2018年12月3日月曜日

イーシャー・デモはビートルズの謀反だった?

ホワイト・アルバム2018のデラックス・エディションは本編2枚のリミックスに加え、
ボーナスCDとしてイーシャー・デモという3CD仕様だ。

ジャケットの背表紙に「THE BEATLES and ESHER DEMOS」と明記されている。
イーシャー・デモ音源を最良の音質で聴いてもらいたい、というジャイルズ・マーテ
ィンの自信の表れではないかと思う。



<ホワイト・アルバムの源泉となったインド滞在>

1968年2月ビートルズは恋人や妻と一緒にインドのリシーケシに招かれ、マハリシ・
ヨーギーの寺院で超越瞑想の指導を受けながらサマーキャンプのような生活をした。

ビーチボーイズのマイク・ラヴ、ドノヴァン、パティーの妹ジェニー・ボイド(1)
マリアンヌ・フェイスフル、ミア・ファローと妹のプルーデンスも招待されていた。


ビートルスが僧院で過ごした数週間は穏やかで自由で、創造のオアシスとなった。
瞑想、ベジタリアン食、ヒマラヤ山麓の丘の優しげな美しさ。
追いかけてくるファンもプレスも、過密なスケジュールもない。


滞在中に彼らは48曲作ったと言われ、その多くがホワイト・アルバムに収録された。

自由な時間と瞑想、インド思想の影響。同行者にインスパイアされた曲も多い。



↑ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビルのデモが聴けます。

ザ・コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロー・ビルも彼らがインド
滞在中に実際に起きた事件をネタにジョンが書いた曲だ。

サクソン人の母親を持つアメリカ人の頑固な息子バンガロー・ビルはモデルがいる。
象と銃と虎狩りに出かけた、事故を恐れて彼はいつも母親を連れて行った、殺しに
見えるけどあの時は殺るか殺られるかだった、は寺院に滞在していた当事者から

ジョンが直接聞いた話である。


ディア・プルーデンスは部屋に篭って出てこないミア・ファローの妹プルーデンス
への呼びかけの曲であることもよく知られている。


ジョンはドノヴァンからフィンガーピッキングを教わり、たった2日間で習得。
この奏法を取り入れたジョンの作風は変わり、ディア・プルーデンス、ジュリア、
ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガンに生かされた。



ジョージもドノヴァンと影響を与え合ったようだ。
ドノヴァンが得意とするコードの構成音が半音ずつ下がる進行(クリシェ)が気に入り
、ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスに取り入れた。
一方ドノヴァンは自身のハーディ・ガーディ・マンの序奏はハリソン作だと言っている。


ポールは滞在中にSpiritual Regeneration Songというビーチボーイズ風の曲を披露し
ているが、後半はマイク・ラヴの誕生日おめでとうソングになっている。
(この曲はイーシャー・デモでは収録されていない)



↑クリックするとSpiritual Regeneration Songが聴けます。


この曲のことかどうか分からないが、マイク・ラヴが彼の回顧録でこう述べている。
「ポールがある日、朝食の時に作りかけの曲をギターで弾いていた。
ビーチボーイズのサーフィン・U.S.A.のパロディで後にバック・イン・ザ・U.S.S.R.
となる曲だった。

マイクは「ブリッジ部でロシアの女の子のことを入れたらいいと思うよ。モスクワの
娘、ウクライナの娘みたいに。僕らもカリフォルニア・ガールズで上手く行ったし、
U.S.S.R.でも上手く行くんじゃない?」とポールに助言したそうだ。


インド滞在はいいことばかりではなかったようだ。特にリンゴにとっては。
食べ物が合わず、また風呂にサソリや蜘蛛が入ってくるのに閉口しリンゴとモーリン
は早々に滞在10日で帰国することになった。

ポールは1ヶ月滞在してジェーン・アッシャーとともに帰国。
ジョンは当初の予定通り2ヶ月滞在したが、最後はマハリシに失望(2)して帰国。
ジョージとパティは2ヶ月半後の4月下旬に帰国している。



<イーシャー・デモとは何か?>

インドで曲を書き溜めたビートルズは全員が帰国後の5月、ジョージの自宅に集まり、
新曲を持ち寄りホーム・デモを作成することにした。





ジョージは1964年、サリー州イーシャーに広大な庭つきのバンガロー・スタイルの家
(1950年代の建築でキンファウスと呼ばれる)を購入。
1970年ロンドン郊外の大邸宅フライアーパークに移るまでパティーとここで暮らした。

1967年にはジョージとパティの手で家中にサイケデリックペイントが施され、インド
・スタイルで装飾されたヒッピー・バンガローになっている。





お香を焚いたリビングルーム。
ジョージとパティは革製クッションにもたれていたそうだ。


ジョンは15曲、ポールは7曲、ジョージは5曲。全部で27曲が録音された。
そのうち19曲がホワイト・アルバムに収録されている。
残りの8曲のうち2曲はセッションで録音されたがお蔵入り。(アンソロジー3に収録)

ジョンの2曲はアビーロードのB面メドレーで使われた。
解散後ジョン、ポール、ジョージのソロアルバムでお披露目となった曲もある。


このジョージ宅で録音されたテープが後に流出し、イーシャー・デモまたはキンファ
ウスというタイトルのブートで出回るようになった。
多重録音だがブートはモノラルで音がこもっていたし、曲によってはトラックのズレ
が生じて聴くに堪えないものもあった。

1996年のアンソロジー3でイーシャー・デモから7曲が公開された。
音質的にはブートよりいい。
半分はステレオ・ミックスだが左右泣き別れ、残りはモノラル・ミックス。
消化不良感があった。






