2019年7月27日土曜日

ビートルズ完コピ呪縛から逃れ弾き語りしてみる(1)

<ビートルズ完コピ願望>

高校に入ってギターを始めた。最初はFやE♭が難関だ(よね?)
なんてったってビートルズを弾きたい!

新興楽譜出版の「ビートルズ80」という楽譜集を買ってみた。
歌メロの譜面にコードダイアグラムが記載されてあるタイプのだ。


しかしその通り弾いてもビートルズっぽくならない。歌メロは合っているのに。

おそらく音大出の人とかに原曲を聴かせて、歌メロに合ったコードをアサイン
しているのだろう。
曲によってはキーも違う。これも日本人でも歌いやすくという配慮か。



いやいや、ビートルズはそういうふうに弾いてないでしょ!

彼らはセオリー通りのコードを選んでるのではなく、自分たちの好きな和音の響き、
多少強引でも斬新なコード進行、思いがけない効果を狙ってるのだから。



そして耳コピを始めた。最初はなかなか分からなかった。
映画を見て、そんなことをやってたのか!と目から鱗だったことも多い。

やってるうちにジョン、ポール、ジョージの手癖も分かってくる。
いわゆる「ビートル・コード」という押さえ方があるのだ。


You've Got To Hide Your Love Away(Lennon-McCartney)を例に挙げよう。

                                                   

出だしのローコードのGで2弦開放のBではなく3フレットを押さえてDにしている点、
その後Dsus4→F9→C→Gと常に1弦3フレットのGを8小節までキープし続けている
に注目していただきたい。

9〜10小節のD→D on C→D on B→D on Aとルート音がクリシェで下降するのも、
ジョンの得意技だ。


この曲はジョンのコード使いの妙、ストローク感さえ覚えれば、ほとんどの人が
オリジナルキーのままで歌える。
ギター一本でもサマになるし、カヴァーしやすいナンバーと言えるだろう。




が、いかんせんビートルズの曲は大概キーが高い。高すぎる。
ジョンとポールがユニゾンの部分も歌ってて苦しいが、ジョンが下でポールが上で
ハモる時のポールの高音部はもうお手上げだ。

ポールは高音部でもか細くならず、リトル・リチャード顔負けのシャウトができる。
かと思うとファルセットへの切り替えも上手い。
バラードでは美しいベルベット・ボイス、カントリー調のトーキングブルース(これ
も日本人にはなかなか真似できない)もお得意だ。

つまり演奏を完コピしたところで歌は無理。歌うな、ということですな(笑)



1980年代後半〜今まで聴いたことないようなビートルズのアウトテイクやデモ音源
が良質なブートCD化され出回るようになった。
曲の初期段階やオーバーダブする前の音源は、バッキングでどういう弾き方をしてる
のか、よく聴き取れる。耳コピの精度は上がった


加えて機材の進化
リズムプログラマーがあればリンゴ役を探さなくても、打ち込みでビートルズっぽい
ドラム演奏もできてしまう。

安価なカセットの4TR・MTRでも1回くらいのバウンス(ピンポン)なら使える。
1996年にはMD4式の4TRデジタルMTRが登場した。
これによってバウンス(ピンポン)を繰り返しても、ベーシックトラックは従来ほど
退行して聴こえない。
コピペもできるし、パンチイン・アウトも不自然じゃなくなった。

音源モジュールとMIDIでつなげばデジタルピアノはどんな音でも出せるし、スピード
は維持したままキーを変えることだってできる。

 



1990年代後半は機材の恩恵で、だいぶビートルズに近いオケができるようになった。
しかーし、ボーカルで一気にクオリティが落ちてしまう⤵︎のだ。
そもそも歌唱力がトホホだし。



近年は多重録音でそこそこの演奏に下手な歌を乗せて台無しにするのはもう諦め、
1音下げたギター一本で鼻歌ビートルズで楽しんでいる。

それでもBlackbird、Mother’s Nature’s Son、Her Majesty、I Wll、 I Me Mine、
Across The Universe、I’m Only Sleeping、Cry Baby Cry、 Revolution No.1…

どれも完コピしたギターで、気分だけビートルズで歌う。





何も完コピしなくても僕たちなりにやればいいじゃないですか、という人もいる。

僕は言い返す。僕たちなりができるのは上手でその人固有のものを持っている人だけ。
僕らのような下手な人間はオリジナルにどこまで近づけることができるか、少しでも
ビートルズの出してる音を解きあかせればそこに達成感があるんですよ、と。
少なくとも僕には「僕なりのビートルズ」はない。ビートルズ追求で精一杯だ。


もちろん世界中の一流アーティストたちがビートルズをカヴァーしている。
が、僕にとってはオリジナルを凌駕するようなものはほとんどない。
シナトラやエルヴィスがSomethingを歌ってもそれほどいいとは思わない。

