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2026年8月1日土曜日

待ちに待った「ラバーソウル」2026リミックスがやっと発売。



<アンソロジー優先で一年遅れとなったラバー・ソウル>

心待ちにしてた「ラバー・ソウル」リミックス盤の発売(10月2日)が発表された。
オリジナル盤は1965年。本来なら昨年、60周年記念盤として発売されるべきだ。

ところがアンソロジー30周年が優先されて立ち消えになったらしい。
ビートルズの歴史を総括し、未発表音源を初お披露目という企画だったわけだが、
そのアンソロジーから既に30年経過してる、という事実に改めて驚く。


1995年にアンソロジー企画の目玉として、ジョンの遺作のデモテープを生存してた
3人が完成させ3つの新曲を発表することになっていた。
Free As A BirdとReal Love2曲はうまく行ったが、残りの1曲Now And Then
は頓挫しお蔵入りになる。

1995年の技術では分離できなかったカセットテープのジョンの声が現在のAIデミッ
クス(1)を使えば可能だ。
であればFree As A BirdとReal Loveもやり直せる、断念したNow And Thenも
なんとか完成させたいポールの執念もあり、アンソロジー企画優先に働いたという
事情もあるだろう。


↑1965年当時のLP出荷前の最終確認


アンソロジーとラバー・ソウルが同年発売だったとしても、買う人は両方買う。
しかし、アップルとユニバーサル・ミュージックの市場分析と意思決定は違った。

「ラバー・ソウル」リミックス2025はどうなる?延期か?無くなるのか?
CDの新譜がほとんどなくなった昨今、今までのようなパッケージ販売は無理か?
多くのファンが心配していたはずだ。2ヶ月後に発売の朗報が入りホッとしている。




<ビートルズ中期の名盤「ラバー・ソウル」の重要性>

「ラバー・ソウル」はビートルズの進化における転換点となった重要な作品だ。
楽曲制作、使用楽器、レコーディング技法において、従来のポップミュージックの
慣習を超え、冒険的なアプローチを試みた野心作といえるだろう。

1曲1曲の完成度が高いだけでなく、アルバム全体として統一された色に彩られた
芸術性の高い、見方によっては長編作品でもあり、後にコンセプト・アルバムと
称される形式の作品の先駆けとなり、高く評価されている。





ブライアン・ウィルソンは「ラバー・ソウル」に触発されて「ペット・サウンズ」
を制作し、ビーチボーイズの新しい音楽性を開拓した。(2)

「ラバー・ソウル」はさらに革新的な次作「リボルバー」への起点となった。(3)
そして世界中を驚かせた「サージェント・ペパーズ」へと続く。


「ラバー・ソウル」は1965年10〜11月の2ヶ月間で制作されている。
2〜5月に映画「ヘルプ!」の撮影、その合間を縫ってアルバム「ヘルプ!」の制作、
8月には全米ツアー、と4人は忙殺されていた。

ヒットメーカーのレノン=マッカートニーもさすがに曲作りの時間が取れない。
アルバム14曲分を揃えるのは難しかった。
そのためジョン曰く「穴埋め」的なやっつけの曲(4)や「ヘルプ!」でボツにした
曲(5)の再利用でなんとか体裁を整えている。





それでもアルバムを通して聴くと完成度が高いと感じるのは、名曲が多いのと
平均点以下でもいい曲に仕上げてしまう4人のアレンジ・演奏力、つまり時代を
制したビートル・マジックなのかもしれない。


1曲目のDrive My Carのど迫力、グルーヴ感でまず圧倒されるだろう。
Michelle、Girlはとことん美しく切ない。
Norwegian Wood、In My Life、Nowhere Man、と内省的な名曲が多い。
I'm Looking Through Youはポールの軽快なカントリー・ロック。
If I Needed Someoneはジョージの代表曲の1つとなった。






<「ラバー・ソウル」では使用楽器も新たに追加される>

ポールはリッケンバッカー4001Sベースを使用するようになる。
Michelleではルート外しのベースラインを披露。ベースの新境地を開く。
この曲ではアコギ(エピフォンFT-19Nテキサン)も弾いている。



