2016年6月8日水曜日

光の国から僕らのために。

子供の頃から変だと思ってたことがある。それは「ウルトラマンの歌」だ。



  胸につけてるマークは流星 自慢のジェットで敵をうつ
  光の国から僕らのために 来たぞわれらのウルトラマン

  手にしたカプセル ピカリと光り 百万ワットの輝きだ
  光の国から正義のために 来たぞわれらのルトラマン




↑クリックすると「ウルトラマン」のオープニング・タイトルが視聴できます。



ウルトラマンの胸の模様はどう見ても流星には見えない。
ついてるのはカラータイマーだけだ。
流星マークのバッヂ(小型無線機になる)を胸につけているのは科学特捜隊である。


敵をうつ自慢のジェットとは何のことだろう?
ウルトラマンの伝家の宝刀はスペシウム光線。ジェットなんちゃらという武器はない。






鉄人28号みたいに背中にロケットを積んで飛ぶわけでもないし、鉄腕アトムみたいに
足からジェット噴射しているようにも見受けられない。
そもそもウルトラマンがどういう原理で飛行するのか分からないのだ。


ジェットとはたぶん科学特捜隊のジェットビートル号のことじゃないかと思う。




ということは1番の歌詞はウルトラマンではなく科学特捜隊のことである。


2番に出てくるカプセルはハヤタ隊員がウルトラマンに変身する際に使用するベーター
カプセルのことだと思って間違いないだろう。
つまり2番の歌詞はハヤタ隊員のこと。






さらにテレビ放映時は使われていないが、この歌には3番がある。



  手にしたガンがビュビュンとうなる 怪獣退治の専門家
  光の国から地球のために 来たぞわれらのウルトラマン



手にしたガンは科学特捜隊が使用するスーパーガン(小型レーザー光線銃)および
アラシ隊員が装備しているスパイダーショット(大型熱線銃)のことだと思われる。

怪獣退治の専門家はウルトラマンとも解釈できるが科学特捜隊の方がしっくり来る。
3番も科学特捜隊について歌っているのだ。







ウルトラマンの主題歌なのになぜ科学特捜隊のことを歌っているのだろう?
作詞家は内容を理解していなかったのか?




「ウルトラマンの歌」は東 京一(あずまきょういち)作詞・宮内国郎作曲である。
東 京一は円谷英二の息子で「ウルトラマン」の監督であった円谷一のペンネームだ。

なので作詞にあたって内容を「理解していなかった」ということはありえない。
歌詞がちぐはぐになったのは制作時間が足りなかったことが原因ではないかと思う。




「ウルトラマン」は「ウルトラQ」に続く空想特撮シリーズ第2作として制作された。
TBS映画部(円谷一が勤務していた)と円谷特技プロの共同制作である。(1)

前作と同じく東宝のスタッフ集められ、キャスティングも東宝俳優が主体だった。
東宝の怪獣映画や若大将シリーズでお馴染みの平田昭彦、若林映子、二瓶正也も
ゲストで登場する。(2)
「ウルトラQ」でレギュラーだった桜井浩子はフジタ隊員役で続投することになり、
西條康彦も一話だけゲスト出演している。(3)







TBSはかなり早い段階で4つの条件を円谷特技プロに提示していた。

1. カラー作品とする (4)
2. 怪事件を専門に扱う架空の公的機関を登場させる (5)
3. 怪獣と互角に戦える正義のモンスターを主人公にする(6)
4.「ウルトラQ」のレギュラー俳優を1人残す (7)


監修の円谷英二が「スーパーマンのようなヒーローを登場させてはどうか」と提案。
次の段階で「烏天狗のような容姿のの宇宙人ベムラーが科学特捜隊の見方をする」
という企画書が作成されたが、「敵怪獣と区別がつきにくい」「キャラクター性が
弱い」と再検討され、新たに「科学特捜隊レッドマン」が企画された。


レッドマンは赤いコスチュームをまとい身長は伸縮自在、変身時間の制限、飛行機
事故で死なせた地球人の体を宇宙人レッドマンが借りるという設定は、ほぼウルトラ
マンに近い。

TBS側から「無表情な鉄仮面のようなものの方が謎があっていい」と提案があり、
造形を担当した成田亨は弥勒菩薩の像をもとにウルトラマンを完成させた。




↑ウルトラマンを演じていた古谷三敏はこんなにハンサムだったのだ。



「ウルトラマン」はカラー放送される連続テレビ映画の草分けであり、大がかりな
特撮中心のドラマは例がないため番組制作は苦難の連続だった。

色彩設計や照明の光量などカラーフィルム(8)の入念なテスト、ウルトラマンの着ぐ
るみの度重なる塗り直し、ジェットビートル号をホリゾント(9)にぶつけて大破、円
谷英二のダメ出しによる撮り直し。。。。

