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2026年2月2日月曜日

UKネオソウルの歌姫 オリヴィア・ディーンを聴きながら。




オリヴィア・ディーンを聴きながら(1)書いている。

昨年から彼女の歌を聴くようになった。Diveが好きで何度もリピートしてる。
体が自然に横揺れのリズムを取ってしまう。聴き心地がいい。

海岸通りを車で走りながら聴いたら気持ちいいだろうなー。
温かい季節なら、片手を出して風を感じながら。





Olivia Dean - Dive



1960年代のソウル1980年代のブラック・コンテンポラリーを思わせる。
ジャズ、サンバ、ボサノヴァのグルーヴや温かみがあるサウンドも感じる。
それらに2020年代のUKポップが絶妙にブレンドされているのだ。

彼女の歌はどこかノスタルジックでありながらモダンでもある。
UKネオソウルと呼ばれることも多い。


 



オリヴィア・ディーンの歌声は、肩の力がふっと抜けるような軽やかさと、
芯のある強さ、のびやかで豊かな響きが同居していて耳馴染みがいい。

声を張り上げることなく自然体で歌うだけで充分な音量(2)が出るのだろう。
スモーキーなファルセット、エキゾチックでシックなスタイルはちょっと
1980年代のシャーデーを彷彿させる。






<Diveの歌詞>

歌詞は新らしい恋への期待感、何かが始まりそうな胸の高鳴り、相手を信頼
して身を委ねる大人の女性の決意が感じられる。



Dive - Olivia Dean 対訳:イエロードッグ
(今回はAIに手伝ってもらいました。Thanks! Google Gemini)

It isn't working I'm a tidal wave of question marks
And you're just surfing Leaning into me like it's an art
うまくいかないの 私の心は疑問符の波に飲み込まれそうなのに 
あなたはただその波を乗りこなす 芸術的にぴったり 私に身を寄せてくる

It's so crazy Lately you just understand my feelings 
Make me see I'm capable and fine
And feeling beautified Tonight, I'm ready to dive
すごいよね 最近のあなた 私の気持ちをちゃんと分かってくれる
何でもできそう、大丈夫って思わせてくれるの 
心が洗われて今夜はキレイになった気分  
わたし 飛び込む準備ができてるわ

Maybe it's the loving in your eyes (I'm here, see through)
Maybe it's the magic in the wine (I'm feeling loose)
Maybe it's the fact that every time I fall, I lose it all
But you got me from my head to my feet
And I'm ready to dive

あなたの瞳に愛が宿っているからかな(私はここよ、よく見て) 
ワインの魔法が効いているせいかしら(いい感じに酔ってるの) 
恋に落ちるたびに 何もかも失ってきたからかもしれない 
でもあなたは私のこと ぜーんぶ分かってるよね
だから わたし 飛び込む準備ができてるの







<Diveのコード進行>

オリヴィア・ディーンがピアノを弾きながらDiveを歌うヴァージョンがある。


Olivia Dean - Dive (Acoustic)


公式録音とはまた一味違うすっぴんの良さ、という印象。
これを聴くと、キャロル・キングの影響を受けてるのかな?と思う。






コードを耳コピで拾ってみた。キーFで演奏されている
(公式録音はキーG ※後述)



コード進行はきわめてシンプル。
Aメロ〜Bメロとコーラス部(サビ)のコード進行はほとんど同じ。

maj7やm7の多用で、都会的で洗練された大人の女性の恋に揺れる気持ち
うまく表現している。

特筆すべきは、I'm ready to diveのB♭m7→Gm9/C(赤字の箇所)
ここだけB♭maj7ではなく、マイナーコードのB♭m7に置き換わっている。(3)
一瞬だけムードが変わり、ふっと切なさを感じさせる。

次のGm9/Cは二層構造の分数コード。(4)
上のGm9は次に来るB♭maj7と構成音が似てるので繋げやすい。
一方、下(ベース)のCはキーのFに帰結しやすい。





[Verse 1]

