2024年2月23日金曜日

高騰し続ける来日公演チケット代(1)テイラー・スウィフト




<テイラー・スウィフト東京公演 2024>

テイラー・スウィフトが5年ぶりに来日。
東京ドームで4日連続の公演を行い、22万人の観客を熱狂させた。

6回目のツアーとなる今回のThe Eras Tourは、2006年のデビューから
18年間にリリースしたアルバム(1)の時代(Era)を一つずつ辿るという
コンセプトで、作品ごとに異なる世界観が描かれていく。
テイラー本人は「私の音楽の時代(Era)全てを巡る旅」と表現した。





2023年から2024年にかけ22カ国で全151公演(2)と発表されている。
アジアではシンガポールで6公演、日本(東京)で4公演だけだ。

日本公演は2024年最初のコンサートであり、グラミー賞最優秀アルバム
(史上最多となる4回目)を獲得(3)して初めての公演ということもあって
、期待が高まる。





その期待に応える、想像をはるかに超えるパフーマンスだったようだ。
ステージは圧倒的なスケールで、曲ごとに観客を魅了する演出が用意
されていた。

巨大な映像スクリーンは解像度が高く、そこに映し出されるテイラー
の姿は歌っている本人とうまく融合し、まったく違和感がない。
たぶん音響的にも優れ、迫力があったのではないかと思う。





テイラーは約3時間20分(!)で全45曲を熱唱。
まさに音楽界の女王の貫禄を見せつけた。


↓2024年2月17日のオーストラリア、メルボルン公演が観れます。
https://youtu.be/KXoGBciS77A?si=hwjlNKG6Y6r03Gi3








<テイラー・スウィフト東京公演チケット代は高額だったのか?>

高額なチケット代(VIP席122,800〜52,800円、SS席30,000円、S席
22,000円、A席18,800円)にもかかわらず入手困難だったことも話題
となった。
一部のチケットは定価の2〜3倍で取引(違法です)されたらしい。




↑テイラー・スウィフト「THE ERAS TOUR」来日公演特設サイトより



東京だけの公演だが、遠方から参戦するファン(Swiftiesと呼ばれる)
も多く、観客の3割は海外からの訪日客だったという。


↓海外でも東京公演のSwiftiesが報じられている。







物価停滞(4)と円安の恩恵で、欧米のみなずアジア諸国のファンにとって、
日本公演はチケット代も渡航費も宿泊費も何もかもがお得なのだ。


その旅費、宿泊費、飲食費、グッズの売り上げなども含め、東京公演
の経済波及効果は約341億円という試算も出ている。



(アメリカでは昨年の全米ツアーの経済効果1.5兆円。GDPを押し上
げていることから、スウィフトノミクスという言葉も生まれている)








仮にチケット代を平均25,000円として試算すると・・・
チケット代25,000円×収容人数55,000人×4日間=興業収入55億円(5)


アーティストへの支払いは6〜9割が相場だと言われる。

仮に興行収入の75%がテイラー側に支払われる(6)なら、その額は
55億円×75%=41億円(1公演で10億円)と試算できる。


The Eras Tourの収入は最終的に10億ドル(約1500億円)に達する
と予想されている。
151公演が行われるので、1回の公演の平均収入は10億円。
日本公演での収入は4回で41億円。お高いわけではないようだ。






巨大なステージ設営、大掛かりな舞台装置、照明、装飾、特殊効果、
映像、PA、衣装、楽器、バンド、ダンサー、エンジニア、サポート
スタッフのパッケージ(7)込みの収入なっている可能性が高い。

収入からこれらパッケージ費を差しいた額がアーティストの収益だが、
国内ではマイナスかイーブンというケースもたまにあるみたいだ。
テイラーは「自分の取り分はしっかり考えてある」と言っている。







2023年の全米ツアーは映画化され、空前のヒットとなっている。
コンサートに行けないファンは$19.89(2,950円)で擬似体験できる。

この映画は撮影スタジオ・配給会社を介さず、自身で製作から配給まで
仕切っているそうだ。







↓映画「TAYLOR SWIFT | THE ERAS TOUR」のトレーラー
https://youtu.be/KudedLV0tP0?si=5d_BipW4PP2Uxzv0



告知・宣伝には金をかけていない。
巨額の費用をかけてTVCMを打たなくても、ファンベースのマーケティ
ングで集客できることを彼女は心得ている。

2億枚以上のレコードを売り上げ、Spotifyで最もアクセスが多く、若者
に最も大きな影響力のあるテイラー・スウィフトは、やり手のビジネス
ウーマンでもあるのだ。







