2019年12月25日水曜日

チェット・アトキンスのクリスマスCD完全盤が出た!

チェット・アトキンスのクリスマスCD☃が発売された。
また?と思われる方もいるかもしれない。が、今回は決定版と言ってもいいだろう。

Chet Atkins - 
The Complete RCA Victor & Columbia Christmas Recordings




RCAビクター時代のアルバム、Christmas With Chet Atkins(1961)と
コロムビア移籍後のEast Tennessee Christmas(1983)。
この2枚はチェットのファンなら既に持ってるだろう。


今回のアルバムはその2枚に加え、アルバムには収録されていないシングル曲、
未発表曲、他アルバム収録のクリスマス関連曲、さらに1976年に再発された
Christmas With Chet Atkinsの新たに録り直された9曲まで網羅されているのだ。

しかも極上のリマスターが施されている。今までで一番音がいいと感じた。
レーベルはReal Gone Music。
RCAビクター、コロムビアの音源を使用した正規盤である。


↓RCA、Columbiaレーベルのピクチャー・ディスクが心憎い。
このRCAのニッパー犬に惹かれてつい買ってしまった(^^v)




装丁は薄型2枚組プラケースで表裏にディスクが収納されていて出しにくい。
ブックレットは28pカラーで当時のジャケ写、曲の解説(英文)がぎっしり。



さっそくディスク1の収録曲を解説。




1. The Bells Of St. Mary'sは1953年のシングル(B面Country Gentleman)
2. Jingle Bells / 3. Christmas Carolsは1955年のシングル。

4.Sleigh Bells, Reindeer and Snowはチェットによるオリジナル曲。
タイトルを訳すと「そりの鈴、トナカイと雪」。
チェットのギターと当時6才の愛娘マール(1)の歌が微笑ましい作品。

家族のために自宅スタジオ録音したもので未発表曲(2)
長年アトキンス家の棚に保管されていたらしい。



5. Greensleevesは名盤の誉れ高いChet Atkins In Hollywood(1959)より。

このアルバムは全編映画音楽で、タイトル通りハリウッドで録音された。
オーケストラをバックに控えめなギターが美しい。


↓夜景+チェットの愛器6122 Country Gentlemanのジャケットも人気だ。





6122 Country Gentlemanはグレッチ社とチェットの共同開発で1957年に発売。
チェットのトレードマークとも言えるシグネチャー・モデルのも代表格だ。

長年チェットのバックを務めたポール・ヤンデルによると、1959年製が最も
完成度が高いらしい。
後にジョージ・ハリソンが1962年製ダブルカッタウェイを愛用し、Country 
Gentlemanは世界中のギター・ファンに知られることになる。



6〜19.の14曲はRCAビクター時代のChristmas With Chet Atkins(1961)
アニタ・カー・シンガーズの美しいコーラスとの掛け合いがすばらしい。


↓雪景色+チェットの愛器6120 Nashvilleのジャケットにファンは萌えてしまう。


↑クリックするとJinglebell Rock(1961)が聴けます。



6120 Nashvilleもまたチェット名義のグレッチ社の名器である。(1955年発売)
当初はディアルモンドのシングルコイルP.U.を搭載していたが、1957年後半から
フィルタートロンP.U.が搭載に変更された。(3)
ギブソンのハムバッキングほどファットでもなく、フェンダーのシングルほど
非力でもないこのピックアップは、グレッチのホローボディと相性がいい。

ブレーシングが強化された時期があるが、それが除かれホローボディーの鳴りを
取り戻した1959年製は6120 Nashvilleの黄金期と言える。

Country GentlemanとNashvilleは使用している木材(メイプル)、フィルター
トロンのピックアップ、ビグズビーのトレモロアーム搭載など類似している。
違いはボディーの大きさ。

6120 Nashvilleはボディに厚みがあり、甘い箱鳴りの響きが得られる。
エディー・コクラン、デュアン・エディー・ブライアン・セッツァーが愛用し、
ロカビリー好きに人気がある。

一方Country GentlemanはNashvilleより幅広だがボディー厚が薄い。
そのためカラッとした、きらびやかなサウンドが特徴だ。



僕の推測では、ジャケ写は雪景色に映えるオレンジ色の6120 Nashvilleを使用
した (4)が、レコーディングは主にCountry Gentlemanを弾いてると思う。
後半はソロでクラシック・ギターを弾いてるが、使用器は不明。



20. I Heard The Bells On Christmas DayはRCAのアーティストたちに
よるコンピレーション・アルバムNashville Christmas Party ‎(1962)に収録。
これはレアだ!初めて聴いた。

チェットはゴスペル曲集アルバムPlays Back Home Hymns(1962)のレコーデ
ィング期間中にこの曲を録音したらしい。
Plays Back Home Hymnsに収録されててもしっくり来そうな曲だ。