B♭maj7
It isn't working
F maj7
I'm a tidal wave of question marks
B♭maj7
And you're just surfing
F maj7
Leaning into me like it's an art

[Pre-Chorus]
        Am7
It's so crazy
Dm7             Gm7
Lately you just understand my feelings
Am7     Dm7     Gm7
Make me see I'm capable and fine
    Am7     Dm7     
And feeling beautified  
Gm7                        B♭m7     Gm9/C
Tonight, I'm ready to dive

[Chorus]
                              B♭maj7                            F maj7
Maybe it's the loving in your eyes (I'm here, see through)
                            B♭maj7                        F maj7
Maybe it's the magic in the wine (I'm feeling loose)
                               Am7    Dm7     Gm7
Maybe it's the fact that every time I fall, I lose it all
            B♭m7                      Gm9/C
But you got me from my head to my feet
                         B♭maj7   Fmaj7    B♭maj7   
And I'm ready to dive






尚、公式音源はキーがG。
ピアノ弾き語りのデモやライヴではキーFで演奏されている。

キーFが彼女が余裕を持って歌いやすいキーなのだろう。
公式音源をGに上げたのは、ポジティブな印象(明るく、軽く、活発、
開放的)を出すためではないだろうか。(5)




<異例の速さでリスナーを魅了したオリヴィア・ディーン>

オリヴィア・ディーンは1999年ロンドン生まれの女性シンガー。
ジャマイカ系ガイアナ人の母とイギリス人の父との間に生まれた。

母親はR&Bが好きで、ローリン・ヒルなどネオソウルもよく聴いていた。
父親はレゲエやキャロル・キングなどを愛聴していたという。

8歳からゴスペル合唱団で歌い、芸術系のブリットスクールを卒業。





デビュー後、Spotifyの月間リスナー数は2,500万人を突破。
グラストンベリーなど世界的フェスに出演し、着実にキャリアを重ねてきた。

サム・フェンダーとはコラボ曲を発表し、サブリナ・カーペンターのツアー
ではオープニングアクトに選ばれ、アーティストたちからも高い評価を得る。

日本でもサマーソニック2024へ初出演、東京での単独公演を実現させた。






2023年のデビューアルバム「Messy」がマーキュリー賞にノミネートされる。
Diveは本アルバム収録曲で、 恋に落ちる瞬間の不安と高揚感を歌ったオリヴィ
ア・ディーンを象徴する一曲でもある。

2025年の2ndアルバム「The Art Of Loving」は全英で初登場1位を記録。
アルバムからシングルカットされたMan I Need(6)は英国、オランダ、オース
トラリアなど7か国で1位を獲得。
アメリカでも最高4位を獲得し、グラミー最優秀新人賞にノミネートされた。
                   ↓
      2/2追記)グラミー2026 最優秀新人賞受賞決定!🥂🍻








<オリヴィア・ディーンのライヴ・パフォーマンス>

オリヴィア・ディーンのライヴ・パフォーマンスは定評がある。

Olivia Dean - Dive (Later... with Jools Holland)






2026年4月〜6月にロンドンのO2アリーナ(収容人数2万人)で4公演を行うこと
発表された。
オリヴィア・ディーンにとってはキャリアの大きな節目であり夢の達成でもある。
世界で最も有名なアリーナの一つでヘッドライナーを務めるのだ。
4夜公演はすべて完売。2夜公演が追加された。





次は北米ツアーだろうか。日本には来るのだろうか。
ブルーノート東京やビルボードライブ東京のような小会場で見れたら最高だが。
ドームは勘弁してほしい。せめて東京国際フォーラムくらいなら・・・無理か。
グラミー最優秀新人賞だもんね。アリーナ級アーティストになっちゃった。




