2021年11月23日火曜日

レット・イット・ビー2021 Disc-2-3 アウトテイク集レビュー。



レット・イット・ビー2021スーパー・デラックス、今回はDisc2と3について。
Disc2がアップル・セッションズ、Disc3がリハーサル&アップル・ジャムズ。

この2枚、何が違うのか?いまいち線引きが曖昧である。
しかも収録時間数はDisc2が40分49秒、 Disc3が32分39秒。
CDなら1枚に収まるのになぜ分けたのか?




LP盤でも発売するため、収録時間を短くしたのであろう。
またこういう音源をCDで一気に70分以上聴くとお腹いっぱいになるのも事実。
(ブートでさんざん味わってます。はい)

できればCD1枚にまとめて、もう1枚はルーフトップ完全収録にして欲しかった。
Disc2にドント・レット・ミー・ダウンだけ屋上でのテイク1が収録されているが、
せめて他の4曲も1テイクずつ入れてくれればいいのに。
Disc3にもR&Rメドレー、トラディショナル、デモを追加する余地はあったはず。

と文句ばかりたれててもしょうがないので出ただけでも感謝しつつレビューを。



<Disc2  アップル・セッションズ>

1月21日アップル本社ビルの地下スタジオに場を移して仕切り直しとなってから、
つまりビートルズがやっと本腰を入れてテイクを重ね録音を開始してからの音源

グリン・ジョンズの「ゲット・バック」、フィル・スペクターの「レット・イット・
ビー」に収録されたものとは違うアウトテイクが聴ける。
最終形とは違うが、これはこれで魅力的と思える完成度の高い演奏である



↑Disc2はトラック13〜26。(右側に表示される再生リストから選んでください)


 01.スピーチ (MONO) 〜トゥ・オブ・アス (テイク4)
 02. マギー・メイ / ファンシー・マイ・チャンセス・ウィズ・ユー (MONO)
 03. キャン・ユー・ディグ・イット?
 04. スピーチ (MONO)
 05. フォー・ユー・ブルー (テイク4)
 06. プリーズ・プリーズ・ミー〜 レット・イット・ビー (テイク10)
 07. アイヴ・ガッタ・フィーリング (テイク10)
 08. ディグ・ア・ポニー (テイク14)
 09. ゲット・バック (テイク19)
 10. スピーチ
 11. ワン・アフター・909 (テイク3)
 12. ドント・レット・ミー・ダウン (1st.・ルーフトップ・パフォーマンス)
 13. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード (テイク19)
 14. ウェイク・アップ・リトル・スージー / アイ・ミー・マイン (テイク11) 


トゥ・オブ・アスは当初はゲット・バックのようなアレンジでアップテンポだった。
(1970年の映画でも確認できる)
1月24日、25日、31日にフォークロックのアレンジが固まり録音された。
1月24日のラフなテイクがグリン・ジョンズの「ゲット・バック」に収録された。
テイク4も24日の録音で今回初公開
サビでジョンがギターのトップを叩いてるのが印象的。




マギー・メイは24日のトゥ・オブ・アスの合間に脱線して演奏された。
リバプールに古くから伝わる伝承歌で、悪名高い娼婦のことを歌っている。
クオリーメン時代のライブや録音時のウォーミングアップで歌っていたらしい。
「レット・イット・ビー」収録テイクとは別でモノラル音源
8トラックを回してなかった時の演奏と思われる。(ブートでも聴かれる)

ファンシー・マイ・チャンセス・ウィズ・ユーはジョンとポールが10代の頃書いた
で、1962年のステージでも演奏していたようだ。曲名はFancy My Chances 
With YouだがFancy Me Chances With Youと歌っている。




キャン・ユー・ディグ・イット?1月24日の録音モノラル音源
ジョンが突然始めたディグ・イットは12分25秒も続く即興のジャムとなった。
1970年の映画ではジョージ・マーティンもシェーカーを振ってるのが見られる。
アルバム「ゲット・バック」には4分10秒に縮められて収録され、「レット・イット
・ビー」では後半の59秒だけに編集されている。

今回発表のキャン・ユー・ディグ・イット?は3拍子ではなく4拍子のヴァージョン
ジョンがラップスティールを弾きCan You Dig It?を繰り返すジャムといった様相。
最後にジョンが言ったThat was 'Can You Dig It?' by Georgie Wood, and now
we'd like to do 'Hark, The Angels Comeがスペクターによってディグ・イットと
レット・イット・ビーの間に入れられた。




