リミックスしたホワイト・アルバム2018リミックスは何が変わったのか?
楽器とボーカル、コーラスの定位置を改め、ベースやドラムなど低音部を充実させ、
音圧と音質も改良し、今の時代に通用する聴きやすい音になっている。
ビートルズの音楽自体はいつまでも斬新だが、当時のミックスはその時代には即し
ていたものの、今聴くと不自然さを感じる。
今ならミックスダウン前のテープに遡って、最新の技術で音をより鮮明にした上で、
今聴いても違和感のない新しいミックスを作ることが可能だ。
ジャイルズ・マーティンとサム・オケルは全く別物を目指したわけではない。
むしろ当時スタジオでビートルズが出していた音をいかに忠実に再現できるか、
このアルバムの直感的でパワフルな音作り、バンドの一体感を余すことなく表現
することに力点を置いている。
当時ジェフ・エメリックやケン・スコットが使ったフェアチャイルドのコンプレッ
サー、EMIのエンジニアが改造したアルテックのコンプレッサー、当時スタジオに
あった真空管プリアンプ搭載のミキシング卓など、アビーロード・スタジオに現存
する昔の機材を使用したそうだ。
↑リミックスのメイキング映像、ジャイルズ・マーティンのインタビューが視聴できます。
以下、2009リマスターは緑、2018リミックスについては赤字で表記。
(あくまでも主観で、プロの音楽評論家の方のレビューとは違うと思います)
アルバムの1曲目、バック・イン・ザ・U.S.S.Rから3曲目のグラス・オニオン
までが今回のリミックスの聴きどころの一つだと思う。
ホワイト・アルバムのレコーディングは5月30日のレボリューション1で
始まり、10月13日のジュリア、翌日サボイ・トラッフルのオーバータブで
終了している。
バック・イン・ザ・U.S.S.R.はセッション中盤の8月22〜23日に録音された。
ポールの注文の多さに嫌気がさしたリンゴは非公式に脱退。
セッションは続行され、ポールがドラムを叩いた。
ポールのドラムはなかなかのグルーヴ感。何をやらせてもセンスがいいなあ。
ビートルズ研究の第一人者マーク・ルイソンによると「この曲ではジョン、
ポール、ジョージの3人がドラムを叩いている」とされている。
しかし今回のアウトテイク集に収録されたテイク5を聴くと、その説は間違っ
ていると思う。
曲が始まる前に左チャンネルからジョージが歌いながら2・4拍だけスネアを
叩いているのが確認できる。
センターから聴こえるポールのドラムの補強だと思う。
ジョンが弾いてるのはフェンダーの6弦ベースだろう。コード弾きもしている。
1:15でジョンとジョージが裏拍でC7を刻む所、サビでジョージが♪♪♪とC7とG7
を刻み、Cから半音下降していく所、2:48のブレイクでジョンがギュンギュンと
鳴らすのがめちゃくちゃカッコいい。
このテイクではキーがGだが、完成形はA。テンポもアップされている。
(なので上述のC7→D7、G→A7、半音下降はDからになる)
残念ながらこのアウトテイクはYouTubeにアップされてたが今は消えている。
さて、完成形を聴き比べてみよう。
2009リマスターでは飛行機のSEが右から左へ移動し、曲間もずっと左で鳴り、
最後に中央に移動する。
ポールのボーカル(一部ダブルトラック)、ブレイクのBack U.S.〜のリフレイン
で入るハモり、手拍子がセンター。
ビーチボーイズ風コーラスはファルセットも低音部もまとめてセンターでこもって
いて分離感が悪い。
各楽器は左右泣き別れ。
左からジョンの6弦ベース、ジョージが叩くスネア。
右にポールのドラム、ピアノ、ジョージのギターが配されているが、ジョージの
演奏は後半の鋭角的なリフが冴え渡るが、下降ラインなどは抑えめ。
2018リミックスでは飛行機のSEがよりクリアになった。
イントロで右から左へ、曲間ではほとんど左端で鳴る。鮮明だが邪魔にならない。
最後は右から左へ移動。
ポールのドラムがセンターでどっしり構え図太く鳴り存在感が大きくなった。
イントロのドンドコドコドン(0’15”)タムのフィルイン(0’27”)スネア連打(0’33”)、
