2017年2月11日土曜日

ジミー・ペイジは下手だったのか?<中編>

<ジミー・ペイジの演奏の特色>

ジミー・ペイジ奏法については解説本やチュートリアル動画があると思うので、実
際の弾き方はそちらに譲るとして、ここでは簡単にその特色だけ述べよう。

ペイジのギターはブルースを基本としたもので、ソロの際のフレーズはブルーノート
(1)とペンタトニック(2)を応用していることが多い。
それ自体は特色のあるものではない。ただその組み合わせの妙なのだろう。
ペイジはキャッチーなリフを生み出す天才であった。





前回書いたように、ペイジは作曲家、アレンジャー、プロデューサーの視点で楽曲を
最大限に生かすバッキングに務め、ソロもきっちりと曲の中で収束させている。
荒削りなフレーズやミスタッチもあるが、それがペイジの持ち味でもあると思う。


バッキングにおいてはペイジはパワーコードを多用した。
パワーコードとはハイポジションのフォームで低音弦側(6〜4弦のみ、または5〜3
弦のみ)を弾く奏法のこと。(3)

ルート音+5度のみで構成され3度が省かれるため、マイナーコードなのかメジャー
コードなのか分からないまま、ガツン!とダイナミックで重厚感のある音が出せる。







以降ハードロック、メタル系の音作りには欠かせない奏法として定着した。
パワーコードの先駆者はペイジだったのではないかと思う。
またペイジはパワーコードに開放弦を加えることでさらに重厚な響きを出していた。

ハイポジションのEではしばしば6弦の開放弦を、またハイポジションのAでは5弦
の開放弦を活かして共鳴させている。
この際2弦まで弾き、ルート音+3度+5度の和音を出すことも多かった。
ローポジションのAで6弦3フレットのGをAにベンドするのもペイジの得意技だ。



↑写真をクリックするとパワーコードを駆使したペイジ奏法のデモが視聴できます。




<ジミー・ペイジの使用ギター>

当時の写真からジミー・ペイジ=レスポール+マーシャルという思い込みがあった
が、ツェッペリンの1st.はすべてテレキャスターでレコーディングされたそうだ。
2nd.からレスポールが登場するが「Whole Lotta Love」「Stairway to Heaven」
間奏はテレキャスターを使用したという。

ペイジに言わせると「レスポールに聴こえるだろう?そういう音作りをしてるんだよ
。実はテレキャスターとレスポールの音は似てるんだ」とのことである。


ペイジが使用していたのは1959年製テレキャスター
ヤードバーズ時代にジェフ・ベックから譲り受けた(ベックがメインギターをエスク
ワイヤーに変更したため)もので、クリーム色のボディにはペイジ本人によるサイ
デリックなドラゴンのペイントが施されている。指板はローズウッド。






このテレキャスターはヤードバーズからツェッペリンの初期のレコーディングやツア
ーで使用された。
1970年代に友人にペイントを上描きされ、垂れた塗料で回路が破損したため使用不
能となり、ネックのみ1953年製チョコレート色のテレキャスター(パーソンズ製の
ストリングベンダー(4)搭載)に移植された。


ペイジの使用ギターで最も有名なのが1958年製レスポール・スタンダードのチェリ
・サンバースト(塗装が褪色しハニー・サンバーストに変化)だろう。(通称No.1)
トップのメイプル材の木目がはっきりしていて左右非対称なのが確認できる。(5)

1969年にジョー・ウォルシュから購入。同年の北米ツアーから使用され始めた。
ネックが削られ薄型のオーバル型になっているのは「テレキャスターから持ち替えて
レスポールの厚みのあるかまぼこ型ネックが弾きにくかったから」という説があるが、
ペイジによると「入手時には既にネックは削ってあった」とのこと。
ペグはゴールドのグローバー製ロートマチック式チューナー交換されている。





サブ・ギターとして使用されたのが1959年製レスポール・スタンダードのチェリー・
サンバースト(通称No.2)で、こちらの塗装も褪色しタバコ・サンバーストに近い。
木目はNo1.ほどはっきりしない。ネックは左右非対称に削られ幅が細くなっている。
ピックアップはセイモア・ダンカンに、ペグはニッケルのグローバーに交換してある。

No.2はバックアップ用として1973年に購入したとのこと。
1975年頃(ツェッペリン後期)から使用しているのが確認されている。
ツェッペリン解散後は回路が大幅に改造されたそうだ。



