2018年11月27日火曜日

ホワイト・アルバム 2018リミックスは買いか?

サージェント・ペパーズ2017のレビューを先延ばししているうちに一年が経ち、
ホワイト・アルバム2018リミックスが発売されてしまった。


個人的にはホワイト・アルバムが一番好きだ。
リアルタイムでビートルズを聴き出したころのアルバムでもある。

もっとも中学一年生のお小遣いで2枚組4,000円はなかなか買えない。
チャリでヤマハに行っては「欲しいなあ」とため息をついているだけだった。

中学二年になってクラスの友だちが二人、ホワイト・アルバムを買った。
借りてソニーのカセットレコーダーに録音し何度も繰り返し聴いた。


だから僕のホワイト・アルバム原体験はHi-Fiではないのだ。
大人になって英国盤LPボックスを買い、1987年のCD化で買い、2009年リマスター
でステレオ盤ボックスとモノラル・ボックスを大人買いした。

2009年リマスターは満足している。
モノラル・ミックスも初めてで、SEの入り方とかいろいろ違うのが分かった。
これがあれば充分じゃないかという気もした。



サージェント・ペパーズはもともと4トラックという制限の中、様々な工夫を試み
音を重ねて積み上げた壮大なアルバムだ。
それだけにビートルズ本来のバンドサウンドが損なわれあまり好きではなかった。


2017年リミックスでは個々の楽器とボーカルが鮮明になり印象がだいぶ変わった。
今までこもって塊りで聴こえていたのが、冒頭のSEから明らかに違う。

ギターの音が前面に出て「こういうことをやってたのか」というのがよく分かる。
ポールのぶんぶん跳ねるベース、リンゴのドラムの迫力。

サージェント・ペパーズというベールに隠れていたけど、こいつらやっぱロック・
バンドなんだなーと嬉しくなった。







それに対してホワイト・アルバムはオーヴァーダブが少ないシンプルな曲が多い
ジョン、ポール、ジョージの弾き語りやバンド・サウンドやも堪能できる。

またレコーディングの後半「やっと」8トラック機材が導入されたことも大きい。
トラック数を稼ぐためのバウンス(ピンポン)でベーシックトラックが埋もれがち、
各楽器の音像がクリアーじゃない大作サージェント・ペパーズとは違う。



だからホワイト・アルバムは2009リマスターのステレオとモノラル・ミックスで
充分なんじゃないか、という思いもあった。


一方でやはり気になる。さらにクリアで迫力のある音に仕上がるのか?
ジャイルズ・マーティンは「直感的なサウンド、頬をビンタされたような勢いのある
サウンド、そのうえで美しくなければならない」ことを目指したという。


そしてアウトテイク集でホワイト・アルバムの制作過程が見えてくるのか?
クラプトンの違うソロが聴ける「あの曲」の別テイクは本当に存在するのだろうか?



ホワイト・アルバム 2018リミックスはおそらくサージェント・ペパーズ2017に準
じた複数のセットでリリースされるだろう、と読んでいた。

1)スタンダード・エディション 2CD(オリジナル・アルバム)
2)デラックス・エディション 3CD(+アウトテイクのハイライトCD 1枚)
3)スーパー・デラックス・エディション<豪華本付ボックス・セット>
 2CD+ 3CD(イーシャー・デモ含むアウトテイク集)+メイキングDVD
 、Blue-Ray Audio
4)2LPエディション



が、予想は外れた。今回はスタンダード・エディション2CDがない。


1)デラックス・エディション 3CD(+イーシャー・デモCD 1枚)





2)スーパー・デラックス・エディション<豪華本付ボックス・セット>
 6CD(1枚がイーシャー・デモ、3枚がアウトテイク集)+Blue-Ray Audio




3)2LPエディション
4)4LPデラックス・エディション(内2枚はイーシャー・デモ)



イーシャー・デモについては改めて書くつもりだが、25年くらい前にブートで
出回ったジョージ・ハリソン自宅に4人が集まって録音したデモ音源集だ。
当時はこの貴重な音源発掘にマニアたちは大喜びしたものだ。

