2018年12月10日月曜日

ホワイト・アルバム2018リミックス1枚目の聴きどころ

プロデューサーのジャイルズ・マーティンとエンジニアのサム・オケルが新たに
リミックスしたホワイト・アルバム2018リミックスは何が変わったのか?

楽器とボーカル、コーラスの定位置を改め、ベースやドラムなど低音部を充実させ、
音圧と音質も改良し、今の時代に通用する聴きやすい音になっている。

ビートルズの音楽自体はいつまでも斬新だが、当時のミックスはその時代には即し
ていたものの、今聴くと不自然さを感じる。
今ならミックスダウン前のテープに遡って、最新の技術で音をより鮮明にした上で、
今聴いても違和感のない新しいミックスを作ることが可能だ。


ジャイルズ・マーティンとサム・オケルは全く別物を目指したわけではない。
むしろ当時スタジオでビートルズが出していた音をいかに忠実に再現できるか
このアルバムの直感的でパワフルな音作り、バンドの一体感を余すことなく表現
することに力点を置いている。

当時ジェフ・エメリックやケン・スコットが使ったフェアチャイルドのコンプレッ
サー、EMIのエンジニアが改造したアルテックのコンプレッサー、当時スタジオに
あった真空管プリアンプ搭載のミキシング卓など、アビーロード・スタジオに現存
する昔の機材を使用したそうだ。



↑リミックスのメイキング映像、ジャイルズ・マーティンのインタビューが視聴できます。


以下、2009リマスターは緑2018リミックスについては赤字で表記。
(あくまでも主観で、プロの音楽評論家の方のレビューとは違うと思います)


アルバムの1曲目、バック・イン・ザ・U.S.S.Rから3曲目のグラス・オニオン
までが今回のリミックスの聴きどころの一つだと思う。



ホワイト・アルバムのレコーディングは5月30日のレボリューション1で
始まり、10月13日のジュリア、翌日サボイ・トラッフルのオーバータブで
終了している。

バック・イン・ザ・U.S.S.R.はセッション中盤の8月22〜23日に録音された。
ポールの注文の多さに嫌気がさしたリンゴは非公式に脱退。

セッションは続行され、ポールがドラムを叩いた
ポールのドラムはなかなかのグルーヴ感。何をやらせてもセンスがいいなあ。


ビートルズ研究の第一人者マーク・ルイソンによると「この曲ではジョン、
ポール、ジョージの3人がドラムを叩いている」とされている。

しかし今回のアウトテイク集に収録されたテイク5を聴くと、その説は間違っ
ていると思う。

曲が始まる前に左チャンネルからジョージが歌いながら2・4拍だけスネアを
叩いているのが確認できる。
センターから聴こえるポールのドラムの補強だと思う。


ジョンが弾いてるのはフェンダーの6弦ベースだろう。コード弾きもしている。
1:15でジョンとジョージが裏拍でC7を刻む所、サビでジョージが♪♪♪とC7とG7
を刻み、Cから半音下降していく所、2:48のブレイクでジョンがギュンギュンと
鳴らすのがめちゃくちゃカッコいい。

このテイクではキーがGだが、完成形はA。テンポもアップされている。
(なので上述のC7→D7、G→A7、半音下降はDからになる)

残念ながらこのアウトテイクはYouTubeにアップされてたが今は消えている。



さて、完成形を聴き比べてみよう。

2009リマスターでは飛行機のSEが右から左へ移動し、曲間もずっと左で鳴り、
最後に中央に移動する。

ポールのボーカル(一部ダブルトラック)、ブレイクのBack U.S.〜のリフレイン
で入るハモり、手拍子がセンター。
ビーチボーイズ風コーラスはファルセットも低音部もまとめてセンターでこもって
いて分離感が悪い。

各楽器は左右泣き別れ。
左からジョンの6弦ベース、ジョージが叩くスネア。
右にポールのドラム、ピアノ、ジョージのギターが配されているが、ジョージの
演奏は後半の鋭角的なリフが冴え渡るが、下降ラインなどは抑えめ。


2018リミックスでは飛行機のSEがよりクリアになった。
イントロで右から左へ、曲間ではほとんど左端で鳴る。鮮明だが邪魔にならない。
最後は右から左へ移動。

ポールのドラムがセンターでどっしり構え図太く鳴り存在感が大きくなった。
イントロのドンドコドコドン(0’15”)タムのフィルイン(0’27”)スネア連打(0’33”)、
サビのバスタムのフィルイン(1’10”、1’20”)最後のヴァース前のバスタムのフィルイン
(2’01”)は心憎い。

ジョージのスネアはやや中央より。ポールの演奏と一体化し目立たなくなった。

ボーカルはセンターでダブルトラック。ハモりはやや左で揺れ感があって良い。
ビーチボーイズ風コーラスは左右に広がり美しい。はっきり聴き取れる。
曲の終盤のポールのシャウトもはっきり聴こえる。これは嬉しい。

左からはジョンの6弦ベース、ジョージのギターは右で以前より音が鮮明。
その分、ポールのピアノが前よりおとなしくなった。
ジョージの間奏のみセンター。手拍子は左右に振られステレオ感が出た。



↑クリックするとバック・イン・ザ・U.S.S.R. 2018ミックスが聴けます。




2曲目のディア・プルーデンスはバック・イン・ザ・U.S.S.R.の次に録音された。
8月28〜29日、場所をトライデント・スタジオに移す。
8トラックのレコーダーを使いたかったためか。(EMIには8トラックがなかった)

この曲もリンゴ不在のまま。ポールがドラムを担当
Won’t you let me see your simile〜のヴァースのドラミングはリンゴっぽい。

ジョンはドロップDチューニング(6弦のみ1音下げる)でドローン効果をうまく
活かしながら、ドノヴァン直伝のフィンガーピッキングを正確に弾いている。
まったく同じ演奏を2回弾き重ねている。ジョージが効果的なオブリを入れた。

8月28日作り込んだテイク1(アウトテイクに収録)に翌29日、ポールのベース、
ジョンのボーカル(2回)、コーラス、オルガン、手拍子、タンバリンをオーバ
ーダブして完成。


2009リマスターではジョンのフィンガーピッキングは2回分ともまとめて右。
ポールのメロディアスなベース、タンバリンが左。

ジョンのボーカルはセンター。コーラスはやや左。
ブリッジのLook around, round〜のコーラスは左右に広がる。
ジョージのギターが左側に、終盤でセンターにオルガンが加わる。


