2015年12月20日日曜日

過ぎてゆくばかりだな、僕の旅。

岡本おさみさんが亡くなった。骨太の男臭い詩を書く人だった。
社会には辛辣だけど人を見つめる目がやさしく、体温や息遣いまで感じられ
る詩だったと思う。

岡本おさみといえば吉田拓郎。吉田拓郎といえば岡本おさみ。
これ以上ないくらいのソング・ライティングチームだった。


あまりにも有名な「旅の宿」「襟裳岬」や拓郎ファン必聴の「落陽」。
他にもこの二人の作品には名曲がいっぱいある。


愛の絆を
蒼い夏
赤い燈台
アジアの片隅で
あの娘が待っている街角
いくつもの朝がまた
いつか夜の雨が
いつも見ていたヒロシマ
歌ってよ夕陽の歌を(森山良子提供曲)
襟裳岬(森進一提供曲)
おきざりにした悲しみは
悲しいのは
からっ風のブルース
君が好き
君去りし後
こっちを向いてくれ
サマーピープル
暑中見舞い
聖なる場所に祝福を
制服
旅の宿
地下鉄にのって(猫提供曲)
月夜のカヌー
都万の秋
望みを捨てろ
野の仏
話してはいけない
花嫁になる君に
晩餐
ビートルズが教えてくれた
ひらひら
古いメロディ
歩道橋の上で
また会おう
又逢おうぜ あばよ
祭りのあと
まにあうかもしれない
まるで孤児のように
マンボウ
夕立ち
夢を語るには
世捨人唄
LAST KISS NIGHT
落陽
リンゴ
ルームライト(由紀さおり提供曲)
竜飛崎


「祭りのあと」や「おきざりにした悲しみは」はいかにも岡本おさみらしく
拓郎節とのマッチングが最高だ。

僕はほのぼのとした感じの「野の仏」「ひらひら」「蒼い夏」が大好き。




      ↑1976年「セブンスターショー吉田拓郎リサイタル」(1)
   「蒼い夏」45:13「ひらひら」52:50「落陽」1:03:45が聴けます。



「花嫁になる君に」「リンゴ」「こっちを向いてくれ」「蒼い夏」、猫への
提供曲である「地下鉄にのって」など、恋人同士や夫婦の日常的な会話や
距離感を題材にした詩は拓郎本人も書きそうである。

そういう意味で岡本おさみと吉田拓郎は相通ずるものがあり相性がよかった
と思うのだが、本人たちは必ずしもそう思っていなかったようだ。



二人の共作はおそらく1971年発表のアルバム「人間なんて」に収録された
「花嫁になる君に」が最初ではないかと思われる。

CBSソニー移籍後は「元気です」で6曲、「伽草子」で7曲、「LIVE'73」で
8曲とピークを迎え1974年の「今はまだ人生を語らず」では3曲、「明日に
向って走れ」で1曲、「ぷらいべえと」で2曲と収束しその後3年間途絶える。


共作が一番多かった1973年頃は二人とも超売れっ子で、岡本おさみはその
煩わしさから逃れたい気持ちもあったのか旅ばかりしていたらしい。
もちろん詩のインスピレーションを得る目的もあったと思う。


拓郎とは手紙や電話でやり取りをしながら曲作りをしていたそうだ。
「岡本おさみと自分とは違うところで生きている、自分とは接点がないから
話をしてもしょうがない」と拓郎は感じ「会っても喧嘩になるのではないか。
岡本おさみは岡本おさみでやればいい。自分は自分でやる」という考えに
至ったようだ。

その一方で「自分が書きたいと思っていたテーマを岡本おさみが先に書いて
しまうのが悔しかった」とも述べている。
岡本おさみの方も「吉田拓郎はもう自分の言葉だけで自分の世界を作り上げ
ている。入る余地はない。もう関与してはいけない」と感じていた。



拓郎は「今はまだ人生を語らず」では脱・岡本おさみを図る。
岡本おさみとの共作は世捨人唄」「おはよう」「襟裳岬」の3曲に減った。

実はこのアルバムは当初2枚組が予定されていたが、レコーディングの時間が
足らず16曲しか用意できなかった。(2)
そのうち12曲はアルバムに収録されたが、「ルームライト」「蛍の河」「私」
「地下鉄に乗って」の4曲は録音されたものの宙に浮いた。(3)




             ↑「蛍の河」のアウトテイク
         (自宅デモと書いてあるがスタジオ録音だろう)



「ルームライト」は由紀さおり提供曲、「蛍の河」は小柳ルミ子提供曲、
「地下鉄に乗って」は猫への提供曲でいずれも岡本おさみとの共作である。

確定していた「襟裳岬」「世捨人唄」が森進一提供曲、「おはよう」も桜井
久美提供曲で3曲とも岡本おさみとの共作。
「戻ってきた恋人」は安井かずみ作詞だが猫への提供曲。

その他の候補曲も他の歌手への提供曲ばかり。
これ以上増やすと「オリジナルの新曲で勝負」(4)というコンセプトが揺らぐ。
岡本おさみとの共作が多すぎるという思いも拓郎にはあったのだろう。


岡本おさみ+吉田拓郎チームが復活したのは1980年の「Shangri-La」で4曲、
「アジアの片隅」で5曲、1985年の「俺が愛した馬鹿」で1曲共作している。

                              (続く)
※タイトルは「竜飛崎」の歌詞の一節です。


(1)セブンスターショー
1976年久世光彦の演出によりTBS系列で放送された音楽番組。
2月15日から3月28日までの7週に渡って7回(週1回)放送された。
7人のスターによるスタジオ・ワンマンショー。
沢田研二(2月15日)、森進一(2月22日)、西城秀樹(2月29日)、
布施明(3月7日)、かまやつひろし・荒井由実(3月14日)、
五木ひろし(3月21日)、吉田拓郎(3月28日)
ぜひDVD化してもらいたい!


(2)2枚組の「今はまだ人生を語らず」
1枚目は新曲、2枚目は「LIVE'73」に収録されなかった中野サンプラザでの
ライブ音源のアウトテイクという説もある。
(「LIVE'73」はもともと2枚組ライブの予定が事情により1枚になった)

ライブ音源のアウトテイクは岡本おさみの詩が多かったらしい。
(その中には「襟裳岬」のライブ・ヴァージョンもあった)
岡本おさみとの共作を3曲に抑えた1枚目との兼ね合いから2枚目は断念した
と言われている。


(3)「地下鉄に乗って」
猫がカバーしたヴァージョンを越えられなかったと吉田拓郎が語っている。


(4)オリジナルの新曲で勝負
井上陽水の「氷の世界」(1973年発売。日本レコード史上初のLP販売100万枚
突破の金字塔を打ち立てた)へ対抗できるアルバムという意気込み拓郎にも
CBSソニーにもあった。


<参考資料:Wikipedia、オールナイトニッポン、「フォークアンドポップス
 別冊 よしだたくろう 今はまだ人生を語らず」 その他>

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