<2018リミックスで蘇ったイーシャー・デモ>

今回のホワイト・アルバム2018リミックスのボーナスCDには、このイーシャー・デモ
音源が27曲すべて収録されている。
1〜19曲目は「ホワイト・アルバム」で起用されたナンバーがアルバムと同じ順に収録
され、残る20〜27曲目の8曲はアルバム未収録のナンバー。

ここまで高品質なサウンドは今まで無いとジャイルズ・マーティンは自慢げだ。



↑クリックするとバック・イン・ザ・U.S.S.R.のデモが聴けます。


自宅録音のリラックスした雰囲気がよく伝わる。ゆるい感じがいい。
しばらく歌った後で「もうちょっと速い方がいいかな」と中断して歌い直したり、
後ろで他のメンバーがテーブルをドラムのように叩いて参加したり、タンバリンや
シェイカーを鳴らし、一緒に歌ったり掛け声をかけたりと、聴いていると楽しい。

マル・エヴァンズ(3)やデレク・テイラー(4)へ話しかけている声も入っている。
何曲かは未完成な状態で、歌詞も完成形とは違っている部分もある。



↑クリックするとチャイルド・オブ・ネイチャーのデモが聴けます。
(内容的にポールのマザー・ネイチャーズ・サンと近いのでホワイト・アルバムには
収録されず、後に歌詞を変えジェラス・ガイとしてジョンのソロ作品に収録された)


当時ジョージが購入したAMPEX製の4トラックレコーダで録音したと言われている。
どの機材を使ったのかポールにも聞いたが「覚えていない」と言われたそうだ(笑)

イーシャー・デモのほとんどは2トラックだったらしい。
4トラックの曲もあるが、他の2トラックから音は聴こえない。
ジョージの家で見つけたテープは恐らく、オリジナルではなく4トラックに変換された
ものだろう、というのがジャイルズ・マーティンの見解だ。(5)

だとしても、オリジナルに近いジェネレーションのテープであることは間違いなく、
それを時間をかけてレストアして、最新のデジタル技術で調整、エフェクト処理を施し
てここまでの音質に仕上げたのだろう。

またジャイルズ・マーティンは「全てジョージの家で録音されたのでもないのでは」
とも言っている。
場所はともかくオルガン演奏でジョージが歌うサークルズは彼一人の録音のようだ。



<イーシャー・デモはビートルズの謀反だった?>

素朴な疑問だが、なぜインドから戻った彼らは従来のようにアビーロード・スタジオ
で作業に入らず、ジョージの家に集結したのだろう?

EMIはビートルズのためならいつでもスタジオを優先的に使わせてくれただろうし、
エンジニアたちもビートルズ優先でスケジュールを組んでくれたはずだ。
4人にとってもこれまで通りスタジオでセッションを重ねながら曲をブラシュアップ
させて行くやり方でもよかったのでは?という気がする。


サージェント・ペパーズはビートルズとジョージ・マーティンのコラボレーション
によるマジックの集大成だったと言える。
4人の無限大のアイディアにジョージ・マーティン、ジェフ・エメリックが応え、
一つ一つ不可能を可能にして行き、壮大な作品を作り上げた。

マーティンもサージェント・ペパーズは自分とビートルズが深く関わった結晶と自負
し、各曲における彼自身の貢献度を公表していた。
そして次もまた同じ方向で進むだろうと思っていたという。

しかしビートルズはビートルズらしく(笑)まったく別のことをやろうとした。
ポールがビートルズは同じことをやらない主義だったと言っていたことがある。



↑クリックするとハニー・パイのデモが聴けます。


ホワイト・アルバムは例えれば先生であるジョージ・マーティンに対し生徒の反乱に
よって暴動が起きたという状況でつくられた。
このことにより、サージェント・ペパーズとは違って直感的でエネルギッシュな作品
になっている。(ジャイルズ・マーティン) 

ホワイト・アルバムはコンセプトも明確なプランも無しで、ビートルズが持ち込んだ
多数の曲をその場その場で仕上げて行く、というやり方になった。


ジョージ・マーティンは曲を厳選して1枚のアルバムで出すべきだと主張したが、4人
は録音したほとんどの曲を収録し2枚組にする、と頑として譲らなかった。

スタジオで作業中もポールやジョージがマーティンに暴言を吐くこともあり、険悪な
空気に耐えられずジェフ・エメリックが退席した。


俺らが好きなように仕切るからあんたはあまり口出しするな!ということか。

マーティンは事実上セッションから締め出されていた状態で、コントロール・ルーム
の隅で新聞を読みながらチョコバーを食べ、メンバーたちから声をかけられた時だけ
相談に乗っていたそうだ。


ビートルズは今までと異なるやり方で行こうと決めていた。
サージェント・ペパーズとは対極の方向性で、破壊と自由を目指したのだ。
それは師であるジョージ・マーティンへの反逆でもあった。

だからマーティン抜きでジョージの家に集結しデモを作成することにしたのだろう。



↑クリックするとヤー・ブルースのデモが聴けます。



<イーシャー・デモはビートルズが仲良しだった最後の時間>

ジョージの自宅で和気藹々と録音したデモ・テープからは、メンバーたちの親密な
雰囲気が伝わって来る。
4人がビートルズの一員であることを楽しんでいた最後の時間だっただろう。
だからこそイーシャー・デモは貴重な音源なのだ。


5月30日ホワイト・アルバムのセッション初日、ヨーコがスタジオに登場。
ジョンの隣に居座り続けるヨーコの姿に他の3人のメンバーは唖然とした。
この日はレボリューション1の録音だったが、彼女はジョンとマイクの前に立った。


<脚注>

2018年11月27日火曜日

ホワイト・アルバム 2018リミックスは買いか?

