2026年2月2日月曜日

UKネオソウルの歌姫 オリヴィア・ディーンを聴きながら。




オリヴィア・ディーンを聴きながら(1)書いている。

昨年から彼女の歌を聴くようになった。Diveが好きで何度もリピートしてる。
体が自然に横揺れのリズムを取ってしまう。聴き心地がいい。

海岸通りを車で走りながら聴いたら気持ちいいだろうなー。
温かい季節なら、片手を出して風を感じながら。





Olivia Dean - Dive



1960年代のソウル1980年代のブラック・コンテンポラリーを思わせる。
ジャズ、サンバ、ボサノヴァのグルーヴや温かみがあるサウンドも感じる。
それらに2020年代のUKポップが絶妙にブレンドされているのだ。

彼女の歌はどこかノスタルジックでありながらモダンでもある。
UKネオソウルと呼ばれることも多い。


 



オリヴィア・ディーンの歌声は、肩の力がふっと抜けるような軽やかさと、
芯のある強さ、のびやかで豊かな響きが同居していて耳馴染みがいい。

声を張り上げることなく自然体で歌うだけで充分な音量(2)が出るのだろう。
スモーキーなファルセット、エキゾチックでシックなスタイルはちょっと
1980年代のシャーデーを彷彿させる。






<Diveの歌詞>

歌詞は新らしい恋への期待感、何かが始まりそうな胸の高鳴り、相手を信頼
して身を委ねる大人の女性の決意が感じられる。



Dive - Olivia Dean 対訳:イエロードッグ
(今回はAIに手伝ってもらいました。Thanks! Google Gemini)

It isn't working I'm a tidal wave of question marks
And you're just surfing Leaning into me like it's an art
うまくいかないの 私の心は疑問符の波に飲み込まれそうなのに 
あなたはただその波を乗りこなす 芸術的にぴったり 私に身を寄せてくる

It's so crazy Lately you just understand my feelings 
Make me see I'm capable and fine
And feeling beautified Tonight, I'm ready to dive
すごいよね 最近のあなた 私の気持ちをちゃんと分かってくれる
何でもできそう、大丈夫って思わせてくれるの 
心が洗われて今夜はキレイになった気分  
わたし 飛び込む準備ができてるわ

Maybe it's the loving in your eyes (I'm here, see through)
Maybe it's the magic in the wine (I'm feeling loose)
Maybe it's the fact that every time I fall, I lose it all
But you got me from my head to my feet
And I'm ready to dive

あなたの瞳に愛が宿っているからかな(私はここよ、よく見て) 
ワインの魔法が効いているせいかしら(いい感じに酔ってるの) 
恋に落ちるたびに 何もかも失ってきたからかもしれない 
でもあなたは私のこと ぜーんぶ分かってるよね
だから わたし 飛び込む準備ができてるの







<Diveのコード進行>

オリヴィア・ディーンがピアノを弾きながらDiveを歌うヴァージョンがある。


Olivia Dean - Dive (Acoustic)


公式録音とはまた一味違うすっぴんの良さ、という印象。
これを聴くと、キャロル・キングの影響を受けてるのかな?と思う。






コードを耳コピで拾ってみた。キーFで演奏されている
(公式録音はキーG ※後述)



コード進行はきわめてシンプル。
Aメロ〜Bメロとコーラス部(サビ)のコード進行はほとんど同じ。

maj7やm7の多用で、都会的で洗練された大人の女性の恋に揺れる気持ち
うまく表現している。

特筆すべきは、I'm ready to diveのB♭m7→Gm9/C(赤字の箇所)
ここだけB♭maj7ではなく、マイナーコードのB♭m7に置き換わっている。(3)
一瞬だけムードが変わり、ふっと切なさを感じさせる。

次のGm9/Cは二層構造の分数コード。(4)
上のGm9は次に来るB♭maj7と構成音が似てるので繋げやすい。
一方、下(ベース)のCはキーのFに帰結しやすい。





[Verse 1]

B♭maj7
It isn't working
F maj7
I'm a tidal wave of question marks
B♭maj7
And you're just surfing
F maj7
Leaning into me like it's an art

