2020年7月7日火曜日

ロックな青春映画10選(9)2つの「イエスタデイ」

「イエスタデイ」という映画が近年、2つ公開された。


その1つは2019年公開の英国映画「イエスタデイ」(原題Yesterdayそのまま)
本国、北米、日本でも興行的に成功し話題になった。(1)





<映画のあらすじ>

英国の海辺の町に住むジャックは、バイトで生計を立てながらシンガー・ソングライタ
ーとして活動しているが、一向に売れない。夢を諦めかけていた。
幼なじみの親友エリーはマネージャー兼ドライバーとして彼を健気に支えている。

ある日、世界規模で12秒間の停電が発生。
その時ジャックはバスに撥ねられ、昏睡状態に陥り入院する。


退院後、快気祝いで集まった友人に新しいギターをもらったジャックはビートルズの
「イエスタデイ」を聴かせ、みんなを魅了する
エリーは驚き「いつ作ったの?」とジャックに尋ねる。

ジャックは「ポール・マッカートニーの曲だよ。ビートルズさ」と事も無げに答えるが、
誰も知らない。ビートルズ?虫か?車か?

帰宅後ネットで「ビートルズ」を検索するがまったく情報はヒットしない。
ジャックは異変に気づいた。




↑写真をクリックすると映画「イエスタデイ」2019の予告編が視聴できます。


彼が今いる世界では史上最も有名なビートルズが存在せず、数々の名曲を知っている
のはジャックだけらしい。
ジャックはビートルズの曲を自分の曲として成り上がろうとする。


彼の楽曲に可能性を感じたエド・シーラン(本人がカメオ出演)(2)は自身のライブ
のオープニング・アクトに採用したいとジャックの自宅を訪れる。

ライブ後の打上げで、エドはジャックにソングライティング対決を持ちかける。
ジャックが歌うザ・ロング・アンド・ワインディング・ロードを聴いたエドは敗北
を認めた。




映画「イエスタデイ」2019、エド・シーランとの作曲対決シーンが見れます。


アルバム発売の告知のため、ジャックは故郷のホテルの屋上でコンサートを行う。

終了後、楽屋に2人のファンが訪れた。
2人はビートルズの存在を覚えており、ジャックがビートルズを自作の曲として
発表していることも知っていた。彼らはある人の住所のメモをジャックに渡す。


メモを頼りにジャックが訪れたのは海辺に住む78歳のジョンの家だった。
ミュージシャンにならず、船乗り(3)になったため暗殺を免れたのだ。
ジョンは穏やかに語る。質素ながら愛する女性と幸福な人生を送っていた。




映画「イエスタデイ」2019、ジョン・レノンに会いにいくシーンが見れます。


幸せになるためには、有名になる必要はない。
幸せに生きるには、愛する人に愛を伝え、うそをつかないことだ。


ジョンに諭されたジャックはエリーに告白。
ウェンブリー・スタジアムでのエドのライブに飛入り演奏(4)したジャックは、
観客にこれまで自作として発表した楽曲がビートルズあることを伝えた。


得られるはずの富や名声、栄誉を全て投げうったジャックは音楽教師に復職し、
エリーと結婚。2人の子供を授かり、ささやかながらも幸せな生活を送った。






<感想>

自分にビートルズみたいな才能があれば。。。多くの人がそう思っただろう。

この作品はビートルズがいないパラレル・ワールドという設定だ。
ちょっと似てると思ったのが、かわぐちかいじのコミック「僕はビートルズ」
(2010-2012年モーニングに連載)である。




ビートルズのコピーパンドが1961年の東京にタイムスリップしてしまう話だ。
吉祥寺の駅舎は木造でサンロードにはまだアーケードがなくバスが走っている。
当時の日本で生演奏はハワイアンが主流でロックはなかなか受け入れられない。

ある女性プロデューサーが彼らの演奏するビートルズの曲に可能性を感じる。
4人はビートルズに先行してどんどん彼らの曲を発表して行く。

そうすればビートルズはさらにすごいことをやるんじゃないか、と期待しつつ。
しかしビートルズは解散してしまう。彼らはビートルズに会いに行き謝罪する。







ビートルズは曲がいい。それは誰もが認めるところだ。
でもビートルズの凄いところは楽曲の良さ、だけじゃないよね?

