2023年3月24日金曜日

チェット・アトキンスは他ギタリストとの共演を聴くべし。


↑盟友ジェリー・リード(右)と。


チェット・アトキンスの名前だけは中学生の頃から知っていた。
All My Lovingのギター・ソロでジョージ・ハリソンはチェット・
アトキンス奏法をやっている(1)と音楽誌かLPのライナーノーツに
書いてあったからだ。

高校の頃か、音楽誌に「ジェフ・ベックの演奏はチェット・アト
キンスの足元にも及ばない」という批評(2)が載っていた。
(これは音楽評論家の傲慢な偏見であり的外れである)



初めてチェットを聴いたのは、友人が貸してくれたマール・トラ
ィスとの共演盤The Atkins-Travis Traveling Show」(1974)
だった。




全曲アコースティックギターのデュオである。
カントリーギターのレジェンド2人の共演だが、丁々発止とか、
せめぎ合いはなく、余裕の演奏でどちらかというと牧歌的。
演奏しながらの2人の掛け合い、テキトーな歌も楽しそうだ。

とは言っても、どっしりしたマールのスタイル、御大に敬意を表
しつつ凄テクで合わせてくるチェットのギターはさすがである。


マール・トラヴィスはチェット・アトキンス奏法の元となった
ギャロッピング・スタイルの元祖(3)である。


                                                                     
↑マールのギターはマーティンD-28のボディーにビグズビー製ネック
をくっつけたもの。
   (写真:Gettyimages)



マールは2フィンガーで常に6弦を豪快に弾く
(たとえばコードがCでもベース音は、6弦のGにガツンとサムピ
ックを当て、5弦のCはゴースト音として鳴らす)
残りの4〜1弦も人差し指だけで同じく豪快に弾く。

ズンチャッ!ズンチャッ!のギャロッピング(馬の駆け足)感が
強調され、その跳ね感がグルーヴになる。
2フィンガーは3フィンガーのような小技ができないが力強い。(4)




そのためマール・トラヴィスは男性的、正確に弦に当てて音を
出すチェット・アトキンスは女性的と評する人もいる。

それは間違いである。チェットのピッキングもかなり強い。
このアルバムを聴いても、2人が同じ音圧であることが分かる。
(マールが全盛期を過ぎていたとはいえ)


まあ、そんな理屈は置いといてリラックスして聴いてほしい。
嬉しそうなチェットの様子が伝わるだろうか。
マールの大ファンなのだ。
なにしろ娘にマールと命名しちゃうくらいだから。



↑左からチェット、マール・トラヴィス、ジェリー・リード。
チェットは珍しくマーティンのD-45を弾いている。。。

↓と思いきや。縦ロゴMARTINではない?何と書いてあるんだろう?
ヘッドストックの角も欠けたような形だ。カスタムメイドか?



https://youtu.be/ubJdFC6Fq6k
チェットとマールの「Dance Of The Goldenrod」が聴けます。
マール作曲のカントリー・ワルツで、チェットはかつてマールがや
ってたようにハーモニクスを活かしたリードプレイをしている。





チェットは彼にとってもう一人のギター・ヒーロー、レス・ポール
ともChester & Lester」(1976)で共演を果たす。

カントリーを洗練されたポピュラー音楽に昇華させたチェットと、
彼が敬愛して止まないエレクトリック・ギターの父、名プレーヤー
にして発明家であるレス・ポールによる珠玉のコラボレーションだ。






ジャケットの写真が表しているように、どの曲も音が温かく相手へ
の尊敬の念を感じさせてくれる素敵な作品である。

マール・トラヴィスとの共演と同じく、2人の会話や笑い声が混じり、
聴いてる方もにんまりしてしまう。
スタジオでのライヴ演奏だったらしいが、さぞかし和やかでスムーズ
なセッションだったのだろう。



https://youtu.be/GtCFTmgroK8
↑チェット&レス・ポールの「Avalon」が聴けます。
左がチェット、右がレス・ポール。
一旦終了してから再開する演奏がまた白眉もの。



