2021年9月4日土曜日

レット・イット・ビー2021リミックス10月15日世界同時発売。

 <映画の遅れとリミックス盤発売延期の経緯>

2020年5月に50周年記念盤として発売され、同時にピーター・ジャクソンが編集した
新しい映画「ゲット・バック」が同時公開される予定だった。

ご存知のとおりコロナ渦で映画の制作が遅れ、2021年8月公開に延期。
さらに6月、劇場公開はせずディズニープラスで独占配信されることが決まった。
6時間超えのドキュメンタリー作品を11月25〜27日に各2時間、配信するそうだ。


編集の過程で2時間に収めるのが難しいと判断したとのことだが、そもそもこの映画の
ために劇場に足を運ぶ人はそれほど多くない。
興行としての成功は望めない、という判断もあったのだろう。コロナ渦でもあるし。

作品は4人の会話の部分が多く笑える作品(?)になるとか。
42分間の屋上コンサートもほぼフルで見られるが、ビートルズの演奏シーンだけでなく、
4分割画面でビル下の路上を行き交う人や警官の様子が同時進行で映されるらしい。
大画面で見ない限り見づらいし、もっと4人の演奏を見せろという声も挙がりそうだ。

半年後か1年後にはDVDとBlue-Rayのボックスで発売されるだろう。
1970年公開の映画「レット・イット・ビー」レストア版も加えられるかもしれない。



↑クリックするとが新しい映画「ゲット・バック」ティーザーが視聴できます。


で、一緒に延期になってたCD、LPはどうなってるのか?

先週やっと「10月15日世界同時発売」の正式発表が出た。

今日はその内容、解禁になった3曲音源のレビューとそこから見えてくるリミックスの
全体像について語りたいと思う。



<レット・イット・ビー2021リミックスの発売形態>

一連の50周年記念盤に準じ1CD、2CD、5CD+1Blu-ray+豪華本入ボックスの3種類。
ビニール盤は1LP、1LPピクチャーディスク、4LP+EP。
加えてデジタルでの配信となる。


CDの方で解説しよう。
1CDはフィル・スペクターがプロデュースした1970年盤のリミックス。


これ見よがしのウォール・オブ・サウンドでビートルズの新譜を台無しにしただの、
当初のアルバム・コンセプトの「原点に帰り、オーヴァーダブしない一発録り」を
ぶち壊しにしただの、厚化粧のロング・アンド・ワインディング・ロードにポールが
激怒し解散宣言に至っただの、物議を醸し出したアルバムであった。

蚊帳の外だったジョージ・マーティンも「馬鹿なことをした」と批判している。
一方ジョンは絶賛。ジョージも評価し2人は自身のソロ作品の制作をフィルに委ねた。


1970年当時、確かにそれまでのアルバムとの違和感を覚えた人は多かった。
しかし時を経て、好むと好まざるとビートルズの作品として定着してるのも事実


日本人が最も好きなビートルズの曲はレット・イット・ビーだそうだが(何で?)、
その人たちが耳にしているのはシングル・ヴァージョンではなく、スペクターによる
アルバム・ヴァージョンのラウドなサウンドの方である。
テレビやラジオで流れるのも、ほぼ間違いなくアルバム・ヴァージョン。

ほとんどの人が2ヴァージョンあることも、同じテイクであるのにミックスが違うこと
、間奏のギターソロが違うことも知らないはずだ。
アルバム・ヴァージョンでのジョージのソロは屈指の出来である。


アクロス・ザ・ユニヴァースも通常流れるのはアルバム・ヴァージョンだ。
ネイキッドに収録されたギターとタンブーラだけの方がシンプルで美しい。
それでも人々の心に刻まれているのは半音スピードを落とし女性コーラスやストリングス
をかぶせた大げさな方なのである。




因縁のロング・アンド・ワインディング・ロードにしてもそうだ。
アンソロジー3でフィルの加えた女性コーラスとストリングスを剥がされたミックスが
公開され、ネイキッドには映画で使われたシンプルな別テイクが収録された。
だが、どこか物足りない。さんざん耳にしたスペクター版に洗脳されてしまったのか?