ビートルズはたたき上げのライヴ・バンドだった。
彼らならではのビート、グルーヴ感一体となってガツンと出てくる音
卓越した演奏力アレンジ力応用力幅広い音楽性サウンドへのこだわり
ジョン、ポール、ジョージの異なる声質が生み出す魔法のような和声の美しさ

ジョン、ポールという奇跡のソングライティング・チーム。
独自の世界観で控えめながらバンドに陰影を与えたジョージ。
鉄壁かつ重いリズム、ユニークなパターンやフィルを叩けるリンゴ。

ジョージ・マーティンのプロデュース力とオーケストレーション、スタジオで
生み出された数々のトリッキーな発明。そして1960年代ならではの音
そう、1960年代というマジックもビートルズに加勢したんだと思う。



「イエスタデイ」ではジャックが誰も知らないのをいいことにビートルズを
パクって一人で(ライブはミュージシャンを従えて)歌っているにすぎない。
バンドの個性とエゴがぶつかり合って生まれる音楽じゃない




↑映画「イエスタデイ」2019でのヒメーシュ・パテルの歌と演奏について。


ジャック役のヒメーシュ・パテルはすべて自分で歌い演奏していて上手だ。
が、もちろんジョンやポールのような神がっかった歌にはならないし、演奏も
突出してるわけではない。(声質的にはジョージの曲に一番ハマっている)



それとジャック。悪いけど見た目がカッコよくない。
ビートルズってカッコよかったよね。すべてが。これ、すごい大事な点。






2018年の世界でこの映画のようにジャックがまだ「誰も聴いたことがない」
ビートルズを歌ったとして、はたしてヒットするだろうか?

1960年代から史上最高のバンドとして君臨し続け世界中で愛されているから、
どこかで誰かが歌っても「いい曲」になるんじゃないの?

だいたいビートルズがいなかったら、エルトン・ジョンもビリー・ジョエルも
10CCもクイーンもオアシスもU2もエド・シーランもいないでしょ!


まあ、偉大じゃないジョンが静かにまだ生きているというのが、この映画の
感慨深いところ、というか救いではあったけど。(他の3人は登場しない)


ジャックを献身的に支えるエリーがなかなかいい感じだった。
けど、偽りの成功を捨てて地道な愛を選ぶ、というお約束のロマンスがこの
映画をさらに凡庸にしてしまっているのは否めない。
ロックな青春映画というよりビートルズに負んぶに抱っこのラブコメ感が強い。(5)





と僕は辛口評価だが、素直にビートルズの名曲を題材にしたラブコメとして
なら楽しめるのではないか。ポールも「とても気に入った」と言ってるらしい。





もう1つの「イエスタデイ」はノルウェー製作の2014年の映画(6)
日本では2016年公開。原題はなんと「Beatles」。The が付かない。
The Beatlseの商標を侵害しないからオッケーということなのか。





劇中でビートルズのシー・ラヴズ・ユー、レット・イット・ビー(シングル盤
ヴァージョン)が使用されている。
だからこの作品は(タイトルも含め)ビートルズ側も公認ということだ。


日本では歴史的にザを略してビートルズと呼ばれることが多かった。
青春への郷愁も込めて、「イエスタデイ」という邦題に変更したのだろう。

ノルウェーなど海外の映画祭で賞を獲得。
日本では全国20館で上映され、そこそこの評価(7)を得たようだ。
上述の2019年の映画「イエスタデイ」公開で存在感が薄くなってしまった。






<映画のあらすじ>

舞台は1967年のオスロ。

タイトルバックにラジオ・ルクセンブルクの放送が途切れがちに入る。(8)

授業で「手本にしてる人物は誰か?」をテーマで主人公のキムが作文を書く
ところから物語が始まる。






ビートルズに刺激された高校生4人組はバンドを結成し練習を始める。

主人公のキムはタレ目で子供の頃ちょっとポールに似てたのでポール役。
声がいいグンナーはジョン役。セブはギターが上手い。オラは楽隊の太鼓担当。
最初はロクに楽器も持ってないくらいだった。

バンド名のスネイファスは「状況はいつも通りボロクソ」の略語だとか。


セブの父親は仕事で英国に行く機会が多く、リバプールやロンドンでビートルズ
の新譜を買ってきてくれた。
茶色の包み紙を開け、英国Parlaphoneレーベルのサージェント・ペパーズの
ジャケットを眺め、わくわくしながらプレーヤーに針を落とし興奮する4人。




