶりをwhiplashというらしい。
(例:衝動的で考えや立ち位置が変わるトランプ氏を揶揄する時など)
本作の原題でありテーマ曲として何度も演奏される「Whiplash」は、
ビッグバンド作曲家/サックス奏者のハンク・レヴィが1973年に書いた
作品である。
↓映画で演奏される「Whiplash」が聴けます。
https://youtu.be/-jAtHf9RA4w
ハンク・レヴィは目まぐるしくリズムの変わる曲作りを得意とする。
「Whiplash」のドラム(ブラスに合わせている)も激しく変化する。
物語が思いもよらぬ方向に突き進む、この映画の全てを示唆している。
映画を見終わった時、英語圏の人は(ジャズに造詣が深い人であれば特
に)なるほどね、とタイトルに合点がいくはずだ。
それを日本語で表現するのは無理。だとしても「セッション」はないな。
<映画のあらすじ>
19歳のニーマン(マイルズ・テラー)はバディ・リッチのような偉大
それを日本語で表現するのは無理。だとしても「セッション」はないな。
<映画のあらすじ>
19歳のニーマン(マイルズ・テラー)はバディ・リッチのような偉大
なジャズドラマーになりたいと憧れ、全米屈指の名門音楽院に入学する。
(この学校はNYのジュリアード音楽院をモデルにしていると思われる)
(この学校はNYのジュリアード音楽院をモデルにしていると思われる)
バディ・リッチは圧倒的なスピードと正確無比なビートの天才ドラマー。
ビッグバンドで主役を食ってしまう「見せるドラマー」でもあった。
しかも長時間叩き続けても、まったくリズムが狂わずパワーも衰えない、
という超人である。
↓バディ・リッチがドラムを叩く「Caravan」が見れます。
(レギュラーグリップから逆手マッチドグリップへの持ち替えに注目)
ビッグバンドで主役を食ってしまう「見せるドラマー」でもあった。
しかも長時間叩き続けても、まったくリズムが狂わずパワーも衰えない、
という超人である。
↓バディ・リッチがドラムを叩く「Caravan」が見れます。
(レギュラーグリップから逆手マッチドグリップへの持ち替えに注目)
心臓病を患い医者から忠告されたにもかかわらず、退院すると再びドラム
を叩き始めたという逸話もある。
を叩き始めたという逸話もある。
ニーマンの台詞で何度も引用されるバディ・リッチ的な生き方(音楽に
初等クラスから最上位クラスであるバンドに引き抜かれる。
喜んだニーマンを待ち受けていたのは、狂気のスパルタ指導だった。
喜んだニーマンを待ち受けていたのは、狂気のスパルタ指導だった。
ニーマンも初日から椅子を投げつけられ、頬を平手打ちされ、屈辱的な
言葉を浴びせられる。
↓「Whiplash(邦題:セッション)」の予告編が見れます。
https://youtu.be/v7jEDQlR9BY
もうパワハラ、イジメどころではない。
「巨人の星」の星一徹のちゃぶ台返し、「あしたのジョー」の丹下のお
↓「Whiplash(邦題:セッション)」の予告編が見れます。
https://youtu.be/v7jEDQlR9BY
もうパワハラ、イジメどころではない。
「巨人の星」の星一徹のちゃぶ台返し、「あしたのジョー」の丹下のお
っちゃんも真っ青・・・と言っても、若い人たちには通じないだろう。
