以下2009リマスターのレビューは緑、2018リミックスについては赤字で表記。
(あくまでも主観です)
レボリューション1はホワイト・アルバムの録音で一番最初に取り上げられた曲。
1964年以降アルバム・セッションはジョンの曲から始めるのが慣例だった。
(たぶんジョンがイニシアティブを取りアルバムの方向づけしたかったのだろう)
1968年5月30日。アビーロード第2スタジオ。ヨーコもこの日からジョンと同行。
ジョンがJ-160Eとボーカル、ジョージがフェンダー6弦ベース、ポールのピアノ、
リンゴのドラムという編成で18テイクを録音。
いずれも5分程度だったが、テイク18は約10分に及ぶ。
後半はジョンの叫び、喘ぎ声が繰り返されだらだら続き、最後にヨーコの声も入る。
ポールがマーサ・マイ・ディアのピアノ伴奏を弾いてるのも聴ける。
翌31日。第3スタジオでジョンのボーカルを録音しリダクション。
ポールとジョージがshooby do bop, shooby do wopのコーラスを入れる。
6月4日にジョンのボーカル録り直し。ドラムの追加録音。SEのオーバーダブ。
この時点でまだ曲の長さは10分あった。
6月21日。第2スタジオ。
ポールとリンゴは不在。
ホーンセクションとジョージのリードギターをオーバーダブして完成。
後半はカットされ、4分16秒でフェードアウトする編集が施された。
その削られた後半部分はレボリューション9に流用される。
ジョンは新発足の会社アップルからの初シングルはRevolution(革命)が相応しい
と考えていたが、スローテンポでシングル向きではないと判断される。
(シングル向きじゃないストロベリー・フィールズ・フォエヴァーをA面としたこと
で、初めて全英チャートNo.1を逃したのをジョージ・マーティンは後悔していた)
そこでジョンは7月10〜11日、テンポアップしてハードなナンバーにリメイク。
タイトルを#なしのレボリューションとし、シングルA面で発売することを強く主張。
が、ポールのヘイ・ジュードの方がヒット性が高いのは誰が聴いても明らか。
レボリューションはヘイ・ジュードのB面(一応、形は両A面)扱いとなった。
こうした不満からジョンはポールへの反発、嫌悪感を募らせていったのかな?
レボリューション1の2009リマスターを聴いてみよう。
ベーシックトラックとして録音されたジョンのボーカルとアコースティックギター、
ジョージの6弦ベース、ポールのピアノ、リンゴのドラムはまとめてセンターに。
ジョンが重ねたボーカル、ポールとジョージのshooby do bop, shooby do wop
もYou say you'll change the constitutionのハモりもセンター。
なんかもったいないなあ。
左はイントロで入るジョージのディストーションをかけたリードギター。
もう1台のリードギターはセンター。
But when you talk about destructionで右にブラスが入る。
You say you got a real solutionは左右でブラスが執拗に低音のAを繰り返す。
3’15”のDon't you know it's gonna beの受けのリードギターは左右交互で鳴る。
フェードアウト前にジョンの喘ぎ声、All rightが一旦、左にパンして右に流れる。
入れ替わりに左だったジョージのリードがいきなり右に行って左に移動して行く。
2018リミックスではアコギ、6弦ベース、ピアノがセンターなのは同じだが、
ドラムはセンター基調でスネアが右から強く響くようなった。
ジョンのダブルトラックのボーカルは、軽く左右に振り分けられ揺れ感が出た。
リードギターも左から始まり、もう1台は右から入る。
Count me outの後の歪んだコードは左とセンターから。
But when you talk about destructionでブラスが左右に広がる。
その直前、change the worldで右から薄くオルガンが鳴るのが初めて確認できた。
Shooby do bop, shooby do wopもYou say you'll change the constitution
のハモりも左右いっぱいに広がりジョンの両脇で歌ってる感が出ている。
2’24”のYou say you'll change the constitutionの前に入るピアノは左。
3’15”のDon't you know it's gonna beのリードギターは左右交互なのは同じ。
3’25”でアコギと同じリフのリードギターは左からやや右よりに変わった。
フェードアウト前のジョンの喘ぎ声、All rightとジョージのリードが左右で追いか
けっこしながら消えていくのは同じ。
2018リミックスの方がステレオの広がり感があり聴いてて違和感がない。
↑クリックするとレボリューション1 2018リミックスが聴けます。
アウトテイク集には10’29”に及ぶテイク18(ジョージのリードはまだ入ってない)
の他、シングル用にテンポアップしたレボリューションのリハーサル(ディストー
ションをかけていない)、演奏のみのテイク14(ニッキー・ホプキンスのピアノ、
ジョージの間奏はまだ入っていない)が収録された。
ハニー・パイは10月1日からトライデント・スタジオでレコーディングが行われた。
既にアビーロード・スタジオにも8トラックレコーダーが導入されていたのだが、
あえて別なスタジオを使用したのは気分転換のためか?
