2019年7月17日水曜日

今更?ジェイムス・テイラー、ワーナー時代作品リマスター。

ジェイムス・テイラーのワーナーブラザーズ時代のアルバム6タイトルが、やっと
リマスターされ6枚組ボックスセットで7月19日に発売される。

JAMES TAYLOR The Warner Bros Albums 1970-1976





Amazonではだいぶ前から出ていたがCDの販売価格がずっと未定のまま。
今朝見たらなんと3,133円。おおっ、これは安い!すぐポチッ。

夕方見たら5,029円に上がっていた。Amazon価格は猫の目のように変わる。
最低価格が保証されるので、僕は3,133円で注文しておいてよかった。


★追記:その後Amazon価格はころころ変わり発送も2ヶ月先になってしまった。

マーケットプレイスで英国の業者が送料込みで2,740円で出品してたので、
そとらに注文し直した。既に発送済みだが、今週中に届くかな?

近年多いCD5枚組の簡素なボックスの廉価版とは一線を画す装丁だ。
しかもリマスターが施され6枚組。
残念なのはピクチャー・ディスクが慣れ親しんだバーバンク・スタジオのパーム
ツリー・ストリートのレーベルではなく、抹茶色の後年のレーベルである点だ。


★訂正:ジャケットの印刷の質は高い。レーベルは初期3枚が抹茶色、 Walking 
Man 以降がバーバンクのパームツリー・レーベルでした。




今回はワーナーブラザーズのライセンスの下RHINOレーベルからのリリースだ。
またしてもRHINO、いい仕事をしてます。

内容は1970〜1976年にワーナーブラザーズよりリリースされたJTのオリジナル・
アルバム6枚、JTの黄金期の名盤が最新のリマスターで聴ける。



Sweet Baby James (1970) 
ビートルズのアップル社からデビューしたものの不発に終わり、失意のもと
帰国したJTが心機一転、ワーナーブラザーズと契約し発表した再デビュー盤。
フォーク、カントリー、ブルース色が濃いがどこか洗練されているのが魅力。
プロデューサーはピーター・アッシャー。(1)
旧友のダニー・コーチマー(g)、以降JTのバックを務めるラス・カンケル(ds)、
キャロル・キング(p)、ランディー・マイズナー(b)が参加している。


Mud Slide Slim And The Blue Horizon (1971) 
2枚目も同じ路線を踏襲。You've Got a Friendのヒットで不動の地位を得た。
プロデューサーは同じくピーター・アッシャー。
ダニー・コーチマー(g)、ラス・カンケル(ds)、ルーランド・スクラー(b)と
後にザ・セクションのメンバーとなる3人が揃った。
キャロル・キング(p)、ジョニ・ミッチェル(cho)が参加している。





One Man Dog (1972) 
クレイグ・ドージ(p)が加わり初めてザ・セクション(2)というバンド名となる。
ジョン・マクラフリン(g)、ブレッカー・ブラザーズの参加により音楽的にも
深みが出ている。
マクラフリンが使用しているマーク・ホワイトブックのギターをJTは気に入り、
自分と妻となるカーリー・サイモンのためにオーダーしている。
キャロル・キング、リンダ・ロンシュタット、カーリー・サイモン、そして
アレックス、ヒュー。ケイトとJTの3人の兄弟たちがコーラスで参加。
プロデューサーはピーター・アッシャー。
スクイブノケットにあるJTの別荘の納屋に作られたスタジオで録音された。


Walking Man (1974) 
前作から2年を経て心機一転、NYCでレコーディングを行う。
セッション・ギタリストのデヴィッド・スピノザ(3)をプロデューサーに起用。
スピノザ(g)、ヒュー・マックラケン(g)、ドン・グロルニック(p)、リック・
マロッタ(ds)などNY勢で固め、今までのR&B、カントリー色は退行し都会的で
洗練されたサウンドとなった。
ジャケットのモノクロ写真はリチャード・アヴェドンによるもの。


