いしだあゆみ(以下、敬称略)が甲状腺機能低下症の悪化で亡くなったそうだ。
まだまだお元気で活躍されてる思っていたが。ご冥福をお祈りします。
どの記事も「ブルー・ライト・ヨコハマ」が代表作と報じている。
彼女にとって26枚目のシングルとなる本曲が発売されたのは1968年のクリスマス。
翌年にかけて大ヒットした。
発売日に10万枚のレコードが売れ、それが10日間続いたという。
時代は学園紛争のピーク。
若者たちは新宿西口広場で集会を開きフォークソングを歌い、機動隊と衝突した。
パンタロン、マキシスカート、シースルールック、ヒッピーが流行していた。
僕は中学生でラジオを聴き出した頃だった。
「夜明けのスキャット」「人形の家」などの歌謡曲とバニラ・ファッジ、ドアーズ、
クリーム、モンキーズ、アーチーズ、ショッキング・ブルー、ナンシー・シナトラ、
ツェッペリン、スコット・ウォーカーなんかを一緒くたに聴いていた。
「ブルー・ライト・ヨコハマ」もその一つ。リクエストが多くよく流れていた。
いしだあゆみ - ブルー・ライト・ヨコハマ
https://youtu.be/cZRk3kEkFz8?si=g54J1Gqkd2QY6wqy
歌詞もメロディもアレンジも完成度が高い。昭和を代表する名曲だ。
しかし実際はレコーディング前日に、苦戦しながら編み出した作品らしい。
<ブルー・ライト・ヨコハマが生まれた過程(歌詞)>
いしだあゆみはビクターから4年間で23枚のシングルをリリースしていたが、女優・
タレント業で忙しかったこともあり、歌手としてのイメージはあまりなかった。
そこで心機一転、「歌手・いしだあゆみ」を打ち出すためにコロムビアに移籍。
橋本淳・筒美京平のコンビが曲作りを担当することになった。
2人とも青山学院中等部〜大学の出身で、橋本淳は筒美京平の先輩である。
在学中にジャズ研で橋本淳がウッドベース、筒美京平がピアノを弾いていたらしい。
つまり「音楽を通じて気心知れた仲」ということだ。
また橋本淳は「楽曲の構造も演奏も心得ている作詞家」ということになる。
↑青学時代の橋本淳と筒美京平
コロムビアは「3曲作って欲しい、どれか100万枚超えのヒットを」と2人に依頼。
2曲出したけど売れない。橋本淳はプレッシャーを感じていた。
当時は曲先ではなく、詞先というスタイルで作っていたという。
3曲目は「ヨーロッパや港のイメージの歌」にしたい、と橋本は漠然と思っていた。
橋本は横浜の街をあちこち歩いてみたが、一向に言葉が浮かばない。
夜になってもう一度歩いてみようと、港の見える丘公園まで登って行った。
当時は辺り一面が真っ暗。公園から遠くを眺めると川崎の工場街が見えて、そこが
紫っぽいような、ブルーっぽい光が海に照り返っていた。
これこそ自分が探していた光景だ、と橋本は思った。
カンヌの空港の滑走路に着陸する際に見た夜景を重ね合わせていたという。
その場で「ブルー・ライト・カワサキ」というタイトルが浮かぶ。
でも、さすがにそれはどうかと思い「ブルー・ライト・ヨコハマ」に改めた。
カタカナで「ヨコハマ」にしたのも都会的で洗練されたイメージにつながった。
当時の横浜は進駐軍の影響が残っていて、東京にない尖った面白さがあるものの、
暗くて危ない街であった。
翌日がレコーディングでもう時間がないので、横浜から筒美京平に電話をかけて、
タイトルだけ決めたと伝えた。
筒美はメロディーを考えていたそうで「ポール・モーリアのアルバムにイントロ・
イメージが合うものがある」と言ったそうだ。
橋本はもう一度、海岸通りを歩き回わる。
歩いても、歩いても、何も思いつかなかった。「あれ?歩いても、歩いても。
これをサビにしようか・・・」と即興でワンコーラス作る。
1番の歌詞を電話で筒美に伝え、橋本は帰宅して残りの歌詞を徹夜で仕上げた。
(作詞家・橋本淳が語る「ブルー・ライト・ヨコハマ」の誕生 2024年)
<ブルー・ライト・ヨコハマが生まれた過程(曲)>
筒美京平の曲作りの秘訣について、橋本淳がインタビューでこう語っている。
「あの人、やっぱり天才ですから、歌作りもまずコード進行から固めるんですよ。
外国のレコードもいっぱい聴いて吸収してね。
自分の気に入ったコードの並びに、サビでも1小節でもエンディングでも、日本
的なテイストを必ず入れていく。だからいくらでも曲が作れちゃうんです」
(作詞家・橋本淳が語る盟友・筒美京平 2024年)
いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」はキーがマイナーキーでF#m。
Amで採譜した楽譜を見つけた。ギターやピアノで弾きやすくしたのだろう。
このキー=Amの楽譜で「筒美京平マジック」を探ってみたいと思う。
曲の構成はAメロ9小節+Bメロ(サビ)9小節の組み合わせ。