サージェント・ペパーズ2017のレビューを先延ばししているうちに一年が経ち、
ホワイト・アルバム2018リミックスが発売されてしまった。


個人的にはホワイト・アルバムが一番好きだ。
リアルタイムでビートルズを聴き出したころのアルバムでもある。

もっとも中学一年生のお小遣いで2枚組4,000円はなかなか買えない。
チャリでヤマハに行っては「欲しいなあ」とため息をついているだけだった。

中学二年になってクラスの友だちが二人、ホワイト・アルバムを買った。
借りてソニーのカセットレコーダーに録音し何度も繰り返し聴いた。


だから僕のホワイト・アルバム原体験はHi-Fiではないのだ。
大人になって英国盤LPボックスを買い、1987年のCD化で買い、2009年リマスター
でステレオ盤ボックスとモノラル・ボックスを大人買いした。

2009年リマスターは満足している。
モノラル・ミックスも初めてで、SEの入り方とかいろいろ違うのが分かった。
これがあれば充分じゃないかという気もした。



サージェント・ペパーズはもともと4トラックという制限の中、様々な工夫を試み
音を重ねて積み上げた壮大なアルバムだ。
それだけにビートルズ本来のバンドサウンドが損なわれあまり好きではなかった。


2017年リミックスでは個々の楽器とボーカルが鮮明になり印象がだいぶ変わった。
今までこもって塊りで聴こえていたのが、冒頭のSEから明らかに違う。

ギターの音が前面に出て「こういうことをやってたのか」というのがよく分かる。
ポールのぶんぶん跳ねるベース、リンゴのドラムの迫力。

サージェント・ペパーズというベールに隠れていたけど、こいつらやっぱロック・
バンドなんだなーと嬉しくなった。







それに対してホワイト・アルバムはオーヴァーダブが少ないシンプルな曲が多い
ジョン、ポール、ジョージの弾き語りやバンド・サウンドやも堪能できる。

またレコーディングの後半「やっと」8トラック機材が導入されたことも大きい。
トラック数を稼ぐためのバウンス(ピンポン)でベーシックトラックが埋もれがち、
各楽器の音像がクリアーじゃない大作サージェント・ペパーズとは違う。



だからホワイト・アルバムは2009リマスターのステレオとモノラル・ミックスで
充分なんじゃないか、という思いもあった。


一方でやはり気になる。さらにクリアで迫力のある音に仕上がるのか?
ジャイルズ・マーティンは「直感的なサウンド、頬をビンタされたような勢いのある
サウンド、そのうえで美しくなければならない」ことを目指したという。


そしてアウトテイク集でホワイト・アルバムの制作過程が見えてくるのか?
クラプトンの違うソロが聴ける「あの曲」の別テイクは本当に存在するのだろうか?



ホワイト・アルバム 2018リミックスはおそらくサージェント・ペパーズ2017に準
じた複数のセットでリリースされるだろう、と読んでいた。

1)スタンダード・エディション 2CD(オリジナル・アルバム)
2)デラックス・エディション 3CD(+アウトテイクのハイライトCD 1枚)
3)スーパー・デラックス・エディション<豪華本付ボックス・セット>
 2CD+ 3CD(イーシャー・デモ含むアウトテイク集)+メイキングDVD
 、Blue-Ray Audio
4)2LPエディション



が、予想は外れた。今回はスタンダード・エディション2CDがない。


1)デラックス・エディション 3CD(+イーシャー・デモCD 1枚)





2)スーパー・デラックス・エディション<豪華本付ボックス・セット>
 6CD(1枚がイーシャー・デモ、3枚がアウトテイク集)+Blue-Ray Audio




3)2LPエディション
4)4LPデラックス・エディション(内2枚はイーシャー・デモ)



イーシャー・デモについては改めて書くつもりだが、25年くらい前にブートで
出回ったジョージ・ハリソン自宅に4人が集まって録音したデモ音源集だ。
当時はこの貴重な音源発掘にマニアたちは大喜びしたものだ。

ジョン、ポール、ジョージが各々の曲をアコースティックギターで多重録音した
もので、ブートではモノラル音源だった。


後に1996年のアンソロジー3にイーシャー・デモから7曲が収録された。
音質的にはだいぶ向上し、半分は左右泣き別れのステレオ・ミックス、半分は
モノラル・ミックス。
ブートで2トラックのズレが聴き苦しかったバック・イン・ザ・USSR、オブラディ
・オブラダなどは(演奏内容はいいのだが)収録されなかった。


今さらイーシャー・デモを聴きたいとも思わない。
それよりアウトテイクのハイライトをCD1枚に編集してくれた方がよかったのに。






3枚分のアウトテイク集は魅力だ。
でもそのためにスーパー・デラックス・エディションを買う気もしない。
価格はともかく、デンと場所をとるのが嫌なのだ。
(しかもサージェント・ペパーズとボックスのサイズが違うらしい)

豪華本なんてどうせ一回パラパラめくったらもう見る機会はないだろう。
Blue-Ray Audioも必要ない。
5.1サラウンド環境じゃないし、ハイレゾ志向でもない。
そもそも今までの経験上、ボックスは出すのが面倒であまり聴かなくなる


イーシャー・デモ付きのデラックス・エディション3CDは本望じゃないし、
スーパー・デラックス・エディションを買ってCDだけ別なケースに移し替えて、
ボックスと豪華本は捨てちゃう、というのもなんか気が引ける。

