2023年11月16日木曜日

ビートルズ最後の新曲「Now And Then」を深掘り。<後篇>

 <「Now And Then」の仕上がりは?デミックス効果、追加された演奏>

スピーカーで、次にステレオ・イヤホンで聴いてみた。

ああ、ジョンだな〜と思う。
声はクリアーで。本当にアビイロード・スタジオで録音したみたいだ。


デモテープに一緒に録音されていたジョンのピアノ(随所でつまずき、リズムも
一定ではない)、生活音、ビーという電気製品か何かのハムノイズは見事に消え、
ジョンの声だけが抽出されている。しかも音質もいい。

音声や映像はオリジナルよりクオリティを上げることができない、というのが
従来の常識だが、AIの登場で不可能が可能になった。魔法のようだ。




ジョンの声を主役に据えるミックスに仕上がっている。

Aメロ(ヴァース)2番まではポールが新たに録音したピアノ+ジョンのボーカル
がメインで大きく響く。
ベース音+アルペジオ+歌メロと同じライン、とポールお得意の演奏スタイル。

ピアノには2本以上のマイクを立てて録音したらしい。
鍵盤の左右への広がりが感じられる。





アコギは後で鳴ってる。
1994年にポールとジョージが弾いたトラックだろうか。

ミュージックビデオでは完全にシンクロしてないが、Am、G6、Eとこの曲で使う
コードを弾いてるように見える。
(「Free As A Bird」「Real Love」でもAm、Eの箇所があるのでその時の映像
の可能性もある)

なぜか2人とも1フレットにカポをしてる理由が不明。





Aメロ2番からリンゴのドラムとポールのベースが入る。
ドラムはリムショットがタイトで、キックの音は抑えめ





ポールのベースも音量は控えめだが、随所で凝った演奏をしている。
ミュージック・ビデオではヘフナーのベースが映る。
(1994年のセッションではワーウィックの5弦ベースを使っていたが)
ベースの音量が低く判別しにくいが、エンディングでヘフナーらしい音を確認。





ドンカマ(テンポを共有するためのるクリック音)をモニターしながら演奏し、
ジョンの声はデュレーションやタイムを調整し、そこに乗せたのだろう。
(MacやiPadにバンドルされてるGarageBandでも簡単にできる編集作業だ)


Aメロ2番の最後から入るストリングスは左右から聴こえ、センターに寄せた
演奏、ボーカル、コーラスとは対照的に拡がりを感じさせる





ポールはジョンに寄り添うように同じラインを歌い、ハモり、また一部ジョン
歌詞を完成させていない箇所(後述)は代わりに歌っている
よく聴かないと気が付かないだろう。あえてファジーにしたと思われる。

ボーカルもコーラスもアコギもセンターに集め、少しボカしたような音作り
なっていて、近年のリミックスと傾向が違う。(1)



その理由の1つは、前述のようにジョンがいい加減に歌ってるパートを補うため。
もう1つは「声の年齢差」を感じさせないための工夫(ごまかし)だと思う。

1978年に録音した38歳のジョンの声、1994年に52歳だったポール、51歳のジョ
ージの声が混在し、2022年に80歳になったポールが歌ってるわけである。
現役で頑張ってるとはいえ、80歳のポールの声はやはり年齢を感じさせる。




ジャフ・リンによると、1994年にこの曲に取り組んだ時は、少しやってみて半日
でやめてしまったそうだ。
作品として仕上げることは困難と考えたジョージが作業の継続を拒否。
その際、録音したのはポールとジョージのアコギ、リンゴのドラムくらいだった
のではないか。コーラスにまで作業は至らなかったと思う。





「Now And Then」を聴いても、いかにもジョージという声は確認できない
もしかしたらAh.....と歌うバックコーラスは、ジョージの声をAIに学習させ、ボ
ーカロイドのように歌わせて、ポールの声と重ねている?と邪推してしまう。
ジョン以外の歌声をボカしておけば不自然には聴こえない
リンゴも歌ったそうだが。。。





ギター・ソロも実はポールがジョージっぽくスライド奏法で弾いている
ジョージへのオマージュだが、本当に器用な人だなーと感心する。

とにかくポールは4人が揃うことにこだわったんだと思う。


コーラス部の後、3回目のAメロのI know it's trueで左から聴こえるエレキのコー
ド・カッティング(1'41"〜)はジョージの演奏の可能性がある。
(「Free As A Bird」で同じ演奏が聴かれるが、ハイポジでF#m7を弾いている。
1音下げてEm7にしてテンポを合わせれば「Now And Then」転用も可能だ)







