2022年1月1日土曜日

2021映画「ゲット・バック」ルーフトップ・コンサート&最終日。

 <DAY 21>

1月30日(木)。ルーフトップ・コンサート当日。

屋上には木の床が貼られ(コンクリートだとアンプの音が反響しマイク
が拾うため、また見栄えの問題、足元の寒さを和らげる目的もあったと
思われる)
、音響機材や楽器がセット。
マイケル・リンゼイ=ホッグ監督の指揮下、5台のカメラがスタンバイ
していた。



引きの絵を撮るために向かいのビルの屋上に1台。
カメラ3台で通りの様子、人々の反応を捉える。
受付に隠しカメラが1台、計10台。
コントロール・ルームは演奏開始前に屋外用カメラで撮ったのだろう。

ジョージ・マーティンとグリン・ジョンズは地下のコントロール・ルー
ムで演奏を8トラック・レコーダーに録音
。クリス・トーマスも来ていた。
屋上から地下まで階段にケーブルが通され、屋上の様子は有線カメラ
リンゴ所有のソニー製小型ビデオカメラと思われる)から送られスタジオ
でも確認できる。





4人は下の階に集まっていたが、まだ屋上での演奏をためらっている。


最初に屋上に現れたのは黒い3ピース・スーツを着たポールだった。
中は白地に黒ストライプのシャツ。袖はカフス。コートは着てない。



↑次に姿を見せたのはリンゴと妻のモーリン。
赤いエナメル・コートはモーリンから拝借したと言われてたが、モーリン
は黒いコートを着ているので、赤いコートは本人のだろう。
中は黒のロング・カラーのシャツと黒のパンツ。

そして黒のレザー・トレンチに身を包んだビリー・プレストン。




↑ポールは飛び跳ねて足場を確認。(音楽はいいが靴の趣味が悪い)
ノイマンのコンデンサーマイクにストッキングが被せてある
風が強いため、アランパーソンズは朝ストッキングを買いに行かされた。



↑ドラム・セットの位置が違う。リンゴはマルを呼ぶ。
一緒に来たモーリンはステージ前、かぶりつきの席に座る。



マルが手を離せなかったのか、アラン・パーソンズがドラムをセット。



↑少し不安げなジョージはマルにギターが3台用意されてるか確認。
実際に使用したテレキャスターの他、サイケ・ペイントのストラト、もう
1台はレスポールだろうか?(他のギターは使われることなかったが)

ジョージはトゥイッケナムでも着てたマリークワント(ミニスカートを
流行らせたスウィンギング・ロンドンのデザイナー)の黒いモンスター
コート。ユニセックス?イエローサブマリンのブルーミニーみたい)
中は赤いシャツ。緑のコットンパンツに黒のキャンバス地コンバース・
オールスター。寒くないのか?


最後にジョンとヨーコが登場。
ジョンはあまりの寒さにヨーコの毛皮のコートを借りたというのが通説
だが、これは嘘。ジョンはトゥイッケナムでもこの自分のコートを着てた。
毛皮コートの中は黒のジップアップ、黒いパンツ。
足元は
キャンバス地(汚れた)スプリングコート製テニスシューズ


ジョンは手が冷える(My hands are getting feel of it)と言っている。
リンゴがドラム・セットの前に座り、各自がチューニングに入る。




↑チューニングしてるポール。カッコいい!



そしてロック史に語り継がれるルーフトップ・コンサート、ビートルズが
人前で行なった最後のパフォーマンス
が始まった。




スタジオでウダウダやってた時とは大違いで、ライヴとなるとノリがいい。
一体となったガツンと迫力ある音グルーヴ感たっぷりの素晴らしい演奏
叩き上げのライヴ・バンドなんだなと改めて思う。

前日にマイケル・リンゼイ=ホッグ監督が言ってた「明日、屋上で演れば
何かが起こりそうな気がする」は正しかった




今回、初めて42分間のルーフトップ・コンサート完全版が公開された。
演奏曲は以下の通り。

    ゲット・バック(ウォーミング・アップ
1. ゲット・バック(テイク1)
2. ゲット・バック(テイク2)
3. ドント・レット・ミー・ダウン(テイク1  2021リミックスDisc2収録
4. アイヴ・ガッタ・フィーリング(テイク1)
          (ゲット・バック、レット・イット・ビーに収録
5. ワン・アフター・909 (ゲット・バック、レット・イット・ビーに収録
6. ディグ・ア・ポニー (レット・イット・ビーに収録
    英国国家〜アイ・ウォント・ユー(テープリール交換時に演即興奏)
7. アイヴ・ガッタ・フィーリング(テイク2)
8. ドント・レット・ミー・ダウン(テイク2) 
9. ゲット・バック (テイク3  アンソロジー 3に収録