↑エピフォンFT-19Nテキサンの5フレットにカポ。
Michelleを弾いてると思われる。



↑リッケンバッカー4001Sを弾くポール。5フレットにカポを付けている。
VOXのアンプに立てかけてあるのは、ジョンのフラマス12弦ギター。


ジョージは初めてNorwegian Woodでシタールを弾く。
お馴染みのグレッチ、リッケンバッカーの12弦に加え、ストラトキャスター、
エピフォン・カジノ、ギブソンES-345TDと音のバリエーションが増える。

ジョンは愛器ギブソンJ-160Eと前作「ヘルプ!」でも使用したフラマスの12
弦ギターを弾いている。

リンゴはラディックのドラムセットだが「フォー・セール」からバスドラム
の口径が22インチと大型化している。



↑アビイロード第2スタジオ。ラバーソウルで使用した楽器が並んでいる。




<「ラバー・ソウル」リミックス切望の理由>

「ラバー・ソウル」は最もリミックスが期待されるアルバムと言っていい。
オリジナルのステレオミックスは左チャンネルに演奏、右チャンネルにボーカル、
と極端な左右泣き別れで、とても不自然だった。

ステレオ盤をモノラルのプレーヤーで再生した時にバランスよく聴こえるように、
とジョージ・マーティンが判断したためらしい。(6)
また一体型のコンソールで左右のスピーカーがあまり離れていないステレオシステム
でも、左右泣き別れの方がステレオ感を味える、という判断もあったのではないか。





1986年に初CD化された際、ジョージ・マーティンによってやや中央よりのミック
スに修正。それでも不自然な左右泣き別れは踏襲されている。
LP時代との違和感がないように、という配慮だったのだろう。

2009年にビートルズ全アルバムがリマスターされるが、「ラバー・ソウル」は
1986ミックス、1965当時のミックスの両方が収録(以前として不自然)。



今回の2026リミックスについては、プロデューサーのジャイルズ・マーティン
とエンジニアのサム・オケルによって、マスタリング以前の音源まで遡り、AI
デミックス(1)も駆使し新しいステレオミックスが行われた。


The Beatles - Rubber Soul (Pre Order Ad)




 

<「ラバー・ソウル」への思い入れ>

「ラバー・ソウル」は初めて買ったビートルズのLPだった。

中学生のお小遣い事情では、なかなか2000円のLPをポンと買うことができない。
僕たちはシングル、コンパクト盤の収集から始め、持ち回りで「まだ聴いてない
LP」を買ってはカセットテープに録音して聴いていた。

僕が買った「ラバー・ソウル」は国内盤だった。
東芝音楽工業(後の東芝EMI)から発売されたものでレーベルはオデオン。(7)





解説書には「ラバー・ソウルは若者の移ろいやすい心、ゴムのようなはずむ心」
を表している」と書いてあった。大嘘だった。

1965年当時、ローリングストーンズのことを黒人のブルースマンが「プラスチッ
クソウル」と揶揄したのをポールが気に入ってよく口にしていた。
「ラバー・ソウル」はそれをもじったものだ。


収録曲の邦題を見て、どの曲か分からず一瞬迷う。今は英題がスタンダードだ。
「嘘つき女」って何だ?「君はいずこへ」ってどれのこと?


Side A 
ドライヴ・マイ・カー  Drive My Car
ノルウェーの森  Norwegian Wood (This Bird Has Flown)
ユー・ウォント・シー・ミー  You Won't See Me
ひとりぼっちのあいつ  Nowhere Man
嘘つき女  Think For Yourself
愛の言葉   The Word 
ミッシェル  Michelle

Side B 
消えた恋 What Goes on
ガール   Girl
君はいずこへ I'm Looking Through You
イン・マイ・ライフ  In My Life
ウェイト  Wait
恋をするなら If I Needed Someone
浮気娘 Run For Your Life






「ノルウェーの森」はすばらしい邦題だが、実は誤訳。(8)

森なら複数形のWoodsのはずだ。
Norwegian Woodは内装や家具に使う安価なノルウェイ産の松材のこと。
当時ロンドンでは、労働階級のアパートに使われる安い木材だったらしい。

