2018年9月30日日曜日

ロックな青春映画10選(8)僕の孤独が魚だったら。

フィッシュストーリー」は、1975年に「逆鱗」という売れないパンクバンド(1)
残した「FISH STORY」という曲が時空を超えて巡り巡って、地球の危機を救う
という荒唐無稽だがよくつながってるな〜と感心してしまう映画だ。

伊坂幸太郎の短編小説×中村義洋監督が映画化、の第二弾目である。(2009年)
前作の「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007年)、第三弾の「ゴールデンスランバー」
(2010年)もとてもよかった。どの作品も見て損はないと思う。



三作品に共通してるのはロックがキーポイントになっている点だ。
「アヒルと鴨」はディランの「風に吹かれて」がストーリーで重要な役割を担っている。
「ゴールデンスランバー」はビートルズの同名楽曲。(2)

「フィッシュストーリー」は「逆燐」という架空のバンドが登場。
楽曲プロデュースは斉藤和義が担当した。

ロック云々は別としても楽しめる映画でお薦めです。







<映画のあらすじ>

1975年、日本に「逆鱗」というパンクバンドが登場した。
セックス・ピストルズがデビューする1年前。(3)
パンクという言葉さえ日本にまだなかった。

早すぎたパンクバンド「逆鱗」はなかなか世間に理解されないが、マイナー・レーベル
の担当者、岡崎(大森南朋)は彼らの可能性を見出しスカウトする。
しかし、一向に売れない。
レコード会社の上層部からは契約を打ち切るよう岡崎に圧力がかかる。


岡崎(大森南朋)が持っていた本に触発され、リーダーでベース担当の繁樹(伊藤淳史)
は彼らの最後のレコーディングのため「フィッシュストーリー」を作曲する。

 僕の孤独が魚だったら、 巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出す きっとそうだ 
 僕の孤独が魚だったら、巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出す 
 オレは死んでないぜ オレは死んでないぜ 音の積み木だけが世界を救う

                    (伊坂幸太郎/斉藤和義)


「FISH STORY」というのはホラ話、作り話のこと。
釣り師が獲物を誇張して言いがちなことが語源らしい。(4)

「フィッシュストーリー」という本は印刷後、誤訳でデタラメだったことが発覚しすべ
回収され、処分された。
その出版社で働いていた岡崎の叔母がこっそり持ち帰った幻の一冊だったのだ。
だから著作権は発生しない、とのことだった。



↑クリックすると逆鱗の「フィッシュストーリー」が視聴できます。


「逆鱗」のメンバーは「これが最後」という覚悟で一発録りに臨む。
曲間でボーカルの五郎(高良健吾)が「岡崎さん、俺たちの歌、誰かに届いているのか
な」と思いをぶつける。

五郎のモノローグが入ったためプロデューサーは録り直しを命じるが、岡崎は「いや、
のテイクで行こう」と主張する。(5)
五郎の語りの部分は無音にする、その方が謎めいていていい、というのだ。

「逆鱗」は売れないまま、解散した。



時は流れ1982年
「フィッシュストーリー」の謎の無音部分が一部の若者の間で都市伝説となっていた。
人によっては無音部分に女性の悲鳴が聴こえるというのだ。
弱気な大学生、雅史は深夜、運転中そのカセットテープを聴いたことがきかっかけで、
運命の女性(大谷英子)と巡り会う。


さらに時は流れ2009年
フェリーで修学旅行へ向かう女子高生の一人、麻美(多部未華子)は眠りこけて下船
できず、シージャックに巻き込まれてしまう。
しかし「正義の味方」と名乗る青年(森山未來)が現れ、傷を負いながらもシージャッ
一味を倒し、麻美たち乗客が助かった。
「正義の味方」は雅史の子供。
1982年に雅史が「フィッシュストーリー」を聴いたことにつながっている。


そして2012年
巨大隕石の地球衝突が迫り、世界中がパニックに陥っている。
荒廃した街の片隅で、いつもと同じように中古レコード店を営む店長がいた。
あの「逆鱗」を手がけた岡崎の子供(大森南朋、一人二役)だ。
レコードを物色する客に、店長は「逆鱗」の「フィッシュストーリー」を聴かせる。