<映像作品での使用>

DiveはNetflixのドラマ「ハートストッパー」で使用されている。
ドラマ「セックス&ザ・シティ」の新章ではThe Hardest Partが使用された。
オリヴィアは映画「ブリジット・ジョーンズの日記」最新版のために新曲、It 
Isn’t Perfect, But It Might Beを提供している。






<ファッション界も注目>

豊かな文化的背景を反映させた楽曲で今の女性のリアルを表現していること、
若者に支持されていること、知名度が上がり確固たる存在になっていること。

そして、このビジュである。カッコいい!何を着てもサマになる。
ファッション業界が放っておくわけがない。





シャネルは1stアルバム発売前にオリヴィアをアンバサダーに早々と指名。
アディダスはオリヴィアとコラボしたカプセルコレクションを発表。
バーバリーのフレグランス「Her」のキャンペーンモデルにも就任している。

ヴォーグ・シンガポールは2024年に、ヴォーグ・オーストラリアは2025年
にオリヴィア・ディーンをカバーガールに起用。
それぞれファッション特集やインタビューが掲載された。








<なぜオリヴィア・ディーンは人々を惹きつけるのだろう?>

まず楽曲の圧倒的な入りやすさ歌詞の共感しやすさ
自然体の歌声の耳馴染みのよさもある。

シンプルなバンド編成とアレンジ(過剰なプレイはしない)でありながら、
ホーンセクションも加えリッチなサウンドである点も好感が持てる。

そして何よりも、ヴィンテージ感のあるソウルミュージックに現代的なUKポップ
をブレンドした新らしいスタイルが、新鮮で今の気分をうまく掴んだのだろう。
つまり懐かしさ(レトロ)と新しさ(モダン)の組み合わせが巧かった。





こうしたモダンなモータウン解釈、ネオソウルという音楽に再構築して聴かせる
のも、リミックス(7)と言えるかもしれない。

往年のモータウンやスタックス、アトランティックのコテコテの油ギッシュな
ソウルミュージックやR&Bは熱心なファンには受けるが、マーケットは限定的。

オリヴィア・ディーンをきっかけに(ルーツ探求みたいな感じで)シュレルズ、
アレサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハザウェイ、シュープリー
ムスを聴く若い人が出て来るなら、古いソウル・ファンも歓迎するだろう。






Olivia Dean - The Hardest Part

The Hardest Partは別れの痛みを優しく歌った初期の代表曲。
このMVはモータウンのパロディシュープリームスへのオマージュだろう。
優雅な身のこなし、揺れ方、手の動きは本家シュープリームスを凌駕している。





   ↑後のコーラス2人もオリヴィア・ディーン。1人3役で合成している。





最後に2025年秋にシングルカットされたオリヴィア・ディーンのSo Easy 
(To Fall In Love)を聴いて(見て)欲しい。
ボサノヴァ・ポップだ。軽やかさ、しなやかさがいい。心が弾む。

Olivia Dean - So Easy (To Fall In Love) 和訳付き

※バーバリーのフレグランスの広告がしっかり映ります(笑





<脚注>

2026年1月11日日曜日

ビートルズの妹分シラ・ブラックが歌ったStep Inside Love



シラ・ブラックは親しまれやすいキャラ、ユーモア、会話のアドリブ力を
活かし、歌手活動だけではなく司会者、女優としても人気を博す。



↑STVは
スコットランドの放送局(英国の民放局ITV系列)




<TV番組のオープニング曲、Step Inside Love>

1968年にはBBCで初冠TVバラエティーショー「Cilla」の司会を務める






番組のオープニング曲、Step Inside Loveはレノン=マッカートニー
の書き下ろし曲(ポールが単独でシラのために作曲)であった。





Cilla Black - Step Inside Love (Cilla 1968)



番組では毎回、多彩なゲストを迎え、楽しいトークとデュエットを披露。
トム・ジョーンズ、ヘンリー・マティス、アンディー・ウィリアムズ、ルル、
マット・モンロー、クリフ・リチャード、フィル・エヴァリードノヴァン
リンゴ・スタースコット・ウォーカー、ダドリー・ムーア、 T.レックス
フランソワーズ・アルディ、ダスティ・スプリングフィールド、サンディ・
ショウ、シュプリームスツイッギー、ブライアン・フェリーなど。