[Pre-Chorus]
        Am7
It's so crazy
Dm7             Gm7
Lately you just understand my feelings
Am7     Dm7     Gm7
Make me see I'm capable and fine
    Am7     Dm7     
And feeling beautified  
Gm7                        B♭m7     Gm9/C
Tonight, I'm ready to dive

[Chorus]
                              B♭maj7                            F maj7
Maybe it's the loving in your eyes (I'm here, see through)
                            B♭maj7                        F maj7
Maybe it's the magic in the wine (I'm feeling loose)
                               Am7    Dm7     Gm7
Maybe it's the fact that every time I fall, I lose it all
            B♭m7                      Gm9/C
But you got me from my head to my feet
                         B♭maj7   Fmaj7    B♭maj7   
And I'm ready to dive






尚、公式音源はキーがG。
ピアノ弾き語りのデモやライヴではキーFで演奏されている。

キーFが彼女が余裕を持って歌いやすいキーなのだろう。
公式音源をGに上げたのは、ポジティブな印象(明るく、軽く、活発、
開放的)を出すためではないだろうか。(5)




<異例の速さでリスナーを魅了したオリヴィア・ディーン>

オリヴィア・ディーンは1999年ロンドン生まれの女性シンガー。
ジャマイカ系ガイアナ人の母とイギリス人の父との間に生まれた。

母親はR&Bが好きで、ローリン・ヒルなどネオソウルもよく聴いていた。
父親はレゲエやキャロル・キングなどを愛聴していたという。

8歳からゴスペル合唱団で歌い、芸術系のブリットスクールを卒業。





デビュー後、Spotifyの月間リスナー数は2,500万人を突破。
グラストンベリーなど世界的フェスに出演し、着実にキャリアを重ねてきた。

サム・フェンダーとはコラボ曲を発表し、サブリナ・カーペンターのツアー
ではオープニングアクトに選ばれ、アーティストたちからも高い評価を得る。

日本でもサマーソニック2024へ初出演、東京での単独公演を実現させた。






2023年のデビューアルバム「Messy」がマーキュリー賞にノミネートされる。
Diveは本アルバム収録曲で、 恋に落ちる瞬間の不安と高揚感を歌ったオリヴィ
ア・ディーンを象徴する一曲でもある。

2025年の2ndアルバム「The Art Of Loving」は全英で初登場1位を記録。
アルバムからシングルカットされたMan I Need(6)は英国、オランダ、オース
トラリアなど7か国で1位を獲得。
アメリカでも最高4位を獲得し、グラミー最優秀新人賞にノミネートされた。
                   ↓
      2/2追記)グラミー2026 最優秀新人賞受賞決定!🥂🍻








<オリヴィア・ディーンのライヴ・パフォーマンス>

オリヴィア・ディーンのライヴ・パフォーマンスは定評がある。

Olivia Dean - Dive (Later... with Jools Holland)






2026年4月〜6月にロンドンのO2アリーナ(収容人数2万人)で4公演を行うこと
発表された。
オリヴィア・ディーンにとってはキャリアの大きな節目であり夢の達成でもある。
世界で最も有名なアリーナの一つでヘッドライナーを務めるのだ。
4夜公演はすべて完売。2夜公演が追加された。





次は北米ツアーだろうか。日本には来るのだろうか。
ブルーノート東京やビルボードライブ東京のような小会場で見れたら最高だが。
ドームは勘弁してほしい。せめて東京国際フォーラムくらいなら・・・無理か。
グラミー最優秀新人賞だもんね。アリーナ級アーティストになっちゃった。




<映像作品での使用>

DiveはNetflixのドラマ「ハートストッパー」で使用されている。
ドラマ「セックス&ザ・シティ」の新章ではThe Hardest Partが使用された。
オリヴィアは映画「ブリジット・ジョーンズの日記」最新版のために新曲、It 
Isn’t Perfect, But It Might Beを提供している。






<ファッション界も注目>

豊かな文化的背景を反映させた楽曲で今の女性のリアルを表現していること、
若者に支持されていること、知名度が上がり確固たる存在になっていること。

そして、このビジュである。カッコいい!何を着てもサマになる。
ファッション業界が放っておくわけがない。





シャネルは1stアルバム発売前にオリヴィアをアンバサダーに早々と指名。
アディダスはオリヴィアとコラボしたカプセルコレクションを発表。
バーバリーのフレグランス「Her」のキャンペーンモデルにも就任している。