2018リミックスではがらりと印象が変わった。
ジョンのフィンガーピッキングのエレキが左右に広がりステレオ感が出た。
(ギター、ボーカル、ドラムだけのアウトテイクを聴くと、実際にジョンは2回
弾いているのが分かる)

ドラムはベースとともにセンターで力強く前に出てくるようになった。
タンバリンはセンターでだいぶ引っ込んだ印象(この方がいい)。

Ah….Look around, roundが左右、センターめいっぱい広がり美しく響く。
左からジョージのオブリ、右にオルガンと厚みが出て、ジョンのフィンガー
ピッキングは後退するが、最後のWon’t you come out to playで再度イントロ
と同じフレーズのフィンガーピッキングへ。(2009リマスターより少し長い)




↑クリックするとディア・プルーデンス2018ミックスが聴けます。
ジョンは前年に1965年製マーティンD-28を購入しているが、ホワイト・アルバム
で使用したアコースティック・ギターはJ-160Eである。
ジョンの1964年製J-160Eは前年にサイケデリック・ペイントが施され、1968年
に塗装が剥がされナチュラルにされた。(エピフォン・カジノも同様)
写真でジョンが弾いてるJ-160Eはジョージの1963年製を借用しているのだろう。
この間、ジョンのJ-160Eはちょうど塗装を剥がすため預けていたのかもしれない。
セッションの後半ではジョンがナチュラルのJ-160Eを弾いてる姿も確認できる。



3曲目のグラス・オニオンは9月11日にドラム、ベース、アコギ、エレキのシン
プルな編成でリズムトラックを34テイク録音。テイク33クがベストとなる。
(この1週間前やっとアビーロード・スタジオに8トラックが導入された)

翌日からジョンのボーカル、リンゴのタンバリン、ポールがピアノとリコーダー
(Fool on the Hillの部分に同じフレーズを入れた)をオーバータブ。

休暇から復帰したジョージ・マーティンの提案でストリングスを入れることに
なり、10月10日にストリングスをオーバーダブ。


2009リマスターではジョンのボーカル、ストリングスがセンター。
ポールのベースは左でゴリゴリ鳴る。
ジョージのエッジの効いたカッティングはやや左、ジョンのアコースティック
ギターはやや右、ドラムとタンバリンが右に配されていた。


この曲も2018リミックスでかなりと印象が変わった。

冒頭のスタンスタンと叩きつけるスネアの音がセンターから左右に広がる。
ジョンのボーカル(艶が出た)とポールのゴリゴリ・ベースはセンター。
ドラムもセンターだがスネアの音は立体感が出てトップシンバルは右で鳴る。

ジョージのカッティングが左で鋭く鳴る。リコーダーとタンバリンは右。
ストリングスが左から攻めるように広がる。前より分離が良くなった。


アウトテイク集ではテイク10でこの曲を練り上げていく過程が聴ける。



↑クリックするとグラス・オニオン2018ミックスが聴けます。


以上の3曲はぜひ2018リミックスで聴いて欲しい。



4曲目のオブラディ・オブラダは遡り7月3日から47テイクかけて録音した。
完璧主義者のポールは納得できず、何度もリメイク、リダクション、オーバー
ダブを繰り返し、みんなをうんざりさせる。

この能天気な曲を嫌ったジョンが苛々しながら「こんな曲こうしてやる」と
叩きつけるように弾いたコードがイントロとして採用された。


7月15日ポールはボーカルを録り直す。
この時アドヴァイスをしたジョージ・マーティンにポールが「じゃあ、あんたが
ここに来てやってみろ」と暴言を吐く

ジェフ・エメリックが険悪な空気に耐えきれず退席
以降アシスタントのケン・スコットがエンジニアを務めることになった。
レコーディングが長期化し体力的・精神的に疲れたジョージ・マーティンは休暇を
取り、アシスタント・プロデューサーのクリス・トーマス(1)に委ねた。


クリス・トーマスはポールに「お前は誰だ?俺たちをプロデュースできるのか、
やれるならやってみろ」と言われ、ビビったそうだ。

一度音が合ってないと指摘すると、4人が階段を上がりモニタールームで確認。
次に同じようなことがあったが、もう来なくなった。
その日の作業が終わりにポールから「明日も来たかったら来てもいい」と言われ、
クリス・トーマスは胸を撫で下ろしたそうだ。


2009リマスターでは演奏はほとんどセンターでだんご状態。
ポールのボーカルのダブルトラック、コーラス、拍手が左右から聴こえる。


2018リミックスもそれを踏襲してるが、各楽器、コーラスの音像がクリア。
最後のOb-La-Di, Ob-La-Daはユニゾンと思いきや、3度上でハモってるのが
確認できるようになった。ポールのベース、リンゴのドラムも力強い。





ワイルド・ハニー・パイは8月20日ポールが一人で多重録音。
ジョージはギリシャ旅行で不在で、ジョンとリンゴは別なスタジオでヤー・ブル
ース、レボリューション9の仕上げにかかっていた。
ホワイト・アルバムではこうした4人揃わない、また誰かの単独の作業が増えた。


2009リマスターではボーカルも演奏も左右に分かれセンター抜け状態。

2018リミックスも基本的に同じだが、よりセンターに寄せられ鮮明になった。



ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロー・ビルは10月8日に
録音され、ベーシックトラックは3テイクで終了。

クリス・トーマスがメロトロンを弾き、ヨーコが歌詞の一節を歌い、リンゴの
妻モーリンもコーラスに参加した。


2009リマスターはジョンのボーカルとポールのベースがセンター。
ドラムとオルガンは右。アコースティックギター、ジョンの追加のヴォーカル、
タンバリンは左。コーラスは左右から聴こえる。


2018リミックスではボーカル、ベースと+ドラムがセンターの王道ミックス。
アコギとジョンの追加ヴォーカルは左からややセンター寄り。タンバリンは左。
右のマンドリン?が聴きやすくなった。オルガンも右寄り。

Hey Bungalow Billのリフレインが左右からセンター寄りに修正された。
ヨーコの声が以前より大きくなった?気がする。
最後のヴァースのヨーコのNot when he looked so fierceはセンターから右よりに
移され「母親が横から口を挟んでいる」感が出た。


