2020年4月10日金曜日

「虹の彼方に」をクラプトン節で弾き語りしてみよう。

<「虹の彼方に」(Over the Rainbow)が生まれた経緯>

「虹の彼方に」(Over the Rainbow)は誰もが知るスタンダード・ナンバーだ。

1939年のミュージカル映画「オズの魔法使」(1)劇中歌として作られた曲で、当時
14歳だったドロシー役のジュディ・ガーランド(2)が歌った。





この映画の楽曲を依頼されたハロルド・アーレンはブロードウェイ・ミュージカル
をいくつも手がける売れっ子であった。

アーレンは妻と家を出る際、スプリンクラーが回り出して虹ができたのを見て、
Somewhere over the Rainbowというフレーズを着想した。
作詞はエドガー・イップ・ハーバーグに依頼。(3)


ジュディ・ガーランドの歌でサウンドトラック用の録音もされ、彼女がこの曲を歌う
シーンの撮影も行われた。

しかし映画の編集段階になって撮影所幹部たちから、14歳の少女が歌うには大人びた
歌で相応しくない、スローバラードはミュージカルのテンポを損なう、と物言いが
つき(4)「虹の彼方に」の歌唱シーンはカットされかけた。

プロデューサーのアーサー・フリードやハロルド・アーレンは、この曲がドロシーが
虹の向こうの世界へ行くための導入部であり、重要なシーンであると上層部を説得。
この曲はカットを免れ、踏み止まることができた。




↑クリックすると映画「オズの魔法使」の「虹の彼方に」の歌唱シーンが観れます。



「虹の彼方に」はアカデミー歌曲賞を受賞して大ヒット。
ジュディ・ガーランドにとってもトレードマーク、テーマソングといえる曲となり、
彼女の生涯を通じての持ち歌となった。



<映画のあらすじ>

カンザスの農場に住む少女ドロシーは孤児で親戚宅に引き取られている。
みんな親切だけど忙しすぎる。おまけに意地悪な地主に愛犬がいじめられる。
虹の彼方のどこかに(Somewhere Over the Rainbow)もっといい場所があるはず。
そう夢見ながらドロシーは「虹の彼方に」を歌う。

ドロシーは竜巻に襲われ気を失い、愛犬トトや家と魔法の国オズへ運ばれてしまう。

出会った良い魔女は「黄色のレンガ道をたどって(Follow the Yellow Brick Road)
エメラルド・シティに行きオズの魔法使いに会えば、カンザスへ戻してくれる」と
ドロシーに助言してくれる。





旅の途中で彼女は知恵がないカカシ、心を持たないブリキ男、臆病なライオンと出会い、
彼らと絆を深めながら旅をともにする。
そして家へ帰る方法は「家が一番いい」と願うことであることに気づく。



<映画の見どころ>

学芸会の演目にもなるくらい誰もが知る、世界中で愛され続けているファンタジー映画。
でも決してお子ちゃま向けではなく誰もが時代を超えて楽しめる作品である。


冒頭部とラストのカンザスのセピア色のパートはモノクロフィルムで撮影されたもの。
それがドロシーがオズの国に迷い込むと一転してきれいなカラーに変わる。
オズの国のパートは当時まだ珍しかったカラーフィルムで撮影され(7)、その映像の華
かさに観客たちは魅了されただろう。


色に象徴的な意味を持たせて見せている点も巧い。
黄色のレンガ道、エメラルド・シティ、魔力を持つ赤いルビーの靴、緑色の悪い魔女。





黄色のレンガ道をたどって(Follow the Yellow Brick Road)というのは日本人には
馴染みがないが、「幸福(成功)の道を行く」という意味がある。(5)
またエメラルド・シティ(6)は都会を象徴している。しかしそれは虚構だった。

赤いルビーの靴のかかとを打ち合わせればカンザスに戻れることをドロシーは知る。
灯台下暗し、探していたものは自分の足元にあったのだ。



主人公が憧れや不安や夢や恋心をバラードで歌い、その後の展開につながるという
パターンはこの映画で始まり、ディズニー映画でもお約束になった。今もそうだ。

スターウォーズのC3POはブリキ男とよくしゃべるカカシを合わせたキャラクター、
チューバッカは気のいいライオンとドロシーの愛犬トトに似てるような気もする。





そのドロシーの愛犬トトはケアーン・テリア(8)というスコットランド産の犬種である。
こんな犬種が1939年にカンザスの農家で飼われてたのか!と妙な所で感心してしまう。
この映画でケアーン・テリアのファンになった人も多かったことだろう。


僕が初めてケアーン・テリアに会ったのは2000年で、思わず「雑種ですか?」と飼い主
さんに失礼なことを言ってしまった。
次に会った子の飼い主さんに「ケアーン・テリアですよね?」と訊くと「よくご存知で
すね!いつも雑種と言われるのに犬種を当てられたのは初めてです」と喜ばれた(笑)