ヴォーグ・シンガポールは2024年に、ヴォーグ・オーストラリアは2025年
にオリヴィア・ディーンをカバーガールに起用。
それぞれファッション特集やインタビューが掲載された。








<なぜオリヴィア・ディーンは人々を惹きつけるのだろう?>

まず楽曲の圧倒的な入りやすさ歌詞の共感しやすさ
自然体の歌声の耳馴染みのよさもある。

シンプルなバンド編成とアレンジ(過剰なプレイはしない)でありながら、
ホーンセクションも加えリッチなサウンドである点も好感が持てる。

そして何よりも、ヴィンテージ感のあるソウルミュージックに現代的なUKポップ
をブレンドした新らしいスタイルが、新鮮で今の気分をうまく掴んだのだろう。
つまり懐かしさ(レトロ)と新しさ(モダン)の組み合わせが巧かった。





こうしたモダンなモータウン解釈、ネオソウルという音楽に再構築して聴かせる
のも、リミックス(7)と言えるかもしれない。

往年のモータウンやスタックス、アトランティックのコテコテの油ギッシュな
ソウルミュージックやR&Bは熱心なファンには受けるが、マーケットは限定的。

オリヴィア・ディーンをきっかけに(ルーツ探求みたいな感じで)シュレルズ、
アレサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハザウェイ、シュープリー
ムスを聴く若い人が出て来るなら、古いソウル・ファンも歓迎するだろう。






Olivia Dean - The Hardest Part

The Hardest Partは別れの痛みを優しく歌った初期の代表曲。
このMVはモータウンのパロディシュープリームスへのオマージュだろう。
優雅な身のこなし、揺れ方、手の動きは本家シュープリームスを凌駕している。





   ↑後のコーラス2人もオリヴィア・ディーン。1人3役で合成している。





最後に2025年秋にシングルカットされたオリヴィア・ディーンのSo Easy 
(To Fall In Love)を聴いて(見て)欲しい。
ボサノヴァ・ポップだ。軽やかさ、しなやかさがいい。心が弾む。

Olivia Dean - So Easy (To Fall In Love) 和訳付き

※バーバリーのフレグランスの広告がしっかり映ります(笑





<脚注>

2026年1月11日日曜日

ビートルズの妹分シラ・ブラックが歌ったStep Inside Love



シラ・ブラックは親しまれやすいキャラ、ユーモア、会話のアドリブ力を
活かし、歌手活動だけではなく司会者、女優としても人気を博す。



↑STVは
スコットランドの放送局(英国の民放局ITV系列)




<TV番組のオープニング曲、Step Inside Love>

1968年にはBBCで初冠TVバラエティーショー「Cilla」の司会を務める






番組のオープニング曲、Step Inside Loveはレノン=マッカートニー
の書き下ろし曲(ポールが単独でシラのために作曲)であった。





Cilla Black - Step Inside Love (Cilla 1968)



番組では毎回、多彩なゲストを迎え、楽しいトークとデュエットを披露。
トム・ジョーンズ、ヘンリー・マティス、アンディー・ウィリアムズ、ルル、
マット・モンロー、クリフ・リチャード、フィル・エヴァリードノヴァン
リンゴ・スタースコット・ウォーカー、ダドリー・ムーア、 T.レックス
フランソワーズ・アルディ、ダスティ・スプリングフィールド、サンディ・
ショウ、シュプリームスツイッギー、ブライアン・フェリーなど。






Cilla Black & Dudley Moore - If I Fell
↑ダドリー・ムーアのアドリブでシラは笑いすぎて歌えなくなってしまう。





「Cilla」は長寿番組となり、1976年まで放映されている。
シラ・ブラックは英国のお茶の間(って変?)の人気者となった。





その後も「Surprise Surprise」(1)「Blind Date」(2)など超人気
の国民的長寿番組のホストを務め、幅広い層から支持された。
OBE(大英帝国勲章第4位)を受賞したのもこの功績が大きいだろう。