アウトテイクとして収録されたテイク2は、ジョンとヨーコ、ジョージ(アコギ
を弾いてたのはジョンではなくジョージだった)、リンゴのシンプルな編成。
最後にリンゴまでBungalow Bungalow♪と楽しげに言ってるのが可笑しい。






続く「あの曲」は書きたいことたっぷりなので後で改めて(笑)



A面最後ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガンはジョンお得意の変拍子を多用
した3部構成の難しい曲。9月23〜24日に70テイクを重ねる。
翌日の25日、テイク53前半とテイク65の後半をつなぎ合わせて編集し。
ボーカルとコーラス、オルガン、ベース、タンバリン、ピアノを加え完成した。

2009リマスターはジョンのボーカルとスリーフィンガーがセンター。
4小節目からポールのベース(左)リンゴのドラム(右)、さらに5小節目でジョ
ージの切れ味いいカッティングが右に入る。
コーラス、ジョージのディストーションを効かせたリフ、タンバリンはセンター。

Happiness Isで一転してジョンのシャウト気味ボーカルは右へ移動。
コーラスは左。真ん中はピアノだけ。


2018リミックスではリンゴのドラムがセンターに移動し迫力が増す。
ポールのベースはやや左よりに修正された。ジョージのカッティングは右のまま。

最初のハモりはやや左、I need a fix ‘cos…のポールのオクターブ上のボーカル
はジョンと一緒にセンター。
Mother superior…で入るタンバリンは中央でやや引っ込んだ(この方がいい)。

Happiness Is…でジョンのボーカルが右に移りコーラスが左へ。(違和感がある)
が、When I hold you でジョンの声はセンターに戻る。コーラスは左右に広がる。
リンゴのドラムがずっと中央でどっしり構え、最後のバスドラも収まりがいい。
右からベースとユニゾンで鳴るギター?エンディング前、ジョージのリフが聴ける。

ジョンのボーカルはずっとセンターの方がいいのに。あとピアノはどこに行った?



続いてB面へ。

マーサ・マイ・ディアは10月4日トライデント・スタジオで録音された。
ポールの単独作業と言われていたが、アウトテイクに収録されたブラスとストリング
ス抜きのテイクではしっかりジョージのギターとリンゴのドラムが入っている

写真でも一緒に弾いてるジョージ、待機してるホーン・セクションが確認できる。
ジョンは不在。ポールのベースとストリングスもその日のうちに録音された。



↑マーサ・マイ・ディア(ブラスとストリングス抜き)が聴けます。


2009リマスターは左ch.のポールのピアノで始まる。右ch.のヒスノイズが目立つ。
ポールのボーカル(ADT)はセンター、歌メロと同じストリングスは左。
Hold your head up…から入るブラスは右。

1’00”〜Take a good look around youで入るドラムとベースはセンター、ジョージ
のギターはセンターからやや左に配されている。
間奏のトランペットは右。手拍子は真ん中。


2018リミックスではポールのピアノは左だがやや中央よりに修整され、高音部は
右に流れるようになりステレオ感が出た。右ch.のヒスノイズは完全に消えた。
さらにストリングスが右に配されたことで美しい広がりが出た。

ブラスとベース、リンゴのドラム、ジョージのギターはセンターへ。
各楽器の音像が鮮明なのでそれぞれ干渉することなく聴こえる。

間奏のトランペットは右から中央に響き、これも美しい。手拍子は左右へ。
2回目のHold your head up…で入るオルガンは右からやや中央に寄せられた。

この曲も2018リミックスの圧勝だろう。




次のアイム・ソー・タイアードはバンガロー・ビルと同じ10月8日に録音された。

いいグルーヴ感が出てる。分裂し始めたグループとは思えない。
ビートルズ本来のバンド・アンサンブル、ジョンとポールのハモりなど、原点に
立ち戻る意図がくみ取れる。

8トラックレコーダーで14テイク録音。オーバーダビングを施し完成。
一度もリダクションを行わず終了。


2009リマスターはセンターにジョンのボーカルとギター、オルガン。
左にポールのゴリゴリ鳴るベースとリンゴのドラム、右にジョージのギター(これが
絶妙)、アンソロジー3で聴けたジョージのオブリも実は中央に薄く入っている。

2018リミックスもこれを踏襲しているが全体にセンターに寄せられ、バンドの一体
感が増した。ジョージのちょっと残念なオブリ(笑)はほとんど聴こえなくなった。

曲の最後、Monsieur, monsieur, monsieur, how about another one?というジョン
のモノローグの後にpriと小さな女の子のような声が入っていたのが無くなり、その
分ジョンのモノローグが長くなった。


アウトテイクとして収録されたテイク7は既に完成に近い。ジョンが「今のいいよね、
録っておこう、捨てないで(If you think it was good, keep it, don’t scrap it)と
言ってるのが聴ける。

テイク14はI wonder should I get upでAh…というコーラスが入る。
アンソロジー3ヴァージョンと同じジョージのオブリも聴ける。
こうやっていろいろ試してみた結果、シンプルな形に落ち着いたのだろう。



↑クリックするとアイム・ソー・タイアド テイク14が聴けます。



ポールの弾き語り、ブラックバード(2)は6月11日に録音。ポールの単独作業。
第2スタジオで録音。(第3スタジオでジョンがレボリューション9を仕上げ中)
32テイクの中から最後のテイクが採用された。

ジェフ・エメリックはスタジオ地下のエコーチェンバー室で録音したと証言。
ポールのボーカル、ギター、足元にそれぞれマイクをセット。
鳥の声はSEだが、エコーチェンバー室の窓から聴こえる鳥の声も混ざっている。
ポールは前年に入手した1966年製マーティンD-28を使用。


2009リマスターはポールのボーカルと鳥のSEが中央、足音が左、ギターは右。

2018リミックスも同じだが全体にセンター寄りでふっくらした鳴りになった。
コーラス部のBlackbird flyでギターが右ch.から左に広がるが、実は2009リマスター
もそうなのだがほとんど目立たなかった。ギターは2回弾いたのか?ADT処理か?