※テープリール交換時のアイ・ウォント・ユーの練習は入っていないが、
英国国家(ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン)が聴けたのは驚き。




最初のゲット・バック(ウォーミング・アップ)は最終サウンドチェック
ジョージのカウントでギター・ソロと続くコーラス部のみ演奏。

上から突然聴こえてきた爆音に街を行き交う人々は驚き見上げる。



↑赤いコートの女性が見上げるシーンは1970年の映画と同じ。


ゲット・バック(テイク1)からしてグルーヴ感あるいい演奏。迫力がある。
この曲特有のリズムはリンゴのハネ感あるトッタタトッタタが肝と言える。
1拍の頭トッは左手、タタは右手で連打。この間(ま)の取り方は天性のもの。

ジョンのリードは荒削りだがワイルドでいい。
寒さで指が動かないせいもあるのだろう。風も強かった。




↑ゲット・バック(テイク1)演奏中ジョンが冷えた左手に息をかける。




↑フロントの3人はノリノリ。ブレイクの後、跳ねる。
ポールは間奏中Whoo-hoo! Yeah!とリトル・リチャードばりにシャウト。
※写真をクリックすると屋上でのゲット・バック(テイク1)が見れます。



周辺のビルの屋上に続々と人が集まってきた。窓やテラスから見てる人も。
マルチ画面で屋上の各カメラが捉えたビートルズ、周辺ビルや街中の様子
が同時に見れる
ので面白い。臨場感がある。



↑向かいのビルの屋上で手を振る人に笑顔で応えるポール。
観客の前で演奏するのは最後の全米ツアー以来2年半ぶりである。




↑ライヴを嫌がっていたジョージも生き生きと弾いている。
ダウンとアップ、メリハリのあるコード・カッティングが効いている。



↑オフィス街だが隣りのビルの野次馬はどう見ても近所のオバチャン?
月曜の朝、ゴミ出しで会っても違和感なさそう。


1曲目が終わるとポールは拍手に礼を言い、ジョンはWe've had a request 
from Martin and Luther(キング牧師の名)とコメント。


マイケル・リンゼイ=ホッグは地下のグリン・ジョンズにフェンダーのPA
スピーカーの音量を上げるよう無線で指示。
ジョンもポールも充分と言ってるが、監督はさらに大音量にしたいらしい。



↑サヴィル・ロウのアップル本社は5階建のこぢんまりとしたビルだった。
(現在はアバクロンビー&フィッチが入っている)


大音量で周囲に響かせるためのフェンダーのPAスピーカー
(ハウリング
防止のため)外向きに立てかけられてるものと、床に仰向け寝かせてある
ものがある。
手前には4人のモニター用にVOXのPAスピーカーが床に寝かせてあった。



今回は以前より多くの人のインタビューを見ることができる。
また1970年では部分的だったインタビューもより長く話が聞ける。






続いてゲット・バック(テイク2)。これも出来がいい。
1970年の映画では前半テイク1、後半テイク2と編集してあったが、今回は
2テイクともしっかり聴ける。



↑写真をクリックすると
屋上でのゲット・バック(テイク2)が見れます。
当時は寒そうな曇り空の印象だったが、花曇りで晴れ間も見える。
ただし風が強く、寒かったのは事実だろう。






↑隣りのビルの赤いジャケットの女性、向かいのビルでピクニックみたいに
座ってる見物客、パイプを咥え階段を登ってくるオジサンは、カヴァー・
バンドが再現映像を作る時に必ず入れるシーンだ。




↑モーリンもノリノリで楽しそう。
演奏開始前に割り込んで一番手前に席をとったヨーコは終始不機嫌な顔。
(我が強いからジョンがビートルズ>ヨーコであることが気に入らない)



3曲目はドント・レット・ミー・ダウン (テイク1)
シングル盤B面テイクは完成度が高いが、このテイクもカッコいい。



↑写真をクリックすると
ドント・レット・ミー・ダウン(テイク1)が見れます。


コーラス部でジョージが下にハモり3声でDon't Let Me Downと歌う。
最後ジョンのファルセットによるPlease♪のリフレインもキマってた。
(この演奏は2021リミックスのスーパーデラックスDisc2に収録された)