リハーサルを重ねて何度も(前のテイクを消して)録音しなおしたため、ベーシック
トラックはテイク1のみ。ポール(p)、ジョン(g)、ジョージ(b)、リンゴ(ds)の編成。
翌日2日。ポールのボーカル、ジョンのジャジーなギター・ソロをオーバーダブする。
ジョンが使用したのは塗装を剥がしたエピフォン・カジノだろう。
4日。ホーンセクション(サックス5人、クラリネット2人)がオーバーダブされた。
(この後、マーサ・マイ・ディにもブラスが加えられている)
冒頭のボーカルにイコライジング処理を施し、蓄音機のノイズ音が追加された。
2009リマスターはセンターにポールのボーカル、ドラム、ジョージが弾くベース。
左にピアノ、右にジョンのギター、クラリネットとサックスは右。
後からオーバーダブされたジョンの間奏はセンター。
2018リミックスで大きな変更はないが、左のピアノ、右のギターがやや中央寄りに、
ベースはセンターからやや左寄りに定位された。
クラリネットとサックスが両側から包みこむように聴こえ、前より音量も上がった。
アウトテイク集には演奏のみのバッキングトラックが収録された。
(前述のようにテイク1しかないため)
サボイ・トラッフルはホワイト・アルバム・セッション最後に録音された曲。
ハニー・パイと同時期にトライデント・スタジオで録音開始。
10月3日。ジョン不在。3人でギター、ドラム、ベースのベーシックトラックを作成。
この曲もハニー・パイと同じやり方をしたらしくテイク1のみ残されている。
10月5日。ポールのベースとジョージのヴォーカルをオーバーダブ。
10月11日。アビーロード第2スタジオでブラス(サックス6人)をオーバーダブ。
ホーンセクションのアレンジはクリス・トーマスが任された。
このセッションに参加した外部ミュージシャンは6人。(サックス6人)
エンジニアとケン・スコットはかなりうまく録れたと自負しジョージに聴かせる。
が。ジョージはブラスにディストーションをかけ音を歪ませることを提案。
「せっかくの演奏をこんな音に加工してしまって申し訳ない。でもこれが僕の欲しい
音なんだ」と6人のミュージシャンたちに謝ったそうだ。
10月14日。アビイ・ロード第2スタジオ。リンゴは休暇を取りイタリア旅行で不在。
オルガン、タンバリン、ボンゴ、リードギターなどをオーバーダブして完成した。
ジョージ・マーティンから「音が明るすぎる」という指摘を受けるも、ジョージは
「でもこの方が好きなんだ(Yeah,but I like it)」と譲らなかった。
マーティン卿は第2スタジオを後にし、他のスタジオの様子を見に行ったとか。
ジャイルズ・マーティンに言わせると「それは父に出て行けと言ってるのと同じ。
そこがビートルズのすごいところ」とのこと。
2009リマスターは左からドタドタとスネアの連打で始まるリンゴのドラム。
センターに歪ませたエレピ(ジョージが弾いてるのだろう)、ポールのベース。
右にジョージのボーカル。
左にCreme tangerineと同じメロのギター。
montelimarからのコード弾きはセンターよりやや左。音は控えめ。
But you'll have to have them allのカッティングでボリュームが上がる。
歪ませたブラスは両側で煽る感じ。
2回目のBut you'll have to have them allで右に鋭角的なギターが入る。
またYou might not feel it nowからセンターにオルガンが入る。
1’28”〜の歪ませたリードギターの間奏は右のセンター寄り。
エンディングのタンバリンは右。
2018リマスターでは一新された。
リンゴのドラム、Creme tangerineで入るギターは左のセンター寄り。
エレピ、ベース、そしてジョージのボーカルもセンターに(こうじゃないとね)
But you'll have to have them allでジョージのボーカルがやや左右にずれる。
2回目のAfter the Savoy truffleはジョージがワイルドに歌ってるのが分かる。
右に入る簡単なフレーズの鋭角的なギターは同じ。
センターのオルガンの響きが美しく響くようになった。
ブラスが左右なのは同じだが、以前ほどギスギスした音じゃなくで低音部もしっか
り出ている。(当時のジョージの意図と違うにしても、この方が聴きやすい)
1’28”〜の歪ませたリードギターの間奏は右センター寄りで少し抑えめになった。
エンディングで右から聴こえるタンバリンも目立たなくなった。
↑クリックするとサボイ・トラッフル 2018リミックスが聴けます。
この曲もアウトテイク集にはテイク1の演奏のみのバッキングトラックが収録。
クライ・ベイビー・クライの録音開始は1968年7月15日。アビーロード第2スタジオ。
ジョンがオルガンを弾きながら歌い、ポールのベース、リンゴのドラム、ジョージの
エレクトリックギター、という編成でリハーサルを重ねながら録音。
翌16日、前日までのテイクを破棄。
ジョージがアコースティックギターを弾き、ジョンはヴォーカルに専念。
ポールのベース、リンゴのドラムというシンプルな編成で10テイクを録音。
最終テイクをリダクション後エレクトリックピアノ、ピアノのオブリ、オルガン、
タンバリン、ジョージのエレキギターによるオブリをオーバーダブ。
第12テイクにジョンのピアノとジョージ・マーティンのハーモニウムをオーバーダブ。
7月18日。ジョンのボーカル、ポールのコーラス、SE、ハーモニウムを追加し完成。
後にアイ・ウィルのセッション(9月16日)でポールが即興でアコギで弾き語りした
「Can you take me back where I came from,can you take back」の一部が
エンディングにつなげられている。(これが妙にしっくり来るから不思議だ)
まず2009リマスター。
ジョンのボーカルが左から始まりThe King of Marigoldでセンターへ移動。
歌い出しのハーモニウムはセンター。
アコギは右。ベースはセンターよりやや右。
歪ませたエレピとピアノのオブリはセンター。
Cry baby cryでジョンの声は再び左へ。ドラム、タンバリンがセンターに入る。
次のThe King wasでまたジョンの声はセンターへ。ベースは左端に。
ドラムがやや右に移動。クラッシュシンバルはセンターで鳴る。
この辺になるとアコギの音はだいぶ後退。1’17”のエレキギターはセンター。
2回目以降のCry baby cryもジョンの声は左。
ポールとジョージのShe's old enough to know better(1’34”)はセンター。
2’34”〜Can you take me back where I came fromはポールの声がセンター。
かなりリバーブが深い。
右にアコギ。左にパーカッション。
2018リミックスでは主役のジョンのボーカルは曲を通してセンターで動かず。
アコギは右、ハーモニウムとリンゴのブラシ演奏、ベースは左、オルガンやや右寄り。
調子っぱずれなピアノは左。
Cry baby cryでジョンのダブルトラックのボーカルはセンターと左にずれる。
ピーター・コビン方式(1)のディレイ効果だ。
リンゴのドラムは左から鳴っているが、2回目のSo cry baby cryのロールから右にも
入りドスンバタンと迫力が増す。
1’17”のエレキギターはやや左になった。
She's old enough to know better(1’34”)のハモりはセンター。
2’34”〜Can you take me back where I came fromは2009リマスターとほぼ同じ。
ボンゴとマラカス、アコギの音が鮮明になった。