ポールでさえ自身のツアーでカヴァーする際は、シンセでブラスやストリングスの
音を加えている。
観客が聴きたいロング・アンド〜はスペクターの施したアレンジなのである。


ジョージのオール・シングズ・マスト・パス50周年記念盤ではダーニ・ハリソンにより
ウォール・オブ・サウンドとリバーブが剥がされ、埋もれていた音までクリアにする
脱スペクター・サウンド(海外ではDespectorizationと称されている)に生まれ変わり、
賛否両論が起きている。

レット・イット・ビーはそこまではやらないだろう。やれないだろう。
プロデューサーのジャイルズ・マーティンとミキシング・エンジニアのサム・オケル
がスペクター・サウンドをどう解釈し、どこまでいじるのか、今の時代に聴いても
古さを感じさせないミックスの着地点をどこにするのか。。。非常に興味深い。



<新生レット・イット・ビーから窺えるアルバム全体の音作り>


解禁になった3曲のうち1つはアルバム収録のレット・イット・ビー
つまりスペクター・サウンドのリミックスである。さっそく試聴してみた。
2009リマスター(1970年のオリジナルのミックス)と比較してみよう。



↑クリックするとLet It Be (Remastered 2009)が聴けます。



↑クリックするとLet It Be (2021 Mix)が聴けます。
(写真は5CD+1Blu-ray+豪華本入ボックスの表紙)


2021ミックスはピアノがやや左から聴こえて来るが、低い鍵盤を弾いてるため。
聴いてるうちに左右に広がっていることが分かる。

最初のジェネレーションのテープではピアノはステレオ録音だったと思われる。
当初一発録りの予定だったためピアノに2本マイクを立てる余裕があったのだろう。
(後に「重ねない」は反故にされリダクションしオーヴァーダブされるが)


ヴァース2から入るリンゴのハイハット。
本当は2拍目と4拍目に入れてるだけだが、フィルはエコー処理でチチチチ・・・と
2拍目と4拍目に16分音符で叩いているように聴こえる処理をしている。
2021ミックスでも同じだが音量は抑えられている。

次に入るベースもスペクター・ヴァージョンでは音が大きかったのが補正されている。
映画でも見られたようにベーシック・トラックではジョンがフェンダー6弦ベースを
弾いているが、後からポールが入れ直したようだ。
(ジョンのベースはこんなにうまくない)

リンゴのドラムも適度な音量に補正された。
この人の癖なのだろう。シャッフル気味の8ビートになっている。
そのハネ感のおかげで単調にならない。
ただスペクター・ヴァージョンではドラムの音量が過剰だったと思う。




ドラムは1トラックに録音されていて、オリジナルも今回もモノラル。
When the night is cloudyで入るタムの連打はステレオ感が出た。
(2009リマスターではモノラルだった)

これはちょっと謎。タム連打は後から追加されたものと思われる。
この時点でビートルズは「オーヴァーダブしない一発録り」を放棄していた。
8トラックをリダクションし重ねて行ったが、タムに2トラックも割かないはず。

想像だが、モノラル音源にステレオ処理を施したんじゃないだろうか。
ポコポコと単音だから、小刻みに切って左右に振り分けることも可能ではある。
音が途切れないようコピペしてデュレイションも調整したのではないか。



左から聴こえてたLet It Be...のコーラスはセンター後ろから左右に広がった。
オルガンはセンターからやや右へ、ブラスはセンターから左へ。
かぶりがないためすっきりし、次に入ってくるジョージのソロもセンターで際立つ。




そのジョージのソロも強いトレブリー感が抑えられ聴きやすくなった。
ちなみにジョージはこのテイクに3種類のギターソロを録音している。
ラウドに鳴るメインのソロの背後で隠しトラックのようにもう1台の音が聴こえる。
この聴こえ方も変わっていない。

