2022年3月22日火曜日

サイドマンとしてリズムを刻み続けたドン・ウィルソンが他界。

 ベンチャーズの創設メンバーで最後の存命者、ドン・ウィルソンが亡くなった。
享年88。死因は老衰。4人の子供たちに見守られ安らかに息を引き取ったそうだ。
ご冥福をお祈りします。



ドンはリズムギター担当。
ノーキー・エドワーズのリードギターを支える、いわば名バイプレーヤーだった。

ドンと一緒にベンチャーズを結成しベースを担当をしてたボブ・ボーグルはリンパ腫
の闘病の末、2009年他界している。


圧倒的なテクニックを誇ったリードギターのノーキー・エドワーズは2018年に術後
の合併症により死去。
鉄壁のドラムのメル・テイラーは1996年来日中に肺癌が発覚。帰国後、他界。

ノーキー脱退後、代わりにリードギターとして加入し、幅広い音楽性とベンチャーズ
歌謡という新ジャンルをもたらしたジェリー・マギーは、2019年ソロで来日中に心臓
発作を起こし死亡。都内の桐ヶ谷斎場で荼毘に付された。


これでベンチャーズ黄金期のメンバーは1人もいなくなった。そう思うと寂しい。
天国で5人は再会しまた演奏しているのだろうか。


ベンチャーズは1959年のデビュー以来、何度もメンバーが入れ替わっている。
その中で創設メンバー、ドンとボブの2人は一度もバンドを離れることはなかった。
メンバーの変遷があってもドンとボブがいる限りベンチャーズなのだ。

    



ボブ他界後もドンはベンチャーズを支え続けた。
(2015年の来日を最後にツアー参加を引退したがレコーディングは継続してた)


    
<ベンチャーズ・サウンドはリードギター+リズムギターが中核>

ドン・ウィルソンとボブ・ボーグルの出会いがベンチャーズの始まりである。
中古車のセールスマンだったドンの店にレンガ職人のボブが車を探しに来た。
2人はすぐ仲良くなり、お互いにギターを弾くことを知る。
一緒に何か始めてみないか?とすぐ意気投合。

ギター2人というシンプルなデュオを組んだ。1958年のことである。
ベンチャーズ・サウンドの中核はリードギター+リズムギターの組み合わせだ。




2人は地元タコマのナイトクラブに出演し腕を磨いて行く。
ドンはチェット・アトキンスのウォーク・ドント・ラン(原曲はジョニー・スミス)
を弾いてみようと試みるが難しすぎて断念。2台で弾いているように聴こえたという。
そこで分解しドンがコード、ボブがメロディと分担。アップテンポにリアレンジした。
この分かりやすさとスピード感からクラブで演奏すると受けるようになる。

ドラマーとベーシストが加わり4ピースのインスト・バンドとなった。
(ノーキーは当初ベース担当として参加した)

バック・オウエンスのバンドでキャリアを積み多彩なテクニックを持つノーキーなら
ジョニー・スミス風もチェット・アトキンス風もモノにできたはずだ。
しかしボブ+ドンのシンプルなロック・ヴァージョンだからこそ、1960年発売の
ウォーク・ドント・ランは全米2位を記録するヒットとなったのだと思う。



<ドン・ウィルソン奏法-1 ストラミング(コード・カッティング)>

ドンのリズムギターは独特でパワフルである。
リズム・セクションがなかったため、ドラムの役割もできないかいう試みから、
コードを叩きつけ時にかきむしるるようなハードなストラミングになったそうだ。

力強いダウンピッキングで8ビートを刻み、1拍は16ビートというパターンが多い。
1970年代半ばから隆盛を極めたフュージョンやAORで多用されたお上品な16ビート
とは違い、もっと荒々しくかき鳴らすジャカ弾きである。
ドン・ウィルソンは頻繁に弦を切った、と言っている。そりゃそうだ。


たとえばウォーク・ドント・ランのイントロ。

♬ ♪  -   ♬ ♪   -   ♬♬♪ - 
↓↓↓     ↓↓↓       ↓↓↓↓
Am      G          F    E



10番街の殺人のイントロ。

♬♬    -   ♪   -  ♪ ♪   -  
↓↑↓↑      ↓      ↓↓
D



↑こんな教則レコードも出ていた。
ベンチャーズがきっけでエレキという若者はアメリカでも多かったようだ。







<ドン・ウィルソン奏法-2 トレモロ・グリッサンド(テケテケテケ)>

ベンチャーズのトレードマークともなった連続ピッキングで6弦を降下する奏法
日本ではテケテケテケで親しまれてるが、トレモロ・グリッサンド(スライド
グリッサンド)という。波のうねりを表現するための奏法らしい。