うーん、とりあえず見送りかな〜。



ほぼ意を固めかけていたのだが、発売前日Amazonをチェックしたらデラックス・
エディション(輸入盤)が2,333円になっていた。
3CDの新譜でこれは安い。

ええい、買っちゃえ!ポチッ。



翌日の発売日、値段が3,600円代に跳ね上がっていた。すごく得した気分(^^)
CDもちゃんと翌日届いた。

開けてみるとなかなかいい感じだ。


2009年リマスター以降、ビートルズは(ビートルズに限らず)紙ジャケ仕様が
主流で、あれは出し入れしにくいので個人的には嫌だった。
2016年のハリウッドボウルも昨年のサージェント・ペパーズも紙ジャケだ。


ところが今回のホワイト・アルバムのデラックス・エディションは一昔前に
流行ったデジパック仕様なのだ。
紙製の台紙にプラスチックのホルダーが付いていて、プラケースと同じような
感覚でしっかりディスクをホールドしてくれる。

その分、厚みが出て重くはなったが、観音開きの紙ジャケットを開くとCD3枚
が横に並ぶので見やすいし、出し入れがしやすい。


こんな感じ↓(クリックすると動画が観られます)




さて、音だ。
ジャイルズ・マーティンは「今回は(サージェント・ペパースの時ほど)音を
良くしすぎないように配慮した」とインタビューで語っていた。

いったいどこがやねん!と突っ込みを入れたい。

音めっちゃいいやんか!
野太いけど、隅々まで見渡せるクリアーなサウンド。そんな表現でいいかな。


ポールのベースは思いっきり太い音でメロディアスなラインを弾いてるし、
リンゴのドラムはドスンドスンと大迫力だ。
1曲目のバック・イン・ザ・USSRではジョンが6弦ベースを弾いてたこと、
何をやっていたのかまで分かる。これがまたすごくカッコいい。


2009年リマスターと比べて全体に低音に厚みが出たが、いわゆるドンシャリで
なく深みのある心地よい低音である。

また一時流行った目いっぱいコンプかけました的な攻めの音圧でもない。
ピアニシモや音と音との「」、広がりや奥行きが感じられ、それでいてバンド
グルーヴ感も伝わる。いい仕事だ。

各楽器の定位はやや中央よりに配され、ヘッドホンでもスピーカーでも違和感
のない、聴きやすい現代向きのステレオ感になった。この辺は好みかな。
(1968年当時は左右のパンであえてステレオ感を演出していたのだと思う)



発売前の音源で聴き比べしてる人がいました↓(クリックすると試聴できます)



そうそう。
サージェント・ペパーズ2017は1967年のモノラル・ミックスに準じていて、
それを現代風のステレオにグレードアップする、というリミックスだった。

今回も同じだろうと思っていたのだが、オリジナルのステレオ・ミックスに
準じたものだったので意外だった。

初期4枚以外はずっとステレオ盤で聴いていたので、2009年モノラル・ボックス
で初めてリボルバーやサージェント・ペパーズ、ホワイト・アルバムのモノラル
を聴いた。(という程度でモノラルLPを収集するようなマニアではない)


1968年までビートルズのレコードはステレオ、モノ2種類が制作されていた。
英国ではステレオ・システムが一般家庭に普及していなかったため、サージェント
・ペパーズまではモノラルが主とEMIもビートルズも考えていた。

メンバーたちはモノラルのミックス・ダウンには立ち会っていたが、ステレオ
の方はお任せでノータッチだった。


ジェフ・エメリックとジョージ・マーティンも「リボルバーとサージェント・
ペパーズはぜひモノラルで聴いて欲しい」と発言していた。
モノラル・ミックスはお墨付きの自信作だが、ステレオ・ミックスは時間に追わ
れてやっつけ作業的な、本意ではない出来だったのだろう。





ホワイト・アルバムでやっとステレオ・ミックスも重視されるようになり、
ビートルズもステレオ、モノラル両方のミックスに立ち会うようになった。
(アビー・ロード、レット・イット・ビーはステレオのみとなる)

フェーダーの上げ下げ、エフェクト、コンプ、リミッターのさじ加減は変わる。
そのためステレオとモノラルでは、SEの入り方、ギターのリフの位置、ボー
カルのダブルトラッキングの感じ、かけ声の有無などの違いが生じるのだ。
例えばブラックバードのツグミの声の入り方はステレオ盤とはだいぶ違う。


今回のリミックスは長年慣れ親しんだステレオ盤のホワイト・アルバムに準じて
いるため、あれ?というような違和感はなく耳に馴染む。
が、前述のように音のダイナミズム、生々しさ、ふくよかさ、艶、空間的な広がり
と奥行き感の点では「新しく甦った」ホワイト・アルバムと言っていいだろう。




ホワイト・アルバム 2018リミックスは買いか?

ホワイト・アルバムをこよなく愛し、かつもっと深く知りたい、今まで以上の発見
を求める人には「買いです」とお薦めする。

経済的に余裕があり、ホワイト・アルバムの全容が知りたい、コンプリート盤を
所有することに喜びを感じる人は迷わず 2)スーパー・デラックス・エディション
を買ってください。


僕のように嵩張るモノを増やしたくない人は 1)デラックス・エディション3CD
で充分楽しめるはず。
どうせブートの焼き直しだから要らないと思っていたイーシャー・デモも、音的は
別物と思えるくらい出来がいい

アンソロジー3よりもはるかに音質が向上している。
ブートでトラックのズレが聴き苦しかったバック・イン・ザ・USSR、オブラディ
・オブラダもきれいに修正された。
演奏間の会話なども収録され、今までより上質なジェネレーションのテープを発掘
した上でレストア〜リミックスしたものと思われる。






