2020年5月2日土曜日

孤高のギタリスト、ジェフ・ベックの軌跡(1)JBG期

これまでジミー・ペイジ、リッチー・ブラックモアについて、またことあるごとに
クラプトンにも触れてきた。ならば、そろそろこの人について書かないと。


ということで、今回からジェフ・ベック特集。



僕がラジオでジェフ・ベック・グループを最初に聴いたのは中学2年の時。
監獄ロック(Jailhouse Rock)だった。

この時は元歌がエルヴィスだということも、ロッド・スチュワートが ボーカルで、
ロン・ウッドがベースで、ニッキー・ホプキンスがピアノを弾いていることも
知らなかった。ただただカッコイイ曲だなあ、と思った。




↑クリックするとジェフ・ベック・グループのJailhouse Rockが聴けます。



<ヤードバーズからソロ活動へ>

ジェフ・ベックはジミー・ペイジの紹介でクラプトン脱退後のヤードバーズに参加。
(二人は同じアート・スクール出身で旧知の仲だった)
ヤードバーズのベースが脱退すると、ベックは後任ベーシストにペイジを誘う。
やがてヤードバーズはベックとペイジのツイン・リード編成で活動するようになる。




↑映画「欲望」(1)にカメオ出演したStroll Onを演奏するヤードバーズ。
ギターを壊すベック。ペイジが引いてるのはベックにもらったテレキャスター。


ヤードバーズ時代ベックは1954年製エスクワイヤを愛用。
それまで使用していたテレキャスターをペイジに譲る。
上記の映画で弾いてるのは、破壊しやすい(笑)薄型のホロウボディだ。
ベックがヤードバーズ時代に愛用していたVOXのAC-30が映っている。



ヤードバーズ脱退後ベックはミッキー・モスト(2)とプロデュース契約を結び、
シングルHi Ho Silver Lining / Beck's Bolero(1966年)をヒットさせる。

Hi Ho Silver Liningはベックのボーカルでお世辞にも上手いと言えない(^^)
ベックも本意ではなかったらしく、後に「自分の首にピンクの便座をかけさせること
になった曲」と語っている。


B面のBeck's Boleroはジミー・ペイジの提供曲で彼自身が12弦ギターで参加。
ジョン・ポール・ジョーンズ(b)、キース・ムーン(ds)、ニッキー・ホプキンス(p)と
豪華な顔ぶれによるインスト。





↑ヤードバーズ時代のベックとペイジ。


その後Tallyman / Rock My Plimsoul、Love Is Blue(恋は水色) / I've Been 
Drinkingと2枚のシングルを発表したが、こうしたミッキー・モスト主導のポップ
路線はベックにとっては不本意だった。
(両シングルともB面はロッドが歌うブルース・ナンバーである)



<第一期ジェフ・ベック・グループ>

ベックはバンドを結成。第一期ジェフ・ベック・グループ(1967-1969年)である。
ロッド・スチュワート(vo)、ロン・ウッド(b)、ニッキー・ホプキンス(p)が在籍。
ドラムはなかなか定着しなかった。


バンドはアルバム、トゥルース(Truth 1968)の制作に入る。
ライヴでのレパートリーから選曲し、4日という短期間で完成させた。

プロデューサーのミッキー・モストがドノヴァンのレコーディングにかかりきりだ
ったおかげで、ベックの意向が十分に反映されブルースのカヴァー主体となった。
ベックの歪んだギター+ロッドのしわがれ声が斬新かつパワフルである。




↑ クリックするとYou Shook Meの演奏シーンが観られます。



この曲はカヴァー。ツェッペリンの1st.アルバムでも取り上げられている。
ベックは1968年頃からチェリーサンバーストの1959年製レスポールを弾いている。
クラプトンがレスポール+マーシャルで出す音に魅了され入手したそうだ。
残念ながらこのレスポールは盗難に遭ったそうだ。



僕が聴いた監獄ロック(Jailhouse Rock)は第一期ジェフ・ベック・グループ
の2枚目のアルバム、ベック・オラ (Beck-Ola 1969)に収録されている。
プロデューサーはミッキー・モスト。前作と違い、オリジナル曲が大半を占めた。

この時期ジェフ・ベック・グループはドノヴァン(プロデューサーが同じミッキー
・モストだったためだろう)のレコーディングに参加。
ドノヴァンのBarabajagalではベックの攻撃的なギターが聴ける。

ベック・オラ (Beck-Ola)リリース直前にニッキー・ホプキンスが脱退。
ロッドとロンもフェイセズに加入するため脱退。
第一期ジェフ・ベック・グループはアルバム2枚を残しただけで空中分解する。



<BBA構想のきっかけはコカコーラのCMだった>

ベックは当時バニラ・ファッジのティム・ボガート、カーマイン・アピスによる
強力なリズム・セクションに衝撃を受けていた。
一方、ボガートとアピスもベックの才能を買っていた。

彼らはベックをセッションに招くことにする。
そのセッションとは、コカ・コーラ社より依頼されたCM音楽であった。

コカコーラ社は全米で1964年にThings Go Better with Cokeというスローガン
広告キャンペーンを始め、1969年までいろいろなメディアで展開していた。(3)





その一環として1965〜1969年にキャンペーン・ソングをいろいろなアーティスト
に歌わせる、というユニークなラジオCMを放送していた。(4)