この時チェットは50代に差し掛かり、レス・ポールは60代。
レス・ポールが「Two dirty old men」と言って大笑いしてるのと逆で
、この巨匠たちはギター少年のように心から楽しんでいるようだ。

2人とも極限まで磨き上げた確かなテクニックを持ってるからこそ
できる余裕の演奏である。展開力というか、音の会話というか。
そう来たか、じゃあ、これでどう?みたいな球の投げ合いが続く。





マールの時と違い、レス・ポールとチェットは演奏スタイルが違う。
レス・ポールのクリーントーンで次々繰り出されるトリッキーなフレ
ーズ、それに応えるチェットの心地よいリズムと驚異的な指捌き
その際立ちがこの作品を特別な一枚にしている。




↑レス・ポールと彼の奥さんで歌手でもあるメアリー・フォード。



「Chester & Lester」はグラミー賞カントリー・インストゥルメン
タル部門で最優秀賞を獲得した。
ギターを嗜む人なら一度聴いて損はないと思う。



グラミー賞授賞式。左からレス・ポール、ドリー・パートン、チェット。
(写真:Gettyimages)



何回かCD化されているが、2007年にRCAが発売したリイシュー盤
は、ボーナストラック(ボツにした曲、アウトテイク)を収録。
 (Amazonでまだ入手できるようなので欲しい方はお早めに)



https://youtu.be/1_1z6_rlP2U
↑ボーナストラック「The World Is Waiting for the Sunrise」が
聴けます。こんな音源があったなんてびっくり。




尚、2人は1978年に再共演し「Guitar Monsters」を発表している。



https://youtu.be/0UKG_SCzrEE
↑「Guitar Monsters」プロモーションのためNBC「Today Show」
2人で出演。It Don't Mean A ThingLimehouse Bluesを演奏。




共演回数でいえば、盟友ジェリー・リードとは腐れ縁だろうか。

「Chet Atkins And Jerry Reed – Me And Jerry」(1970)
「Jerry Reed And Chet Atkins – Me And Chet」(1972)

と1970年代に共演アルバムを2枚出している。
さらに共演ではないが、チェットは全曲ジェリー・リード作品を
カヴァーした「Picks On Jerry Reed」(1974)も発表している。






ジェリー・リードはチェットよりカントリー色が強い。
ナイロン弦ギターを多用するが、バンジョーのような速弾き
得意とするギタリストだ。
作曲家としても優れ、チェットを筆頭に多くのフィンガーピッカー
がジェリーの曲を取り上げている




Me And Jerry」(1970)ではマール・トラヴィスの「Cannonball 
Rag」の他、「Bridge Over Troubled Water」「Something」など
当時のヒット曲をカヴァーしている。



https://youtu.be/IKwVSoM5ups
↑チェットとジェリー・リードのWreck Of the John Bが聴けます。
バハマ民謡。ビーチボーイズはSloop John Bという曲名でカヴァー。
他にもI Want to Go Homeなど複数の呼び方がある。
右がチェット。左がジェリー。ゆるーい歌と口笛がいい。




続編の「Me and Chet」(1972)は2人の速弾きが聴ける「Jerry’s 
Breakdown」、エルヴィスのヒット曲「Mystery Train」、レス・
ポールとも演奏した「Limehouse Blues」などを収録。
グラミー賞にノミネートされたが受賞は逃した。



https://youtu.be/Ni8KBhnebwE
↑1975年Pop! Goes the Country出演時のチェットとジェリーに
よるJerry’s Breakdown演奏が観れます。
右のやんちゃなオッサンみたいな人がジェリー・リード。




Picks On Jerry Reed」(1974)ではジェリーは参加していない
が、「I'll Say She Does」「East Wind」「Remembering」
「Down Home」「Baby's Coming Home」「The Early Dawn」
「Steeplechase Lane」などチェットが好んで演奏してきた曲
収録されている。




↑2009年にRavenレーベルから発売された「Me And Jerry」「
Me adn Chet2in1CDは、ボーナストラックに「Picks On 
Jerry Reed」から6曲、さらにチェットがカヴァーしたジェリー
作品を2曲をプラスしたお買い得盤。(TVショッピングみたい?)




https://youtu.be/LOgJvpQdcKQ
↑チェットとジェリーのBaby's Coming Homeが観れます。





https://youtu.be/KD4XjAU28F0
↑チェットとジェリーのI´ll Say She Doesが観れます。



この2人は20年後の1991年に「Sneakin' Around」でまた共演。
どんだけ仲良しなんでしょう?(笑)
グラミー賞カントリー・インストゥルメンタル部門で最優秀賞
を受賞している。(長年の功労賞ってことかな?)