↑クリックするとクライ・ベイビー・クライ 2018リミックスが聴けます。
今回のアウトテイク集には初日のリハーサル・テイク(オルガン、ベース、ドラム、
エレキの編成)が収録された。
アンソロジー3では翌日のテイク1(アコギ、ベース、ドラム)が聴ける。
レボリューション9はジョンとヨーコによる前衛作品。
ジョンはアビーロードのライブラリから探し出したサウンドエフェクトと、ヨーコと
一緒に作ったテープループをコラージュする作業を6月6日から開始。
ジョージとリンゴは渡米中で不在だったが、帰国後サウンドエフェクト作りに協力。
これをやろうと言ってくれたのはジョージだった、とヨーコは言ってる。
6月11日にジョンが第3スタジオでレボリューション9を仕上げている間、ポールは第2
スタジオでブラックバードを録音。
ジョージとリンゴが帰国後、今度はポールが渡米。
レボリューション9にはノータッチだった。
しかしレボリューション1の後半がカットされてこのレボリューション9に転用された
ため、ジョンの叫び、喘ぎ声、ヨーコの話し声に混じってポールが弾くマーサ・マイ・
ディアのピアノのフレーズが少し聴ける。
6月20日、ジョンはアビーロードの第1~3スタジオを独占して作業を続ける。
繰り返される「Number nine」の声もサウンドライブラリから発見されたものだ。
ジョンは「9」という数字にこだわっていたという。
6月25日に編集で若干削られて8分23秒弱になった。
ポールはこの実験的な作品をビートルズのアルバムに入れるべきではないと反対。
ジョージ・マーティンも反対者だったという説があったが、後に本人が「まったく
違う。むしろジョンと熱心にこの音景作りに取り組んだ」と言っている。
結局、ジョンの希望は叶えられた。
ホワイト・アルバムのセッションに入る2週間前、ビートルズはアップル社を設立。
自分たちのレーベルだからこういう前衛作品を入れることもできるし(パーラフォン
だったらEMI上層部が許さなかっただろう)、アップルから出す初のアルバムだから
こそジョンは新しい試みをしたかったのではないか。
当時、中学2年生だった僕は何のこっちゃ?と思ったし好きな曲?でもなかった。
しかし1990年に発売されたKLFのアンビエントアルバム「チルアウト」(2)を好んで
聴くようになって、やっとレボリューション9の良さが分った気がする。
2009リマスターと2019リミックスは音の定位もパンのタイミングもほぼ同じだ。
むしろこの曲はブルーレイ・オーディオで聴いた方が斬新に感じるだろう。
全方位から音の洪水ですごいと思う。
尚、アウトテイク集にレボリューション9のアウトテイクは収められなかった。
アルバムのフィナーレ、リンゴが歌うグッドナイトは元はジョンが息子のジュリアン
のために書いた子守歌。
ジョンは最初からリンゴに歌わせるつもりだったそうで、そのせいかジョン本人
が歌っているテイクは存在しない。(あればぜひ聴いてみたかった)
ホワイト・アルバムではブルース色の強い攻撃的、過激な曲が多かったジョンだが、
(アンチ・ポール、サージェント・ペパーズの否定という側面もあったのか?)
ジュリアとかこのグッドナイトのような優しい美しい曲もある。
こういう二面性がこの人の魅力なんじゃないかな。
6月28日にリハーサルを兼ねジョンのギターとリンゴのボーカルで5テイクを録音。
歌い出しの前には、リンゴの子供たちへの語りかけが入っていた。
7月2日。テイク5にリンゴのヴォーカルと他の3人のコーラスを加える。
しかしこれまでのテイクをすべて破棄され、オーケストラをバックにリンゴが歌う
アレンジに変更。ジョージ・マーティンにスコアを依頼。
7月22日。26名のオーケストラを収容するため広い第1スタジオを使用。
オーケストラは12テイク録音。ベスト・テイクを選ぶ。
コーラス隊としてマイク・サム・シンガーズ(3)が呼ばれ、混声コーラスを録音。
リンゴのボーカルをオーバーダブして完成した。
後にジョンは「ディズニー映画みたいな感じにしたかったけどやりすぎたかな」と
発言している。
しかしビーチボーイズのパロディに始まり、ブルース、カントリー、フォーク、
スカ、元祖へヴィメタ、ブラスロック、デキシージャズ、挙げ句の果てにサンプリ
ングの先駆けとも言える前衛的な音のコラージュ、と何でもござれのホワイト・ア
ルバムだ。
その最後を締めくくるのが、壮麗なオーケストラをバックにシナトラが歌いそうな
甘い子守唄というのもビートルズならでは、と拍手を贈りたくなる。
2009リマスターと2019リミックスはストリングスの定位は同じ。
しかし全体に音が豊かでふくよかさが出たため、響きが圧倒的に美しくなった。
2009リマスターではセンターでリンゴの真後ろで歌ってたマイク・サム・シンガー
ズのコーラスが、2019リミックスではやや右にずれ美しい声が聴ける。
リンゴのソフトな歌声も艶やか。
リミックスの成果ってこういう曲でも出るんだなあ。
アンソロジー3にはリハーサルと最終のテイク34を編集したものが収録された。
コントロールで他の3人の話し声が聴こえ(ちゃんと一緒にいたんだ)、ジョージの
Ready? One,two,three,fourからDream sweet dreams for meのブリッジ部で
始まる。
ジョージ・マーティンの美しいピアノ伴奏だけでリンゴが歌い、最後は完成テイクの
オーケストラがかぶる。
アウトテイク集にはジョンのスリーフィンガーをバックにリンゴのモノローグ、途中
で笑ってしまうリハーサル・テイクの他、テイク5を元にジョン、ポール、ジョージ
の3人がハーモニーをつけているテイク10が収録された。
いろいろ試してたんだ。リンゴが歌う時はみんな仲よさそう(^^v)
↑クリックすると4人でハモってるグッド・ナイトのアウトテイクが聴けます。
次回はホワイト・アルバム・セッションで録音されたもののアルバムに収録されなか
った曲について書きます。
以下2009リマスターのレビューは緑、2018リミックスについては赤字で表記。
(あくまでも主観です)
バースデイは9月18日に録音された。
この日の夜BBCで映画「女はそれを我慢できない(The Girl Can't Help It)」を
放映するため、4人はいつもより早めにセッションを開始。(1)
ポールは夕方までにリフと歌詞を完成させ、ベーシックトラックを20テイク録音。
夜8時半に全員でポールの家に行き映画を鑑賞。けっこう仲良くやってたんだ(^^)
映画終了後メンバーたちはスタジオに戻り、オーバーダブを行い明け方までに完成。
2009リマスターはリンゴのドラム、ポールのベース、ジョンのリフ、オクターブ上の
ジョージのリフ、オルガン、タンバリンがセンターでまとめて鳴る。
ポールのダブルトラックのボーカル、ブリッジのYes we're going to a party party
のジョンのボーカル、Birthday♪のコーラス(パティ・ボイド、ヨーコ)、手拍子が
左右から聴こえる。
演奏はセンターで塊り。
ボーカルとコーラスを左右泣き別れにしてステレオ感を出すというミックスだ。
2018リミックスは大胆に変えられた。
リンゴのドラム、ポールのベース、ボーカルはセンターという王道ミックス。
ジョンのリフは左、ジョージのオクターブ上のリフは右に振り分けられ、センターで
オクターブ下の同じラインを弾くポールのベース、とそれぞれの音色がクリア。
ステレオ感いっぱいで迫力満点だ。
主メロの今までポールだけだと思っていたのだが、新ミックスを聴いてみてポール(
ADTによるダブルトラック)+下のハモりはジョンのような気がしてきた。
8小節のドラムソロの間、ポールの雄叫びのカウントがカッコいい。
0’45”でタンバリンがセンターから一瞬左に振れるのは何か意図があってのことか?