↑ノルウェー映画「イエスタデイ」2014の予告編が視聴できます。



ある日、キムは映画館でニーナという女の子と出会い突然キスをされる。

キムはニーナが誰でどこに住んでるかもわからないまま彼女への想いを募らせ、
渡すあてのないラブレターを書き続けた。







やがてキムのクラスにセシリアという美少女の転校生が入ってくる。
セシリアは裕福な家庭の子。彼女にとってキムは空気より薄い存在だった。(9)

課外授業でセシリアのピンチを救ったことで2人の距離は近くなる。
キムに新しい恋が芽生え始めた。
セシリアはいわゆるツンデレで焦らしながらキムを惹きつけていく。




キムはセシリアの家に食事に招待される。お父さんは言葉が通じない。(10)
自分は努力に努力を重ねてここまでなった、とキムに言う。
お母さんは食事に参加せず。何かあるようだった。


みんな、それぞれ問題を抱えていた。
セブの両親は離婚する。
グンナーは家業の配達先の裕福な人妻に誘惑され関係を持つが夫にばれて、
袋叩きに遭う。しかしその人妻にフェンダーのマスタングを買ってもらう。


スネイファスは演奏する機会を得る。セシリアもキムに熱い視線を送る。






そこになんと!映画館で遭ったニーナが出現し「会いたかった」と言う。
ショックを受けたセシリアは出て行く。急なモテ期到来。どうする、キム?






キムはセシリアを追い、今は君しかいないと告げる。
セブのアコギをバックに、キムは即興のトーキング・ブルースでセシリア
への想いを歌うのだった。



<感想>

あまり期待せずに見たが悪くない。英国版「イエスタデイ」2019年よりいい。
ビートルズに憧れる少年たちの成長と恋を描いた甘酸っぱい青春ドラマだ。

ここではビートルズは少年たちの憧れで、バンド結成のモチベーションである。
ガチでビートルズのコピーで有名になろう、なんていう野心は彼らにはない。
その下手さに親近感を覚えるみんな最初はこうだったなーという。





そしてリアルタイムでビートルズを聴いた彼らが、とてもとても不器用な恋をし、
悩んだり笑っている姿が眩い。遠い夏の日への憧憬を抱かせてくれる。

青春の弾けるエネルギーというよりは、落ち着いたノスタルジックな雰囲気。
全体に地味で薄味の印象は否めないが、派手なハプニングてんこ盛りよりいい。



使用されたビートルズのオリジナル楽曲は2曲だけ。
冒頭でかかるシー・ラヴズ・ユー
歌詞の内容がこの後のキムとセシリアとの関係への伏線になっている。

反戦(反米)デモ(11)のシーンで流れるレット・イット・ビー(シングル盤)。
「なすがままに」の歌詞からこの選曲になったのだろう
でも1967年にはまだ発売されていないよね、とツッコミを入れたくなる。




↑ノルウェー版「Beatles」2014の予告編(原語)が視聴できます



セシリアが突然キムの家を訪れた時の会話が印象的だ。

セシリア(ポスターを見回し)「ビートルズが好きなんだ。一番好きな曲は?
キム 「アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド」
セシリア 「一番好きなアルバムは?
キム 「ラバー・ソウル、ミッシエル以外はね」(12)
セシリア 「いい曲なのに」
キム 「うん」

ポール派のキムにしては意外。ミッシエルはメランコリックすぎたのか?




キムが映画館で出会ったニーナは青いリンゴを持っていた。
ビートルズのアップル・レーベルを匂わせる。

ニーナが着ていた赤いエナメルのコートは、アップル本社ビル屋上ライブで
リンゴが着ていたもの(妻のモーリンのを借りた)を彷彿させる。





街中ではVWビートルをいっぱい目にする。
特に(アビイ・ロードのジャケ写でお馴染みの)ベージュのビートルが多い。
こういうのも匂わせかな?原題Beatlesだし。