グリン・ジョンズのシングル盤ではレズリーの回転スピーカーを通したソロがメインで、
隠しトラックのギターが背後で鳴っていた。
Shinin' until tomorrow, let it beの後、最後のlet it beリフレインでディストーション
の効いたギターが登場するが音量は抑えられている


スペクター・ヴァージョンでは間奏の時ポールのピアノが排除されている。
2021ミックスでは左からピアノがしっかり聴こえ、ギターソロの後半に8拍でオクター
上のコードを叩いているのも確認できる。
(グリン・ジョンズのシングル盤でも左から聴こえていた。ギターは右)

最後のヴァース、I wake up to the sound of musicの後、motherの箇所だけピアノ
がAmではなくFになる。これはポールのミスタッチ。
一瞬あれ?と思うが、コード構成音としては近いので成立するしむしろ変化が出る。
(ネイキッドではこのミスタッチが補正されていたが、今回はいじらずそのまま)




レット・イット・ビー1曲を聴いただけでアルバムを総括するのは勇み足だが、2021
ミックスはオリジナルのスペクターに準じながら、極端な部分を修正し自然で聴きやす
いミックスにしてある、と感じた。
少なくともこの曲を聴く限り、いい仕事してるなーという印象。期待できそうだ。



フォー・ユー・ブルーでフィルはイントロ以降のジョージのアコギを隠してしまうと
いう愚かなミックスを行っている。
ジョージのギターはこの曲の聴きどころなのに。
新ミックスではこういう埋もれたビートルズの演奏を聴かせて欲しい。




アクロス・ザ・ユニヴァースもスピード補正をして本来のジョンの声で聴きたい。
女性コーラスとストリングスはあんなに大げさじゃなくてもいいだろう。

ロング・アンド・ワインディング・ロードだって厚化粧すぎる。
ジョンの6弦ベースの下手な演奏、ミストーンを隠す意味もあったんだろうけど。
ジョージのギターも消されていた。

その辺、スペクター版を踏襲しつつ埋もれてしまった本来のビートルズの演奏も救済
し、このレット・イット・ビーのようにうまくバランスを取って欲しいものだ。



<スペシャル(スーパー・デラックス)エディションの内容>

5CD+1Blu-ray+豪華本入りボックスを見てみよう。

CD1 アルバム「レット・イット・ビー」2021ミックス 
CD2&3 未発表アウトテイク、スタジオ・ジャム、リハーサル 27曲
CD4 未発売アルバム「ゲット・バック」グリン・ジョンズ・ミックス
CD5 「レット・イット・ビー」シングル盤+グリン・ジョンズ2ndミックス2曲
Blu-ray アルバム「レット・イット・ビー」2021ミックスのハイレゾ(96kHz/
24-bit)、5.1サラウンドDTS、ドルビー・アトモス・ミックスのオーディオ音源
本文100ページの豪華ブックレット付、豪華ボックス仕様

(日本盤のみ SHM-CD仕様、英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付)



↑スーパー・デラックス・エディション発売のトレーラーが見れます。







Amazonで先行予約が始まっている。
迷わず5CDのスーパー・デラックス・エディション輸入盤をオーダーしましたよ!

なぜかというと。。。。




未発売アルバム「ゲット・バック」グリン・ジョンズ・ミックスが欲しいから。
(ブックレットや豪華ボックスは場所を取るからストックルームに放り込む)



<Disc 4 未発売アルバム「ゲット・バック」グリン・ジョンズ・ミックス>

良質なブート(1969年当時、発売直前にラジオ局に配られたサンプル盤が音源)
脳内再生できるくらい聴き込んでいてるのだが。。。
やはり半世紀を経て公式盤が入手できるということは大事件だし感無量だ。

このアルバムに関してはリミックスは行わず、当時のグリン・ジョンズのミックス
を元に新たにリマスタリングしたようだ。(2009リマスターのようなもの)