<カットされたサビと追加されたギター・ソロ、未完成だった歌詞の補填>

ジョンのデモは、Aメロ→Aメロ→Bメロ(サビ)→コーラス→Aメロ→Bメロ
(サビ)という曲構成だった。

このBメロ(サビ)、I don't wanna lose youの部分がかなり強引な転調
その後も強引なコード進行で引っ張る。

転調と変拍子はジョンの十八番だ。本人は意図してやってるわけではない。
そこが天才たる所以でもある。
歌もコード進行に乗せて成り行き任せで取り留めない感はある。


1994年にポール、ジョージ、リンゴ、ジェフ・リンで、このBメロ(サビ)
はカットした方がいいのではないか、という話になったらしい。




このBメロ(サビ)からコーラス部のNow and then〜に入るのと、Aメロから
入るのではだいぶ印象が違う。

Now and then〜のリフレインがこの曲の肝、一番おいしい部分だが、ジョンは
なぜか1回目のBメロ(サビ)の後に1回しか歌っていない。



2023年版ビートルズの「Now And Then」はBメロ(サビ)をカット
Aメロ→Aメロ→コーラス→Aメロ→コーラス→間奏→Aメロと構成を変えた。
すっきりした分、Aメロと曲のコアでもあるコーラス部が印象に残りやすい。

強引な転調のBメロこそジョンらしさ、と惜しむ声も挙がっているが。
僕はBメロ(サビ)をカットしたのは英断だったと思う。


ポールもBメロ(サビ)を捨てるのは忍びなかったようで、なんとか活かしたい
ギター・ソロのパートにそのコード進行を転用している。

コーラス部の最後のコードDからDmへと転調したように見える(ビートルズが
よく使う手だ)が、キーはCで5度のGからAメロ(ヴァース)の頭、Amにきれ
いに繋がる。
ポールのこの曲への思い入れと忍耐強さ、そしてアレンジ力を感じる一面だ。






さらに部分的にコードも変更されている。
Aメロ(ヴァース)でジョンのデモはAm→Emと弾いているが、ビートルズ版は
Am→G6に変えられた。
G6はEm7 on Gと構成音が同じである。
Am→EmからAm→G6にすることで、陰鬱さが払拭され淡い広がりのある音
なった。

ヴァースの最後、because of you でジョンはAm add9→Am(歌メロを使っ
いる)が、ビートルズ版はAsus4→Am に変更された。
これも陰鬱さの払拭になっている。
同時に前のコードE7の7thの音がAのsus4の音になるため流れがスムーズ。
最後のAmにも帰結しやすい。

エンディングではAm→G6→ Eを繰り返し、スライドギターを乗せ、最後の
Am→G6→Fmaj7→ Eは2拍3連の繰り返しで Amで終わらせた。
この変拍子はジョージが好んで使ったパターンでアクセントになる。
これもジョージへのオマージュのように思える。






ジョンのデモは歌詞が完成していない部分があり、いい加減に歌われている。
そこはポールが加筆し、ポールの歌に差し替えられている
注意して聴かないと分からないが。

全編でジョンに寄り添うようにユニゾンあるいは3度でハモっていたのは、
部分的にポールのボーカルに変わっても違和感を抱かせない伏線だった。
センターに音を集めてボカしていたのもそのためだろう。


ジョンの声が消え、ポールだけに変わっているのは以下の箇所だ。

Aメロ(ヴァース)2回目。最後の「will love you」。
コーラス部の最後。
I want「you to be there for me Always to」return to meの「」の部分。


では、比較してみてください。
↓ジョンのデモテープ〜2023年ビートルズ版「Now And Then」
https://youtu.be/BnEeMXY81Cs?si=EPXVxSzUDvgFATwR







Now And Then /John Lennon

(イントロ)
Am   Em  Em7   Fmaj7   F6   E

Aメロ (ヴァース1  key in Am)
Am           Em     Am         Em
I know it's true    It's all because of you

Am       Fmaj7                        E         E7        Am add9    Am
And if I make it through    It's all because of you


Aメロ (ヴァース1  key in Am)
Am                 Em     Am            Em
And now and then    If we must start again 

Am               Fmaj7                     E     E7   Am add9  Am  Asus4  
Well, we will know for sure  that I will        love          you

Am  Am on G


Bメロ=サビ (ヴァース2  key in E) ←強引な転調
F#m                                    E
I don't wanna lose you, oh no, no   

F#m                                            E 
Lose you or abuse you    oh no, no, sweet darlin'

                G#m          D    ←強引なコード進行            
But if you have to go away 
          E                 C   ←ここも強引     B      B on A
If you have to go,   Da-da-doo-doo-doo-doo ←歌詞が未完成



コーラス部   ←曲の美味しい所でリフレインされる
G                               Bm            Em
Now and then  I miss you    Oh, now and then 

Am                       D                   Am                 D
I want da-doo doo, doo for me  I know,Return to me ←歌詞が未完成

Aメロ (ヴァース1  key in Am)
Am           Em     Am         Em
I know it's true    It's all because of you

Am           Fmaj7           E                E7        Am add9    Am
And if you go away,    I know you'll never   stay


Bメロ=サビ(ヴァース2  key in E)
F#m                                    E
I don't wanna lose you, oh no, no  
 
F#m                                            E 
Abuse you or confuse you    oh no, no, sweet darlin'

                G#m          D                
But if you have to go,  well I'll stop you there.