アウトテイクのテイク28では中断し、誰か女性に話しかけている。
アップルのプロモ用ビデオでポールがこの曲を演奏しているシーンがあるが、
スタジオの隅にスタッフらしき女性も映っているのでたぶんこの人だろう。
(アンソロジー3に収録されたのはテイク4)






ピッギーズは9月19日に録音。
第1スタジオにあったハープシコードを第2スタジオ持ち込もうとするが、ケン・
スコットに怒られ、第1スタジオで録音することにした。

この日ジョージはハープシコードをいじってるうちに「サムシング」を披露
クリス・トーマスは美しい曲だと感心し、この曲がいい、こっちを先にやろうと
提案するが、ジョージは「いや、これはジャッキー・ロマックスにあげるんだ。
ピッギーズを仕上げる」と譲らなかった。(3)


ジョージのアコギ、ポールのベース、リンゴのバスドラとタンバリン、トーマス
のハープシコードという編成で11テイク録音し、最後のをベストテイクと判断。
この日ポールがレット・イット・ビーの原型(アウトテイクに収録)を披露した。

翌20日にオーバーダブを加える。ジョンが作った豚の鳴き声のループも録音。
オーケストラのオーバーダブは10月10日行われた。(グラス・オニオンも)


2009リマスターはジョージのボーカルとハプシコードがセンター。
ベースとタンバリンは左、アコースティックギターとストリングスは右。

2018リミックスも大きな移動はないが、ジョージの声が艶っぽく前に出た。
ダブルトラックの部分は軽く左右にずらしてある。
最後のヴァースのハモりも左右に広がり重厚さが増した。




ロッキー・ラックーンはポールのラグタイム調トーキング・ブルースだ。
8月15日にポールのアコギとボーカル、6弦ベース(ジョンかジョージ)、リンゴ
のドラムで9テイク録音。
最後のテイクにジョンのハーモニカ、ジョージ・マーティンのピアノソロ、ジョン
とジョージのバックコーラス、ポールのベース、ハーモニウムやパーカッションを
オーバーダブして完了。

2009リマスターはポールのボーカルはセンター。アコギは右。
左からはリンゴのドラム、フェンダー6弦ベースはジョージだと思われる。
ジョンのハーモニカはやや右。実にシンプルな演奏だ。
ジョージ・マーティンのラグタイム・ピアノ、アコーディオン、コーラスは
オーバータブでやや右に配されている。

2018リミックスはポールのボーカルは中央。アコギは右でやや中央寄りに修整。
ドラムは左でやや中央寄り。

ベースも同じく左でやや中央寄りだが部分的にセンターでも鳴っている。
1’15”のEveryone knew her as Nancy辺りで顕著だが、これが後からポールが
オーバーダブしたベースかもしれない。

ジョンのハーモニカは真ん中に移動。ポールの後ろで吹いている感じだ。
マーティンのピアノは右から中央に広がりラグタイムっぽい雰囲気が増した。
薄く入るアコーディオンはやや右。
終盤のコーラス隊は中央から左に広がりポールの後ろで歌ってる感が出た。

この曲も聴きどころ。シンプルな編成でもリミックスで変わるものだと感心。
ちなみにアウトテイクとして収録されたテイク8はアンソロジー収録音源と同じ
だが、今回は編集されておらず彼らが演奏を楽しんでいる様子が伝わる。



↑クリックするとロッキー・ラックーン テイク8が聴けます。


リンゴ作曲のドント・パス・ミー・バイは6月5〜6日に録音。
リダクションを繰り返したため音が悪い。1ヶ月後にフィドルが加えられた。

イントロに使う予定で7月22日にオーケストラ小曲「In The Beginning」が
録音されたがボツになった。(アンソロジー3と今回アウトテイクに収録)。

2009リマスターはボーカル以外の演奏は典型的な左右泣き別れ。

2018リミックスでは左右からセンター寄りに修整。
左と中央で鳴るリンゴの多彩なドラミング(2回叩いた)が味わえる。





ホワイ・ドント・ウィー・ドゥー・イット・イン・ザ・ロードは10月9日着手。
第2スタジオでバンガロー・ビルのミキシングが行なわれている間、ポールが
第1スタジオでアコギと歌だけで録音。ピアノをオーバーダブする。

翌10日、第2スタジオでピッギーズのストリングスが録音されている間、ポール
はリンゴを伴って第3スタジオへ。
ボーカル、手拍子、ベース、エレキ、リンゴのドラムをオーバーダブ。


2009リマスターは音が硬質でガサツ。ポールの荒々しい声もちょっと耳障り。
左にドラムとベース、右にピアノとポールのエレキギターが固まっている。

2018リミックスではドラムやベースの音にふくよかさが出た。
ポールのボーカルもトゲトゲ感が後退し聴きやすい。
ポールが重ねたエレキのアルペジオはセンターに移りピアノの被らなくなった。


アウトテイクとして収録されたテイク18はポールによるアコギ弾き語り。
歌い終えたポールが「いいかい?これはこれでお終いにしよう。でもマイクを
ピアノの近くに移さなきゃね」と言っている。
(アンソロジー3収録はテイク4)


アイ・ウィルは9月16日、ジョージ不在のセッションで録音された。
ジョンは金属片を木片で叩いてパーカッション代わりにし、リンゴはマラカス、
ウッドブロックとシンバル、ポールはアコースティック・ギターという編成。

ポールはアコギを持つと脱線してアドリブで歌い出す奇行(笑)があるらしい。
テイク19終わりに歌い出したCan you take me back where I came from
…の一部はジョンのクライ・ベイビー・クライのエンディングに使用された。

テイク35でまた脱線。
シラ・ブラックに提供したステップ・インサイド・ラブを歌い、ジョンが突然
口にしたロス・パラノイアスというお題に答え、笑いながら即興曲を披露。
(アンソロジー3に収録。今回のアウトテイク集にも収録された)

アイ・ウィルのコード進行で即興でThe Way You Look Tonightも披露。
シナトラ、ペギー・リー、ビリー・ホリデーの歌唱で知られるが、ポールは
その場でアイ・ウィルのコード進行でフォークロック調に口ずさんでいる。
こういうの、この人の名人芸ですね。そのままアイ・ウィルにもつれ込むの
だが、残念ながら今回のアウトテイクには収録されず


またアイ・ウィルのコード進行でシナトラやエルヴィスでお馴染みのブルー・
ムーンをテキトーに歌って笑い出す。
これは今回のアウトテイク集で初披露された。

テイク13テイク29(ポールがIf you want,I won’tとふざけ、すかさずジョン
がYes,you willと返している)も初めての音源だ。
(ちなみにアンソロジー3に収録されたのはテイク1)