この他に1968年製レスポール・スタンダード(通称No.3)も使用していた。
元はゴールド・トップだったのをワインレッドにリフィニッシュし、ピックアップは
P-90(シングルコイル)からハムバッキングに交換されている。
ストリング・ベンダーも組み込まれているらしい。


ペイジが最初に手に入れたレスポールは1960年製のレスポール・カスタム・ブラック
ビューティ(3ピックアップ、ビグスビーのトレモロアーム付)だそうだ。
1962年に中古で購入し、セッション・マンとして活躍していた頃から愛用していた。
(前回掲載したセッション・マン時代のペイジの写真にも映っている)
このギターは1970年ツェッペリンのカナダ・ツアー中に盗難に遭ったそうだ。(6)


ペイジの愛器でレスポールの次に有名なのがギブソンSGダブルネックEDS-1275
ライヴで「Stairway to Heaven」を演奏する際12弦側でコードやアルペジオを奏で、
後半のソロは6弦側と効果的な使い方をしていた。





発売当初は受注生産のカスタムメイド・ギターであり、配線や外観など詳細は発注者
のリクエストにより異なっていたという。
ペイジのEDS-1275は1970〜1972年に製造されたもののようだ。




ダンエレクトロ3021は変則チューニング(7)でスライド用に使っていた。
チープな造りで線の細い芯のないサウンドと評されるが、逆に個性的な人間味のある
音色とも言えるわけで、こういうギターを使うところがペイジならではの目利きだ。
シンプルでレトロな外観もビジュアル重視のペイジのお眼鏡にかなったのだろう。





この他「Thank You」「Living Loving Maid」のレコーディングで使用したという
ヴォックス12弦ギター、フェンダー・エレクトリックXII、ツェッペリン後期に使っ
ていた1956年製ストラトキャスター(メイプルネック、サンバースト)、1966年
製テレキャスター (メイプルネック、ホワイトボディ、パーソンズ製Bベンダー搭
載)などペイジのギターを検証し始めるとキリがない。




<ジミー・ペイジのアンプとセッティング>

レスポールと同じく「ジミー・ペイジといえばマーシャル」のイメージが強い。

しかしツェッペリンの1st.は全編を通してスプロ(Supro)の小型コンボ・アンプ
1624T Dual Toneとテレキャスターという組み合わせだったそうだ。
このアンプの温かみのある音がペイジの言う「レスポールに似た音」を生み出す
イントになっていたのかもしれない。

ペイジが使用していたスプロはインプット・ゲインを上げ、スピーカーも入れ替え、
トレモロ用のフットスイッチを加えるなど、かなり改造されている。




ペイジの足元にあるのがスプロ1624T Dual Tone。
後の2台はリッケンバッカーTransonic)
写真をクリックするとスプロ1624T Dual Toneのデモ演奏が視聴できます。


2nd.からはレスポール+マーシャル1959の組み合わせがメインとなる。
が、1969〜1971年にツェッペリンのライヴにおいてメインで使用されていたの
ハイワットのカスタム100Wヘッドでキャビネットはマーシャル1960である。(8)






ジミー・ペイジ特有のあの「歪み」はファズやオーヴァードライヴなどのエフェクタ
ーによるものではなく、ハイワットのゲインを上げて得られたものだ。

ペイジがツェッペリン初期に使用していたエフェクターは、マエストロ社のエコープ
レックスEP-3(テープエコー)(9)とヴォックスのグレー・ワウ(10)のみである。(11)




↑マーシャルの上に置かれたエコープレックスEP-3を調整するペイジ。



ジミー・ペイジのサウンドの要はギター本体とアンプのセッティングにある。
ペイジ本人も絶賛したという米国のツェッペリン・トリビュート・バンドのギタリス
ト、ジミー桜井氏の解説によると・・・・

アンプ側のセッティングはトレブル10、プレゼンス9、ミドル8、ベースは0に設定。
ローカットに徹しているがマーシャルのキャビネットの箱鳴りが低域の迫力を補う。
さらに前述のエコープレックスEP-3をブースターとして通すことで、低音域をカット
し高音域を強調しながらも温かみのある太い音作りをしているらしい。


ギター本体のピックアップはフロント+リアのミックス
ヴォリューム、トーンのコントロールによって(アンプ側のセッティングを変えるこ
となく)音色に変化を与えている。
ギター本体のヴォリュームを上げれば太く歪んだ甘い音色が得られる。
ヴォリュームを絞った時はきらびやかなクリーントーンが出せるわけだ。






