2024年1月30日火曜日

ドノヴァン幻の1973年来日公演ライブ盤がついにCDで発売!


                                                                   (写真:GettyImages)


ロック・アーティストの来日ラッシュ(1)が続く最中、1973年3月にドノヴァン

は2回目となる来日を果たす。(初来日は1970年)(2)

17日 日本武道館、19日 札幌厚生年金会館、20日 新宿厚生年金会館、22日 
名古屋市民会館、25日 大阪フェスティバルホール、26日 大阪厚生年金会館
と6回の公演を行う。



大阪での2公演が録音され、ベストテイクとされた14曲がエピックソニー(3)
から日本限定盤LP「Donovan Live In Japan 1973」として発売された。

(当初は新宿厚生年金会館で録音されたが、うまくいかなかったらしい)
おそらく日本のエピックソニーが持ちかけた企画で、日本限定ということで
米エピックも了承したのだろう。




↑カヴァーアートはビートルズ、ストーンズ、リンダ・ロンシュタット、ジェ
イムス・テイラー、イーグルスを手がけたジョン・コッシュが担当した。




レコードコレクターズのドノヴァン特集で「1960年代でその才能のほとんど
を使い果たしてしまったようで残念」と評されていた。

1971年に最高作とも評される「HMS Donovan」を発表しているので、この
評は必ずしも的確とは言えないが、1966〜1973年頃がドノヴァンの全盛期
と言ってもいいだろう。
1973年はドノヴァンの賞味期限ぎりぎり?の完熟期だったかもしれない。



ドノヴァンの魅力は、英国ならではの光と影を感じさせる独特の世界観。
吟遊詩人とも称されるベルベットのような艶のある美しい声。
そして多彩なるフィンガーピッキング(4)によるアコースティックギター。






1973年の日本公演ライヴは全てギター1本による弾き語りだった。
まさにドノヴァンの真骨頂である。じっくり味わえる。

1960年代のヒット曲、代表曲はライヴ盤に収録されていない。(5)
しかし地味ながらいい楽曲が選ばれており、聴きどころが多い。

中でも映画「ハメルンの笛吹き」で歌われた「Sailing Homeward(6)
Sadnessは絶品だ。







↓「Sailing Homeward」が聴けます。(CD音源)
https://youtu.be/_GHk6hypguA?si=SI7AELH5x6JtlFIR




<CD収録曲> は新曲

1. Hurdy Gurdy Man (1968年リリース)
2. Only the Blues ( 1973年「Cosmic Wheels」に収録される)
3. Sadness(1974年「7-Tease」に収録される)
4. A Working Man(正式にスタジオ録音されていない)
5. Your Broken Heart (1974年「7-Tease」に収録される)
6. Universal Soldier(1965年にEPリリース)
7. The Dignity of Man(1973年「Essence to Essence」に収録される)
8. Hey Gyp  (1965年リリース)
9. Tinker Tune(正式にスタジオ録音されていない)
10. Living for the Love Light (1984年「Lady of the Stars」に収録 )
11. Josie (1965年リリース)
12. Sailing Homeward(1973年「Essence to Essence」に収録される)
13. The Ferryman's Daughter(正式にスタジオ録音されていない)
14. Life Is a Merry-Go-Round(1973年「Essence to Essence」収録)

バフィー・セント・メリー作の6. Universal Soldier以外はオリジナル。
収録曲の多くが当時はまだ未発表だった新曲(上記リストの)で、
後にアルバムに収録されるが、ここで聴けるシンプルな弾き語りヴァージ
ョンの方がはるかに出来がいい

4. A Working Man、9. Tinker Tune、13. The Ferryman's Daughter
3曲()はいまだに公式スタジオ録音で発表されていない、貴重な音源だ。




↑LPジャケット裏面。忍者ごっこが楽しかったらしい。



このライヴ盤は一度も再発されたことはなく、CD化されることもなく、
世界中のファンの間でも最もレアと言われてきた。

長年CD化を心待ちにして来たが、日本のエピックは洋楽を手放しているし、
RHINOなどリイシュー専門のレーベルから出る気配もない。
あまり売れないと踏んだのだろう。

しかもCDがほとんど廃れ、配信への移行が急速に進む昨今。
もはや実現しないと諦めていたところに、突然のCDリリースで驚いた。





↑1973年のカヴァーアートを踏襲。横長・変型サイズの紙ジャケット。




今回は1973年日本ツアーから50周年を記念して、ドノヴァンのオフィシャル・
サイトでの数量限定発売である。
リマスターされたライヴ・アルバム(CD)+レストアされた来日時の記録
映像「YELLOW STAR」(DVD)のセットになっている。