とても緊迫した関係とは思えない和やかなムードで67テイクも重ねる。
テイク65がベストに選ばれ、翌日ポールのコーラス、スキャット・ベース(
声でベース・ラインを歌い回転を下げオクターブ低くしている)、アコギの
オブリが追加録音された。

2009リマスターはセンターにポールのボーカルとサビのハモり。
左にアコギとパーカッション、右にスキャット・ベース。
アコギのオブリは中央よりやや右に配されている。本当に美しい曲だ。

2018リミックスではアコギがボーカルと一緒にセンターに移動。
弾き語り感が出た。アコギのオブリは中央よりやや右のまま。
左のパーカッション、右のスキャット・ベースはやや中央寄りに。
サビのハモりはやや右にずれメインボーカルときれいな広がりが出た。



↑クリックするとアイ・ウィル2018ミックスが聴けます。



1枚目、B面最後のジュリアはアルバム・セッションで最後の録音曲。
10月13日、ジョン単独の作業。アコギで3テイク録音。
コントロール・ルームにはポールがいてやりとりをしてる。
テイク3にもう一度同じ演奏のギターとボーカルを重ねて終了。

2009リマスターではジョンのボーカルはセンター。
ギターは右から聴こえ、もう1台が左に入って来てステレオ感が出る。

2018リミックスもほぼ同じ定位だがギターは左右ともに少しセンター寄り。
ギターの音色もジョンの声も艶が増してますます美しくなった。


アウトテイクではジョンがコードストロークで歌い、スリーフィンガーで
歌う2つのリハーサルが収録された。



<脚注>

2018年12月3日月曜日

イーシャー・デモはビートルズの謀反だった?

ホワイト・アルバム2018のデラックス・エディションは本編2枚のリミックスに加え、
ボーナスCDとしてイーシャー・デモという3CD仕様だ。

ジャケットの背表紙に「THE BEATLES and ESHER DEMOS」と明記されている。
イーシャー・デモ音源を最良の音質で聴いてもらいたい、というジャイルズ・マーテ
ィンの自信の表れではないかと思う。



<ホワイト・アルバムの源泉となったインド滞在>

1968年2月ビートルズは恋人や妻と一緒にインドのリシーケシに招かれ、マハリシ・
ヨーギーの寺院で超越瞑想の指導を受けながらサマーキャンプのような生活をした。

ビーチボーイズのマイク・ラヴ、ドノヴァン、パティーの妹ジェニー・ボイド(1)
マリアンヌ・フェイスフル、ミア・ファローと妹のプルーデンスも招待されていた。


ビートルスが僧院で過ごした数週間は穏やかで自由で、創造のオアシスとなった。
瞑想、ベジタリアン食、ヒマラヤ山麓の丘の優しげな美しさ。
追いかけてくるファンもプレスも、過密なスケジュールもない。


滞在中に彼らは48曲作ったと言われ、その多くがホワイト・アルバムに収録された。

自由な時間と瞑想、インド思想の影響。同行者にインスパイアされた曲も多い。



↑ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビルのデモが聴けます。

ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロー・ビルも彼らがインド
滞在中に実際に起きた事件をネタにジョンが書いた曲だ。

サクソン人の母親を持つアメリカ人の頑固な息子バンガロー・ビルはモデルがいる。
象と銃と虎狩りに出かけた、事故を恐れて彼はいつも母親を連れて行った、殺しに
見えるけどあの時は殺るか殺られるかだった、は寺院に滞在していた当事者から

ジョンが直接聞いた話である。


ディア・プルーデンスは部屋に篭って出てこないミア・ファローの妹プルーデンス
への呼びかけの曲であることもよく知られている。


ジョンはドノヴァンからフィンガーピッキングを教わり、たった2日間で習得。
この奏法を取り入れたジョンの作風は変わり、ディア・プルーデンス、ジュリア、
ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガンに生かされた。



ジョージもドノヴァンと影響を与え合ったようだ。
ドノヴァンが得意とするコードの構成音が半音ずつ下がる進行(クリシェ)が気に入り
、ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスに取り入れた。
一方ドノヴァンは自身のハーディ・ガーディ・マンの序奏はハリソン作だと言っている。


ポールは滞在中にSpiritual Regeneration Songというビーチボーイズ風の曲を披露し
ているが、後半はマイク・ラヴの誕生日おめでとうソングになっている。
(この曲はイーシャー・デモでは収録されていない)



↑クリックするとSpiritual Regeneration Songが聴けます。


この曲のことかどうか分からないが、マイク・ラヴが彼の回顧録でこう述べている。
「ポールがある日、朝食の時に作りかけの曲をギターで弾いていた。
ビーチボーイズのサーフィン・U.S.A.のパロディで後にバック・イン・ザ・U.S.S.R.
となる曲だった。

マイクは「ブリッジ部でロシアの女の子のことを入れたらいいと思うよ。モスクワの
娘、ウクライナの娘みたいに。僕らもカリフォルニア・ガールズで上手く行ったし、
U.S.S.R.でも上手く行くんじゃない?」とポールに助言したそうだ。


インド滞在はいいことばかりではなかったようだ。特にリンゴにとっては。
食べ物が合わず、また風呂にサソリや蜘蛛が入ってくるのに閉口しリンゴとモーリン
は早々に滞在10日で帰国することになった。

ポールは1ヶ月滞在してジェーン・アッシャーとともに帰国。
ジョンは当初の予定通り2ヶ月滞在したが、最後はマハリシに失望(2)して帰国。
ジョージとパティは2ヶ月半後の4月下旬に帰国している。



<イーシャー・デモとは何か?>

インドで曲を書き溜めたビートルズは全員が帰国後の5月、ジョージの自宅に集まり、
新曲を持ち寄りホーム・デモを作成することにした。





ジョージは1964年、サリー州イーシャーに広大な庭つきのバンガロー・スタイルの家
(1950年代の建築でキンファウスと呼ばれる)を購入。
1970年ロンドン郊外の大邸宅フライアーパークに移るまでパティーとここで暮らした。

1967年にはジョージとパティの手で家中にサイケデリックペイントが施され、インド
・スタイルで装飾されたヒッピー・バンガローになっている。





お香を焚いたリビングルーム。
ジョージとパティは革製クッションにもたれていたそうだ。


ジョンは15曲、ポールは7曲、ジョージは5曲。全部で27曲が録音された。
そのうち19曲がホワイト・アルバムに収録されている。
残りの8曲のうち2曲はセッションで録音されたがお蔵入り。(アンソロジー3に収録)