一番好きなのはセシリアとピクニックに行くシーン。





セシリア 「何で行くの?」
キム 「自転車」
セシリア 「じゃあ、私は音楽を持っていくわ」


自転車の後の荷台に乗るセシリアは取っ手付きの薄型の白い機械を持っている。
そのデザインが美しく、さすが北欧!と感心した。

ラジオかと思ったら、ポータブルのレコード・プレーヤーである。
湖畔で二人が聴いていたのはレナード・コーエンの「スザンヌ」だった。





終盤のセシリアとニーナが鉢合わせするシーン。修羅場になるかと思いきや。
キムは迷わずセシリアを選びましたねー。

不思議ちゃんニーナも魅力的だけど、振り回されてなんか面倒そう。
勝気なお嬢様セシリアにも苦労しそう、と余計な心配をしてしまった(笑)


<脚注>

2020年6月1日月曜日

ジェフ・ベック徹底研究(奏法と使用ギター、機材)

ロック・ギタリストには2種類しかいない。ジェフ・ベックとジェフベック以外だ。
 – ポール・ロジャース

名言です。


既存の枠にとらわれす、常に新しいギター・サウンドを追求し挑戦し続ける姿。
他に類を見ない独特の奏法、繊細かつ豪快なサウンド、冒険的で常に進化している、
自由奔放で個性的。だから「孤高のギタリスト」と呼ばれるのだろう。

ギターを鳴らすのではない。ギターで歌いあげることができるギタリストなのだ。





<ジェフ・ベック奏法>

ジェフ・ベックのルーツは6歳の時にラジオで聴いたレス・ポールの演奏だという。
18歳の頃からバンドを結成し、ジーン・ヴィンセントやエディ・コクランなどロカビリ
ー、ロックンロールをカヴァーしていた。カントリーの影響も受けていると思える。

それに加えレス・ポールのジャズ・ギター的アプローチ、早弾きを取り入れてるようだ。
フィードバック奏法などトリッキーな演奏もレス・ポールの影響が大きいだろう。


クラプトン、ペイジほどブルースへの傾倒は少なく、ブルーノート・スケールよりは
ペンタトニックが主体で、むしろ音の選び方、紡ぎ方のセンスに長けている。
ふつうのギタリストではありえない、ギターとは思えない突拍子もない音を出すのだ。

以前飼っていた我が家の愛犬はベックのCDをかけると首をかしげていた。
鳥の声とか、不思議な音に聴こえるのだろう。


ジミ・ヘンドリックスの派手なフィードバック奏法や大胆なアーム奏法、ピック・スク
ラッチはジェフ・ベックの演奏を見て取り入れたという。
当のベックはジミの演奏に衝撃を受け、ギターをやめようかと悩んだらしい(笑)
(クラプトンも「ソウルフルという点でジミには全く敵わない」と認めていた)

一方ジミー・ペイジはベックを「ギタリストの教科書」と言っている。




↑ヤードバーズ時代のベックとジミー・ペイジ(ペイジはベースを弾いている)。


ジェフ・ベックの音楽はどんどん進化し続けている。
ロカビリーから始まり、ジャズ、ロック、ブルース、ファンク、テクノ、シンセサイザー、
ドラムンベース、世界の民族音楽などあらゆるエッセンスを吸収して変化する。

弾き方も独特だが、それも進化している。

左手でメロディーを弾く場合でも、毎回同じ弾き方ではない
ベンディング(チョーキング)、グリッサンド、ハンマリング〜プリングオフなどの
指技やリズムのアレンジを駆使し、表情に変化をつけている

その際、左指でのヴィブラートを組み合わせることで音を揺らし、サステインを得ると
当時に音に余韻やふくらみを持たせる。ネックを揺らしてかけることもある。
そのタイミングやかけ具合(深さ)はその時々で違う。それが本当に絶妙なのだ。


ベックは「何度も同じことをしない」ことを身上にしているらしい。
それを端的に証明しているのが、名演の誉れ高いCause We've Ended As Lovers
(悲しみの恋人たち)だ。
コンパクトなモチーフの繰り返しのメロディーだが、ベックは全て違う弾き方をする。

単音をフェイドインする箇所はボリュームペダルではなく、ボリュームノブを右手の
小指で操作しながら、ピックで弾くという高度な技を用いている。
ボリュームノブとトーンノブを頻繁に調整し、ピックアップの切り替えもよく行う。