筆者は昨年12月にオーダーを入れ、2週間ほどで届いた。
スペインでプレスされたらしい。







装丁はえらく簡素である。海賊盤でももっと気の利いた装丁にするだろう。
開くと観音開きになっていて左右にCDとDVDが裸で入っていた。

中面には曲名、クレジット、ドノヴァンのメッセージ、映像監督のメモが
味気ないくらいあっさり一色で印刷されている。(金をかけていない)
裏面は和室で浴衣を着たドノヴァン&リンダ夫妻のどーでもいい写真。





LPのライナーノーツには北中正和の評、小倉エージと中川五郎の電話対談
が載っていたが、それはサイトで見てね〜ということらしい。
https://donovan.ie/liveinjapan/


出版はABCKOレーベルと記載。アラン・クレインのABKCO のことか?
ABCKOはストーンズの海賊盤を出しているレーベルだが。。。





↑ゼマティス・ギターのデザインのピクチャー・ディスク。カッコいい!




今回のCD化はリマスター。リミックスではない。
つまり1973年の最終ミックスをそのままリマスタリングしている。

ボーカルとギターが左右泣き別れ。しかも1曲ごとに左右入れ替わり不自然。
客席の声や拍手のみステレオ感がある。(7)



写真を見る限りボーカルに1本、ギターに1本、マイクがセットされている。
たぶん客席に左右1本ずつ。4トラック・レコーダーで済みそうだ。

ボーカルとギターをセンターという定石ミックスだとモノラルになる。
そのために左右に定位させたのだろう。とはいえ、このミックスは極端だ。



↓「Tinker Tune」が聴けます。この曲が聴けるのはこのライヴ盤だけ。





↑赤い座布団?の上で胡座をかいて弾き語りがドノヴァンの定番スタイル。
宗教服なのか?中世の貴公子のコスプレか?この人の好みらしい。
ブルーに見えるが照明のせいで、本当は銀色っぽい白。シルクだろう。
(初日の武道館では紫の羽織だった、緑の上下だったという証言がある)




ボーカルにはかなり深いリバーヴがかけられている。
ライヴの臨場感を出すためと、左右泣き別れを音を回すことで濁らせる
目的だったの思われるが、やりすぎ。
なんかドノヴァンが銭湯で歌ってるのを想像してしまう(笑

またリバーヴによって歯擦音(サシスセソを発音する際の摩擦音)が強調
されてしまった。



クレジットではプロデューサーはCBSソニーの菅野ヘッケル( 敏幸)氏
(ディラン担当ディレクター)、コンサートのエンジニアは日本のスタッフ
(Tomoo Suzuki)、ミックスダウンはMike Bobak氏が務めている。(8)

できればミックスダウンをやり直しLP未収録曲をボーナストラックに
加えて欲しかった。








来日時の記録映像「YELLOW STAR」(DVD)の方は、ドノヴァンの知人
で映画監督のンソニー・フーツが、来日の様子を撮影した未公開映像。
(非公式に出回っていたビデオテープと内容は同じ)

ホテルの部屋、忍者ごっこに興じるドノヴァンとリンダさん、ホテルの
中庭で「Sailing Homeward」、芸者を前に「Tinker Tune」を歌う様子、
大阪フェスティヴァル・ホールの会場と当時のファンたち、ライヴ映像。








↓「YELLOW STAR」のトレーラーが見られます。
https://youtu.be/-7gCttSbdJs?si=6FCabJ8j8WK7JJ6b



12弦ギターで歌う「Cosmic Wheels(CDに未収録)Sadness
(CD収録とは別テイク)Happiness Runs(CDに未収録)ライ
映像も見られる。




ジャケットの両手を上げ指さしているポーズは、「Happiness Runs」の
コーラスを客席に促しているところだった!



フィルムはレストアされ、オーディオテープはリマスタリングされている
らしいが、16mmフィルムなので画像は鮮明でなく、音もHi-Fiではない。







↓1973年大阪フェスティヴァル・ホールでの「Sadness」が見れます。
https://youtu.be/SXv_Bycv6rc?si=8Z7-Kg2Q2tBCtRwc


※CD収録テイクと別テイク(CD音源は大阪厚生年金会館での録音)
モノラルでHi-Fiではない。
サビのHere in my dream tonightのinで低音弦のミストーンを出し、すぐ
正しい音に移動、レコードではエンディングはEのコードを流してからEmを
弾くが、動画ではいきなりEmで終わるなど、違いが聴ける。




DVDは我が家のソニー製ブルーレイ・レコーダーで再生できなかった。
リージョンの違いか(9)NTSC方式とPAL方式の違いか(10)と問い合わせたが、
リージョン・オールで日本でも再生できるとの返事だった。