このアルバムはスキーター・デイヴィス、エディー・アーノルド、アニタ・
カー・シンガーズ、ハンク・スノウ、フロイド・クレイマーも参加(未CD化)



↑クリックすると I Heard The Bells On Christmas Dayが聴けます。


21. Winter Walkin’はアルバムGuitar Country(1964)に収録されている。
ジェリー・リードの曲でチェットはTVショーやライブでも弾いている。

22. Ave MariaはアルバムClass Guitar(1967)収録曲。
このアルバムはこの曲も含め全てクラシック・ギターで演奏されている。




続いてディスク2収録曲の解説。




1. GreensleevesはChet Atkins In Hollywood(1961)より。
あれ?ディスク1の5曲目にあったはず、と気づかれた方も多いと思う。

チェットは1959年に発売したこのアルバムを1961年に再録しているのだ。
オケは前回のを流用。
ナッシュビルの自宅スタジオでギターのみ全曲分、録り直したそうだ。

どちらもあまりに完成度の高い演奏なので、言われないと気づかないが、
よく注意して聴き比べるとフレーズが違ってるのに気づく。
またミックスダウンをやり直したらしく、オケの定位が1959年盤と異なる。


↓ジャケットも1961年盤は女の子+ギターに変わった。




ギターはグレッチの6125 Anniversaryのように見える。
薄型のフル・アコースティック(センター・ブロックがない)モデルだ。
1958年発売で6120と同じメイプル材でフィルタートロンP.U.搭載。

しかし6120のような6弦側フレットボードにポジション・マークではなく、
ギブソンJ-200のようなクラウン・インレイである点、コントロール・ノブ
の位置、ピックアップもディアルモンド社のシングルコイルに見える、と
通常の6125と相違点も見られる。これが何か?わかる方、教えてください。


このギターを撮影に使用したのは色調が合ったからではないかと思う。
実際のレコーディングでは別なギターを使用している可能性がある。
心なしか、In Hollywoodの1961年再録盤はハムバッカーよりも細い音の
ような気がするが、イコライジングのせいかもしれない。

あるいは1959年に6120 Nashville の廉価版として開発されたチェットの
シグネチャーモデルの6119 Tennessean (5)を弾いてるかもしれない。


TennesseanのハイロートロンP.U.はフィルタートロン(ハムバッカー)の
片側コイルからポールピースを抜き取って音を拾わないようにし、もう片方
のシングルコイルからのみ音を拾うように改造したもの。
これによってノイズを除去するハムバッカーの役割は残しつつ、サウンドは
シングルコイルの立ち上がりが早い高域が冴えた音となる。



2曲目のBells Of Saint Mary'sはアルバムSuperpickers(1973)収録曲。


3〜11曲はChristmas With Chet Atkins(1961)を1976年に再発する
にあたって、チェットがギターのみ録り直した9曲
(バックの演奏、コーラスは1961年のものを流用。)

ギターの音色、弾き方の違いは慎重に聴き比べないと分からない。

The First NoelSilent Nightは1961年盤でクラシック・ギターを弾いている
が、1976年再録盤はエルベッキオのリゾネーターを使用している。

クラシックギターはハスカル・ヘイルかマヌエル・ベラスケスではないか。
Little Drummer Boyではクラシックギターの音がやや硬い印象。
ピエソP.U.を通した音と生音をミックスしているのかもしれない。(6)


その他、Winter WonderlandWhite Christmasで弾き方が違う。
また再録盤はミックスダウンでアニタ・カー・シンガーズのコーラスが少し
抑え気味で、曲によってはコーラスの定位も変わっている。(7)



以前チェットはインタビューで完成した自分の作品は聴かないと言っていた。
聴くと、やり直したくなってしまうから、とのこと。
あんなに完璧なのに。こうやった方が、と思ってしまうのだろうか。

またチェットは部分的に弾いて差し替えたりせず、必ず一曲丸ごと頭から
終わりまで通して弾くそうだ。
だからIn HollywoodにもChristmas Withもテイク違いとして聴けるのだ。



12〜23.はコロムビア移籍後2枚目のEast Tennessee Christmas(1983)。





1981年に完成した世界初ソリッド・ボディーのエレガット、ギブソンの
Chet Atkins CE (CEC) Classicalが使用されている。(8)


チェットはグレッチ社にソリッド・ボディーのナイロン弦ギターの構想を
持ちかけていたが、そんなの売れるわけないと拒まれていた。
(そこに至るまでポール・マクギルに依頼して試作品製作を重ねている)