ジョン、ポール、ジョージが各々の曲をアコースティックギターで多重録音した
もので、ブートではモノラル音源だった。


後に1996年のアンソロジー3にイーシャー・デモから7曲が収録された。
音質的にはだいぶ向上し、半分は左右泣き別れのステレオ・ミックス、半分は
モノラル・ミックス。
ブートで2トラックのズレが聴き苦しかったバック・イン・ザ・USSR、オブラディ
・オブラダなどは(演奏内容はいいのだが)収録されなかった。


今さらイーシャー・デモを聴きたいとも思わない。
それよりアウトテイクのハイライトをCD1枚に編集してくれた方がよかったのに。






3枚分のアウトテイク集は魅力だ。
でもそのためにスーパー・デラックス・エディションを買う気もしない。
価格はともかく、デンと場所をとるのが嫌なのだ。
(しかもサージェント・ペパーズとボックスのサイズが違うらしい)

豪華本なんてどうせ一回パラパラめくったらもう見る機会はないだろう。
Blue-Ray Audioも必要ない。
5.1サラウンド環境じゃないし、ハイレゾ志向でもない。
そもそも今までの経験上、ボックスは出すのが面倒であまり聴かなくなる


イーシャー・デモ付きのデラックス・エディション3CDは本望じゃないし、
スーパー・デラックス・エディションを買ってCDだけ別なケースに移し替えて、
ボックスと豪華本は捨てちゃう、というのもなんか気が引ける。

うーん、とりあえず見送りかな〜。



ほぼ意を固めかけていたのだが、発売前日Amazonをチェックしたらデラックス・
エディション(輸入盤)が2,333円になっていた。
3CDの新譜でこれは安い。

ええい、買っちゃえ!ポチッ。



翌日の発売日、値段が3,600円代に跳ね上がっていた。すごく得した気分(^^)
CDもちゃんと翌日届いた。

開けてみるとなかなかいい感じだ。


2009年リマスター以降、ビートルズは(ビートルズに限らず)紙ジャケ仕様が
主流で、あれは出し入れしにくいので個人的には嫌だった。
2016年のハリウッドボウルも昨年のサージェント・ペパーズも紙ジャケだ。


ところが今回のホワイト・アルバムのデラックス・エディションは一昔前に
流行ったデジパック仕様なのだ。
紙製の台紙にプラスチックのホルダーが付いていて、プラケースと同じような
感覚でしっかりディスクをホールドしてくれる。

その分、厚みが出て重くはなったが、観音開きの紙ジャケットを開くとCD3枚
が横に並ぶので見やすいし、出し入れがしやすい。


こんな感じ↓(クリックすると動画が観られます)




さて、音だ。
ジャイルズ・マーティンは「今回は(サージェント・ペパースの時ほど)音を
良くしすぎないように配慮した」とインタビューで語っていた。

いったいどこがやねん!と突っ込みを入れたい。

音めっちゃいいやんか!
野太いけど、隅々まで見渡せるクリアーなサウンド。そんな表現でいいかな。


ポールのベースは思いっきり太い音でメロディアスなラインを弾いてるし、
リンゴのドラムはドスンドスンと大迫力だ。
1曲目のバック・イン・ザ・USSRではジョンが6弦ベースを弾いてたこと、
何をやっていたのかまで分かる。これがまたすごくカッコいい。


2009年リマスターと比べて全体に低音に厚みが出たが、いわゆるドンシャリで
なく深みのある心地よい低音である。

また一時流行った目いっぱいコンプかけました的な攻めの音圧でもない。
ピアニシモや音と音との「」、広がりや奥行きが感じられ、それでいてバンド
グルーヴ感も伝わる。いい仕事だ。

各楽器の定位はやや中央よりに配され、ヘッドホンでもスピーカーでも違和感
のない、聴きやすい現代向きのステレオ感になった。この辺は好みかな。
(1968年当時は左右のパンであえてステレオ感を演出していたのだと思う)



発売前の音源で聴き比べしてる人がいました↓(クリックすると試聴できます)



そうそう。
サージェント・ペパーズ2017は1967年のモノラル・ミックスに準じていて、
それを現代風のステレオにグレードアップする、というリミックスだった。

今回も同じだろうと思っていたのだが、オリジナルのステレオ・ミックスに
準じたものだったので意外だった。

初期4枚以外はずっとステレオ盤で聴いていたので、2009年モノラル・ボックス
で初めてリボルバーやサージェント・ペパーズ、ホワイト・アルバムのモノラル
を聴いた。(という程度でモノラルLPを収集するようなマニアではない)