ブリッジのYes we're going to a party partyではジョン(ADTのダブルトラック)
はセンターで、ハモり(ポールとジョージ)はわずかに左右にずれ、左から入る手拍子
とともに一気に広がりを見せる。
サビのI would like you to dance, Take a cha-cha-cha-chanceはポールがセンター。
下のハモり(ジョンとジョージ?)はやや左右に。
その外側からパティとヨーコのBirthday♪が聴こえパノラマ感がいっぱいだ。
サビの終わり、ポールのDance yeahのシャウトだけ左に流れる。これも心憎い。
オルガンが左で鳴りこれもいい感じだ。
続くリフで入るエレピ(フェンダー・ローズ?)はセンターに配された。
エンディングで中途半端に鳴るタンバリン(2’38”)は今回だいぶ奥に引っ込んだ。
この曲は2018リミックスの圧勝!
↑クリックするとバースデイ2018リミックスが聴けます。
アウトテイク集にはベーシックトラック(演奏のみ)のテイク2が収録された。
ベース、ギター2台、ドラムのタイトなバンド・サウンドで既に完成形に近い。
左ch.のジョンがサビのI would like you to danceで小気味いいプレイをしてる。
最終ミックスではオルガンと喧嘩するからカットされたのだろうがもったいない。
ヤー・ブルースは8月13日に録音。
セクシー・セディの再リメイク(テイク100〜107)を終えてから、4人は第2スタジオ
のコントロール・ルームに隣接する小さなストックルームに楽器、機材を持ちこんだ。
ポールによると、狭いガレージで演奏することでバンドの一体感が出たそうだ。
ジョンのガイドボーカルと演奏でベーシックトラックを14テイクを録音。
リダクション(バウンス)を行った後、2つのテイクを編集で切り貼りしている。
(3’17”ギターソロの直後から変わるのでつなぎ目が分かる)
翌14日、ジョンのボーカルを録音。
2009リマスターではリンゴのカウント、ドラムが左に入る。
ジョンのボーカル、ポールのタイトなベースはセンター。
ジョンのワイルドなリフとジョージのオブリが塊りで右から聴こえる。
The eagle picks my eyeで左からジョンのボーカルやシャウトがやや遅れて聴こえる。
間奏は右。ジョンの暴力的なリフレインからジョージの鋭角的なソロに入れ替わる。
が、左で薄めに別なソロが聴こえてくる。
3’17”ギターソロの直後、ドラムのフィルインから始まる演奏は別テイクを繋ぎ合わせ
たもので、ジョンの声が小さいのはガイドボーカルだからである。
2018ではリンゴのカウント、ドラム(フロアタムは左)、ボーカルがセンター。
The eagle picks my eyeで左から遅れて聴こえていたジョンの声はなくなった。
3回目のBlue mist round my soulで少し左に声が入る。
Girl, you know the reason whyでのポールのハモりは小さめだがよく聴こえる。
ポールのベースもセンターで音の輪郭がくっきりし、存在感を増した。
ギターはジョンもジョージも右。ジョージのオブリの音量が大きくなった。
ジョージの間奏は右からややセンター寄りに移動。もう1つの隠れ間奏は左。
間奏の間ジョンが何をやっているか、右ch.を注意深く聴くと分かるようになった。
アウトテイク集にはベーシックトラックのテイク5が収録された。
既に完成形に近い。ジョンのガイドボーカルが小さく入っている。
尚、この曲はローリング・ストーンズの映像作品「ロックンロール・サーカス」(2)
で、ジョン(g,vo)クラプトン(g)キース・リチャーズ(b)ミッチ・ミッチェル(ds)と共に
この日限りのバンド、ダーティー・マックで演奏している。
そのせいかビールズのヤー・ブルースもクラプトン参加と誤解している人がいる。
マザー・ネイチャーズ・サンは年8月9日に録音された。
この日はジョージのノット・ギルティ(102テイクも録音)を仕上げ、他のメンバー
が帰った後、ポールがスタジオに残って録音した。
ポールの歌、ギター(D-28)、足音をライブ録音。
25テイク録ってテイク24をベストとし、20日にオーバーダブが加えられる。
ポールが「深い残響音」を要望したため、エンジニアはバスドラムを廊下の真ん中に
セットし、マイクを廊下の端にセットして録音した。
ポールの間奏(D-28)とティンパニー(ポール)、ブラスセクションも加えられた。
(ポールはこの後ワイルド・ハニー・パイも録音している)
2009リマスターでは左からポールのD-28。フットカウントが小さく聴こえる。
ポールのボーカルには深いリバーブがかけられている。
バスドラムはセンター奥で音は小さめ。ブラスは右に入る。
最後のヴァースで入るアコギのリフは右に入る。
2018リミックスはD-28の音が左からややセンター寄りになり、音色がクリアー。
歌に入るとやや右からもう1台入りステレオ感が増す。
ボーカルはセンター。リバーブが抑えめでポールの声質がよく出ている。
バスドラムは右のややセンター寄りに配された。
前より太い(バスドラムらしい)音で近くに聴こえる。
Doo doo dooで入るティンパニーもだ。
同時に入るパタパタいう音はフットカウント(足踏み)か膝叩き?
ブラス・セクションは右からセンター、さらに部分的に左に広がり奥行きが出た。
シンプルな曲がより荘厳で美しくなった。
今回アコースティックギターの音が一番良くなったのはこの曲じゃないかな。
エンディングもブラスが左右に広がって余韻が残る。
↑クリックするとマザー・ネイチャーズ・サン2018リミックスが聴けます。
アンソロジー3にテイク2が収録。
今回アウトテイク集に収められたテイク15は弾き方がラフで、歌い回しも完成版と
は異なる。いきなり終わり、コントロール・ルームにアドバイスを求めている。
エブリボディーズ・ゴット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド
・マイ・モンキー(舌を噛みそう)は6月26日にリハーサルを開始。
翌27日に6テイク録音し、最後のテイクをリダクション(バウンス)。
チョカルホ(円筒形のマラカス、シーズ・ア・ウーマンで使用した)やハンドベルを
オーバーダブした。
7月1日にポールのベースとジョンのボーカルをオーバーダブ。
7月23日にジョンのボーカルを録り直し、手拍子などを加えた。
2009リマスターは右から歪みを効かした鋭角的なギターのイントロ。左にも回る。
ジョンのボーカル(センター)が始まるとギター(ジョージ)は右でリフを弾く。
ジョンが刻むリズムギターも小さめで同じく右に配されている。
ドラム、ベース、騒々しいハンドベルは左。
Me and my monkeyの後、スネアの音が右にも入る。(0’36”)
左端とセンター奥でジョンとポールのシャウトが時々、聴こえる。
Come on come on…の後(2’03”)ベースソロが左に加え右にも入る。
ポールがオーバーダブした箇所だろう。
続くスライドさせながらのコード弾きは両サイドから。(ここが一番ツボ!)