最近だと「教場」の鬼教官、風間公親? いや、もっと陰湿で暴力的だ。
ニーマンは悔しさをバネに血まみれの猛練習を続ける。
ハンク・レヴィの「Whiplash」を暗譜し、コンテストでの優勝に貢献。
主席ドラマーに昇格する。
最近だと「教場」の鬼教官、風間公親? いや、もっと陰湿で暴力的だ。
ニーマンは悔しさをバネに血まみれの猛練習を続ける。
ハンク・レヴィの「Whiplash」を暗譜し、コンテストでの優勝に貢献。
主席ドラマーに昇格する。
ニーマンは偉大なドラマーになることに取り憑かれ病み始めていた。
「ドラム以外のことを考える時間がない」と恋人に一方的に別れを告げ、
家族も顧みなくなり、自身が疲弊し狂気に蝕まれていく。
コンクールの日、ニーマンはトラックと衝突事故を起こしてしまう。
血まみれで執念で会場にたどり着く。が、まともな演奏はできなかった。
フレッチャーに「お前は終わりだ」と冷たく言われたニーマンは、舞台
でフレッチャーに殴りかかる。
騒動でニーマンは退学処分になる。
弁護士の勧めで匿名で証言し、フレッチャーも音楽院から追放される。
ドラムから離れ穏やか生活を送っていたニーマンは、ある晩通りかかった
弁護士の勧めで匿名で証言し、フレッチャーも音楽院から追放される。
ドラムから離れ穏やか生活を送っていたニーマンは、ある晩通りかかった
ジャズクラブに出演していたフレッチャーを見つける。
フレッチャーはニーマンに声をかけ、週末カーネギーホールで開催される
フレッチャーはニーマンに声をかけ、週末カーネギーホールで開催される
音楽際で彼が指揮をとるバンドが出演すること、曲は音楽院時代のレパー
トリーでデューク・エリントンの「Caravan」であることを伝え、ドラム
を叩かないかと話を持ちかける。
音楽祭は多くのスカウトマンも集まり、目に留まればブルーノートとの
契約などチャンスがある。ニーマンは誘いを受けることにした。
音楽祭は多くのスカウトマンも集まり、目に留まればブルーノートとの
契約などチャンスがある。ニーマンは誘いを受けることにした。
スタン・ゲッツ&マイルス・デイヴィスの「Intoit」。渋い選曲だ。
ジェリー・マリガン、リー・コニッツ、ソニー・ロリンズ、ズート・シム
ズが参加している。何気にすごいメンツだな。
https://youtu.be/v9qjtwpli44
当日フレッチャーがバンドに演奏させたのは違う曲だった。
音楽院を追放されたことへの報復である。
知らない曲でうまく演奏できず、ニーマンは失態を晒してしまう。
ステージを降りたニーマンは意を決して引き返し、フレッチャーの曲の
ジェリー・マリガン、リー・コニッツ、ソニー・ロリンズ、ズート・シム
ズが参加している。何気にすごいメンツだな。
https://youtu.be/v9qjtwpli44
当日フレッチャーがバンドに演奏させたのは違う曲だった。
音楽院を追放されたことへの報復である。
知らない曲でうまく演奏できず、ニーマンは失態を晒してしまう。
ステージを降りたニーマンは意を決して引き返し、フレッチャーの曲の
紹介を無視し、バンドに「Caravan」と伝え激しく叩き出す。
メンバーたちはニーマンの気迫に押され「Caravan」を演奏し出す。
メンバーたちはニーマンの気迫に押され「Caravan」を演奏し出す。
↓最後の9分に及ぶ「Caravan」は圧巻!