Am→Dm→E7からAmへ帰結、という演歌でもよく使われる「日本人が好きな」
マイナー・キーのコード進行だ。
イントロはE7のジャーンというギターに続いて、フロアタムのドコドンドン。
管楽器による情緒たっぷりのメロディが2小節(青い囲み)〜それと対話する
かのようなチェンバロとギターのカウンターメロディが2小節(緑の囲み)。
最初に聴き手の心を掴み、歌に入る期待感を煽るのがイントロの役目だ。
(Z世代はタイパ重視でイントロ不要と考えてるそうだが、このオイシイ部分
を捨ててしまうのはもったいない)
筒美京平はイントロの達人でこだわっていた。編曲まで自分でこなす。
Aメロに入ってからも歌の「間」を埋めるように、オブリガードでフォロー
している。(青い囲み)
Bメロ(うでのなーかー♪)ではストリングスで装飾(オレンジの囲み)。
筒美は同じ手法をオックスの「スワンの涙」でも使っていた。
6小節目がA7に一時的転調しているところがミソ。(赤い丸)
Am→A7→Dmのコード進行は、ドラマチックで切ない響きを生む。
7thコードは5度上のコード(Dm)に移行しやすい。
この場合A7のメロディは一時的にダイアトニックスケールになる(赤い丸)が、
次のDmですぐAmキーのナチュラル・マイナーに戻るから違和感がない。
あれ?一瞬、風の向きが変わったかな? あ、少し陽が射したみたい・・・
くらいの印象ではないか。でも、これだけでオシャレになる。
歌メロはいしだの歌唱力を考えてか、音域が狭くあまり高低差がない。
それだけに、Aメロ最後とBメロ最後の高域は際立つ。
Aメロの出だしは1拍分の休符が入り、2拍目から歌が入る。
(ン)まちのあかりが〜♪
Bメロ(あるいても〜♪)は小節の頭からメロディーが始まる。
これはアメリカのポップ・ソングの王道。洋楽っぽい感じになる。
ブルーライト〜♪のソ#はE7の構成音である(赤い丸)。
Amキーのスケールとしては、純日本的なメロディック・マイナーだったのが、
ソ#で一時的にアラビア、ペルシア風響きのハーモニック・マイナーになる。
このちょっとした異国情緒感もスパイスになっていると思う。
あなたと〜♪はDm構成音ではないシが2拍続くので、Dm→Dm6が合うと思う。
が、オフィシャル音源を聴く限り、1小節Dmのままである。
しあわせよ〜♪はDm→F7on C→E7。(赤い丸)
ベース音をDから1音下降させてC、その勢いでE7 on Aでも良さそうだがベース
はルート音のE。次がAmだからベース音をE→Aにしてメリハリを付けたのだろう。
Bメロの こぶねのように〜♪も同じく、Dm→F7on C→E7。(赤い丸)
ゆれてあなたのうでのなーかー♪の山場で、初めてDm→G7→Cが登場。
一気に明るくなり、世界が広がったような気分になる。(ピンクの囲み)
(CはAmの裏コードで構成音が近く、メロディに使うスケールも共通である)
いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」はキーがマイナーキーでF#m。
Amで採譜した楽譜を見つけた。ギターやピアノで弾きやすくしたのだろう。
このキー=Amの楽譜で「筒美京平マジック」を探ってみたいと思う。
曲の構成はAメロ9小節+Bメロ(サビ)9小節の組み合わせ。
Am→Dm→E7からAmへ帰結、という演歌でもよく使われる「日本人が好きな」
マイナー・キーのコード進行だ。
イントロはE7のジャーンというギターに続いて、フロアタムのドコドンドン。
管楽器による情緒たっぷりのメロディが2小節(青い囲み)〜それと対話する
かのようなチェンバロとギターのカウンターメロディが2小節(緑の囲み)。
最初に聴き手の心を掴み、歌に入る期待感を煽るのがイントロの役目だ。
(Z世代はタイパ重視でイントロ不要と考えてるそうだが、このオイシイ部分
を捨ててしまうのはもったいない)
筒美京平はイントロの達人でこだわっていた。編曲まで自分でこなす。
Aメロに入ってからも歌の「間」を埋めるように、オブリガードでフォロー
している。(青い囲み)
Bメロ(うでのなーかー♪)ではストリングスで装飾(オレンジの囲み)。
筒美は同じ手法をオックスの「スワンの涙」でも使っていた。
6小節目がA7に一時的転調しているところがミソ。(赤い丸)
Am→A7→Dmのコード進行は、ドラマチックで切ない響きを生む。
7thコードは5度上のコード(Dm)に移行しやすい。
この場合A7のメロディは一時的にダイアトニックスケールになる(赤い丸)が、
次のDmですぐAmキーのナチュラル・マイナーに戻るから違和感がない。
あれ?一瞬、風の向きが変わったかな? あ、少し陽が射したみたい・・・
くらいの印象ではないか。でも、これだけでオシャレになる。
歌メロはいしだの歌唱力を考えてか、音域が狭くあまり高低差がない。
