クイーン、ストーンズ、ピンクフロイドが好きだと僕が言ったからだ。
「だってアメリカのってなんかダサいじゃないですか」と僕が言うと、彼は珍しく
「そんなことはない」と語気を強めイーグルスの「One Of These Nights(呪われ
た夜」を聴かせてくれた。
本当だ!初めて聴いたイーグルスはめちゃくちゃカッコよかった。
それをきっけに僕は西海岸のロックにどっぷり浸かり始める。
ターンテーブルの上ではアサイラムのブルーのレーベルが回ってることが多かった。
オールスターやケッズのスニーカーにリーバイスの646を履くようになった。
だからグレン・フライの訃報を知った時、僕が過ごしたあの時代の何かがストンと
落っこちたような、何とも言えない気持ちになった。
彼の曲について何か書いてみよう。
最初に頭に浮かんだのが「Tequila Sunrise(テキーラ・サンライズ)」だ。
昔バンドでこの曲をやったからかもしれない。
その直感に従うことににした。
↑写真をクリックするとYouTubeで曲が聴けます。
グレン・フライらしい曲だと思う。
2枚目のアルバム「Desperado(ならず者)」収録曲でアメリカではシングル
カットもされた。
ハードロック色を強める以前のメキシカン・フレーバーあふれるカントリーロック
でライブでも定番の曲だ。
1994年の再結成ツアーではこの曲を歌いながらグレン・フライは「We Still Love
Country Rock!」と叫んでいた。
訳してみようと思ったのだが、これが意味深でけっこう難解だ。
直訳では読み解けない。
こういう設定なのだろう、という聴き手側の想像力が問われる歌詞だ。
調べてみたら海外でも解釈が難しいらしく意見が分かれている。
単純に英語力の貧しさの問題ではなさそうだ。
テキーラ・サンライズとはテキーラ、オレンジジュース、グレナデンシロップの
カクテルだ。
甘く口当たりがいいがテキーラ・ベースなので調子に乗るといきなり腰にくる。
ここではカクテルのような色合いの朝日の隠喩で使われている。
どうやら友達の女と関係を持ってしまって、また朝帰りか〜という状況らしい。
甘く口当たりがいいけど何杯もあおるとえらい目にあう。確かに(笑)
Tequila Sunrise
<Don Henley / Glenn Frey 訳:イエロードッグ>
It's another tequila sunrise Starin' slowly 'cross the sky said goodbye
He was just a hired hand Workin' on the dreams he planned to try
The days go by
また夜明けだ ゆっくり空を見渡す 帰らなくちゃな
あいつは一時の雇われの身 夢を叶えるために働いている
毎日がただ過ぎて行くだけさ
Every night when the sun goes down Just another lonely boy in town
And she's out runnin' 'round
毎晩日が暮れると またどこかの寂しい男が街をうろつく
で、あの娘は浮気しに出かけるってわけだ
She wasn't just another woman And I couldn't keep from comin' on
It's been so long Oh and it's a hollow feelin'
When It comes down to dealin' friends It never ends
他所じゃちょっとお目にかかれない女だぜ だから俺も抑えられなくてね
けっこう長いんだ やれやれ 胸にぽっかり穴があいたような気分だよ
あいつら二人のどっちか選ぶことになるなんて この気分ずっとなんだぜ
Take another shot of courage Wonder why the right words never come
You just get numb
あと少しだけ勇気があればなあ どうしてちゃんと言えないんだろう
萎えちゃうんだよな
It's another tequila sunrise, this old world still looks the same
Another frame, mmm
また夜明けだ また同じこととの繰り返しだな シーンが違うだけでさ
It's another tequila sunrise
「テキーラ・サンライズをもう一杯」という直訳がほとんどのようだ。
前述のように情事開けの朝日の色の隠喩なので「また朝日が昇る時間に
なってしまった」という意味になる。
このanotherは「またいつもと同じ~(が始まった)」という意味だ。
Starin' slowly 'cross the sky said goodbye
さよならと言ったのは自分なのか女なのか、それとも明るくなった空なのか?
主語がないので分からないが、アラン・ジャクソンのカヴァーを聴くと「I
said goodbye」と歌っている。だから自分が言ってるのだろう。
https://youtu.be/PZY0weqZ9e4
He was just a hired hand
ここで女の男のことが歌われる。ただの臨時の雇われ手。
ということは歌の主人公は雇い主なのだろうか?