他にも共演盤はまだある。
ハンク・スノウとのデュオで「Reminiscing」(1964)、「By 
Special Request」(1969)(2枚ともCD化されていない)

 


 

ドク・ワトソンとの共演「Reflections」(1980)、マーク・ノ
ップラーとの共演「Neck And Neck」(1990)。

最後のアルバムとなったトミー・エマニュエルとの共演作、
The Day Finger Pickers Took Over The World」(1997)

ギタリスト以外にもフロイド・クレイマー、ダニー・デイヴィス、
ブーツ・ランドルフ、ボストン・ポップス・オーケストラ、ジム
・リーヴス、スージー・ボガス、ドリー・パートンなどなど。



最後に地味だけどとても気に入ってるアルバムを紹介したい。
チェットの影響を強く受けた理論派にして技巧派ジャズ・ギタリ
スト、レニー・ブローとの共演作「Standard Brands」(1981)。
全曲2人ともクラシックギターを弾いている。隠れた名盤だ。



https://youtu.be/ffOkzDuHwzA
↑「This Can't Be Love」が聴けます。
左がレニー・ブロー、右がチェット。



レニー・ブローは薬物中毒の問題を抱え43歳で他界している。
この共演もレニーを復帰させたいチェットの計らいだった。


<脚注>

2023年3月16日木曜日

グレッチだけではない!チェット・アトキンスのギターの魅力。



チェット・アトキンスといえばグレッチ、グレッチといえばチェット。

だが、グレッチ以外にもチェットのサウンドを特徴づけるギターがある。




<ナイロン弦のクラシック・ギターという選択肢>

その一つがナイロン弦のクラシックギター、フラメンコギターである。
チェットはセゴビアの影響を受け、度々クラシックの名曲を演奏する。

クラシックギター奏者は足台に載せた左足の上にギターを構えるが、
チェットは右足の上でクラシックギターを弾く。
(つまりエレキやフラットトップを座って弾く時のフォームのままだ)



                         (写真:Gettyimages)

またクラシックギターの時もサムピックを使用する。
タレガ作曲「Recuerdos de la Alhambra(アルハンブラの思い出)」
や「Lagrima(涙)」もチェットはサムピックで弾き、原曲にはない
音を一箇所だけ入れる、という別解釈の遊びで余裕を見せる。


サムピックを付けた親指は弦に対し並行を保て、親指の疲労が少ない
人差し指〜薬指の可動範囲も広くなる。
強く弾かなくても音量を確保でき、低音部の音質をクリアに響かせる
ことが可能。低音部のミュートも指弾きより遥かに容易になる。

(指弾きに比べて細かなニュアンスが出しにくいいという理由で使用を
嫌うギタリストもいる)

チェットは「こんなに便利なモノはない。棺桶に入れて欲しいくらい」
と言っていた。(たぶん本当にそうしてもらったのだろう)





ナイロン弦ギターの使用についてチェットは「フラットトップギター
のライトゲージ弦は爪を痛めるため」と答えている。
サムピックで弾く6〜4弦の鳴りに負けないくらい、3〜1弦を人指し指
〜薬指で強くスチール弦を弾くと爪が傷ついたり割れるのかもしれない。

もちろんナイロン弦の温かみのある音がチェットは好きなのだろう。
カントリーだけでなく、ジャズ、クラシックラテン、ポピュラー、と幅
広げたいチェットにはナイロン弦の表現力の方が適していた



                           (写真:Gettyimages)


<チェットのナイロン弦ギターを堪能できるアルバム>

チェットのアルバムは「その時々のヒット曲、旬な曲を中心に様々な
アレンジで聴かせる」に力点が置かれ、アルバムのテーマやトーンが
明確でないことが多い。(特に1950年代〜1960年代は)

