2015年11月14日土曜日

ビートルズ「+1」がやって来た! Vol.2<CD篇>

◆ビートルズのリマスターの歴史

初めにビートルズのこれまでのリマスターの経緯をさらっと説明したいと思う。
リマスターはその時代のテクノロジー、音のトレンドを反映してるからである。
そしてビートルズのリマスターは常にその時代のリマスターの先駆けだからだ。


まず1985〜1986年に全作品が初CD化された。
マスタリングはジョージ・マーティンによって行われている。
サンプリング周波数は44.1kHz、サンプリングレートは16bitのCD音質。

初期の4枚はモノラル、Help!以降はステレオ・ミックスであった。
A Hard Day’s Nightのみ音質の問題から若干ピッチが高くなっている。
左右泣き別れが激しいRubber Soulはややセンターよりに定位し直された。
(つまりRubber Soulに限ってはリミックスも行われたということだ)


1993年にはデジタル・リマスタリングされた青盤・赤盤Live At BBCが発売。

1995〜1996年のAnthologyはリマスターではなく、できるだけ古い音源に遡っ
ての新たなミックスだがジョージ・マーティンが当時のアナログ機材で編集。

1999年のYellow Submarine Songtrackはピーター・コビンの手により大胆
リミックス作業が行われ聴きなれた曲の印象ががらっと変わった。
(この後コビンはジョンのアルバムのリマスターも手がけている)
サンプリングレートは20bitだったと思う。




↑左右泣き別れのNowhere Manも生まれ変わった。
センター定位のボーカルをややずらして片チャンネルからも鳴らすのがコビン流。
(写真をクリックするとYouTubeで視聴できます)


2000年にベスト盤の「1」を発売。(今回の「1」と収録曲は同じ)
この後しばらく続く大音圧で音の強弱があまりない(ずっと強のままの)リマスタ
の先駆けとなった。
確かここから24bit/96kHzで取り込んでCDに落とし込むようになったと思う。
(音がよりきめ細かくなって表現力が増した、ということだ)





2003年にはLet It Be…Nakedが発売。
ポールが不満を抱いていたフィル・スペクターによる厚化粧のLet It Beを選曲〜
テイクの選択からやり直し、編集前のマルチトラックから当初のコンセプト「音
を重ねない」素の音でリミックスされた。
素顔とはいえ複数テイクのいいとこ取りの切貼り編集であることからノーメイク
の整形美人という評価もある。


2006年にシルク・ドゥ・ソレイユのサウンドトラック「Love」を発表。
ジャイルズ・マーティンの手により楽曲は分解され再構築され生まれ変わった。




↑地味目のThe Word、What You're Doing もカッコよくなって嬉しかった。
(写真をクリックするとYouTubeで視聴できます)

2009年には待望の全作品リマスター化。
初期4枚も含めすべてステレオミックスで別にモノラルミックスのボックスも出た。
(ホワイトアルバムまでのモノラルミックスが作られたアルバムとシングル曲)
2000年の「1」とは逆に音圧は抑えられ、艶やかで温かみのある音になった。


そして今回の「1」は「Love」を手がけたジャイルズ・マーティンによってオリジ
ナルとは大きく異なる大胆なリミックスが行われている。



◆2015年版「1」のリマスターは何が違うか?

まずオリジナルのミックスをリマスタリングしたのではなく、編集前のトラック
まで遡ってリミックスしてある、というのが大きなポイントだ。

その際、オリジナルとは違う新しい解釈でリミックスが行われている。
その点は1999年のYellow Submarine Songtrackと似てるもしれないがYellow…
ほどアヴァンギャルドではなく、オリジナルを長年聴き込んだ人も違和感ない
はずだ。

一言で言うと「1」は曲ごとに何が主体なのか、何を聴かせたいかが伝わって来る
ミックスだと思う。
そして聴きやすい。言葉を変えると今の時代でも現役と思える定位になっている。