↑ジョンは3番の歌詞を忘れて誤魔化す
And know ree ri-si-coo-si got me blue chi goo meとかなんとか。
英語の字幕でもsings gibberish(意味不明に歌う)と表示されてた。

ジョージは「またかよ」という感じで笑っている。
左のポールも笑ってるが、今回の映画では映らなかった。
リンゴもご機嫌。シンバルの使い方が本当に巧い。




ジョージはヴァース間に入れる複音のメロディを指弾きしている。
コーラス部での歯切れのいいカッティングと対照的でいい。



↑ポールのベースも絶好調で自在に歌っている。
リンゴはヴァースではチキチキチンと小刻みにシンバルを叩き、コーラス
ではDon't Let Me Downの2拍3連に合わせクラッシュさせている。



↑3つボタンのモッズ・スーツの若い男子。ロンドンっ子はオシャレだ。
弁護士事務所のパラリーガルか、会社のメールボーイといったところか。
ウールトレンチをカッコよく着こなしてる若い男性もいた。

「やるのはいいが場所を選んで欲しい。音が大きすぎる」という中年の
ビジネスマンは以前も登場した。今回は他にも意見を述べている。



↑「Fanatastic」と言う赤い服の女性は以前も登場した。
1970年の映画とインタビューで使われてる箇所が違う。



4曲目アイヴ・ガッタ・フィーリング (テイク1)は最高の出来。
(このテイクはアルバム「レット・イット・ビー」に収録された)



↑写真をクリックするとアイヴ・ガッタ・フィーリングが見れます。
あれだけスタジオで演奏を繰り返したのにライヴの方が出来がいい。


ポールのシャウト。リンゴのフィル。ジョージのギターも絶好調。
ブレイク後ベンドした弦を下げる際のヴィブラートが絶妙に巧い

レコードではカットされてたが、映画ではヴァースでジョンがポール
の下にハモりを入れてるのが聴ける。




↑苦情を聞きつけて2人の警官が駆けつける。
以前の映画では警官の姿は映ってるが、やり取りの内容は不明だった。
今回は会話もしっかり聴ける。



↑受付嬢のデビー・ウェラムは「何が起きてるか私も分からない」「映画
の撮影みたいです」とのらりくらり時間稼ぎしてる(えらい!)

「路上まで騒音が聴こえ30分で30件の苦情が出てる、中止してください、
妨害行為、違反です、逮捕者が出ますよ」と言うレイ・ダグ巡査。


レイ・ダグ巡査は1970年の映画公開後しばらく署内でSuperstarのニック
ネームがつき、サイン攻めにあったとか。(この人はまだ健在)
逮捕の警告は脅しだったそうだが、マルは日記に逮捕されたと記してる。
たぶん警察で事情聴取を受けただけなのだろう。






他にもたまたまこの場に居合わせ映画に映ったことで、職場などで有名に
なった人もいたただろう。
半世紀が過ぎ、その多くはもういない、あるいはかなり高齢になってる。
この映画で見る「彼ら」しか知らないわけだから不思議な気がする。

ビートルズだって今は2人しかいない。一緒に演奏してるビリーも他界。
ジョージ・マーティン、マル・エヴァンス、モーリン、リンダも。




アイヴ・ガッタ・フィーリング演奏後ジョンがOh,my Soul♪と歌う。
ジョン、ジョージ、リンゴの順でビルの下に集まった観客を見に行く。
ジョージとジョンは煙草を回し喫みして一服。






5曲目はワン・アフター・909
カメラ・クルー(カチンコ担当)がAll cameras,fourと叫んでる。
映画上は2回のゲット・バックを1つとし、4曲目とカウントしてる。

アップルでは2日前に練習しただけなのに素晴らしいパフォーマンス

(このテイクはグリン・ジョンズの「ゲット・バック」、フィル・スペク
ターの「レット・イット・ビー」、双方に収録された。
グリン・ジョンズ版では演奏前のエレピの音、All cameras,fourと
叫ぶカメラクルーの声、ポールのカウントまで聴ける。




