2016年9月20日火曜日

野性的でいかがわしいストーンズのライヴ。

ビートルズの「ハリウッドボウル」がCD化されてめでたしめでたしの今日この頃
だが、対抗馬のローリングストーンズの初期のライヴ盤はあるのか?

あるんです、ちゃんと。と言うか一応。
1966年リリースのストーンズ初のライヴ盤「Got Live If You Want It!」だ。


一応と書いたのは、ビートルズの「Live At The Hollywood Bowl」が「演奏には
一切手を加えていない」正真正銘のライヴ音源であるのに対し、ストーンズのは
正真正銘と言えない「手を加えまくったライヴ盤もどき」だからだ。

ストーンズもその内容に満足せず、このアルバムを認めていない。
1970年の「Get Ya Ya’s Out」を最初の公式ライブ・アルバムとしている。
その点も踏まえて「一応」という表現にした。



「Got Live If You Want It!」はアメリカでの販売元ロンドン・レコード(1)
の要請により編集され1966年11月にリリースされたライブ・アルバムだ。

ジャケットにはロイヤル・アルバート・ホールでのライヴとクレジットされている
が、実際は1966年10月のニューカッスル・アポンタインとブリストルでの演奏が
納められている。
ロイヤル・アルバート・ホールと記載されているのはプロデューサーのアンドリュ
ー・ルーグ・オールダム(2)が「その方が箔がつく」と考えたからだ。


収録曲はオリジナル7曲とカヴァーが5曲。
4作目のアルバム「Aftermath」がリリース(アメリカでは6枚目、収録曲が異なる
)された半年後で、同アルバム収録曲の「Under My Thumb」「Lady Jane」の
他、「19th Nervous Breakdown」「Get Off of My Cloud」「Satisfaction」
などの代表曲が収められている。

Side A
1. Under My Thumb 
2. Get Off of My Cloud
3. Lady Jane
4. Not Fade Away (Norman Petty/Charles Hardin) 
5. I’ve Been Loving You Too Long (Otis Redding/Jerry Butler) 
6. Fortune Teller (Naomi Neville)  
Side B
1. The Last Time
2. 19th Nervous Breakdown
3. Time Is on My Side (Norman Meade) 
4. I’m Alright (Ellas McDaniel) 
5. Have You Seen Your Mother, Baby, Standing in the Shadow?
6. (I Can't Get No) Satisfaction 



↑クリックすると「Got Live If You Want It!」の試聴ページに飛びます。



ほとんどの曲はヴォーカルが録り直しされている。
ミックの手拍子(歌いながらだろう)のボコボコ言うノイズをがマイクが拾って
たり、やけにヴォーカルやタンバリンが近くに聴こえたり不自然さを感じる。

「I’ve Been Loving You Too Long」「Fortune Teller」の2曲に至っては、ス
ジオ・テイクに歓声をオーヴァーダビングした擬似ライヴである。
収録曲数が足りなかったため、アメリカのロンドン・レコードがストーンズに無
断で加工したものだった。

ヴォーカルの録り直し自体はミックも納得してやったことだろうが、あまりにも
不自然な出来に怒り心頭だったのではないかと思う。



編集されまくりで純粋なライヴ盤とは言いがたいものの、若き日のストーンズの
エネルギッシュな演奏が楽しめる貴重な音源であることに変わりはない。
「Get Ya Ya’s Out」以降のライヴとは違い、どの曲もスタジオ・テイクよりア
ップテンポで演奏され迫力がある。


冒頭の「Under My Thumb〜〜Get off of my cloud」メドレーのスピードとワ
イルド感にはワクワクしてしまう。
「Not Fade Away」は後年のライヴよりも勢いがある。
ミックのヴォーカルに絡むブライアンのブルースハープが黒っぽくていい。

「Satisfaction」と思わせてから入る「The Last Time」のアレンジもなかなか。
「Lady Jane」でのミックの丁寧なヴォーカル、ブライアンの奏でるエレキシタ
ール、スタジオ版とニュアンスの違うキースのギターも聴きどころ。
「Time Is on My Side」はスタジオ・テイクよりもずっとかっこいい。(3)







「Got Live If You Want It!」は異なるミックスが乱造されている。
フェイドアウトしたりしなかったり(途中でふっと切れたり)、MCの尺が違っ
たり、歓声と演奏が左右泣き別れになっているものと歓声もステレオになって
いるもの、など。
CD化された後は曲が終わるごとにフェイドアウトしライヴ気分を萎えさせる。



アルバム・タイトルはストーンズが敬愛するブルース・シンガー、スリム・ハ
ーポ(4)のデビュー曲「Got Love If You Want It」をもじったもの。

実は英国ではその前年の1965年6月デッカから同じ「Got Live If You Want It!」
というタイトルでEP盤が発売されているが、内容は前述のLPとは全くの別物。

1965年3月リヴァプールとマンチェスターのステージを収録したもので、手が加
えられていない生々しい演奏とヴォーカルが聴ける。
オリジナルのヒット曲は収録されずカヴァー曲だけで構成された。