その中でナイロン弦ギターをたっぷり聴かせてくれる、あるいは全曲
ナイロン弦ギターというアルバムを選んでみた。



The Other Chet Atkins (1960)
全曲がナイロン弦ギターで演奏されたラテン系の曲で構成されており、
カントリー色がないユニークな作品となる。



https://youtu.be/kc7WN762c0w
↑クリックすると「The Other Chet Atkins」全曲が聴けます。




Class Guitar」(1967)
ラテン系(メキシコ、スペイン)の曲からクラシックまで、全曲で
チェットのナイロン弦ギター演奏が聴ける名盤。
ゆったりとした曲、メランコリックな曲が多い。演奏は高度である。



https://youtu.be/3CJGfNmqiUU
↑Manhã De Carnaval (Theme From "Black Orpheus")が聴けます。





<チェット・アトキンスが使用したナイロン弦ギター>

チェット使用のナイロン弦ギターはいろいろあるが判別が難しい。
クラシックギターはエレキと違って概ね似たような外観だ。


ホセ・ラミレスの最上位機種を所有していたが、「ラミレスは私にとっ
てはうるさいだけのギターだった」とインタビューで語っている。(1)
「ヘルナンデスはヘッドの形が醜いけどいい音がする」とも。


↓ヘッドの形が醜いのはこれか?




(ゴテゴテした装飾付きのヘッドはどのクラシックギターも同じだが)
たぶんスペインのホアン・エルナンデスのギターのことではないか。
(Juan Hernandez →スペイン語では最初のHは発音しない)



1970年代はスペインの工房ホアン・エストルッチ(Juan Estruch)
イエロー・ラベルをよく使用していた、という記載もある。
ジャケット写真にも登場しているらしい。


https://youtu.be/AuacVhzW0D8
↑量産モデルとは思えないくらいバランスの取れた明るい音。




1976年にTV番組「Pop! Goes the Country」(2)に出演した際は、
ジョン・ノウルズから借りたギターで「Vincent」(ドン・マクリーン
作曲)を演奏。



https://youtu.be/G_xG2fTfkXo
↑「Vincent (Starry Starry Night)」の演奏が観られます。
6弦をD、5弦をGにドロップしている。後半のハーモニクスが美しい。
使用してるのはジョン・ノウルズから借用したギター。




チェットは早くからナイロン弦ギターにピエゾ型ピックアップを取り
付け(生音とミックスして)レコーディングを試みている。
アルバム「Solo Flights」(1968)に収録された「Music To Watch 
Girls By(3)で聴くことができる。



https://youtu.be/lKDmuT3G-_c
↑クリックすると「Music To Watch Girls By」(1968)が聴けます。
さらっと弾いてるけどとても難しい。



Lover's Guitar」1969
Theme From "Zorba The Greek"、The Look Of Love、Cajita De Musica
 (Little Music Box)、Cancion Del Viento (Song Of The Wind)、
Estudio Brillante、La Madrugada (The Early Dawn)、The Odd Folks 
Of Okracoke、Recuerdos De La Alhambraとナイロン弦ギターによる
ロマンチックな曲が多く聴きやすい。





Alone」(1973)
タイトルどおりチェットのソロ演奏がたっぷり楽しめる名盤。
前半ナイロン弦ギター、後半エレキとパーカッションとタップだけ
The Clawはジェリー・リードの曲。ナイロン弦ギターの速弾きは圧巻。
Spanish Fandangoはスペインの優雅な舞踏曲。
Me And Bobby McGeeのみリゾネーターギター(後述)が使用された。


https://youtu.be/WYz_a5iVXqk
↑クリックすると「Alone」全曲が聴けます。



Me And My Guitar」(1977)
タイトル曲はジェイムス・テイラー作品。チェットの歌はご愛嬌
全曲ではないが、Cascade、All Thumbs、Vincent、Struttin'、
My Little Waltzとナイロン弦ギターの名演が聴ける。



https://youtu.be/H1JFjnG4RUo
↑クリックするとTV出演時の「Cascade」の演奏が観られます。
流れるような運指の速弾きには脱帽。。。




