ビートルズの「ハリウッドボウル」がCD化されてめでたしめでたしの今日この頃 だが、対抗馬のローリングストーンズの初期のライヴ盤はあるのか? あるんです、ちゃんと。と言うか一応。 1966年リリースのストーンズ初のライヴ盤「Got Live If You Want It!」だ。 一応と書いたのは、ビートルズの「Live At The Hollywood Bowl」が「演奏には 一切手を加えていない」正真正銘のライヴ音源であるのに対し、ストーンズのは 正真正銘と言えない「手を加えまくったライヴ盤もどき」だからだ。 ストーンズもその内容に満足せず、このアルバムを認めていない。 1970年の「Get Ya Ya’s Out」を最初の公式ライブ・アルバムとしている。 その点も踏まえて「一応」という表現にした。 「Got Live If You Want It!」はアメリカでの販売元ロンドン・レコード(1)の の要請により編集され1966年11月にリリースされたライブ・アルバムだ。 ジャケットにはロイヤル・アルバート・ホールでのライヴとクレジットされている が、実際は1966年10月のニューカッスル・アポンタインとブリストルでの演奏が 納められている。 ロイヤル・アルバート・ホールと記載されているのはプロデューサーのアンドリュ ー・ルーグ・オールダム(2)が「その方が箔がつく」と考えたからだ。 収録曲はオリジナル7曲とカヴァーが5曲。 4作目のアルバム「Aftermath」がリリース(アメリカでは6枚目、収録曲が異なる )された半年後で、同アルバム収録曲の「Under My Thumb」「Lady Jane」の 他、「19th Nervous Breakdown」「Get Off of My Cloud」「Satisfaction」 などの代表曲が収められている。 Side A 1. Under My Thumb 2. Get Off of My Cloud 3. Lady Jane 4. Not Fade Away (Norman Petty/Charles Hardin) 5. I’ve Been Loving You Too Long (Otis Redding/Jerry Butler) 6. Fortune Teller (Naomi Neville) Side B 1. The Last Time 2. 19th Nervous Breakdown 3. Time Is on My Side (Norman Meade) 4. I’m Alright (Ellas McDaniel) 5. Have You Seen Your Mother, Baby, Standing in the Shadow? 6. (I Can't Get No) Satisfaction
↑クリックすると「Got Live If You Want It!」の試聴ページに飛びます。 ほとんどの曲はヴォーカルが録り直しされている。 ミックの手拍子(歌いながらだろう)のボコボコ言うノイズをがマイクが拾って たり、やけにヴォーカルやタンバリンが近くに聴こえたり不自然さを感じる。 「I’ve Been Loving You Too Long」「Fortune Teller」の2曲に至っては、ス タジオ・テイクに歓声をオーヴァーダビングした擬似ライヴである。 収録曲数が足りなかったため、アメリカのロンドン・レコードがストーンズに無 断で加工したものだった。 ヴォーカルの録り直し自体はミックも納得してやったことだろうが、あまりにも 不自然な出来に怒り心頭だったのではないかと思う。 編集されまくりで純粋なライヴ盤とは言いがたいものの、若き日のストーンズの エネルギッシュな演奏が楽しめる貴重な音源であることに変わりはない。 「Get Ya Ya’s Out」以降のライヴとは違い、どの曲もスタジオ・テイクよりア ップテンポで演奏され迫力がある。 冒頭の「Under My Thumb〜〜Get off of my cloud」メドレーのスピードとワ イルド感にはワクワクしてしまう。 「Not Fade Away」は後年のライヴよりも勢いがある。 ミックのヴォーカルに絡むブライアンのブルースハープが黒っぽくていい。 「Satisfaction」と思わせてから入る「The Last Time」のアレンジもなかなか。 「Lady Jane」でのミックの丁寧なヴォーカル、ブライアンの奏でるエレキシタ ール、スタジオ版とニュアンスの違うキースのギターも聴きどころ。 「Time Is on My Side」はスタジオ・テイクよりもずっとかっこいい。(3)
「Got Live If You Want It!」は異なるミックスが乱造されている。 フェイドアウトしたりしなかったり(途中でふっと切れたり)、MCの尺が違っ たり、歓声と演奏が左右泣き別れになっているものと歓声もステレオになって いるもの、など。 CD化された後は曲が終わるごとにフェイドアウトしライヴ気分を萎えさせる。 アルバム・タイトルはストーンズが敬愛するブルース・シンガー、スリム・ハ ーポ(4)のデビュー曲「Got Love If You Want It」をもじったもの。 実は英国ではその前年の1965年6月デッカから同じ「Got Live If You Want It!」 というタイトルでEP盤が発売されているが、内容は前述のLPとは全くの別物。 1965年3月リヴァプールとマンチェスターのステージを収録したもので、手が加 えられていない生々しい演奏とヴォーカルが聴ける。 オリジナルのヒット曲は収録されずカヴァー曲だけで構成された。 Side A 1. We Want The Stones (Nanker Phelge) 2. Everybody Needs Somebody to Love (S. Burke, J. Wexler, B. Russell) 3. Pain in My Heart (Naomi Neville) 4. Route 66 (Bobby Troup) Side B 5. I'm Moving On (Hank Snow) 6. I'm Alright (Ellas McDaniel)