グレッチ社は何度か経営不振に陥り、1980年にギターの製造を中止。
その1年前の1979年にチェットとのエンドースメントも解消していた。

そこでチェットはソリッド・ボディーのエレガットの企画をギブソン社に
持ちかけ、ギター・ビルダーのカーク・サンドとの共同開発で完成させた。




トップはスプルース、マホガニーのソリッドボディー。
サドル下にピエゾP.U.を配するのではなく、6弦独立のサドル自体がL.R.
Baggs製のピエゾP.U.という画期的な構造で、弦の振動を効率良く伝達。



East Tennessee Christmas冒頭のJingle Bell Rock、White Christmas
Let It Snow, Let It Snow, Let It Snowの3曲はエレクトリック・ギター
使用しているが、まろやかだけれど音が細く、どちらかと言えばフェンダー
系のシングルコイルP.U.のソリッドボディーの音に聴こえる。

おそらくギブソンがチェットのために製作したCGP Phasorだろう。






ストラトを角ばらせたようなボルドー色のボディ、上にチューナーを一列に
配したビグズビー式のヘッド、リア寄りにシングルコイルP.U.を2基搭載。

チェットが使用したこのモデルにはフェイザーが取り付けられていた。
アルバムではWhite Christmasでそのフェイザーをかけた音が聴ける (9)




↑クリックするとWhite Christmas(1983)が聴けます。




East Tennessee Christmasでは、セミホロウ・ボディーでハムバッカーの
ギターのように聴こえる曲もある。グレッチを使用したのか?
ギブソン版Country Gentlemanの発売は1987年だが、この時点で既に
プロトタイプが作られ使用されていたのかもしれない。
I'll Be Home for Christmasはエルベッキオのリゾネーターの音だ。


24. Ave MariaはアルバムAlmost Alone(1996)収録曲。
ギブソンから独立したカーク・サンドが製作した新しいエレガット一本
でのソロ演奏で2枚組は幕を閉じる。




以上だが、補足。実はチェットにはもう一枚、クリスマスCDがある。
チェットがギターを弾き、女優のエイミー・グラントが朗読する童話だ。

Chet Atkins, Amy Grant ‎– 
The Story Of The Gingham Dog And The Calico Cat
Rabbit Ears Musicレーベルから1999年に限定発売。現在は入手困難だ。




ギター+童話が20分程度でその後、チェットの演奏だけのトラックを収録。
全曲アコースティックで、チェットは多重録音で2台弾いている。
珍しくスチール弦のフラットトップ・ギター(ギブソン)も使用している。

同じモチーフを少しずつアレンジを変え演奏しているが、その1つはアルバム
Almost Alone(1996)収録のWaiting For Susie B.(10)である。

もう1つはチェット最後のアルバムとなったトミー。エマニエルとの共演盤
The Day Finger Pickers Took Over The World(1997)収録の
Smokey Mountain Lullaby。

どちらもチェットらしい美しい曲である。

<脚注>


(1)チェットの愛娘マール
マールという名前はチェットが敬愛するマール・トラヴィスにちなんだもの。


(2)未発表曲、Sleigh Bells, Reindeer and Snow
Mr. Guitar-The Complete Recordings 1955-1960 (Bear Family 2004) に
初収録された。


(3)グレッチ・ギター搭載ピックアップ

ダイナソニック(DS)
1949年にディアルモンド社で開発されたシングルコイルPU。
高域が強くきらびやかな音色。クリーンサウンドの音は最も太い。
ネジによりポールピースの高さを調節できた。
フィルタートロン(FT)
ダイナソニック(DS)の改良版のハムバッカーPU。
1957年チェット・アトキンスのリクエストにより開発された。
ハム構造であり、金属カバーで覆われているためノイズは少ない。
出力は小さく設定。音色は甘く、ウォーム。



ハイロートロン(HT)
HIGHとLOWを強調したPU。ハイが強く、トレブリー。
幅広く音色を変えるトーンコントロールPOTを使用するのが基本
フェライト・マグネットからアルニコ・マグネットに仕様変更された。



TVジョーンズPU
トーマス・ヴィンセント・ジョーンズ製作によるピックアップ。
ジョーンズ氏はフェンダー社セットアップ、リペアの技術者であった。
フィルタートロンより高出力。レスポールのような太いサウンドも出せた。
作業工程の多くが手作業の為、このPUの搭載モデルは価格設定が高い。




(4)雪景色+6120ジャケット
現在このジャケットが入手できるのは、LPか2018年に日本のオールデイズ
レコードから発売された紙ジャケ仕様CDだけである。


(5) グレッチ 6119 Tennessean
グレッチのラインナップの中では異例のシックなルックスで人気も高い。
ジョージ・ハリソンもその一人で、6122 Country Getlemanの次に入手し、
1965年の全米ツアー、HELPのレコーディングに使用した。
1959年当時のスペックは、ハイロートロンピックアップをリアのみ、
ローズ指板、ヘッドは黒塗りでロゴ以外の装飾無し、グレッチの基本構造
はそのままに、装備や装飾を少なくしてコストダウンを図っていた。
その後、いろいろなマイナーチェンジを経ている。
ジョージが使用したのは1963年製と思われる。