1968年までビートルズのレコードはステレオ、モノ2種類が制作されていた。
英国ではステレオ・システムが一般家庭に普及していなかったため、サージェント
・ペパーズまではモノラルが主とEMIもビートルズも考えていた。

メンバーたちはモノラルのミックス・ダウンには立ち会っていたが、ステレオ
の方はお任せでノータッチだった。


ジェフ・エメリックとジョージ・マーティンも「リボルバーとサージェント・
ペパーズはぜひモノラルで聴いて欲しい」と発言していた。
モノラル・ミックスはお墨付きの自信作だが、ステレオ・ミックスは時間に追わ
れてやっつけ作業的な、本意ではない出来だったのだろう。





ホワイト・アルバムでやっとステレオ・ミックスも重視されるようになり、
ビートルズもステレオ、モノラル両方のミックスに立ち会うようになった。
(アビー・ロード、レット・イット・ビーはステレオのみとなる)

フェーダーの上げ下げ、エフェクト、コンプ、リミッターのさじ加減は変わる。
そのためステレオとモノラルでは、SEの入り方、ギターのリフの位置、ボー
カルのダブルトラッキングの感じ、かけ声の有無などの違いが生じるのだ。
例えばブラックバードのツグミの声の入り方はステレオ盤とはだいぶ違う。


今回のリミックスは長年慣れ親しんだステレオ盤のホワイト・アルバムに準じて
いるため、あれ?というような違和感はなく耳に馴染む。
が、前述のように音のダイナミズム、生々しさ、ふくよかさ、艶、空間的な広がり
と奥行き感の点では「新しく甦った」ホワイト・アルバムと言っていいだろう。




ホワイト・アルバム 2018リミックスは買いか?

ホワイト・アルバムをこよなく愛し、かつもっと深く知りたい、今まで以上の発見
を求める人には「買いです」とお薦めする。

経済的に余裕があり、ホワイト・アルバムの全容が知りたい、コンプリート盤を
所有することに喜びを感じる人は迷わず 2)スーパー・デラックス・エディション
を買ってください。


僕のように嵩張るモノを増やしたくない人は 1)デラックス・エディション3CD
で充分楽しめるはず。
どうせブートの焼き直しだから要らないと思っていたイーシャー・デモも、音的は
別物と思えるくらい出来がいい

アンソロジー3よりもはるかに音質が向上している。
ブートでトラックのズレが聴き苦しかったバック・イン・ザ・USSR、オブラディ
・オブラダもきれいに修正された。
演奏間の会話なども収録され、今までより上質なジェネレーションのテープを発掘
した上でレストア〜リミックスしたものと思われる。






高価なボックスを買わなくても、アウトテイク集を聴く方法がある。
AmazonかiTunesでアウトテイク集の欲しい音源だけをダウンロード購入するのだ。

そもそもCDは要らないという人なら10,000円で6CD分まとめ買いという手もある。


一方1968年当時のLPの音を愛する人は2009年リマスターの方がいいだろう。
2018リミックスはそういう人たちをがっかりさせてしまうかもしれない。

LPに関しては新たにリミックスした音源をまたアナログレコードで聴く(=RIAA
特性フォノイコライザーで変換して聴く)ことがどうなのか?僕には分からない。


Blue-Ray Audioのハイレゾ音源は耳の肥えた人には魅力的だろう。
レボリューションNo.9は5.1サラウンドで聴くと全方位から音の洪水らしい(笑)



ホワイト・アルバム 2018リミックスと2009リマスターの聴き比べは既にレコード
・コレクタースなどで評論家の方たちがレビューを載せていると思うので、そちら
を参考にしてください。

次回以降、イーシャー・デモ、ホワイト・アルバム制作過程、2018リミックスと
アウトテイク集で見えてきた「スタジオでビートルズは何をやってたのか?」に
切り込んで行きたいと思う。

The Continuing Story Of Bungalow Bill....
じゃなかった。To be continued next time.


<参考資料:PHILE WEB AUDIO、AV Watch、mora、Amazon.com、
ユニバーサルミュージック、NME Japan、他>

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