高価なボックスを買わなくても、アウトテイク集を聴く方法がある。
AmazonかiTunesでアウトテイク集の欲しい音源だけをダウンロード購入するのだ。

そもそもCDは要らないという人なら10,000円で6CD分まとめ買いという手もある。


一方1968年当時のLPの音を愛する人は2009年リマスターの方がいいだろう。
2018リミックスはそういう人たちをがっかりさせてしまうかもしれない。

LPに関しては新たにリミックスした音源をまたアナログレコードで聴く(=RIAA
特性フォノイコライザーで変換して聴く)ことがどうなのか?僕には分からない。


Blue-Ray Audioのハイレゾ音源は耳の肥えた人には魅力的だろう。
レボリューションNo.9は5.1サラウンドで聴くと全方位から音の洪水らしい(笑)



ホワイト・アルバム 2018リミックスと2009リマスターの聴き比べは既にレコード
・コレクタースなどで評論家の方たちがレビューを載せていると思うので、そちら
を参考にしてください。

次回以降、イーシャー・デモ、ホワイト・アルバム制作過程、2018リミックスと
アウトテイク集で見えてきた「スタジオでビートルズは何をやってたのか?」に
切り込んで行きたいと思う。

The Continuing Story Of Bungalow Bill....
じゃなかった。To be continued next time.


<参考資料:PHILE WEB AUDIO、AV Watch、mora、Amazon.com、
ユニバーサルミュージック、NME Japan、他>

2018年10月22日月曜日

まるで女優のように。ギタリスト、村治佳織。

10月3日、銀座山野楽器で開催された村治佳織ミニコンサートに行ってきた。
新譜「シネマ」の発売記念のインストア・イベントだ。

会場は7Fのホールで60席。立ち見を含めると100名ぎっしり。
時間は30分ほど。これくらいの規模のコンサートが今の僕にはちょうどいい。(1)
優雅で上質な演奏を間近でじっくり味わうことができた。




↑会場はこんな雰囲気(村治さんのInstagramより写真を借用しました)


2年ぶりの新作「シネマ」は村治佳織デビュー25周年記念アルバムになる。

映画音楽集という案はデッカのプロデューサー、ドミニク・ファイフからだが、
村治さん本人もかねてから映画音楽に思いを寄せていたため賛成したそうだ。
選曲はドミニクからの提案+日本側スタッフの意見で決めたとのこと。


この日は「シネマ」から5曲、生演奏を披露してくれた。

映画「ハウルの動く城」より〈人生のメリーゴーランド〉
映画「ふしぎな岬の物語」 から〈望郷〉
映画「ティファニーで朝食を」 から〈ムーン・リバー〉
映画「第三の男」 から〈テーマ〉
映画「 禁じられた遊び」から〈愛のロマンス〉


どの曲もギターの息づかい(ニュアンス)が伝わり、生音が素晴らしかった。
フォルテッシモは大胆かつ音はふくよか。ピアニッシモは甘く美しい。

ギターの前に小さな立ちマイクがあったが、PAを通した音は薄めだったはず。
後部席まで飛ばすための補完、あるいは観客が多く吸音されデッドな(残響音が
少ない)音響空間になるためリバーブを加えていたのかもしれない。



村治佳織というギタリストには「美学」がある。(2)

フレットボードを縦横無尽になめらかに動く左手の美しさ。ビブラートのかけ方。
力強く、時に繊細に。正確な右手のピッキング。トレモロの美しさ。
開放弦やハーモニクスを弾く時、弧を描くようにゆっくり宙を舞う右手。

ギターを慈しむように丁寧に奏でる姿、心から演奏に心酔している表情。
演奏を終え弦をミュートしてから満足そうに微笑むのがまたチャーミングだ。

曲全体の流れに身を任せるかのように、体で大きくリズムを取り弾く。
時に右足をトンと踏み込む。
足で4拍を刻み弾くことが多いロックやR&Bとクラシックとの違いを実感した。



この日、村治さんが持参したのはポール・ジェイコブスン(1992年製)。(3)
トップは杉材、サイド&バックはハカランダではないかと思う。

村治さんがデビューした頃に愛用していたギターでしばらく使っていなかった
が、また弾いてみたら熟成されたとてもいい音になっていたとのこと。
「ただ置いといただけなんですけどね」と彼女は楽しそうに笑う。


曲の合間にこうしたギター談義を本人の口から聞けるのは嬉しい。
レコーディング秘話も興味深かった。
彼女はトークでも観客の心を魅了する術を身につけている。





↑トーク中の村治さん(トーク中は撮影可。妻がiPhoneで撮った写真)
最近よく着用しているブルーの花柄のきれなワンピース(肩がレース地)の下に
茶系のチェックの薄手のパンツ(ステテコじゃないですよ(^^)、黒のパンプス。
よくお似合いだった。ベストドレッサー賞に選ばれたんですよね。
ギターと一緒に持っているのは膝に敷く滑り止めだと思う。


「シネマ」のレコーディングではこのギターを含め4台使用したそうだ。

そのうちの1台、トーレス(4)は150年前のギター(1859年製)らしい。
表面は波打ってるくらいのヴィンテージもの。
ギターはバイオリンと違って数百年を生き延びる楽器ではない。
音が遠くまで響かなくなる。コンサートには不向きのようだ。

一年前から借りているものの、どう使おうか思いあぐねていたが、今回
レコーディングに持って行ったら思いの他、良かったらしい。



遠くまで音を飛ばすライブと違い、レコーディングは本当に小さな音量で弾くため、
繊細で密度の高い演奏ができる。
トーレスは今回のレコーディングに相性が良かったのだろう。