サビのバスタムのフィルイン(1’10”、1’20”)最後のヴァース前のバスタムのフィルイン
(2’01”)は心憎い。
ジョージのスネアはやや中央より。ポールの演奏と一体化し目立たなくなった。
ボーカルはセンターでダブルトラック。ハモりはやや左で揺れ感があって良い。
ビーチボーイズ風コーラスは左右に広がり美しい。はっきり聴き取れる。
曲の終盤のポールのシャウトもはっきり聴こえる。これは嬉しい。
左からはジョンの6弦ベース、ジョージのギターは右で以前より音が鮮明。
その分、ポールのピアノが前よりおとなしくなった。
ジョージの間奏のみセンター。手拍子は左右に振られステレオ感が出た。
↑クリックするとバック・イン・ザ・U.S.S.R. 2018ミックスが聴けます。
2曲目のディア・プルーデンスはバック・イン・ザ・U.S.S.R.の次に録音された。
8月28〜29日、場所をトライデント・スタジオに移す。
8トラックのレコーダーを使いたかったためか。(EMIには8トラックがなかった)
この曲もリンゴ不在のまま。ポールがドラムを担当。
Won’t you let me see your simile〜のヴァースのドラミングはリンゴっぽい。
ジョンはドロップDチューニング(6弦のみ1音下げる)でドローン効果をうまく
活かしながら、ドノヴァン直伝のフィンガーピッキングを正確に弾いている。
まったく同じ演奏を2回弾き重ねている。ジョージが効果的なオブリを入れた。
8月28日作り込んだテイク1(アウトテイクに収録)に翌29日、ポールのベース、
ジョンのボーカル(2回)、コーラス、オルガン、手拍子、タンバリンをオーバ
ーダブして完成。
2009リマスターではジョンのフィンガーピッキングは2回分ともまとめて右。
ポールのメロディアスなベース、タンバリンが左。
ジョンのボーカルはセンター。コーラスはやや左。
ブリッジのLook around, round〜のコーラスは左右に広がる。
ジョージのギターが左側に、終盤でセンターにオルガンが加わる。
2018リミックスではがらりと印象が変わった。
ジョンのフィンガーピッキングのエレキが左右に広がりステレオ感が出た。
(ギター、ボーカル、ドラムだけのアウトテイクを聴くと、実際にジョンは2回
弾いているのが分かる)
ドラムはベースとともにセンターで力強く前に出てくるようになった。
タンバリンはセンターでだいぶ引っ込んだ印象(この方がいい)。
Ah….Look around, roundが左右、センターめいっぱい広がり美しく響く。
左からジョージのオブリ、右にオルガンと厚みが出て、ジョンのフィンガー
ピッキングは後退するが、最後のWon’t you come out to playで再度イントロ
と同じフレーズのフィンガーピッキングへ。(2009リマスターより少し長い)
↑クリックするとディア・プルーデンス2018ミックスが聴けます。
ジョンは前年に1965年製マーティンD-28を購入しているが、ホワイト・アルバム
で使用したアコースティック・ギターはJ-160Eである。
ジョンの1964年製J-160Eは前年にサイケデリック・ペイントが施され、1968年
に塗装が剥がされナチュラルにされた。(エピフォン・カジノも同様)
写真でジョンが弾いてるJ-160Eはジョージの1963年製を借用しているのだろう。
この間、ジョンのJ-160Eはちょうど塗装を剥がすため預けていたのかもしれない。
セッションの後半ではジョンがナチュラルのJ-160Eを弾いてる姿も確認できる。
3曲目のグラス・オニオンは9月11日にドラム、ベース、アコギ、エレキのシン
プルな編成でリズムトラックを34テイク録音。テイク33クがベストとなる。
(この1週間前やっとアビーロード・スタジオに8トラックが導入された)
翌日からジョンのボーカル、リンゴのタンバリン、ポールがピアノとリコーダー
(Fool on the Hillの部分に同じフレーズを入れた)をオーバータブ。
休暇から復帰したジョージ・マーティンの提案でストリングスを入れることに
なり、10月10日にストリングスをオーバーダブ。