<The Eras Tour 海外のチケット代相場との比較>

チケット代の各国の経済・消費レベルを考慮した上で、テイラー本人
が決めているという。(8)

全米のチケット平均価格は$253(37,400円)。(9)

2023年の全米ツアー開始時のチケットは当初$49〜$499(7,300〜
73,000円)だったが、その多くは転売され数千ドル(40〜80万円)
まで高騰した。

CNNによると、アトランタで最高$35,000(518万円)、アリゾナ州
グレンデールでは$17,000ドル(252万円)の値がついたという。





それよりもずっと安い価格でテイラーに会えるのだから、日本のファン
は幸せなのかもしれない。



東京公演の後、2月下旬はオーストラリアで7公演が行われている。
ちょうどメルボルン公演を終えて、シドニー公演が始まった頃だろう。

チケットの争奪戦は壮絶だったらしい。
最も高価なチケットはAU$1,250(122,000円)(10)と日本とほぼ同じ。

国内外からの来場客の長距離旅行が、メルボルンとシドニーの宿泊需要
を押し上げ、観光業全体に恩恵をもたらしている、とオーストラリアの
ホテル業界団体はコメントしている。






3月に予定されているシンガポール国立競技場での6日間の公演チケ
ット30万枚は数時間で完売したという。
2200万人以上が先行予約に登録し、当選倍率は73倍を超えた。

物価が高いシンガポールだがチケット代は、S$108〜348(11,900〜
38,280円)、VIPパッケージの最高額はS$1,228(135,000)円(11)
で東京とさほど変わらない。






今回ツアーに入っていないバンコク、マニラ、ジャカルタ、ソウル、
香港、上海などアジアの都市から参戦するSwiftiesも多いだろう。

アクセスしやすいのはシンガポール、東京、オーストラリア。
中でも東京はお安く泊まれてグルメも観光も効率よく楽しめる。






10年くらい前の話だが、「コールドプレイのチケットが東京で取れな
いので札幌に観に行く」と友人から聞いて「その手があったか」と
感心したものだが、今やそれどころではない。

推しの全公演制覇のために全国行脚、海外遠征も珍しくない。
Swiftiesの中にも、全世界をテイラー・スウィフトと一緒に移動する
スウィフト・ノマド(遊牧民)とも言うべき人たちがいるそうだ。


もしかしたら大物アーティストの積極的な招聘こそ観光立国への一手
になるかもしれない、という気がして来た。







<今後の課題:チケット代格差、その対価は適正だったか?>

コンサート自体の満足度は高い一方で、高額なチケット代に見合う席
ではないなどの不満、観客のマナーの悪さを訴える声がX(旧Twitter)
で相次いでいる。

・最もステージに近いはずのVIP席でテイラーを近くで見れなかった
・勝手に席を移動する客が多かった
・VIP席の前に人が大勢集まってステージがよく見えなかった
・花道周辺に数百人の人だかりができテイラーが動くと一緒に移動する
・大勢の客が立ちスマホを頭上に掲げて動画を撮るので見えなかった
・スタッフが「マナー悪いですよ!自分の座席で見てください!」など
 と大声で呼びかけていた、コンサートが始まる前に注意して欲しい





一つの要因はスマホ依存文化にあるのかもしれない。
スマホで撮った画像や動画をSNSにアップして「テイラー・スウィフト
を観たよ♡」を仲間、フォロワーと共有したいのだろう。

うまく撮るために立ち上がって頭上にスマホを掲げることになる。
撮影スポット確保のため、ステージや花道の前に陣取る輩も出てくる。
誰かがやれば、他の人も追随して人だかりができてしまう。






以前は禁止されていたコンサートのスマホ撮影は黙認なのか、アーティ
スト側が公認しているのか?