それだけに、Aメロ最後とBメロ最後の高域は際立つ。
Aメロの出だしは1拍分の休符が入り、2拍目から歌が入る。
(ン)まちのあかりが〜♪
Bメロ(あるいても〜♪)は小節の頭からメロディーが始まる。
これはアメリカのポップ・ソングの王道。洋楽っぽい感じになる。
ブルーライト〜♪のソ#はE7の構成音である(赤い丸)。
Amキーのスケールとしては、純日本的なメロディック・マイナーだったのが、
ソ#で一時的にアラビア、ペルシア風響きのハーモニック・マイナーになる。
このちょっとした異国情緒感もスパイスになっていると思う。
あなたと〜♪はDm構成音ではないシが2拍続くので、Dm→Dm6が合うと思う。
が、オフィシャル音源を聴く限り、1小節Dmのままである。
しあわせよ〜♪はDm→F7on C→E7。(赤い丸)
ベース音をDから1音下降させてC、その勢いでE7 on Aでも良さそうだがベース
はルート音のE。次がAmだからベース音をE→Aにしてメリハリを付けたのだろう。
Bメロの こぶねのように〜♪も同じく、Dm→F7on C→E7。(赤い丸)
ゆれてあなたのうでのなーかー♪の山場で、初めてDm→G7→Cが登場。
一気に明るくなり、世界が広がったような気分になる。(ピンクの囲み)
(CはAmの裏コードで構成音が近く、メロディに使うスケールも共通である)
<いしだあゆみの歌唱>
この人は鼻にかかったような声と抑揚のない歌い方が独特だった。
半拍遅れのようなタイム感(和製英語?)が、揺れとタメを感じさせる。
それが男女の揺れる関係を暗示しているようにも思える。
半拍遅れは楽器演奏でいうゴースト音のせいでもあるかもしれない。
♪ まッちのあッかりがー と・て・も・きれいね よッこはンま♫
促音や撥音便が潜んでいる。それが「ハネ感」になっているわけだ。
本人は無意識に歌ってるのだろうけど。
「私、歌ではあまりいい思い出はないんですよ。
音程が悪くて、いつも怒られてばかりで、すごく暗くなっていました。
ブルーライト・ヨコハマはレコーディングに48時間もかかったんです」
(1997年 日刊スポーツ いしだあゆみインタビュー)
「ブルー・ライト・ヨコハマ」はいしだあゆみの26枚目のシングル。
テレビで見る彼女は大人で色っぽく見えた。まだ20歳だったという。
1969年TBS「歌のグランプリ」に出演。
https://youtu.be/zg-tmlLikWM?si=87NgyZHtTHaAgAJI
この人は鼻にかかったような声と抑揚のない歌い方が独特だった。
半拍遅れのようなタイム感(和製英語?)が、揺れとタメを感じさせる。
それが男女の揺れる関係を暗示しているようにも思える。
半拍遅れは楽器演奏でいうゴースト音のせいでもあるかもしれない。
♪ まッちのあッかりがー と・て・も・きれいね よッこはンま♫
促音や撥音便が潜んでいる。それが「ハネ感」になっているわけだ。
本人は無意識に歌ってるのだろうけど。
「私、歌ではあまりいい思い出はないんですよ。
音程が悪くて、いつも怒られてばかりで、すごく暗くなっていました。
ブルーライト・ヨコハマはレコーディングに48時間もかかったんです」
(1997年 日刊スポーツ いしだあゆみインタビュー)
「ブルー・ライト・ヨコハマ」はいしだあゆみの26枚目のシングル。
テレビで見る彼女は大人で色っぽく見えた。まだ20歳だったという。
1969年TBS「歌のグランプリ」に出演。
https://youtu.be/zg-tmlLikWM?si=87NgyZHtTHaAgAJI
1969年NHK「紅白歌合戦」に出場。
https://youtu.be/9Q9GAlLr43U?si=A2vFq5mv4fWcsdqp
※演奏が早いので、歌がついていけてない(笑
※演奏が早いので、歌がついていけてない(笑
デジタル着色したためか、時々コワイ顔になる😱
<ブルー・ライト・ヨコハマで歌われる情景>
橋本淳は演歌の「捨てられても待っている女」的な男目線の女性観とは異なる
「若者の恋愛観」「揺れる女心」を歌詞にするのが巧かった。
「ブルー・ライト・ヨコハマ」に登場するのは横浜の夜の街を一緒に歩く男女。
女性の視点、気持ちが語られる。彼女は相手に夢中のようだ。
男は年上だろうか。もしかしたら不倫かもしれない。少し危険な香りがする。
<ブルー・ライト・ヨコハマで歌われる情景>
橋本淳は演歌の「捨てられても待っている女」的な男目線の女性観とは異なる
「若者の恋愛観」「揺れる女心」を歌詞にするのが巧かった。
「ブルー・ライト・ヨコハマ」に登場するのは横浜の夜の街を一緒に歩く男女。
女性の視点、気持ちが語られる。彼女は相手に夢中のようだ。
男は年上だろうか。もしかしたら不倫かもしれない。少し危険な香りがする。