本業の歌手活動も1993年までコンスタントに続けている。
ビートルズの妹分(3)として売り出したシラ・ブラックだが、活動期間と
いう点ではビートルズよりも息の長い歌手・タレントとなった。







<ポールのStep Inside Love作曲術>

ポール・マッカートニーという人は器用な作曲家だなとつくづく思う。
It's For Youもそうだが、このStep Inside Loveもビートルズっぽさが
まるで感じられない。
シラ・ブラックに提供することを前提に、ビートルズ路線とは違うアプ
ローチで作曲されている。

もともとロックだけでなく幅広いポピュラー音楽を好み、ポール自身も
ポップスの作曲家を志していたという。(4)


Step Inside Loveはリズムもコード進行もボサノヴァを取り入れてる
半音ずつ下降するコード進行、テンション・コードの挟み方が巧い。


ポールの演奏(後述)を耳コピしてコード譜にしてみた。
ギター持ってる方は弾いてみてください。
(ポールのデモはキーD、シラの公式録音ではキーG )




特に注目すべきはヴァースのfind you a place後のAm7→G#7(#9)
、smile on your face後のG→Gm→F#7(#9)

#9が入った7thコードが2箇所で効果的に配されている。赤字の
とっておきのコード」でビートルズでは2回しか使わなかったそうだ。(5)




ポールのギター演奏は開放弦の共鳴音をうまく活かしている。
既にアレンジが示唆されており、ジョージ・マーティンの書いたスコアも
ポールのデモに忠実である。




<Step Inside Love 制作過程>

ポールは最初のヴァースとコーラス部をロンドンの自宅で書き上げた。
多重録音のデモテープからスタジオで7インチのアセテート盤を制作。






BBC側からより長い尺を求められ、ポールはBBCシアターに赴き新たなヴァ
ースを加えた。

"You look tired, love"という歌詞は、TVショーのリハーサルを重ね疲れた
様子のシラを見て思いついたという。

フレーズごとの歌詞の韻の含ませ方も職人芸だと思う。



↑ポールが撮影したそうだ。



1967年11月21日にロンドンのチャペル・スタジオでポールのギター演奏
シラが歌うデモを録音。

ポールはシラが歌えるようキーDで作曲している。
それでもシラには少し低すぎたようだ。


Cilla Black and Paul McCartney - Step Inside Love
  (Original Demo)






レコーディング時はシラの音域に合わせて4度上げてキーGに移調。
映像が残されている。(6)

Cilla Black & Paul McCartney - Step Inside Love 
Studio Session (November 21st 1967)






1968年1月30日の番組開始からオープニングで使用された。
シングルの発売は1968年3月8日。

全英シングルチャートで最高位8位を記録。
アイルランド、ニュージーランド、カナダでもチャートインしている。






<Step Inside Love ビートルズ・ヴァージョン>

1996年のAnthology3でこのアウトテイクを聴いた時は驚いた。
録音されたのは1968年9月16日。アビイロード第2スタジオ。

ポール、ジョン、リンゴの3人はポール作I Willのレコーディング中だった。
(ジョージはこのセッションに不参加)

 


ポールはアコースティック・ギター(D-28)を弾きながら歌い、ジョンは
金属片を木片で叩いてパーカッション代わりにし、リンゴがマラカス、ウッ
ドブロックとシンバル、という編成で67テイクを録音。

ポールはアコギを持つと脱線して違う曲を歌い出す奇行(笑)があるらしい。
この日も何度か中断しCan You Take Me Back、Blue Moon、The Way 
You Look Tonight、Los Paranoiasを即興で歌っている。(7)





I Willテイク35の途中でポールはStep Inside Loveを歌い出した
半年前にシラのシングルが発売されているが、ポールはその時のデモと同じ
ギター演奏で歌っている。(8)
(前出のコード譜はこのビートルズのセッション音源から耳コピした)


The Beatles - Step Inside Love (Studio Jam)







実はStep Inside Loveはこのビートルズの音源で初めて聴いた。
ポールがシラ・ブラックに提供したことは知っていたが、彼女の歌もそれ
までは聴く機会がなかった。
今ではシラのStep Inside LoveとIt's For Youもお気に入りである。




