2016年3月9日水曜日

偉大すぎた5人目のビートルの死を悼んで。

ビートルズのプロデューサーで「5人目のビートル」とも呼ばれるジョージ・マー
ティン(1)が8日夜(英国時間)に自宅で亡くなった。90歳だったそうである。

世界中のアーティストたちが彼の死を悼むメッセージを寄せている。
ブログで取り上げる方も多いと思うので、サー・マーティンの偉大なる功績に
ついては詳しい方たちにお任せするとして、ここではあまりスポットが当たる機
会が少ない1960年代の彼自身による録音を紹介したいと思う。敬意を表して。



◆「A Hard Day's Night」 (United Artists) 1964 
アメリカのユナイテッド・アーティスツ編集盤。
英国EMIパーロフォン・オリジナル盤と違い、A面7曲はビートルズの演奏(映画
でも演奏される)で、B面6曲(選曲自体はパーロフォン盤と同じ)はジョージ・
マーティンのスコアによるオーケストラ演奏のインストゥルメンタル。

<ジョージ・マーティン・オーケストラの演奏曲>
Any Time at All  
I'll Cry Instead
Things We Said Today
When I Get Home
You Can't Do That  
I'll Be Back


↑ジャケット写真をクリックすると「And I Love Her」が試聴できます。


もともとユナイテッド・アーティスツはサウンドトラックの権利が欲しいために
映画「"A Hard Day's Night」を制作したのである。
サウンドトラック盤で儲ける気だったユナイテッド・アーティスツは端から映画
に予算をかけるつもりはなく(むしろ興行失敗を恐れていた)、モノクロで制作
された。
そのことが功を奏しかえって斬新なアーティスティックな作品に仕上がり、結果
は大ヒットとなった。

アメリカ盤に収録されなかったB面6曲は商魂たくましいキャピトル・レコードが
独自編集した「Something New」(1964)というアルバムに収められた。



このユナイテッド・アーティスツ編集盤には収録されなかったが、ジョージ・マ
ーティンのスコアによる「This Boy」のインストゥルメンタルが僕は好きだ。
映画の中ではリンゴが一人で街を彷徨うほのぼのとした心温まる(それでいて
ちょっと寂しい)シーンに流れる。
リンゴの飄々としたちょっとトボけた憎めないキャラによく合ってると思う。


↑写真をクリックすると「This Boy」が試聴できます。



◆「Off the Beatle Track」 (Parlophone) 1964  
全曲ジョージ・マーティン・オーケストラによるインストゥルメンタル。
このアルバムはマーティンの功績へのEMIからのご褒美だったそうである。
EMI社員であった彼自身の報酬はたいしたことがなかったため。

前述の「This Boy」もめでたく収録(録音し直してるはず)された。
意外なのは「Don't Bother Me」を取り上げている点。
ジョージの初作品でまだ曲としても詰めが甘い気がするのだが。
「Little Child」もそんなにいい曲か?と個人的には思う。

<収録曲>
She Loves You
Can't Buy Me Love
Don't Bother Me
All I've Got to Do
I Saw Her Standing There
All My Loving
Please Please Me
I Want to Hold Your Hand
From Me to You
Little Child
This Boy
There's a Place

1994年にOne Way RecordsよりCD化されている。


↑ジャケット写真をクリックすると試聴できます。



◆「Help! 」 (Columbia) 1965  
映画「Help!」では監督のリチャード・レスターが劇中使われるBGMのアレンジを
ジョージ・マーティンではなくケン・ソーンに一任した。
このことにジョージ・マーティンは強い不満を抱き、自費で「Help!」のインスト
ゥルメンタル・アルバムをリリース。
自分ならこうやるぞ!という意地だったのか。

<収録曲>
Help!
Another Girl"
You're Going to Lose That Girl
I Need You
You've Got to Hide Your Love Away"
The Night Before"
Ticket to Ride
Bahama Sound  (George Martin)
I've Just Seen a Face
It's Only Love
Tell Me What You See
Yesterday


英国EMIパーロフォン盤「Help! 」はA面が映画で演奏された7曲。
B面7曲もすべてビートルズの演奏であるが、米国キャピトル編集盤 「Help! 」は
純粋なサウンドトラック盤様に仕上げられている。(2)
ビートルズの楽曲は実際に映画で使用された7曲のみで、他は映画で使用されたケン
・ソーン・オーケストラによるインストゥルメンタル。

ジョージ・マーティン版「Help! 」はインストゥルメンタル作品だがサウンドトラ
ックではない。
選曲はパーロフォン盤に準じているがDizzy Miss Lizzy、Act Naturally、You Like
 Me Too Muchの3曲がなく、にマーティンのオリジナル作品Bahama Sound
(南米リゾートっぽいサロンミュージック)が入っている。

このアルバムは未CD化。僕も持っていない。


↑ジャケット写真をクリックすると試聴できます。



◆「Salutes the Beatle Girls」 (United Artists) 1966  
再び全曲ジョージ・マーティン・オーケストラのインストゥルメンタル。
選曲が「Rubber Soul」「Revolver」中心であることもありサロンミュージック
として馴染みがよく聴きやすい。
僕は「Off the Beatle Track」よりもこのアルバムの方が好きだ。

