このところ何度も脳内再生されるシラ・ブラックのIt’s For You。
彼女のファンというわけではない。
Aメロのソフトな歌声は好きだけど、Bメロの力んだ声は苦手かな。
(個人的感想です)
曲やアレンジ、サウンドに惹かれるのだ。1960年代を感じさせる。
レノン=マッカートニー作品でジョージ・マーティンがアレンジとプロ
デュースを手がけているせいだろう。
今回はIt’s For Youを中心に、シラ・ブラックについて。
It's for You (2003 Remaster)
↑曲の前に「僕とポールが書いた」とジョンがコメントしている。
シラ・ブラックという歌手は日本ではあまり馴染みがないかもしれない。
しかしイギリスではOBE(大英帝国勲章第4位)(1)を受賞するくらいで、
人気も実力もあった。
シングル11曲、アルバムも4枚をトップ10入りさせている。
彼女が売れたのは、ビートルズ一派のバックアップのおかげでもある。
<シラ・ブラックとビートルズ>
シラはリヴァプールのキャヴァーン・クラブでクローク係をしていた。
笑い上戸で陽気な性格だった彼女は、キャヴァーンに出演していたデビュー
前のビートルズと親しくなる。
歌手志望だったシラは飛び入りでステージに上がり、ビートルズや他の出演
者と一緒に歌うこともあったという。
ロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズ(ビートルズ加入前のリンゴが在籍)
の演奏でリンゴとBoysをデュエットしたという記録もある。
シラはビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインの目に留まる。
(たぶんジョンとポールが紹介したのだろう)
↑左からパティ・ボイド、ジョージ・ハリソン、シラ、エプスタイン
エプスタインはシラをジョージ・マーティンに売り込み、ビートルズと同じ
パーロフォン・レコードと契約。レコード・デビューが決まる。
プロデューサーはマーティンが担当することになった。
↑ジョージ・マーティンとシラ
※マーティンは著書「耳こそはすべて」で「シラはひどい声だったのでダブル
トラッキング(2)が必要だった」と書いている。ひどい声?(笑)
(2015年にシラが他界した際は「彼女は驚くべき才能を持っていた」とコメ
ントしている。評価が変わった?)
(写真:gettyimages)
1963年レノン=マッカートニー作Love of the Lovedでシラはデビュー。
(全英35位を記録)
共作名義(3)であるが、実質ポールがデビュー前に書いた作品だ。
不合格となったデッカのオーディション(4)で演奏した1曲でもある。
(ジョンとポールはビートルズとして発表するほど完成度が高くないと判断
した曲は他の歌手やグループに提供していた)
まあ、ポールにしてはイマイチだと思う。
デッカの苦い思い出もあってビートルズとしては捨て曲扱いなのかも(笑
↑Love of the Lovedシングル
(英国ではシングルはジャケットなしで販売されることも多かった)
1963年末から1964年初頭にかけてロンドンで開催されたビートルズ・
クリスマス・ショーにシラはゲストとして出演。
ビートルズ(主にポール)による全面的にバックアップは売りになる。
マスコミにも音楽業界にも、ビートルズのファンに対しても。
シラ・ブラック=ビートルズの妹分という文脈で語られるようになった。
エプスタインのマネジメントでレノン=マッカートニー作品を提供され
ていたEMIの他のグループからも可愛がられる。
ひいてはマージービートの妹分的な存在でもあった。
↑ビリー・j・クレイマー&ザ・ダコタス、ジェリー&ザ・ペイスメイカ
ーズと(1964年EMIスタジオ前)
↑マージービートの売れっ子たちが勢揃い。中央がビートルズとシラ。
<全英チャートにヒット曲を連発する歌手に>
2曲目のAnyone Who Had a Heartで初の全英1位を獲得。
ヒットメイカー、バート・バカラック=ハル・デイヴィッドがディオンヌ・
ワーウィックのために書いた曲である。
流麗で緩急の変化がいかにもバカラックらしい。
↑バート・バカラック(左)ハル・デヴィッド(右)(写真:gettyimages)
※シラは1966年にもバカラック=デイヴィッド作品、Alfie(同名映画