2009リマスターではジョンのボーカル、ストリングスがセンター。
ポールのベースは左でゴリゴリ鳴る。
ジョージのエッジの効いたカッティングはやや左、ジョンのアコースティック
ギターはやや右、ドラムとタンバリンが右に配されていた。
この曲も2018リミックスでかなりと印象が変わった。
冒頭のスタンスタンと叩きつけるスネアの音がセンターから左右に広がる。
ジョンのボーカル(艶が出た)とポールのゴリゴリ・ベースはセンター。
ドラムもセンターだがスネアの音は立体感が出てトップシンバルは右で鳴る。
ジョージのカッティングが左で鋭く鳴る。リコーダーとタンバリンは右。
ストリングスが左から攻めるように広がる。前より分離が良くなった。
アウトテイク集ではテイク10でこの曲を練り上げていく過程が聴ける。
↑クリックするとグラス・オニオン2018ミックスが聴けます。
以上の3曲はぜひ2018リミックスで聴いて欲しい。
4曲目のオブラディ・オブラダは遡り7月3日から47テイクかけて録音した。
完璧主義者のポールは納得できず、何度もリメイク、リダクション、オーバー
ダブを繰り返し、みんなをうんざりさせる。
この能天気な曲を嫌ったジョンが苛々しながら「こんな曲こうしてやる」と
叩きつけるように弾いたコードがイントロとして採用された。
7月15日ポールはボーカルを録り直す。
この時アドヴァイスをしたジョージ・マーティンにポールが「じゃあ、あんたが
ここに来てやってみろ」と暴言を吐く。
ジェフ・エメリックが険悪な空気に耐えきれず退席。
以降アシスタントのケン・スコットがエンジニアを務めることになった。
レコーディングが長期化し体力的・精神的に疲れたジョージ・マーティンは休暇を
取り、アシスタント・プロデューサーのクリス・トーマス(1)に委ねた。
クリス・トーマスはポールに「お前は誰だ?俺たちをプロデュースできるのか、
やれるならやってみろ」と言われ、ビビったそうだ。
一度音が合ってないと指摘すると、4人が階段を上がりモニタールームで確認。
次に同じようなことがあったが、もう来なくなった。
その日の作業が終わりにポールから「明日も来たかったら来てもいい」と言われ、
クリス・トーマスは胸を撫で下ろしたそうだ。
2009リマスターでは演奏はほとんどセンターでだんご状態。
ポールのボーカルのダブルトラック、コーラス、拍手が左右から聴こえる。
2018リミックスもそれを踏襲してるが、各楽器、コーラスの音像がクリア。
最後のOb-La-Di, Ob-La-Daはユニゾンと思いきや、3度上でハモってるのが
確認できるようになった。ポールのベース、リンゴのドラムも力強い。
ワイルド・ハニー・パイは8月20日ポールが一人で多重録音。
ジョージはギリシャ旅行で不在で、ジョンとリンゴは別なスタジオでヤー・ブル
ース、レボリューション9の仕上げにかかっていた。
ホワイト・アルバムではこうした4人揃わない、また誰かの単独の作業が増えた。
2009リマスターではボーカルも演奏も左右に分かれセンター抜け状態。
2018リミックスも基本的に同じだが、よりセンターに寄せられ鮮明になった。
ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロー・ビルは10月8日に
録音され、ベーシックトラックは3テイクで終了。
クリス・トーマスがメロトロンを弾き、ヨーコが歌詞の一節を歌い、リンゴの
妻モーリンもコーラスに参加した。
2009リマスターはジョンのボーカルとポールのベースがセンター。
ドラムとオルガンは右。アコースティックギター、ジョンの追加のヴォーカル、
タンバリンは左。コーラスは左右から聴こえる。
2018リミックスではボーカル、ベースと+ドラムがセンターの王道ミックス。
アコギとジョンの追加ヴォーカルは左からややセンター寄り。タンバリンは左。
右のマンドリン?が聴きやすくなった。オルガンも右寄り。
Hey Bungalow Billのリフレインが左右からセンター寄りに修正された。
ヨーコの声が以前より大きくなった?気がする。