でも「ノルウェーの森」というタイトルは(たとえ誤訳でも)、「鬱蒼とした
北欧の森」をイメージさせ、なんだか意味深でいいですね。




<「ラバー・ソウル」2026の発売形態>

1CD デジスリーヴ入り+20ページのブックレット付き

スペシャル・エディション 2CD  
Disc2は未発表のセッション録音やデモ音源、シングル 16曲



スペシャル・デラックス・コレクション 4CD
88ページのハードカバーブック付き
Disc2は未発表のセッション録音やデモ音源、シングル 23曲
Disc3はオリジナル・モノ・マスター
Disc4はオリジナル・キャピトルUS盤(収録曲が英国盤と違う)(9)



Blu-ray(スペシャル・エディション)
2026アトモス・ミックス
2026ステレオ・ミックス 96kHz/24bit PCM
デイ・トリッパー/恋を抱きしめよう ビデオ各2ヴァージョン

ヴィニール盤は5LP+7インチシングル、2LP、LPで発売。
カラーLP(オレンジ)もHMV、タワーレコード限定で発売。






<未発表のセッション録音やデモ音源>

スペシャル・エディション(2CD)の16曲で充分かな。
バッキングの演奏がほとんどで、あまり目玉はないように思う。

1. Day Tripper (Songwriting work tape)
2. Day Tripper (2023 mix)
3. We Can Work It Out (Paul’s demo)
4. We Can Work It Out (2023 Mix)

5. Wait (Take3 instrumental backing track)
6. Run For Your Life (Takes1-5 instrumental backing)
7. Norwegian Wood (This Bird Has Flown)(2nd.ver.Take2)
8. Drive My Car (Takes1&2 instrumental backing track)
9. If I Needed Someone (Take1 instrumental backing)
10. In My Life (Take1)
11. Nowhere Man (2nd.version Take5 inst. backing)
12. Michelle (Take1)
13. What Goes On (Take1 instrumental backing track)
14. I’m Looking Through You (2nd.version Take3)
15. The Word (Takes 1&2 instrumental backing track)
16. Girl (Take2 instrumental backing track)





Day Tripperのワークテープ?は何だろう(ワクワク!)
We Can Work It Outのポールのデモはブートで出回っていた。
Norwegian Wood Take2は最終形に近いが、キーが低く怠い雰囲気。

In My Life (Take1)はアンソロジー4に収録済み

Nowhere Manの演奏とコーラスも、アンソロジー4に収録済み
I’m Looking Through You Take3は初音源?

Michelle (Take1)が公開された。既に美しい。ほぼ最終形。



スペシャル・デラックス・コレクション(4CD)のDisc2に収録される
ジョンのデモ「Little Girl」は初登場音源のようだ。
興味があるが、たぶん数回聴けば納得〜という程度ではないかと思う。
Run For Your Life の原型の可能性もある。





<脚注>

2025年8月25日月曜日

ビートルズ Anthology 2025は買いか?検証してみた。



来る・・・きっと来る・・・そう思ってた。
「Rubber Soul」のリミックス盤発売。なんなら「Help」も一緒に。

あれ?でもこのティーザー、「Anthology」みたい。1、2、3...4?



<停滞するビートルズ作品のリミックス作業>

ビートルズのアルバムのリミックスは2017年「Sgt. Pepper's」で始まった。
1967年にリリースされたこの革新的なアルバムが起点となるらしい。
オリジナルが発売されて50周年記念という売り方だった。


2017年 Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (1967)
2018年 The Beatles(White Album)(1968)
2019年 Abbey Road(1969)



が、2020年に出るはずのアルバムが翌年に繰り越された。コロナのせい?
Disney+の配信ドキュメンタリー「Get Back」編集のためだろう。


2021年 Let It Be (1970)
2022年 Revolver (1966)

そう来たか。1963〜1965年の6枚のアルバムのリミックスはどうなる?
そしてYellow Submarine、 Magical Mystery Tourは?