フォー・ユー・ブルー1月25日にしか演奏されていない
ジョージは趣向を凝らした自作の曲がジョンとポールにぞんざいに扱われるため、
より単純なカントリー・ブルースの楽曲を書いたという。
思惑通り、ジョンとポールもいい演奏をしている。
「悪いホンキートンク・ピアノの音」というジョージの要求に応えるため、ジョージ
・マーティンはピアノの弦とハンマーの間に紙を挟んでトイピアノのような音にした。
ジョンはラップスティールを演奏し、いい味を出している。

この日のテイク6がベストと判断されアルバム「ゲット・バック」に収録された。
アルバム「レット・イット・ビー」版も同テイクだがジョージがボーカルを1970
年1月8日に録音し直している)

初公開されたテイク4はジョージの歌い方がラフであるが悪くない。




◆ポールがピアノでプリーズ・プリーズ・ミーを軽く歌い流してから入るレット・イッ
ト・ビー (テイク10) は1月25日の録音。
曲の構成は固まっているが演奏も歌もまだ緩い。ジョンのベースはやる気がない。
(セッション最終日の1月31日に録音されたテイク27-Aがべストテイクとなり「ゲット
バック」「レット・イット・ビー」両アルバム、シングル盤に採用された)




アイヴ・ガッタ・フィーリング は1月22〜27日に何度も演奏されている。
グリン・ジョンズ版「ゲットバック」に収録されたのは22日のリハーサルでまだ
エンディングが決まっていない。
このテイク10は1月27日の演奏で完成度は高い。
が、1月30日の屋上でのライブ演奏の熱量と迫力はスタジオ録音をはるかに凌駕する。


ディグ・ア・ポニーは22日のリハーサルが「ゲットバック」に収録。
このテイク14は1月28日の録音で完成度が上がっているが、歌も演奏もおとなしめ。
エンディングでのジョンのチャック・ベリーっぽい弾き方がカッコいい
この曲も屋上ライブでの荒々しさに勝るテイクはない。




ゲット・バックは1月27〜28日に集中的に仕上げ、ベストテイクの録音に成功。
ジョージのカウントで始まるテイク19は28日に録音されたテイクで力がこもっている。
特にブレイク後の演奏とポールのアドリブのボーカル(2'40"以降)がすばらしい。

グリン・ジョンズは27日のベストテイクのブレイク後に28日のテイク19編集の後半
を編集でつなぎ合わせたシングル盤、アルバム「ゲットバック」)
3'19"以降はアルバム最後にリプライズとして収録。映画の最後でも使用された。



ワン・アフター・909 (テイク3)屋上コンサートの前日1月29日に録音された。
屋上テイクに引けを取らないくらいどっしりした安定感。いい感じのグルーヴだ。
ビリー・プレストンは生ピアノを激しく連打。
ジョージのギターはレスリー回転スピーカーを通している。




ドント・レット・ミー・ダウン (ファースト・ルーフトップ・パフォーマンス)
1月30日アップル本社屋上でのコンサート。2回演奏されたうちの1回目(1)
ほんとマジでヤバいくらいカッコいい。(←語彙が貧困

これだけでもこのセットを買ってよかったと思える満足度一番の音源だ。
ジョンは3番の歌詞を忘れて誤魔化しているが、それもご愛嬌。ジョンらしい。
(ネイキッドでは1回目と2回目のいいとこ取りでミスを消してしまっている)

シングル盤に採用されたのは1月28日のテイク。これも完成度が高くカッコいい。
屋上テイクと甲乙つけがたい。




両テイクの違いは、屋上テイクではジョージが下にハモって三声になる点、シング
盤テイクはレスポール使用のためメロウな音だが、屋上テイクでジョージはオー
ローズのテレキャスターを弾いておりシャープな音である点。


※この屋上テイクのドント・レット・ミー・ダウンのみ上記の再生リストでは
なぜか「1」のプロモーションビデオ(ネイキッドと同じ)に差し替えられている。
YouTube→Don’t Let Me Down (First Rooftop Performance)で検索するか、
↓下の写真をクリックすると聴けます。




ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード (テイク19) は屋上コンサートの
翌日、1月31日に収録された7テイクのうち最後にしてベスト・テイク
1970年の映画で使用されたのもこれ。
ネイキッドでも同テイクが使用されたが手が加えられている。

