シラ・ブラックは親しまれやすいキャラ、ユーモア、会話のアドリブ力を
活かし、歌手活動だけではなく司会者、女優としても人気を博す。
<TV番組のオープニング曲、Step Inside Love>
1968年にはBBCで初冠TVバラエティーショー「Cilla」の司会を務める。
番組のオープニング曲、Step Inside Loveはレノン=マッカートニー
の書き下ろし曲(ポールが単独でシラのために作曲)であった。
Cilla Black - Step Inside Love (Cilla 1968)
番組では毎回、多彩なゲストを迎え、楽しいトークとデュエットを披露。
トム・ジョーンズ、ヘンリー・マティス、アンディー・ウィリアムズ、ルル、
マット・モンロー、クリフ・リチャード、フィル・エヴァリー、ドノヴァン、
リンゴ・スター、スコット・ウォーカー、ダドリー・ムーア、 T.レックス、
フランソワーズ・アルディ、ダスティ・スプリングフィールド、サンディ・
ショウ、シュプリームス、ツイッギー、ブライアン・フェリーなど。
Cilla Black & Dudley Moore - If I Fell
↑ダドリー・ムーアのアドリブでシラは笑いすぎて歌えなくなってしまう。
「Cilla」は長寿番組となり、1976年まで放映されている。
シラ・ブラックは英国のお茶の間(って変?)の人気者となった。
その後も「Surprise Surprise」(1)「Blind Date」(2)など超人気
の国民的長寿番組のホストを務め、幅広い層から支持された。
OBE(大英帝国勲章第4位)を受賞したのもこの功績が大きいだろう。
本業の歌手活動も1993年までコンスタントに続けている。
ビートルズの妹分(3)として売り出したシラ・ブラックだが、活動期間と
いう点ではビートルズよりも息の長い歌手・タレントとなった。
<ポールのStep Inside Love作曲術>
ポール・マッカートニーという人は器用な作曲家だなとつくづく思う。
It's For Youもそうだが、このStep Inside Loveもビートルズっぽさが
まるで感じられない。
シラ・ブラックに提供することを前提に、ビートルズ路線とは違うアプ
ローチで作曲されている。
もともとロックだけでなく幅広いポピュラー音楽を好み、ポール自身も
ポップスの作曲家を志していたという。(4)
Step Inside Loveはリズムもコード進行もボサノヴァを取り入れてる。
半音ずつ下降するコード進行、テンション・コードの挟み方が巧い。
ポールの演奏(後述)を耳コピしてコード譜にしてみた。
ギター持ってる方は弾いてみてください。
(ポールのデモはキーD、シラの公式録音ではキーG )
特に注目すべきはヴァースのfind you a place後のAm7→G#7(#9)
、smile on your face後のG→Gm→F#7(#9)。
#9が入った7thコードが2箇所で効果的に配されている。(赤字の→)
「とっておきのコード」でビートルズでは2回しか使わなかったそうだ。(5)
ポールのギター演奏は開放弦の共鳴音をうまく活かしている。
既にアレンジが示唆されており、ジョージ・マーティンの書いたスコアも
ポールのデモに忠実である。
<Step Inside Love 制作過程>
ポールは最初のヴァースとコーラス部をロンドンの自宅で書き上げた。
多重録音のデモテープからスタジオで7インチのアセテート盤を制作。
BBC側からより長い尺を求められ、ポールはBBCシアターに赴き新たなヴァ
ースを加えた。
"You look tired, love"という歌詞は、TVショーのリハーサルを重ね疲れた
様子のシラを見て思いついたという。
フレーズごとの歌詞の韻の含ませ方も職人芸だと思う。
1967年11月21日にロンドンのチャペル・スタジオでポールのギター演奏で
シラが歌うデモを録音。
ポールはシラが歌えるようキーDで作曲している。
それでもシラには少し低すぎたようだ。
Cilla Black and Paul McCartney - Step Inside Love
(Original Demo)
レコーディング時はシラの音域に合わせて4度上げてキーGに移調。
映像が残されている。(6)