ギャロッピング・スタイルの独自のギター・インストゥルメンタルに昇華させている
チェット・アトキンスのビートル・メドレーは大好きだけど。






<ビートルズを違う解釈で弾き語り〜の☆☆☆例>

ビートルズに関してはコンサヴァでオリジナルに勝るカヴァーなしと思ってる僕だが、
中にはこの弾き語りはクールだなー、こういう解釈もあるのか、と感心する例もある。

その3つの例をご紹介しよう。
僕も実際にそのカヴァーをコピーして譜面にしてみた。キーも無理なく歌える。
それぞれコード進行も一部歌詞も変えて、自分流ビートルズに仕立て直しているところ
がうまいと思う。



僕の一押しはベン・テイラーの I Will だ。
ベンはジェイムス・テイラーとカーリー・サイモンの息子である。
地味な存在だが、ジェイムス・テイラー直系の声質や歌い方、ギターの弾き方を受け
継ぐユニークなシンガー&ソングライターだ。

この I Wll は1995年に映画「Bye Bye, Love」挿入歌として録音され、同映画のOST
に収録されている。彼のソロ・アルバムには入っていない。
ベンはまだ18歳で初々しい。なかなかのイケメンである。(近年はそうでもない)


↑クリックするとBen Taylor - I Willが聴けます。
※プロモーション・ビデオ版はOSTとギターの弾き方がところどころ違う。
また最後のFOもプロモーション・ビデオ編の方が長い。


コード進行を独自の解釈で変えてしまっているところが耳新しく感じる



ビートルズ版 I Will はキーがF。

Verse
F→Dm→Gm→C7→F→Dm→Am→F7→B♭→Am→Dm→Gm→C7→F→(F7)

Bridge
B♭→Am→Dm→Gm→C7→Fmaj7→B♭→Am→Dm→G→C7

※Chorus部のFmaj7とGはポールならではの隠し味(エンデイング近くのD♭7も)


上記の実音表記を度数表記(ディグリーネーム)にしてみよう。
キーのトニック(この場合はF)からの度数、役割、コード進行が理解しやすい。
別なキーに転調されていても、応用が利くというメリットがある。

Verse
I→VIm→IIm→V7→I→ VIm→IIIm→I7→IV♭→IIIm→VIm→IIm→V7→I→(I7)

Bridge
IV♭→IIIm→VIm→IIm→V7→I maj7→IV♭→IIIm→IVm→II→V7



ベン・テイラー版の I Will 。キーはB。2フレットにカポでAを弾く。

※PVではギブソン・ハミングバードの4フレットにカポをして弾いている。
これは以下の理由からだと思われる。

1) クルーソンのチューナーが固く周りにくいため上がりきらない→1音下げた。
2) 緩めに合わせると低音弦の振幅が大きくなる。さらにカポをすると音が締まり、
 低音弦がよく響く(ドノヴァンもJ-45でこの方法を取っている)
3) 1960年代のギブソンはネックが細く2〜5フレットでカポをした方が弾きやすい。


ベンは父親譲りのMark Whitebook、Olsonの他、数多くのギターを所有しているが、
ギブソンのヴィンテージがお気に入りらしい。J-50も愛用している。





さて実際に弾いてるコードポジションのAをキーとしてコード進行を見てみよう。

Verse
A add9→F#m7→Gmaj7→Em7→A add9→F#m7→Gmaj7→A7→D→E7
→A add on F#→D→E7→A(A7)

Bridge
D→E7→A add9 on F#→D→E7→A maj7→D→E7→A add9 on F#→F#m7
→B7→E7


度数表記(ディグリーネーム)にしてみると。。。。

Verse
I→VIm7→VII♭maj7→Vm7→I→ VIm7→VII♭maj7 on E→I 7→IV→V7→I add9 on VI→IV→V7→I(I 7)

Bridge
IV→V7→I add9 on VI→IV→V7→I maj7→IV→V7→I add9 on VI→IV→VIm7→II 7→V7



ビートルズの I Will とはかなり違うことが分かる。
オリジナルのヴァースの最初はF→Dm→Gm→C7(I→VIm→IIm→V7)
循環コードの王道だ。


ベン・テイラーの方はA add9→F#m7→Gmaj7→Em7(I→VIm7→VII♭maj7→Vm7)。
循環コードなら3小節目でBm7→E7に行くはずだが、いきなりGmaj7で意表をつく
長年ビートルズで慣れ親しんだ耳には斬新、まさに耳からじゃなかった、目から鱗だ。


ビートルズ版サビはB♭→Am→Dm→Gm→C7→Fmaj7と哀愁の下降コード
(Fmaj7はポールらしい味付け、2回目のGmをGに変え展開を見せる裏技も最高)

対してベン・テイラーはD→E7→Aを繰り返し、F#m7→B7→E7でヴァースのAに
帰結させるドライな展開になっている。


以下TAB譜の一部を載せるので参考にしてください。


歌い方もベン・テイラーは父親譲りのJT節というか、ややぶっきら棒な歌い回し。
歌詞も一部、変えている。
最後のヴァース、And When I at last I find you は And when I finally find youに。

エンディングもビートルズ版ではポールの美しいファルセット二重唱。
Mm mm mm…..Da da da da…..で終わる(ここが高くて出ないんだよね)

ベン・テイラー版はI Willを繰り返しながらFO。(PVはOSTより長い)



そりゃビートルズの I Will は美しいけどベン・テイラー版もクールでしょ?


↑ベン・テイラー&父のJT

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