アルバムが開拓時代をテーマにしてることも併せて考えると、牧場主とカウ
ボーイという設定も想像できる。
Just another lonely boy in town And she's out runnin' 'round
「孤独な少年が街に繰り出し女(娼婦?)は表に出てあてもなくうろつく」
という訳が多いようだ。
しかしanother lonely boyは自分のことではないかと思う。
冒頭のanother tequila sunriseと同じく毎晩繰り返してしまうのだ。
そしてsheは初めて語られる相手の女。つまり臨時労働者の彼女だ。
run aroundは「浮気する」「好ましくない相手とつきあう」という意味。
It's been so long
「久しぶりだな」「昔のことさ」という使い方もあるが、前後の文脈から察
すると情事が始まってからかなり時間がたっていることを言っている。
Oh and it's a hollow feelin'
昔の歌詞カードではBoy it's a ….になっていた。
Boy(おやおや)でも意味は通じるけど年配の人しか使わない言い方だ。
hollow feelingという表現がいい。(ボディーが空洞のギター=hollow body)
It comes down to dealin' friends
ここが一番の難所。海外のサイトでもどう解釈するか論じられていた。
「友達と取引することになるなんて」と訳されてるのを見かけるが、deal
withではないことに注意。それからfriendsと一人ではないことにも注意。
dealには「カードを配る」という意味がある。
「カードを切るように親しい二人(雇われ者の彼とその女)を切り離して
優先順位をつけることになる」事態を嘆いているのだ。
これまた開拓時代という設定を考えるとうまい表現だと思うのだが。
Take another shot of courage
テキーラ・サンライズのカクテルにかけている。
Another frame
昔の歌詞カードではAnother friendになっていた。
ヒアリングが間違ってると意味がちぐはぐになってしまう。
frameはフィルムの一コマ。
この曲ではAnotherが何度も使われている。
t's another tequila sunrise、Just another lonely boy in town、
She wasn't just another woman、Take another shot of courage、
Another frame
さて、実はこの曲には別な歌詞も存在する。
ライブでは2回目のブリッジと最後のヴァースの歌詞が違うことが多い。
その時によって少しずつ変えているようだが、1973年当時のABCコンサート
では以下のように歌っている(たぶん)。
Guess I'll go to Mexico Down to where the pace of life is slow
And there's no one there I know
メキシコにでも行っちゃおうか どっかのんびりできる所にさ
そこなら誰も知ってる奴はいないし
It's another tequila sunrise Wondering' if I'm growing wise
Or telling lies
また夜明けだ もっと利口になれたらなあ じゃなきゃ嘘をつくか
Eagles - Tequila Sunrise - ABC In Concert 1973
やっぱりこの曲は好きだな。
テキーラ・サンライズでも飲みたい気分だ。
素敵な音楽をいっぱい聴かせてくれたグレン・フライに哀悼の意を込めて。
※グレン・フライについてはまた改めて書きたいと思っています。
2 件のコメント:
ジャック・テンプチンが来日中だと知って驚きました!
イーグルスのファースト(セカンドも)アルバムはロンドン録音でプロデュースがグリン・ジョンズ。
ロックンロール=ロック志向の強いサウンドを求めて、意気揚々とロンドンに乗り込んできた彼らに対して「君たちはコーラスがいいんだからカントリーロックの方が向いている」と諭したのがジョンズ・・・だとピーター・バカランが言っていました。
ジョンズの呪縛から逃れて、その後に発表した「オン・ザ・ボーダー」「呪われた夜」を聴くと、結成時にイーグルスの求めていた音がよく分かります。
それでも、フライが亡くなってから拙宅のターンテーブル(!)にはファーストアルバムがずっとのせられていて、そこから聴こえるアコギがリズムを刻む音、コーラスワークが本当に心地よく感じます。
私も、素敵な音楽をいっぱい聴かせてくれたグレン・フライに哀悼の意を込めて。
“Most of us are sad”を聴いています。
>Bettsさん
こんにちは。
ジャック・テンプチンの来日。僕も知りませんでした。
もう写真がアップされてますね。
ソロでJ-200を弾いてますよ。
Peaceful Easy Feelingはジャック・テンプチンとの共作でしたよね。
グリン・ジョンズはイーグルスのバラードやハーモニーは評価していたけど、
最初からロックバンドとしては認めていなかったようです。
ボーカルにかけるエコーの量さえ意見を聞いてもらえなかった、とグレン・
フライは述懐しています。
グリン・ジョンズ、ビル・シムジクとイーグルスのことは以前書いたので、
お時間がありましたら覗いてみてください。
http://b-side-medley.blogspot.jp/2015/07/blog-post_24.html
Most Of Us Are Sadも大好きな曲です。
イーグルスの1枚目、2枚目の透明感はあるんだけどどこか曇ってる、
カリフォルニアの音なのにどこか鬱な部分がある所が好きなんです。
英国人のグリン・ジョンズのせいなのかなあ。
グレン・フライはD-28でバーニー・レドンがD-18。
迷った末、初めてのMartinは1965年製のD-18を買いました。
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