NTSC方式かPAL方式か?については返答なし。解らないようだ。
ディスクの不良かもしれない。もう一枚送ってもらったが同じだった。
CD/DVDスロット付きの古いMacを引っ張り出してきたら無事、再生できた。




DVD再生不能の原因として考えられるのは・・・
1)PAL方式のDVDのため国内で再生できない
2)ソニー製品は気難しく他に対して厳しいので拒否(→よくある話)


まあ、小さい画面ではあるけど、一度見れたからよしとしましょう(笑





↑ゼマティス・ギターを弾くドノヴァンの手元もしっかり写っている。




ドノヴァンといえば、1965年夏から使用しているチェリーサンバーストの
ギブソンJ-45(11)のイメージが強いが、1970年代の初頭に英国のコンサ
ートホールで盗難に遭っている。

1973年の来日公演でドノヴァンが使用した不思議な形のギターは、英国
のギター・ビルダー、トニー・ゼマティスの特注品。(12)
艶消しのブラックのボディー、三日月形のサウンドホール、指板のポジシ
ョンマークが星、とユニークな仕様になっている。





ウォームなJ-45サウンドが聴けないのは残念だが、ゼマティスのクリアー
できらびやかな音もこの時期のドノヴァンを彩るサウンドだ。



<脚注>

2024年1月23日火曜日

名ばかりの歌姫たちは道を開ける。歌怪獣とブルース演歌の女王。




「名ばかりのGT達は、道を開ける」
1979年にトヨタが発売した2代目セリカの広告コピーである。

GTとは大型で強力、走行性能と居住性・快適性を両立させたスポーツカーの総称(1)
だが、ライバル車の日産スカイラインGTを名指しで挑発しているのは明らかだ。(2)
この有名なコピーを拝借して私見を述べる。

名ばかりの歌姫たちは道を開ける
やたら「歌姫」と呼ばれる歌手が多い。それに値する人はどれだけいるのか。(3)




今その代表格とされるのはミーシャだろう。キャリアも長い。
4年連続で紅白のトリを務め、東京オリンピック閉会式で歌ったらしい(見てない)

声量も技量も圧倒的。歌姫と言われるのも納得。個人的には好きでない。
ブラックミュージックの影響はともかく、日本人の黒人なりきりは鼻につく。
(エイリアンみたいな頭のターバンもアフリカ民族衣装らしい)






こういう上手な人はいいとして、下手な人まで歌姫に入れるのはどうかと思う。
CMで流れる藤原さくらの「君は天然色」(大瀧詠一)を聴いた時は愕然とした。

音程が狂っているし、リズムもビミョーにズレてる。なんか気持ち悪い。
ずらし、しゃくりあげ、という歌唱テクニックでなく、単純に下手、音痴なのだ。

本人も含め誰もNGを出さなかったのか?デジタル編集で簡単に補正できたのに。
これじゃ歌姫というより、令和の浅田美代子?(ファンの方、ごめんなさい)




NHK Eテレ「クラシックTV」で「ディーヴァたちが歌う」という回があった。
島津亜矢(演歌)田中彩子(クラシック)鈴木瑛美子(ゴスペル、R&B)と3つ
のジャンルの歌姫たちの声の魅力、各ジャンル特有の発声テクニックなどを紹介
する、という内容でおもしろかった。



↑左から島津亜矢(演歌)田中彩子(クラシック)鈴木瑛美子(ゴスペル R&B) 



島津亜矢は何を歌わせても上手い圧倒的な歌唱力と表現力だった。
「行間を詠む」という言葉があるが、まさに歌詞の行間を詠み歌メロの音と
音の「間」で歌に表情を醸し出している



司会の清塚信也と演歌作曲家の解説によると、演歌はAm、Dm、Eの3コードで
成立し、曲の構成もポップスに比べるとシンプル。12小節のブルースに近い。

その分、単調にならないような工夫情景描写感情表現が求められるという。
代表的なのが、こぶし、声の転がし(R&Bでいうフェイク)、母音の強調、語尾
を伸ばす大きなヴィブラート、抑揚、溜め、ずらし、などのテクニックだ。





映画「タイタニック」挿入歌「I Will Always Love You」(4)を鈴木瑛美子と一
に歌ったのだが、声質、音圧、抑揚のコントロール、表現力すべてで完全に
島津亜矢の方が上で、R&B歌手の鈴木はお株を奪われた感じだった。


↓同じく映画「タイタニック」挿入歌「My Heart Will Go On」の島津亜矢版。
セリーヌ・ディオンのキャーキャーうるさい高音シャウトよりよっぽどいい。
https://youtu.be/Fi7bFVo9us4?si=luxTSuYcqK1Y7pqb