解禁された3曲のうち2つ目はこの「ゲット・バック」収録のフォー・ユー・ブルー
曲名がなかなか決まらずGeorge's Blues→Because You're Sweet and Lovely
→For You Blues→For You Blueという流れでようやく着地したらしい。



↑クリックするとFor You Blue (1969 Glyn Johns Mix)が聴けます。


この曲が録音されたのは1969年1月25日。(この1日しか録音されていない)
セッションの場所をトゥイッケナム撮影所からアップル・スタジオに移し、仕切り直し
になって4日目のレコーディングだった。

ジョージはギブソンJ-200の5フレットにカポタストを付け力強いストラミングで演奏。
(11小節目のAでクリシェからEに移行する箇所はかなりテクが要る)

ジョンはラップスティール・ギター、ポールはピアノの鉄線に紙を挟んでミュートさせ
トイ・ピアノのような効果を出している。リンゴのドラムはシンプルなシャッフル。

極めてシンプルな編成で数テイク録音。テイク6が「ゲット・バック」に収録された。
ジョージがイントロをトチってジョンに急かされやり直していのが聴ける。

演奏はスペクター版「レット・イット・ビー」収録と同じものである。
ボーカルにはかなりリバーブがかかり、部分的にADT処理されてる箇所もある。




「レット・イット・ビー」には1970年1月8日にジョージがボーカルを録音し直したもの
が収録された。ボーカルだけ別ヴァージョンということになる。
間奏でのWalk, walk cat walk, Go Johny go, Same ol' 12-bar bluesも後からの録音
で、「レット・イット・ビー」 では聴けるが「ゲット・バック」には入ってない。

フィル・スペクターはイントロ以降、ジョージのギターを隠してしまうという不可解
なミックスをしてしまった。
一方、お蔵入りの「ゲット・バック」ではジョージのギターが堪能できる。

楽器の定位も異なり、グリン・ジョンズ版ではピアノが左、ラップスチールが右。
(スペクター版では逆でセンターのドラムの音が大きい。
またヴァースごとに最後の12小節にだけ6弦ベースが加えられた)


演奏が終わってからジョンとポールの声が聴こえるが、ブートの「ゲット・バック」
で聴いてた頃には入っていなかった。
グリン・ジョンズのミックスには入ってたが、当時のマスタリングの段階でカット
されたのかもしれない。今回のリマスターでは最後の会話も入れたのだろう。





<Disc 2 アップル・セッションズ>

CD2 アップル・セッションズは未発表アウトテイク集である。
ビートルズは1月22日〜31日にアップル本社ビルのスタジオで(やっと)本腰を入れて、
テイクを重ねて曲の仕上げに取り組んだ。

こういう時のビートルズの集中力、演奏力はすごい。
どの曲も納得が行くまで何テイクも続けて演奏しているのだが、テンポは一定に保たれ、
どのテイクも完成度が高く、聴いててもテイクごとの違いが分らないくらいだ。

その中でも正規盤「レット・イット・ビー」収録音源とは一味違う、聴き処のあるテイク
や遊び心のある演奏を選んで編集してあるのだろう。



解禁された3曲目は屋上コンサートのドント・レット・ミー・ダウン1回目の演奏



↑クリックするとDon’t Let Me Down (First Rooftop Performance)が聴けます。


1月30日にアップル本社の屋上で行われたコンサートではこの曲を2回演奏している。
歌詞のカンペを用意してもらったにもかかわらず、ジョンは1回目で2番の歌詞を忘れて
意味不明の言葉で誤魔化し、2回目の演奏では1番の歌詞を間違えた(笑)

1970年公開の映画「レット・イット・ビー」ではこの1回目の演奏が見られる。
ネイキッドでは2つのテイクからいいとこ取りのツギハギ編集で歌詞間違いは葬られた。

同時に制作されたプロモーション・ビデオでポールとジョージが「またかよ」という感じ
で笑ってるのは、ジョンが歌詞を間違えたからだが、音声は差し替えられ歌詞の間違いが
ないので、事情を知らない人には何で二人が笑ってるのか分らない。

