2024年12月23日月曜日

リトル・フィートの真骨頂。'70年代米国ロック最高のライヴ盤。




ロック通、ロック好きがライヴ・アルバムの名盤(1)について語ると、必ず
名前が挙がるのが、リトル・フィートの「Waiting for a Columbus」だ。

少なくとも1970年代の米国ロックという括りにおいては、いや、個人的には
ロック史上で最高かつ最強のライブ盤ではないかと思う。



フィートが超一流のライブ・バンドだということを再認識させられる。
最も脂が乗っていた時期のライヴ。悪かろうはずがない。

何で今までこんなすごいアルバムを知らなかったのか!と愕然とするはずだ。
とにかく出音がすごい豪快である
うねるようなノリ熱量の高いごきげんな演奏で楽しませてくれる。


イーグルスやドゥービー・ブラザーズのような軽快さ、洒脱さはないが、
どっしりした重いリズムでぐいぐい引っ張って行かれるのは快感だ。

リトル・フィート=泥臭いサザン・ロック、脂っこい、暑苦しい、と敬遠
されがちだが、このアルバムを聴くと認識が変わるのではないだろうか。







<ライヴ・アルバムの聴きどころ>

「Waiting for a Columbus」(1978年発売)は1977年8月にロンドン〜ワシ
トンで行われた7公演(2)からベスト・テイクを集めたものである。

1971〜1977年に発表した6枚のスタジオ・アルバム収録曲で構成されている。
(ライブ用にリアレンジされてパワーアップしている)
彼ら自身もライブの方が自由で生き生きしてる。





出だしからカッコいい。バンドがステージで音出し始める。
ライスナー ・オーディトリアの最前列で見ているような錯覚をしてしまう。

地元ワシントンのDJが「F-E-A-T」と煽ると、聴衆が応える。
「Fat Man In The Bathtub」のイントロに入り、 会場が熱狂する。


Little Feat - Join the Band
https://youtu.be/48P_imCuNiU?si=YSh0ss5pRmFr6bsu

〜Fat Man in the Bathtub
https://youtu.be/PiutmLNt5VI?si=oGm_hcr_Ch8yiVcx
 (Live at Lisner Auditorium, Washington, DC, 8/10/1977)



「Dixie Chicken」はビル・ペインのピアノ・ソロローウェル・ジョージと
ポール・バレアの丁々発止のギター・バトルが堪能できる。





Dixie Chicken (Live at the Rainbow Theatre, London, UK, 8/3/1977)
https://youtu.be/UMJbtFZWWa8?si=TBjueEJFCaz339yy


お馴染みの「Sailin’ Shoes」も重厚なアレンジに書き換えられている。
「Rocket In My Pocket」「Mercenary Territory」ではタワー・オブ・
パワーのホーン・セクションが参加。厚みのあるアンサンブルが聴ける。


Mercenary Territory (Live at the Rainbow Theatre, London, UK, 8/2/1977)
https://youtu.be/qZZ1qvjIYg8?si=upPkevs_VCnmcRaD






「Willin’」はリンダ・ロンシュタットもカヴァーした名曲で、ザ・バンド
の「The Weight」にも通じるスワンプ色の強い曲。
「All That You Dream」も同じくリンダが歌った曲だが、フィートのライヴ・
ヴァージョンは荒々しくハードなロックに仕上がっている。
ギターの音もカッコいい。16ビートの裏打ちリズムがビシッとキマる。


All That You Dream (Live at Lisner Auditorium, Washington, DC, 8/10/1977)
https://youtu.be/yXGOZkej-qY?si=VBH9rFKhZ0NWaVI7





                  ↑恋多き女、リンダはローウェル・ジョージとも恋仲だった。


「Oh Atlanta」は初期のドゥービー・ブラザーズを彷彿させる。
「Don't Bogart That Joint」はフラタニティ・オブ・マン(3)のカヴァー。
ゆるーいマリアッチ風で、ローウェル・ジョージのソロ作品にも通じる。

さらに「A Apolitical Blues」では、元ストーンズのミック・テイラーがゲスト
出演し、後半はスライド・ギターを披露している。
そのせいもあって、上手なストーンズに聴こえなくもない(笑