Gorilla (1975) 
再びLAに戻りレコーディング。
NYCで得たソリッドなエッセンスと西海岸の解放的な明るい空気感が融合。
ウエストコースト・ロックの立役者、ラス・タイトルマン(4)、レニー・ワロッカ
(5)がプロデュースを担当し、ワーナーのバーバンク・スタジオで録音された。
ダニー・コーチマー(g)、ラス・カンケル(ds)、ルーランド・スクラー(b)の常連、
アル・パーキンス(ps)、デヴィッド・グリスマン(m)、ローウェル・ジョージ(g)、
ジム・ケルトナー(ds)、ウィリー・ウィークス(b)、デヴィッド・サンボーン(s)、
ニック・デカロ(ac)、クラレンス・マクドナルド(p)と豪華な顔ぶれ。
特筆すべきは、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、カーリー・サイ
モン、ヴァレリー・カーターによる美しい透明感のあるコーラスだ。
ジャケットの写真は数々のアーティストを手がけたノーマン・シーフが撮影。





In The Pocket (1976) 
ワーナーでの最後のアルバム。プロデューサーも前作と同じで続編的な内容。
ザ・セクションの4人がまた集結。
ワディ・ワクテル(g)、アーニー・ワッツ(s)、マイケル・ブレッカー(s)の他、
スティービー・ワンダーが1曲ハーモニカで参加している。
アート・ガーファンクルとのデュエットも聴きもの。
ジャケ写は引き続きノーマン・シーフ。
裏ジャケットでスーツの中に前作GorillaのTシャツと洒落が効いている。





以上6枚のオリジナル・アルバムが収められている。
アウトテイク、未発表曲、デモ音源などのボーナス・トラックは一切なし

近年の傾向としてアルバムはリリース時と同じ形態で、ボーナス・ディスクで
レアな音源をというのが主流だが、そのボーナス・ディスクもない。


JTはコロムビアに移籍する前に、ワーナーからGreatest Hitsを出している。
その中でアップル・デビュー時の作品、Something in the Way She Moves、
Carolina in My Mindを1976年に新たに録音している。

またこのベスト・アルバムにはSteamrollerのライブ音源が収録されている。
今回この3曲は残念ながら聴けない。



さらに言わせてもらうと、One Man Dog (1972) とWalking Man (1974)の
間が空いたため、ワーナーはライブ盤を出そうとしていた
1972年オークランドで収録された音源だ。当然、公式録音なので音質は良い。
どうせならこの未発表ライブ盤も目玉として付けて欲しかった





1974年にNY勢をバックにカーネギー・ホールで行われたライブ音源(カーリー
・サイモンが飛び入りでMockingbirdをデュエット)も素晴らしい内容だ。
いずれも良質なブートが出ている。

この2枚は今後のRHINOに期待するとしよう。



まだ現物が届いていないのでレビューもできないが、YouTubeに公式で3曲
アップされているので、ヘッドホンで聴いてみた。
確かに一つ一つの音はクリアで臨場感は増している。が、大きな差異はない?
特に楽器やコーラスの多重が多い後半のアルバムは、塊で聴こえて来るせいか。

Shower the Peopleの美しく重厚なコーラス、ダブルトラッキングで録られた
ギター、はリマスターではなくリミックスで左右に広がったらどんなに美しい
だろう、と思った。

実際にディスクを再生して部屋の空気に流すともっと良さが分かるのかも。


★追記:Amazonにレビューが1件。あまり音が良くなった感はないそうだ。
アメリカのAmazonは入荷が8/2予定でまだレビューもなかった。

★追記:8/6到着。 1枚目を聴いてみた。音はクリアで温かみも深みもある。
J-50の生音も以前より聴こえる。一番驚いたのはFire And Rainでのラス・カン
ケルのドラミングの迫力だ。他のアルバムも楽しみ〜♪