<脚注>

2025年12月24日水曜日

ビートルズの妹分として売れたシラ・ブラックとIt’s For You



このところ何度も脳内再生されるシラ・ブラックのIt’s For You。

彼女のファンというわけではない。
Aメロのソフトな歌声は好きだけど、Bメロの力んだ声は苦手かな。
(個人的感想です)


曲やアレンジ、サウンドに惹かれるのだ。1960年代を感じさせる
レノン=マッカートニー作品でジョージ・マーティンがアレンジとプロ
デュースを手がけているせいだろう。



シラ・ブラックとジョージ・マーティン



今回はIt’s For Youを中心に、シラ・ブラックについて。


It's for You (2003 Remaster)
↑曲の前に「僕とポールが書いた」とジョンがコメントしている。







シラ・ブラックという歌手は日本ではあまり馴染みがないかもしれない。

しかしイギリスではOBE(大英帝国勲章第4位)(1)を受賞するくらいで、
人気も実力もあった。
シングル11曲、アルバムも4枚をトップ10入りさせている。

彼女が売れたのは、ビートルズ一派のバックアップのおかげでもある。




<シラ・ブラックとビートルズ>

シラはリヴァプールのキャヴァーン・クラブでクローク係をしていた。
笑い上戸で陽気な性格だった彼女は、キャヴァーンに出演していたデビュー
前のビートルズと親しくなる




歌手志望だったシラは飛び入りでステージに上がり、ビートルズや他の出演
者と一緒に歌うこともあったという。
ロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズ(ビートルズ加入前のリンゴが在籍)
の演奏でリンゴとBoysをデュエットしたという記録もある。




シラはビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインの目に留まる
(たぶんジョンとポールが紹介したのだろう)



シラ・ブラックとブライアン・エプスタイン




↑左からパティ・ボイド、ジョージ・ハリソン、シラ、エプスタイン


エプスタインはシラをジョージ・マーティンに売り込み、ビートルズと同じ
パーロフォン・レコードと契約。レコード・デビューが決まる。
プロデューサーはマーティンが担当することになった。



↑ジョージ・マーティンとシラ


マーティンは著書「耳こそはすべて」で「シラはひどい声だったのでダブル
トラッキング(2)が必要だった」と書いている。ひどい声?(笑)
(2015年にシラが他界した際は「彼女は驚くべき才能を持っていた」とコメ
ントしている。評価が変わった?)



(写真:gettyimages)



1963年レノン=マッカートニー作Love of the Lovedでシラはデビュー。
(全英35位を記録)

共作名義(3)であるが、実質ポールがデビュー前に書いた作品だ。
不合格となったデッカのオーディション(4)で演奏した1曲でもある。
(ジョンとポールはビートルズとして発表するほど完成度が高くないと判断
した曲は他の歌手やグループに提供していた)

まあ、ポールにしてはイマイチだと思う。
デッカの苦い思い出もあってビートルズとしては捨て曲扱いなのかも(笑



↑Love of the Lovedシングル
(英国ではシングルはジャケットなしで販売されることも多かった)




1963年末から1964年初頭にかけてロンドンで開催されたビートルズ・
クリスマス・ショーにシラはゲストとして出演。

ビートルズ(主にポール)による全面的にバックアップは売りになる。
マスコミにも音楽業界にも、ビートルズのファンに対しても。





シラ・ブラック=ビートルズの妹分という文脈で語られるようになった。

エプスタインのマネジメントでレノン=マッカートニー作品を提供され
ていたEMIの他のグループからも可愛がられる。
ひいてはマージービートの妹分的な存在でもあった。



↑ビリー・j・クレイマー&ザ・ダコタス、ジェリー&ザ・ペイスメイカ
ーズと(1964年EMIスタジオ前)



マージービートの売れっ子たちが勢揃い。中央がビートルズとシラ。




<全英チャートにヒット曲を連発する歌手に>

2曲目のAnyone Who Had a Heartで初の全英1位を獲得。
ヒットメイカー、バート・バカラック=ハル・デイヴィッドがディオンヌ・
ワーウィックのために書いた曲である。
流麗で緩急の変化がいかにもバカラックらしい。