Cilla Black & Dudley Moore - If I Fell
↑ダドリー・ムーアのアドリブでシラは笑いすぎて歌えなくなってしまう。





「Cilla」は長寿番組となり、1976年まで放映されている。
シラ・ブラックは英国のお茶の間(って変?)の人気者となった。





その後も「Surprise Surprise」(1)「Blind Date」(2)など超人気
の国民的長寿番組のホストを務め、幅広い層から支持された。
OBE(大英帝国勲章第4位)を受賞したのもこの功績が大きいだろう。






本業の歌手活動も1993年までコンスタントに続けている。
ビートルズの妹分(3)として売り出したシラ・ブラックだが、活動期間と
いう点ではビートルズよりも息の長い歌手・タレントとなった。







<ポールのStep Inside Love作曲術>

ポール・マッカートニーという人は器用な作曲家だなとつくづく思う。
It's For Youもそうだが、このStep Inside Loveもビートルズっぽさが
まるで感じられない。
シラ・ブラックに提供することを前提に、ビートルズ路線とは違うアプ
ローチで作曲されている。

もともとロックだけでなく幅広いポピュラー音楽を好み、ポール自身も
ポップスの作曲家を志していたという。(4)


Step Inside Loveはリズムもコード進行もボサノヴァを取り入れてる
半音ずつ下降するコード進行、テンション・コードの挟み方が巧い。


ポールの演奏(後述)を耳コピしてコード譜にしてみた。
ギター持ってる方は弾いてみてください。
(ポールのデモはキーD、シラの公式録音ではキーG )




特に注目すべきはヴァースのfind you a place後のAm7→G#7(#9)
、smile on your face後のG→Gm→F#7(#9)

#9が入った7thコードが2箇所で効果的に配されている。赤字の
とっておきのコード」でビートルズでは2回しか使わなかったそうだ。(5)




ポールのギター演奏は開放弦の共鳴音をうまく活かしている。
既にアレンジが示唆されており、ジョージ・マーティンの書いたスコアも
ポールのデモに忠実である。




<Step Inside Love 制作過程>

ポールは最初のヴァースとコーラス部をロンドンの自宅で書き上げた。
多重録音のデモテープからスタジオで7インチのアセテート盤を制作。






BBC側からより長い尺を求められ、ポールはBBCシアターに赴き新たなヴァ
ースを加えた。

"You look tired, love"という歌詞は、TVショーのリハーサルを重ね疲れた
様子のシラを見て思いついたという。

フレーズごとの歌詞の韻の含ませ方も職人芸だと思う。



↑ポールが撮影したそうだ。



1967年11月21日にロンドンのチャペル・スタジオでポールのギター演奏
シラが歌うデモを録音。

ポールはシラが歌えるようキーDで作曲している。
それでもシラには少し低すぎたようだ。


Cilla Black and Paul McCartney - Step Inside Love
  (Original Demo)






レコーディング時はシラの音域に合わせて4度上げてキーGに移調。
映像が残されている。(6)

Cilla Black & Paul McCartney - Step Inside Love 
Studio Session (November 21st 1967)






1968年1月30日の番組開始からオープニングで使用された。
シングルの発売は1968年3月8日。

全英シングルチャートで最高位8位を記録。
アイルランド、ニュージーランド、カナダでもチャートインしている。






<Step Inside Love ビートルズ・ヴァージョン>

1996年のAnthology3でこのアウトテイクを聴いた時は驚いた。
録音されたのは1968年9月16日。アビイロード第2スタジオ。

ポール、ジョン、リンゴの3人はポール作I Willのレコーディング中だった。
(ジョージはこのセッションに不参加)

 