ジョンの2曲はアビーロードのB面メドレーで使われた。
解散後ジョン、ポール、ジョージのソロアルバムでお披露目となった曲もある。


このジョージ宅で録音されたテープが後に流出し、イーシャー・デモまたはキンファ
ウスというタイトルのブートで出回るようになった。
多重録音だがブートはモノラルで音がこもっていたし、曲によってはトラックのズレ
が生じて聴くに堪えないものもあった。

1996年のアンソロジー3でイーシャー・デモから7曲が公開された。
音質的にはブートよりいい。
半分はステレオ・ミックスだが左右泣き別れ、残りはモノラル・ミックス。
消化不良感があった。






<2018リミックスで蘇ったイーシャー・デモ>

今回のホワイト・アルバム2018リミックスのボーナスCDには、このイーシャー・デモ
音源が27曲すべて収録されている。
1〜19曲目は「ホワイト・アルバム」で起用されたナンバーがアルバムと同じ順に収録
され、残る20〜27曲目の8曲はアルバム未収録のナンバー。

ここまで高品質なサウンドは今まで無いとジャイルズ・マーティンは自慢げだ。



↑クリックするとバック・イン・ザ・U.S.S.R.のデモが聴けます。


自宅録音のリラックスした雰囲気がよく伝わる。ゆるい感じがいい。
しばらく歌った後で「もうちょっと速い方がいいかな」と中断して歌い直したり、
後ろで他のメンバーがテーブルをドラムのように叩いて参加したり、タンバリンや
シェイカーを鳴らし、一緒に歌ったり掛け声をかけたりと、聴いていると楽しい。

マル・エヴァンズ(3)やデレク・テイラー(4)へ話しかけている声も入っている。
何曲かは未完成な状態で、歌詞も完成形とは違っている部分もある。



↑クリックするとチャイルド・オブ・ネイチャーのデモが聴けます。
(内容的にポールのマザー・ネイチャーズ・サンと近いのでホワイト・アルバムには
収録されず、後に歌詞を変えジェラス・ガイとしてジョンのソロ作品に収録された)


当時ジョージが購入したAMPEX製の4トラックレコーダで録音したと言われている。
どの機材を使ったのかポールにも聞いたが「覚えていない」と言われたそうだ(笑)

イーシャー・デモのほとんどは2トラックだったらしい。
4トラックの曲もあるが、他の2トラックから音は聴こえない。
ジョージの家で見つけたテープは恐らく、オリジナルではなく4トラックに変換された
ものだろう、というのがジャイルズ・マーティンの見解だ。(5)

だとしても、オリジナルに近いジェネレーションのテープであることは間違いなく、
それを時間をかけてレストアして、最新のデジタル技術で調整、エフェクト処理を施し
てここまでの音質に仕上げたのだろう。

またジャイルズ・マーティンは「全てジョージの家で録音されたのでもないのでは」
とも言っている。
場所はともかくオルガン演奏でジョージが歌うサークルズは彼一人の録音のようだ。



<イーシャー・デモはビートルズの謀反だった?>

素朴な疑問だが、なぜインドから戻った彼らは従来のようにアビーロード・スタジオ
で作業に入らず、ジョージの家に集結したのだろう?

EMIはビートルズのためならいつでもスタジオを優先的に使わせてくれただろうし、
エンジニアたちもビートルズ優先でスケジュールを組んでくれたはずだ。
4人にとってもこれまで通りスタジオでセッションを重ねながら曲をブラシュアップ
させて行くやり方でもよかったのでは?という気がする。


サージェント・ペパーズはビートルズとジョージ・マーティンのコラボレーション
によるマジックの集大成だったと言える。
4人の無限大のアイディアにジョージ・マーティン、ジェフ・エメリックが応え、
一つ一つ不可能を可能にして行き、壮大な作品を作り上げた。

マーティンもサージェント・ペパーズは自分とビートルズが深く関わった結晶と自負
し、各曲における彼自身の貢献度を公表していた。
そして次もまた同じ方向で進むだろうと思っていたという。

しかしビートルズはビートルズらしく(笑)まったく別のことをやろうとした。
ポールがビートルズは同じことをやらない主義だったと言っていたことがある。



↑クリックするとハニー・パイのデモが聴けます。


ホワイト・アルバムは例えれば先生であるジョージ・マーティンに対し生徒の反乱に
よって暴動が起きたという状況でつくられた。
このことにより、サージェント・ペパーズとは違って直感的でエネルギッシュな作品
になっている。(ジャイルズ・マーティン) 

ホワイト・アルバムはコンセプトも明確なプランも無しで、ビートルズが持ち込んだ
多数の曲をその場その場で仕上げて行く、というやり方になった。


ジョージ・マーティンは曲を厳選して1枚のアルバムで出すべきだと主張したが、4人
は録音したほとんどの曲を収録し2枚組にする、と頑として譲らなかった。

スタジオで作業中もポールやジョージがマーティンに暴言を吐くこともあり、険悪な
空気に耐えられずジェフ・エメリックが退席した。


俺らが好きなように仕切るからあんたはあまり口出しするな!ということか。

マーティンは事実上セッションから締め出されていた状態で、コントロール・ルーム
の隅で新聞を読みながらチョコバーを食べ、メンバーたちから声をかけられた時だけ
相談に乗っていたそうだ。


ビートルズは今までと異なるやり方で行こうと決めていた。
サージェント・ペパーズとは対極の方向性で、破壊と自由を目指したのだ。
それは師であるジョージ・マーティンへの反逆でもあった。

だからマーティン抜きでジョージの家に集結しデモを作成することにしたのだろう。



↑クリックするとヤー・ブルースのデモが聴けます。



<イーシャー・デモはビートルズが仲良しだった最後の時間>

ジョージの自宅で和気藹々と録音したデモ・テープからは、メンバーたちの親密な
雰囲気が伝わって来る。
4人がビートルズの一員であることを楽しんでいた最後の時間だっただろう。
だからこそイーシャー・デモは貴重な音源なのだ。


5月30日ホワイト・アルバムのセッション初日、ヨーコがスタジオに登場。
ジョンの隣に居座り続けるヨーコの姿に他の3人のメンバーは唖然とした。
この日はレボリューション1の録音だったが、彼女はジョンとマイクの前に立った。


<脚注>

2018年11月27日火曜日

ホワイト・アルバム 2018リミックスは買いか?