Come on come on…は左〜右に縦横無尽に入りフェードアウト。
2018リミックスも2009リマスターをほぼ踏襲。
リンゴのドラムはややセンター寄りに修整されイントロでバスドラが重く響く。
ポールのベースはセンターになった。
ジョンのコードカッティングが左に配され、ちゃんと聴こえるようになった。
最後のカッコいい所(2’03”〜)、ベースはセンターと右、スライドのコード弾きが
両サイドと大きな変化はないが、音がクリアーでベースがブンブン唸っている。
左〜右に入るCome on come on…は前よりいろいろな声が聴こえるようになった。
アウトテイク集には演奏のみのリハーサルが収録された。
ジョンのリズムギター、ジョージのリード、ポールがベース、リンゴがドラム。
セクシー・セディーは7月19日から着手。
ジョン(アコギ)、ポール(オルガン)、ジョージ(エレキ)、リンゴ(ドラム)
の編成でベーシックトラックを21テイク録音。
テンポを変えたり試行錯誤しながらテイクを重ねたため完奏ヴァージョンは少ない。
7月24日、前回までのテイクを破棄してテイク25からリメイクを開始。
テープを3本使って23テイク録音し、テイク47をベストとしたがジョンはまだ不服。
1968年8月13日。また前回までのテイクを破棄。
ポールはオルガンからピアノに変更。テイク100から107まで録音。
テイク107のリダクションを行う。
この日はここまでで。この後ヤー・ブルースのセッションに移る。
1968年8月21日。アビイ・ロード第2スタジオ。
テイク107のリダクションを繰り返し、ボーカル、ベース、コーラス、タンバリンを
オーバーダブし、テイク117でやっと完成した。
アンソロジー3にテイク6が、今回のアウトテイク集にはテイク3が収録された。
まず2009リマスターを聴いてみよう。
イントロで入るポールのピアノはやや右よりだが、ADT処理のせいか揺れてセンター
〜左まで広がる。(歌が始まってからはやや右で固定)
続くタンバリン、ドラム、ジョンのボーカルはセンター。
メロディアスなポールのベースが左、エレキギター(ジョージ)は右。
Wah,wah,wah…で入るコーラス(ポールとジョージ)は右。
これもADT処理がされてるようで、Sexy Sadie〜♪でフランジャー効果が顕著。
One sunny day〜のギター・リフは右のセンター寄りで広がる(ADT処理?)。
Sexy Sadie, the greatest of them allの掛け合いコーラス右。
終盤2’15”から繰り返すジョージのリフもやや右でADT処理。
2’56”で別はギターが右から聴こえる。
ポールのピアノはよく聴こえる箇所と後退してあまり聴こえなくなる箇所と交互。
最後は右端にパンされてフェードアウト。
このように2009リマスターでは各楽器の定位、音量レベルが細かく変化している。
ADT処理したトラックが多くごちゃ混ぜにならないよう、どこで何を優先させるか、
何を後退させるか、フェーダーとパンを動かしながらミックスダウンしたのだろう。
続いて2018リミックス。この曲も一新された。
まずポールのピアノが左に移され、センターまでディレイ効果で広がる。
タンバリンはセンター。ドラムもセンターだがフロアタムは左に触れ立体感が出た。
ジョンのボーカルがセンターなのは同じ。
Wah,wah,wah…のコーラスが左右から聴こえてきて気持ちいい。
One sunny day〜のギター・リフは以前より奥に引っ込んだ感じ。
今まで聴こえなかったが、センターでオルガンが鳴ってるのが確認できる。
How did you knowで左からポールが高い音を連打してるのが分かる。
が、次のYou'll get yours yetではセンターから聴こえる。
さらにWe gave her everything we owned just to sit at her tableではセンター
でオルガンが鳴ってるのが分かるようになった。
2’15”〜で登場する、この曲の肝とも言えるジョージのリフは左右から聴こえ、
存在感が増した。
一方でその間、右でアルペジオに近いリフを弾いてるのも確認できる。
最後に右から入る別なリフもより鮮明で、前よりも長く聴けるようになった。
これだけ重ねた音が喧嘩せず、それぞれクリアーに聴こえるのはすごい。
ということでこの曲も2018に軍配が上がる。
↑クリックするとセクシー・セディー2018リミックスが聴けます。
ヘルター・スケルターはポール作の元祖ヘビメタ、いやパンクとも言える曲。
ピート・タウンゼントの「最高に下品でやかましい曲を作った」発言に触発された
ポールが「だったら、もっとうるさいワイルドな曲をやろう」と書いた作品。(3)
イーシャー・デモでは披露していないので、おそらくこのアルバムのレコーディング
に入ってから書いたのではないかと思う。
アップル社のプロモ・ビデオにはD-28一本でこの曲を歌うポールが少し映っている
(これがまたカッコいい)が、残念ながらちゃんと録った音源はないようだ。
録音開始は1968年7月18日。
この日に録音された3テイクいずれもかなりスローで、ブルージー。
延々と(ダラダラ)演奏されている。
全てが10分を超える曲の長さで、テイク3に至っては27分11秒もあった。
だいぶ間をおいてリメイクされたのは9月9日。
ジョージ・マーティンが休暇を取り、クリス・トーマスがプロデュースを任される。
一番乗りしたポールに「そこで何してる?僕らをプロデュースしたいならやってみろ。
でもできなかったら追い出すからな」と脅されてビビったそうだ。
テンポアップされ尺も5分以内に縮められて、テイク21まで録音。
ジョンは調子っぱずれのサックスを吹き、マル・エヴァンスはトランペットを吹く。
ポールのボーカル録りの間、ジョージは火の付いた灰皿を頭に乗せスタジオ内を走り
回ってたとか。おいおい(笑)。
翌日の10日にオーバーダブが行われて終了。
最後のシンバルのクラッシュの後、リンゴがテイク18の直後に叫んだ「指にマメが
できちゃったよ(I got blisters on my fingers !)が付け加えられた。(4)
2009リマスターを聴いてみよう。
センターやや左寄りにワイルドなエレキギターのイントロ。(たぶんジョン)
ポールのボーカルはセンター。
リンゴのスネアが右から煽る。曲中はかなり激しいドラミングが聴ける・
左端は(おそらくジョージ弾いてる)フェンダー6弦ベース。
Helter Skelter…のメロをなぞるジョージのオブリは左端。
6弦ベースがオクターブ下で同じラインを弾く。
コーラスのAh…はセンター奥。Da da da…でやや右に移動。
2回目のHelter Skelter…でジョージのオブリは左からやや右に移る。
Look out, 'cause here she comesのオルガン、続くギターのリフはセンター。
Well do you, don't you want me to make youのオブリはやや右。
この辺りでドラムがもう1台、左に入る。
Ah…Da da da…のコーラスは右。
最後のShe's coming down fastのオブリもやや右。