屋上ヴァージョンではDon’t Let Me Down〜♬のコーラスが3声。
ジョンの上にポール、ジョージが下でハモっている。




映画ではジョージの下のコーラスがやけに大きく聴こえた。
ネイキッド収録の屋上テイク1+2でもポールとジョージのコーラスの圧が強かった。

新リミックスではポールとジョージが抑えられ、ジョンの声が前面に出ていい感じだ。
曲の前後の声やカウントも入ってて臨場感がある。このテイクは絶品だ。

グリン・ジョンズが編集したシングル盤ゲット・バックのB面がベストテイクだろう。
しかし、この屋上テイクも捨てがたい(ジョンの歌詞間違いもご愛嬌)と初めて思った。
シングル盤でほとんど聴こえないジョンのギターがしっかり聴こえるのも嬉しい。




ドント・レット・ミー・ダウンの録音が開始されたのは1月22日。
サヴィル・ロウのアップル・スタジオでのセッション初日だ。
この日録音されたテイクは上述の未発表アルバム「ゲット・バック」に収録された。

ドリフターズの「ラストダンスは私に」のカヴァーからメドレーで演奏して中断。
「今度はまじめにやろう」と再度トライしているが、まだラフな演奏である。
(ジョンは自信作の完成度が低いテイクが収録されたのを嫌ったのではないか)

1月28日にビリー・プレストンが参加しゲット・バック、ドント・レット・ミー・ダウン
の2曲を集中的に何テイクも録音し、2曲ともこの日録ったテイクがシングル盤となる。
この日の録音でDon’t Let Me Down〜♬とハモるのはポールだけである。

1月28日録音(シングル盤)のドント・レット・ミー・ダウンではジョージがレスポール
を弾いているが、屋上コンサートではフェンダーのオールローズ・テレキャスター、と
いう話をどこかで読んだ記憶があるのだが出典が思い出せない。。。。





アップル・セッションズにはフォー・ユー・ブルー(テイク4)、レット・イット・ビー
(テイク10)、アイヴ・ガッタ・フィーリング(テイク10)、ディグ・ア・ポニー
(テイク14)、ゲット・バック(テイク19)、ワン・アフター・909(テイク3)と
完成前のテイクが収録されている。たぶん初公開の音源だろう。


おやっ?と思ったのが、ロング・アンド・ワインディング・ロード(テイク19)
セッションの最終日、1月31日に録音されたこのテイク19がベストとされた。
ビリー・プレストンのオルガン間奏が秀逸であり、ジョンの6弦ベースもこのテイクで
はミスせず無事に完奏している。このテイクは映画で見ることができる。




しかし、なぜかグリン・ジョンズの「ゲット・バック」も、スペクターの「レット・
イット・ビー」も1月26日録音のテイクを使用している。

この26日はジョージ・マーティンが顔を出し(映画でも登場する)この曲でアコギを
弾いてはどうか、と口を挟む。
ただし音が薄くなるため、アコギの音をレズリーの回転スピーカーからも鳴らし、生音
とステレオで録音することにした。

この段階ではまだリハーサルに近く完成度が低い。
ジョンは6弦ベースで何度かミスノートを出しているし、マーティンの思い付きのアコギ
はジャカジャカ鳴ってて邪魔してる感が否めないし、リンゴのドラムもラフであった。


グリン・ジョンズはリハーサル感を出す意図でアルバムを編集したので、1月26日の完成
度の低いロング・アンド・ワインディング・ロードを選んだのかもしれない。
だが、フィルまでもが何でわざわざこのテイクを使ったのだろう。