↑写真をクリックすると屋上でのワン・アフター・909が見れます。


ジョージのリードも会心の出来オブリ、間奏のソロが冴えまくる
この間(ま)の取り方はなかなか真似できるものではない。
ロビー・ロバートソンの影響を受けてると思える演奏だ。
間奏と張り合うかのように唸るポールのリードベースもすごい。





演奏後ジョンがOh, Danny boy. The old savanna callingと両手を合わ
せ歌うが、疲れと寒さからか、ため息をつく姿まで今回は見られる。





6曲目はディグ・ア・ポニー
ジョンは「歌詞が要る(I'll have to get the words then)」と言い、ロ
ーディーのケヴィンを呼び、演奏中に目の前でカンペを持ってもらう。

準備の間に出ているギターとエレピの音が、ゲット・バック(アルバム・
ヴァージョン)の前にスペクターの編集で加えられた。

4人はイントロのリフを弾いて再確認。




↑受付ではマルが降りて来て「PAを切ってアンプだけにすれば音は小さい」
と交渉し、警官たちはしばし様子見することにした。

警官たちは防音スタジオで演奏しないこと、なぜ屋上で演奏してるのか
理解できない。
もう一人の警官が「映画なら音はオーバーダブできるのでは」と突くが、
受付嬢デビーに「すべてライブなので」と返されて言葉を失う。
(警官が映画のオーバーダブやらPAについて妙に詳しいのも可笑しい)



ディグ・ア・ポニーのOne two threeのカウントはジョージ。
Hold it(ちょっと待って)と言ってたのはリンゴだった。
吸いかけの煙草をあわてて下に置く。ジョンが鼻をすする。
再びジョージがカウントを取りスタート。



↑写真をクリックすると
屋上でのディグ・ア・ポニーが見れます


ジョンがギターを持ち上げる仕草をする。
ジョージが膝間づきそれに応えたのだが、今回ジョージは映ってない。


文句のつけようがない素晴らしいパフォーマンスだ。
屋上でのジョージのギターは神がかってる
リンゴのフィルの入れ方6/8拍子の4拍でハイハット・オープンを叩く
センスの良さにも脱帽。ジョンの歌とギターに合わせているのだ。

(このテイクもアルバム「レット・イット・ビー」に収録された。
フィル・スペクターは屋上ライヴから3曲選んでいる。
何日もスタジオで演奏したテイクよりライヴの方が出来がよかったのだ)




(イントロの後、ヴァースの手前でポールとジョージがAll I want isと歌う
箇所をフィル・スペクターは編集でカットした。正解だったと思う。
エンディングで残りのyouだけ聴こえる。最後のリフ前2音もカットされた)






ジョンは監督に「手がかじかんでコードが弾けない」と訴えている。
(My hands are getting too cold to play a chord now)


マルは警官にPAを切ったと報告してる頃、屋上では監督がジョンにPAを
またオンにしろ、と反対のことを言っている。





ジョージが「デイグ・イットをやる?(Shall we do 'Can you dig it'?)」
と訊き、監督も尋ねるがジョンは「I don't know」と乗り気じゃない。
演奏曲は屋上に上がっても決まっていたわけではなく迷いがあった




ディグ・イットや他の候補曲もやれたのではないかという気はする。
オー!ダーリン、バスルーム・ウィンドウ、オールド・ブラウン・シュー、
マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー
は練習不足ということか。

レット・イット・ビーもフェンダー・ローズで代用できたと思う。
その場合ビリーが弾く予備のオルガンも置いてあった。
ジョージの後ろには無造作に楽器類が置かれ、マーティンD-28もあった。






ポールのウエスト位置にノイマンのコンデンサーマイクがセットされて
いるから、トゥ・オブ・アスをやる可能性もあった
のだろう。
強風の中、アコースティックギターの録音は難しかったと思うが。




フォー・ユー・ブルー用のラップスチールもリンゴの後に見える
ジョージの曲が1つもなかったのは残念だ。





地下スタジオでテープリールを交換する間、ジョンはアイ・ウォント・
ユーのリフを弾き、4人は英国国家(ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン)を
即興で演奏。
今回は英国国家の演奏シーンを収録。(8トラック録音された音源


外ではすごい人混みができていた。1969年のロンドンの街並みは素敵だ。



↑この娘たちは1970年の映画では後ろ姿しか映らなかった。
ミニスカートが似合うなーと感心したものだ。
この時代だからオフィスガール(雑用係)かキーパンチャーか秘書か。