The First Nashville Guitar Quartet」(1979)
美人ギタリストのリオナ・ボイド、ジョン・ノウルズ、ジョン・ペル
とのクァルテット。






1980年頃からチェットはナッシュビルのギター・ビルダー、ポール・
マクギル制作のナイロン弦ギターを使用するようになる。

ポール・マクギルにもピエゾ型ピックアップ付きカッタウェイのナイ
ロン弦ギターの試作を依頼しており、これがナイロン弦ソリッドギター
への構想に発展する。




チェットはこのアイディアをグレッチに持ちかけるが「そんなギター
は誰も買わない」と相手にされず(グレッチは業績不振で新製品開発
の余裕がなかったのか)、エンドースメント契約を打ち切る。

代わりに契約したのはギブソンだった。
ギブソンはカーク・サンズをチーフとしチェットが描くナイロン弦ソリ
ッドギターを開発し、1982年には量産化する。



↑チェットの要望で通常のクラシックギターに見えるデザインを採用。
スプルース・トップにマホガニー・ボディー。
チェンバー(空洞)が設けられたとはいえかなり重量があった。




マホガニー・ネックのグリップ感は最高で、エボニー指板も弾きやすい。
L.R.Baggs社の6弦独立型ピックアップが直接サドルになっていた。
レスポンスに優れているが、サステインのコントロールが難しい。

ギブソンのChet Atkins CE Classical(4)ナイロン弦のソリッドボディ
という新しいカテゴリーを作り、大成功した。
楽器業界では「1980年以降のギブソン唯一のいい仕事」という評価
あるくらいだ。プロのミュージシャンも愛用している。




https://youtu.be/vlav47-gUSg
↑1987年のTVショー「A Session With Chet Atkins」より。
「Waltz For The Lonely」が観れます。





同じ1982年、長年籍を置いたRCAレコードを去り、コロムビアに移籍。
以降コロムビアから発売したチェットのアルバムは、ギブソンのナイ
ロン弦ソリッドギター、Chet Atkins CE Classicalと新たにギブソン
で開発したシグネチャー・モデル、カントリー・ジェントルマンが主に
使用されている。

(これによりグレッチはカントリー・ジェントルマン、ナッシュビル、
テネシアンなどチェット・アトキンス・モデルの名称を使えなくなった)


1990年代にギブソンから独立したカーク・サンズの工房のナイロン弦
ソリッドギターをチェットは愛用するようになる。





Almost Alone」(1996)
全曲チェットのソロ演奏
カーク・サンズのナイロン弦ソリッドギターがたっぷり聴ける。



https://youtu.be/8Aj5h_W2Xbg
 ↑1996年、TV番組Charlie Rose Showに出演。
 「Waiting for Susie B.」(5)をカーク・サンズのギターでソロ演奏。





<デル・ベッキオのリゾネーターギター>

チェットの音作りを特異なものにしてる、隠し味的なギターがある。
それがデル・ベッキオのディナミコ・リゾネーターギター(6)だ。

デル・ベッキオはブラジル・サンパウロの老舗ギター・メーカー。
リゾネーターギターが有名である。




チェット愛用のデル・ベッキオはロス・インディオス・タバハラスの
ギタリスト、ナト・リマからプレゼントされたもの。
1965年より使用し始め、以降ほとんどのアルバムで聴くことができる。



鼻が詰まったような、金属的なのに甘く温かみのある独特な音がする。
特別なセットアップが施してあるそうで、通常のデル・ベッキオを弾い
てもこういう音にはならない、とチェットは言っていた。



https://youtu.be/WE8RbumKkjo
↑「Hawaiian Wedding Song」でデル・ベッキオを弾くのが観れます


リゾネーターギターはボトルネック奏法に使用されるが、チェットは
ふつうのギターと同じように弾く。
左の指でグリッサンド、ベンディング、ビブラートを多用し、主に単音
メロディーを弾くリードギターとして使っていた。