結局ジョージのアコギを取り除き、ジョンのミスの多いベースを目立たなくするべく、
壮大なストリングスとブラスと女性コーラスをかぶせて厚化粧にしてしまったのだ。




1月31日のテイク19を使えばそんな愚行は必要なかったはずだが、ビリー・プレストン
のゴスペル感ある間奏も含め、フィルの気に入らなかったのか?
テイクは何でもよく、お得意のウォール・オブ・サウンドに仕上げれば満足だったのか?
(ストリングスとブラスと女性コーラスを取り除いたビートルズだけのシンプルな演奏
はアンソロジー3で聴くことができる)


1月31日録音のテイク19はネイキッドで初めて公式盤として発表された。
が、ご存知のとおりこのアルバムはすっぴんだがツギハギの整形(編集)だらけだ。
何もいじってない本当のテイク19は今回、初披露かもしれない。


もう1つ、気になったのは アイ・ミー・マイン(テイク11)である。
グリン・ジョンズの2nd.ミックス(後述)およびスペクター版レット・イット・ビー
に収録されたのはテイク16である。




アイ・ミー・マインは映画で演奏されてるため、アルバムも入れることになった。
急遽1970年1月3日にジョンを除いた3人がアビイロード・スタジオに集まり録音。
(この日がビートルズとしての最後のレコーディング・セッションとなった)

3人は16テイク録音し、最後のテイク16をベストとしオーヴァーダブを加え完成した。
テイク11は初登場の音源であるが、どんな感じなんだろう?興味津々。


尚、2CDとして発売されるものはレット・イット・ビー2021ミックス+Disc 2のアウト
テイク集である。
未発売アルバム「ゲット・バック」は必要ないなら、高額なボックスを買うよりも、
この2CDで充分楽しめると思う。







<Disc 3 リハーサル・アンド・アップル・ジャムズ>

オール・シングス・マスト・パス、ギミ・サム・トゥルース、アイ・ミー・マイン、
シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー、ポリシーン・パン、
オクトパス・ガーデン、オー! ダーリン、サムシングなど半年後アビイロードで録音
される曲、解散後ソロで取り上げる曲のリハーサルが聴ける。

と言っても、前半のトゥイッケナム映画スタジオで行われたまとまりの悪いセッション
で、ほとんどが既にブートで出回っている音源やアンソロジーでの既出音源だろう。




モノラルと記されてる曲は、マルチトラックで録音された音源ではなく、撮影用カメラ
とシンクロして音声を記録するナグラ・テープレコーダー(1)の音源。
時々ビープ音が入る。(大量のブートもこのナグラ・テープが流出したものである)


ザ・ウォーク(ジャム)はポールによる即興のブルース・ジャム。
9月22日にボストンのラジオ局WBCNでの放送用アセテート盤に収録されていた。

WBCNで放送された音源はアルバム「ゲット・バック」よりさらにラフな演奏である。
レット・イット・ビーは1月25日に録音されたリハーサルに近いテイクで、イントロも
最終形とは異なる。(後にアンソロジー3に収録された)



↑ブートの名盤WBCN GET BACK REFERENCE ACETATEの裏ジャケット。


「ゲット・バック」の発売が延期され、8月に「アビイ・ロード」のレコーディングを
終えていたこのタイミングでなぜこの音源を流したのか?
(この時のアセテート盤も流出しビートルズ初のブートKum Backの元となった)

ザ・ウォークはアンソロジーにも収録されず、公式発表は今回が初めて。


ゲット・バック(テイク8)は初登場かもしれない。
セッション前半からリハーサルを行っていたが、録音が開始されたのは1月23日。
この日に10テイク録音している。その中の一つだ。
1月27〜28日に録音された最終テイクとは違ったラフな演奏なのだろう。


レット・イット・ビー(テイク28)も気になる。

この曲が録音開始されたのは1月25日。(前述のようにアンソロジー3で聴ける)
セッション最終日の1月31日に9テイクを録音。

テイク27がベストと判断され、3ヶ月後の4月にジョージのレズリースピーカーに通した
ギターソロをオーヴァーダブ。
さらに翌年1970年1月4日にジョージの歪んだギターソロ、コーラスが追加録音された。
(一発録りのアルバムのはずだったが、この曲で最初にそのルールを破ってしまった




さて、そのベストとされたテイク27の演奏終了後ポールは「今のはよかった、もう一回
」とテイク番号も付けずに、そのまま続けて演奏している。
記録ではテイク27-Bとされていたが、このテイク28がそうなのか?また別なのか?



