レコーディング・スタジオに隣接するアビイ・ロードの横断歩道を一列で渡った。
ジョンを先頭にリンゴ、ポール、ジョージの4人は横断歩道を3往復した。
撮影された写真は6枚。
5枚目が彼らが最後に録音したアルバムのジャケットに使用された。
アルバムのタイトルはスタジオ前の並木道の名前に由来している。
↑こんな俯瞰の写真もあった?クレーンで撮ったのか?と思いきや。これはフェイク。
フリー・アズ・ア・バードのPVからキャプチャーしたらしい。
↑裏ジャケ写のアウトテイク?と思いがちだがこれもフェイク。PVからキャプチャー。
当初はアルバム・タイトルをエベレストとし、実際にヒマラヤで撮影するという案
も出ていたがメンバーたちは乗り気じゃなかった。特に旅行嫌いのリンゴは。
じゃあ、この近くで写真を撮ってアビイ・ロードというタイトルにすればいい。
リンゴの発言だという説もあるし、ポールの案だとも言われている。
↑いずれにしても具体的なジャケ写のイメージはポールの頭の中にあったようた。
彼が描いたスケッチに沿って撮影が行われたことが伺える。
4人は朝10時にEMIスタジオに集合。門を出てすぐ外の横断歩道へ。
カメラマンのイアン・マクミランが脚立の上カメラを構え、警察官が信号を操作して
交通を遮断している10分間に撮影は行われた。
EMIスタジオの近所、キャベンディッシュ・アベニューに住んでいたポールはスーツ
にサンダル履き、という格好で現れた。暑い日だったという。
↑待機中の4人。ポールはサンダルを履いている。
今でこそこういう着崩しは一般的でクールだが、サンダルはまずいとカメラマンから
注文が入ってしまう。(なにしろホテルもサンダルでの入館は不可という時代だ)
ポールは「じゃ、脱げばいいんだろ」と裸足になる。
撮影前半はポールがまだサンダルを履いているカットもある。
ジョンのスーツにスプリングコート(フランスのテニスシューズ)も前衛的だ。
この日のレコーディングは2時半からだったため、撮影終了後に一旦解散。
ポールはジョンを連れて自宅へ戻り、ジョージはマル・エヴァンスと一緒にロンドン
動物園へ、リンゴは買い物に出掛けた。
2時半にスタジオに再集合。「ジ・エンド」にドラムとベースをオーバーダブ。
その後ポールは一人で「オー・ダーリン」にギターとタンバリンをオーバーダブ。
ジョンは「アイ・ウォント・ユー」にムーグによるノイズをオーバーダブ。
4月中旬から始まったセッションは終盤に差し掛かっていた。
8月20日に「アイ・ウォント・ユー」が完成(1)。アルバムの曲順(2)を決める。
4人がスタジオで集まってセッションしたのはこの日が最後となった。
1969年9月26日、アルバム「アビイ・ロード」発売。
ビートルズの最後のレコーディングにして最高傑作の誉れ高いロックの金字塔。
アビイ・ロードは世界一有名な横断歩道として今も観光客が絶えない。
毎年何万人ものファンがこの聖地を訪れ、横断歩道を渡る写真スポットでもある。
この場所は歴史的なランドマークとして保護され(横断歩道の位置は変わったが)、
アビイ・ロード・スタジオは世界の音楽業界でも象徴的な存在となっている。
あれから50年。9月27日に50周年記念2019リミックス盤が発売される。
今回はサージェント・ペパーズの時と同じく通常盤(1CD)、デラックス・エディション
(2CD)、スーパー・デラックス・エディション(3CD+Blu-ray Audio)の3種。
プロデューサーはジャイルズ・マーティン、ミキシング・エンジニアはサム・オケル
と同じなので、音の傾向も同じだろう。
デラックス・エディション(2CD)はオリジナル・アルバムの2019年版リミックスCD
+アウトテイク・デモ音源をアルバムの曲順に収録したCDがセットになっている。
スーパー・デラックス・エディション(3CD+Blu-ray Audio)はアウトテイク・
デモ音源が2枚のCDに収められ、LPサイズのボックス入り。。
尚、4枚中3枚のジャケットはアウトテイクの写真が使用されているようだ。
豪華ブックレットには未発表のレアな写真(ほとんどはリンダ・マッカートニー撮影)、
初出の手書き歌詞、スケッチ、ジョージ・マーティンの手書き楽譜、ビートルズ関係
の手紙のやり取り、レコーディング・シート、テープのボックス、印刷広告の復刻が
網羅されている。
※LP盤も1LP、3LP、1LP(ピクチャーディスク)が用意されている。
さて、どれを買うべきか?