Side A
1. We Want The Stones (Nanker Phelge)
2. Everybody Needs Somebody to Love (S. Burke, J. Wexler, B. Russell)
3. Pain in My Heart (Naomi Neville)
4. Route 66 (Bobby Troup) 
Side B
5. I'm Moving On (Hank Snow)
6. I'm Alright (Ellas McDaniel)






ハンク・スノウ(5)の「I’m Moving On」をR&Bにアレンジしブライアンのスラ
イドギターをフューチャーした演奏と、 ボー・ディドリー(6)の「I’m Alright」
のカヴァーは特に出来がいい。
「I'm Alright」はLPにも収録されているが、LPの方はこの演奏トラックを使用し
ヴォーカルのみ録り直したものと思われる。



アメリカではこのEP盤は発売されず前述のLPが独自に(勝手に)編集された。
この辺が英国デッカと米国ロンドン・レコードのストーンズの解釈の違い、とい
英国市場と米国市場の違い(=ファンの質の違い)なのだろう。

ストーンズの原点であるR&Bが聴ける、若き日の野獣のような激しさといかが
わしさが感じられるという点ではこのEP盤に軍配が上がる。
しかし僕のようなミーハーなファンにとっては、慣れ親しんだナンバーが聴ける
LP「Got Live If You Want It!」の方が楽しる。


実際に「Love You Live」(1977)や「Still Life」(1982)より「Got Live If You 
Want It!」と「Get Ya Ya’s Out」の方が聴く機会が多い。
まあ、ブライアン・ジョーンズかミック・テイラーがいた頃のストーンズが好き
ということになるのかもしれないけど。


「Got Live If You Want It!」は初期のストーンズの貴重なライヴ音源だ(7)
たとえ過剰に手が加えられたいあざとい編集盤であったとしても。
こんなレコード会社のやりたい放題のいい加減なアルバム(8)が許されてたなんて、
ある意味ありがたいことかもしれない(笑)


<脚注>

(1)ロンドン・レコード
英国デッカ・レコードのアメリカでのデストリビューター
日本ではキングレコード傘下のレーベルでローリングストーンズやゾンビーズを
扱っていた。
ストーンズのデッカ時代の楽曲の版権および原盤権は、後にマネージャーに就任
したアラン・クラインのアブコ・レーベルに根こそぎ持って行かれた。


(2)アンドリュー・ルーグ・オールダム
ブライアン・エプスタインの下でビートルズの宣伝係を担当後ストーンズのマ
ネージャー兼プロデューサー兼PR担当になる。
ストーンズを不良スタイルで売り出したのも、キース・リチャーズの「s」を
外して「リチャード」にしたのも、ピアニストのイアン・スチュアートを正式
メンバーから外したのも彼の提案であった。
薬物問題とミックとの関係悪化から契約をアラン・クラインに譲った。


(3)スタジオ・テイクよりかっこいい「Time Is on My Side」
余談だが、翌1967年に発売された「ザ・タイガース・オン ・ステージ」(サン
ケイ・ホールで開催された初ワンマン・コンサートの模様)に収録されている
「Time Is on My Side」は「Got Live If You Want It!」でのストーンズの演奏
を完コピしていてなかなかの出来である。


(4)スリム・ハーポ
アメリカのブルース・ シンガー、ハーモニカ奏者、ギタリスト。
1957年「Got Love If You Want It」でデビュー。
「Baby Scratch My Back」(1965)がビルボードR&Bチャートで1位を獲得。


(5)ハンク・スノウ
カナダ出身のカントリー。シンガー。
1950年の「I'm Movin' On」が大ヒット。
1952年の「A Fool Such as I」は後にエルヴィスにもカヴァーされた。


(6)ボー・ディドリー
アメリカのロックンロール・シンガー、ギタリスト。
強力なリズムを基調とした独特のサウンドは、ブルースとロックンロールの
掛け橋となった。


(7)初期のストーンズの貴重なライヴ音源
1960年代のストーンズのライヴを聴きたいなら、1965年のリヴァプール公演と
パリ公演の放送音源を収めたブート盤「 LIve In Paris」か、やはりブートで出回っ
ているBBCのスタジオ・ライヴを入手するのが手っ取り早い。

あとは1965年のアイリッシュ・ツアーの模様を収めたドキュメンタリー映像作品
「Charlie Is My Darlin’」のスーパー・デラックス・エディションに付いているCD
(1965年のロンドン、リヴァプール、マンチェスター公演から13曲収録)が高音
質ステレオで評判がいいけど、そのために高価なボックスを買うのもちょっと。
CDだけで発売しないかなあ。



↑クリックすると「Charlie Is My Darlin’」のトレーラーが見られます。



(8)レコード会社のやりたい放題のいい加減なアルバム
1960年代半ばまでは英国のアーティストのレコードはアメリカのレコード会社が
勝手に編集して発売してしまうことが多かった。
アメリカの市場が大きく力が強かったせいでもある。
独自編集は日本でも行われていた。
僕か友人からもらった日本の編集盤なんか片面がヒット曲寄せ集め、片面が「Got 
Live If You Want It!」からの抜粋という酷い内容で、なんとかパックというダサい
クリーム色のビニール製ボックスだった。


<参考資料:Wikipedia、Amazon他>

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