<CD5 レット・イット・ビーEP 4曲>

先行シングルとして発売されたレット・イット・ビーはジョージ・マーティンのプロ
デュース名義(実質グリン・ジョンズ)で、アルバム収録のスペクター・ヴァージョン
と同テイクだがミックスが違う。(前述の2009リマスター参照)




ピアノは左、コーラスは左から右へ移動、ドラムはセンター奥で控えめ(ハイハット
にエコーはなし)、ベースは右で音が小さい、ブラスは左でこれも薄め、間奏前に入る
オルガンは左、レズリースピーカーに通したギターソロは右、隠しトラックのもう1本
のギターがセンターで鳴る。
最後のヴァースから入る歪んだギターはセンターで音量が小さい。


実はシングル・ヴァージョンは2015年にジャイルズ・マーティンによる新リミックスが
アルバム「1」に収録されている。
ピアノはセンターから左右に響き、次に入るオルガンは左、コーラスは右、と広がり感
が出て聴きやすくなった。ドラムとベースの定位は同じだがより鮮明になっている。
ブラスはやや左に補正された。

間奏前のオルガンは左、レズリースピーカーに通したギターソロは右、は同じであるが、
隠しトラックのもう1本のギターが後退しあまり聴こえなくなった。
最後のヴァースのタムタム、歪んだギターのオブリガードは控えめ。
エンディングは右のエレピに隠れていたギター(単音)が聴こえるようになった。



↑クリックするとLet It Be single Version (Remastered 2015)が聴けます。


「1」のレット・イット・ビーを流用するのか?新たなリミックスなのか?
尚、シングルのB面だったユー・ノウ・マイ・ネームは今回EPに収録されなかった。


不思議なのが、シングル盤ゲット・バックのリミックスが入っていない点。
グリン・ジョンズのアルバム「ゲット・バック」と同じヴァージョンではある。
が、リミックスではなくリマスターに留まっている。

ならばレット・イット・ビーだけリミックス、ゲット・バックは外すのは意味不明。
アルバム「1」で既にリミックスが行われているという点も同じなのに。

シングルB面のドント・レット・ミー・ダウンのリミックスは収録された
このヴァージョンはグリン・ジョンズ版「ゲット・バック」にも、スペクター版「
レット・イット・ビー」にも収録されていない。「1」にも収録されなかった。
2009年のパスト・マスターズで聴けるのはリマスターである。
リミックスは今回が初めて。名曲の名テイクだけに早く聴いてみたい。




アクロス・ザ・ユニヴァースとアイ・ミー・マイン(グリン・ジョンズ1970ミックス
はグリン・ジョンズ2nd.ミックスに収録されていた音源。(1970年1月5日)
映画でこの2曲を演奏していることから整合性を取るため、新たに加えられた。
(代わりにテディー・ボーイのリハーサル・テイクはカットされた)

アクロス・ザ・ユニヴァースは1968年2月に録音されたもののジョンが仕上がりに満足
できず、レディ・マドンナのB面として発表することを拒否。
スピードを早くし鳥の羽ばたきのSEを加えWWFのチャリティ・アルバムに収録された。
グリン・ジョンズはその音源をアルバム用にミックスし直した。

アイ・ミー・マインは前述のように1970年1月ジョン抜きの3人で新たに録音したもの。
スペクター版レット・イット・ビーに収録されたテイクと同じであるが、1回だけの
サビをスペクター版ではコピーして2回繰り返し尺を長くしてある。


