ビーチボーイズの音楽の中心的存在だった長兄のブライアンは、ビートルズの
「ラバーソウル」 に深い感銘を受け「こういう完成度の高いアルバムを作ろう」
と意欲を燃やしツアーにも参加せずスタジオに籠もる。
1965年の初来日の間もブライアンはアルバムの制作に没頭していた。(注)
帰国後、既に完成したオケを聴かされた他のメンバーたちは困惑した。
キャピトル・レコードも難色を示した。
お約束のビーチボーイズの音楽ではなかったからだ。
そこには海も太陽もサーフィンも女の子もホットロッド(車)もなく、
ただただ内省的で悲しいくらい美しくイノセントな世界が描かれていた。
「こんなの誰が聴く?犬にでも聴かせるのか?」と従兄弟のマイク・ラブ
が揶揄したことからアルバムのタイトルは「ペットサウンズ」になった。
「ペットサウンズ」は保守的なファンたちには受け入れられなかった。
しかし耳の肥えたリスナーの多いイギリスでの評価は高かった。
ポール・マッカートニーは「特別なアルバム」と絶賛し他のメンバーにも
ぜひ聴くように薦めた。
そして「サージェントぺパーズ」への刺激になったと言っている。
ところでビーチボーイズもビートルズも好きという人ならこんな疑問を抱くの
ではないだろうか。
ブライアンが聴いた「ラバーソウル」はUK盤だったのか?US盤だったのか?
そんなのどーでもいいことじゃないかと思われるかもしれないが、実はUK盤と
US盤では内容が違ってくるのだ。
イギリスではビートルズのアルバムは「Revolver」までは基本的に14曲収録
されていたが、商魂逞しいアメリカのキャピトルは12曲入りとし余った2曲を
繰り越してアルバムを多めにリリースしていた。
イギリスで発売された「ラバーソウル」の曲目は以下の14曲。
1. Drive My Car
2. Norwegian Wood (This Bird Has Flown)
3. You Won't See Me
4. Nowhere Man
5. Think For Yourself
6. The Word
7. Michelle
8. What Goes On
9. Girl
10. I'm Looking Through You
11. In My Life
12. Wait
13. If I Needed Someone
14. Run For Your Life
前作「ヘルプ」から I've Just Seen A Face、It's Only Love を持って来て、
Drive My Car、Nowhere Man、What Goes On、If I Needed Someoneを外し
てある。
1. I've Just Seen A Face
2. Norwegian Wood (This Bird Has Flown)
3. You Won't See Me
4. Think For Yourself
5. The Word
6. Michelle
7. It's Only Love
8. Girl
9. I'm Looking Through You
10. In My Life
11. Wait
12. Run For Your Life
Drive My Car からじゃなく I've Just Seen A Face で始まるなんて「ラバー
ソウル」じゃない!
おまけに Nowhere Man も If I Needed Someone も入ってないなんて。。。。
ブライアンが聴いて感銘を受けたのがUS盤だったとすると、我々が慣れ親しんだ
「ラバーソウル」とはだいぶ異質だったことになる。
確か萩原健太氏だったと思うが、ブライアンが来日した際に質問していた。
当のブライアンは憶えていないそうである。
友だちに借りて聴いたものらしい。
当時アメリカ国内ではそれほどUK盤が流通していなかったことから察すると、
ブライアンが聴いた「ラバーソウル」はUS盤の可能性が大きい。
もちろんブライアンだけではない。
リアルタイムで聴いていたアメリカ人のほとんどが A面は I've Just Seen A Face
で始まり B面は It's Only Love で始まるのが「ラバーソウル」と思っていたのだ。
ちょっと不思議な気がする。
(注)当時はPTAの圧力が最も大きかった頃で、ビーチボーイズを見に行くと
退学という措置も多く集客に苦労した。
中でも教育に厳しい仙台では観客はたった3人しか入らなかったそうだ。
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