↑インタビューにも応えている。



埒が明かないので警官が屋上に上がろうとしてる時、7曲目のアイヴ・
ガッタ・フィーリング(テイク2)
が始まる。
この演奏もいいが、余裕からかテイク1より遊びがある。
演奏終了後、ジョンはA Pretty Girl Is Like A Melodyを口ずさむ。




ゲット・バックをもう1回やる前にジョンはドント・レット・ミー・
ダウンをやろう、と言う。
向かいのビルからRock'n Roll!の掛け声。ジョンはYou tooと応える。



8曲目のドント・レット・ミー・ダウン(テイク2)
またしてもジョンは初っ端から間違えて3番の歌詞を先に歌ってしまう



警官2人が屋上に上がって来て、マルが中止するよう言うが4人は無視。
演奏を楽しんでいる。








↓1Fには恰幅のいいケンドリック巡査部長が到着。



部下がいるので上に行っていいか尋ねる。
デビー嬢は「重量制限があるので」と無茶苦茶な理由で巡査部長を阻止。
下の階で待ってもらうことに。





ドント・レット・ミー・ダウン(テイク2)から続けてゲット・バック
(テイク3、9曲目)の演奏を開始

マルは強硬手段でジョージとジョンのアンプを切る。



↑ベースとドラムだけになったことに驚いたポールは横っ飛び
リンゴは笑いながら叩き続ける。




↑ジョージは反抗的にアンプのスイッチを入れ、諦めたマルはジョンの
アンプをオンに。「最後の曲なので」と警官を説得したようだ。
帰っていく警官を振り返り、ポールは「Get Back♪」と挑発的に歌う。


You've been out too long, Loretta.
You've been playing on the roofs again, and that's no good.
'Cause your mommy doesn't like that. Oh, she gets angry.
She's gonna have you arrested.

(また屋上で遊んでたね。そりゃまずい。ママは嫌がるからな。
怒ってるさ。逮捕させちゃうって)
 

そんな状況なので演奏は雑。だが、歴史的ライヴの最後の1曲である。
(このテイクはアンソロジー3に収録された)




演奏終了後ポールが「Thanks, Mo.」と言ってるのは、すぐ横でノリノリ
で声援を送ってくれたリンゴの妻、モーリンへのお礼の言葉。
(ジョンの前妻シンシアとモーリンはキャバーン時代からのファン)


ジョンも最後にジョークでみんなを笑わせた。

I'd like to say thank you on behalf of the group and ourselves.
I hope we passed the audition.

(グループを代表しみんなに感謝を。オーディションに受かるといいな)

※ジョンとポールの演奏終了後の言葉は「レット・イット・ビー」収録
のゲット・バック(1月27日スタジオ録音テイク)の後に加えられた。




↑ビートルズが人前で演奏するのはこれが最後になった。


何度も練習してきた手堅い4曲とワン・アフター・909、計5曲。
ゲット・バックは3回、ドント・レット・ミー・ダウンとアイヴ・ガッタ・
フィーリングは2回やってるので全部で
5曲9テイク演奏したことになる。

警官が現れなくても、あれ以上の時間は厳しかったかもしれない。
ジョンはかなり寒かったようだし、疲れてもいた。
(スタジオでもドント・レット・ミー・ダウンは何度も歌えない、声が
出ないと訴えていた)




ルーフコンサートが聴いてて心地いいのは、演奏された5曲がハーフシャッ
フルの8ビート♩=♪)というハネ感のあるリズムだからではないか。
3/4ワルツのディグ・ア・ポニーでさえシャッフル気味である。

もともとリンゴは癖で8ビートでもハネ気味に叩く。他の3人もR&Bが好き。
ビリー・プレストンが加わってスウィング感が出るようになった。
さらに観客を前にしてのライヴということで強いグルーヴ感が出る。
ルーフトップ・コンサートが我々を魅了する理由の一つのように思える。



演奏を終えたメンバーたちは階段で地下のコントロール・ルームへ。
録音したてのテープをプレイバックして出来の良さに満足していた。





<DAY 22>

1月31日(金)。セッション最終日。
屋上では演奏しなかったアコースティック楽器が入る曲を録音する。
トゥ・オブ・アス、ロング・アンド・ワインディング・ロード、レット・イット
・ビーの3曲が録音および撮影された。