↑クリックするとFire and Rain (2019 Remaster)が聴けます。



↑クリックするとShower the People (2019 Remaster)が聴けます。



それにしても、JTのワーナー時代のリマスターは本当に長い間、待たされた。
待ちくたびれたという思いと、何で今さら?感もある。

JTが1970〜1976年にワーナーブラザーズに残した彼の黄金期ともいえる6枚の
アルバムが初CD化されたのは1984年であった。

まだCD創世記で16bitサンプリングのAAD(アナログ編集)である。
当然のことながら音は粗く痩せている。ふくよかさも広がりも奥行きもない。
それでも当時はLPよりクリアに聴こえる、と喜んだものだ。



1990年に入るといろいろな作品がリマスターされ出した。
JTのコロムビア移籍後、1977年以降のアルバムは1990年にやっとCD化されたが、
2000年にはすぐにリマスターされ格段に音が良くなった

(その際、1991年リリースのNew Moon Shine以降の作品は対象外だった。
つまりアナログ録音の1977〜1988年のアルバムだけをリマスターし、1991年以降
最初からデジタルレコーディングされた作品はそのままでよし、という考えだろう。

そのためNew Moon Shine(1991)より、後からリマスターJされたT(1977)、Flag
(1979)の方が音圧が高く、よりブライトな音という逆転現象が起きた)






しかしワーナー時代のアルバムは一向にリマスターされない
ワーナー洋楽部のJTのA&R(宣伝担当)に訊いてみたら「一度リマスターはしてる
んですけどね」ということだった。

JTのワーナー時代6作品が日本盤として発売されたのは1991年である。
それはリシューであり、リマスターではない。
US盤はそのままで、日本だけ独自にリマスターが施されるわけがない。
サンプル盤をもらって聴いてみたが、最初に出たUS盤と音は変わらなかった。

「初回ロットが1000枚行かないんですよ」とA&Rが嘆いていたのを記憶している。
そりゃそうだ。買う人は輸入盤を既に買っている。僕だってそうだ。


まあ、日本ではその程度で好きな人に細々と売れる1970年代のシンガー・ソング
ライターという捉えられ方が正直なところで、そんなに売れないだろう。
だから、あえてお金をかけてリマスターしても・・・というのは分かる。

が、アメリカでは団塊世代、ポスト団塊を中心に根強いファンが多いはずだ。
彼らがコンサート会場で涙しながら合唱するのは、やはり1970年代の曲なのだ。
当然CDの進化に伴って、もっといい音で聴きたいニーズも生まれるはずだ。





JTはいまだに美声が衰えず、ライブ・パフォーマンスもが完成度が高い。
スローペースだが新譜(代わり映えしない)も出している。

本人としては俺は懐メロ歌手じゃない、今の歌声を聴いてくれ、という現役意識が
強いのかもしれない。



1990年代後半にはビートルズを発端にAnthologyブームが起き、レコード会社も
ここぞ商機とばかりいろいろなアーティストのボックスセットをリリースした。

その多くは駆け足でアーティストの軌跡を追いつつ、未発表曲、デモ音源、別テイク、
未発表ライブ音源、などの目玉が加えられ、ついその餌に惹かれて買ってしまう。


そんな最中、JTとジャクソン・ブラウンはAnthologyを出さなかった
ジャクソン・ブラウンは現役意識が強く、過去ばかり評価されるのを嫌がっている、
という話は聞いたことがある。

JTも過去の曲は宝としながら、今のパフォーマンスで聴いてほしいという気持ちが
強かったのではないだろうか。


公式ライブ盤もLive(1993)、One Man Band(2007)、Live at the Troubadour
(2010)と近年のものしかリリースしていない。







ブートで出回っていたジョニ・ミッチェルとの共演音源、BBC In Concert(1970)
もようやく2004年にマイナー・レーベルから発売された。
ジョニと出演したAmchitka(1971)も2009年に発売されたが知る人ぞ知る存在。
前述のように1970年代のいい時期のライブ音源があるのにと思ってしまう。


さて、ここまで頑としてリマスターを怠り続けたJTが(満を持しすぎた感もあるが)
やっとリマスターに踏み切った理由は何だろう?