ポールはアコースティック・ギター(D-28)を弾きながら歌い、ジョンは
金属片を木片で叩いてパーカッション代わりにし、リンゴがマラカス、ウッ
ドブロックとシンバル、という編成で67テイクを録音。

ポールはアコギを持つと脱線して違う曲を歌い出す奇行(笑)があるらしい。
この日も何度か中断しCan You Take Me Back、Blue Moon、The Way 
You Look Tonight、Los Paranoiasを即興で歌っている。(7)





I Willテイク35の途中でポールはStep Inside Loveを歌い出した
半年前にシラのシングルが発売されているが、ポールはその時のデモと同じ
ギター演奏で歌っている。(8)
(前出のコード譜はこのビートルズのセッション音源から耳コピした)


The Beatles - Step Inside Love (Studio Jam)







実はStep Inside Loveはこのビートルズの音源で初めて聴いた。
ポールがシラ・ブラックに提供したことは知っていたが、彼女の歌もそれ
までは聴く機会がなかった。
今ではシラのStep Inside LoveとIt's For Youもお気に入りである。




<脚注>

2025年2月16日日曜日

1979年の「沿線地図」と「もう森へなんか行かない」。



BS-TBSで再放送されたドラマ「沿線地図」全15話を見終わった。
脚本家の山田太一さん追悼企画の一環ということらしい。

年末に「岸辺のアルバム」(1977年)をやっていたので、「沿線地図」もやるの
では?ぜひ見てみたい、と期待していのだ。


「沿線地図」は1979年4月〜7月にTBS系列の金曜ドラマ枠で放送された。
リアルタイムでは見てない。今回が初めてだ。
当時は部屋でレコードばかり聴いてたのでTVを見る習慣がなく、このドラマの
こともまったく知らなかった。(TVに関わる仕事をしてたのに)






「沿線地図」を見てみたいと思ったのは、フランソワーズ・アルディの「もう森
へなんか行かない(Ma jeunesse fout l'camp)」が主題歌で使われていること
を知ったからだ。

Francoise Hardy - Ma jeunesse fout le camp
https://youtu.be/pBOncEj8Wt0?si=w-dtB6Q2-_scTlaO


↓昨年「もう森へなんか行かない」について書いた投稿もご参照ください。
https://b-side-medley.blogspot.com/2024/06/f.html




<ドラマの設定>

多少ネタバレになってしまうが・・・・

二人の高校生のドロップアウトと家出、同棲が主題である。
両家の親世代の価値観の崩壊と苦悩、祖父の孤独、と各世代の葛藤が丁寧に
描かれている。




志郎(広岡瞬)は東大も確実と言われる優等生。本ばかり読んでいる根暗くん。
通学の電車で知り合った道子(真行寺君枝)に焚き付けられ、優等生の道を
外れ出すが、何か生きる活力のようなものを感じ始める。

志郎と道子が通学中に会っていたのは田園都市線の車内、二子玉川(当時は
二子玉川園)駅ホーム、自由が丘駅前、等々力駅ホーム。
東急の田園都市線と大井町線が舞台となっている。

(1978年に新玉川線が開通し田園都市線と繋がった直後のドラマである。
以前は大井町線が田園都市線と直通運転をしていて、大井町線も含めて田園
都市線と呼ばれていた。ややこしい・・・)





志郎の父(児玉清)は一橋大学卒のエリート銀行員で支店次長。
田園都市線・宮崎台の高級マンションに母(河内桃子)と3人で暮らす。





ユニークな造りのマンションは東急ドエル宮崎台ビレジ(1971年竣工)。
現在もヴィンテージ・マンションとして人気が高い。
ドラマの撮影では実際にこの物件のエントランス、廊下、室内が使われた。





道子は大井町線の等々力駅近くの電気屋の一人娘。
優等生だが、奇矯な行動を繰り返す。




父(河原崎長一郎)と母(岸恵子)が店を切り盛りしている。
(三菱電機系列店という設定は、番組提供スポンサーだったためだろう)