マニアックなコレクターは迷わずスーパー・デラックス・エディションを選ぶだろう。
僕はデラックス・エディション(2CD)にするつもりだ。
Blu-ray Audioも豪華ブックレットも不要だし、ボックスが場所をとるのが嫌だから。
スーパー・デラックスでしか聴けないアウトテイクは?というと。。。
グッドバイ(ポールがメリー・ホプキンに用意したデモ。公式には初収録)(3)
カム・アンド・ゲット・イット(バッドフィンガー用のポールの多重録音デモ)(4)
ジョンとヨーコのバラード、オールドブラウン・シューのアウトテイク。
→これはちょっと聴いてみたい。
ビコーズ、サムシング、ゴールデン・スランバー〜キャリー・ザット・ウェイトの
インスト、ストリングスのみ。→要らない。
ザ・ロング・ワン(B面メドレーの仮編集、ハー・マジェスティが真ん中に入る。(5)
聴きたいものだけダウンロードすればいっかー、と割り切ることにした。
美味しいところはデラックス・エディション(2CD)に凝縮されていると思える。
そして肝心の本編のリミックス! かなり期待できそうですよ。
サムシングのみYouTubeにアップされているが、聴いて驚いた。
レスリーの回転スピーカーを通したテレキャスターによるバッキング、埋もれていた
オルガンがよく聴こえる。ストリングスも大きくなった(大きすぎじゃない?)。
ドラムの迫力。サビでのタム連打はセンターで響き、ハイハットが左から煽る。
ジョージによるオブリ、ソロのギターも艶っぽい。
やはりスライドだろうか?(ジェフ・エメリックはそう証言している)
ジョージの声も魅力的だ。ダブルトラッキングではセンターと左に分かれる。
サビではポールも一緒にハモっているような。
↑写真をクリックするとサムシング2019リミックスが聴けます。
※この他、ジョージ単独のデモ、ストリングスのみ(6)、もアップされている。
デモは既出のアンソロジーではギター弾き語りだったが、今回の音源はピアノも
オーバーダブされている。
<脚注>
(1)アイ・ウォント・ユー
ゲットバック・セッション終了から3週間後の2月22日トライデント・スタジオで、
ビートルズはこの曲に取り掛かった。(まだアビイ・ロードの構想はない)
35テイク録音。内1テイクは試験的にポールが歌っている。(今回収録されるか?)
アルバム「ゲットバック」を放棄し、ビートルズは4月中旬から新アルバムに着手。
アイ・ウォント・ユーは断続的にオーバーダブ、編集が繰り返され8月20日に完成。
アビイ・ロードの録音は終了。4人がスタジオで集まるのもこの日が最後となった。
(1970年1月3日のアイ・ミー・マインの録音はジョンを除く3人で行われた)
(2)アルバムの曲順
ジョンはストレートなロックンロールをやりたがり、ポールやジョージの曲では
あまり貢献していない。
自分の曲は独立してA面にまとめて収録、B面はポールの曲と分けて欲しいと主張。
B面のメドレーはポールのアイディアだ。
断片的な小作品をつなぎ合わせて壮大なメドレーに仕上げることにした。
タペストリーにはめ込むアイデアをポールはジョンに求め、ジョンは3曲を提供した。
(3)グッドバイ
メリー・ホプキンの2枚目のシングル曲としてポールが書いた曲。
自宅で録音したらしい。ギター一本で歌っている。
ブートでは出回っていたがアンソロジーに漏れ、公式発表は今回初めて。
(4)カム・アンド・ゲット・イット
バッドフィンガーのためにポールが書いた曲。
アビイ・ロード・セッションの合間、ポールはピアノ、ドラム、ベース、ギター、
マラカスを一人で多重録音し、わずか1時間でデモを完成させた。
モノラル・ミックスがアンソロジーに収録された。
今回は初めて発表されるのはステレオ・ミックス。
ポールとジョンがコントロール・ルームにいるときに作られたものだそうだ。
(5) ザ・ロング・ワン
ハー・マジェスティはミーン・ミスター・マスタードとポリシーン・パンのつなぎ
であったが、仮編集でポールはハー・マジェスティを削ることを判断。
ビートルズの録音はいかなるものも捨てるなと上層部から言われていたエンジニア
は、ボツになったハー・マジェスティを捨てずテープの最後にくっつけておいた。
そうとは知らず編集し直したメドレーを聴いたポールは、ジ・エンドの後に入って
いたハー・マジェスティをおもしろがり隠しトラックとして残すことにした。
(6)ストリングスのみのサムシング
ジェフ・エメリックによると、サムシングのレコーディング終盤で空きトラックは
一つのみとなっていた。
そこにストリングスとジョージのギター・ソロを一緒に録音するのは難しい。
オーケストラの団員たちを押さえてある時間も迫っていた。一発録りするしかない。
ジョージは「やればいいんだろ?」と言い、見事な間奏を1テイクで決めてみせた。
ということは、この曲のストリングスのみのトラックってないはず。謎である。
<参考資料:ユニバーサル・ミュージック、ビートルズ録音年表、YouTube、
ジェフ・エメリック「ザ・ ビートルズ・サウンド 最後の真実」、Amazon、
THE BEATLES RECORDING SESSIONS、他>
0 件のコメント:
コメントを投稿