Yes, she isの後に入るスライドギターはセンターから左へ流れる。
ジョンのギターがセンターで暴力的にコードをかき鳴らす。
サックス、トランペットやノイズが左に入り一旦フェードアウトしてイン。
リンゴが左右で大奮闘(笑)
I got blisters on my fingers !の叫び声が右に入り幕を閉じる。
Helter Skelterの日本盤翻訳が「しっちゃかめっちゃか」だったように、演奏
も乱暴だがミックスも左右に変化し、まさにしっちゃかめっちゃかだった。
2018リミックスはこのカオス(5)状態がきちんと整理整頓された感じだ。
出だしは同じ。やや左寄りからギターのノイジーなイントロ。
ポールのボーカルがセンター。右からリンゴのドラムが追い上げてくる。
スネア、フロアタムの音ははセンターにも響く。
最初のHelter Skelter…からスネアが左にも別に入る。
Da da da…のコーラス、Helter Skelter…に呼応するギター・リフは左右から
聴こえてきて音の洪水のようになる。
Look out, 'cause here she comesのオルガンはセンターだが左右に揺れる。
続くギターのリフは左右から攻めてくる。
1’56”のAnd I get to the bottom and I see you againの後ポールに呼応する
yeah, yeahのコーラスの3度のハモりが大きく聴こえ新鮮。
3’00”の激しくかき鳴らすギターはセンター、スライドは左から聴こえる。
終盤のサックス、トランペットは右に変えられた。
この後はリンゴのドラムは左右で大暴れ。
エンディングI got blisters on my fingers !は右のまま。以前より抑えめ。
今まで聴こえなかった笛のような高いビブラート音が左に入ってる。
Helter Skelter(しっちゃかめっちゃか)感は従来のミックスの方が出てる。
これに慣れ親しんだ人は新リミックスは綺麗にまとまり過ぎで馴染めないかも。
個人的には楽器が右や左に動くのはあまり好きじゃない。
2018リミックスの方が今の自分が聴くにはいい。そこは好みが分かれる所だ。
↑ヘルタースケルターのテイク17、ベーシックトラックが聴けます。
アンソロジー3にはブルージーなテイク2が4’38”に編集され収録された。(モノラル)
今回は同じテイク2が収録されているが12’54”(本当はもっと長い)のステレオ。
またテンポアップされたテイク17のベーシックトラックも収録された。
だいぶ完成形に近い。ポールのカウント、歌い方がワイルドすぎてゾクゾクする。
これを聴く限りベーシックトラックはポールはボーカルのみで、ジョンのディストー
ションを効かせたギター、ジョージの6弦ベース、ドラムの編成だったようだ。
最後にポールが「今のは録っておいて(Keep that one)」と言ってる。
ロング・ロング・ロングは10月7日にベーシックトラックを67テイク録音。
ジョージがアコースティックギターを弾きながら歌い、ポールがオルガン、リンゴの
ドラムという編成。ジョンは不参加。
オルガンをレズリーの回転スピーカーで鳴らしていたが、キャビネットの上に置いて
あったワインボトルが振動でカタカタ鳴っている。
(エンディングのドラム・ロールの箇所ではっきり聴き取れる)
翌8〜9日にかけてテイク67に、ジョージのボーカルとアコ〜スティックギター、
ポールのベースとコーラス、クリス・トーマスのピアノをオーバーダブし完成。
ジョンは自分の2曲には時間を費やしたものの、ジョージのこの曲には不参加。
2009リマスターはジョージが弾くJ-200のイントロがセンター+右で鳴る。
ポールのベースは左。
レズリーの回転スピーカーを通したオルガンは左からセンターに広がる。
ボーカルはセンター+右からもややずれて聴こえる。
ドラムは左。ピアノはセンター。
2018リミックスは2回弾いたアコギの音が左右から聴こえるようになった。
ベースは左。オルガンはやや左。
ジョージのソフトなボーカルはセンターから部分的に左右に広がり美しい。
(2つのボーカルをそれぞれセンターと右、センターと左にずらして入れてある)
ピアノはセンターのままだが少し後退した。
リンゴのドラムはやや左寄り。2nd.ヴァースは右にブラシを使用した演奏が入る。
右はジョージのコードストロークを活かすため極力、他の音を排してるようだ。
比較して大きな違いはないが、2018リミックスの方がジョージの声質が美しく、
ハーモニーの聴こえ方、アコギの鳴りもいい感じだ。
アウトテイク集に収められたテイク44は後半ジョージのお遊びになっている。
あれれ、また長くなっちゃたのでB面は次回に持ち越します。
<脚注>
前回1曲だけ外したのは、この曲だけ書きたいことが多すぎるからだった。
日本ではヘイ・ジュードに次ぐシングル盤としてオブラディ・オブラダが1969年
3月10日に発売された(英米ではシングル・カットされていない)が、そのB面が
ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスだった。
ホワイト・アルバムの発売自体、英国は1968年11月22日だったが日本では2ヶ月
も遅れて1969年1月21日に店頭に並ぶ。
2枚組4,000円のLPは中学生の僕には手が出ず、当時ヒットしていたオブラディ・
オブラダ(1)のシングル盤を買った。
B面のホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスの方が好きで何度も
何度も繰り返し聴いたものだ。
<作曲過程>
ジョージは易経の写しから「万物は関わり合っている」という東洋的思想と、真逆
の「物事は偶発的なものにすぎない」という西洋的思想の両方を感じ取った。
北イングランドに住む両親の家に行った時に、この本をパッと開いた時に目に入った
ものを素材にして曲を書こうと思いつく。
それはきっとその瞬間の自分に深く関わっているものなんだと思ったからだ。
本を開いて最初に見た文字はが「優しく泣く (gently weeps)」だった。
そこでジョージは本を閉じて曲を書き始めた。
この曲はイーシャー・デモで披露されている。
インド滞在中に書かれたのか、その前後に書かれたものかは不明。
ジョージの作曲力は高まっていたが、他のメンバーは認めていなかった。
アルバムでの割り当てが2曲までという暗黙のルールにジョージは不満だった。
センッションでもジョージの曲は常に後回しで、みんな乗り気じゃない、まじめに
やってくれないことにも彼は不満をつのらせていた。
また彼自身、自作曲に納得のいくアレンジを施せない、いいソロを思いつけない
(ポールにその座を奪われることもあった)ことも苦々しく思ってたはずだ。
このセッションで彼が用意したノット・ギルティは102テイクを録音したが、結局
お蔵入りとなった。(アンソロジー3、今回のアウトテイク集に収録された)
サージェント・ペパーズのセッションで録音されたものの、捨て曲としてイエロー
・サブマリンに回されたイッツ・オール・トゥー・マッチ、ノーザン・ソングスと
同じで、他の3人はこれ以上よくならないとやっつけ仕事になっていた。
ジョージがインド哲学やシタールに傾倒し、抹香くさい難解な曲が増え、インドの
ミュージシャンを雇ってジョージ単独で録音する曲が増えたことも一因だと思う。
<レコーディング過程1 アコースティック・ヴァージョン>
セッション開始から2ヶ月、7月25日にやっとジョージの曲が取り上げられる。
この日のホワイル・マイ・ギター〜はジョージの弾き語りによるデモ。
静かな美しいアコースティック・バラードに仕上がっている。
アコースティックギター一本での弾き語りでエンディングをかき鳴らすテイクと、
後半にオルガンがオーバーダブされフェイドアウトで終わるテイクが録音された。
(アンソロジー3に収録されたのは後者の方)
最後のヴァースが、I look from the wings at the play you are staging(君が
演じる劇を舞台袖から見ているよ)As I’m sitting here doing nothing but aging
(ここに座って歳だけとりながら)という歌詞になっている。
今回アウトテイク集に収録されたアコースティック・ヴァージョン テイク2
(1968年7月25日録音)ではポールが全編通してハーモニウムを弾いている。
この日はジョージ一の単独作業と思われていたが、ポールも手伝っていたのだ。
ポールは弾きながら曲の構成とコードを覚えているような感じだ
最初のヴァースを歌った後ジョージが、たぶん彼にもマイクを1本立てた方がいいよ
(Yeah, maybe you’ll have to give him his own mic)と誰かに指示している。
↑ホワイル・マイ・ギター〜アコースティック・ヴァージョン テイク2が聴けます。
ジョージはこのセッションからギブソンJ-200を使用。
ホワイル・マイ・ギターはキーがAmだが5カポでEmを弾いている。
8月16日、アビーロード第2スタジオにてジョージ(g)ポール(b)リンゴ(ds)
ジョン(kb)の編成でリメイクを開始。14テイクを録音しリダクション。
9月3日、アビーロード・スタジオに8トラックレコーダーが導入。
先日のリダクションを8トラックに移し替え、ジョージ一人スタジオに残って
逆回転のギターソロで泣きを表現しようと録音を試みたが断念。
9月5日、非公式に脱退していたリンゴが戻ってきた。
8トラックにリダクションしたテイク16にジョージのボーカル、マラカス、ギター
をオーバーダブするが、ジョージは「サウンドに納得いかない」と今までのテイク
を全て破棄。
再リメイクを開始し17〜44テイクを録音。テイク25をベストと判断する。
「ジョンとポールとリンゴとこの曲に取り組んだけど彼らは全く興味がないみたい
だった。僕はいい曲だって自信はあったんだけどね」とジョージは言っている。
翌9月6日、同じサリー州に住むエリック・クラプトンの車に便乗し、ジョージは
ロンドンに向かうが、車中で「レコーディングに参加してソロ弾かないか」と提案。
クラプトンは「ビートルズのセッションで演奏するなんて無理だよ」と断る。
ジョージは「僕の曲で、僕が弾いてほしいと頼んでるんだ。手ぶらで来くればいい。
ギターならいいのがあるからね」とクラプトンを説得。
<チェリーレッドのレスポール、ルーシー>
「いいギター」とはクラプトンがジョージにプレゼントしたレスポールのことだ。
1957年製(PAF搭載の最初の年)のゴールドトップを大幅にモデファイしたものだ。
ラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャン所有していたこのレスポールをリック
・デリンジャーが入手。
塗装が傷んでいたためデリンジャーは1967年にギブソンのカラマズー工場でチェリー
レッド(SGと同じ染料)にリフィニッシュ。
その際ネックがやや細めに削られたらしい。(1957年製レスポールのネックは太め)
リアPUの出力が弱めになっているようで、独特のサウンドを生み出す。
チューナーはクルーソンからグローバーのロートマチック式に変更。
一時ビグズビーのトレモロアームを装填していたようで、外した跡が残っている。
リック・デリンジャーはリフィニッシュ後のレスポールを弾きにくくなったと感じ、
N.Y.の楽器店で他のギターとトレードしてしまう。
その楽器店を訪れたクラプトンが見つけ購入。
自分自身ではあまり使わないまま、ジョージに寄贈したのだった。
ジョージはクラプトンからもらったチェリーレッドのレスポールに、コメディアンの
ルシル・ボール(2)が赤毛だったことにちなんで「ルーシー」と名付けた。
ルーシーはホワイト・アルバム、ゲット・バック・セッションで使用された。
レボリューションのプロモ・ビデオ、映画レット・イット・ビーでもジョージが「ル
ーシー」を弾いてるのが確認できる。
ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスではこの「ルーシー」でクラプ
トンがロック史上最高のソロを弾いている。
ジョージはクラプトンのためにマーシャルのアンプも用意していた。
クラプトンにとってレスポールとマーシャルはペアであり、ブルース向きの分厚い音
がするのを彼が気に入ってることを考慮しての上だった。
(ジョージもジョンもポールもマーシャルは使っていない。だから別途用意したもの)
「ルーシー」はジョージとクラプトンの間を行ったり来たりしていたようだ。
クラプトンが周囲の友人たちの助けにより、どん底から再起をかけ出演したレインボ
ー・コンサートでもこのギターを弾いている。
クラプトンから贈られた「ルーシー」は1970年代初めに盗難に遭ってしまう。(3)
ジョージは失われた「ルーシー」を時間と金をかけて探し出し、手元に取り戻した。
<レコーディング過程2 クラプトンがスタジオにやって来た!>
ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスでのクラプトンの見事な泣きの
ソロは1テイクで弾かれたもの、と言われていた。
また既にビートルズが録音したベーシック・トラックに後からクラプトンがソロを
オーバーダブした、という記述もある。
しかしジョージは「エリックが来たとたん、みんなお利口さんになって真面目に
やり出したんだ、だってビートルズはちゃんとやってなかったなんて言われたくない
だろ?」と言っている。
ジョージの目論見の一つはクラプトンに泣きのソロを弾いてもらうことで曲を魅力的
にすること、む一つはクラプトンの参加で他のメンバーたちを引き締めること。
二つともジョージの狙い通りとなった。
世界一のギタリストが僕の曲で弾いてくれるんだぜ、と他のメンバーにアピールする
ジョージならではやり方だった、とジャイルズ・マーティンは言っている。
ジョージの話から察すると、クラプトンと一緒にビートルズは演奏していたようだ。
クラプトンは「ルーシー」をマーシャルに繋ぎあのソロを弾いた。
プレイバックを聴いたクラプトンは「やっぱり駄目だ、ぜんぜんビートルズっぽく
ない」と言ったそうだ。
ADTでギターの音を少し揺らす処理をしてやっとクラプトンも納得した。
だからあのエフェクトはミキシングコンソールでの後がけである。
さて、クラプトンは一発であのソロを弾いたというのは本当なのだろうか?