岸恵子はパリ居住だったが、このドラマ撮影のために来日したそうだ。
電気屋のおかみに岸恵子はミスキャストと思ったが、けっこうハマり役。




店内・店前はセットを組んでの撮影。劇中では電車の通過音が聞こえる。
踏切近くの用賀仲町通りから横小路に入ると、小さな商店が並んでた。
そんな商店街の一角に小さな店をかまえていた、という設定だろう。



↑等々力駅前、
用賀仲町通りの踏切。
劇中では八百正、喫茶アゼリアの看板が映っていたが・・・



志郎の祖父(笠智衆)は二子玉川のアパートで一人暮らしをしている。
窓からは多摩川が見える。
小津安二郎作品の時と違い、笠智衆の台詞がけっこう長い(笑




等々力駅の反対側にあるスナックの従業員(新井康弘)は、惚れてる弱み
で道子の家出を手伝ったり、金を貸したり情報提供に協力する。
彼が着ているバラクータG9はこの頃流行っていた。




家出した2人の情報を得ようと、両家が頻繁にこのスナックに集う。
壁にはフランソワーズ・アルディのポスターが貼ってあった。



家出した2人は東新宿の青果卸売市場(淀橋市場)で働いていた。
志郎はフォークリフトで積荷を運び、道子は市場内の食堂で給仕をしている。
淀橋市場が面している中央線の脇を志郎が歩くシーンも見られる。





2人が同棲しているのは東中野の木賃アパート




※貧乏な同棲が話題になったのは同棲時代、赤提灯が流行った1973年。
1977年に雑誌ポパイが創刊、SHIPSとBEAMSが開店、1979年に村上春樹
の「風の歌を聴け」、翌年に田中康夫の「なんクリ」。
1979年はAORが流行り「ライトで都会的で洗練された」が良しとされた。
この頃の若者が「決められたレールの上を歩きたくない」と言うだろうか。
ちょっと時代感覚がズレてる?という気がしなくもない。





<「もう森へなんか行かない」の使われ方>

「もう森へなんか行かない」はオープニングで流れる
原曲はA-B-B'-A-B-B'の構成で3'07"だが、尺の関係で2分弱に編集してある。

まずエピソードのさわりから始まり、イントロのギター抜きで歌が入る。


↓これは最終回。エピソードがいつもより長く、1'26"〜歌が始まる。
https://youtu.be/sLx32h_W3bg?si=4kB2PxZwJeNDtTgc






二子新地を出て多摩川を渡り、二子玉川に入る田園都市線の空撮をバックに
「沿線地図」のタイトル、脚本、制作スタッフなどのテロップが入る。
(この頃のドラマや映画はオープニングにクレジットが入るのが一般的だった)

横に246と二子橋も見える。二子玉川を過ぎて右に弧を描いてるのは大井町線。

(2年前に新玉川線・二子玉川〜 渋谷間が開通。1年後には田園都市線と新玉川線
が直通運転を開始し、田園都市線は渋谷まで直通で乗り入れるようになった。
これによって沿線の梶ヶ谷、宮前平、宮崎台、鷺沼、たまプラーザ、青葉台など
整備された郊外の都会的な街として人気が高まって行く)



(1979年の東急電鉄路線図に志郎と道子の家、会っていた場所を追記)




大井町線の運転席から撮った前方の風景が流れる。
(東京急行の許可を取って撮影しているそうだ)

大岡山トンネルを出たところで、配役のクレジットが入る。
等々力のホームを過ぎ、上野毛の待避線?に緑色の旧型車両がいるのが見える。
   ↓
間違ってました。オープニングのトンネルを抜けた直後の駅は梶が谷だそうです
等々力駅を出ると、自由が丘を出発した直後の映像に切り替わっています。
自由が丘駅には留置線があったようです。
(ラッシュが終わると留置線に車両を入れ、夕方前に自由が丘駅始発電車として
運行していたとのこと)
コメントをくださった方、どうもありがとうございました。