Cilla Black & Paul McCartney - Step Inside Love
Studio Session (November 21st 1967)
1968年1月30日の番組開始からオープニングで使用された。
シングルの発売は1968年3月8日。
全英シングルチャートで最高位8位を記録。
アイルランド、ニュージーランド、カナダでもチャートインしている。
<Step Inside Love ビートルズ・ヴァージョン>
1996年のAnthology3でこのアウトテイクを聴いた時は驚いた。
録音されたのは1968年9月16日。アビイロード第2スタジオ。
ポール、ジョン、リンゴの3人はポール作I Willのレコーディング中だった。
(ジョージはこのセッションに不参加)
ポールはアコースティック・ギター(D-28)を弾きながら歌い、ジョンは
金属片を木片で叩いてパーカッション代わりにし、リンゴがマラカス、ウッ
ドブロックとシンバル、という編成で67テイクを録音。
ポールはアコギを持つと脱線して違う曲を歌い出す奇行(笑)があるらしい。
この日も何度か中断しCan You Take Me Back、Blue Moon、The Way
You Look Tonight、Los Paranoiasを即興で歌っている。(7)
I Willテイク35の途中でポールはStep Inside Loveを歌い出した。
半年前にシラのシングルが発売されているが、ポールはその時のデモと同じ
ギター演奏で歌っている。(8)
(前出のコード譜はこのビートルズのセッション音源から耳コピした)
The Beatles - Step Inside Love (Studio Jam)
実はStep Inside Loveはこのビートルズの音源で初めて聴いた。
ポールがシラ・ブラックに提供したことは知っていたが、彼女の歌もそれ
までは聴く機会がなかった。
今ではシラのStep Inside LoveとIt's For Youもお気に入りである。
(1)「Surprise Surprise」
1984年からは ITVでシラ司会による「Surprise Surprise」が放映。
家族向けの娯楽番組で、視聴者に様々な「サプライズ」を用意する内容。
長年の夢や願いを叶える、久しく会っていない家族や友人との再会、など。
シラ自身が視聴者のもとへ出向き、歌うコミカルなロケ企画もあり、バラ
エティ豊かなコーナーで構成されていた。
感動とユーモアを組み合わせた心温まる番組として当時非常に人気を博し、
英国の「国民的財産」と呼ばれるほどの成功を収めた。
「Surprise Surprise」は2001年まで続く長寿番組となった。
(2)「Blind Date」
シラ・ブラックが司会を務めた「Blind Date」は、英国で絶大な人気を
博した恋愛マッチング番組(デートゲームショー)。
番組の仕組みは、1人の独身回答者(挑戦者)がスクリーン背後に隠れた
3人の独身候補者からの回答だけを頼りに、デート相手を選ぶというもの。
回答者は候補者たちに3つの質問をし、その答えから相手の人格やユーモア
センスを判断する。
選ばれたカップルは、番組が手配した海外旅行などのデートに出かける。
翌週の放送で、彼らがデートでうまくいったか否かが報告された。
シラの温かくお茶目な司会ぶりと台本にないジョークが魅力となり、1985
〜2003年までITVの土曜夜の国民的な人気番組として親しまれた。
(3)ビートルズの妹分
ビートルズの妹分というとメリー・ホプキンを想起する人の方が多いと思う。
ポールの強力な後押しでデビュー・シングルThose Were The Days
(悲しき天使)が各国でNo.1の大ヒット、続く2枚目もポールの書き下ろし作
Good Byeでこれもヒット。
3枚目のシングル、Que Sera Seraはポールが大胆にリアレンジ、加筆し
軽快な8ビートのロックナンバーへ。レコーディングはポールとリンゴが参加。
しかし、メリーはポップすぎるという理由で発売拒否。
2ビートルが演奏してくれた曲を蹴ったのだ。
ポールのバックアップが無くなったメリーは一気に失速し、メディアからも
注目されなくなり、アップルも契約を打ち切る。