ベンチャーズは曲によってノーキーがやる場合とドンがやる場合がある。
このトレモロ・グリッサンド。人によってやり方が違う


ギター・マガジンのインタビューと萩原健太氏がドン本人に訊いた話をまとめると、
ドン・ウィルソンのトレモロ・グリッサンドのコツは。。。

・6弦のブリッジあたりを右手の掌でミュートし、ボディに腕をくっつけて弾く。
低音弦のミュートのさせ方はとても大切なテクニック。
厚めのピックを使用。まっすぐでは駄目で45度の角度で斜めにピックを当てる
・ピックを自由に動かしまくりながら左手の人差し指を6弦上でスライドさせる。
・リバーブをたっぷり効かせる。アンプのリバーブのノブは半分くらいまで回す
(リバーブのかかり具合は会場ごとに音が異なるので、リハーサル時メンバーの誰
 かが客席まで降りてサウンドを確認していた)




※ベンチャーズのトレモロ・グリッサンドの迫力はモズライトの大出力ピック
アップとフェンダーのアンプに搭載されてたリバーブによるところが大きい。




これに対して加山雄三は薄いピック、太い弦でやっていた。
寺内タケシは左手の人差し指と中指を交互に動かしながら6弦の上を滑らせた方が
きれいに音が出る、と言っている。

テケテケテケもいろいろあって奥深いのだ。


ベンチャーズのトレモロ・グリッサンドは頭にタメというか半拍くらい間がある
(ん)テケテケテケ・・・・という感じ、といえばいいだろうか。

そして野太い音で一気に降下して行くが、拍で割り切れない長さがある。
だんだん音が消えて行くのがまた哀愁。余韻があっていい。






<ドン・ウィルソンが語ったベンチャーズのこと>

ギター・マガジン2018年6月号に掲載された記事が公開されてる。必見です!

追悼 ドン・ウィルソン(ベンチャーズ)ギター・マガジン最後のインタビュー
https://guitarmagazine.jp/interview/2022-0124-rip-don-wilson/



ボブ・ボーグルとの出逢い、ジャズマスターとストラトを選んだ理由、初来日、
フェンダーのアンプを使うようになった経緯、モズライトの音、音作りの方法、
アレンジについて、リズムギターの重要性、ノーキーのこと、などなど。
興味深いエピソードがたっぷり載っている。





インタビューの最後でドンはこう語っていた。

「日本の各地にベンチャーズのコピー・バンドがいることを誇らしく思う。
京都ベンチャーズ、広島ベンチャーズ、東京ベンチャーズ、札幌ベンチャーズ。
これってすごいことだ」と。

いやいや、そんなの序の口ですよ、ドン・ウィルソンさん。
池袋ベンチャーズ、荻窪ベンチャーズ、春日部ベンチャーズ、鎌倉ベンチャーズ。
もっともっとディープに細分化してます。
僕は転職を重ねたけど、どの会社にも取引先にも1人くらいは「ベンチャーズの
コピバンやってます」という人がいた。
しかもリアルタイム世代だけでなく追体験した若い人たちまでいる。
これって本当にすごいことだと思う。


<続く>


<参考資料:ギター・マガジン、ミュージックライフ・クラブ、 BS音盤夜話、
Wikipedia、他>

2 件のコメント:

provia さんのコメント...

とうとう全員が亡くなってしまいましたね。いつ頃だったかノーキーが参加したベンチャーズのライブを見ました。悪くはなかったのですが「何だかなぁ~」という感じもありました。ドンのリズムギターがやたらに目立ち、リードリズムギターという印象。バンドアンサンブルが今ひとつでした。あれくらいのバンドになると意見できる人もいないのでしょうね。

イエロードッグ さんのコメント...

provia さん

コメントをありがとうございます。
ベンチャーズに限らず時期によってライブの出来ってバラつきがありますよね。
まとまりとかノリとか音のバランスとか。
1965年の来日がバンドとしてピークだったのでしょうか。
provia さんがご覧になった時はノーキーが控えめになってたのかもしれないですね。