2015年9月6日日曜日

9本の指が奏でる静かなピアノ。

久しぶりで素敵な音楽に出会った。そう思ったのは2年前の今頃だった。

ニルス・フラームというドイツ人ピアニストのソロアルバムだ。 

ジャンルはモダンクラシック。現代音楽だがジャズにも通じるものがある。 
キース・ジャレットのケルン・コンサートが好きな人にはいいと思う。 





ニルス・フラームは注目され着実に活動していた矢先、事故で左手の親指に 
大けがを負い、4本のボルトを埋め込むことになる。 

ピアニストにとっては致命的だ。どれほど失望し悲嘆にくれたことだろう。 



彼は一つのアイデアを思いついた。9本の指で9曲の短い楽曲を作るのだ。 
1日1曲ずつ、彼はレコーディングしてミニアルバム 「Screws」を完成させた。 

曲名はド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シの7曲を「You」と「Me」がはさむ。 





どの曲も音数は少なく、ゆっくりとやさしいメロディーが流れる。 
あえてそうしたのか、そうせざるを得なかったのか。 

くぐもったピアノの音色。空間を感じさせるローファイな録音。 
指のタッチや鍵盤を押し込む音、ノイズまでもが息づかいのように聴こえる。 


静かに流れる時間。部屋の空気感が少しだけ変わったような気がする。 






このアルバムは愛犬エルの死後、初めて買ったCDだ。 
つまり「エルと一緒に聴いた記憶がない音楽」ということになる。 

こうしてエル色に染まっていない新しい思い出が増えて行くんだなあ、と
ちょっと寂しい気がしたものである。





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