↑クリックするとレッスン・プロによる動画(かなり忠実に再現)が見れます。



第二期ジェフ・ベック・グループ後期からストラトを使用するようになるが、トレモロ
アームで低音弦のピッチ(音程)をギューンと一気に下げるグリッサンド奏法を行う。


これが顕著になったのは、フュージョン期に入ってから。
Freeway Jumなどの曲で効果的に使われている。
後にベックのストラトはアームを上げるとピッチが上がる機能も加え、アーム操作だけ
音程を変えてフレーズを作ることもできるになった。(後述)


右手は早いパッセージをピックで正確なオルタネイトピッキングで弾いていた。
時にはピックを持ったまま、中指と薬指でフィンガーピッキングを行うこともある。

指弾きに切り替える場合は、ステージ上でピックをポイ捨てする場面も見られた。
アーミング、ボリューム奏法、とベックの右手は超多忙だ。


スムーズな運指の秘密は、Johnson&Johnsonのベビーパウダーだそうだ。
真っ白になるほど両手にふりかけ、ローズ指板でもお構いなしにネックに撒く。
潤滑効果は抜群で驚くほどスルスルになるが、ピックが使えなくなる。


そのせいもあってか、1980年代中頃からフィンガー・ピッキングに転向している。
単メロはほとんど親指の腹と爪で弾くようになった。
これによってピックより微妙な音の変化が出せ、繊細な表現が可能になった
弾きながらのアーミングやボリューム奏法もやりやすくなったはずだ。

早いパッセージは人指し指の爪でオルタネイトピッキングをしている。
ストラミング(コードストローク)もやはり人指し指の爪でのピッキングだ。
タッピング奏法も行う。





ボトルネック( スライドバー)を使用する場合はオープンチューニングではなく、スタ
ンダードチューニングのまま単音または2音を弾き、すぐ通常のピッキングに戻る。

驚異的なのはネックのハイポジションの右側、つまりピックアップがある辺りの弦
まで手の感覚と勘だけで正確なピッチの音が出せるということだ。
ジャコ・パストリアスが得意なハーモニクス奏法も効果的に曲中に使われている。


そしてベックの演奏で特徴的なのは、フレーズ間の「間」の取り方が上手い点だ。
音の余韻に充分に浸らせてくれ、聴くものの心を捉えて離さないグリップ力がある。
冒頭に述べた「ギターで歌いあげることができる」とはそういうことだ。






<ジェフ・ベックの使用ギター>

突然ですが、クイズです。
ジェフ・ベックが最初に入手したエレキ・ギターは何でしょう?

ベニヤ板の手造りギターを弾く12歳のジェフを見て母親が買い与えたのは、25ポンド
のグヤトーン(1)だったそうです。
以下はプロになってからのベックが愛用した代表的なギター。



●1954年製フェンダー・エスクワイア
1965年ヤードバーズのツアー中に入手。初期のベックを支えた伝説的なギター。
ウォーカー・ブラザーズのジョン・マウスから譲り受けたと言われる。
エルボー部分が大きく削られ、全身キズだらけの貫禄ある逸品。

エスクワイアを入手したことで、それまで使用していたテレキャスターを同じヤード
バーズに在籍していたジミー・ペイジに譲る。
(ペイジはツェッペリン1の全曲、ツェッペリン2でもこのテレキャスターを使用)

ベックのエスクワイアは1974年にセイモア・ダンカンの改造テレギブと交換された。
(後述)
※2006年にフェンダー・カスタムショップのトリビュート・シリーズからベックの
エスクワイアの精巧なレプリカが限定発売された。




↑The Jeff Beck Group - Live on Air 1967よりStone Cold Crazyが聴けます。
1967年3月と7月にBBCサタデイ・ナイト・クラブに出演した時の演奏。
DJはブライアン・マシューだと思われる。
個人的にはこのジャケットが好き。手前に愛器の1954年製エスクワイヤが見える。
かわいいアフガンドッグはベックの愛犬だろうか。



●フェンダー・ストラトキャスター ナチュラル風(フランケン・ストラト)

第二期ジェフ・ベック・グループからヤン・ハマー・グループとのジョイントツアー
で使用していたストラト。1957~1959年製のアルダー・ボディと思われる。
メイプル指板はかなり使い込まれた感がある。
ナチュラル風というのはフェンダーのナチュラル仕様ではないからである。
色合いはもっとダークで、よく見ると塗装を剥がしたようなムラが見え、剥き出し
のようなマットな感じ。ラッカー・フィニッシュもしていない
(かつて自動車整備工をし技術も工具もあるベック本人が作業したのかもしれない)