地球の危機は救われるのか・・・・






逆鱗というバンド

「逆鱗」のメンバーを演じたのは、俳優の伊藤淳史(ベース)、高良健吾(ボーカル)、
渋川清彦(ドラム)と、ロックバンドDrive Farの大川内利充(ギター)の4人。
劇中で逆鱗が歌う曲は斉藤和義がプロデュースを手がけた。


渋川清彦は高校卒業後、バンドでプロを目指し上京。アートスクールのドラム科を中退。
その後、俳優に転じたがドラムの経験はあった。

伊藤淳史はまったく楽器経験がなく2ヶ月間、必死で練習したそうだ。
楽器の持ち方、弦の押さえ方から習い、泊まりがけの仕事にもベースを持って行き、
毎日どんなに忙しくてもベースに触るようにしていたらしい。


高良健吾はニルヴァーナ、エレファントカシマシ、サンボマスター、東京事変、奥田民生
などを好んで聴いていたロック好きで、ボーカルもサマになっていた。

大川内利充はフランス人のボーカル+3ピースの爆音系バンド、Drive Farのギタリスト
で、「逆鱗」のサウンド作りに貢献している。


メンバーたちは週2~3回集合して練習し、その後飲みながら曲や音について話し合った。
そのためか劇中の「逆鱗」のシーンは、ざらっとした生々しさがあった。
理解してもらえない、売れないミュージシャンの哀愁、虚しさも切実に感じられた。





映画公開に先駆け、2009年02月にCD「FISH STORY 逆鱗×斉藤和義」をリリース。
3月にタワーレコード渋谷店、HMV渋谷店でミニライブを開催している。

「FISH STORY」を作曲した斉藤和義自身もセルフカヴァーしているが、この曲に関し
ては僕は「逆鱗」のヴァージョンの方がいいと思う。


<脚注>


(1)逆鱗
映画では「ギャクリン」と呼ばれている。
「逆鱗に触れる」など慣用句で使われる場合は「ゲキリン」と読むのが正解。
「逆鱗」は「天子または目上の人の怒り」という意味。
竜の顎の下には逆さに生えたウロコ(鱗)があり、これに触ると竜が怒って触った人を
殺してしまう、という伝説からきた言葉。
天子を竜にたとえているわけだ。


(2)ゴールデンスランバー
ビートルズの楽曲の原題は「Golden Slumbers」。最後に「s」が入る。
映画のタイトルとしては「ゴールデンスランバーズ」より語呂がいいのだろう。
斉藤和義が主題歌としてこの曲を歌っている。


(3)セックス・ピストルズのデビュー
ロンドンのキングスロードで「SEX」というブティックに出入りしていた不良少年た
ちに目をつけた店の経営者マルコム・マクラーレンが介入し、バンドの形を整えさせ
たのが1975年11月。
貸しスタジオで練習を重ね、翌年セックス・ピストルズとしてライブデビューした。
1976年11月、最初のシングル「アナーキー・イン・ザ・U.K.」をリリース。
ニューウェーブの旗手として注目されたが、反体制的な歌詞や言動、スキャンダル、
過激なファッションは保守層からは敵視された。
1977年10月に唯一のアルバム「勝手にしやがれ!!」発売後、翌年あっけなく解散。

ちなみに日本で最初のパンクロック・バンド、アナーキー(1980年デビュー)のバ
ンド名はピストルズの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」が由来である。
どちらかというとピストルズよりザ・クラッシュの模倣だった。


(4)FISH STORY
ロシアには、「釣りの話をするときは両手を縛っておけ」という諺があるらしい。
両手を広げて示す魚のサイズがどんどん大きくなってしまうからだとのこと。


(5)無録音部分
1975年当時はどのスタジオも16トラックのマルチレコーディングが標準のはず。
劇中でもボーカルはパーテーションで囲われて歌っていた。
一発録音にしてもボーカルのトラックは独立してるから、演奏はそのまま生かして
五郎のモノローグの部分だけ消すことは可能だったとはずだが・・・・


<参考資料:Wikipedia、ORICON NEWS、ビジネス文章力研究所、他>

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