たぶん2023年にPlease Please Me、With The Beatlesの2枚。
で、2024年、2025年でRubber Soulまで辿り着くのだろう。


という期待は裏切られた。
集金マシンと化したアップルとユニヴァーサルはベスト盤を選んだ。


2023年 The Beatles 1962-1966 1967-1970(青盤・赤盤)(1973)

2024年はリミックス盤発売はなし。
Disney+の配信ドキュメンタリー「Beatles'64」を優先したらしい。



そして2025年。
「Rubber Soul」発売60周年記念ですよ。





ビートルズの転換期、Revolverへの布石ともなる名曲ぞろいの名盤。
にもかかわらずオリジナル盤は左右泣き別れの残念なミックス。

これはリミックスして欲しい。いや、やるでしょ。
今年は「Rubber Soul」。ファンの多くがそう期待してたはず。

できれば「Help!」も一緒にリミックスしてくれ〜。

と思いつつ、もう8月下旬。2025年もあと4ヶ月。
本当に出るんだろうか・・・・




<「Anthology 2025」の発表>

はい。また裏切られました。
今年はAnthology 2025リミックス。







考えてみたらAnthologyも1995-1996年の発表。
もう30年も経っているのだ。その間リマスターもされていない。
(配信の音源はリマスターされているらしい)




21日(英国時間)、「Anthology 2025」のプロモ映像が公開された。
1995-1996年のAnthologyプロジェクトの最新リメイク版であり、音源・映像
・本など一連の商品が発売される。


The Beatles – Anthology 2025 (The music, the book, the series)







<1995年に発売された「Anthology」とは>

スタジオのアウトテイクや別ヴァージョン、未発表曲、ライヴなどを年代順に収録
した2枚組CD×3巻のビートルズのレア音源集。(1995年〜1996年発売)

ビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンがEMIに保管されていた
録音テープや外部の音源をすべて聴き、選りすぐりの音源を丁寧に編集している。


海賊盤でも聴けなかった驚くようなアウトテイクが満載で、ビートルズがいろいろ
なアレンジを試して曲を完成していく様子が楽しめた。





またジョン・レノンが自宅でカセットテープに録音したデモ音源を元に、ポール、
ジョージ、リンゴが新たに歌と演奏を加え完成させた新曲「Free As A Bird」
と「Real Love」も収録された。
(「Free As A Bird」は全米トップ10入りし、グラミー賞部門賞を受賞した)


ドキュメンタリー・シリーズもTV放送され、10時間に及ぶDVDも発売された。
「Free As A Bird」「Real Love」のメイキング映像も含まれている。







<「Anthology 2025」の”売り”と新しい技術>

1)音源のデジタルリマスター
(アナログ音源をデジタル化し、ノイズ除去、音のバランス調整、音圧の最適化
を行い、よりクリアで迫力ある音に蘇らせる)

2)AIを駆使した音源のリミックス
(AIに特定の声、演奏を学習させ、従来はできなかった混濁した音源テープから、
鮮明な音の分離を行う。
ドキュメンタリー映画「Get Back」の撮影用音声テープ(ナグラ)から4人の
声や楽器を独立して取り出すことに成功。
Revolver 2022リミックス、青盤・赤盤2023リミックスで応用された)

3)新たに未発表音源集「Anthology 4」が追加。
(1995-1996年のAnthologyで発表されなかったアウトテイクやレア音源)
2枚組CD×4巻(3枚組LP×4巻)ボックス入りで11月21日に発売される。





4) AIリミックスで2024年に完成させたジョンの遺作「Now And Then」収録。
「Free As A Bird」「Real Love」もAIでよりクリアな音になった。

5)映像のレストア(修復)とデジタルリマスター
(アナログ素材をスキャンし、ノイズ除去や色調補正、高画質化を行う)

6)AIを駆使した映像作品の音源のリミックス
(配信ドキュメンタリー映画「Get Back」「Beatles'64」で使用された)

7)「Get Back」「Beatles'64」に倣いドキュメンタリー映像がディズニー
+で11月26日から配信される。
(8章構成だったドキュメンタリーシリーズに新たな”エピソード9″を追加。
ポール、ジョージ、リンゴの3人がビートルズ時代を振り返る舞台裏映像との
ことだが、これはDVD化された際のボーナストラックと同じ内容では?)