プロデューサーのドミニクも気に入り「今の曲、トーレスでやってみてくれる?」
みたいな感じで結局、10曲でトーレスを起用することになったという。




↑トーレスを抱える村治佳織さん。
「電子版現代ギター18年10月号」に掲載されらインタビュー記事より。





ライナーノーツによると、デッカ移籍以降メインで愛用してるホセ・ルイス・ロマニ
リョス(舌を噛みそうな名前だな)1972年製と1990年製も使用されている。(5)



レコーディングは水戸のホール(6)を数日貸し切りにして行ったそうだ。
つまり客入れしない状態でホールの自然な残響音を生かして録音するわけだ。


通常はスタジオでデッドな(残響音が少ない)音響空間で演奏し、マイクで拾った
音にその場でリバーブをかける(かけ録り)か、素の音を録音して後からリバーブ、
ディレイ、コンプ、リミッターなどをかける(後録り)ことが多い。

しかしポップスでもサイモン&ガーファンクルやフィフス・ディメンションのように
ボーカルだけは教会で録った、という例もある。
ライブな(残響音が多い)音響空間で得られる音は倍音が豊かで美しいのだろう。

この水戸のホールの音響がすばらしく、プロデューサーのドミニクも「今まで使った
ホールの中で一番いい」と満足していたそうだ。





↑レコーディングに使用した水戸芸術館コンサートホールATM




「シネマ」は聴きやすいアルバムだ。流しておくと部屋の空気に自然に馴染む。
しかも聴くほどに一曲ごとの味わいが深まる。


個人的には1曲目の映画「プライドと偏見」から〈夜明け〉が一番好きだ。
深い森の奥から聴こえてくるようなピアニッシモのギターの音色が美しい。
少し霞がかかってるけど隅々まで見渡せるような、と表現すればいいだろうか。


この曲は弟の村治奏一さんとの合奏。(7)アルペジオと単音のメロディー。
そのためか自然なディレイのように聴こえてくるのかもしれない。

この映画は知らなかった。調べてみたらとても評判がいい。
機会があったらぜひ見てみたいと思う。


映画「ローカル・ヒーロー/夢に生きた男」の〈ワイルド・テーマ〉
が収録されてたのが意外でもあり、嬉しかった。
地味な英国映画だが、とぼけたユーモアと哀愁がツボで何度も繰り返し見ている。
マイケル・J・フォックスも「この映画は僕のバイブル」と言っていた。

曲はマーク・ノップラーが映画のために書き下ろしたもの。
選曲は英国人プロデューサーのドミニクさんのようだ。


映画「ティファニーで朝食を」 挿入歌のヘンリー・マンシーニの名曲〈ムーン・
リバー〉は村治さん自らが編曲をし、新たにイントロ、バリエーションと転調
が加えられ美しい仕上りになっている。




↑モノクロのカヴァー・ジャケット、ブックレット内の写真は繰上和美氏。(8)
撮影を依頼すると、「シネマ」だから女優になってもらうよ、と言われたとか。
写真をクリックすると「ムーン・リバー」が視聴できます。



映画「ラストエンペラー」のテーマ(作曲:坂本龍一)も村治佳織編曲で、
トレモロ奏法が効いている。

ニーノ・ロータ作曲の映画「ロミオとジュリエット」〈愛のテーマ〉もギター・
ソロの楽曲として聴くとまた格別の味わいがある。



僕が村治佳織というギタリストを知ったのは1999年にNHKで放送された「トップ
ランナー」(9)に出演していたのを見たのがきっかけだったと思う。
女子聖学院(10)を卒業しパリのエコールノルマル音楽院(11)に留学していた頃かな。
ロドリーゴ(12)に会いに行き彼の前で演奏した、という話をしていた。

21歳とは思えないくらい大人で、芯がぶれない女の子だなという印象だった。
映画「ディア・ハンター」(1979年)のテーマ曲「カヴァティーナ」をカヴァー
していることを知りCDを買った。(ジョン・ウィリアムス版は既に持っていた)


近年の村治さんはクラシックというジャンルを超え、いろいろな人と共演し、
インプロヴィゼーション(ロックやジャズで行う即興演奏。譜面に沿って演奏
するクラシックにはない)の技も身につけている。

J-WAVEの番組ナビゲーター(13)を務めたり、他のFM番組やテレビ番組にも出演
しているのを見かける。
いろいろな人との会話を楽しんでいるようだ。21歳の時より声が華やいでいる。

ギタリストという芯はぶれない。でもいろいろな役を演じ可能性を広げていく。
まるで女優のように。
村治佳織さんのこれからの活躍に期待したい。


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2018年9月30日日曜日

ロックな青春映画10選(8)僕の孤独が魚だったら。

フィッシュストーリー」は、1975年に「逆鱗」という売れないパンクバンド(1)
残した「FISH STORY」という曲が時空を超えて巡り巡って、地球の危機を救う
という荒唐無稽だがよくつながってるな〜と感心してしまう映画だ。

伊坂幸太郎の短編小説×中村義洋監督が映画化、の第二弾目である。(2009年)
前作の「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007年)、第三弾の「ゴールデンスランバー」
(2010年)もとてもよかった。どの作品も見て損はないと思う。



三作品に共通してるのはロックがキーポイントになっている点だ。
「アヒルと鴨」はディランの「風に吹かれて」がストーリーで重要な役割を担っている。
「ゴールデンスランバー」はビートルズの同名楽曲。(2)