A Apolitical Blues (Live at the Rainbow Theatre, London, UK, 8/3/1977)
https://youtu.be/TkVijd9g_Hk?si=LaipIahlLcwMzXRH
↑ローウェル・ジョージとミック・テイラーが観れます(画質と音質は悪い)
アルバム収録と同じテイク。




また2002年のデラックス・エディション2CD(後述)に収録されている
「Red Streamliner」ではマイケル・マクドナルドとパット・シモンズ
バックコーラスで参加。(4) なるほど、ドゥービーっぽい。




<アルバム・タイトルの意味とカヴァー・アート>

「Waiting for a Columbus(コロンブスを待ってるところ)」というタイト
には、まだまだそれほど有名とは言えなかったリトル・フィートの「多くの
人に聴いて欲しい、発見して欲しい」という願いが込められていたようだ。






2枚目以降のアルバムを担当しているイラストレーター、ネオン・パーク(5)
よるカヴァー・アート、サボテンなどが生える庭園で擬人化したトマト娘が
ハンモックで微笑んでいる絵が印象的である。

背景の庭園に生えるサボテンなどアメリカ原産の植物は、コロンブス以前の
ヨーロッパ人には知られていなかったもの。
トマト娘はコロンブスを待ってる(Waiting for a Columbus)のだろう。

本作以前いかに彼らの実力に相応した評価が得られていなかったかが分かる。







<アルバムの評価と商業的成功>

「Waiting for a Columbus」はリトル・フィートの最も売れたアルバムで、
全米18位を記録。唯一プラチナ認定を受けている。

本作によってリトル・フィートは1970年代を象徴する最高峰のライヴ・バンド
の代表格、という確固たる地位を築いた。

アルバムのリリース後、ローウェル・ジョージが脱退しソロ活動開始、そして
急死(6)してしまったため、彼が在籍中唯一のライヴ作品となってしまった。



(写真:GettyImages)



フィートの願いどおりバンドの知名度は上がり、海外でも聴かれるようになる。
アルバム発表後、初来日(7)を果たしている。
ローウェル・ジョージの調子も悪くなかったらしい。
行っておけばよかったと悔やまれる。






さて、豪快なパフォーマンスとジャムが魅力の本作であるが、ローウェル・ジ
ョージが3週間スタジオに籠り、ギターとヴォーカルのオーヴァーダブを行った
と後日談で明らかにしている。

他のメンバーと音楽の方向性が違って来た、薬物と酒の過剰摂取からローウェル
・ジョージの体調にも斑があった時期だが、彼のライヴ・アルバムへの意気込み
はかなりのものだったらしい。

リトル・フィートの魅力を最大限にアピールするためにオーヴァーダブが必要
と判断したのだろう。
豪放磊落なように見えるが、意外と繊細で完璧主義者だったのかもしれない。



トレードマークのオフホワイトのオーバーオール。(写真:GettyImages)
海外のサイトでは「Fat Angel」と親しみを込めて呼ばれている。




<2LP→1CD→2CD→8CD 発売形態の変遷>


LP3枚分の録音〜ミックスが行われたが、1978年の発売時はセールスのこと
を考慮してLP2枚組でリリースされた。
未使用曲のうち3曲は1981年の未発表曲集「Hoy-Hoy!」に収録された)



初CD化の際、ワーナー・ブラザーズは1枚に収めるため2曲をカット。
「The Last Record Album」にボーナスとして収録。ファンの不評を買う。



2002年にRHINOレーベル(8)から2枚組デラックス エディションCDで発売。
リマスタリングにより音質が飛躍的に向上し、迫力のある演奏が聴ける。
(初CDから買い換えた人の感想)




↑LPのレーベル(ワーナーのバーバンク・スタジオ前の道)もピクチャー・
ディスクで再現された。


初CD化でカットされた2曲が復活。
アウトテイク10曲は本編に遜色のない出来で、オリジナルLP編集時に収録を
断念した未使用曲源であることが分かる。(「Hoy-Hoy!」収録の3曲も含む)

「Cold, Cold, Cold」「Rock And Roll Doctor」「Skin It Back」、アラン・
トゥーサンのカヴァー「On Your Way Down」は、本編収録曲と同等の出来。
1978年のリリース時、これらを外したのは当時は苦渋の決断だっただろう。