↑バート・バカラック(左)ハル・デヴィッド(右)(写真:gettyimages)


※シラは1966年にもバカラック=デイヴィッド作品、Alfie(同名映画
の主題歌)をヒットさせた。
ディオンヌ・ワーウィックのヴァージョンもヒットしている。



↑ディオンヌ・ワーウィックと


↓アビイロード・スタジオでAlfieをレコーディング中のシラ・ブラック。
ピアノを弾きながら指揮をしてるのがバート・バカラック。
コントロールルームにジョージ・マーティンがいるのも確認できる。




↑Alfieのレコーディング
ピアノを弾いてるのがバカラック、右はジョージ・マーティン
 


3枚目のシングルYou're My Worldも全英1位(5)に輝き、シラ・ブラ
ックはデビューから半年でヒットシンガーとしての地位を確立する。






<レノン=マッカートニーの隠れた名曲、It's for You>

4曲目は再びレノン=マッカートニー作品。
ポールはヒットしたAnyone Who Had a Heartをモデルにジャズの
スイング感たっぷりのワルツ、It's for Youを書きシラに提供した。
全英7位を記録するヒットとなる。



       ↑It's for You シングル



シラは「It's for YouはAnyone〜とは別物」と解釈してるという。
ポールによると「映画ウエストサイド・ストーリー挿入歌、A Boy Like 
Thatからヒントを得た」そうだ。
ポールは「レノン=マッカートニーの最高作の一つ」と自信を見せる。





物憂げな美しいメロディはポール節だが、ジョンっぽい切なさも感じる。
クレジットだけでなく、ジョンも手伝ったのではないだろうか。

1965年に放送されたTV特番The Music Of Lennon and McCartney
では、ポールが「素晴らしい、才能ある・・・あと何だっけ?」とボケを
かまし、ジョンは「素敵な娘、おバカさんで」と嬉しそうにシラを紹介。
笑い上戸のシラとビートルズとの仲の良さを垣間見ることができる。



↑TV特番The Music Of Lennon and McCartneyより。



Cilla Black - It's For You (Live)




<It's for Youの曲構成、コード進行、アレンジ>

マイナー調の分数コード(6)で下降し、一時転調で変化を加えている。

ポールのデモ(7)(キー=Am)、シラのヴァージョン(キー=Cm)から
コードを拾ってみた。


(Verse) Aメロ
Am  Am/G D/F# Dm/F
I'd say      some day
C                  F         B♭6    E♭             Dm7  G7/D
I'm bound to give my heart away When I do
           Am  
It's for you  (repeat)

(Bridge) Bメロ
E                    Am             
They said that love was a lie Told me that I
Am7                      D
Never should try to find
Dm7                       Am     Bm7(-5)      E7
Somebody who'd be kind   Kind to only me   (repeat)






サビでは音数が増え、急かされるようなメロディで駆け上がる。
ブレイクしてまたAメロ(ヴァース)へ。繋ぎ方が巧い
間奏でスピードアップし、シンコペーションを多用するのもカッコいい。
テンション・コード(8)も効いてる。

ざっくりしたアレンジはポールが考え、オーケストレーションはジョージ
・マーティンが担当しスコアを書いたのだろう。
ジョージ・マーティンのオーケストラが演奏している。





1964年7月の録音、つまりYesterdayの1年前に既にビートルズというバ
ンドと別に、オーケストラを採用した楽曲制作を行なっていたわけだ。
ポピュラー音楽の作曲家を目指していたポールにとっては節目となる作品
で、実験的な試みとなった。



映画「Family Way(1966年12月公開 邦題:ふたりだけの窓)の音楽
担当への布石とも言える。


Love In The Open Air'The Family Way'P. McCartney 1966
↑哀愁のあるメロディはIt's For Youに通じるものがある。




↑Family Wayのサウンドトラック



↑地味だけど味わい深い、何度でも見たくなる英国映画だ。



↑Sgt.Peppers制作開始前の1966年11-12月に作曲〜録音された。




次回はポールがシラに提供した3作目、Step Inside Loveについて。



<脚注>