「フィッシュストーリー」は「逆燐」という架空のバンドが登場。
楽曲プロデュースは斉藤和義が担当した。

ロック云々は別としても楽しめる映画でお薦めです。







<映画のあらすじ>

1975年、日本に「逆鱗」というパンクバンドが登場した。
セックス・ピストルズがデビューする1年前。(3)
パンクという言葉さえ日本にまだなかった。

早すぎたパンクバンド「逆鱗」はなかなか世間に理解されないが、マイナー・レーベル
の担当者、岡崎(大森南朋)は彼らの可能性を見出しスカウトする。
しかし、一向に売れない。
レコード会社の上層部からは契約を打ち切るよう岡崎に圧力がかかる。


岡崎(大森南朋)が持っていた本に触発され、リーダーでベース担当の繁樹(伊藤淳史)
は彼らの最後のレコーディングのため「フィッシュストーリー」を作曲する。

 僕の孤独が魚だったら、 巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出す きっとそうだ 
 僕の孤独が魚だったら、巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出す 
 オレは死んでないぜ オレは死んでないぜ 音の積み木だけが世界を救う

                    (伊坂幸太郎/斉藤和義)


「FISH STORY」というのはホラ話、作り話のこと。
釣り師が獲物を誇張して言いがちなことが語源らしい。(4)

「フィッシュストーリー」という本は印刷後、誤訳でデタラメだったことが発覚しすべ
回収され、処分された。
その出版社で働いていた岡崎の叔母がこっそり持ち帰った幻の一冊だったのだ。
だから著作権は発生しない、とのことだった。



↑クリックすると逆鱗の「フィッシュストーリー」が視聴できます。


「逆鱗」のメンバーは「これが最後」という覚悟で一発録りに臨む。
曲間でボーカルの五郎(高良健吾)が「岡崎さん、俺たちの歌、誰かに届いているのか
な」と思いをぶつける。

五郎のモノローグが入ったためプロデューサーは録り直しを命じるが、岡崎は「いや、
のテイクで行こう」と主張する。(5)
五郎の語りの部分は無音にする、その方が謎めいていていい、というのだ。

「逆鱗」は売れないまま、解散した。



時は流れ1982年
「フィッシュストーリー」の謎の無音部分が一部の若者の間で都市伝説となっていた。
人によっては無音部分に女性の悲鳴が聴こえるというのだ。
弱気な大学生、雅史は深夜、運転中そのカセットテープを聴いたことがきかっかけで、
運命の女性(大谷英子)と巡り会う。


さらに時は流れ2009年
フェリーで修学旅行へ向かう女子高生の一人、麻美(多部未華子)は眠りこけて下船
できず、シージャックに巻き込まれてしまう。
しかし「正義の味方」と名乗る青年(森山未來)が現れ、傷を負いながらもシージャッ
一味を倒し、麻美たち乗客が助かった。
「正義の味方」は雅史の子供。
1982年に雅史が「フィッシュストーリー」を聴いたことにつながっている。


そして2012年
巨大隕石の地球衝突が迫り、世界中がパニックに陥っている。
荒廃した街の片隅で、いつもと同じように中古レコード店を営む店長がいた。
あの「逆鱗」を手がけた岡崎の子供(大森南朋、一人二役)だ。
レコードを物色する客に、店長は「逆鱗」の「フィッシュストーリー」を聴かせる。

地球の危機は救われるのか・・・・






逆鱗というバンド

「逆鱗」のメンバーを演じたのは、俳優の伊藤淳史(ベース)、高良健吾(ボーカル)、
渋川清彦(ドラム)と、ロックバンドDrive Farの大川内利充(ギター)の4人。
劇中で逆鱗が歌う曲は斉藤和義がプロデュースを手がけた。


渋川清彦は高校卒業後、バンドでプロを目指し上京。アートスクールのドラム科を中退。
その後、俳優に転じたがドラムの経験はあった。

伊藤淳史はまったく楽器経験がなく2ヶ月間、必死で練習したそうだ。
楽器の持ち方、弦の押さえ方から習い、泊まりがけの仕事にもベースを持って行き、
毎日どんなに忙しくてもベースに触るようにしていたらしい。


高良健吾はニルヴァーナ、エレファントカシマシ、サンボマスター、東京事変、奥田民生
などを好んで聴いていたロック好きで、ボーカルもサマになっていた。

大川内利充はフランス人のボーカル+3ピースの爆音系バンド、Drive Farのギタリスト
で、「逆鱗」のサウンド作りに貢献している。


メンバーたちは週2~3回集合して練習し、その後飲みながら曲や音について話し合った。
そのためか劇中の「逆鱗」のシーンは、ざらっとした生々しさがあった。
理解してもらえない、売れないミュージシャンの哀愁、虚しさも切実に感じられた。





映画公開に先駆け、2009年02月にCD「FISH STORY 逆鱗×斉藤和義」をリリース。
3月にタワーレコード渋谷店、HMV渋谷店でミニライブを開催している。

「FISH STORY」を作曲した斉藤和義自身もセルフカヴァーしているが、この曲に関し
ては僕は「逆鱗」のヴァージョンの方がいいと思う。


<脚注>

2018年9月1日土曜日

ロックな青春映画10選(7)ドブネズミみたいに美しくなりたい。

ロックな青春映画10選、後半は邦画をご紹介したい。
一発目は「リンダ、リンダ、リンダ」。(2005年公開)

タイトルでピンと来た方もいるだろう。
1980年代後半に活躍した日本のパンクロック・バンド、ザ・ブルーハーツのメジャー・
デビュー曲「リンダ リンダ」がこの映画のフックになっている。


文化祭でバンド出演。夏に教室や屋上で練習をした思い出。あるよね?