サージェント・ペパーズ2017のレビューを先延ばししているうちに一年が経ち、
ホワイト・アルバム2018リミックスが発売されてしまった。


個人的にはホワイト・アルバムが一番好きだ。
リアルタイムでビートルズを聴き出したころのアルバムでもある。

もっとも中学一年生のお小遣いで2枚組4,000円はなかなか買えない。
チャリでヤマハに行っては「欲しいなあ」とため息をついているだけだった。

中学二年になってクラスの友だちが二人、ホワイト・アルバムを買った。
借りてソニーのカセットレコーダーに録音し何度も繰り返し聴いた。


だから僕のホワイト・アルバム原体験はHi-Fiではないのだ。
大人になって英国盤LPボックスを買い、1987年のCD化で買い、2009年リマスター
でステレオ盤ボックスとモノラル・ボックスを大人買いした。

2009年リマスターは満足している。
モノラル・ミックスも初めてで、SEの入り方とかいろいろ違うのが分かった。
これがあれば充分じゃないかという気もした。



サージェント・ペパーズはもともと4トラックという制限の中、様々な工夫を試み
音を重ねて積み上げた壮大なアルバムだ。
それだけにビートルズ本来のバンドサウンドが損なわれあまり好きではなかった。


2017年リミックスでは個々の楽器とボーカルが鮮明になり印象がだいぶ変わった。
今までこもって塊りで聴こえていたのが、冒頭のSEから明らかに違う。

ギターの音が前面に出て「こういうことをやってたのか」というのがよく分かる。
ポールのぶんぶん跳ねるベース、リンゴのドラムの迫力。

サージェント・ペパーズというベールに隠れていたけど、こいつらやっぱロック・
バンドなんだなーと嬉しくなった。







それに対してホワイト・アルバムはオーヴァーダブが少ないシンプルな曲が多い
ジョン、ポール、ジョージの弾き語りやバンド・サウンドやも堪能できる。

またレコーディングの後半「やっと」8トラック機材が導入されたことも大きい。
トラック数を稼ぐためのバウンス(ピンポン)でベーシックトラックが埋もれがち、
各楽器の音像がクリアーじゃない大作サージェント・ペパーズとは違う。



だからホワイト・アルバムは2009リマスターのステレオとモノラル・ミックスで
充分なんじゃないか、という思いもあった。


一方でやはり気になる。さらにクリアで迫力のある音に仕上がるのか?
ジャイルズ・マーティンは「直感的なサウンド、頬をビンタされたような勢いのある
サウンド、そのうえで美しくなければならない」ことを目指したという。


そしてアウトテイク集でホワイト・アルバムの制作過程が見えてくるのか?
クラプトンの違うソロが聴ける「あの曲」の別テイクは本当に存在するのだろうか?



ホワイト・アルバム 2018リミックスはおそらくサージェント・ペパーズ2017に準
じた複数のセットでリリースされるだろう、と読んでいた。

1)スタンダード・エディション 2CD(オリジナル・アルバム)
2)デラックス・エディション 3CD(+アウトテイクのハイライトCD 1枚)
3)スーパー・デラックス・エディション<豪華本付ボックス・セット>
 2CD+ 3CD(イーシャー・デモ含むアウトテイク集)+メイキングDVD
 、Blue-Ray Audio
4)2LPエディション



が、予想は外れた。今回はスタンダード・エディション2CDがない。


1)デラックス・エディション 3CD(+イーシャー・デモCD 1枚)





2)スーパー・デラックス・エディション<豪華本付ボックス・セット>
 6CD(1枚がイーシャー・デモ、3枚がアウトテイク集)+Blue-Ray Audio




3)2LPエディション
4)4LPデラックス・エディション(内2枚はイーシャー・デモ)



イーシャー・デモについては改めて書くつもりだが、25年くらい前にブートで
出回ったジョージ・ハリソン自宅に4人が集まって録音したデモ音源集だ。
当時はこの貴重な音源発掘にマニアたちは大喜びしたものだ。

ジョン、ポール、ジョージが各々の曲をアコースティックギターで多重録音した
もので、ブートではモノラル音源だった。


後に1996年のアンソロジー3にイーシャー・デモから7曲が収録された。
音質的にはだいぶ向上し、半分は左右泣き別れのステレオ・ミックス、半分は
モノラル・ミックス。
ブートで2トラックのズレが聴き苦しかったバック・イン・ザ・USSR、オブラディ
・オブラダなどは(演奏内容はいいのだが)収録されなかった。


今さらイーシャー・デモを聴きたいとも思わない。
それよりアウトテイクのハイライトをCD1枚に編集してくれた方がよかったのに。






3枚分のアウトテイク集は魅力だ。
でもそのためにスーパー・デラックス・エディションを買う気もしない。
価格はともかく、デンと場所をとるのが嫌なのだ。
(しかもサージェント・ペパーズとボックスのサイズが違うらしい)

豪華本なんてどうせ一回パラパラめくったらもう見る機会はないだろう。
Blue-Ray Audioも必要ない。
5.1サラウンド環境じゃないし、ハイレゾ志向でもない。
そもそも今までの経験上、ボックスは出すのが面倒であまり聴かなくなる


イーシャー・デモ付きのデラックス・エディション3CDは本望じゃないし、
スーパー・デラックス・エディションを買ってCDだけ別なケースに移し替えて、
ボックスと豪華本は捨てちゃう、というのもなんか気が引ける。

うーん、とりあえず見送りかな〜。



ほぼ意を固めかけていたのだが、発売前日Amazonをチェックしたらデラックス・
エディション(輸入盤)が2,333円になっていた。
3CDの新譜でこれは安い。

ええい、買っちゃえ!ポチッ。



翌日の発売日、値段が3,600円代に跳ね上がっていた。すごく得した気分(^^)
CDもちゃんと翌日届いた。

開けてみるとなかなかいい感じだ。


2009年リマスター以降、ビートルズは(ビートルズに限らず)紙ジャケ仕様が
主流で、あれは出し入れしにくいので個人的には嫌だった。
2016年のハリウッドボウルも昨年のサージェント・ペパーズも紙ジャケだ。