見た目のイメージ、涼やかな歌声とは裏腹に我の強い性格だったようだ。
一方シラ・ブラックはビートルズ解散後も元メンバーたちとの関係は良好。
人当たりの良さ、器用さも重宝され「使いやすい」タレントとして残った。
(4)ポピュラー音楽作曲家としてのポール
Yesterdayもビートルズ路線とは違うアプローチで書かれた曲であり、
ジョージ・マーティンはソロで発表することを勧めたくらいだ。
もっとも規格外のことをやってビートルズは変化し進化し続けたわけで。
ジョンはビートルズ初期は量産型で他の歌手やグループにも提供していた。
しかし1965年以降ジョンは内省的な曲、実験的かつ前衛的な曲、メッ
セージソングが多くなり、ポールの親しみやすい曲とは対照的となる。
ジョンは他人が歌う曲の提供もしなくなった。
(5)ビートルズでは2回しか使わなかった「とっておきのコード」
Till There Was Youでジョージが弾く間奏の最後のF#7(#9)。
Michelleのヴァース、2小節目のma belleでポールは5カポでF7(#9)
を弾いている。
ビートルズのデビュー前、ポールとジョージはバーでジャズ・ギタリスト
が弾いてたこのコードの響きに驚き、教えてもらうためバスに乗ってその
人の自宅まで行ったそうだ。
いまだにコード名を知らない、とポールは近年のインタビューで答えてる。
音楽理論は知らなくても効果的に使いこなしてるんだからやはり天才だ。
(6)シラ・ブラックとポールのリハーサル映像
この日にポールがピアノを弾いているシーンが、Lady MadonnaのPVの
一部に使用されている。
尚、Lady MadonnaのPVは実際にはHey Bulldogを演奏している。
せっかくスタジオに集まったんだから何かやろう、ということでジョン
の新曲Hey Bullfrogをさらっと仕上げてしまった。
つまり、カメラで撮影されながらのレコーディングである。
(7)I Willセッションで即興で演奏された曲
ミキシング・エンジニアたちはEMIから「ビートルズの録音はいかなる物
も捨てるな」というお達しを受けていた。テープは回しっぱなしだ。
セッション中のお遊びが最終ミックスで使われることもある。
Can You Take Me BackはCry Baby Cryのエンディングに使用された。
Blue Moon、The Way You Look TonightはI Willのコード進行を応用。
Los Paranoiasはジョンが出したお題にポールが答えて歌われた即興曲。
I Willはテイク65がベストと判断され、翌日ポールのコーラス、スキャッ
ト・ベース(声によるベース)、アコギのオブリが追加録音された。
(8)ビートルズのStep Inside Love
ポールがシラ・ブラックへの提供曲を歌い出したのでジョンとリンゴは
付き合ってるという感じで、もしこの曲をビートルズとしてやるとなると
ジョンは反対したのではないか。
この音源はジョンの死後に公開され、作曲クレジットは4人の共同名義
になっている。(ジョージはセッションに参加していなかったが)
<補足:Step Inside Love その他のカヴァー>
Madeline Bell - Step Inside Love 1968
マデリン・ベルは英国の黒人女性シンガー。
ネスカフェのCMでKilling Me Softly With His Song(やさしく歌って)
を歌ってるのはロバータ・フラックではなくてこの人。
ストーンズやドノヴァンのレコーディングでバックボーカルとして活躍。
Elvis Costello - Step Inside Love 1994
エルヴィス・コステロはパンクロックのイメージが強いが、ジャズ、
R&B、カントリー、バレエ音楽、ポピュラー音楽への造詣が深い。
<参考資料:rockin'on.com、甲虫楽団ブログ、Google Gemini、BBC
、サードペディア百科事典、THE BEATLES 楽曲データベース、IMDb、
HMV、Wikipedia、enWikipedia、YouTube、gettyimages、他>
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