最後のヴァースのヨーコのNot when he looked so fierceはセンターから右よりに
移され「母親が横から口を挟んでいる」感が出た。
アウトテイクとして収録されたテイク2は、ジョンとヨーコ、ジョージ(アコギ
を弾いてたのはジョンではなくジョージだった)、リンゴのシンプルな編成。
最後にリンゴまでBungalow Bungalow♪と楽しげに言ってるのが可笑しい。
続く「あの曲」は書きたいことたっぷりなので後で改めて(笑)
A面最後ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガンはジョンお得意の変拍子を多用
した3部構成の難しい曲。9月23〜24日に70テイクを重ねる。
翌日の25日、テイク53前半とテイク65の後半をつなぎ合わせて編集し。
ボーカルとコーラス、オルガン、ベース、タンバリン、ピアノを加え完成した。
2009リマスターはジョンのボーカルとスリーフィンガーがセンター。
4小節目からポールのベース(左)リンゴのドラム(右)、さらに5小節目でジョ
ージの切れ味いいカッティングが右に入る。
コーラス、ジョージのディストーションを効かせたリフ、タンバリンはセンター。
Happiness Isで一転してジョンのシャウト気味ボーカルは右へ移動。
コーラスは左。真ん中はピアノだけ。
2018リミックスではリンゴのドラムがセンターに移動し迫力が増す。
ポールのベースはやや左よりに修正された。ジョージのカッティングは右のまま。
最初のハモりはやや左、I need a fix ‘cos…のポールのオクターブ上のボーカル
はジョンと一緒にセンター。
Mother superior…で入るタンバリンは中央でやや引っ込んだ(この方がいい)。
Happiness Is…でジョンのボーカルが右に移りコーラスが左へ。(違和感がある)
が、When I hold you でジョンの声はセンターに戻る。コーラスは左右に広がる。
リンゴのドラムがずっと中央でどっしり構え、最後のバスドラも収まりがいい。
右からベースとユニゾンで鳴るギター?エンディング前、ジョージのリフが聴ける。
ジョンのボーカルはずっとセンターの方がいいのに。あとピアノはどこに行った?
続いてB面へ。
マーサ・マイ・ディアは10月4日トライデント・スタジオで録音された。
ポールの単独作業と言われていたが、アウトテイクに収録されたブラスとストリング
ス抜きのテイクではしっかりジョージのギターとリンゴのドラムが入っている。
写真でも一緒に弾いてるジョージ、待機してるホーン・セクションが確認できる。
ジョンは不在。ポールのベースとストリングスもその日のうちに録音された。
↑マーサ・マイ・ディア(ブラスとストリングス抜き)が聴けます。
2009リマスターは左ch.のポールのピアノで始まる。右ch.のヒスノイズが目立つ。
ポールのボーカル(ADT)はセンター、歌メロと同じストリングスは左。
Hold your head up…から入るブラスは右。
1’00”〜Take a good look around youで入るドラムとベースはセンター、ジョージ
のギターはセンターからやや左に配されている。
間奏のトランペットは右。手拍子は真ん中。
2018リミックスではポールのピアノは左だがやや中央よりに修整され、高音部は
右に流れるようになりステレオ感が出た。右ch.のヒスノイズは完全に消えた。
さらにストリングスが右に配されたことで美しい広がりが出た。
ブラスとベース、リンゴのドラム、ジョージのギターはセンターへ。
各楽器の音像が鮮明なのでそれぞれ干渉することなく聴こえる。
間奏のトランペットは右から中央に響き、これも美しい。手拍子は左右へ。
2回目のHold your head up…で入るオルガンは右からやや中央に寄せられた。
この曲も2018リミックスの圧勝だろう。
次のアイム・ソー・タイアードはバンガロー・ビルと同じ10月8日に録音された。
いいグルーヴ感が出てる。分裂し始めたグループとは思えない。