開演中「マナーが悪い、自分の席で見て」と怒鳴るスタッフも不快だ。
無理に制止すれば、乱闘になりかねない。






ステージ・花道・通路にはスタッフを配され、バリケードも設けてある。
突破して群がる観客を制止できなかったのだろうか?
こういう時は初動が大事だ。開始前にアナウンスをするべきだった。


来日公演はエイベックス・エンタテインメントとアメリカのライヴ事業
を手がけるAEG Presents社が3年前に共同設立したAEGXが主催した。

ウドーやキョードーならこういう失態をおかすことはなかったと思う。


<脚注>

2024年2月16日金曜日

「What a Fool Believes」パクり疑惑曲?を集めてみた。




「What a Fool Believes」はドゥービー・ブラザーズだけでなく、音楽業界
全体に大きな影響を与えた。
歌手、ミュージシャン、プロデューサー、作曲家、アレンジャーたちはこの
曲の中毒にかかり、マイケル・マクドナルド調を真似をしたものだ。

そして1980年年代初頭、多数の「What a Fool Believes」もどき、マイケル
・マクドナルドのパクりが量産される。
その結果、AORの定型化の一因となってしまう。マンネリ化だ。

またかよ!変わり映えしない同じリズム、鼻につく同じサウンド。
都会的でオシャレなイメージにもいいかげん飽きてしまう。
うんざりだ、お腹いっぱい、もう聴きたくない、と思うようになる。




(写真:GettyImages)



今回はそんな「What a Fool Believes」もどき、クセになるマイケル・マク
ドナルド風の曲をご紹介しよう。







↓ロビー・デュプリーのデビュー曲「Steal Away」(1980年)
一人ドゥービーとも言われた。笑っちゃうね。風貌もなんとなく。。。
https://youtu.be/qvvhCzDobRE?si=wJGPQ2XM9iTy96Hl




↓エイミー・ホーランドの「Show Me The Way Home」
(1979年)
ご主人のマイケル・マクドナルドが作曲とプロデュースを手がけている。
似てるのも当り前っちゃー当たり前。





↓ポインター・シスターズの「He's so Shy」(1980年)
ブラック・コンテンポラリーにもパクりが拡がった。
https://youtu.be/a2yY4zXLEnU?si=BCEw-hpFhsbHQ_Aj






↓ジャイムス・イングラムの「Yah Mo B There」(1983年)
似てるのも当然。マイケル・マクドナルドが共作で歌でも参加してる。
(クインシー・ジョーンズも共作にクレジットされている)
https://youtu.be/HQ1nvhLf1EU?si=f7QKXxyaGXsyxx8m




改めてマイケル・マクドナルドってブルーアイド・ソウルなんだな〜
とつくづく思う。
彼のルーツはモータウンらしいし。




↓ドナルド・フェイゲンの「I.G.Y.」(1982年)
スティーリー・ダン出身だから同じ穴の狢?でどことなく似てる。
https://youtu.be/Ueivjr3f8xg?si=sjYG8fx-mAtulZVu





↓ウィルソン・ブラザーズの「Can We Still Be Friends」(1979年)
https://youtu.be/EfaZAp4DJWc?si=QGUOsOzWdjvZZ3Xv
トッド・ラングレンのオリジナル(1978年、What a Fool Believes
より先に発表)に忠実。似てるのは偶然?






↓ジョン・ヴァレンティの「Stephanie」(1981年)→確信犯だな。
https://youtu.be/ksK-Sizcj-E?si=iOjyMmoKJvbI0wyM






↓ロニー・ミルサップの「If You Don't Want Me To」(1980年)
カントリー歌手だが、もろパクってる。
https://youtu.be/TVhrSI6ZZR0?si=hcPNjhfpDwF0mtu7



↓ブルックリン・ドリームズの「I Won't Let Go」(1980年)
キーボードのカウンターメロディ、リズムのキメや転調まで似てる。
https://youtu.be/AOTMiTPlrsQ?si=tFPHUukZvs0xXp5h



        ↑カヴァーアートの写真はノーマン・シーフ撮影だと思う。




↓ブラジルの歌手ヒタ・リーリタの「Lança Perfume」(1980年)
https://youtu.be/zFIqVUrh3zw?si=j66GRwXhnbSeTeCR


↓ジョン・オヴァニオンの「Our Love」(1982年)
この人が出てきた時はいよいよAORもおしまいと思った。
https://youtu.be/gmZlfH5ORtU?si=szlDXSMhoQSChBfR




↓クリストファー・クロスの「All Right」(1983年)
ぎりぎりセーフかなー。やっぱ似てる気がする。
https://youtu.be/yGKeY0NfT84?si=I3-ECY0rLMz2_PBt





↓セルジオ・メンデスの「Never Gonna Let You Go」(1983年)
作曲はジョンとポールも憧れたシンシア・ウェイル=バリー・マン。
デヴィッド・フォスターかジェイ・グレイドンの曲っぽい気もする。
難解なコード使い、歌メロ途中の転調を繰り返す点、サウンドの面
でもマイケル・マクドナルドの影響があったと思わせる。
いい曲だ。歌はジョー・ピザロ&リーザ・ミラー。懐かしい〜。
https://youtu.be/ZtcfEMf3NxU?si=vKCTVOG2wFWn98LX