                 E              C                              B     B on A
And if you have to go, Da-da-doo-doo-doo-doo ←歌詞が未完成

(アウトロ)コーラス部とAメロ・ピアノのみ
G         Bm       Em      Am      D       Am       D
Am        Em     Am       Em     Am     Fmaj7      E    Am



※赤字はビートルズ版でカットまたは修正された箇所。








Now And Then / The Beatles

(イントロ)
Am    G6    Am    G6

Aメロ (ヴァース key in Am)
Am           G6      Am         G6    ←EmをG6に変え暗さが解消
I know it's true    It's all because of you

Am       Fmaj7                        E        E7          Asus4←変更    Am
And if I make it through    It's all because  of  you


Aメロ (ヴァース key in Am)
Am                G6        Am           G6
And now and then    If we must start again

Am              Fmaj7                      E   E7       Asus4   Am
Well we will know for sure    that I         will  love     you



Bメロ(サビ)を丸ごとカット



コーラス部 (key in G)   
G                                   Bm
Now and then    I miss you

      Em                    Am                   D
Oh now and then    I want  you to be there for me

Am               D
Always to   return to me


Aメロ (ヴァース key in Am)
Am            G6     Am          G6
I know it's true    It's all because of you

Am            Fmaj7          E                E7       Asus4    Am
And if you go away    I know you'll never   stay


コーラス部 (key in G)
G                               Bm
Now and then    I miss you
      Em                      Am                    D
Oh now and then    I want you to be there for me


(ギター・ソロ  key in C)  転調スライド・ギター&コーラス

Dm    C    Dm    C    Em    Am    D     Dm    G
↑カットしたBメロ(サビ)のコード進行を転用している



Aメロ  (ヴァース key in Am)
Am           G6      Am         G6
I know it's true    It's all because of you

Am       Fmaj7                        E       E7          Asus4    
And if I make it through    It's all because of You  ↑スライド・ギター

(アウトロ)エンディング
Am G6  E   Am G6  E   Am / G6 / Fmaj7 / E    Am ←2拍3連の繰り返し


※赤字が変更、新たに加えられた箇所。

(歌詞とコードは耳コピです。間違ってたらごめんなさい)








<歌詞に込められたジョンのメッセージとは>

タイトル(2)であり、印象的なコーラス部で繰り返される「Now And Then」。
元は「今もあの時も」という意味だが、every now and thenという使われ方
が転じて、now and thenで「ときどき、折りにつけ」となる。

Now and then I miss you で「時々あなたが恋しくなる、時々あなたがいない
のが寂しくなる」という意味。
Now and then I want you to be there for meは「時々そばにいて欲しくなる」。




I know it's true    It's all because of you
And if I make it through    It's all because of you

because of youは「あなたのせい」と相手を責めるニュアンスがある。
一方で、And if I make it through(乗り越えられたら)、It's all because 
of you(あなたのおかげ)とも言っている。
二重の意味を持たせるジョンお得意の言葉遊びだ。



さて、この曲は誰に向けて歌われているのか?

「ときどき君がいないのが寂しくなる」とポールに言ってるようにも取れる。
1970年代半ばにはジョンとポールの仲は改善していた。(3)



↑ヨーコと別居中のジョン宅(LAの)を訪れたポール。
リンダ、メイ・パンが写っている。
最近、出版された故マル・エヴァンスの自伝にこの写真が載ってる。


少なくともポールは自分へのメッセージと捉えているようで、同時に自分の
ジョンに対する気持ちを重ねているようだ。



ヨーコへのメッセージ説もあるが、このデモを録音した1978年はヨーコと
よりを戻し、ショーンが生まれ主婦業に専念していたジョンがI miss you と
ヨーコに言わないだろう。
昔書いた曲だった、あるいは昔の思いを曲にした、という可能性はあるが。





亡くなった母親ジュリアへの思いを歌った、という解釈もあり得る。
幼少期に母親と離別してる。思春期に会うようになった母親は事故死する。
ジュリアの死はジョンに心的外傷を残した。

ジョンの音楽の才能、意気盛んで直情的な性格、強烈なユーモアセンスは
母親譲りである。
ジュリアはジョンにバンジョーとウクレレの演奏を手解きした。


ジョンの曲は喪失感、行き場のない寂しさが歌われているものが多い。

I know it's true    It's all because of you
And if I make it through    It's all because of you
Now and then I Miss you Return to me