の主題歌)をヒットさせた。
ディオンヌ・ワーウィックのヴァージョンもヒットしている。
↑ディオンヌ・ワーウィックと
↓アビイロード・スタジオでAlfieをレコーディング中のシラ・ブラック。
ピアノを弾きながら指揮をしてるのがバート・バカラック。
コントロールルームにジョージ・マーティンがいるのも確認できる。
↑Alfieのレコーディング
ピアノを弾いてるのがバカラック、右はジョージ・マーティン
3枚目のシングルYou're My Worldも全英1位(5)に輝き、シラ・ブラ
ックはデビューから半年でヒットシンガーとしての地位を確立する。
<レノン=マッカートニーの隠れた名曲、It's for You>
4曲目は再びレノン=マッカートニー作品。
ポールはヒットしたAnyone Who Had a Heartをモデルにジャズの
スイング感たっぷりのワルツ、It's for Youを書きシラに提供した。
全英7位を記録するヒットとなる。
↑It's for You シングル
シラは「It's for YouはAnyone〜とは別物」と解釈してるという。
ポールによると「映画ウエストサイド・ストーリー挿入歌、A Boy Like
Thatからヒントを得た」そうだ。
ポールは「レノン=マッカートニーの最高作の一つ」と自信を見せる。
物憂げな美しいメロディはポール節だが、ジョンっぽい切なさも感じる。
クレジットだけでなく、ジョンも手伝ったのではないだろうか。
1965年に放送されたTV特番The Music Of Lennon and McCartney
では、ポールが「素晴らしい、才能ある・・・あと何だっけ?」とボケを
かまし、ジョンは「素敵な娘、おバカさんで」と嬉しそうにシラを紹介。
笑い上戸のシラとビートルズとの仲の良さを垣間見ることができる。
↑TV特番The Music Of Lennon and McCartneyより。
Cilla Black - It's For You (Live)
<It's for Youの曲構成、コード進行、アレンジ>
マイナー調の分数コード(6)で下降し、一時転調で変化を加えている。
ポールのデモ(7)(キー=Am)、シラのヴァージョン(キー=Cm)から
コードを拾ってみた。
(Verse) Aメロ
Am Am/G D/F# Dm/F
I'd say some day
C F B♭6 E♭ Dm7 G7/D
I'm bound to give my heart away When I do
Am
It's for you (repeat)
(Bridge) Bメロ
E Am
They said that love was a lie Told me that I
Am7 D
Never should try to find
Dm7 Am Bm7(-5) E7
Somebody who'd be kind Kind to only me (repeat)
サビでは音数が増え、急かされるようなメロディで駆け上がる。
ブレイクしてまたAメロ(ヴァース)へ。繋ぎ方が巧い
間奏でスピードアップし、シンコペーションを多用するのもカッコいい。
テンション・コード(8)も効いてる。
ざっくりしたアレンジはポールが考え、オーケストレーションはジョージ
・マーティンが担当しスコアを書いたのだろう。
ジョージ・マーティンのオーケストラが演奏している。
1964年7月の録音、つまりYesterdayの1年前に既にビートルズというバ
ンドと別に、オーケストラを採用した楽曲制作を行なっていたわけだ。
ポピュラー音楽の作曲家を目指していたポールにとっては節目となる作品
で、実験的な試みとなった。
映画「Family Way(1966年12月公開 邦題:ふたりだけの窓)の音楽
担当への布石とも言える。
Love In The Open Air'The Family Way'P. McCartney 1966
↑哀愁のあるメロディはIt's For Youに通じるものがある。
↑Family Wayのサウンドトラック
↑地味だけど味わい深い、何度でも見たくなる英国映画だ。
↑Sgt.Peppers制作開始前の1966年11-12月に作曲〜録音された。
次回はポールがシラに提供した3作目、Step Inside Loveについて。
<脚注>