ハンク・スノウ(5)の「I’m Moving On」をR&Bにアレンジしブライアンのスラ イドギターをフューチャーした演奏と、 ボー・ディドリー(6)の「I’m Alright」 のカヴァーは特に出来がいい。 「I'm Alright」はLPにも収録されているが、LPの方はこの演奏トラックを使用し ヴォーカルのみ録り直したものと思われる。 アメリカではこのEP盤は発売されず前述のLPが独自に(勝手に)編集された。 この辺が英国デッカと米国ロンドン・レコードのストーンズの解釈の違い、とい うか英国市場と米国市場の違い(=ファンの質の違い)なのだろう。 ストーンズの原点であるR&Bが聴ける、若き日の野獣のような激しさといかが わしさが感じられるという点ではこのEP盤に軍配が上がる。 しかし僕のようなミーハーなファンにとっては、慣れ親しんだナンバーが聴ける LP「Got Live If You Want It!」の方が楽しる。 実際に「Love You Live」(1977)や「Still Life」(1982)より「Got Live If You Want It!」と「Get Ya Ya’s Out」の方が聴く機会が多い。 まあ、ブライアン・ジョーンズかミック・テイラーがいた頃のストーンズが好き ということになるのかもしれないけど。 「Got Live If You Want It!」は初期のストーンズの貴重なライヴ音源だ(7)。 たとえ過剰に手が加えられたいあざとい編集盤であったとしても。 こんなレコード会社のやりたい放題のいい加減なアルバム(8)が許されてたなんて、 ある意味ありがたいことかもしれない(笑) <脚注>
↑写真をクリックすると「You Ain't Going Nowhere」が聴けます。 2曲目はギャロッピング奏法でチェット・アトキンスに多大な影響を与えたカント リー・ギターの名手であり、シンガー&ソングライターでもあるマール・トラヴィ スの「I Am A Pilgrim」。ヴォーカルはクリス・ヒルマン。 そしてカントリー・デュオ、ルーヴィン・ブラザーズの「The Christian Life」。 グラム・パーソンズはまさにカントリーを歌うために生まれてきたようなハリの ある艶やかな、いい声をしている。 (後に一緒に歌うエミールー・ハリスとの相性も最高だった) 続く「You Don't Miss Your Water」はウィリアム・ベル作でオーティス・ レディングやタジ・マハールもカヴァーしているソウルのスタンダードだが、カン トリー・ワルツにうまくアレンジされている。 この辺がグラム・パーソンズが目指したカントリーとR&Bの融合なのだろう。 当初グラム・パーソンズのヴォーカルで録音されたが、彼の契約の問題(4)から ロジャーの歌に差し替えられた。 CDのボーナストラックに収録されたが、この曲はグラムの歌の方がいい。 「You're Still On my Mind」はカントリー・シンガー、ジョージ・ジョーン ズのカヴァーでグラム・パーソンズがヴォーカル。 LP盤ではA面ラストだった「Pretty Boy Floyd」はプロテスタント・フォーク の父、ウディ・ガスリーの名曲。 ブルーグラスにアレンジされロジャー・マッギンが歌っている。 B面1曲目、グラム・パーソンズのオリジナル曲「Hickory Wind」はペダルステ ィールとハーモニーが美しいスローワルツ。 (後にグラムはソロになってからエミルー・ハリスとデュエットしている)
↑写真をクリックすると「Hickory Wind」が聴けます。 続く「One Hundred Years From Now」もグラム・パーソンズの曲。 当初はグラムのヴォーカルで録音されが、ロジャー・マッギンのヴォーカルに差 し替えられている。 ロジャー版はバーズらしいソフトなフォークロック・ナンバーだが、グラムが歌 うと力強い初期イーグルスを彷彿させるようなカントリーロックに聴こえる。 クラレンス・ホワイトのストリングベンダー・ギターのソロが堪能できる。 女性カントリー・シンガー、シンディ・ウォーカー作の「The Blue Canadian Rockies」はジム・リーヴス、ジーン・オートゥリー、ウィルフ・カーターも カヴァーしたカントリー・ワルツ。 グラム・パーソンズがヴォーカルをとっている。
「Life in prison」は先日他界した伝説のカントリー・シンガー、マール・ハガ ードの曲。軽快なテンポにリアレンジされ、グラム・パーソンズが歌っている。 ラストを飾るのは再びディランの曲で「Nothing Was Delivered」。 ロジャー・マッギンのヴォーカルでバーズらしい爽やかなハーモニーが聴ける。