ケアーン・テリアはテリア特有の頑固で気が強いため、初心者には躾が難しい。
飼い主さんも「この子を飼ってよかった」と思えるまで3年かかった、と言ってた。


この映画に出てくるトトは愛くるしい。ドロシーの行く所はどこでもついていくし、
身体能力が高く、後半ではドロシーたちを助けるため大活躍する。








<「虹の彼方に」(Over the Rainbow)の歌詞>

Harold Arlen / Yip Harburg  拙訳:イエロードッグ

Somewhere over the rainbow Way up high, 
虹の彼方 空高く
There's a land that I heard of Once in a lullaby. 
昔、子守唄で聞いた国があるはず
Somewhere over the rainbow Skies are blue,
虹の彼方 空は青く
And the dreams that you dare to dream Really do come true.
そこでは本気で夢見れば、その夢は叶うの
Someday I'll wish upon a star  
And wake up where the clouds are far behind me.  
いつか星に願いをかけ目を覚ますと、雲ははるか下
Where troubles melt like lemon drops 
そこでは嫌なことがレモンドロップのように溶けちゃう 
Away above the chimney tops(*) That's where you'll find me. 
煙突より高い そんな所に私はいるの
Somewhere over the rainbow Bluebirds fly.
虹の彼方 青い鳥が飛ぶ
Birds fly over the rainbow. Why then, oh why can't I?
鳥が虹を越えるなら、わたしにもできるわよね?
If happy little bluebirds fly Beyond the rainbow Why, oh why can't I?
幸せな青い小鳥が虹を越えて飛べるなら わたしにもできるわよね?

*クラプトンはWay you cross (Way across?)the chimney topsと歌っている



<「虹の彼方に」(Over the Rainbow)のカヴァー>

「虹の彼方に」(Over the Rainbow)は映画同等、長く愛され続けている曲だ。
いや、映画を観たことがない人でもこの曲だけは耳にしたことがあるだろう。
数多くの歌手、演奏家たちにカヴァーされ続けてきた。

しかし14歳のジュディ・ガーランドが映画で歌ったヴァージョンは格別だ。


彼女の1961年ニューヨーク、カーネギー・ホテルでのライブ・アルバム(グラミー賞
最優秀アルバム賞に選ばれ、最優秀女性歌唱賞を受賞)での歌唱も定評がある。





長年の私生活の荒れからか、40歳を目前にしたジュディ・ガーランドの声は全盛期ほど
の艶はなく、ところどころ声がかすれピッチが甘くなる箇所もある。
それでも映画から半世紀経って、本人が歌うOver the Rainbowは感慨深い。


インストではチェット・アトキンスがギター一本で奏でるカヴァーが秀逸だと思う。
特に後半のハーモニクス奏法はうっとりするくらい美しい。
ハーブ・オオタのウクレレ・ソロも好きだ。

いろいろな人がカヴァーしているが、この人が?と思う意外なヴァージョンもある。



<クラプトン節がシブい「虹の彼方に」(Over the Rainbow)>

クラプトンが2001年ワールド・ツアーのアンコールで披露したOver the Rainbow
はブルージーな、クラプトン節が効いたカッコいい歌と演奏になっている。




↑写真をクリック。クラプトンのOver the Rainbow(短縮版)が視聴できます。



テンション・コードを多用したなかなか上手いアレンジに仕上がっている。
歌い出しまでのE→C#9→F#m7→B11のリフレインの間にソロを弾き、バンドを一人
ずつ紹介している。
サビの後の3番目のヴァースだけ、E6 on B♭→C#m7(♭5)としているのも絶妙。

右手はピックでのストラミング(ストローク)でアップ・ダウンはその時その時
で変化を付けている。
シャッフル(♩=🎶)気味でスウィングするように弾くといい。
キーボードの間奏時には中指、薬指も使いアルペジオを取り入れている。

全部で10分程の演奏でTAB譜にすると長い。
今回はギターのソロ、キーボード間奏部などを割愛した簡易版を載せます。



クラプトンはサビの後半、Way above the chimney topsの歌詞を変えている。
Way acrossと書かれているが、僕にはWay you crossに聴こえるのでそうした。


クラプトンが弾いてるギターは1948年製ギブソンL-5である。
ドッグイヤーと呼ばれる大型カバー付きのピックアップP-90はシングルコイルながら、
温かみのあるファットな音が出る。(フェンダーのシングルコイルとは対照的だ)
ウェス・モンゴメリーなどのジャズ・ギタリスト、エリック・ゲイルのようなR&Bの
ギタリストに愛用者が多い。