<「Anthology 2025」は買いか?(1)Free As A Bird 2025>

個人的にはFree As A Birdは好きだけど、Real LoveとNow And Then
は好きではない。
AIリミックスが施されたFree As A Bird 2025は聴く価値ありか?



Free As A Bird 2025の先行配信が21日(英国時間)に始まった。
YouTubeのイイネは凄まじい勢いで増えていく。


Free As A Bird (2025 Mix)



劇的に印象が変わった!
ジョンの声の「加工された感」がなくなって生々しい。
ポールとジョージの声も同様。
加工したジョンの声に馴染ませるため濁らせる必要がなくなったのだ。

AIリミックス恐るべし!





ポールとジョージのアコギの音もクリア。
左右それぞれから聴こえるストラミングのクセもよく分かる。
スネアやギターのフランジャーなど、ジェフ・リン臭さが無くなった。
ドラムス、5弦ベースの低音が後退して迫力不足なのは残念。

一方、ジョージが歌う2回目のブリッジ(サビ)〜間奏のスライドギターへの
流れは、オリジナルの方がきれい。
その間奏の間、ポールとジョージのAh....のコーラスが入るのだが、オリジ
ナルでAh⤵︎と下降ラインが入ってたのが、2025Mixでは聴こえなくなった。
これも残念。
それとジェフ・リン臭がよかったのに、という人もいるだろう。


全体としてのリアル感は2025版に軍配が上がる。
しかし最初のオリジナルが不完全ヴァージョンというわけではない。
1995年の時点では、あの音がリアルタイムで聴いたビートルズだったのだ。





30年前の発売日の朝、待ちきれなくて開店した銀座の山野楽器に行ったが、
まだ入荷していないとのこと。
青山で1件、仕事を済ませて渋谷のHMVに行くと・・・入荷していた。

購入したばかりのAnthology1をCDウォークマンで聴いた。
あの時、Free As A Birdを聴いて胸が熱くなった感激は忘れられない。
ビートルズが解散して25年後に「新曲」を聴けるなんて(涙


Free As A Bird 1995オリジナル(映像は4Kレストア版)

↑実に手の込んだプロモ・ビデオだ。
ビートルズの曲ゆかりのエピソードを全編にコラージュしている。
インド象はリンゴのリクエストだったという。
ジョージは最後のウクレレ奏者としての出演を申し出たが「現在のビートルズ
は出したくない」とディレクターは断ったらしい。
「ウクレレがジョージ本人の演奏だと知らなかった。(ジョージが他界した)
今となっては悔やまれる」と彼は言っていた。






<「Anthology 2025」は買いか?(1)Anthology 4>

Anthology 2025 1〜3は1995年のジョージ・マーティン編集そのままで
手を加えず、デジタルリマスターで音質を向上させてるだけ。

当時はレア音源に驚き喜んだけど、マーティン卿の創作が加わっている点、
ライヴなどのパフォーマンスが細切れな点が残念だった。
そこを改善して欲しかったが、マーティン卿の意図を尊重し、1〜3は手を加え
ずそのまま、ということだろう。



では、新しく追加されるAnthology 4はどんな内容なのか?
★は初登場音源。


Disc 7 Anthology 4
1.I Saw Her Standing There(Take 2)★
2.Money(That's What I Want)(RM7 undubbed)★
3.This Boy(Takes 12 and 13)
4.Tell Me Why(Takes 4 and 5)★
5.If I Fell(Take 11)★
6.Matchbox(Take 1)★
7.Every Little Thing(Takes 6 and 7)★
8.I Need You(Take 1)★
9.I've Just Seen A Face(Take 3)★
10.In My Life(Take 1)★
11.Nowhere Man(First version - Take 2)★
12.Got To Get You Into My Life(2nd.ver.-unnumbered mix)
13.Love You To(Take 7)
14.Strawberry Fields Forever(Take 26) 
15.She's Leaving Home(Take 1-instrumental)
16.Baby, You're A Rich Man(Takes 11 and 12)★
17.All You Need Is Love(Rehearsal for BBC broadcast)★
18.The Fool On The Hill(Take 5 - Instrumental)★
19.I Am The Walrus(Take19-strings,brass,overdub)★

1.は海賊盤でも聴ける荒削りな初期テイク。

I Saw Her Standing There (Take 2) [Anthology 4]

2.RM7って何だろう?
3.はFree As A Birdのシングル(1995)に収録されていた。
1.〜11.は初登場音源。
12〜15.はRevolver、Sgt.Peppersのリミックスに収録済み。
16〜19.は初登場音源だがオケだけとか、聴いても面白くなさそう。






Disc 8 Anthology 4
1.Hey Bulldog(Take 4 - instrumental)
2.Good Night(Take10 w/a guitar from Take 5)
3.While My Guitar Gently Weeps(3rd.Version-Take 27)
4.(You're So Square)Baby I Don't Care(Studio jam)
5.Helter Skelter(Second version - Take 17)2018
6.I Will(Take 29)2018
7.Can You Take Me Back?(Take 1)
8.Julia(Two rehearsals)
9.Get Back(Take 8)
10.Octopus's Garden(Rehearsal)
11.Don't Let Me Down(First rooftop performance)
12.You Never Give Me Your Money(Take 36)
13.Here Comes The Sun(Take 9)
14.Something(Take 39 - instrumental-strings only)
15.Free As A Bird(2025 mix)★
16.Real Love(2025 mix)★
17.Now And Then (2024 mix)

1〜14.はWhite Album、Abbey Roadのリミックスに収録済み。
15〜17.は新しいAIリミックス。






結論)目新しいのはDisc 7の11曲目までくらいだろう。
その11曲も今後、1963〜1964年のアルバムがリミックスされれば、
それらのデラックス、あるいはスーパーデラックス盤に収録されるはず。

Free As A Bird(2025 mix)のためだけに買うのね、という感じ。
(ちなみにFree As A BirdとReal LoveはシングルCDも発売される)


ということで、僕は見送るつもりです。ディズニー+も見ません。
「Rubber Soul」その他のリミックス、心待ちです。

2025年6月14日土曜日

西海岸の光と影、天才ブライアン・ウィルソンが逝去。


                    (写真:gettyimages)


ジョージ・マーティン卿が生前に「生存する最も偉大な音楽家は?」という質問
に「ブライアン・ウィルソン」と答えている。
ポール・マッカートニーじゃないのがちょっと意外だった。

ブライアンの天才たる所以は、美しいメロディ、コード、曲構成による斬新な
ソングライティング力に加え、バンドの枠組みを超えたオーケストレーション、
ハーモニー構築、サウンドプロダクションまで完璧である点だろう。



もちろんジョン、ポール、ジョージも美しい3声のコーラスを聴かせてくれる。
だがBecauseのような複雑なハーモニーはマーティン卿に頼った。
彼らはピッコロ・トランペットを間奏に、イングリッシュホルンを使いたいと
ユニークなアイディアを出すが、スコアはマーティン卿に委ねていた。



↑ブライアン・ウィルソンとジョージ・マーティン


ビートルズのプロダクションが強力なチームで民主制であったのに対し、ビーチ
ボーイズの曲はブライアンの頭の中で完璧に構築され、彼が全てを掌握していた。

バート・バカラックやリチャード・カーペンターと並ぶ偉大なアメリカの音楽家
であったことは間違いない。




ビーチボーイズの中心メンバーで、カリフォルニア・サウンドを象徴する楽曲を
数多く生み出したブライアン・ウィルソンが死去した。享年82歳。死因は不明。

Love And Mercy(愛と慈悲を) 心より御冥福をお祈りいたします。





ブライアンは長年にわたり精神疾患やアルコール中毒、薬物依存と闘ってきた。
昨年、メリンダ夫人が亡くなってから支離滅裂なことを言い出したという。
認知症に似た神経認知障害を患っていることが明らかになり、家族が後見制度
の申請を行ったそうだ。




ブライアンは1961年、弟のカールとデニス(1)、いとこのマイク・ラヴ、同級生の
アル・ジャーディンとペンドルトンズを結成。
バンド名はペンドルトン社のチェック柄シャツが西海岸で流行っていて(2)彼ら
もお気に入りだったことに由来。
キャピトルと契約した際、ビーチボーイズと改名した。