また週1回の放送に間に合わるための脚本・演出、怪獣のデザインと制作、怪獣が
暴れる街などミニチュア制作など、スケジュールは常に切迫していた。(10)






当初の企画では科学特捜隊の活躍がメインで、その一員であるハヤタ隊員が変身す
るウルトラマンが協力して怪獣を退治する、という内容であったらしい。
科学特捜隊の怪獣退治を特撮でというアイディアは、NHKで放映され人気を博して
いた英国の人形劇による特撮ドラマ「サンダーバード」(11)の影響があったはずだ。

「ウルトラマンの歌」が作られたのもその時期ではないだろうか。
おそらく第1話の内容もぎりぎりまで脚本の推敲と撮り直しがあったはずだ。


一方オープニング・タイトルは初回に間に合うように本編とは別に、限られた情報
を元に先行して制作する必要があったと想像できる。

それを裏付けるのがオープニングのシルエット(影絵)だ。
科学特捜隊の流星マークのバッヂ、ウルトラマン、ネロンガの他は大猿のゴロー、
ペギラ、カネゴンと「ウルトラQ」に登場した怪獣で「ウルトラマン」に関係ない。







この段階では本編にどんな怪獣が登場するかまだ決まっていなかったのだろう。
放映直前で本編の内容と擦り合わせしてオープニング・タイトルを作り直す、歌詞
を変えて再度テーマ曲を録音することが無理だったのではないかと思われる。

シルエット(影絵)という手法もまだ素材(ウルトラマン、怪獣の実写)がないた
め苦肉の策で考えたアイディアだったのかもしれない。
結果的には期待感を抱かせるシンプルで美しいタイトルになったと思う。


放送が始まった当時、我が家はまだ白黒テレビであった。
そのためシルエットのバックが赤、青、と切り替わるのが分からなかった。

祖母の家で初めてカラーテレビ(東京オリンピックのために買った)で「ウルトラ
マン」のオープニング・タイトルを見たときは「こんなにきれいだったのか!」と
感激したものである。






「ウルトラマン」は平均視聴率は36.7%、最高視聴率42.8%(ビデオリサーチ、
関東地区)を記録する人気番組となった。

オープニングに使われた「ウルトラマンの歌」は1、2番の短縮ヴァージョンだが、
3種類の音源が使われていてらしい。(12)

歌は、みすず児童合唱団。少年少女が主題歌を歌うのが主流だったのだ。
来たぞわれらの〜♪の部分でコーロステルラによる男性コーラスが入る。
フルコーラス収録されたレコードの売り上げはミリオンセラーを記録した。


また科学特捜隊が出動シーンなどで流れた「特捜隊の歌」も忘れられない。
ドラマではマーチ風にアレンジされたインストゥルメンタルが使用されているが、
歌入りヴァージョンも存在する。




↑クリックすると劇中で使用された「特捜隊の歌」が視聴できます。


この他、主題歌の候補として作られた短調の「進め! ウルトラマン」も中盤から
ウルトラマンの戦闘シーンで使われるようになった。
(2曲とも詞:東京一/曲:宮内國郎で歌はみすず児童合唱団、コーロステルラ)

当初は「特捜隊の歌」の歌が主題歌になるはずで「ウルトラマンの歌」はもとも
と科学特捜隊のテーマソングとして予定していたのが入れ替わった、「ウルトラ
マンの歌」で特捜隊のことが歌われているのはそのためという説もあるが、調べ
た限りではそう記載されている資料はなかった。


<脚注>

(1)「ウルトラQ」「ウルトラマン」制作背景
円谷特技プロは1962年春より特撮テレビ映画の初企画として、地球人に協力する
不定形宇宙生物の活躍を描く「WOO」をフジテレビと提携して進めていた。
フジテレビ映画部にいた円谷英二の次男、円谷皐が橋渡し役を務めた。
しかしこの企画は1964年に中止になってしまう。

円谷プロはTBSとも1963年からSF特撮シリーズ「UNBALANCE」の企画検討。
TBS映画部にいた円谷英二の次男、円谷一の口添えで制作が決定。
円谷英二が「WOO」のためにアメリカに発注したオ

「UNBALANCE」は企画段階ではアメリカの「トワイライトゾーン」のような怪
奇現象のドラマであったが、TBSとスポンサーである武田薬品の意向(東宝の怪
獣映画の成功が背景にある)で怪獣を中心としたドラマに路線変更された。
題名もオリンピックの体操のウルトラCに肖って「ウルトラQ」と変えられた。

「ウルトラマン」は「ウルトラQ」の第2クール制作中に企画が始動した。
TBSの条件を踏まえ試行錯誤した結果、ヒーローが活躍する怪獣映画という新し
いジャンルの草分となるドラマとなった。