グリン・ジョンズもフィル・スペクターも1月26日のテイクを使用しているが、
1月31日のテイク19を選ぶべきだったと思う。




ウェイク・アップ・リトル・スージー / アイ・ミー・マイン (テイク11)
1969年1月のゲット・バック・セッション終了から11ヶ月後の1970年1月3日に
ジョンを除く3人がアビイロード第2スタジオに集合
この日1日でアイ・ミー・マインのレコーディングが行われた。

理由は映画「レット・イット・ビー」でこの曲を演奏しているシーンがあり、
つじつま合わせでレコードにも入れた方がいいということになったため。
1月22日〜31日のアップル社スタジオではこの曲は取り上げられていない。
(ジョンに却下されたため)それで追加録音することになったのだ。
ジョージはサビで転調してロックンロールになるよう作り直していた




この時点で既に一発録音というコンセプトは放棄されていた。
ジョンが脱退宣言してるため3人でやるしかない。問題はない。
アビイロードもジョン不在の曲が多く、3人でも充分できることは実証済みだ。

ベーシックトラックはジョージがアコースティックギターとガイド・ボーカル
ポールのベースリンゴのドラムという編成で16テイクが録音された。
最後のテイク16にオーバーダブが施されその日のうちに効率よく完成した。




テイク6の後にジャム・セッションに興じたり、テイク12の前にバディ・ホリーの
ペギー・スー・ガット・マリードをジョージが披露するなど脱線も楽しんでいる。
このテイク11の前にも、ポールがエヴァリー・ブラザーズのウェイク・アップ・
リトル・スージーのさわりを歌っている。
今回の音源でジョージがベーシックトラックのアコースティックギターでどう弾い
てたのか完全に解明できた(今まではオーバーダブによって埋もれていた)

演奏終了後ジョージはジョンの脱退をデイヴ・ディー・グループを脱退したデイヴ
・ディーにかけて自虐的ジョークを言ってみんなを笑わせている。
You all will have read that Dave Dee is no longer with us. 
But Mickey and Tich and I would just like to carry on the good work that's 
always gone down in number two.
(ご存知のようにデイヴ・ディーが脱退しました。しかしミッキーとティック、
私は2番手と見なされてきましたが、今後もいい仕事をして行くつもりです)





<Disc3  リハーサル&アップル・ジャムズ>

1969年1月2日〜1月16日にトゥイッケナム映画スタジオで行われたリハーサル、セッ
ションを中心に、1月21日以降のアップル本社ビルでのジャム、アウトテイクで構成
されている。

トゥイッケナム・セッションの方は各自が曲を披露し合っているのだが、お互いの
曲に真剣に取り組もうという姿勢が見られず、まとまりが悪い。
脱線してデビュー前のレパートリーをやったりしているが、それもうろ覚えで適当。
演奏の質は低い。




しかし後にアビイロードに収録される曲や、3人のソロ・アルバムに入ることになる
曲も聴かれるので貴重な音源でもある。多くは断片的で未完ではあるが。

この間に演奏された曲(90時間に及ぶ)は撮影カメラと同期録音するナグラテープ
(2)から流出した音源を元に、無数のブートが制作され出回った。
コアなファンはさんざんそれを買い集め聴きまくった。(かく言う私も。。。)
それらはクズの山でもあり、宝の山でもある。

Disc3ではその中から、ハイライトとなる音源をダイジェストで聴くことができる。
また1月2日から31日まで1ヶ月に及ぶゲット・バック・セッションの流れが時系列
で収められている



↑Disc3はトラック27〜39。(右側に表示される再生リストから選んでください)


 01. スピーチ〜 オール・シングス・マスト・パス (リハーサル) (MONO)
 02. スピーチ〜コンセントレイト・オン・ザ・サウンド (MONO)
 03. ギミ・サム・トゥルース (リハーサル) (MONO)
 04. アイ・ミー・マイン (リハーサル) (MONO)
 05. シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー (リハーサル)
 06. ポリシーン・パン (リハーサル) (MONO)
 07. オクトパス・ガーデン (リハーサル) (MONO)
 08. オー!ダーリン (ジャム)
 09. ゲット・バック (テイク8)
 10. ザ・ウォーク (ジャム)
 11. ウィズアウト・ア・ソング (ジャム)
 12. サムシング (リハーサル) (MONO)
 13. レット・イット・ビー (テイク28) 


オール・シングス・マスト・パスはトゥイッケナム映画撮影所でのセッション初日、
1月2日にジョージが披露。3日、6日にも取り上げられている。
この音源は1月3日のリハーサル。一応バンド編成の演奏になっている。
ポールはベースを弾きながら上にハモるジョンはオルガン。いずれもおざなり。

ジョージは他にもヒア・ミー・ロード、レット・イット・ダウンを聴かせるが、
ジョンもポールも関心を示さなかった。



↑セッションではサイケデリック・ペイントのストラトも使われていた。



コンセントレイト・オン・ザ・サウンドはジョンの思いつき即興。(1月6日)
「大きい会場より小さい会場の方がいい。サウンドに集中すべきだ」と歌っている。


ギミ・サム・トゥルースは1月7日の録音でほとんどジョンの独演。
トゥイッケナムではこの他ジェラス・ガイの原曲、未完成のドント・レット・ミー・
ダウン〜サン・キングのギター、アクロス・ザ・ユニヴァースを披露している。




アイ・ミー・マインはジョージがポールの「俺が俺が」を揶揄した曲。
1月8日リハーサルにかなりの時間を費やし41回も演奏している。
3人の演奏に加わらず、曲に併せてジョンがヨーコと踊るシーンが映画で観られる。
この段階ではヴァース間にスパニッシュ風のコードが入りサビはできていない。

ジョンは「ビートルズはロックンロールしか演奏しない。スペインのワルツが入る
余地はない」と冷たく却下。ポールも真剣にやってる感はない。
ジョージはポールの高圧的な態度やジョンのセッションへの意欲の欠如にキレて、
1月10日に脱退宣言してスタジオを出て行ってしまう。



↑ジョンとポールは悪ふざけをやめない。ジョージはいい加減うんざりしてる。


以上はトゥイッケナム・セッションでモノラル録音(後述)されたもの。




↑1月21日からアップル本社ビルのスタジオでセッション再開。
ジョージもギター持参で戻ってきた。
この間はごめんなー言いすぎちまったなーとポールは謝ってるのだろうか。


シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー (リハーサル) 
この曲は1月6日からトゥイッケナムで断続的に取り組んでいた。
「ゲット・バック」の全体のトーンに合うスローテンポでブルージーなアレンジだ。

これはアップル本社スタジオに移ってからのセッションの初日、1月21日の演奏
リハーサル段階で確認しながら進めている。8トラックレコーダーで録音された。
ポールがフェンダー・ローズを弾きながら歌い(ビリー・プレストンの参加は翌日)
ジョンはフェンダーの6弦ベースジョージはギターをワウに通している




ポリシーン・パン (リハーサル) 1月24日トゥ・オブ・アス・セッション中に
ジョンがアコギを弾きながら歌い出した。アコギのオブリガードはポール。
8トラックレコーダーではなくモノラル録音(後述)


オクトパス・ガーデン (リハーサル)1月26日アップル・スタジオでリンゴが
ピアノを弾きながら自作曲を披露している様子である。モノラル録音(後述)
笑い声が絶えない。ジョージがギターを弾きながら曲の展開を考えている。
そこへジョンも登場。何をやればいい?と尋ねリンゴがドラムを頼むと「ポール
がやりたがるだろ」と応える。
(映画では咥えタバコのジョンがドラムを叩く→下手。ポールが登場し「ひどい、
これからだ」と言い放ち雰囲気が悪くなる。空気読めよ、ポール)






オー!ダーリン (ジャム)
1月27日アップル・スタジオでのレコーディング・セッション
この日はゲットバック、アイヴ・ガッタ・フィーリングを中心に進められ、合間に
オー!ダーリンのジャム・セッションが8トラックレコーダーで録音された。
スローなロッカ・バラードのアレンジで演奏される。
荒削りだがジョンとポールのハモリ、掛け合いがいい。
この日ヨーコの離婚が成立した喜びをジョンは即興で歌詞にして歌っている。

※このオー!ダーリン、シー・ケイム・イン〜、2月に取り組んだアイ・ウォント・
ユーが入れば、アルバム「ゲット・バック」の出来はまた違ってただろう。
が、この3曲はやはりアビイロードの方が収まりがいいし完成度もすばらしい。





ゲット・バック (テイク8) は1月27日に集中的にテイクを重ねた録音の一つ
ベスト・テイクと遜色がないくらいだが、ジョンのリードギターがやや雑で中断。
「ちょっと遅い」というコントロールルームの声はジョージ・マーティンか?