もし別テイクがあるとしたら、今回のアウトテイク集で明らかにされるのでは?とい
うのが最大の関心事であった。
やっぱり・・・あったのだ。
アウトテイク集には前述のアコースティック・ヴァージョンの他に3rd.ヴァージョン、
テイク27が収録されている。
ジョージのアコースティック・ギターとボーカル、ポールのピアノ、ジョンのオルガン、
リンゴのドラム、それにクラプトンがレスポールで奏でるオブリ&ソロという編成だ。
ジャム・セッションでラフではあるが、だいぶ完成形に近い。
最後はジョージがスモーキー・ロビンソン風のファルセットを出し切れず中断。
ジョージは「スモーキーみたいに歌ってみたけどスモーキーになれないってことだね
(It’s okey , I sang I tried to do Smokie, and I just ain’t Smokie)と言っている。
オブリと間奏はいかにもクリーム時代のクラプトンっぽくてカッコいい。
前述のようなADT処理はされてないが、クラプトンならではの演奏が味わえる。
ヴァースでのハモりはポールがやっているがこれも張りがあってカッコいい。
ベーシック・トラックでクラプトンのギターとポールのゴリゴリ・ベース丁々発止で
が攻め合うセッションかと思っていたが、ベースは後からオーバーダブされたようだ。
使用したのはフェンダー・ジャズベースだろう。
弦下にスポンジを挟んで音をミュート(ポールがよくやる手)しているかもしれない。
クラプトンは近年のインタビューでこう言っている。
「ジョージ、ジョンも優れたミュージシャンだが、特にポールの演奏力に驚いた」と。
クラプトンが言うポールの演奏力とはあの力強いベースのことだと思うが、というこ
とはクラプトンは自分のソロを入れた後も残り、ベーシック・トラックにポールが
ベースをオーバーダブするのをその場で見ていた、ということになる。
そういうのを想像するだけでも楽しくなるなあ。その場にいたかったなあ。
この日のセッションをエンジニアのケン・スコットは憶えていないそうだが(笑)
↑ホワイル・マイ・ギター〜のクラプトンの別ソロ入りのテイク27が聴けます。
<2009リマスターvs.2018リミクス聴き比べ>
2009リマスターでは左からポールによるピアノのイントロ、クラプトンのオブリ、
右からポールのベースとリンゴのドラム、ジョージのアコースティック・ギターと
ジョージのボーカルはセンターから聴こえてくる。
2nd.ヴァースから入るパーカッション、ジョンが弾いたと思われるオルガンも左。
ジョージの繊細な声質を最優先するために、センターはボーカルとアコギだけにして
残りは左右に振り分けたのだろう。
クラプトンの間奏(左)と同時にセンターにタンバリンが入る。
2018リミックスも基本的にはこの定位を踏襲している。
ポールのピアノは左からややセンターに寄せられ美しく響く。
が、歌が始まると後退しほとんど聴こえなくなるが、クラプトンの間奏でまた復活
し、薄く鳴っている。
そのクラプトンのギターは左。ややセンター寄りになった。
クリアーなので以前より演奏内容が鮮明に分かる。
右でポールが弾くゴリゴリのベースは前にも増して力強く迫力満点だ。
オクターブ上の音をうまく入れたり、時にはコード弾きしてるのがよく分かる。
ドラムはベースとセットで右だがタムの音はセンターまで広がって来る。
2nd.ヴァースから入るパーカッションは左のまま。
サビのI don’t know why…から入るオルガンはセンターよりやや右に変えられた。
どセンターはジョージのボーカルとアコギのためにキープされている。
あとは間奏から入るタンバリンだが、以前より涼やかでやさしい音になっている
ため、邪魔にならない。
この曲はあくまでジョージのボーカルが主役、次はクラプンの名演奏とポールの
ベースのバトル、という優先度が伝わって来る。
最後のジョージのAh…Ah…という切ない声のバックでWoo….とヴィブラートを
効かせたファルセットがセンターやや右寄りからよく聴こえる(3’54”〜)ように
なったが、これはポールの声ではないかと思う。
ジョージのヴォーカルはADTによるダブルトラック処理だと思っていたが、実際
に2回歌っているのではないか、という気がしてきた。
たとえば3’15”のgently weepsはわずかにタイミングがずれる。
であれば3度で上にハモる部分も自分で重ねているはずだが、今回のリミックスを
聴いて、いや、待てよ、ポールかもしれないと思った。
1’48”のwe must surely be learningの上のパートなんかはポールっぽい声質だ。
↑ホワイル・マイ・ギター〜2018リミックスが聴けます。
今回のリミックスで一番時間がかかったのは、ホワイル・マイ・ギター・ジェント
リー・ウィープスだったことをジャイルズ・マーティンは明かしている。
「この曲はあまりにも美しいサウンドだから重々しくならないように気をつけた。
ミックスというのはすべての作業がすべてのことに影響を与える。ベースを重くし
てしまうと、天から降りてきたような美しいサウンドが損なわれてしまう」
<脚注>