おそらく原盤権の問題ではないか?と思う。
来年には1970年リリース作品が50年経ち、原盤の独占権が消失する。
そうなると、創世記のCDをコピーしたブート盤が大っぴらに出まわるだろう。

それを見据えて、重い腰を上げ今回のリマスターが実現したのではないだろうか。


<脚注>


(1)ジェイムス・テイラーのアップル社からのデビューとピーター・アッシャー
ピーター・アッシャーはピーター&ゴードンというデュオで1963年にデビュー。
彼の妹、女優のジェーン・アッシャーがポールの恋人であったことからデビュー曲
「World Without Love」などマッカートニーの楽曲提供を受けヒットさせている。
グループ解散後ピーター・アッシャーはビートルズが設立したアップル・レコード
のプロデューサーとして雇われる。

アップルから売り出す新人を探していた彼は、ピーター&ゴードンがアメリカでツ
アーを行った際にバックを務めたキングビーズのダニー・コーチマーから旧友の
ジェイムス・テイラーを推薦される。
ポール、ジョージ・ハリソンにも気に入られたジェイムスはピーター・アッシャー
のプロデュース、ポールのベース参加でデビュー作「James Taylor」を録音。

しかし出来はぱっとせずセールス的にも不調。
ポールとジェーン・アッシャーが破局を迎えたことが原因か、アラン・クレインが
ビートルズのマネージャーに就任後ポールはアップル社に関与しなくなったことが
原因か、ピーターは閑職に追いやられる。
新天地を求めてピーター・アッシャーはジェイムスと共にロサンゼルスへ渡り、ワ
ーナー・ブラザーズと契約。
再デビュー作「Sweet Baby James」がヒット。
続いてリンダ・ロンシュタットのプロデュースも手掛け成功している。


(2)ザ・セクション
ジェイムス・テイラーのレコーディングに参加していたダニー・コーチマー(g)、ルーラ
ンド・スクラー(b)、ラス・カンケル(ds)、クレイグ・ダーギー(kb)が結成したバンド。
ザ・セクションの名前が初めてクレジットされたのは「One Man Dog」(1972)である。
「The Section」(1972)、「Forward Motion」(1973)、「Fork It Over」(1977)と
3枚のアルバムを残している。

1970年代後半起こったフュージョン・ブームの先駆者であるが、ザ・セクションの音は
ロックからのアプローチである。
ザ・セクションのメンバーのうち2〜3人がジェイムス・テイラー、ジャクソン・ブラウ
ン、リンダ・ロンシュタットなどウエストコースト系アーティストのバックを務めるこ
とが多かった。


(3)デヴィッド・スピノザ
ニューヨークのセッション・ギタリスト、プロデューサー。
絶妙なタイミングに繰り出す巧みなプレイで、1970年初頭よりジョン・レノンやポール
・マッカートニーなどの作品に参加している。
フュージョンにおいても実力を発揮。スタッフのアルバム「Stuff It」を手がけた。
ヒュー・マックラケン、ジョン・トロペイなど他のギタリストと一緒にセッションに参
加することも多いがその場合、相方との間合いの取り方がまた抜群に巧い。


(4)ラス・タイトルマン
ワーナーブラザーズにA&R担当、プロデューサー。
リトルフィートを見出し世に知らしめる。
レニー・ワロンカーのプロデュース作品に共同プロデューサーとして名を連ねること
が多くランディ・ニューマン、ライ・クーダー、リッキー・リー・ジョーンズ、ジェイ
ムス・テイラー、ポール・サイモン、グレッグ・オールマンなどを手がける。
「バーバンク・サウンド」を築いた重要人物である。

ブライアン・ウィルソン復帰後の初ソロ・アルバム制作時はブライアンを支えた。
エリック・クラプトンの「Tears In Heaven」「Unplugged」でグラミー賞を受賞。


(5)レニー・ワロンカー
ワーナーブラザーズ・レコードのA&R担当、プロデューサー。
テッド・テンプルマン、ラス・タイトルマン、ヴァン・ダイク・パークス、ランディ・
ニューマン、ライ・クーダーと「バーバンク・サウンド」を築いた。


<参考資料:RHINO、Wikipedia、他>

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