ピックガードはネジ穴の位置が変わる前の1960~1962年製。
丸く空けられた穴は何かスイッチを付けた跡なのか?角部分のカットも謎。
ボリュームノブは1965年頃のジャズマスターのものが付けられ、2つのトーンノブ
も色が違う。
ピックアップはフロントだけショートG(3弦のボビンが低く4弦のボビンが高い)
ので、1954~1955年製のを取り付けたのかもしれない。
第二期ジェフ・ベック・グループの頃はメイプル指板、スモールヘッドのネック
で、ヘッドのフェンダー・ロゴは削られている。




↑第二期ジェフ・ベック・グループでのフランケン・ストラト。
写真をクリックするとDefinitely Maybeの演奏が視聴できます。
ベックのボトルネック奏法、コージー・パウエル(ds)マックス・ミドルトン(kb)も注目。



ヤン・ハマーとのツアーの時は、1974~1975年製ラージヘッドで2ストリングス・
ガイド、ローズ指板、ラージ・フェンダー・ロゴのネックに交換されている。
1970年代のストラトは手抜きでネックを3点留めしてあるが、無理矢理4点留め
ジョイントにしてある。

この時代はまだヴィンテージという概念がなくUsedとして安価で売買されていた。
ベックもポーンショップでタダ同然で手に入れたストラトや他のパーツを組合わせ、
自作ギターを作っていたのだろう。





※クラプトンのブラッキーだってナッシュビルで1本$100のヴィンテージ・ストラト
を6本買って、3本を分解していいとこ取りして作られたという。
(残り3本はジョージ、ピート・タウンゼント、スティーヴ・ウィンウッドに譲る)




●1954年製レスポール・オックスブラッド

来日直前の1973年にメンフィスの楽器店で見つけたという1954年製レスポール
名盤ブロウ・バイ・ブロウ(Blow by Blow 1975)のジャケットにも登場している。
ゴールドトップのボディを塗り替えてあり、ボディの深い茶色が角度によっては
オックスブラッド(牛の血の色のような濃い赤)に見えることからオックスブラッド
・レスポールと呼ばれている。
P-90ピックアップをハムバッカーに交換、1954年製の太ネックをスリムにシェイプ、
チューナーをシャーラーに交換してある。
BBA時代からブロウ・バイ・ブロウ(Blow by Blow 1975)まで主に使用された。





尚ベックはヤードバーズ時代にもクラプトンが演奏したレスポールのサウンドに
魅了され、1959年製ダブルホワイツPAFのチェリーサンバーストを購入。
後に塗装を剥ぎ取ったナチュラルフィニッシュとして使用している。
第一期ジェフ・ベックグループを結成した1968年頃にはリック・ニールセン(後に
チープトリックを結成)よりサンバーストの1959年製レスポールを購入している。
あいにくそのレスポールは盗難に遭ってしまったようだ。



●1959年製テレキャスター改造 Tele-Gib(テレギブ

テレキャスターにギブソンのピックアップを搭載してるためテレギブと呼ばれる。
1970年代にフェンダーの修理部門で働いていたセイモア・ダンカンが、1959年製
テレキャスターを改造したもの。海外でもTele-Gibと呼ばれている。
ギブソンのPAFピックアップを2基搭載しHH配列(2)にしている。
ヴィンテージ・ピックアップのコイルをダンカン氏が巻きなおしたという。
ローズ指板のネックはメイプル1Pネックに交換されている。

ベックの大ファンだったダンカンはBBAが2nd.アルバム制作中だったCBSスタジオ
を訪れ(当時フェンダーはCBSに買収されていた)ベックにこれをプレゼントした。





ベックはこのギターを気に入り、愛器エスクワイア(ダンカンの希望で)と交換した。
(ベックはヤードバーズ時代の愛器を手放したことを後悔したらしい。しかしテレ
キャスターとギブソンのいいとこ取りのこのモデルを気に入ってるそうだ)


テレギブは名アルバム、ブロウ・バイ・ブロウ (Blow by Blow 1975)内でも最高傑作
言われるCause We've Ended As Lovers(悲しみの恋人たち)のレコーディン
使用された。