ビートルズ本来のバンド・アンサンブル、ジョンとポールのハモりなど、原点に
立ち戻る意図がくみ取れる。
8トラックレコーダーで14テイク録音。オーバーダビングを施し完成。
一度もリダクションを行わず終了。
2009リマスターはセンターにジョンのボーカルとギター、オルガン。
左にポールのゴリゴリ鳴るベースとリンゴのドラム、右にジョージのギター(これが
絶妙)、アンソロジー3で聴けたジョージのオブリも実は中央に薄く入っている。
2018リミックスもこれを踏襲しているが全体にセンターに寄せられ、バンドの一体
感が増した。ジョージのちょっと残念なオブリ(笑)はほとんど聴こえなくなった。
曲の最後、Monsieur, monsieur, monsieur, how about another one?というジョン
のモノローグの後にpriと小さな女の子のような声が入っていたのが無くなり、その
分ジョンのモノローグが長くなった。
アウトテイクとして収録されたテイク7は既に完成に近い。ジョンが「今のいいよね、
録っておこう、捨てないで(If you think it was good, keep it, don’t scrap it)と
言ってるのが聴ける。
テイク14はI wonder should I get upでAh…というコーラスが入る。
アンソロジー3ヴァージョンと同じジョージのオブリも聴ける。
こうやっていろいろ試してみた結果、シンプルな形に落ち着いたのだろう。
↑クリックするとアイム・ソー・タイアド テイク14が聴けます。
ポールの弾き語り、ブラックバード(2)は6月11日に録音。ポールの単独作業。
第2スタジオで録音。(第3スタジオでジョンがレボリューション9を仕上げ中)
32テイクの中から最後のテイクが採用された。
ジェフ・エメリックはスタジオ地下のエコーチェンバー室で録音したと証言。
ポールのボーカル、ギター、足元にそれぞれマイクをセット。
鳥の声はSEだが、エコーチェンバー室の窓から聴こえる鳥の声も混ざっている。
ポールは前年に入手した1966年製マーティンD-28を使用。
2009リマスターはポールのボーカルと鳥のSEが中央、足音が左、ギターは右。
2018リミックスも同じだが全体にセンター寄りでふっくらした鳴りになった。
コーラス部のBlackbird flyでギターが右ch.から左に広がるが、実は2009リマスター
もそうなのだがほとんど目立たなかった。ギターは2回弾いたのか?ADT処理か?
アウトテイクのテイク28では中断し、誰か女性に話しかけている。
アップルのプロモ用ビデオでポールがこの曲を演奏しているシーンがあるが、
スタジオの隅にスタッフらしき女性も映っているのでたぶんこの人だろう。
(アンソロジー3に収録されたのはテイク4)
ピッギーズは9月19日に録音。
第1スタジオにあったハープシコードを第2スタジオ持ち込もうとするが、ケン・
スコットに怒られ、第1スタジオで録音することにした。
この日ジョージはハープシコードをいじってるうちに「サムシング」を披露。
クリス・トーマスは美しい曲だと感心し、この曲がいい、こっちを先にやろうと
提案するが、ジョージは「いや、これはジャッキー・ロマックスにあげるんだ。
ピッギーズを仕上げる」と譲らなかった。(3)
ジョージのアコギ、ポールのベース、リンゴのバスドラとタンバリン、トーマス
のハープシコードという編成で11テイク録音し、最後のをベストテイクと判断。
この日ポールがレット・イット・ビーの原型(アウトテイクに収録)を披露した。
翌20日にオーバーダブを加える。ジョンが作った豚の鳴き声のループも録音。
オーケストラのオーバーダブは10月10日行われた。(グラス・オニオンも)
2009リマスターはジョージのボーカルとハプシコードがセンター。
ベースとタンバリンは左、アコースティックギターとストリングスは右。
2018リミックスも大きな移動はないが、ジョージの声が艶っぽく前に出た。
ダブルトラックの部分は軽く左右にずらしてある。
最後のヴァースのハモりも左右に広がり重厚さが増した。