(2)平田昭彦、若林映子、二瓶正也
平田昭彦
1954年東宝の特撮怪獣映画の第1作「ゴジラ」に芹沢博士役で出演。
以降、東宝・円谷プロの特撮作品の常連でクールな博士・科学者役で度々登場。

若林映子 
1965年「三大怪獣 地球最大の決戦」での金星人に憑依された王女役が評判になる。
「アルプスの若大将」「宇宙大怪獣ドゴラ」「キングコング対ゴジラ」にも出演。
「ウルトラQ」でもゲスト出演している。
1967年には007シリーズ5作目の「007は二度死ぬ」に浜美枝と共にボンドガール
に抜擢され、エキゾチックな容姿が人気を博す。

二瓶正也
東宝の怪獣シリーズ、クレージー・シリーズ、若大将シリーズの常連。


(3)桜井浩子、西條康彦
桜井浩子
「ウルトラQ」にカメラマン・江戸川由利子役で出演。
「ウルトラQ」のレギュラー陣で一人だけ「ウルトラマン」でも起用され、科学
特捜隊のフジ・アキコ隊員役を演じる。
テレビの特撮番組におけるヒロインの草分け的存在となった。

西條康彦
「ウルトラQ」で主人公・万城目淳(佐原健二)の助手・戸川一平役で出演。


(4)カラー作品という条件
「ウルトラQ」制作にあたりTBS側としては「世界のツブラヤ」の知名度を生か
して海外販売を目論んでいた。
しかし米国三大ネットワークと放送契約を締結できず、その理由は白黒作品であ
ったためと当時はTBSは考えていた。


(5)怪事件を専門に扱う架空の公的機関
「ウルトラQ」は放送評論家から「民間人が毎回怪獣に遭遇するのは不自然」と
いう意見がかなり出ていた。


(6)怪獣と互角に戦える正義のモンスター
「ウルトラQ」の2クールでは怪獣同士が戦う企画も検討されていた。
また1965年公開の東宝映画「フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン」も
影響していると言われている。


(7)「ウルトラQ」のレギュラー俳優を1人残す
桜井浩子がフジタ隊員役で残った。
当初は桜井浩子は主人公の妹役で女性隊員役には別な女優が候補になっていた。
個人的には「ウルトラセブン」のひし美ゆり子演じるアンヌ隊員が好きだった。


(8)カラーフィルム
当時テレビ映画は通常16mmフィルムを使用しており(映画界からの差別化の
要望のため)、テレビ局には16mmテレシネ用プロジェクター(映像をテレビ
信号に変換する)しか持っていなかった。
「ウルトラQ」は円谷英二の「16mmのクォリティでは特撮は出来ない」との
主張で劇場映画用と同じ35mmフィルムで撮影し放映用フィルムとして16mm
に縮小するという手法が採られた。
「ウルトラマン」では特撮を35mm、本編を16mmで撮影している。
円谷特技プロは16mmカラーフィルムのテストに時間をかけたそうだ。


(9)ホリゾント
舞台やスタジオで使われる背景用の布製の幕または壁。空や空間を表す。


(10)「ウルトラマン」の制作スケジュール
スタジオと撮影機材のレンタル料も大きな負担になっていたという。
番組の続行を望むTBS側とこれ以上は不可能とする円谷特技プロとの間で協議
が重ねられ、赤字はともかく週1回の放送に間に合わないのが確実になった。
そのため3クール39話の放送で終了することが決定した。

制作体制の見直しが行われ、続編「ウルトラセブン」放送までの半年間は東映
制作の宇宙開拓ドラマ「キャプテンウルトラ」が放映されることになった。
東映は特撮テレビドラマへの参入に意欲を燃やしていたのだが、やはり東宝・
円谷特技プロ作品と比べると見劣りしてしまう。
冨田勲作曲のテーマソングはよかった。


(11)英国の人形劇による特撮ドラマ「サンダーバード」
1965年〜1966年に英国で放送された人形劇による1時間枠の特撮テレビ番組。
人形劇でありながらその模型のリアルさ、質感の充実、子供でも理解できる
単純なストーリー、人命救助というスリリングかつ前向きで健全なイメージ、
全てが明確な世界観を提示して大好評を博した。
ロケット噴射の描写などの特撮技術も優れており、その後の特撮作品への多大
な影響を及ぼした。
登場するメカもデザイン的に極めて斬新かつ洗練されていた。
音楽もオーケストラサウンドを基本に、質が高く映像にマッチしたものだった。

日本でも1966年〜1967年にNHKで放映されその後は民放で再放送されている。
しかしアメリカ三大ネットワークへのセールスは失敗したため、アメリカでの
「サンダーバード」の知名度は低い。


(12)「ウルトラマンの歌」の3種類の音源
最後の部分の歌い方など違いがあるらしい。
僕はマニアじゃないので知らないけど(笑)
放送回によってどのタイプが使われているか変わるそうだ。


<参考資料:Wikipedia他>

0 件のコメント: