2016年6月22日水曜日

バカラックもカーペンター兄も絶賛の歌姫。

今回取り上げるアーティストは僕のブログの中では「最近の人」である。
ルーマーというパキスタン出身のイギリスのシンガー・ソングライターだ。

イスラマバードに生まれた彼女はテレビも新聞もない環境で、幼少期から家族
と一緒に歌いながら育った。
ルーマーのフォーキーな要素はこのルーツにあると思う。



イギリスに移り住んでからの彼女は苦労の連続だったようだ。
両親の離婚、ゴミ収集所に置かれたヴァンに暮らし病の母親の面倒をみる生活。
母親との死別後も皿洗いやポップコーン売りで生計を立てていた。

ロンドンのどん底生活の中で地道に音楽活動を続けていたルーマーは評価され
始め、2010年に31歳で遅咲きの新人デビューを果たす。



デビュー・アルバム「Seasons of My Soul」はプラチナディスクを獲得。
メディアでも絶賛され、翌2011年にはイギリス最大の音楽賞、ブリット・アワ
ードの最優秀新人賞、最優秀女性アーティスト賞の2部門にノミネートされた。

その歌声に魅了されたバート・バカラックはカリフォルニアの豪邸に彼女を招き
大統領とファーストレディの前で歌わせた。
リチャード・カーペンターも感動してルーマーに手紙を送り、エルトン・ジョン
もルーマーを絶賛し自分のステージに招いている。






ルーマーの魅力は少し気だるくアンニュイでソフトな歌声。
決して力まず張り上げない、息を吐くボサノヴァっぽい歌い方が僕の好みである。
スローかミディアムスローのゆったりした曲ばかりでリラックスして聴ける。

ケニア(1)、カレン・カーペンター、ノラ・ジョーンズが好きな人にはお薦めだ。


ポップになりすぎないフォーキーな要素は前述のように彼女の生い立ちが影響し
ているのだと思う。
ルーマーの歌には光と翳を感じるのだ。
洗練されているのだが、渇いた土の匂いもかすかに感じられる。



今回紹介するのは2015年にリリースされたルーマーの最新アルバムだが、カヴ
ー曲、アルバム未収録曲を集めたコンピレーション。

タイトルもずばり「B Sides & Rarities」。
おおっ!このブログのタイトルにもぴったりではないか(笑)



ソングリストを見ていただきたい。
(曲名の後にYouTubeのランニングタイムが記してあります)

1. Arthur's Theme (Best That You Can Do)  00:00
2. Dangerous (Bossa Nova)  03:55
3. Sailing  08:03
4. Hasbrook Heights (with Dionne Warwick)  12:31
5. Come Saturday Morning  15:56
6. It Might Be You (theme from Tootsie)  19:12
7. Moon River (live on BBC radio 2)  22:38
8. Separate Lives (with Stephen Bishop)  25:11
9. The Warmth Of The Sun  29:00
10. Alfie  32:23
11. Long Long Day  35:15
12. Soul Rebel  38:26
13. Here Comes The Sun  41:59
14. Marie  45:49
15. Frederick Douglas  48:30
16. That's All  (with Michael Feinstein live on NPR)  53:58
17. I Believe In You  (Theme from Johnny English)  57:11




↑写真をクリックすると「B Sides & Rarities」フル・アルバムが視聴できます。



1曲目の「Arthur's Theme」は1981年に大ヒットしたクリストファー・クロ
(2)の名曲で、映画「ミスター・アーサー」の主題歌。
この曲を冒頭に持ってくるところが心憎い。

2曲目の「Dangerous」は自身のヒット曲だが、新たにボサノヴァ・アレンジ
施されていてこれがまた心地いい。

3曲目の「Sailing」は再びクリストファー・クロスの大ヒットしたデビュー曲。

続く「Hasbrook Heights」は1970年代にB.J.トーマス、ディオンヌ・ワーウ
ックが歌ったいかにもバート・バカラックらしいナンバー。
ルーマーはそのディオンヌとデュエットしている。

「Come Saturday Morning」は1969年公開のライザ・ミネリ主演の映画「
くちづけ」で使用された曲でサンドパイパーズが歌っていた。
選曲がマニアックだなあ。。。

「It Might Be You」はスティーヴン・ビショップ(3)が歌った名曲(曲はデイ
・グルーシン)で1982年のダスティ・ホフマン主演映画「トッツィー」主題歌。
いい曲が続きます。。。

「Moon River」はヘンリー・マンシーニの名曲中の名曲で、1961年の映画「
ィファニーで朝食を」の主題歌。
オードリー・ヘプバーンの味のあるヘタウマ歌唱には及ばないものの、ジャジー
な雰囲気は悪くない。BBCラジオのライブ・レコーディング。

「Separate Lives」はスティーヴン・ビショップの曲。
フィル・コリンズとマリリン・マーティンのデュエットが1985年公開の映画「
ホワイトナイツ/白夜」で使用された。
スティーヴン・ビショップとルーマーのライブ・ヴァージョンが聴ける。

とろけてしまいそうな「The Warmth Of The Sun」はビーチボーイズの19
64年の名曲。ブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴ共作の美しい曲。

「Alfie」は1966年の映画「アルフィー」の主題歌。
ハル・デイヴィッド作詞・バート・バカラック作曲でシェールが歌った。
後年ディオンヌ・ワーウィック、ホイットニー・ヒューストン、ヴァネッサ・
ウイリアムズもカバーしている。
バカラック本人が「一番好きな曲」と言っている。