という歌詞はジュリアを対する喪失感を引きずっている。
そう考えて聴くと、しっくり来る。






「Now And Then」は母親ジュリア、ヨーコ、ポール、亡くなった友人スチ
ュアート・サトクリフ、過去の自分、いろいろな相手に向けて歌われた曲
なのかもしれない。
ジョンがよく言ってるように「曲に特別な意味はない」のかもしれない。

しかしこの曲を聴けば聴くほど、ジョンらしいなあ、と懐かしくも寂しい、
そして少しだけ心の芯が温かくなるような気がする。
これもジョン・レノン・マジック、ビートルズ・マジックだろうか。






<脚注>

2023年11月11日土曜日

ビートルズ最後の新曲「Now And Then」を深掘り。<前篇>



ビートルズ最後の新曲「Now And Then」が11月3日に発表された。
報道番組を始めいろいろなメディアで紹介されてる。
既に耳にした方も多いだろう。

主要な配信チャートで1位をつけ、全英シングル・チャートで1位を獲得。
1969年リリースの「The Ballad Of John And Yoko」以来54年ぶり。
通算18曲目となるそうだ。(エルヴィスの通算21曲に次ぐ歴代2位




↓「Now And Then」を試聴できます。
https://youtu.be/AW55J2zE3N4?si=yZXQp4ytOej7445F




<「Now And Then」はなぜこんなに注目され話題になっているのか?>

生前のジョンが自宅で録音したカセットテープのデモ音源からジョンの声だけ
抜き出し、生存するメンバーが演奏や歌を加えビートルズの曲として蘇らせた。

その点は1995年の「Anthology」プロジェクトで発表された「Free As A Bird」
「Real Love」と同じである。
それぞれ全英シングル・チャートで2位、4位をつけたが、それほど大きな話題
にはならなかった。


今回の「新曲」がこれだけクローズアップされてるのはなぜだろう?

ビートルズという偉大なロック・バンドが解散して半世紀が過ぎ、ジョン・レノン
の死から40年以上、ジョージ・ハリソンも2001年に他界し20年以上経っている。

1995年のリユニオンの際は限界があった「音質の悪いデモテープからジョンの
声をクリアーに抜き出す」作業が、最新テクノロジーのAIを使うことで可能にな
り、ビートルズの曲として完成した。

平たく言うと「AI」というキーワード × 「ビートルズというレジェンドの再生」
が人々の心の琴線に触れたのではないだろうか。





↓「Now And Then」のミュージック・ビデオが観られます。
https://youtu.be/Opxhh9Oh3rg?si=Krb4UA7osQhLiIji




<配信に加え、レコードとカセットテープでの発売>

配信+アナログ・レコードとカセットテープという発売形態も話題になった。




7インチ・シングルはブラック、クリア、ブルー、マーブル(ブルー&白)の4色。
10インチ・シングルはブラック。
12インチ・シングルはブラック、レッドの2色。

カセットテープはノーマル・ポジション。

要望が多かったせいか、後からCDの限定発売も追加された。





ジャケットのカヴァーアートは寒色の地に白抜きのタイトルだけ、とシンプル。
そっけないというか、寂しい感じもする。切ない曲調を踏まえてのことだろう。
「NOW AND THEN」を強調する狙いもあるのかもしれない。
12インチのレコードが店頭に並んだら、それなりにインパクトがありそうだ。



ジャケットの裏面はポップ。「THE BEATLES」のクレジットが入る。




B面はデビュー曲「Love Me Do」の2023リミックス。

赤盤・青盤の2023リミックス(ほぼ全ての曲がデミックス技術を使った最新
ステレオミックス、CDとLPで発売)への呼水、といったところか。
青盤の最後に「Now And Then」も収録されるらしい。






<ジョンが残したデモテープとは?>

ジョンは1970年代後半、主夫業に専念し音楽活動から遠ざかっていた。
「何年もギターは壁にかけたまま埃をかぶっていた」とジョンは言っていたが、
実際は時々ピアノやギターを弾きながら作曲をしカセットに録音していた。





1994年に「Anthology」プロジェクトが持ち上がり、ポールがオノ・ヨーコに
相談すると、ジョンの遺作3曲が入ったカセットテープを渡されたという。
ラベルに「For Paul」と手書きされたテープには「Free As A Bird」「Real 
Love」「Now And Then」の3曲が録音されていた。


実はジョンが残したデモ音源は他にも存在する。(1)
1996年にはそれらを編集したブート盤がVig-O-Toneレーベル系列のPeg Boy
から発売された。





↓ジョンがダコタハウスで録音したデモ音源集が聴けます。
https://youtu.be/E1CK4MV-zpM?si=Qq6nnpqOw4lALzPU







































1〜3曲目はヨーコがポールに委ねた音源。
「Real Love(Take 4)」のギター弾き語りヴァージョンは、映画「イマジン」の
冒頭で使われた。
「Anthology」で使用された Take 1(ピアノ弾き語り)より出来がいいと思う。