※次回はジミー・ペイジのアコースティック・ギターについて書く予定です。


<脚注>



(1)ブルーノート・スケール
ブルース系のロックやジャズなどで使われる音階。
メジャー・スケール(長音階)に♭3、♭5、♭7の音(キーがCならミ♭、ソ♭、
シ♭)加えて用いる。


(2)ペンタトニック・スケール
ロック、ポップスでよく使われる音階。
5つの構成音から成る。キーがCなら「ド・レ・ミ・ソ・ラ」の5音。
メジャー・スケール(長音階)が7音なのでそれより2つ少ない。
日本固有の「四七抜き音階」と同じである。
同じ構成音でルートをAにすれば、Aマイナー・ペンタトニックになる。


(3)パワーコード
コードの構成音からルート音と5度の音だけを弾くギター奏法.。
キーがCならド、ソのみ。
6〜4弦または5〜3弦の低音のみを弾くことで非常に力強い音を鳴らすことが可能。
またコード構成音の3度の音が入っていないためサウンドに勢いとパワー感が生まれ、
メジャー/マイナーどちらのコードでも使用することができる。


(4)ストリングベンダー
ストラップピンに力を加えると弦(ほとんどが2弦のB音)が1音ベンディングされて、
ペダルスチールのような効果が得られるギターの仕掛け。
構造はネック側のストラップピンに連結されたレバーの角度変化がブリッジの裏側に
設置された2弦専用ボビンの回転に変換され、2弦のテンションを変える仕組み。
演奏中にネックを上下するとスライドバーを使ったような効果が得られる。
バーズで活躍したクラレンス・ホワイトとジーン・パーソンズが考案した。





(5)ジミー・ペイジの1958年製レスポール・スタンダードNo.1
1995年にギブソンからNo.1をコピーしたジミー・ペイジ・モデルが発売された。
ピックガードにペイジのサインが記されている。
2004年にはペイジの要望を具体化した新しいジミー・ペイジモデルも作られた。


(6)ジミー・ペイジの1960年製のレスポール・カスタム・ブラックビューティ
2007年のツェッペリン再結成コンサートではこのレスポール・カスタムを再現した
シグネィチャー・モデルが使用された。
ピックアップセレクターが6ポジションで回路切り替えができる仕様になっていた。


(7)ジミー・ペイジの変則チューニング
オープンD、オープンG、オープンC6、「Kashmir」でのDADGADチューニング、
「Moby Dick」におけるドロップDチューニングなど。


(8)ジミー・ペイジの使用アンプ
ヤードバーズ時代はフェンダーSuper Reverbや Dual Showmanを使用。
ツェッペリン結成時に大出力アンプの必要性にかられたペイジは、マーシャル1959
(100W)、リッケンバッカーTransonic(200W)、オレンジOR200(200W)、
ダラス・アービター100(100W)、ヴォックスUL-4120(120W)、ハイワットの
カスタムヘッド(100W)などを使用している。


(9)マエストロ社のエコープレックスEP-3
1970〜1977年に生産されたテープ式のエコー。
テープ式ならではの浮遊感と幻想的なディレイ・サウンドを創り出すことができた。
先代のEP-1、EP-2と違いソリッド・ステート式を採用しているが、チューブ式と同様
にプリアンプ、ブースターとしての評価も高く、通すことで温かみのある太い音色が
得られた。




(10)ヴォックスのグレー・ワウ
世界中のギタリストに愛用されていたワウペダル。
ジョージ・ハリソンも「Get Back」セッション時「Maxwell's Silver Hammer」
「Hear Me Road」のリハーサルで使用していた。
しかしビートルズの公式録音では一度も使われていない。
ちなみにアップル・ビル屋上のパフォーマンスでもジョージの足元にヴォックスのグ
レー・ワウが置いてあるのが見えるが、繋がれていないようだ。





(11)ジミー・ペイジがツェッペリン初期に使用していたエフェクター
ジミ・ヘンドリクス のサウンドエンジニアだったロジャー・メイヤーがペイジのため
に制作したファズのプロトタイプも使用していたらしい。
尚、ツェッペリン後期にMXR Phase 90(フェイザー)、BOSS CE-2(コーラス)、

JEN Cry Baby(ワウ)、ヤマハCH-10M(コーラス)使用という記述もあった。


<参考資料:イケベ楽器「レッド・ツェッペリン大研究」ジミー桜井、Wikipedia、
ギター・マガジン、イシバシ楽器「歴史と伝統の英国サウンド」、エレキギター博士、
 Pro Guitar Shop、他>

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