ロッキー・ラックーンはポールのラグタイム調トーキング・ブルースだ。
8月15日にポールのアコギとボーカル、6弦ベース(ジョンかジョージ)、リンゴ
のドラムで9テイク録音。
最後のテイクにジョンのハーモニカ、ジョージ・マーティンのピアノソロ、ジョン
とジョージのバックコーラス、ポールのベース、ハーモニウムやパーカッションを
オーバーダブして完了。
2009リマスターはポールのボーカルはセンター。アコギは右。
左からはリンゴのドラム、フェンダー6弦ベースはジョージだと思われる。
ジョンのハーモニカはやや右。実にシンプルな演奏だ。
ジョージ・マーティンのラグタイム・ピアノ、アコーディオン、コーラスは
オーバータブでやや右に配されている。
2018リミックスはポールのボーカルは中央。アコギは右でやや中央寄りに修整。
ドラムは左でやや中央寄り。
ベースも同じく左でやや中央寄りだが部分的にセンターでも鳴っている。
1’15”のEveryone knew her as Nancy辺りで顕著だが、これが後からポールが
オーバーダブしたベースかもしれない。
ジョンのハーモニカは真ん中に移動。ポールの後ろで吹いている感じだ。
マーティンのピアノは右から中央に広がりラグタイムっぽい雰囲気が増した。
薄く入るアコーディオンはやや右。
終盤のコーラス隊は中央から左に広がりポールの後ろで歌ってる感が出た。
この曲も聴きどころ。シンプルな編成でもリミックスで変わるものだと感心。
ちなみにアウトテイクとして収録されたテイク8はアンソロジー収録音源と同じ
だが、今回は編集されておらず彼らが演奏を楽しんでいる様子が伝わる。
↑クリックするとロッキー・ラックーン テイク8が聴けます。
リンゴ作曲のドント・パス・ミー・バイは6月5〜6日に録音。
リダクションを繰り返したため音が悪い。1ヶ月後にフィドルが加えられた。
イントロに使う予定で7月22日にオーケストラ小曲「In The Beginning」が
録音されたがボツになった。(アンソロジー3と今回アウトテイクに収録)。
2009リマスターはボーカル以外の演奏は典型的な左右泣き別れ。
2018リミックスでは左右からセンター寄りに修整。
左と中央で鳴るリンゴの多彩なドラミング(2回叩いた)が味わえる。
ホワイ・ドント・ウィー・ドゥー・イット・イン・ザ・ロードは10月9日着手。
第2スタジオでバンガロー・ビルのミキシングが行なわれている間、ポールが
第1スタジオでアコギと歌だけで録音。ピアノをオーバーダブする。
翌10日、第2スタジオでピッギーズのストリングスが録音されている間、ポール
はリンゴを伴って第3スタジオへ。
ボーカル、手拍子、ベース、エレキ、リンゴのドラムをオーバーダブ。
2009リマスターは音が硬質でガサツ。ポールの荒々しい声もちょっと耳障り。
左にドラムとベース、右にピアノとポールのエレキギターが固まっている。
2018リミックスではドラムやベースの音にふくよかさが出た。
ポールのボーカルもトゲトゲ感が後退し聴きやすい。
ポールが重ねたエレキのアルペジオはセンターに移りピアノの被らなくなった。
アウトテイクとして収録されたテイク18はポールによるアコギ弾き語り。
歌い終えたポールが「いいかい?これはこれでお終いにしよう。でもマイクを
ピアノの近くに移さなきゃね」と言っている。
(アンソロジー3収録はテイク4)
アイ・ウィルは9月16日、ジョージ不在のセッションで録音された。
ジョンは金属片を木片で叩いてパーカッション代わりにし、リンゴはマラカス、
ウッドブロックとシンバル、ポールはアコースティック・ギターという編成。
ポールはアコギを持つと脱線してアドリブで歌い出す奇行(笑)があるらしい。
テイク19終わりに歌い出したCan you take me back where I came from
…の一部はジョンのクライ・ベイビー・クライのエンディングに使用された。
テイク35でまた脱線。
シラ・ブラックに提供したステップ・インサイド・ラブを歌い、ジョンが突然
口にしたロス・パラノイアスというお題に答え、笑いながら即興曲を披露。