↓カーラ・ボノフの「Somebody's Eyes」(1984年)
この人までとは。とほほ・・・
https://youtu.be/3G69aXG8C98?si=PukiKIvfJnNM0MyO



↓キャプテン&テニール「Love Will Keep Us Together」(1975年)
実は「What a Fool Believes」の元ネタはこれ!という説が有力。
https://youtu.be/GpBZNh70uhA?si=KPrEW8F7UiLpiS6f







「What a Fool Believes」の影響は日本のポップス界にも



松任谷由実「サーフ天国、スキー天国」(1980年)
名盤「SURF & SNOW」収録曲。
https://youtu.be/dEWiaN19e44?si=WQSxwlxYuLTe4GHd

↓松任谷由実「灼けたアイドル」(1980年)
これも「SURF & SNOW」収録曲。
https://youtu.be/yDTqpabiDwo?si=p_axp0n0_y1t3WDp




↓松任谷由実「土曜日は大キライ」(1986年)
https://youtu.be/hav99UbwXeE?si=rUtzru1hfWZHuQCO



松任谷正隆氏が強引にリアレンジ?思いきや、ご本人のお気に入り。
自身のラジオ番組のイントロ特集で「What a Fool Believes」を
取り上げたことがあるらしい。

「いままでの音楽体験を振り返っても衝撃的なイントロだった」
と言っている。
上述の3曲は「What a Fool Believes」の影響をユーミン流ポップス
へと見事に昇華した傑作と言ってもいい。



当然、筒美京平先生も放っておくわけがない。
さりげなくマイケル・マクドナルドを作品に取り入れている。



↓大橋純子「たそがれマイ・ラブ」(1978年 作曲:筒美京
カーリー・サイモンとマクドナルド共作、ドゥービーズでも取り
上げた「You Belong To Me」が元ネタ?
https://youtu.be/jSSXP7dju8w?si=nz4G8F4tbU3sdmEF




↓麻倉未稀「女嫌い」(1982年 作曲:筒美京
マイケル・マクドナルドがソロ名義で発表した「I Keep Forgettin'」
に似ている。
https://youtu.be/ZEujDKtvQhM?si=yNDHzCAVi1z1Vt92





↓佐野元春「Good Vibration」(1981年)
https://youtu.be/OxSX3Y6rqPY?si=ub1qdELMY4jIWpC5



松田聖子「Sailing」(1981年 作曲:財津和夫)
https://youtu.be/c00MTEOY8rM?si=3KvRgdbpxVfdUZSx







↓和製AORといえばこの人!角松敏生「Rush Hour」(1982年)
https://youtu.be/SlmQbZzqrZs?si=UPn_CqCoVKs337PE



↓安全地帯「Happiness」(1984年 シングルB面)
https://youtu.be/oU8kE0gKpS0?si=RcoSOIAqWSnwSo8R





↓KAN 「言えずのI LOVE YOU」(1988年)
https://youtu.be/42VN273Qj7w?si=xhVF1uGj75U5keeD
KAN作曲の「水色想い」(2009年 歌:真野恵里菜)も似てた。

↓岡村靖幸「だいすき」(1989年)
https://youtu.be/Kselw7eUfDM?si=XqwK1HXspKcZjlSl



洋楽は1980年代にマイケル・マクドナルド風の曲調、ピアノのリフ
をパクった曲が大量に流通したが、その後は沈静化した。

一方、日本のポップスでは2000年代になって作り手が世代交代
してから、再びマイケル・マクドナルドもどきがちらほら出現。







たぶんだけど、英語圏の国と比べると日本では1970〜1980年代の
洋楽を一般の人が耳にする機会は減る。

2000年以降は国内の音楽マーケットは圧倒的に邦楽>洋楽である。
だからアーティストたちには「What a Fool Believes」が新鮮に聴
こえるし、リスナーに振ってもネタバレしにくい。
あー、あれをパクったのね、と思うのは中高年だけだ。