ザ・ウォーク (ジャム)
1月27日にゲット・バック、アイヴ・ガッタ・フィーリングの録音をしている合間
にポールが歌い出したファンキーなリズム&ブルース。
1958年にジミー・マクラクランが発表した曲である。
(それにしてもビートルズってマイナーな曲もよく知っててマニアックだなー)
テープが回っていなかったため途中からの録音だが、グルーヴ感が心地いい




アルバム「ゲット・バック」には収録されなかったが、9月22日ボストンのラジオ
局WBCNで放送された特番のアセテート盤には収録されていた。
(WBCN GET BACK REFERENCE ACETATEというブートが出回った)
これを「ゲット・バック」から外したのは惜しい。




※1月26日にはシェイク・ラトル&ロール、カンサスシティ〜ローディ・ミス・クラ
ディ、リップ・イット・アップ〜シェイク・ラトル&ロール〜ブルー・スエード・
ューズ、とR&Rメドレーの演奏が8トラックレコーダーに収められている。
(映画でも見られる。アンソロジー3に収録された) 
1月29日のベサメムーチョ、ナット・フェイドアウェイ、メイルマン・ブリング・ミ
ーノーモア・ブルース(アンソロジー3収録)も検討の余地はあったのに。




ウィズアウト・ア・ソング (ジャム) 
ビリー・プレストンのピアノ弾き語り。リンゴとジョンが参加。8トラック録音。
ビング・クロスビーやフランク・シナトラの歌唱でも知られるゴスペル調バラード。

ビリー・プレストンの参加は音の厚みとアレンジの幅に寄与しただけではなく、
バンの雰囲気を良くした。その貢献度は大きい。
ジョンはビリーをビートルズに入れようと言ったほどだ。(ポールは反対した)
しかし参加ミュージシャンとして初めてビートルズの作品にクレジットが載った。





サムシング (リハーサル) は1月28日のセッション中に披露された。
「歌詞が思いつかない」というジョージにジョンは「思いついたことを歌えばいい、
カリフラワーのようにとか」と適当なことを言っている。モノラル録音(後述)




レット・イット・ビー (テイク28) 
1月31日ゲットバック・セッションの最終日に録音されたテイク20-29の一つ。
採用になったテイク27-Aの後に録音映画ではこのテイクが使用された
後半のThere will be an answerがThere will be no sorrowと歌われている。


Disc3に時系列で収められた音源を聴いて気がついたことがある。
アルバム「ゲット・バック」はアップル・スタジオに移りビリー・プレストンが
参加した初日、1月22日から24日のリハーサル風景が半分を占めている。
グリン・ジョンズは当初ポールが描いた「アルバム制作過程を見せるドキュメン
タリー」という意図を汲んでこのような完成度の低いテイクを選んだのだろう。
そして残り半分は後半の25〜31日の曲が出来上がってきたテイクで構成される。
しかし中途半端で、メイキングという意味合いは伝わらなかった。
自作曲がリハーサル・テイクばかりであることを知ったジョンの機嫌も損ねた。



<Disc2〜3音源についての考察>

MONOと表示されているトラックは8トラックレコーダーでの録音ではない。

ナグラテープであれば一定間隔でピーというビープ音が入る。
これは撮影用カメラのパルスとシンクロしており、編集時に別に録音した音声と
フィルムの位置を合わせるための目安である。
ナグラテープはテープ幅は1/4インチでモノラル、マイクはカメラ横で自動録音。
つまりレベル調整が自動になってしまう。音質は良好でAMラジオ並みである。

今回のMONO音源はビープ音が入らず、音質もモノラルだがより良い
でも8トラックレコーダーを回したものでもない。



↑トゥイッケナム映画スタジオでアイヴ・ガッタ・フィーリングのリハーサル。
ポールが曲の構成とコードを他のメンバーに教えているのが観れます。




↑34秒の箇所で中央に据えられた集音マイクが映る。
8トラックレコーダーを回すほどではないリハーサルや会話はこの無指向性マイク
たぶんコンデンサーマイクで拾っていたようだ





↑たぶん、これと同じマイクでは?