1970年の映画はこの3曲のシーンの後、ルーフトップ・コンサートで終わる。
監督は閉鎖的なスタジオから、一気に屋上での開放感と躍動感がある演奏シーン
で幕を引きたかった。その演出は理解できる。



今回は「時系列でゲット・バック・セッション22日間追体験」がコンセプト。
だから1月30日の屋上コンサート〜31日のスタジオ録音と実際と同じ流れ。

ただしハイライトの直後なので、フルに見せるのではなくエンドクレジットと
一緒に31日のセッションをコラージュ
よくあるNG集のような感じ)してる。
これはこれで、いい演出だと思う。


ロング・アンド・ワインディング・ロード、レット・イット・ビーは「1」の
映像版に収録されてるからいいよね?という割り切りだろう。
ただ3曲ともこの日のテイクは出来がいいので、ちょっと残念である。




特にビリー・プレストンのオルガン・ソロが冴えてるロング・アンド・ワインデ
ィング・ロードの最終日のテイクはベスト
だったと思う。(ネイキッドに収録)
アルバムにされた収録された1月26日のテイクより出来がいい。

レット・イット・ビーもシングル、アルバムに収録されたテイク27の後のテイク
28が1970年の映画では使われていた
最後のヴァースはThere will be no sorrowと歌われている





トゥ・オブ・アスもこの日のテイクがアルバム「レット・イット・ビー」に収録
されているが、今回はその一部しか見れない。


その代わりメイキング・オブみたいな感じで楽しめる
ややこしいが、映画は映画で日毎にテイク数をカウントしているので、レコー
ディングの通しテイクとは異なる。
会話はナグラテープの音源
(ビープ音が入る)が使わた部分もあった。




トゥ・オブ・アスもカチンコが鳴ってテイク1から始める。
ジョンとポールはあいかわらず脱線しまくり。
関係ないラン・フォー・ユア・ライフも歌い出す。
(エルヴィスの曲を意識しながらラバー・ソウルの穴埋め用に作った曲。
嫌いだから二度と歌わない、とジョンは言ってたが)


ジョンがGood night, Paulと言い、ポールが笑顔でSay, good night, John
と返すシーンがとてもいい。仲よかったんだなあ。



ロング・アンド・ワインディング・ロード
ポールがF-stopと言って手を叩くのはカット(フィルム・ストップ)の意味。
カチンコを鳴らす真似をしている。





レット・イット・ビーの合間ジョンとポールがなんちゃってドイツ語で会話。
テイク23の前、ジョン:Are we supposed to giggle in the solo?(ソロの
時ニコニコしていた方がいい?) ポール:Yeah、ジョン:Okayという
やりとりも聴かれる。

うまくいったと思ったテイクの後、ジョンがI lost a bass note somewhere
(どっかでベースを弾き忘れたな)。





テイク27がベストとされた。

ジョージ・マーティンに「一番よかったのでは?」と言われたジョンは
I think that was rather grand. I'd take one home with me
(かなりいい線行ったと思うよ。家に持って帰りたいな)と答える。

グリン・ジョンズも褒めると、Don't Kid us, Glynn. Give it to us straight.
(バカにすんなよ、グリン。正直に言え)と返す。
ポールもWas that good enough?(いいんじゃないか)と言う。


が、完璧主義のポールはまだ続ける気でいる。
We'll do one more to cover ourselves.'cause we know we've got it now.
(もう1回やるとよくなる。やっと掴めて来たから)と。
ジョンはWe've got so many of bastards.(クズばかり)と返す。




いかにもジョンとポールらしいやり取り。いい終わり方だ。
22日間のセッションを通じて4人を見続けてきたピーター・ジャクソン監督に
は、それぞれのキャラクターもまるっとお見通しだろう。


このセッションはビートルズの不和を浮き彫りにしたと言われてきた。
前半のトゥイッケナムはギクシャクしてたものの、アップルに移ってからは
和気藹々で楽しそうで、屋上では圧倒的な実力を見せつける。
本当にいいバンドとしか言いようがない。まだまだやれそうだったのに。





東洋経済オンラインに書いてあったが、この音楽版8時間耐久レースは
音楽ドキュメンタリーとネットの親和性が高く、新しいビジネスモデルで
あることを示唆している。中断できるし、いつでもどこでも観られる。
2時間の劇場公開ではどうまとめても恣意的な偏りが出て不満が残ったはず。
ビートルズの22日間追体験はネットならではの魅力。想像以上に楽しめた。

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