「Grow Old With Me」は生前ジョンが「結婚式で流れるようなスタンダード
・ナンバーにしたい」と願っていたそうだ。
ジョージ・マーティンによるストリングスが加えられ、1998年発売の「John 
Lennon Anthology」に収録された。

公式発表されていないが、「India」も個人的には好きな曲だ。

ヨーコは前述の3曲がビートルズとして完成させるのに相応しい(深読みすると、
「Grow Old With Me」はジョンの作品でありポールに委ねたくない?)と判断
したのだろうか。



<1994年「Anthology」プロジェクトでの取り組み>

当初は「Anthology1、2、3」それぞれに、ジョンの遺作に残された3人が演奏
と歌を加えた3曲を収録する予定だった。

ジョージの推薦でジェフ・リンがプロデューサーとなり、ピアノを弾きながら
歌うジョンの声だけを抜き出す試みが行われた。

(1994年当時はたぶんボーカル成分の1kHz周辺の音だけ残し、ピアノやノイズ
の周波数帯域をカットする、という作業が行われたのではないかと推測する)



Free As A Bird」は文句なしにいい曲だった。
それでいてサビは歌詞ができていなくていい加減に歌ってる。
ポール、ジョージ、リンゴが考えて手を加える余地があり、ジョンと一緒に演奏
してるような感覚で楽しかったという。

「後は君たちで完成させてくれ、とジョンがスタジオを出て行った」と考える
ことにしたんだ、とポールは言っていた。




一方「Real Love」は既に曲として完結していたため、ジョンの歌にオーヴァー
ダブを行う作業で、あまり気が乗らなかったという。

テンポアップのためか?テープ速度を上げ、キーが1音高くなっている。
その結果、ジョンの声は不自然に聴こえる。

(デジタル編集でキーを変えずに速度を上げられるようになるのは10年後。
この時点では、テープの回転数を上げる=ピッチが上がる方法しかなかった)


またコーラスやジョージのスライドギターも盛りすぎで、原曲の良さを損なっ
てるという印象を抱いた。
(ギター弾き語りヴァージョンのTake4と比べるとよけいそう思う)



3曲目の「Now And Then」は着手したものの、1日で中止となった。
元のテープの音質が悪くて断念したと言われるが、それは他の2曲も同じだが。
この音源には家電製品のビーというハムノイズや生活音も混ざっていた

早い段階でジョージが「この曲はやりたくない」と難色を示したらしい。
音質だけでなく、曲調や曲の構成についてもやりにくさを感じたためか。
ポールはジョージの意見を尊重して、「Now And Then」を諦めたのだろう。






<近年の驚異的な技術の進歩で蘇った「Now And Then」>

「Now and Then」は近年、奇跡的に進歩したスタジオの恩恵を受けている。

2021年に配信公開された3部作の長編ドキュメンタリー「Get Back」では、
ピーター・ジャクソン監督のチームが4人の会話と演奏をAIに学習させ、アルゴ
リズムを使って個々の成分を抽出し音を分離させるソフトウェアMALを開発

これにより複数の音が混ざり合っていても、ジョンの声、ポールの声、ギター、
ピアノ、とそれぞれクリアーに個別に取り出せるようになった。


このソフトウェアを使った「デミックス」と呼ばれる新しい手法はジャイルズ・
マーティンによって、「Revolver」2022リミックスに応用される。



この一連の技術革新を目の当たりにしたポールは、AIによるデミックスを使えば、
一度は諦めた「Now and Then」を完成させられる、と確信したようだ。

ポールは「Now and Then」を諦めきれずにいたのだろう。
リンゴも賛成し、2022年からポールとジャイルズ・マーティンのプロデュース
で再びこの曲が取り上げられ完成に至った。





その結果「Now and Then」は「Free As A Bird」の時よりいい音になった
ジョンの声は鮮明で生々しく、まるでアビイロード・スタジオで録音された
もののように聴こえる。

ポールは「魔法のような素晴らしい経験だった」とBBCラジオ1に話した。
「スタジオにいると、ジョンの声が耳に入ってくるから、すぐ隣のボーカル・
ブースにジョンがいると想像できた。
また一緒に曲を作っているんだと思えて、とてもうれしかった」と。
リンゴも「ジョンが部屋にいるみたいな感覚で最高だった」と言う。




「Now And Then」は1978年に録音したジョンの声、1994年にポール、ジョ
ージ、リンゴが加えた演奏とボーカル、そして2022年にポールとリンゴが新た
に録音した演奏と歌、と時代を超えてビートルズ4人全員が参加している。

ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの全員がクレジットされる曲としては最後
のものになるかもしれない、と言われる。
ロック史上最も偉大なバンド、ビートルズのラスト・ソングだ。



「Now And Then」はジョンが「君が恋しい」と歌っている「切ない」曲だ、
聴く人が「愛する気持ち」になってくれるといい、ビートルズは愛を広めようと
していたから、「気持ち」がキーワードだと思うとポールは言っている。




<音楽業界の「Now and Then」への評価>

ローリングストーン誌は「ビートルズとファンに実にふさわしい、見事な最後
の作品だ」と評した。
「今も昔も君が恋しい(Now and then I miss you)」という歌詞が出てくる
瞬間は、控えめに言っても実に強烈な印象だ」としている。

BBCラジオ6ミュージックのローレン・ラヴァーンは「ひたすら美しくて泣いて
しまった」と話した。

英国ガーディアン紙は星5つのうち4つをつけて「バンドの絆を愛情たっぷりに
たたえた」曲だと評した。




音楽サイトCLASH は「幸福感に満ちたセンチメンタルな曲で、素晴らしい感染力
がある」と評している。

一方で、これまでのビートルズの曲には匹敵しないという意見も出ている。
英国テレグラフ紙は3つ星をつけたうえで「ビートルズの最高級のバラードに見合
うほどの高みには届かない」と指摘した。

米芸能業界誌ヴァラエティは「ビートルズの全作品とメンバー各自のソロ全作品
という偉大過ぎる業績に匹敵するか?という質問は不公平だ」としている。
「もちろん匹敵しない。それでも、思わぬ喜びを与えてくれた」と。



<「Now and Then」を聴いた印象>

以前デモ音源を聴いた時は「Mind Games(1973) 」以降のジョンの作品にあり
がちな、ちょっと陰鬱な曲という印象を受けた。
「Double Fantasy(1980)」に入ってても違和感がないだろう。

同時にこれをビートルズの楽曲として完成させるのは難しい、とも思った。



しかし2023年の新曲「Now and Then」は喪失感は残しつつも、陰鬱さは払拭
し、きれいにまとまっている。しかも、いろいろなアイディア、仕掛けが満載だ。

次回詳しく書くが、唐突感のある転調の2nd.ヴァース(サビ)をカットして1st.
ヴァースとコーラス部だけにしたのは正解だったと思う。
ジョンだけではなくジョージへのオマージュも感じる工夫もされている。





ヴァラエティ誌が評しているように、過去の作品と比べるのはフェアじゃない。
既にこの世にいない2人と生き残った2人、最新技術のおかげで4人の共演が実現
し、2023年にビートルズの「新曲」を聴けたことを素直に喜ぶべきだろう。


※次回は、カットされたサビと曲構成、加筆された歌詞、ポールが歌った部分、
ギターの間奏、凝ったコード進行と巧みな転調など、深掘りします。



<脚注>

2023年8月14日月曜日

ランディ・マイズナー、ロビー・ロバートソンの死を悼む。



1970年代のロック史に名を残す優れたミュージシャンが相次いで二人、
亡くなった。


一人は元イーグルスのベーシスト、ランディ・マイズナー。
7月26日、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併症により死去。77歳没。

2004年頃から心臓疾患を患い、人前で演奏する機会は減ったらしい。
2016年に再婚した妻が銃の暴発で命を落とす。
ランディもアルコール依存症や双極性障害に苦しんでいたそうだ。


もう一人はザ・バンドのメンバーであったロビー・ロバートソンだ。
8月9日、80歳で逝去。長い闘病の末に、と書かれている。
音楽関係筋によると、パーキンソン病だったという説もある。






<ランディ・マイズナーの足跡>

1969年、元バッファロー・スプリングフィールドのリッチー・フュー
レイ、ジム・メッシーナらとポコを結成。
しかしフューレイ、メッシーナとの対立から、デビュー・アルバムの
リリース前にランディは脱退する。



↑ポコ時代の
ランディ・マイズナー(中央)右がジム・メッシーナ。


ジェームス・テイラーのセッションへの参加、LAのトルバドール出演
など、ベーシストとしてランディは実績を重ね評価を得ていく。
黒人ベーシストにも通じる弾むリズム感を持ち合わせていた)

ボーカルの音域も広く高域パートを歌えるため、ビーチボーイズやCSN
の流れを汲むカリフォルニア流のハーモニー構築に重宝された。


1971年夏、リンダ・ロンシュタットのバック・バンドに採用される。
そこでドン・ヘンリー、グレン・フライ、バーニー・レドンと出会う。
イーグルスを結成し、アサイラム・レコードと契約。(1)
1972年にデビュー・アルバムを発売。

4枚目のアルバムではランディが作曲し歌ったTake It To The Limit
が、イーグルス初のミリオンセラー・シングルとなる
彼ならではのハイトーンが冴える曲で、コンサートでも盛り上がった。