今回のMONOと表記された音源はナグラテープではなく、トゥイッケナム〜アップル
スタジオで会話や練習風景を録音したモノラル・テープが音源だと思われる。



↑音声さんが上からマイクブームアームをかざしている時もある。
こういう引きの絵って好きだな。

「朝早くから寒々としただだっ広いスタジオでずっと赤や青のライトを当てられて
口論まで録音られてたら曲作りなんてできない」とジョンは言っていた。



公開予定の映画は56時間の未発表映像140時間の未発表音源を使用したらしい。

ブートとして出回った90時間の音声はカメラA、カメラBと複数のロールから
重複してコピーされているので、撮影時間を超えてるのかもしれない。

1969年1月2日〜1月16日にトゥイッケナム映画スタジオで行われたリハーサルは
8トラック・レコーダーで録られたというデータがない

★追記(12/1)
11/25-27ディズニー・プラスで配信された「ゲット・バック」で確認した。
ジョージの自宅から8トラックレコーダー3MのM23が撮影所に運ばれた。
グリン・ジョンズは即席のミキシング・ルームを作っていたが、完成した時には
ジョージは脱退を表明してスタジオを去っていた。



1月21日〜31日アップル本社の地下スタジオで本格的なセッションが始まってから、
8トラックでレコーディングされている。
そのスタジオもジョンが頼ったマジック・アレックスの設計が使い物にならなくて、
急きょ機材を手配することになった。

EMIからREDD37と51の2台の4トラック用ミキシングボード(ビートルズの黄金期
に使われた)、アルテックのコンプレッサー、EMIのプレゼンスボックス(イコライ
ザー)を借りる。新人エンジニアだったアラン・パーソンズも派遣された。




8トラックレコーダーはジョージ所有の3MのM23を使用し録音された。
EMIスタジオで前年ホワイト・アルバムの途中から使われたのと同型期である。

曲がほぼ固まってきた段階で8トラック・レコーダーでテイクを重ねて録音。
そのマルチトラック音源と上述の映画用の集音マイクで録られたモノラル音源と
一部ナグラテープ音源、併せて140時間以上ということかな?と解釈している。


<脚注>


(1)ルーフトップ・コンサート

ポールは原点回帰で一発録りでオーヴァーダブなしのアルバム制作を提案。
当初はその制作過程をテレビで放送。フィナーレとしてライブを行うつもりだった。
1月2日から映画スタジオでリハーサルを開始。他3人は消極的で不協和音が出だす。
1月14日に中断。アップル本社に場を移して再開。観客を入れたライブは中止に。
テレビはやめて映画化することに。ハイライトとして屋上でライブを行う。
4人は1月30日アップル本社屋上で無許可のゲリラ・ライブを敢行した。
屋上での演奏時間は約42分。5曲9テイクが関係者の前で披露された。

<演奏曲>
ゲット・バック (ウォーミング・アップ)
ゲット・バック(1回目の前半、2回目の後半をつなげて映画で使用)
ゲット・バック
アイ・ウォント・ユー(ジョンの断片的なギター演奏)
ドント・レット・ミー・ダウン  (映画に使用、今回アウトテイクとして収録)
アイヴ・ガッタ・フィーリング (映画に使用、「ゲット・バック」「レット・
               イット・ビー」両アルバムに使用された)
ワン・アフター・909 (映画、アルバム「レット・イット・ビー」収録)
ディグ・ア・ポニー (映画、アルバム「レット・イット・ビー」収録)
英国国家〜アイ・ウォント・ユー(録音テープリール交換の際に演即興奏)
アイヴ・ガッタ・フィーリング 
ドント・レット・ミー・ダウン
ゲット・バック (警官に阻止されるも続行。映画で使用。アンソロジー 3に収録)

※ドント・レット・ミー・ダウンは2つのテイクの編集版がネイキッドに収録。
また2015年発売された「1+」映像版でも2つのテイクが編集されている。



(5)ナグラ・テープ
映像と音声を後でシンクロさせるため小型オープンリールで録音された音源。
スイス製オープンリール・テープレコーダー「NAGRA」で録音されている。
撮影カメラと同期して作動し、カメラ備え付けのマイクから音声を拾う。
時々ビープ音が入り、同じタイミングでフィルムにはパルス信号が記録される。
本篇で使用する音源は別途マルチトラックで録音されるわけだが、編集段階で
フィルムのパルスとナグラ・テープのビープ音をシンクロすることで、映像と
音の位置合わせの目安となる。

映画「レット・イット・ビー」で使用されたのはNagra IIIで、テープ幅は1/4
インチ」、フルトラック(一方通行)のモノラル・テープレコーダーであった。
カメラA、Bと複数のカメラごとにテープが回る。
レコーディング用テープより劣るものの音質は良好である。 (AM放送並み)
撮影に使用された膨大な量のナグラ・テープが流出し、海賊盤の音源となった。


<参考資料::ユニバーサルミュージック、THE BEATLES楽曲データベース、
discovermusic.jp、NME JAPAN、I MUSIC、RollingStone、Wikipedia、
ゲット・バック・セッションの音源と映像、音で読み解くビートルズ史、他>

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