(アンソロジー3に収録。今回のアウトテイク集にも収録された)
アイ・ウィルのコード進行で即興でThe Way You Look Tonightも披露。
シナトラ、ペギー・リー、ビリー・ホリデーの歌唱で知られるが、ポールは
その場でアイ・ウィルのコード進行でフォークロック調に口ずさんでいる。
こういうの、この人の名人芸ですね。そのままアイ・ウィルにもつれ込むの
だが、残念ながら今回のアウトテイクには収録されず。
またアイ・ウィルのコード進行でシナトラやエルヴィスでお馴染みのブルー・
ムーンをテキトーに歌って笑い出す。
これは今回のアウトテイク集で初披露された。
テイク13とテイク29(ポールがIf you want,I won’tとふざけ、すかさずジョン
がYes,you willと返している)も初めての音源だ。
(ちなみにアンソロジー3に収録されたのはテイク1)
とても緊迫した関係とは思えない和やかなムードで67テイクも重ねる。
テイク65がベストに選ばれ、翌日ポールのコーラス、スキャット・ベース(
声でベース・ラインを歌い回転を下げオクターブ低くしている)、アコギの
オブリが追加録音された。
2009リマスターはセンターにポールのボーカルとサビのハモり。
左にアコギとパーカッション、右にスキャット・ベース。
アコギのオブリは中央よりやや右に配されている。本当に美しい曲だ。
2018リミックスではアコギがボーカルと一緒にセンターに移動。
弾き語り感が出た。アコギのオブリは中央よりやや右のまま。
左のパーカッション、右のスキャット・ベースはやや中央寄りに。
サビのハモりはやや右にずれメインボーカルときれいな広がりが出た。
↑クリックするとアイ・ウィル2018ミックスが聴けます。
1枚目、B面最後のジュリアはアルバム・セッションで最後の録音曲。
10月13日、ジョン単独の作業。アコギで3テイク録音。
コントロール・ルームにはポールがいてやりとりをしてる。
テイク3にもう一度同じ演奏のギターとボーカルを重ねて終了。
2009リマスターではジョンのボーカルはセンター。
ギターは右から聴こえ、もう1台が左に入って来てステレオ感が出る。
2018リミックスもほぼ同じ定位だがギターは左右ともに少しセンター寄り。
ギターの音色もジョンの声も艶が増してますます美しくなった。
アウトテイクではジョンがコードストロークで歌い、スリーフィンガーで
歌う2つのリハーサルが収録された。
<脚注>
(1)クリス・トーマス
ジョージ・マーティンのアシスタント・プロデューサーとしてホワイト・アル
バムの制作に携わる。
以降、プロコルハルム、ピンクフロイド、ロキシーミュージック、セックス
ピストルズ、ポール・マッカートニー、プリテンダーズ、ピート・タウンゼント、
エルトン・ジョン、U2、などのプロデュースを行う。
クリスは片耳の聴力が極端に弱いそうで、彼の手がけた作品はステレオ感が希薄。
反面すべての音が中音域に密集してパンチの効いた音響処理が特徴である。
(2)ブラックバード
女性を鳥になぞらえて、傷ついた翼のまま夜の闇の中にある光を目指し飛んでゆく
と描写。ポールは「黒人女性の人権擁護や解放について歌った内容」と言っている。
日本では単にツグミと訳されることが多い。
英国では「Blackbird」はツグミ科のクロウタドリという鳥のことを指す。
(3)サムシング
ジャッキー・ロマックスはサワー・ミルクシー・を歌うことになった。
サムシングはジョー・コッカーにあげた。
アビーロードでジョージ自身がカヴァーしている。
<参考資料:THE BEATLES RECORDING SESSIONS、RollingStone、
PHILE WEB AUDIO、AV Watch、THE BEATLES 楽曲データベース、
ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実 - ジェフ・エメリック、
Song To Soul、他>
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