ところが今回のホワイト・アルバムのデラックス・エディションは一昔前に
流行ったデジパック仕様なのだ。
紙製の台紙にプラスチックのホルダーが付いていて、プラケースと同じような
感覚でしっかりディスクをホールドしてくれる。

その分、厚みが出て重くはなったが、観音開きの紙ジャケットを開くとCD3枚
が横に並ぶので見やすいし、出し入れがしやすい。


こんな感じ↓(クリックすると動画が観られます)




さて、音だ。
ジャイルズ・マーティンは「今回は(サージェント・ペパースの時ほど)音を
良くしすぎないように配慮した」とインタビューで語っていた。

いったいどこがやねん!と突っ込みを入れたい。

音めっちゃいいやんか!
野太いけど、隅々まで見渡せるクリアーなサウンド。そんな表現でいいかな。


ポールのベースは思いっきり太い音でメロディアスなラインを弾いてるし、
リンゴのドラムはドスンドスンと大迫力だ。
1曲目のバック・イン・ザ・USSRではジョンが6弦ベースを弾いてたこと、
何をやっていたのかまで分かる。これがまたすごくカッコいい。


2009年リマスターと比べて全体に低音に厚みが出たが、いわゆるドンシャリで
なく深みのある心地よい低音である。

また一時流行った目いっぱいコンプかけました的な攻めの音圧でもない。
ピアニシモや音と音との「」、広がりや奥行きが感じられ、それでいてバンド
グルーヴ感も伝わる。いい仕事だ。

各楽器の定位はやや中央よりに配され、ヘッドホンでもスピーカーでも違和感
のない、聴きやすい現代向きのステレオ感になった。この辺は好みかな。
(1968年当時は左右のパンであえてステレオ感を演出していたのだと思う)



発売前の音源で聴き比べしてる人がいました↓(クリックすると試聴できます)



そうそう。
サージェント・ペパーズ2017は1967年のモノラル・ミックスに準じていて、
それを現代風のステレオにグレードアップする、というリミックスだった。

今回も同じだろうと思っていたのだが、オリジナルのステレオ・ミックスに
準じたものだったので意外だった。

初期4枚以外はずっとステレオ盤で聴いていたので、2009年モノラル・ボックス
で初めてリボルバーやサージェント・ペパーズ、ホワイト・アルバムのモノラル
を聴いた。(という程度でモノラルLPを収集するようなマニアではない)


1968年までビートルズのレコードはステレオ、モノ2種類が制作されていた。
英国ではステレオ・システムが一般家庭に普及していなかったため、サージェント
・ペパーズまではモノラルが主とEMIもビートルズも考えていた。

メンバーたちはモノラルのミックス・ダウンには立ち会っていたが、ステレオ
の方はお任せでノータッチだった。


ジェフ・エメリックとジョージ・マーティンも「リボルバーとサージェント・
ペパーズはぜひモノラルで聴いて欲しい」と発言していた。
モノラル・ミックスはお墨付きの自信作だが、ステレオ・ミックスは時間に追わ
れてやっつけ作業的な、本意ではない出来だったのだろう。





ホワイト・アルバムでやっとステレオ・ミックスも重視されるようになり、
ビートルズもステレオ、モノラル両方のミックスに立ち会うようになった。
(アビー・ロード、レット・イット・ビーはステレオのみとなる)

フェーダーの上げ下げ、エフェクト、コンプ、リミッターのさじ加減は変わる。
そのためステレオとモノラルでは、SEの入り方、ギターのリフの位置、ボー
カルのダブルトラッキングの感じ、かけ声の有無などの違いが生じるのだ。
例えばブラックバードのツグミの声の入り方はステレオ盤とはだいぶ違う。


今回のリミックスは長年慣れ親しんだステレオ盤のホワイト・アルバムに準じて
いるため、あれ?というような違和感はなく耳に馴染む。
が、前述のように音のダイナミズム、生々しさ、ふくよかさ、艶、空間的な広がり
と奥行き感の点では「新しく甦った」ホワイト・アルバムと言っていいだろう。




ホワイト・アルバム 2018リミックスは買いか?

ホワイト・アルバムをこよなく愛し、かつもっと深く知りたい、今まで以上の発見
を求める人には「買いです」とお薦めする。

経済的に余裕があり、ホワイト・アルバムの全容が知りたい、コンプリート盤を
所有することに喜びを感じる人は迷わず 2)スーパー・デラックス・エディション
を買ってください。


僕のように嵩張るモノを増やしたくない人は 1)デラックス・エディション3CD
で充分楽しめるはず。
どうせブートの焼き直しだから要らないと思っていたイーシャー・デモも、音的は
別物と思えるくらい出来がいい

アンソロジー3よりもはるかに音質が向上している。
ブートでトラックのズレが聴き苦しかったバック・イン・ザ・USSR、オブラディ
・オブラダもきれいに修正された。
演奏間の会話なども収録され、今までより上質なジェネレーションのテープを発掘
した上でレストア〜リミックスしたものと思われる。






高価なボックスを買わなくても、アウトテイク集を聴く方法がある。
AmazonかiTunesでアウトテイク集の欲しい音源だけをダウンロード購入するのだ。

そもそもCDは要らないという人なら10,000円で6CD分まとめ買いという手もある。


一方1968年当時のLPの音を愛する人は2009年リマスターの方がいいだろう。
2018リミックスはそういう人たちをがっかりさせてしまうかもしれない。

LPに関しては新たにリミックスした音源をまたアナログレコードで聴く(=RIAA
特性フォノイコライザーで変換して聴く)ことがどうなのか?僕には分からない。


Blue-Ray Audioのハイレゾ音源は耳の肥えた人には魅力的だろう。
レボリューションNo.9は5.1サラウンドで聴くと全方位から音の洪水らしい(笑)



ホワイト・アルバム 2018リミックスと2009リマスターの聴き比べは既にレコード
・コレクタースなどで評論家の方たちがレビューを載せていると思うので、そちら
を参考にしてください。

次回以降、イーシャー・デモ、ホワイト・アルバム制作過程、2018リミックスと
アウトテイク集で見えてきた「スタジオでビートルズは何をやってたのか?」に
切り込んで行きたいと思う。

The Continuing Story Of Bungalow Bill....
じゃなかった。To be continued next time.


<参考資料:PHILE WEB AUDIO、AV Watch、mora、Amazon.com、
ユニバーサルミュージック、NME Japan、他>