2022年には同じRHINOからスーパー・デラックス・エディション8CDが発売。
アルバム未収録だった1977年夏の3公演の音源が追加された。



<リトル・フィートの音楽性>

フィートの音楽はスワンプ・ロックブルースカントリー、がベースだが、
この時期はニューオリンズ・ファンクテックス・メックスクロスオーバー
(9)、何でもありのごった煮。シンセ・ベースも駆使している。

この辺が同じスワンプでも職人気質のザ・バンドとは異なる。
またレイドバック感、いろいろなジャンルの音楽を融合させている点はグレイト
フル・デッドに通ずるが、フィートはそこまでゆるくないしもっと上手い。



(写真:GettyImages)


リトル・フィートのライヴにおける醍醐味の一つが、変幻自在なジャム・セッ
ションとアドリブだ。

1975年頃からローウェルは薬物の影響でスタジオに遅刻、来ないということ
が度々起きるようになる。
他のメンバーは待ち時間にジャム・セッションをして時間を潰していたという。
そんな無駄とも言える時間が、リトル・フィートを世界屈指のライヴ・バンド
へと押し上げていった。



↑ビル・ペインはフィートの音楽性をコンテンポラリーなものにした。



そのライヴ力が評判となり、リトル・フィートはミュージシャンが選ぶバンド
共演したいバンドとなる。

「Waiting for a Columbus」には収録されていないが、ボニー・レイット、
エミールー・ハリス、リンダ・ロンシュタット、ニコレット・ラーソンも
リトル・フィートのライヴにゲスト出演(10)している。



↑ボニー・レイット(左)とエミールー・ハリス(右)



↑ボニー・レイット(左)(写真:GettyImages)



↑エミールー・ハリスとニコレット・ラーソン(写真:GettyImages)


リトル・フィートはミュージシャン受けするバンドなのだろう。
そういえば、ロバート・プラントやミック・ジャガーが「Waiting for a 
Columbus」を愛聴盤と発言している。

日本でもリトル・フィートの影響を受けたミュージシャンは多い。
はっぴいえんど(11)、ムーンライダース、サザン・オールスターズなど。




<ローウェル・ジョージのスライド・ギター>

リトル・フィートのサウンドを特徴づけてた一つが、ローウェル・ジョージの
スライドギターであった。
気怠くルーズさがありつつ甘くエレガントな音色は独特で、とても心地よく
聴けば聴くほど癖になる。



(写真:GettyImages)


メインで使用していたのは、1972年製ラージヘッド、チュラルフィニッシュ、
メイプル指板のフェンダー・ストラトキャスターだ。

リア・ピックアップはテレキャスター用に交換され、アレンビック製のブースタ
ー(Strato Blaster)が内蔵されている。




ボディーに直角にプラグインできるよう改造し、トグルスイッチも追加された。




弦はフェンダーのF-50セット13-54のフラットワウンド弦の表面が平なので、
ノイスが少なくスムーズなスライドがができる)。弦高は高めのセッティング。





たたでさえテンションがきついはずだが、オープンAチューニングだったそうだ。
オープンGチューニングより弦の張りがあり、クリーンで明るい音が得られるから
、と本人は言っている

スライド・バーの代わりにシアーズ・クラフツマン(12)のスパーク・プラグ・ソ
ケット(13/16 inch)を愛用していたという。
重さとか、感内側のギザギザ(指が滑らない)のがいいんだろうか?





↑ローウェル・ジョージは小指にバーを付けてスライドさせていた。



コンプレッサーはMXRのダイナコンプ(13)
独特のアタック感で、粒の揃った綺麗なクリーントーンからサスティンの伸びた
パワフルなドライブトーンまで音作りができる。




アンプはカスタムメイドのダンブル・アンプ(14)
クリーミーで1音1音がしっかりと聴こえてくる上質なオーバードライブ、太くて
抜けが良いクリーンサウンド が特徴。



↑右後にダンブル・オーヴァードライヴ・スペシャルが見える。



いかにローウェル・ジョージがスライド・ギターの音作りにこだわっていたか
が分かる。



<脚注>