https://youtu.be/ZZY-Ytrw2co
https://youtu.be/2TAfvMn8_EQ
無我の境地で鬼気迫るドラミングをひたすら続けるニーマン。
完全に主導権を奪われ戸惑っていたフレッチャーだったが、やがて歓び
の表情を浮かべる。そしてニーマンも。
<映画の評価>
本作は監督・脚本のデイミアン・チャゼルの体験が反映されている。
第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、鬼教師フレッチャー役
のJ・K・シモンズの助演男優賞を含む3部門で受賞した。
ニーマンを演じたマイルズ・テラーの演技も大きく評価された。
テラーは2か月間、一日に3~4時間ジャズドラムの練習を続け、撮影
では自ら演奏した。作中の手からの出血はマイルズ本人のものである。
「Whiplash」は多くの映画賞でノミネートまたは受賞。
バラエティ紙は「音楽界の神童を扱った映画の定型を見事に壊した。
伝統のある優雅なステージと最高の音楽学校のリハーサルスタジオと
いう舞台で、スポーツアリーナや戦場で繰り広げられるような壮絶な
心理ドラマが展開されている」と評している。
音楽映画お決まりの、拍手喝采でめでたしめでたしでは終わらない。
師と弟子がひしと抱き合い涙の和解、という感動的シーンもない。
別れた恋人が会場に駆けつけよりが戻ることもなかった。
ふっと突き放したようなエンディングがいい。
<劇中演奏曲「Caravan」について>
「Whiplash」とともに音楽院のクラスで何度も演奏され、ラストシーン
で圧倒的なドラム演奏が聴けるのが「Caravan」である。
シニア世代にはベンチャーズの演奏でお馴染みだろう。
この曲はデューク・エリントンと彼の楽団のトロンボーン奏者ファン・
ティゾールによる共作である。
アフロ・キューバンのリズムで始まり、砂漠を渡るキャラバン隊を思わ
せるエキゾチックなメロディー(非西洋の音階、ハーモニックマイナー・
スケール)と続き、アップテンポの4ビート・スウィングへと展開して
いくスリリングな曲である。
バディ・リッチの演奏ではドラム・ソロが入るが、この映画でもかなり
激しいフィルと長いドラム・ソロが聴ける。
↓映画で演奏された「Caravan」が聴けます。
僕はビッグバンドは聴かないが、このアレンジは文句なしにカッコいい!
https://youtu.be/38CRu1rCaKg
<映画で使われる音楽用語(英語)>
この映画の面白さはもう一つある。会話の中で使われる音楽用語だ。
英語ではこういう言い方をするのかと勉強になった。
以下、聞き取れた範囲だが。
rudiments(ルーディメンツ)
日本でも同じ言い方をする。スネア・ドラムの基本奏法。
ピアノのレッスンでやるハノンのようなもの。以下3つはその例。
roll(ロール)
スネアの連打。マーチングやブラスバンドの小太鼓で必ずやる。
サーカスでライオンが火の輪をくぐる前のタララララ・・・もそう。
paradiddle(パラディドル)
これもドラム用語として日本でも使われている。
シングル・ストロークとダブル・ストロークを組み合わせたもの。
(左はシングル・パラディドル、右はダブル・パラディドル)
double-time
倍のテンポで。
quarter note
四分音符
half note
二分音符
In four
四拍子で。
Trombone. Bars 21 to 23.
トロンボーンの21小節目から23小節目。bar=小節。
Could I have a B-flat please?
B♭を出してくれる?(チューニングのためピアノに頼むシーン)
We have an out-of tune player.
ピッチ(音程)の合ってない奏者がいる。
out-of tune、よく使いますね。これを言われたらキツイ。
Not quite my tempo.
俺が求めてる(指示した)テンポじゃない。
quarter note
四分音符
half note
二分音符
In four
四拍子で。
Trombone. Bars 21 to 23.
トロンボーンの21小節目から23小節目。bar=小節。
Could I have a B-flat please?
B♭を出してくれる?(チューニングのためピアノに頼むシーン)
We have an out-of tune player.
ピッチ(音程)の合ってない奏者がいる。
out-of tune、よく使いますね。これを言われたらキツイ。
Not quite my tempo.
俺が求めてる(指示した)テンポじゃない。
You're rushing.
rushは(リズムが)走ってる、早すぎる。
Dragging.
dragは(リズムが)もたついてる、遅れてる。
Keep counting!
数え続けろ!(テンポを意識しながら演奏しろ)
Here we go.
行くぞ。さあ、やろう。(曲の開始時のかけ声)
行くぞ。さあ、やろう。(曲の開始時のかけ声)
upsy-daisy
曲をやる前の掛け声。せーの、みたいな感じ。
曲をやる前の掛け声。せーの、みたいな感じ。
All I want to do now is just give you both a crack at it all.
俺としては君たち2人両方に試しに(演奏を)やってもらいたい。
(アンドリューをライバルのコノリーと競わせるシーン)
have (take) a crack at itで~を試してみる、挑戦するの意味。
I'll cue in, Caravan!
入る所を合図する、(曲は)キャラバン!
(最後の演奏シーンで、ニームスがダブルベース奏者に言う。
制しようとしたフレッチャーにも、I'll cue youと言い黙らせる)