2024年7月15日月曜日

ジミ・ヘンドリックスの名曲「リトル・ウィング」<後篇>




<「リトル・ウィング」の歌詞とその解釈>


          (Jimi Hendrix 対訳:イエロードッグ>

Well she's walking through the clouds
With a circus mind that's running round
Butterflies and zebras, and moonbeams
And fairytales    That's all she ever thinks about
Riding with the wind

When I'm sad, she comes to me
With a thousand smiles she gives to me free
It's alright, she said, it's alright
Take anything you want from me    anything, anything
Fly on, little wing


そう、彼女は雲の中を歩いてるのさ
サーカスみたいにお祭り騒ぎ ぐるぐる駆け回って
蝶とかシマウマとか 月の光 それからお伽話
彼女はいつもそんなことばかり考えているんだ
風に乗って自由に飛びながら

悲しい時は彼女が来てくれる
満面の微笑みを浮かべて 僕を解き放ってくれる
だいじょうぶ、と彼女は言う だいじょうぶよ 
欲しいものは何でもあげるわ 何でも 何でもね
小さな翼よ 飛び続けなさい




この曲を初めて聴いた時、こう歌ってるのかと思っていた。

Well she’s working through the crowds 
It's circumstance running around
(彼女は人混みの中で働いている 忙しく駆け回ってる状況で)

ぜんぜん違ってました〜(恥💦




↑珍しくフェンダー・プレシジョン・ベースを弾いてる





さて、歌詞を拾って行きます。

With a circus mind that's running round
「サーカス気分で走り回る」と訳されていることが多い。
次にシマウマが登場するし、サーカスは円形劇場。その訳でしっくり来る。

「circus」は「ばか騒ぎ,大混乱、愉快で騒がしいもの」という意味もある。
「run round」にも「駆け回る、騒々しく遊ぶ」という意味が回る。


That's all she ever thinks about」の「ever」は「いつも」を強調。
例)That's all you ever sayなら「あなたはいつもそれしか言わない」。



Riding with the wind」という言い方があるのか?
Ride on the wind、Ride the wind、Ride like the windが一般的だと思うが。
調べたら、こんな説明を見つけた。




「Riding with the wind」は遮るものがなく自由に素早く前進することの比喩
として使われるらしい。
この場合の「風」は方向と力の象徴。
風によって運ばれるヨットのように、その人は永遠の力によって支援、推進
されることを暗示している。(なるほど)



With a thousand smiles」の a thousand〜は数え切れないほどの多さ。
例)I owe you a thousand apologies で「本当に申し訳ありません」。


she gives to me free」は「無償、見返りなしで私にくれる」とも訳せる。
この場合は「自由をくれる、(悲しみから)解き放ってくれる」ではないか。
尚、give to meとgive meは同じ。







Fly on, little wing」は最初の「Riding with the wind」と韻を踏んでいる。
最後にやっとタイトルの「little wing」が出て来た。
この「little wing(小さな羽)」は妖精の彼女を指してるとも取れる。

little wing」は愛情や保護を象徴する比喩でもあるらしい。
妖精の彼女が自分(ジミ)を呼ぶ際の愛情を込めたニックネームなのだろう。

「どんな翼でも羽ばたけば、自分らしく飛べる。だから飛び続けなさい」と
自分(ジミ)を励ましてくれている、という解釈の方がいいと思う。







幻想的な世界観と背景にあるジミの出自

最初のヴァースはジミの心の中にある童話のような幻想的な世界が歌われる。
貧困で希望のない生活を送っていた幼少期(1)、ジミは魔法使いや空想の世界
に逃避する傾向があったという。
この曲を作った頃は常習化していたLSDの幻覚作用も影響してるはずだ。


その超自然的な異次元空間の女性は、ジミの空想が創り上げたミューズで、
守護天使のような存在である。

幼少期のジミを置いて家を去り、早世した母親を重ねているという説もある。
母親から得られなかった愛情を架空の女性に求めているという見方もできる。



↑2台目の赤いエレキギターを買ってもらった15歳頃。


2回目のヴァースではその女性が自分(ジミ)を救ってくれる話になる。
彼女は悲しみや苦しみから解き放ってくれ、欲しいものを与えてくれ、飛び
続けるよう励ましてくれる