それはビートルズの楽曲や演奏自体はいつまでも新鮮だが、オーディオマテリアル
しては古さを禁じ得ないからだ。

ビートルズの音源はほとんど4トラックのレコーダーで録音され限りがあった。
録音済みの複数トラックを1つのにまとめて録音し空きトラックを作ったとしても
(リダクション、バウンス、ピンポンと言われる方法)1つのトラックにギターと
ベースとドラムが入ってて分離できない、ということも多い。





マルチトラックでドラムだけで5本もマイクを立てるのが当たり前の今とは違う。
その制約下でボーカル、楽器を定位させるのは一苦労だったはずだ。



聴き手のオーディオ環境の問題もある。
当時はまだステレオシステムが普及していなくレコードプレーヤーが一般的だった。
またステレオとはいえ一体型が主流であまりステレオ感が味わえない。
そういう人たちにステレオミックスのレコードを聴いてもらうことが前提なのだ。

同じ理由からEMIではモノラルミックスがメインと考えられていた。
モノラルミックスには時間をかけビートルズのメンバーも立ち会っているが、ステ
レオミックスは後回しでビートルズも関与していない。
(ステレオミックスのみになったのはAbbey Road、Let It Beで、シングル盤は 
Get Back以降である)



   ↑アビーロード第2スタジオのコントロールルームとTG12345 コンソール



さらに1年にアルバム2枚、シングル5〜7枚という過密スケジュールである。
(1966年まではライブもこなしていた)
編集にじっくり時間をかけられず雑になってしまった面も多々あったはずだ。
(特にステレオミックスにおいては)

あの時代はあれでよかったけど、改めてビートルズを「今の音」で聴きたい。
そんなニーズに応えるのが「1」ではないかと思う。



◆2015年版「1」のリマスターの音

音質については、とにかくめちゃくちゃクリアーですよ、と言いたい。
2003年のLet It Be…Nakedも2009年の全作品リマスターも音はすばらしかった。

Nakedはすぐ側で演奏しているような臨場感があったし、あれ?ジョンのギター
ってモコモコかと思ってたけどこんなにブライトだったの?と印象が変わった。
2009年リマスターも今まで引っ込んでた音までしっかり聴こえて驚いたし、
ボーカルは艶やかでギター(特にエレキ)の音が力強く生々しかった。


ではどこが違うか?というと「1」はクリアーすぎるくらいクリアーだ。

特にボーカルはパワーアップした印象。
エフェクトをかけたのか?と思うくらいきりっと締まっている。
スピーカーで流すとボーカルが強すぎなきらいがあるけど、ヘッドホンで聴くと
ちょうどいい。
(これは再生装置にもよるので何とも言えないが)

エレキの音は芯が太く音像がはっきりして、12弦やアコギのギターが生々しく
ベースはどっしり伸びやか、ストリングスはふくよかで広がりを感じる。
これは各楽器の定位のさせ方を変えたことも大きい。



↑2015年版のPenny laneはパワーアップしている。
(写真はCD+DVD Audioのセット。クリックするとYouTubeで視聴できます)



2009年のリマスターはあくまでも1963〜1970年のオリジナルのミックスを使っ
当時アナログの最高の機材でレコードを聴いていた音に近づける、というのが
使命だったが、今回のは新時代のリミックスであり音創りである。

個人的には今回の「1」はメリハリが効きすぎてずっと聴いてると疲れるかも?
2009年リマスターの方が安心して聴けるような気もする。

でも新しいリミックスは大歓迎だ。生きててよかった〜とつくづく思う(笑)


さあ、こうなると欲が出てきてしまう。
ぜひ全アルバム、リミックスしてもらいたい。
左右泣き別れのRubber Soulを聴きやすくしてくれないかな。
Abbey Roadはどう料理するんだろう?


「リマスターするたびに、バンドの演奏力が上がって聞こえるっていうのがすごい
 ですよね。粗が目立つんじゃなく」と友人が言ってたが、まったく同感だ。



次回は<リマスターCDのハイライト>を書く予定です。

To be continued….

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