また1981年ロンドンで行われたシークレット・ポリスマンズ・コンサートでクラプトン
と共演した際も、Cause We've Ended As Lovers、Further On Up The Roadをこの
テレギブで弾いている。



<写真:gettyimages>
シークレット・ポリスマンズ・コンサートでクラプトンとの共演が視聴できます。
(Cause We've Ended As Lovers、Further On Up The Road)

●1963年製フェンダー・ストラトキャスター オリンピックホワイト

1963年製のストラトキャスター(ローズ指板、オリンピックホワイト)はジョン・
マクラフリンからプレゼントされたもの。
ジェフ・ベックのお気に入りで、彼のトレードマークとなっている。
フェンダーのネックはいろいろ変わるが、これが一番ベックんフィットするそうだ。
ワイアード(Wired)のレコーディングにも使用したそうだ。

以前に受け取ったギターが盗難に遭ったため、このストラトはワイアード(Wired)の
ジャケット写真撮影後、ベックのスタジオで大切に保管されているそうだ。
このギターが1990年代に発表されたシグネイチャーモデルのベースになっている。






●1961年製フェンダー・ストラトキャスター ホワイト+黒ピックガード

1978年にスタンリー・クラークと一緒に来日した時に使用していたことで有名。
1961年製オリンピックホワイトのストラトで、スラブ・ローズ・ネック。(3)
ブラック・アナダイズド・ピックガードにマウントされたアッセンブリをセイモア
・ダンカンによって、シェクター製ピックアップ500Nに交換されている。
パーツを交換した改造型、いわゆるコンポーネント・ストラトの走りである。
コントロール・ノブは3個から2個に、トグルスイッチが1個から3個変更されている。
チューナーはオリジナルのクルーソンのまま、ストリングガイド、トレモロアーム、
ブリッジも変更は加えられてないようだ。フレットとナットは交換されている。






●その他のストラトキャスター
メイプルネック、タバコサンバーストの1954年製ストラトキャスターは初期のもの。
スタジオである人からプレゼントされたものだそうだ。
バディー・ホリーが同じようなストラトを弾いていたので嬉しかったとか。



<写真:©MScoenPhoto.com>


1986年6月軽井沢プリンスホテル野外特設会場で行われたサントリー提供コンサート
で、ヤン・ハマー、サンタナ、スティーヴ・ルカサーとも共演した時の鮮やかな
イエローのストラトもファンの記憶には強く残っているだろう。
スモールヘッド、ローズ指板のこのストラトは美品に見えるのでヴィンンテージでは
なく、当時フェンダー再生で生産し始めた1962リイシューのカスタムモデルだろう。







これとは別にベックはイエローのシグネチャー・モデルのストラトを持っていた。
レースセンサー・ピックアップ(4)が搭載されナット、サドル、アーム、チューナー
もカスタム仕様になっている。
このイエローのストラトはベックが1980年代後半に来日した際、ウドー音楽事務所
に寄贈され、乃木坂にあった青山チケットエージェンシーにディスプレイされていた。
(クラプトンの1957年製ストラト、リッチーのストラトも一緒に置いてあった)

フェンダー社が1989年に発売したジェフ・ベックのシグネチャーモデル、サーフ
グリーン・フィニッシュの通称リトル・リチャードも有名だ。

1970年代のトラスロッドが飛び出た(いわゆる出べそ)ラージヘッドの白いストラト、
ローズ指板を弾く写真もある。いったいストラトだけで何本持ってるんでしょう?







●フェンダー・ストラトキャスター ジェフ・ベック・シグネチャー

現在のジェフ・ベックは、フェンダー・カスタムショップのマスタービルダーが作っ
たストラトキャスターを使用している。
(フェンダーUSA、カスタムショップ両方から市販されてるが基本仕様はほぼ同じ)
※カラーはホワイトとサーフグリーンの2色。

ベースとなっているのは上述の1963年製オリンピックホワイトのストラトであるが、
ヴィンテージ・スタイルではなく機能性を追求した現代仕様のモデルになっている。

高性能高出力のHOT Noiselessピックアップ搭載(セラミック磁石を使用)(5)
22フレット、ミディアムジャンボフレット採用、LSRローラーナット
ハイポジションの演奏性を高めるヒールカット仕様
シュパーゼル社製トリムロック式チューナー
ステンレス製サドル&二点支持シンクロナイズド・トレモロユニット