↑彼らが着たペンドルトンのシャツはビーチボーイズ・モデルとして今も人気だ。



ビーチボーイズは西海岸の明るく開放的なイメージを曲にしヒットを連発した。
歌われているの題材はサーフィン、海、太陽、女の子、ホットロッド(車)。

Surfin' U.S.A.、Fun, Fun, Fun、I Get Around、California Girlsなど。
村上春樹の小説タイトルにもなったDance, Dance, Danceもそうだ。


↓The Beach Boys - Dance, Dance, Dance (2003 Stereo Mix)
(1'14"〜ヴァースの途中なのに強引に転調する絶妙さ。カッコいい!)

↓The Beach Boys "I Get Around" on The Ed Sullivan Show






どの曲もコーラスワークが絶妙で、ブライアンのファルセットが冴える。
4声の複雑なハーモニーは、ブライアンの頭の中に緻密で組み立てられた。


以前、山下達郎氏が「ビーチボーイズのハーモニーの肝は低音のパート」と
いうようなことを話していた。
素人には一番低いメロディーラインも真ん中のパートも音が拾いにくい。
それらが独立したメロディーとして自在に動きながらも、曲の屋台骨として
支えているから、一番上のファルセットがキラキラが輝くのだろう。





個人的にはスロー~ミディアムテンポの曲で聴ける美しく重厚なコーラスと静謐
なメロディに特に惹かれた。

ロネッツのBe My BabyにインスパイアされたというDon't Worry Baby。
Surfer Girl、Girls on the Beach、In My Room、Please Let Me Wonder、
I'm So Young。Kiss Me, Baby、And Your Dream Comes Trueなど。


↓The Beach Boys- Girls On the Beach (Stereo)
(一時転調を繰り返し、ヴァース半ば1'35"で一気に転調する荒技に脱帽)

↓The Beach Boys- In My Room (Live 1964)







ビートルズを筆頭に英国勢が全米ヒットチャートを席巻していた1960年代中頃。
彼らに対抗できたのはモータウン系以外では、ビーチボーイズとディランくらい
だったのではないか。


ブライアンの作曲家、アレンジャー、サウンドメイカー、プロデューサーとして
の才能ははどんどん進化して行った。
敬愛するフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンド(3)を取り入れる。

完璧主義のブライアンはレッキング・クルー(4)と呼ばれるスタジオ・ミュージ
シャン集団に演奏を委ね、スタジオ作業に専念するようになる。
バンドのツアーには参加しなくなった。(5)







ビートルズの「ラバーソウル」(6)に感銘を受けたブライアンは、より質の高いア
ルバムを作ろう、ビーチボーイズの音楽を新しい境地へと導こう、と決意する。

作詞家のトニー・アッシャーとブライアンは内省的で、孤独感や切なさを滲ませ
た、そしてひたすら美しい曲を作った。
ブライアンは綿密なアレンジを練って、それらの曲をさらに美しく彩った。





しかしレコード会社もファンも、そして他のメンバーたちも困惑した。
新作にはカリフォルニアの太陽もビーチも素敵な女の子もホットロッドもない。
みんなが期待している「ビーチボーイズの世界観」ではなかったからだ。

「こんな音楽、誰が聴く?ペットにでも聴かせるのか?」と言うマイク・ラヴ
の皮肉からアルバム・タイトルは「ペット・サウンズ」と命名された。
「ペット・サウンズ」がセールス面で振るわず評価も得られなかったこともあり、
ブライアンは重度の精神障害に陥ってしまう。





しかし「ペット・サウンズ」は英国では2位を獲得し、高い評価を得た。
NME誌の人気投票でビーチボーイズは、ビートルズをおさえて1位となる。


ポール・マッカートニーは「ペット・サウンズ」は特別なアルバムと言い、
収録曲の「God Only Knows」(7)を「史上最高の曲」と称賛している。


The Beach Boys - God Only Knows (Remastered 1999)