あ〜バングラデシュ・コンサートで使ってたやつね、と思った方もいるかもしれない。
あれはギブソン・バードランド。
L-5を元としながら薄胴ボディ、ショートスケール、PAFハムバッキング・ピックアップ
を採用している。デヴィッド・T・ウォーカーなどR&Bギタリストに使用されている。


<脚注>


(1)「オズの魔法使」(The Wizard of Oz)
1939年のアメリカ合衆国のミュージカル映画。 
監督はヴィクター・フレミング、主演はジュディ・ガーランド。 
原作はライマン・フランク・ボームが1900年に発表した児童文学「オズの魔法使い」
(The Wonderful Wizard of Oz)である。


(2)ジュディ・ガーランド
女優、歌手。 1940-50年代のハリウッドを代表するアメリカの国民的大スターの一人。
子役として出演した「オズの魔法使」でアカデミー子役賞を受賞。大人気を博す。
以後も抜群の歌唱力でミュージカル映画の主役を務め、国民的人気女優の地位を確立。
神経症と薬物中毒のため撮影に支障が出始め、自殺未遂、薬物治療の入退院を繰り返す。
不安定な精神状態はつづき、映画を降板、MGMからは解雇される。
ハリウッドを離れてからはジャズ歌手として活躍。その歌唱力が再認識される。
1954年に銀幕復帰。「スタア誕生」がヒットしアカデミー賞にもノミネートされた。
しかしワーナー・ブラザースは彼女に否定的で援助もせず受賞を逃してしまう。
1963-1964年CBSでジュディ・ガーランド・ショーが放映される。
フランク・シナトラ、ディーン・マーティン、バーブラ・ストライサンド、娘のライザ
・ミネリとも共演し好評を博すが、その後は表舞台から姿を消す。
1969年6月22日に睡眠薬の過剰摂取にてバスルームで死去。47歳だった。

3月6日から彼女の伝記映画「ジュディ、虹の彼方へ」が公開されている。


(3)ハロルド・アーレン/エドガー・イップ・ハーバーグ
ペーパー・ムーン(It's Only a Paper Moon)もこのコンビによる楽曲である。


(4)映画会社の上層部からの物言い
先日投稿した「ティファニーで朝食を」もそうだが、メジャー映画会社の上層部の難癖
はとかく的外れであり、作品の核心を損なうような提言である。(レコード会社も同じ)
なぜなら彼らは映画を理解していないし、映画を見る観客への洞察力にも欠ける。
彼らの関心はもっぱら、制作費を抑えて大きな興行収入を得ることで株主配当を上げる、
それにより自身のインセンティブ・ボーナスを上げることにしかない。
彼らは制作の過程に関わっていないが、土壇場でちゃぶ台をひっくり返すことを好む。
自我を通すことで権威を示したいのだ。(こういう人、いますよね?)



(5)黄色のレンガ道をたどって(Follow the Yellow Brick Road)
日本でもアメリカでも病院や役所の床に色分けした線が引いてあることが多い。
「Follow the yellow line」と教えられたりする。日常的な使い方なのだ。
Yellow Brick Roadには「幸福(成功)の道」という意味がある
Yellowはかつてのゴールドラッシュから成功を意味している、とも言われる。
劇中で歌われるFollow the Yellow Brick Roadはドノヴァンが歌いそうな曲。
H.M.S.Donovanに入っていてもしっくり来そうだ。

さてロック・ファンなら誰もがこのフレーズでエルトン・ジョンを思い出すだろう。
1973年に発表されたシングル、およびアルバムのGoodbye Yellow Brick Roadだ。
シングル盤の邦題はそのままカタカナだが、アルバムの邦題は「黄昏のレンガ路」。
この黄昏の〜はイメージ的にはともかく本来の歌詞とはちょっと意味が違う。





この曲は作詞者バーニー・トーピンの「自分の未来が都会の冷たいレンガ舗道の向こう
(田舎)にあることが分かった」という人生観を歌ったものである。
つまりGoodbye Yellow Brick Roadは栄光への輝かしい道に別れを告げる歌だ。
その心境を「オズの魔法使」へのオマージュとして、劇中に出てくるキーワードを
歌詞のいたるところに配している。なぜ「オズの魔法使」なのか?