(6)クラシックギターにピックアップをつける試み。
チェットのエレガットへの試みはかなり早くからで、1968年のMusic To 
Watch Girls By(アルバムSolo Flightsに収録)で聴ける。


(7)Christmas With Chet AtkinsのCD。
このアルバムがやっとCD化されたのは1997年。
レーベルはRazor&Tieで、BMGが音源を提供した音源であった。

ジャケットはオリジナルの雪景色+6120ではない。
ピンクのバックにディアンジェリコのギターを抱えたチェットの写真
(モノクロ写真を着色してある、スーツは緑色)をはめ込んだ、かなり
雑な、残念なジャケットだった。



音も良好とは言えず、後半のクラシックギターは音がヨレている。
実はこのCDは1976年の再録盤の方であることが、今回のコンプリート盤
で1961、1976再録を聴き比べて判明した。
2004年にBMGより再発されるが内容もジャケットもそのまま。


2012年にIMC Musicレーベルから発売されたSongs for Christmasは、
ジャケットとタイトルが違うが、内容はChristmas With Chet Atkinsと同じ。
シングル盤のクリスマス曲がボーナス・トラックが3曲追加されている。



アメリカのAmazonのレビューを読むと、Razor&Tie盤よりはるかに音がいい、
自分が聴いてた1961年のLPはまさしくこっち、と評価が良い。
買ってみたら確かにぜんぜん音がいい。Razor&Tie盤のような音ヨレもない。
後から出たIMC Music盤の方が1961年のオリジナル音源であった。

こちらはリゾネーターを使用していない。
チェットがエルベッキオのリゾネーターを使用し始めたのは1970年代から。
ということは、リゾネーターが聴ける酷いジャケットのRazor&Tie盤が
1976年再録盤であったいうことだ。
何で再録盤の方が音が悪く、テープがヨレたままだったのか謎ではあるが。

今回のコンプリート盤では1961年オリジナル、1976年再録ともにリマスター
されとてもいい音で安心して聴ける。
尚、雪景色+6120のジャケット写真はブックレットで見ることができる。


(8)ギブソンのChet Atkins CE (CEC) Classical
CEはネック幅が少し細め、CECは標準的なクラシックギターのネック幅。
ナイロン弦のソリッドという点が画期的だったが、正面からの見た目はトラデ
ィショナルなクラシック・ギターのデザインを踏襲し、カッタウェイを採用。
コントロールノブはショルダーに配され目立たない。完成度が高かった。

しかしマイナーチェンジを繰り返すうちにヘッドがくさび形になったり、
コントロールノブがトップに配されたり、デザインが崩れていった。

僕は初代モデルのCEを持っていたが、レスポールを超える重さには閉口した。
ネックのグリップ感は最高。アクションも低く弾きやすい。
エレキから持ち替えて違和感がない。
L.R.BaggsのP.U.は感度が良いので、他社製品より音がいい。
その反面、繊細すぎてフィンガリング・ノイズまでしっかり拾う。
サステインが効きすぎて、素人の僕にはコントロールしきれなかった。


(9)ギブソンがチェットのために製作したCGP Phasor
1988年のTVショーでもこのギターでSunriseを弾いているのが確認できる。

CGP Phasorはポール・ヤンデルが試作したギターが元ネタらしい。
ピーヴィー社のT-60のボディーにストラトキャスターのネックを取り付け、
EMG製シングルコイルP.U.2基とフェイズ・スイッチを付けたものだった。


チェットはこの改造ギターをPeaverと呼び、1983〜1995年に14曲の録音
したという。
これがギブソンのCGP Phasorのプロトタイプになったわけだ。
前述の3曲もCGP PhasorではなくPeaverで録音された可能性もある。



(10)Waiting For Susie B.
Susie B.はアルバムSimpatico(1994)で共演したSuzy Boggussのことか?
彼女はチェットの後押しでカントリー・シンガーとしてデビューした。
チェット爺さん、恋をしてたのかな?(^^)


<参考資料:THE UNIQUE GUITAR BLOG、bassisockey.blogspot.com、
Real Gone Music、Kirk Sand Guitars、Gretch Guitars、エレキギター博士、
Wikipedia、YouTube、Amazon、神田商会、Discogs、ザ・ギタリスト、他>

チェット仲間の友人、Hさんの情報提供にも感謝です。

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