歌う曲、曲のアレンジはそのアーティストたちごとに自由で、個性を存分に出し、
落とし所だけ同じThings Go Better with Cokeにするという洒落たCMだった。
米国のポップス、R&Bから英国のロック・バンドとその幅は広く多彩であった。

1969年にバニラ・ファッジに依頼が来るが、この時ギターのヴィンス・マーテル
が怪我をしていたため、代役としてベックに参加要請したのだった。




↑クリックするとバニラ・ファッジのコカ・コーラのラジオCMが聴けます。


セッションで互いの力量を確かめ合い、意気投合した3人は新グループ結成に動く。
(ベックはロッドをボーカルに迎えたかったが、ロッドはフェイセズに加入した)

しかし新バンド結成の直前、1969年11月に交通事故を起こし全身打撲の重症を負い、
3ヶ月の入院を余儀なくされる。新バンドの構想は白紙となった。
(当時ミュージック・ライフで報じられていたのを憶えている)

そのため翌年ヴァニラ・ファッジ解散後ボガートとアピスはカクタスを結成。
新バンド構想が流れ、ベックは1970年後半に新しいメンバーを集める。



<第二期ジェフ・ベック・グループ>

第二期ジェフ・ベック・グループ(1970-1972年)は、従来のブルースロック路線
と異なり、モータウンやファンクなどの影響を受けている。

ラフ・アンド・レディ(Rough and Ready 1971)はベック本人のプロデュース。
ジェフ・ベック・グループ (Jeff Beck Group 1972)はスティーヴ・クロッパー(
ブッカー・T&ザ・MG’s)にプロデュースを依頼している。
このことからもこの時期、ベックが黒人音楽に傾倒していたことが伺える。




↑クリックすると1972年ドイツのTV番組Beat Clubでの演奏が観られます。


この時期ナチュラルのストラトキャスターを使用するようになる。
既にトレモロアームも使用している。
ストラトを使うようになったのはジミ・ヘンドリックスの影響だろうか?
(クラプトンもそうだと言っていた)



コージー・パウエル(ds)マックス・ミドルトン(kb)という実力者が加わった
一方ボーカルの二人(途中で交代した)はいずれもロッドほどの切れ味はない。
僕が好きなのもボーカルの入ってないギターのインスト曲だ。



(写真:gettyimages)
↑クリックするとI Can't Give Back the Love I Feel for Youが聴けます。


<脚注>


(1)映画「欲望」
1967年イギリス・イタリア合作映画。(原題:Blowup)
脚本・監督はミケランジェロ・アントニオーニ。
スウィンギング・ロンドンと言われた当時のイギリスの若者のムーブメント、モッズと
呼ばれたファッションを織り交ぜながら奇妙で不条理な独特の世界観を描いている。
音楽はハービー・ハンコック。ヤードバーズがライブハウスのシーンで出演した。
当初ザ・フーの出演でピート・タウンゼントにギター破壊を依頼したが断られた。
映画では監督の要望通りベックがギターを壊している。


(2)ミッキー・モスト
アニマルズ、ハーマンズ・ハーミッツ、ドノヴァン、スージー・クアトロを手がけた
英国のプロデューサー。
ポール・マッカートニーと決別したメリー・ホプキンのプロデュースも行っている。
彼女のフォーク志向は反映されず、ポール以上にポップス路線になってしまった。
ドノヴァンをフォーク路線からロックに転向させたのはモストの功績だろう。
英国のミュージシャンに顔がきく彼は、ドノヴァンのバックにまだスタジオの仕事を
していたジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナムを起用。
ドノヴァンのBarabajagalではジェフ・ベック・グループと共演させている。
モストは売れる嗅覚に優れたプロデューサーだったが、1970年代は衰退していく。


(3)コカコーラ社のThings Go Better with Coke広告キャンペーン
コカコーラ社は全米で1964年〜1969年に「Things Go Better with Coke」という
スローガンで広告キャンペーンをいろいろなメディアで展開していた。
モデルとコカコーラの配置、赤をうまくあしらった色使い、タイポグラフィ、写真
のトリミング、ホワイトスペースの取り方、レイアウト、すべてが完璧な広告だ。



(4)Things Go Better with CokeラジオCMに参加したアーティスト
マーヴィン・ゲイ、シュープリームス、マーヴィン・ゲイ、アレサ・フランクリン、
フィフス・ディメンション、シュレルズ、ロイ・オーヴィソン、ナンシー・シナトラ、
ジャン&ディーン、レスリー・ゴーア、エヴァリー・ブラザーズ、B・J・トーマス、
サンディー・ポジー、といった全米チャートを賑わす一流シンガーばかり。

さらにビージーズ、ムーディー・ブルース、メリー・ホプキン、トレメローズ、
ヴァニラ・ファッジ、ペトゥラ・クラーク、ルル、トム・ジョーンズなど英国のバンド
やシンガーも起用している。
各アーティストならではのアレンジでカヴァーされた「Things Go Better with Coke」
はどれも絶品で聴いてる楽しい。


<参考資料:ギタファン-GitaFan-、エレキギター博士、イシバシ楽器店、 YouTube、
Wikipedia、Amazon、rockin’on.com、Rolling Stone、gettyimages、他>

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