↑左がランディ・マイズナー。


↓1977年のコンサートより。Take it to the limitが聴けます。
https://youtu.be/awfqcbZa8VI




グリッサンドが印象的なOne of These Nights、レゲエのリズム感を
取り入れたHotel Californiaなど、ランディのベースラインが骨格を成
している曲も多い

愛器はフェンダー・プレシジョンベース、ジャズベース、リッケンバッ
カー4001で、指弾きしている。





バンドがドン・ヘンリー、グレン・フライの専制的になったこと(2)
ジョー・ウォルシュ加入でバンドの音がよりハード路線になったこと、
Hotel Californiaの大ヒットで多忙な生活に疲れたことなどが重なり、
1977年9月にイーグルスを脱退する。

イーグルスのツアーはアンコールでTake It Easyをやるのがお約束で、
最後のランディーのハイトーンで観客が盛り上がる。
ランディーは毎回これをやるのにうんざりしてたという。
グレン・フライに強要されたが、ステージに上がるのを拒んだため
「それなら辞めろ」と解雇通告されたそうだ。(グレン・フライ談)




<イーグルス、脱退後のランディ・マイズナーの来日>

イーグルスの初来日は1976年2月のOne Of These Nightsツアーだ。

オーディエンス録音のブートを聴くと、「ランディー」と女性ファン
の声が入っている。
それを嘲るようにグレン・フライが「Randy,Randy」と言っている。
日本ではランディーが女の子に人気があったのだ。




1979年9月のThe Long Runツアーはランディは脱退後だった。
後任のティモシー・シュミットもポコ出身でハイトーンを得意とした。
バンドの不仲、まとまりの悪さが伝わり、残念なコンサートだった。
(この後、イーグルスは活動停止、正式解散を発表する)


イーグルスのメンバーとしてのランディ・マイズナーを見る機会はな
かったが、1990年、1991年にまさかのポコ再結成で来日している。
僕は1991年7月、渋谷オーチャードホールで見た。



↑再結成したポコ。右から2人目がランディ・マイズナー。



ジム・メッシーナ、ラスティ・ヤング、ランディ・マイズナーの3人
によるアコースティック・セッションである。

やっとランディ・マイズナーを生で見ることができた。
Take It To The Limit、Midnight Flyerも歌ってくれた。





しかもポコの前にバニー・レドンがイーグルス時代の持ち歌を含めて
5~6曲歌ったのだ。何て「おいしい」コンサートだろう!
1979年のイーグルス(武道館)よりよっぽどいい。



1996年イーグルスがロックの殿堂入りを果たし新旧メンバーが一堂
に会した際、ランディ・マイズナーとバニー・レドン、ドン・フェル
ダーもスピーチをし、演奏にも加わった。(2)
ランディ・マイズナーの姿を見たのはこれが最後だったと思う。



↑左が
ランディ・マイズナー。




<ロビー・ロバートソンの足跡>

ザ・バンドはアメリカ南部のスワンプ・ロックのグループだが、アメ
リカ人はリヴォン・ヘルムだけで、他の4人はカナダ人である。

ロバートソンは1965年にディランのバックバンド、ホークスに加入。
(ディランがアコギからエレキに持ち替え、世界中の会場でブーイング
を浴び、物を投げつけられた時代だ)


ホークスはザ・バンドと改名し、1968年にアルバム「Music From The
Big Pink」でデビューする。



ロビー・ロバートソン(右)以外はむさ苦しいオッサンっぽかった


サイケデリックとプログレッシブがロックの主流だった1960年代末に、
R&Bやゴスペルなどアメリカ南部音楽の深淵をなぞるような、土臭い
サウンドを作り出していたのが画期的だった。





デイヴ・メイソン、クラプトン、ジョージ・ハリソンら英国のミュージ
シャンもザ・バンドの虜になった。
クラプトンとジョージはザ・バンド加入を申し出たくらいだ。

映画「イージー・ライダー」にThe Weightが使われたこと、1969年8
月のウッドストック・コンサート、ワイト島フェスティバルへの出演
多くの人に知られ、トップクラスのライブバンドとしての名声を得る。





リーダー的存在のロビー・ロバートソンのギター・スタイルを特徴づけ
ていたのが、チョーキング&ビブラートとピッキング・ハーモニクスだ。
ピッキング・ハーモニクスは、ピックを斜めに当てながら親指の腹で
ミュートさせ、独特のコキコキという音を生み出す奏法である。(3)


僕は正直言ってザ・バンドの土臭い音楽がそれほど好きではない。
だけどロビー・ロバートソンはカッコよかった。

ザ・バンド以外のセッションでの演奏も特徴的だからすぐ分かる。
ロビー・ロバートソンが弾くと渋みが加わって曲が引き締まるのだ。
ライ・クーダーと同じ職人気質の名脇役といったところだろうか。