アール・クルーはポール・マクギルにデル・ベッキオのようなリゾネー
ターギターをオーダーし、チェットにプレゼントしている。
が、知ってる限りチェットはデル・ベッキオを生涯愛用していたようだ。




https://youtu.be/K00_-KMTs1Y
↑チェットとアール・クルーの「Goodtime Charlie's Got The Blues」。
アール・クルーのアルバム「Magic In Your Eyes」(1978)に収録された。



<脚注>

2023年3月8日水曜日

チェット・アトキンスの華麗なギターを堪能できる一枚(後篇)


↑グレッチ・ギターの広告。
チェット・アトキンスは言う「私みたいに。それならあなたもグレッチ」
慣用句Look at it this way(こういうふうに考えてみよう)をもじっている。
広いホワイトスペースと小さな写真。コピーに目が行く。いい広告だ。(1)




<1961年の再リリース盤>

チェットは以前インタビューでこんなことを言っていた。
自分のレコードは聴かないようにしている。やり直したくなるからね」

「Chet Atkins in Hollywood」はたまたまチェットが耳にしたらしい(笑)
1961年の再リリース盤は本当にやり直している




                             (写真:gettyimages)


デニス・ファーノン・オーケストラが1958年に録音したテープをナッシュ
ビルの自宅スタジオに取り寄せ、それに合わせて全曲チェットがギターを
新たに録音しているのだ。


チェットは気に入らない所だけ部分的に録音し直すことはしないそうだ。
頭からまるまる録り直すらしい。
だから全曲テイク違いということになる。

あまりにも流麗な演奏なので、最初は気がつかなかった。
しかし聴き比べてみると、明らかに全12曲で違う演奏をしている。

1959年盤の演奏で気になる部分があったのだろうか?
何か違うアプローチを思いついたのだろうか?




ジャケットもやり直していた
写真はハリウッド・ブールヴァードとヴァイン・ストリートの交差点で
撮影された。 LIVING STEREOはだいぶ目立たなくなった。
女性の服はギターに色調を合わせていると思われる。
CDを見ると、ギターはうぐいす色(グレッチがよく使うスモークグリーン
というカラー)である。
グレッチの資料を見ても該当するギター(2)はない。プロトタイプか?

 

ギターの音色も違う
1959年盤はカントリー・ジェントルマンのフィルタートロン・ピックアッ
プ(ハムバッカー)の煌びやかで低域の深みがあるサウンドだった。

録り直した1961年盤の方は、ツンと鼻が詰まったようなもっと線が細い、
シングルコイル・ピックアップではないか、と思わせる音である。




想像だが、6120ナッシュビルの廉価版として1959年に開発されたチェット
のシグネイチャーモデルの最新作、テネシアン(3)の音ではないだろうか。

新しく開発されたハイロートロン(4)というシングルコイル・ピックアップ
が搭載されている。
チェットはこのギターとストリングスのアンサンブルを試してみたかった
のかもしれない。

(新しいジャケット写真のギターもシングルコイル・ピックアップだが、ハ
イロートロンではなく1958年まで定番だったダイナソニック。レコーディン
グで旧型を使わないだろう。あくまでも撮影用だったのではないか。)



↑ジャケット裏面も一新された。
プロデューサーはディック・ピアース、とクレジットされている。
前回はチェット本人がプロデュースを行ったが、今度は演奏に専念したい、
他のプロデューサーにミックスを委ねたほうがいい、という判断か。



1961年のリイシュー盤ではリミックスが行われている
オーケストラの定位が真ん中寄りだったのが左右にふわっと拡がった。
チェットのギターを包み込むように両側から響く。(左右泣き別れ感はない)

主役であるチェットのギターとストリングスが分離され聴きやすい
ハイロートロンの音はオーケストラに埋もれやすいから賢明な策だと思う。




↓実際に聴き比べてください。


Estrallita (Version 1) 1959年盤(夜景+ギター)
https://youtu.be/RRYdLgo85Nk

Estrellit (Version 2) 1961年盤(女の子+ギター)
https://youtu.be/af8b2QueMeA



Jitterbug (Version 1) 1959年盤(夜景+ギター)
https://youtu.be/JIQDXCUPXm0

Jitterbug Waltz (Version 2) 1961年盤(女の子+ギター)
https://youtu.be/ZHbLMlNxgIk





<「Chet Atkins in Hollywood」のCD化>

「Chet Atkins in Hollywood」が最初にCD化されたのは1989年。
モービル・フィデリティ・サウンド・ラボ社(Mobile Fidelity Sound
 Lab)から3in2(2CDに3枚のアルバムを収録)として発売された。