ジミの才能をいち早く見出し、売り込んでくれたモデルのリンダ・キースの
存在があったのではないかと思う。




<ジミ・ヘンドリックスの才能に気がついたリンダ・キース>





リンダ・キースはキース・リチャーズの恋人だった(名前がややこしいな💦)
キースはパーティーで出逢った完璧な女性、リンダに心を奪われる。
彼女はヴォーグ誌のモデル。17歳だった。

二人は恋仲になり、同棲生活が始まった。
リンダはストーンズの全米ツアーにも同行するようになる。





ニューヨークのクラブでリンダは初めてジミのライヴを見て衝撃を受ける。
驚異的な才能は歴然としていたが、誰も気づいてない。観客もジミ本人も。
ジミにレコード契約させデビューさせることが使命だと彼女は考え始める。


リンダはまずストーンズのマネージャーのアンドリュー・ルーグ・オールダム
にジミのライヴを観せた。が、アンドリューは関心を示さなかった。
リンダがジミに肩入れしてるのを手伝えば、キースの機嫌を損ねかねない。(2)



↑アンドリュー・ルーグ・オールダムとキース・リチャーズ



シーモア・スタイン(3)に観せたら、ギターを破壊するジミに彼は尻込みした。
(それはリンダが無断で持ち出したキースのギターだった)


アニマルズのベーシスト、チャス・チャンドラーはジミのパフォーマンスを
見て驚く。(4)
チャンドラーはジミをロンドンに連れて行き、自らがプロデューサーを務め、
新しいバンド(5)を結成させレコードデビューさせた。




↑ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスとチャス・チャンドラー(右)



ジミが成功を手中にしたのはリンダが動いてくれたおかげだ。
ジミにLSDも教えたのもリンダである。

歌は苦手というジミに、リンダは「自分で歌いなさい」と薦めた
ブルースをこよなく愛した彼女は、ブルースを続けることをジミに求めた。


ジミは他のガールフレンドができ、リンダとは疎遠になる。
しかし死ぬ直前には、またリンダのことを頼りにしていたという。
「リンダ、僕を見て、聴いて。ブルースをやってるよ」と手紙を送っている。






↓Red Houseは1966年にジミがリンダのために作曲したブルースである。
https://youtu.be/_whI9m0SFys?si=-YTJW0g7KaTOLY8Y





<ディランの影響を受けたボーカル・スタイル>

ディランはジミが最も憧れ続け、影響を受けた白人アーティストである。
ジミのディラン崇拝は、当時の黒人コミュニティの中で異質な存在であった。

黒人のクラブにディランのLPを持参し、「ヒルビリー・ミュージック(6)
他所でやれ」と叩き出された、というエピソードもある。




↑バンドを転々としていた無名時代。デュオ・ソニックを使用している。



ジミがディラン熱に熱に浮かされるようになったのは、ディランがエレキギタ
ーに持ち替えバンド・スタイルに変わってからだ。

日銭を稼ぐために黒人コーラスグループのバックバンドで毎晩同じ曲を弾き続
ける日々に嫌気がさしつつも、自分の音楽の方向性も見出せずもがいていた
ジミの心に「Like A Rolling Stone」は刺さった。






ディランの比喩表現反抗的なメッセージ・ソングは、従来の職業的作詞・
作曲家による甘ったるい紋切型の歌詞や曲調とは大きく異なり、自分自身の
音楽を模索していた当時のジミに大きな手がかりとなった。

ディランのトーキングブルース調のルーズだが骨太の歌い方も、自分の歌声
にコンプレックスを持っていたジミを勇気づけてくれた。


「Little Wing」の比喩を多用した詩、ぶっきらぼうだが味わい深い歌い方に
は、こうしたディランの影響が感じられる。






<脚注>