いずれにしても「What a Fool Believes」は時代が変わっても通用
することが、日本で証明されたわけだ。




↓AIKO「心日和」(2001年)
https://youtu.be/EXBcw8HBwnM?si=C-jW2_Xn3flVKJP8


Sugar's Campaign「ネトカノ」(2012年)
https://youtu.be/mQnZKV6Q_Y8?si=3uVxfqqV7yAom7n9





指田郁也「パラレル=」(2013年)
https://youtu.be/qKOarXHamJA?si=_RiiZpcaZMfcgrCp



 ↓キリンジ「非ゼロ和ゲーム」(2018年)
https://youtu.be/sgHpHH4gJFc?si=aVnEo-7zmyotjc78





↓TOMOO 「らしくもなくたっていいでしょう」(2020年)
らしくもなくたっていいでしょう〜♫のリフレイン部で聴ける。
https://youtu.be/rO65z_od33c?si=X30hw_q5U4UX0jVg



↓藤井風「花」(2023年)
https://youtu.be/rY3JFD52ipk?si=FvZ1ZrXWnPIBL8eL




※藤井風は「What a Fool Believes」もカヴァーしている。

2024年2月6日火曜日

マイケル・マクドナルドの功罪。ある愚か者の場合。



(写真:GettyImages)



ロック・バンドはデビュー時と変革期がおもしろい。これは持論。

ドゥービー・ブラザーズの場合、デビュー・アルバムはイマイチだったが。




(写真:GettyImages)




<マイケル・マクドナルドによるドゥービー・ブラザーズ革命>

ドゥービー・ブラザーズくらいメンバー・チェンジが激しく、それに伴い
音楽性が大きく変容したバンドは珍しいかもしれない。

1970前半(トム・ジョンストン期)は豪快なサザン・ロックが柱だった。
ワイルドなツイン・ギターに加え、ツイン・ドラムと黒人ベーシストによる
力強いファンキーなリズムセクションでドゥービー・サウンドを確立する。






CSN&Y直系の美しく重厚なハーモニー、アコースティックギターを使った
カントリーやフォーク色の強い曲も魅力だった。

初期のドゥービー・サウンドは「ハーレーダビッドソンに跨って荒野の中、
アメリカの国道を爆走する」イメージと形容されることがある。
実際にステッペン・ウルフやオールマン・ブラザーズ・バンドと並んで、
ドゥービーズはバイカーに人気があった。




(写真:GettyImages)



1970年代後半バンドの顔だったトム・ジョンストンが健康状態悪化で脱退。
代役としてスティーリー・ダンのツアーメンバーだったマイケル・マクドナ
ルドが加入する。(マイケル・マクドナルド期

マクドナルドを推したのは、1975年にドゥービーズのメンバーに加わった
ジェフ・バクスターで、彼もスティーリー・ダン出身だった。



(写真:GettyImages)



バンドの音楽性は、トム・ジョンストン期の野性味あふれるアメリカン・
ロックから、洗練されたAOR(1)へと変化して行く

アルバム「Takin' It to the Streets」 (1976年)は従来のアメリカン・
ロックとスティーリー・ダン色の濃いAORの折衷的な作品となった。
バンドの変わり目となった本作が一番美味しい気がする。






マイケル・マクドナルド期のドゥービー・サウンドは「ロデオドライブ(2)
でかいアメ車をゆっくり転がす」イメージとも言われる。



1978年のアルバム「Minute by Minute」はマイケル・マクドナルド期の集
大成ともいえる作品で、全米1位を獲得。商業的成功と評価を得る。






収録曲「What a Fool Believes」も全米1位を獲得。
グラミー賞最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞を受賞した。
良くも悪くもドゥービーズの頂点であり、AORサウンドのスタンダードとして
一世を風靡した






↓ドゥービー・ブラザーズの「What a Fool Believes」が聴けます。
https://youtu.be/exnHAdopRxA?si=4Ud-tQwHgZkxuo6s



次作「One Step Closer」はもはやドゥービー・ブラザーズではなかった。
初期のメンバーはパット・シモンズのみ。
マクドナルド化がさらに進み、ロックと呼べない腑抜けの音になっていた。
イーグルスと共にアメリカを代表するロック・バンドはこうして解散した。




<「What a Fool Believes」はどうやって作られたか>


この曲はマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスの共作である。






ケニー・ロギンス宅に遊びに行った際、曲の原型はすでにでき上がっていて、
マクドナルドが例の印象的なピアノのリフを提案した、という説。

マクドナルドが原型を作り、彼の自宅を訪れたロギンスのアイディアでブリ
ッジ部分が完成した、という説。2つある。


ケニー・ロギンス版がアルバム「Nightwatch (1978年7月)」で先に発表
される。これは愛聴盤だった。





↓ケニー・ロギンスの「What a Fool Believes」が聴けます。
https://youtu.be/aczBRE2S6h4?si=po2xwdPsfSaY5ElK