(丸っこい顔がかわいく芋虫電車と呼んでいたが、鉄道ファンの間では青ガエル
という呼称で親しまれているそうだ。
目蒲線、池上線でよく使われていた。国鉄の払い下げ車両らしい。床は木製。
井の頭線でも一部あった。クーラーがないので夏は窓を開けて走っていたっけ)



「もう森へなんか行かない」は最初の数回はエンディングでも流れた
さらに短く1分弱に編集してある。後半はオープニングだけで流れた。




<バリエーション>

フランソワーズ・アルディのこの歌は、フランス語の歌詞を「ささやくように」
にメロディに乗せている。詩を謳っている、という感覚かもしれない。

1拍内に3連符が続いだかと思うと、他の箇所では間を取ったり、緩急と
抑揚があり、フランス語ならではのイントネーションが心地いい。


(出典:musée sasem)


レコーディングも予め録音したオケに合わせて歌うのではなく、アルディの
歌にギターが合わせて行くやり方で、コーラスやストリングスは後からオー
ヴァーダヴしたのではないだろうか。





劇中では「もう森へなんか行かない」のバリエーションが頻繁に流れる。
シーンに合わせてテーマ曲のバリエーションを作る、という手法はよくある。

しかし、そのバリエーションが日本人歌手によるスキャットなのだ。
ルルルルル〜♪と8分音符を並べた単調な曲になってしまっている

さらに中盤から、メジャー・キーに転調したルルルルル〜♪も使われる。
前向きな、明るいイメージを出したかったのだろうか。ありえない!


メジャー・キーのバリエーション(スキャット)1'37"〜
https://youtu.be/PTLnJyYHI-g?si=-4lrZsX246uTYsAh





さらにさらに「森へなんか〜」とは無関係の、ありがちなボサノヴァ調の
ルルル〜♪も終盤で登場。なんか、やりたい放題だなー。


音楽担当の小川よしあき氏はフォーク歌謡でデビューしたものの鳴かず飛ばず
で、作曲・編曲に転身したがヒット作なし、という人物。
フランソワーズ・アルディを好むようなセンスがあったとは思えない。



1979年の都市に生活する各世代を描くための装置として東急線沿線を使う
そこにフランソワーズ・アルディのメランコリーな歌でやや鬱な色彩を配し、
子供たちの自立を「もう森へなんか行かない」で表現したい。
これが脚本家の山田太一さんと大山勝美プロデューサーの意図だったはずだ。





山田太一さんはこの後の「ふぞろいの林檎たち」では、サザンオールスター
ズの曲を多用しているが、選曲、曲を使うシーン、どこでフェイドアウトする
かなど、細かい指示を脚本に記していたという。

もしかしたら「沿線地図」で意図しない音楽の使われ方をしたことが反面教師
になっていたのかもしれない(勝手な推測ですが)




<フランソワーズ・アルディの他の曲>

私の騎士(Si mi caballero)」が後半に少しだけ流れた。
口笛が印象的で哀しげな曲。すばらしい選曲!もっと聴かせて欲しかった。

Francoise Hardy - Si mi caballero
https://youtu.be/8iEi4F-5nkE?si=Ize94hEce5u7t0Ja




↑Si mi caballero収録のアルバム「La Question」は名盤です!



人生は風のように(Au fil des nuits et des journees)」も1回だけ流れた。

Francoise Hardy - Au fil des nuits et des journées
https://youtu.be/2HPxRlkg-TQ?si=C90p73VkDxZ1BsLW




<参考資料:TBSチャンネル、Wikipedia、乗りものニュース、YouTube、
mogref せっかくなので昔の東急の路線図を作る、musée sasem
こんな街があったらね「沿線地図」~TVがつくる都市の記憶、
いいマンション ヴィンテージマンションを紹介、townphoto.net、他>

追記:私は鉄オタでもマンション・オタでもありません(笑