↓クラプトンとディランのデュエット、Sign Language。
ロビー・ロバートソンの表情豊かな渋〜いギターが聴けます。




ザ・バンドは9枚のアルバムを発表し、1976年に解散した。
ロバートソンはアルバム制作重視の意向で、ツアー活動にこだわる他
メンバーとの対立が激しくなる。
特にリヴォン・ヘルムとロバートソンの確執は大きかった。
リチャード・マニュエルはストレスから酒とドラッグに溺れてしまう。

問題を抱える中、ロバートソンは1976年にライヴ活動の停止を発表。
11月にサンフランシスコでラスト・コンサート(実質は解散コンサート
となった)が行われ、ディラン、クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ・
ミッチェル、エミルー・ハリスなど大物ミュージシャンが参加した。




この模様はマーティン・スコセッシ監督が撮影し、映画「ラスト・ワル
ツ」として公開。サントラ盤もリリースされている。



↓クラプトンのギター・ストラップが外れ、ロビー・ロバートソンがソ
ロでつなぐ有名なシーン。
https://youtu.be/78gR3Dlj7l0





※ロビー・ロバートソンのストラトキャスターに注目!
センターのピックアップを外しフロントとリアだけにしてある。
たぶん配線も直列に変え、フロント+リアでハムバッキング効果が出る
ようにしてあるのだろう。

この他にセンターのピックアップをリアと並べて配しているブロンズの
ストラトキャスターも使用している。(上のディランと共演してる写真)



ロバートソンの独断で強行されたこの企画にリヴォン・ヘルムは反対。
他のメンバーも解散を望んでいなかった。
このことからロバートソンと他の4人との間に確執が生まれてしまい、
後の再結成の際にはロバートソンは参加しなかった




<ザ・バンド再結成と来日>

1983年ロバートソン抜きで再結成しツアーを行なう。初来日も果たす。
ザ・バンド名義で1987年、1994年にも来日公演を行なっている。




1992年ディランのデビュー30周年コンサートにザ・バンドが出演。
(ロビー・ロバートソンは不参加)



1994年、ザ・バンドはロックの殿堂入りを果たす。
式にはロバートソンも参加。反発したリヴォン・ヘルムが参加を拒否。
5人が揃って演奏することは叶わなかった。






<ロビー・ロバートソンの活動と来日>

ザ・バンド解散後はセッション・ギタリスト、音楽プロデューサーと
して活動。マーティン・スコセッシの映画で音楽監督を務める。

1987年に初のソロ・アルバムを発表。
ユダヤ系カナダ人とモホーク族インディアンの混血であることを明かし、
その出自について歌った作品であるとコメントした。


2作目の「Storyville」(1991)はニューオーリンズ音楽の影響が伺える。
ミーターズ、アーロン・ネヴィル、ニール・ヤングがゲスト参加。

このアルバム発売に合わせて来日。
プレスミーティングに招待され、ロビー・ロバートソンに会って来た。





映画「ラスト・ワルツ」の印象でクラプトンと背格好は同じくらいと
思ってたが、かなり大柄な人だった。

ロバートソンはクラプトンと同じグレンチェックのシャツを着ていた。
会場にいたワーナーの女性A&Rにそのことを言うと「あー、あれ、アル
マーニですよ。日本でも76,000円で売ってます」とのこと。
青山のアルマーニに行ったら本当に76,000円で売ってた。無理。。。
ユナイテッドアローズで似た雰囲気のシャツを見つけ(セールになるの
を待って)買った(笑)


その後もインディアンの伝統音楽に影響を受けた作品を発表する。
2008年にはザ・バンドとともにグラミー賞特別功労賞を受賞。
ローリングストーン誌の歴史上最も偉大な100人のギタリスト(2011
年)で59位に選ばれている。







2019年カナダでドキュメンタリー映画「ザ・バンド かつて僕らは兄弟
だった」(Once Were Brothers: Robbie Robertson and the Band)
が公開された(日本では2020年公開)。






↓映画の予告編が見れます。
https://youtu.be/43nM_Z2Fuj4



マーティン・スコセッシが監督だからいい作品に仕上がってるはずだ。
貴重な演奏シーンもあるだろうから見てみたい。

しかし他のメンバーが既に他界し、ロビー・ロバートソンの視点だけ
で語られるザ・バンドというのはフェアではないと思う。
唯一の生存者、ガース・ハドソンのインタビューもカットされてる。


どのグループにも確執はあるのは分かる。
でもロビー・ロバートソンとリヴォン・ヘルムの痼りは尋常じゃない。

メンバー5人のうち4人が他界してしまった。
ザ・バンドは天国で再会し仲良く演奏することもないだろう。





<脚注>