「Long Long Day」はポール・サイモンの曲でアルバム「One-Trick Pony」
(1980)のラストを飾るパティー・オースチンとのデュエット曲。
こんな曲を引っ張って来るなんて、やっぱりこの人はタダモノじゃない。

「Soul Rebel」はレゲエ・シンガー、ボブー・マーリーの1970年の作品。
みごとにルーマー節のスローな曲にアレンジされている。

このアルバムで僕が唯一ミソをつけるのがこの「Here Comes The Sun」
キーが低すぎるせいか抑揚のないアルトが続きメリハリがない。
アレンジも凡庸で芸がない。
そもそも選曲がベタすぎると思う。
ジョージ・ハリソンの楽曲をやるなら「If I Needed Someone」をアコーステ
ック・ギターだけでスローで歌うとか、「You Like Me Too Much」や「I 
Need You」をボサノヴァ風にするとか、もっとやりようがあったのではないか。
「The Inner Light」をルーマー流の料理で聴かせることもできたはずだ。

「Marie」はランディ・ニューマン(4)による1974年の作品。
ルーマーのカヴァーの方が僕は好きだ。

「Frederick Douglas」は彼女のオリジナル曲のようだが、これまでシングル
アルバムに収録された形跡がない。このトラック=レアということだろう。
歌われているフレデリック・ダグラスは19世紀終わりの奴隷制廃止論を唱えた
アフリカ系アメリカ人の活動家。
ゴスペル調のかけ合いコーラスで静かに盛り上げる曲である。

「That’s all」は1957年にナット・キング・コールが歌ったバラードの名作。
フランク・シナトラ、サム・クック、サラ・ヴォーン、メル・トーメ、コニー
・フランシスなど多くのシンガーがカヴァーしている。
ここに収録されているのはNPR(たぶんストリーミング放送局)でのライブで、
ジャズ・シンガーのマイケル・ファインスタイン(5)とのデュエット。

ラストを飾る「I Believe In You」は僕の一番のお気に入りだ。
彼女のオリジナル曲で2011年の映画「ジョニー・イングリッシュ 気休めの
報酬」(6) のエンディング・テーマに使用された。
この映画はミスター・ビーンでおなじみのローワン・アトキンソン主演の英国
のスパイコメディ映画なのだが、007シリーズのパロディーてんこ盛りである。
最後に流れるルーマーの「I Believe In You」は、ナンシー・シナトラが歌った
「007は二度死ぬ」の主題歌「You Only Live Twice」を彷彿させる。







アーティストはオリジナル作品はもちろんだが、むしろカヴァーでその力量が
問われるのではないか、と僕は思っている。

ビートルズやローリングストーンズがいい例だ。
彼らがカヴァーした楽曲はオリジナルを凌駕するくらいの出来だ。
いまだに「Please Mr. Postman」はビートルズの曲と信じてる人だっている。

そういう意味でルーマーは期待できるシンガーだと思う。


<脚注>

(1)ケニア 
ブラジル出身のアメリカの女性シンガー。
1987年「Initial Thrill」でデビュー。
アストリッド・ジルベルトのボサノバ風、フローラ・プリムのラテン風、ジャ
ーデーやヴィクター・ラズロに通ずるヨーロピアン・ジャズ風といろいろな
要素を持つ。
ふわりとしたブラジリアン風味と都会的なクールな味付けが魅力だった。
力まず息を吐くような穏やかな歌い方はルーマーに通ずるものがある。


(2)クリストファー・クロス
1979年アルバム「Christopher Cross」でデビュー。
グラミー賞の五部門を独占するヒットとなった。
ハイトーンボイスで一躍AORを代表するシンガーとなる。
ジャケットのグリーンのバックにピンクのフラミンゴがトレードマークになり、
デビュー時は本人が姿を現さなかった。

1981年には映画「ミスター・アーサー」の主題歌「ニューヨーク・シティ・
セレナーデ(Arthur's Theme (Best That You Can Do))」でアカデミー歌曲賞
を受賞。
ビルボード誌週間ランキング第1位を獲得するヒットとなった。


(3)スティーヴン・ビショップ
1976年にアルバム「Careless」でデビュー。
澄んだ甘いハイトーンの声はミスター・ロマンスとも評され、AORを代表する
シンガー・ソングライターとなった。
このアルバムではラリー・カールトン、リー・リトナー、ジェイ・グレイドン、
1978年の「Bish」ではマイケル・センベロ、レイ・パーカー、デイヴィッド・
フォスター、グレッグ・フィリンゲインズ、スティーヴ・ポーカロなど1980年
代のAORサウンドを先取りした豪華なミュージシャンが結集している。


(4)ランディ・ニューマン
アメリカのシンガーソングライター。
ハーパース・ビザール、ヴァン・ダイク・パークスに曲を提供。
1970年代は自身のアルバムを発表していたが、1980年代以降はサウンドトラ
ックの制作がメインとなっていく。
「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」などピクサー作品の多くに
楽曲を提供している。


(5)マイケル・ファインスタイン
アメリカのポピュラー・ミュージック/ジャズ歌手、ピアニスト。
甘いマスクの小粋なキャバレー・シンガーとして知られる。


(6)「ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬」
原題:Johnny English Reborn。2011年のイギリスのスパイコメディ映画。
2003年に公開の「ジョニー・イングリッシュ」の続編。
イギリスの諜報機関MI7に所属するドジな諜報員ジョニー・イングリッシュ
をローワン・アトキンソンが演じている。
日本でのキャッチコピーは「どんな作戦もすべて不可能にする男!!」。


<参考資料:ワーナーミュージック・ジャパン、Amazon、Wikipedia>

0 件のコメント:

コメントを投稿