<映画のあらすじ>

とある地方都市の高校(撮影は群馬県の前橋工業高校で行われた)が舞台。
文化祭を数日後に控えたある日、軽音楽部所属の5人組ガールズバンドのギター担当
(湯川潮音)が指を骨折してしまった。

高校生活最後の文化祭にどうしても出たいキーボードの恵(香椎由宇)。
オリジナルメンバーでやらなきゃ意味がないというボーカルの凛子(三村恭代)。
二人は対立し、バンドは空中分解。


恵がギターに転向し、ドラムスの響子(前田亜)、ベースの望(関根史織)とバンド
を続け、文化祭に出ることにする。。。。が、何をやるか決まらない。

軽音の部室で古いLPやカセットをひっくり返しているうち、ザ・ブルーハーツの「
リンダ リンダ」を聴き、3人はノリノリ。


問題はボーカルだ。恵はギターを弾くのに精一杯。
文化祭の準備で慌しい校内でどうしようか悩む3人。
じゃあ、あそこを最初に通った子にしようよ、といい加減な提案をする恵。

最初にやってきたのは、よりによってバンドを抜けたばかりの凛子だった。
次に韓国の留学生ソン(ペ・ドゥナ)に恵が声をかける。
「バンドやんない?ボーカルでいいよね?やるのブルーハーツだから」
ソンは適当に返事をする癖があり、意味も分からないまま引き受けてしまう。






2日後の本番まで時間がないため、さっそく練習を始めるが4人の音はバラバラ。
特に恵は慣れないギターがうまく弾けない。

夜の部室に忍び込んで、体育会座りで練習する4人。屋上で一人ギターを弾く恵。
一人カラオケで歌うソン。気持ちが一つなり、音も良くなってきた。


前日からスタジオに泊まり込みで猛練習するが、4人は疲れて寝てしまう。
軽音の部員からの電話で恵は目がさめる。出番の時間に間に合わない。
どしゃぶりの中バスに乗る4人。体育館に着いた時、残り時間は10分足らず。

雨を避けて集まって来た生徒たちを前に、4人は裸足のまま壇上に上がる。
「私たちはパーランマウム(파란 마음、韓国語でBLUE HEARTS)です」と名乗り、
「リンダ リンダ」「終わらない歌を歌おう」を熱演した。観客は総立ち。

4人は力を出し切り満足そうな笑みを浮かべていた。
舞台の袖で見ていた凛子でさえも。



↑クリックすると「リンダ、リンダ、リンダ」の予告編が観られます。


<映画の見どころ>

大きな盛り上がりもなく、まったりとした高校生活にリアリティがある。
古い教室、廊下、体育館、下足入れが並ぶ玄関、部室、文化祭の準備風景。
高校生バンドらしい大雑把でまとまりのない演奏。そうそう、こんな感じ。
この映画を見てると、遠い昔の空気感や匂いが蘇ってくるようだ。

監督の山下敦弘はわざとらしい盛り上げを極端に嫌う人らしい。
唯一のハイライトはどしゃぶりの雨の中、文化祭に駆けつけるバンドと、演奏
シーンだが、それも淡々と描かれている。
長回しの多用、ロングショット、移動カメラ、そして間の取り方が上手い。



<キャストのキャラが絶妙>

気が強い恵は当所は木村カエラがキャスティングされていたらしいが、結果的に
香椎由宇が適役だったと思う。
クールな凛子(三村恭代)との確執、反りの合わない所もリアルだった。

前田亜季演じるおっとりしたドラムスの響子。
無口な望役の関根史織はBase Ball Bearというバンドのベーシストでもあり、
3人のプレイヤーの中で一番、音楽的にしっかりしている。





そして韓国から来た留学生ソン(ペ・ドゥナ)はたどたどしい日本語といい加減な
返事、絶妙の「間」で笑いを誘う。
ペ・ドゥナは韓国でファッション雑誌のモデルやCMモデル、テレビタレント、映画
女優として活躍。シリアスな作品からコメディーまでこなす実力派・個性派である。

個人的には脱退したボーカルの凛子(三村恭代)の冷めた感じも良かった。
だいうじょうぶ?がんばってね、と声をかけるが最後まで恵と和解しなかった。


屋上で漫画喫茶やってた一つ年上の留年生(どこの学校にもいたよなあ)は山崎優子
(me-ism)が演じている。
けだるい雰囲気とハスキーな声。恵のギターでブルースを奏でるがこれが上手い!

パーランマウムの4人が遅れているため、指を骨折したギターの萠(湯川潮音)がアカ
ペラで「The Water Is Wide」を歌い穴埋めするシーンがある。
湯川潮音はシンガーソングライターで実際にギターも弾ける。

さらに時間稼ぎのため上述の山崎優子が奥田民生「すばらしい日々」を弾き語りし、
山崎優子のギターで湯川潮音が細野晴臣の「風来坊」を歌うがこれもよかった。



<使用楽器>

ギターはESP、アンプはRoland、ドラムスはPearlが提供している。
恵(香椎由宇)が弾いてるのはセミホロウボディーのレトロなデザインのギターだが、
これはESPのオリジナルだっろうか?(知ってる方、教えてください)

望(関根史織)の水色のベースは一見プレシジョンっぽいがヘッドが違う。
たぶんこれもESPのオリジナルなのだろう。

ちなみに関根史織はBase Ball BearではフェンダーUSAプレシジョンベース、
ムスタングベース、プレシジョンベース、Freedom Custom Guitar Research
のジャズベース、ギブソン・SGベースなどを愛用しているようだ。


高校生のロックっていいよね。ガールズバンドっていいな!




<参考資料:Amazon、Wikipedia、YouTube、シネマトゥデイ、他>