エルトン・ジョンも身を置くゲイ・コミュニティー、カルチャーにおいて、「オズの
魔法使」が根強い人気のある作品だということも関係してるためだろう。
マイノリティである仲間が力を併せて困難に立ち向かう姿に自分たちを重ね合わせて
いるという点。3人の仲間だけでなくオズの国のマンチキン(小人)たちもそうだ。
もう一つは主役のジュディ・ガーランドが結婚・離婚をくりかえし、短い生涯の中で
ゲイの友人たちとの交流を大切にしていたため、ゲイのコミュニティで圧倒的な支持を
受けている女優だという点にある。


(6)エメラルド・シティ
成功の象徴、都会。
エメラルド・シティはエメラルドで造られているのではなく、実はみんなが緑のメガネ
をかけているからエメラルド色に見えているだけという、嘘に溢れた場所。
(同一色で飾られたホワイトハウスや緑色のインクで印刷されてたアメリカ紙幣だと
解釈をされることもある)
この教訓は、夢を追うために黄色いレンガの道を進むことが、必ずしもいい結果にたど
り着くというわけではないということ。
ドロシーはオズの魔法使いの力を借りず、自分で願いを叶えられることに気付く。

この映画はアメリカの文化や政治的な象徴、歴史的が風刺的に込められている。
英語力があればもっと違う見方ができて楽しめるんだろうな。


(7)当時まだ珍しかったカラーフィルムで撮影
1930年以降、ハリウッドはカラー映画時代の本格化に向かっていたが、大恐慌の影響
製作費が高額なカラー作品の制作が減少した。
が、フルカラー映画技術の開発も進み、テクニカラー社は三色法による技術を開発した。
特別なカメラを使用し被写体をプリズムで分解し、赤青緑それぞれのフィルターを通した
画像を別々に3本のモノクロフィルムへ同時に記録し、その後ダイ・トランスファー方式
1本の映写用フィルムを作成すると言う方式でテクニカラー(総天然色)と呼ばれた。



三色法によるカラー作品はディズニーの「雪姫姫」「ファンタジア」や「オズの魔使」、
ヒッチコックの「裏窓」など。
テクニカラーは撮影時に3色分、つまり3倍の量のフィルムが必要で制作費が嵩む。
1954年には1本のフィルムでカラー撮影が可能なモノパック方式のイーストマン・カラー
が実用化され、しだいにテクニカラーに取って代わっていく。
初期のイーストマン・カラーは複雑な化学処理を伴うために褪色しやすい上に、表現力
でテクニカラーに劣っていた。


(8)ケアーン・テリア
スコットランドのウエストハイランド地方にあるスカイ島原産。
積石(cairn)の隙間や穴に棲息している小動物を捕らえるために使役されていた。
体高はおおよそ28〜31cm、体重は6〜7.5kg。
被毛はダブルコート。柔らかく密生したアンダーコートと固いトップコートを持つ。
性格は知的、活発、力強く、明るく、忠実である。
他のテリア種同様に頑固で強い意志を持ち、獲物を追って地面を掘り返すことを好む。 
強い狩猟本能があり、訓練性能と知能も持っている。
頑固さゆえ反抗的と思われるが、飼い主への服従を拒み刃向かう権勢症候群と異なる。

「オズの魔法使い」でドロシーが住んでいたことにちなみ、カンザス州ウィチタでは
ケアーン・テリアをカンザス州のオフィシャル犬にしよういう動きもある。


<参考資料:Wikipedia、YouTube、一緒に歌える洋楽ブログ、JKC、Yahoo!知恵袋、
バイリンガルへの道 、アーチトップ・ジャズギターの世界 イシバシ楽器、他>

2 件のコメント:

provia さんのコメント...

こんにちは。

良い曲を取り上げてくれました。
ここで紹介されてるカーネギーホールのライブ盤は
私のお気に入りです。

確かに声はかすれ気味で調子は今ひとつと感じますが、
それも含めて良いと思ってます。

私はオープニングのオーバーチュアの所からいやが上にも
乗せられてしまいます。
こんな音が好きなんです。

ところで今回のコロナ騒ぎで映画「ジュディ 虹の彼方へ」も
見に行く事が出来ません。
とても楽しみにしてましたが、こういう映画はテレビではやらない
可能性もあるし、何よりも映画館の大きな音で鑑賞したかったです。

イエロードッグ さんのコメント...

>provia さん

カーネギー・ホテルのライブ盤、お持ちだったんですね。
「オズの魔法使」出演時の14歳のジュディ・ガーランドの歌唱力、
その20年後の彼女のライブでの歌声。
年輪もありますが、それまでの人生の紆余曲折を感じさせます。

この後1963-1964年CBSで放送されたジュディ・ガーランド・ショーで
いろいろな歌手とデュエットを披露していて、YouTubeで見ることが
できますが、さすがの歌唱力だな思いますね。

「ジュディ、虹の彼方へ」はレニー・ゼルウィガーが演じるのが意外
でしたが、予告編を見る限り合ってる気がします。
昨年ヒットしたボヘミアン・ラプソディ、ロケット・マンはあまり
興味をそそられませんが、これは見たいと思います。
BSでやりそうですね。

この映画公開に合わせてなのか、「オズの魔法使」も放送されますよ。
4/18(土)14:45~16:29 NHKBSプレミアム
また見てみようと思います。