この2曲はDisc 4の未発売アルバム「ゲット・バック」グリン・ジョンズ・ミックス
(1969年5月28日)に収録されていないので、このCD5に入れたのだろう。

4曲はDisc 2のアウトテイク集に入れることもできたはずだ。
あえてEP盤として出すほどではない。




それよりCD5はコンプリート・ルーフトップ・コンサートにして欲しかった
完全収録が無理なら、5曲のいい方のテイクだけでもいい。(2)

ディグ・ア・ポニー、アイヴ・ガッタ・フィーリング、ワン・アフター・909の
屋上での演奏はスペクター版レット・イット・ビーで聴ける。
そして今回ドント・レット・ミー・ダウンもアウトテイク集に加えられた。
ゲット・バック以外は屋上での演奏が何らかの形で聴けるわけだ。

でも、そういうことじゃないんだよね。ビートルズ最後の歴史的なライブでしょ。
この5曲をできれば演奏順に当時の臨場感そのままで聴きたい。。。
そう願っているファンは多いはず。何で分かってくれないかなー。




それとも商魂たくましいアップルとユニバーサル・ミュージックはまた別に
ルーフトップ・コンサートとしてリリースするつもりでしょうか。

6時間のドキュメンタリー映像では42分間の屋上でのパフォーマンスがほぼフルで
見られるらしい。そこから音声だけリッピングできないかな。
そういうブートが出たら買いますよ!


<追記>

9月17日に追加で4曲公開された。

Get Back (Take 8)

One After 909 (Take 3)

Across The Universe (2021 Mix)

I Me Mine (1970 Glyn Johns Mix)

Across The Universeは左右の極端な振りが補正され、それでいて主役のジョン
の声とギターを浮かび上がり、非常に聴きやすくなった。
後半のワウペダルを使ったジョージによるギターのアルペジオも前に出てきた。
スピードは半音遅いままで変更されていない。

I Me Mineはグリン・ジョンズ2nd.ミックス。リマスターだけされている。
冒頭のYou're ready  Ringo?  Ready Georgeというやりとりから2人だけで録音
された言われてたが、ポールならではの歌うベースラインがしっかり聴ける。
レット・イット・ビーに収録されたのはこのショート・ヴァージョンをコピペし
て長くしたもの。ミックスも違う。


<脚注>


(1)ナグラ・テープ

映像と音声を後でシンクロさせるため小型オープンリールで録音された音源。
スイス製オープンリール・テープレコーダー「NAGRA」で録音されている。
撮影カメラと同期して作動し、カメラ備え付けのマイクから音声を拾う。
時々ビープ音が入り、同じタイミングでフィルムにはパルス信号が記録される。
本篇で使用する音源は別途マルチトラックで録音されるわけだが、編集段階で
フィルムのパルスとナグラ・テープのビープ音をシンクロすることで、映像と
音の位置合わせの目安となる。


映画「レット・イット・ビー」で使用されたのはNagra IIIで、テープ幅は1/4
インチ」、フルトラック(一方通行)のモノラル・テープレコーダーであった。
カメラA、Bと複数のカメラごとにテープが回る。
レコーディング用テープより劣るものの音質は良好である。
撮影に使用された膨大な量のナグラ・テープが流出し、海賊盤の音源となった。


(2)ルーフトップ・コンサート演奏曲
ゲット・バック(ウォーミング・アップ)
ゲット・バック
アイ・ウォント・ユー(ジョンによる断片的なギター演奏)
ドント・レット・ミー・ダウン (今回Disc2に収録)
アイヴ・ガッタ・フィーリング (ゲット・バック、レット・イット・ビーに収録)
ワン・アフター・909 (ゲット・バック、レット・イット・ビーに収録)
ディグ・ア・ポニー (レット・イット・ビーに収録)
英国国家〜アイ・ウォント・ユー(録音テープリール交換の際に演即興奏)
アイヴ・ガッタ・フィーリング
ドント・レット・ミー・ダウン 
ゲット・バック (アンソロジー 3に収録)

<参考資料:discovermusic.jp、THE BEATLES楽曲データベース、他>

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