尚「Woman」はポールがバーナード・ウェッブ名義でピーター&ゴードンに
提供した曲である。

<収録曲>
Girl
Eleanor Rigby
She Said, She Said
I'm Only Sleeping
Anna (Go to Him)
Michelle
Got to Get You into My Life
Woman
Yellow Submarine
Here, There and Everywhere
And Your Bird Can Sing
Good Day Sunshine

1994年にOne Way RecordsよりCD化されている。

(残念ながらこのアルバムはYouTubeにもアップされていなかった)




◆「Yellow Submarine」 (Apple) 1969  
アニメ映画「イエロー・サブマリン」のサウンドトラック・アルバム。
A面6曲は映画で使用されたビートルズの演奏で、B面7曲は映画で使用された
ジョージ・マーティンのオリジナル作品(インストゥルメンタル)。

映画はアートの領域と評価が高い。
アニメーションの素晴らしさだけではなく、ビートルズの曲はもちろんである
がジョージ・マーティンのインストゥルメンタルも大きく貢献している。
中でもB面1曲の Pepperland はとても美しく大好きな曲だ。

<ジョージ・マーティン・オーケストラの演奏曲>

Pepperland (Martin)
Sea of Time (Martin)
Sea of Holes (Martin)
Sea of Monsters (Martin)
March of the Meanies (Martin)
Pepperland Laid Waste (Martin)
Yellow Submarine in Pepperland


↑写真をクリックすると「Pepperland」が試聴できます。


サー・ジョージ・マーティンのご冥福を心よりお祈りいたします。
すてきな音楽をいっぱいありがとう。

(1)ジョージ・マーティン
1926年に英ロンドン北部ホロウェーの大工の息子として生まれる。
8歳からピアノ指導を受ける。
17歳でイギリス海軍艦隊航空隊へ入隊。
除隊後はギルドホール音楽演劇学校へ入学。
クラシック音楽の基礎を学びながらオーボエとピアノを専攻。
BBCクラシック音楽部門を経て1950年EMI傘下パーロフォン・レコードに入社。
5年後にはマネージャーに就任した。
俳優ピーター・セラーズらのコメディー作品を手がける。

英リバプールの人気バンドであったビートルズとレコード録音契約を交わし、
最初のシングル「Love Me Do」を皮切りに大ヒット曲や名アルバムを次々と
プロデュース。
メンバーが出す様々な困難なリクエスト(時に荒唐無稽な)に応えアイデアを
オーケストラや各種のエフェクトによる具体的な音楽表現に落としこむ部分で
大きな役割を果たした。
曲のアレンジ、ハーモニーの構築にも的確なアドバイスをしている。

「イエスタデイ」や「ア・デイ・イン・ライフ」など、現在でも広く知られる
ビートルズの名曲のオーケストラ・アレンジでも才能を発揮し、ポピュラー音楽
を一変させた世界的人気バンドの音楽に欠かせない存在となった。
グラミー賞を複数受賞したほか、映画「ア・ハード・デイズ・ナイト」の音楽で
アカデミー賞を受賞している。

海軍の通信技術で培ったエンジニアとしての知識、クラシック音楽の教育を受け
ジャズにも精通し、自らがピアノを弾きオーケストラの楽譜を書くことができた。
それに加え、コメディのレコード制作時代に得たノウハウでリスナーを驚かせる
仕掛け作りやサウンドエフェクトをビートルズのレコード制作に活かした。
1965年にはEMIから独立しAIRを設立。(ビートルズのプロデュースは継続)

ビートルズの解散後は、ポール・マッカートニー&ウイングスの表題曲を含む
「007/死ぬのは奴らだ」(1973年)のサウンドトラックやポール・マッカート
ニーのソロ・アルバム「タッグ・オブ・ウォー」(1982年)などをプロデュース。
ビートルズ関連以外にも、ジェリー・アンド・ザ・ペースメーカーズ、シャーリー
・バッシー、シラ・ブラック、ジェフ・ベック、チープ・トリック、エラ・フィ
ッツジェラルド、スタン・ゲッツ、ケニー・ロジャース、ピーター・ガブリエル、
スティング、カーリー・サイモン、ケイト・ブッシュ、たエルトン・ジョンなど、
錚々たるメンバーのプロデュースを手掛けた。

50年以上にわたる音楽界のキャリアで700枚以上のレコードを製作している。
ビートルズのプロデュースにおいては「5人目のビートル」と呼ばれ、1996年に
は音楽業界とポップ・カルチャーへの功績が認められ、英女王よりナイトの称号
を授かる。

1997年にはロビン・ウィリアムス&ボビー・マクファーリン、ヴァネッサ・メイ、
ジェフ・ベック、フィル・コリンズ、セリーヌ・ディオンらが参加したビートル
ズのカバー・コンピレーション企画「イン・マイ・ライフ」をリリース、
1999年にはロック名誉の殿堂に名前が刻まれている。
2006年には息子のジャイルス・マーティンと共にシルク・ドゥ・ソレイユの公演
サントラとしてビートルズの楽曲のマスターテープやデモ・テープを使用したリ
ミックス&コラージュ・アルバムである「ラヴ」を手掛ける。


(2)米国キャピトル編集盤 「Help! 」
尚英国EMIパーロフォン盤「Help! 」のB面に入っていた7曲は米国では外され、
「Beatles VI」「Rubber Soul」「Yesterday And Today」の3種のアルバムに
収録されている。


<参考:ジョージ・マーティン自伝「耳こそすべて(ALL  You Need Is Ears)」
、Wikipedia他>

心よりご冥福をお祈りいたします。

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