同年12月にドゥービーズ版がアルバム「Minute by Minute」に収録。
シングルカットもされ、全米1位の大ヒットとなった。
一般的には「What a Fool Believes」といえばドゥービーズだろう。



      

ステージから降りてきたところを撮影したので汗びっしょりだそうだ。




イントロ〜ヴァースはあのスタッカートとシンコペーションが効いたピアノ
の伴奏に乗せて、親しみやすく耳にのこるメロディーが歌われる。

テンションコード(3)、分数コード(4)など、ジャズで用いられる複雑で難解な
コード進行が続き転調を繰り返すが、それを感じさせない美しいメロディ
せいか、聴いてる分にはポップなノリのいい曲だ。



ロック畑のギタリストがコードネーム入りのリード譜を渡されたら、かなり
戸惑うのではないかと思う。「何だ、これ?どうやって弾くんだ?」と。
ピアノのコードをそのままギターで弾こうとすると無理がある。





スティーリー・ダン出身のジャフ・バクスターはお手のものだろうし、解散
前に加入したジョン・マクフィーも器用だから難なくこなせるだろう。
フォーク、ロック・ギタリストのパット・シモンズには敷居が高く、面食ら
ったのではないかと思うが、慣れてるのか弾きこなしていた。
プロってすごいんだな。。。




<「What a Fool Believes」の曲構成、複雑なコード進行>

調べてみたところ、採譜者によってコードネームがずいぶん異なる。
テンションコードは同じ構成音でも解釈しだいで、いろいろな代理コードと
して考えられるからだ。

テンションコードを用いると和音が濁る=コード進行を不明瞭になる。
コードが変わったことに気づかせない(コード・チェンジをスムーズに切れ
目なく行う)方が洗練されている、というジャズ・コード理論をマイケル・
マクドナルドはこの曲でも応用している。


小難しいコード進行に凝りすぎると、メロディが付けにくくなるものだが、
複雑な構造に包まれながら美しく聴きやすい作風に仕上げてるのがすごい。
サラッと聴けるし、深く掘り下げることもできる名曲である。




(写真:GettyImages)



曲は3つのパートで構成されている。
イントロ〜ヴァース(Aメロ)He came from somewhere back in her 
long ago〜は単純そうだが、かなり難解なコード進行(5) キー=D♭。


ブリッジ(Bメロ)She had a place in his life〜は素直なコード進行。
ここはケニー・ロギンスが作ったのかもしれない。

後半のAs he rises to her apology〜はコーラス(Cメロ)で転調するため
の伏線。
マイケル・マクドナルドならではの凝ったコード進行で、やや強引な転調
なのにそれを感じさせない繋げ方だ。


コーラス(Cメロ)What a fool believes, he see〜でキー=Eに転調。
メロディはそのまま続くのにコードだけ転調という離れ業!

ここも素直なコード進行。ケニー・ロギンスっぽいメロディーに思える。
ヴァース(Aメロ)で魔法のように元のキーに戻るのもお見事!


 




1993年にケニー・ロギンスがレッドウッド国立公園(6)で行った屋外ライヴ
では、マイケル・マクドナルドをゲストに招き「What a Fool Believes」
をデュエットしている。



↓ロギンス&マクドナルドの「What a Fool Believes」が聴けます。
https://youtu.be/SmHrlKaOBYc?si=gon8JUC4lTpapXLr






上述とは逆でヴァース(Aメロ)はケニー・ロギンス、ブリッジ(Bメロ)
はマイケル・マクドナルド、コーラス(Cメロ)はケニー・ロギンス主導
の二重唱である。

どっちがどのパートを作ったのか分からなくなってくる。
いずれにしても複雑なコード進行はマイケル・マクドナルドが考え、二人
で練り上げたのだろう。








マイケル・マクドナルドは米Vulture(7)のインタビュー(2021年)で
「What a Fool Believes」について「キーボード奏者のための最もオタク
な曲」「複雑なコード進行、カウンターリズム、キーの変化などの実験が
楽しくて夢中になっていた時期だ」と答えている。







<「What a Fool Believes」がもたらしたもの>

ドゥービー・ブラザースは、マイケル・マクドナルドの加入(とトム・ジョン
ストンの脱退)で土臭さを一掃。
ジャジーなキーボード主体の都会型ポップ・ロックに大変身した。

「What a Fool Believes」はその頂点であり、ヨットロック(AOR)(8)
典型として大量に増殖し、消費されて行くことになる。


(続く)


<脚注>