モービル・フィデリティはアナログ音源リマスタリングの専門レーベル。
テープをレコード会社から借り受け、独自のマスタリング技術(4)を駆使
し、こだわりの高音質のリマスター盤を制作販売している。(5)

ジャケットに「ORIGINAL MASTER RECORDING」という帯が記され
ているCDがモービル・フィデリティ盤だ。
その高音質は世界中の音楽ファンやオーディオ・ファンを魅了してきた。
音圧は高くないが、素直で温かみのある音が特徴である。





「Chet Atkins in Hollywood」のモービル・フィデリティ盤もまさにそう。
温かみのあるふくよかな音で、聴いていてとても心地よい。
(収録されてるのは1959年の「夜景+ギター」ヴァージョンの方)

ディスクにAADとあるのはアナログ音源をアナログでマスタリングして
デジタルの信号(CD)に変換している、ということ。

この時代はマスタリング時のビット深度は16bit (= 96dB)が標準。(6)
昨今のCDと比べると音量が低いのは当然だが、音色はまったく問題ない。




この3in2に収録された3枚のアルバム、Pickin' My Way、In Hollywood、
Alone、のいずれも名盤である。
残念なのは「In Hollywood」のA面がDisc1、B面がDisc2と別れる点。




In Hollywood(1959)、Pickin' My Way(1971)、Alone(1973)と発売年順
に収録してくれればよかったのに。。。



1993年には本家のRCA(BMG傘下のレーベルとなる)からやっと
「Chet Atkins in Hollywood」がCD化される。




ジャケットも音源も1959年の「夜景+ギター」ヴァージョン。
20bitのデジタル・リマスタリングが施されている。

※ビット深度は16bit<20bit<24bitと大きい方が情報量が多くなるわけ
で、音のきめ細かさ、音圧の高さ(迫力)に影響する。
聴感上の音質は必ずしもそれで優劣は付けられないと思う。






2001年にはJVC/BMGから「Chet Atkins in Hollywood」CDが発売。
ジャケットも音源も1961年の「女の子+ギター」ヴァージョン。

ジャケット裏面に1958年10月に録音されたと記載されているが、
それはデニス・ファーノン・オーケストラの演奏だけで、チェットの
ギターは1961年に録り直したものである。





このCDはビクターエンタテインメントの米国と日本が開発したデジ
タル高音質化技術、XRCD2が使用されている。

XRCD2とは20bitマスタリングとK2 A/Dコンバータによる高純度アナ
ログ→デジタル変換で実現したビクターの超高音質CD制作技術だ。(7)

SACDと違って一般的なCDプレーヤーで再生が可能である。
価格が高いため、CD店よりもオーディオ専門店で人気だったようだ。







2004年にドイツのベア・ファミリー・レコード社からチェットの1955
-1960年の録音を完全に網羅した5CDボックスセットが発売された。
(Chet Atkins - Mr. Guitar - The Complete Recordings 1955-1960)
アウトテイク、レア音源、シングル盤音源も収録。

この中に「Chet Atkins in Hollywood」全曲が収録されているが、
1961年の「女の子+ギター」ヴァージョンの方であった。






<あとがき>

結果、我が家には「Chet Atkins in Hollywood」のCDが4種類もある。
チェット・アトキンスにハマるとこういうことになりかねない。
裏返せば、それだけ奥が深く魅力的だとも言える。(言い訳)
そこまでしなくても、どれか1枚手に入れれば充分、楽しめるはずだ。

チェット・アトキンスという人は、ギタリストとしての自分をアピールする
ことより、曲をどう聴かせるかを優先しているんだと思う。
そのスタンスがいい。僕にとって控えめであることと上品さはイコールだ。

ロビーで「Chet Atkins in Hollywood」が静かに流れているような
高齢者施設があればいいのに・・・と思う今日この頃である。




<脚注>