※トレモロユニットはアメスタではなくアメデラ、アームも一回り太い。
トレモロスプリングは5本中、3本を逆V字に張ってるらしい。





大胆なベンディング(チョーキング)やアーミングを多用するベックだからこそ、
チューニングの安定度を最大限に高めた仕様になっている。

Charが言ってたが、ストラトのアームは下に押すとピッチが下がるのだが、ベック
のはそれだけではなく反対に上に引き上げるとピッチが上がるらしい。
しかもアーミングによる急激なグリッサンドの後でもチューニングが狂わない。

完璧主義者で進化を求め続けるジェフ・ベックらしいモデルだ。



●おまけ

近年はフェンダー・カスタムショップのノーキャスター(6)もお気に入りらしい。
ヘッドが逆さ(チューナーが下)の白のストラト?を弾いてる姿も見かける。
ヴァレーアーツ製のピンクのストラトもどき?も持っているようだ。

2010年故レス・ポールのトリビュートライブではギブソンのES-175、チェリー
サンバーストのレスポールを(久しぶりでピックを使って)弾いている。
ES-175はスコッティ・ムーア(7)の音が出したくて借りたところ、貸主がそのまま
プレゼントしてくれたのこと。ベックの原点はロカビリーだからね。




↑写真をクリック。ベック本人が解説するギター・コレクションが観られます(訳付)

グレッチのランチャーは三角のサウンドホールが気に入って買ったと言っている。

Truth収録のGreensleevesの硬いアコギの音はこれを弾いてるのかもしれない
グレッチのデュオジェットはジーン・ヴィンセントのカヴァー集、クレイジー・レッ
グス(Crazy Legs 1993)で使用し、ジャケットにも登場している。
ジョージ・ハリソンの愛器は1957年製だがベックのは最初期1953年製と思われる。
<仕様弦>

アーニーボールのスーパー・スリンキー(09-42)を使用していると言われてるが、
09-011-016、ここまでは確かにその通り。
しかし4-6弦は28-38-52と太いゲージを組み合わせて使っているらしい。
弦高は高めにセットしてるらしい。それでよくあんなに早弾きできるなあ。
ボトルネックやジャカ弾きでビビるのを抑えるためか。






<アンプとエフェクター>

ヤードバーズ時代はビートルズも愛用したVOX AC-30
(リッチー・ブラックモアもレコーディングはVOX AC-30を使用していた)

第一期ジェフ・ベック・グループではマーシャル200Wアンプと4つのスピーカー
・キャビネットを組み合わせている。
第二期ジェフ・ベック・グループではレスリーの回転スピーカーを使用してドップラー
効果を得るという試みが行われた。(ビートルズでジョージも行っている)


BBA時代はレスポールをSunnのコロシアム・ヘッドアンプ+ユニヴォックス社製
6x 12スピーカーキャビネットを使用していた。
フェンダーのPrinceton Reverbをリバーブ・アンプにしていたらしい。



<写真:gettyimages>


1975年のBlow by Blow発売時、Guitar Player誌のインタビューによると。
フェンダーの200Wのスピーカーキャビネット2台とマーシャルのアンプヘッド2台
スピーカーはフェンダーの方がマーシャルのものよりも頼もしいが、アンプヘッドは
マーシャルの方が求めている勇ましい感じの音が出る。
以前はSunnのアンプを使用していたが、少しきれいすぎるそうだ。

近年のインタビューではこう語っている。
マーシャルがメインでたまにフェンダー。
最近ではマーシャルがメインでマグナトーン社のアンプを併用している。
低音は好きじゃないのでどのアンプを使用する時も必ずBassは全カットらしい。
(低音をカットしても大型キャビネットの箱鳴りで十分低音が鳴る、とジミー・ペイジ
も言っていた)


使用しているエフェクターはColorsound OverdriverCrybaby(ワウペダル)、
Magic Bag Talkbox(トーキング・モジュレーター)。
プロコのRAT(ディストーション)を使っていた時期もあるらしい。

ブースターはプリアンプでパワーと抑制、そしてディストーションが即時にできる。
Air Blowerではオクターバー・ユニットが使用されている。

トーキング・モジュレーターはギターを弾くとチューブを通って口の中に届く。
そして自分の口の動きに合わせて出したい音が出せる。


<脚注>