2015年9月19日土曜日

名脇役。

ライ・クーダーくらい「名脇役」という言葉が似合うプレイヤーはいないと思う。
俳優で例えるならリノ・ヴァンチュラ、ウォーレン・オーツ、アーネスト・ボーグナイン
といったところだろうか。

ライ・クーダーが参加している曲はどれも渋みが増して引き締まるのだ。
彼のスライドギター、ボトルネックは天下一品、唯一無比である。
ローリングストーン誌の「史上最も偉大な100人のギタリスト」で8位に選ばれている。







ルーツ・ミュージックに対する造詣も深い。
僕はギャビー・パヒヌイ(ハワイアン・スラッキーギターの父)(1)もフラーコ・ヒメネス
(テックスメックスのアコーディオン奏者)(2)もライのレコードで知った。


1980年代には映画音楽を多数手がけている。
ウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」「ジョニー・ハンサム」「ストリート・
オブ・ファイヤー」「クロスロード」。

ロードムービーの金字塔と評されるヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」(3)
のライの渇いたギターは圧巻だった。







ライは以前インタビューで「サントラ盤は売れるけどソロアルバムは売れない」と残念
そうに言っていたことがある。
冒頭で「名脇役」と書いたのもそこだ。


「パラダイス・アンド・ランチ」(1974)も「チキン・スキン・ミュージック」
(1976)も「ショー・タイム」(1977)も味わい深いアルバムである。
しかしなぜか愛聴盤にならないなのだ。いいとは思うけど好きとは言えない。

ライの熱心なファンにそう言うととても不思議そうな顔をされる。
なぜだろう?と自分でも思ったが、ある時ふと気がついた。
僕はライの声質と歌い方があまり好きではないらしい。


それとライの音楽はディープ(言葉を変えるとマニアック)である。
他のアーティストのアルバムで何曲かライが演奏しているのを聴くと素晴らしいと思う
し、映画音楽もライのようにジャンルが明快な方が「色」が付いていていいと思う。
しかしソロ・アルバムでは当然のことながらライがほとんどの曲で歌っているし、音的に
も僕には「こってり」しすぎている。

そんな理由もあるのだが、立ち位置としてこの人は真ん中じゃない方がいいように思う。
異例のヒットとなった「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1997)(4)もライが黒子
徹していたのがかえってよかったのではないだろうか。



ライ・クーダーのライブは一度だけ見たことがある。
それも積極的にではなくたまたまキョードートーキョーからタダ券をもらったからだ。
1979年秋かって虎の門にあった久保講堂(5)という小さなホールでデヴィッド・リンドレ
とのデュオだった。

ライはタカミネのエレアコをBOSS CE-1 (6)でエフェクトをかけて弾いていた。
ちょうど「バップ・ドロップ・デラックス」を発表した頃で、アルバムでも聴けるこの
サウンドがお気に入りだったらしい。

できることならお得意のストラトかマホガニーのアコースティックギターで豪快なスライ
やボトルネックを聴かせてもらいたかったのだが。


最後に僕が一番好きなライ・クーダーのパフォーマンスを紹介したい。
インドの音楽家モハン・ヴィシュワ・バッツと共演した「Meeting By the River」
(1993)というアルバムで、ライはボトルネックでアコースティック・ギターを、
バッツはモハン・ヴィーナというシタールとギターの中間のような楽器をやはりボトル
ネックで弾いている。
全編歌なしのアコースティック・インストゥルメンタル。

録音はカリフォルニアの教会でアンビエントを生かした一発録り。
あえてアナログの機材を使うことで音圧は低いが温かみのあるいい音が録れている。

この曲は「パリ、テキサス」ではガットギターで弾いてたテックスメックス風のワルツを
アレンジし直したようだ。
BGMとしても和める。我が家ではカレーを食べる時の定番BGMです(笑)







(1)ギャビー・パヒヌイはハワイアン・スラッキーギターの父と呼ばれている。
スラッキーの奏法はハワイでは家族で伝承されていたが、ギャビーはソロ楽器として、
また歌いながら弾く現在の演奏スタイルを確立した。
ギャビーはハワイの伝統音楽からポピュラー音楽、オリジナ曲までスラッキーで弾き
歌うことができた。
ライ・クーダーはギャビーに惚れ込み「チキン・スキン・ミュージック」(1976)では
彼を招き参加してもらっている。


(2)フラーコ・ヒメネスはテキサス州サンアントニオのアコーディオン奏者。
テックスメックスとはテキサスとメキシコの国境地帯の文化のことで音楽も含まれる。
フラーコはコンボ編成のバンドのアコーディオン奏者だった。
ライのライブ・アルバム「ショー・タイム」(1977)で演奏して注目される。
後にテキサス・トーネイドーズというバンドでも活躍した。


(3)「パリ、テキサス」(英語: Paris,Texas, 「テキサス州パリス」の意)は1984年
作、ヴィム・ヴェンダース監督の西ドイツ・フランス合作映画である。
ヴェンダースの代表作のひとつでありロードムービーの金字塔と評価されている。
テキサスを一人放浪していた男の妻子との再会と別れを描いた作品で、1984年第37回
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。
出演はハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー他。

(出典:Wikipedia)


(4)「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」はライ・クーダーとキューバの老ミュージ
シャンで結成されたバンド。
ライ・クーダーがキューバに旅行した際、それまでキューバ国外にはほとんど知られて
いなかった老ミュージシャンとセッションを行ったことがきっかけとなり、1997年に
アルバムが発売され、1999年にはヴィム・ヴェンダース監督によってドキュメンタリー

(出典:Wikipedia)


(5)久保講堂は東京の虎ノ門にあった収容人数1000人ほどのホール。
1958年に霊友会が建設したホールで久保講堂は創立者の名前が由来となっている。
1970〜1980年代にロックやフォークのライブに使用されている。
確かマイケル・フランクスもここで見たと記憶している。
1984年3月に閉館。
跡地には新霞ヶ関ビルが建設された。


(6)BOSS CE-1 Chorus Ensemble。
1976年BOSSのエフェクター1号機として世界初のコーラス・ペダルが発売された。
ギターの音を美しく揺らすコーラス/ビブラート効果(ステレオ出力ができた)は
世界中で評価され、リー・リトナーなどのギタリストたちが使用していた。
当時の販売価格は25,000円と高価だったけどミーハーな私は買いました。
使いこなせなかったけど(笑)

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