「ペット・サウンズ」はビートルズの実験精神を後押しし、「サージェント・
ペパーズ」を産むことになる。



ポールとブライアンは同い年で、2人とも優れたメロディーメーカーであった。
またバンド内でベーシストであり、ロックの楽曲におけるベースラインを新しい
次元にまで高めた、という点でも共通している。

「ラバーソウル」でも「ペットサウンズ」でもベースのルート外し(8)が聴ける。
リズム楽器にとどまらず、カウンターメロディを奏でる楽器に昇華させている。




↑ブライアンはデビュー時はサンバースト、後にホワイトのフェンダー・プレシジ
ョンベースを使用。親指で弾きマイルドな音を出していた。


もっともポールが優れたプレイヤーとして現役であり続けたのに対し、ブライアン
自身はテクニックがあるわけではなく、彼自身も演奏にこだわっていなかった。
そのため考えたベースラインを、レッキングクルーの女性ベーシスト、キャロル・
ケイ(9)に弾かせていた。




ブライアンは作詞家ヴァン・ダイク・パークスと共にポピュラー音楽のあり方を
一新しようと、精緻に構成された音楽組曲「スマイル」の制作に取り組む。

が、精神的な問題、薬物依存もありセッションは次第に頓挫し、迷路に嵌る。
加えて、バンド内の不和、レコード会社からの重圧、などブライアンの神経は
破綻し「スマイル」は「幻の名盤」となった。(10)





先行シングルGood Vibrationsだけが発売された。
変化する曲構成、テルミンの使用など実験的ではあるが、ビーチボーイズらしい
キャッチーな曲でヒットした。

Good Vibrations (2021 Stereo Mix)



↓Good Vibrationsのレコーディング風景が見れます。これはレア!

Good Vibrations the Lost Studio Footage






「スマイル」制作中のブライアンをポールが表敬訪問している。
「新譜を出すなら急いだほうがいい。もうすぐ僕らがすごいのを出すから」
とポールはブライアンに言ったそうだ。(11)

その「すごいの」とは「サージェント・ペパーズ」のことだった。
「サージェント・ペパーズ」を聴いたブライアンは「敵わない」とショックを
受ける。彼の精神状態はまずます悪化して行った。






その後のブライアンは廃人状態で、薬物中毒、アルコール依存がひどくなる。
体調のいい時にバスローブ姿で階下のスタジオに現れ参加する、などビーチ
ボーイズでの楽曲制作、レコーディングへの関与は限定的となって行く。




精神科医の治療を受けたブライアンは1980年代末からソロ活動を開始する。

映画「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」は1960年〜1980年代のブラ
イアンを描いた伝記映画(2014年)である。(12) 一見の価値あり。







ブライアンの完全復活は1998年発表のアルバム「イマジネーション」からだ。

1999年には初のソロ来日公演を果たす。
あのブライアンが本当に飛行機に乗ってやって来れるんだろうか?と半信半疑
だったが、元気な姿を見せ自身のバンドでビーチボーイズ以上にビーチボーイズ
なサウンドを聴かせてくれた。

かつて美しいファルセットだった声はつぶれ、音程も不安定だったが、ファン
は誰も気にしなかったと思う。
僕の後ろの席には、ブライアンが再婚したメリンダ夫人が座っていた。
ブライアンの復活は彼女の力が大きかったようだ。

2002年は名盤「ペット・サウンズ」全曲再現ツアーを敢行。再来日した。





2004年には幻の名盤「スマイル」をブライアンが新たに録音し、ソロ作品として
完成させた。(13)
その翌年2005年には3度目の来日で、全曲を日本のファンに披露した。

これが「スマイル」の全貌だったのかという感動と、1967年に発表してたらロッ
クの歴史は違っていたかも?実に惜しい・・・という思いだった。


Brian Wilson - Surf's Up







ブライアンとポールの友情物語は続いていた。
ポールはインスタグラムでブライアン・ウィルソン追悼の意を表明している。

「ブライアンには曲を痛ましいくらい特別なものにする、神秘的で天才的な
音楽センスがありました。(中略)
ブライアン・ウィルソンを失い私たちがどうやっていくのか。
「God Only Knows」(神のみぞ知る)です。
ありがとう、ブライアン。ポール」。


<脚注>