↓島津亜矢が歌う「Lullabay Of Birdland」。ジャズを歌わせても上手い。
https://youtu.be/aGBX3S6Nm8M?si=WfQmJKH5ZnFyVsQE





島津亜矢はジャンルを超えた歌唱力とどんな曲でもこなせる器用さから「歌怪獣
というニックネーム(笑)が付いている。







↑歌怪獣襲来って・・・ゴジラじゃないんだから(笑




「歌怪獣」の名付け親は、昭和歌謡・ポップス〜J-POP、洋楽と幅広い音楽を
独自の視点で分析しているマキタスポーツである。
マキタ氏は「歌に対して謙虚な気持ちを常に持ち、歌の良さを届けている」と、
彼女の姿勢を高く評価している。







今回この記事を書いたのは、八代亜紀の訃報に触れたのがきっかけである。

演歌はあまり聴く機会がないが、この人は本当に歌が上手い、歌心のある人だと
感心したのは「セキスイハウスの歌」だ。

作詞:羽柴秀彦/作曲:小林亜星で50年以上使用されているCMソングである。
茅島みずきが演じる「少女の成長篇」では、女性コーラスと八代亜紀のアカペラ
だけで歌われる。





↓積水ハウスCM「少女の成長篇」が見れます。
https://youtu.be/8U3rCO3IFig?si=wOrCllM5lDwqP-iL




八代亜紀はジュリー・ロンドンやヘレン・メリルに憧れ、ジャズ歌手になること
を夢見ていたという。
2012年のジャズ作品「夜のアルバム」が日本、アジア各国でチャートイン。




↓「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」のレコーディング風景が見られます。
https://youtu.be/YO2RXbTrKtU?si=KX_e836ElGmmfTkG




ジャズ歌手としてブルーノート東京のステージにも立った。
2013年にNYの名門ジャズクラブ・バードランドでライブを開催し、憧れのヘレ
ン・メリル(当時84歳)をゲストに招き初共演。50年来の夢を叶えた。





↓八代亜紀 - ライヴ・イン・ニューヨーク のダイジェストが見られます。
ヘレン・メリルとYou'd Be So Nice To Come Home Toをデュエット。
https://youtu.be/7CpXX76oNJE?si=Qr9vyJuNwnoLDKS2












初めてヘレン・メリルを聴いた時、ハスキーな声が青江美奈(6)みたいと思った。
青江美奈にこの曲を歌わせたらさぞかし上手いだろうな、と。
やはり上手だった。


↓青江美奈が歌うYou'd Be So Nice To Come Home Toが聴けます。
https://youtu.be/35Htl8EtDDw?si=Pos5ytVMzRoZFqzq






↓青江美奈&八代亜紀の「伊勢佐木町ブルース」。けっこうレア?
https://youtu.be/rqDm0hkqtK4?si=Jiz1omM738oyofVE








青江美奈は1993年にジャズアルバム「THE SHADOW OF LOVE」を発表。
ニューヨークでもライブを開催。
マル・ウォルドロン、フレディ・コール、グローバー・ワシントンJr.をゲスト
に迎え、シナトラと並ぶジャズ歌手メル・トーメともデュエットしている。


↓青江美奈&メル・トーメのIt's Only A Paper Moonが聴けます。
ベルベットの霧と称されるメル・トーメの美声も健在。(6年後73歳で他界)
https://youtu.be/tcY6neOR8e8?si=66P5th_216FnB6L5





ジャズがエライとか、ジャズを歌えなきゃダメ、と言ってるわけではない。
しかしジャズを歌うためには歌唱力と音楽理論が必要とされるのも事実。
個性やフィーリングだけでは通用しない。

江利チエミ、雪村いづみ、ザ・ピーナッツ、中尾ミエ、伊東ゆかり、弘田
三枝子もそうだが、進駐軍のキャンプで歌いながら洋楽ポップス、ジャズ、
カントリーと幅広いジャンルの歌唱法を習得して行ったのだ。(8)









ちあきなおみも4歳の時から米軍キャンプを回ってジャズを歌っていた。
最後にちあきなおみの「黄昏のビギン(9)を聴いてもらいたい。

作詞:永六輔、作曲:中村八大の名曲で、元々は水原弘の「黒い花びら」の
B面収録曲だった。
ちあきなおみの1991年のアルバム「すたんだーど・なんばー」に収録される。
先行シングルとしてリリースされると話題になり、複数社のCMに使用された。






いろいろな人がカヴァーし、長く愛されるスタンダード・ナンバーになった。
中でもちあきなおみ版は絶品だ。


「歌姫」ってこういうことなんじゃないかな、と僕は思う。



↓ちあきなおみの「黄昏のビギン」が聴けます。
https://youtu.be/NHXotKktQ8w?si=im8HqAAUWHHdqquj




<脚注>