2022年11月16日水曜日

「リボルバー」2022リミックスを深掘りしてみる(2)




 <1CD、2CD、5CD、アナログLP、どれを買うのが正解?>


一連のリミックス同様、今回も以下のエディションが発売された。



1CD(オリジナル・アルバムのリミックスのみ)


2CD(Disc2はアウトテイクのハイライト、ブックレット付)
 ※今回は見開きジャケットとブックレットが箱に収まっている。





5CDスーパー・デラックス(豪華ブックレット付、箱入り
 Disc2&3はアウトテイク集、Disc4はモノラル・ミックス、
 Disc5はシングル2曲それぞれのステレオ/モノ計4トラックのみ
 ※今回はボックスの形状がLPサイズ





1LP(オリジナル・アルバム、ハーフスピード・マスタリング)


4LP+7inchシングル・スーパー・デラックス
豪華ブックレット付、箱入り





Amazonのレビューでこんなことを書いてる人がいた。

  今回もボックスを買ったが、毎回大きさも形状も違う
  場所を取るので困る。

  年に1回。いつまで続くのだろう。生きてるうちに終わるのか。
  そう思うと憂鬱になる。


同感だ。
ボックスをありがたがる人もいる(神棚にでも置いて祀るのかな?)
場所を取って邪魔なだけだ。箱を開けるのが面倒で聴かなくなる。(1)



今回のリボルバー2022リミックスは2CDを買った
アウトテイクはハイライトで充分じゃないかと判断したので。

5CDのDisc2&3は4/6〜6/22のリボルバー・セッションを時系列で追って
いるので、レコーディングの流れが分かる。そこがいい点だ。





5CD収録のアウトテイク(Disc2&3)と2CDのアウトテイク(Disc2)の
比較どのテイクがダブっているかをしてみた。

聴きたい音源かどうか、どれを買うか、の参考になれば幸いだ。
(もちろんアウトテイクは不要、オリジナル・アルバムの1CDで充分という
選択肢もアリだ)




<2CDか、5CDかはアウトテイクを吟味してから選んだ方がいい>

以下、5CDのDisc2&3収録トラック中、2CDのハイライトでも聴けるテイク
には
マークを付けてある。

聴く価値大と思うテイクにはを付けた。あくまでも私見だが。




Disc 2 CD Sessions

01. Tomorrow Never Knows (Take 1)  
  →アンソロジーと同テイク、収録時間が長い
02. Tomorrow Never Knows (Mono Mix RM 11)
  →モノ・ミックス、SEの入り方が違う(ステレオよりいい)
03. Got To Get You Into My Life (First Version / Take 5) 
  →アンソロジーと同テイク、収録時間が長い
04. Got To Get You Into My Life (2nd Ver./Unnumbered Mix) ◉ 
  →ホーンの箇所でジョージがファズギター、コーラス掛け合い



↑Got To Get You Into My Life (2nd. Ver./Unnumbered Mix)が聴けます。



05. Got To Get You Into My Life (2nd Version / Take8)
  →トランペットとサックスが入る。演奏のみ
06. Love You To (Take 1)
  →ジョージのアコギ弾き語り、ポールのハモり
07. Love You To (Unnumbered Rehearsal)
  →シタールとタンブーラだけ(聴いてて退屈)
08. Love You To (Take 7) 
  →公式と同テイクだが演奏時間が長い、ポールのハモりが入る
09. Paperback Writer (Takes 1 & 2 / Backing Track)
  →テイク1はすぐ中断、テイク2は公式で採用した演奏のみ
10. Rain (Take 5)
  →速いテンポでの演奏のみ(歌入れで回転を落とすため)
11. Rain (Take 5 / Slowed Down)
  →回転を落としたもの、ハモり・コーラスなし、演奏が長い
12. Doctor Robert (Take 7) 
  →ジョンの声はADTなし、演奏が長い、公式テイクとほぼ同じ
13. And Your Bird Can Sing (First Version / Take 2)  
  →アンソロジー 収録テイクと同じ、笑い声なし、ギターが違う
14. And Your Bird Can Sing (First Version / Take 2 / Giggling)
  →アンソロジー収録、2人が笑いながら歌う、間奏ギターが1人分






Disc 3 CD Sessions

01. And Your Bird Can Sing (2nd Version / Take 5) 
  →少しテンポが遅いラフなテイク。間奏でAh....のコーラスが入る。
02. Taxman (Take 11)  
  →公式テイクと同じ。最後はギターソロ(間奏をコピペした)がない
   ジョンとポールの早口コーラスanybody got a bit of moneyが入る
03. I'm Only Sleeping (Rehearsal Fragment)
  →ヴィブラフォンの入る演奏、アンソロジー収録と同じだが長い
04. I'm Only Sleeping (Take 2)  
  →アンソロジー収録と別テイク、ハモリ付き、ジョンが間違えて中断



↑写真をクリックするとI’m Only Sleeping (Take 2)が聴けます。



05. I'm Only Sleeping (Take 5)
  →後で回転を落として歌を入れているため、テンポを早めて演奏
06. I'm Only Sleeping (Mono Mix RM11)
  →モノ・ミックス、逆回転のギターの入り方が違う
07. Eleanor Rigby (Speech Before Take 2)
  →弦楽器のリハーサル、ヴィブラートを入れるか相談してる
08. Eleanor Rigby (Take 2) 
  →ストリングスのオケ(ヴォーカルなし、聴いてて退屈)
09. For No One (Take 10 / Backing Track) 
  →ポールのクラヴィコードとピアノ、リンゴのドラムだけの演奏




10. Yellow Submarine (Songwriting Work Tape / Part 1) 
  初登場音源!ジョンが自宅で録音したデモ(元はジョンが作った曲
11. Yellow Submarine (Songwriting Work Tape / Part 2) 
  初登場音源!ポールが完成させた曲をジョンが歌ってみる
12. Yellow Submarine (Take 4 Before Sound Effects) 
  →回転を落とし歌を録音している、元のピッチだと歌まで半音高い
13. Yellow Submarine (Highlighted Sound Effects)
  →SEを強調したミックス、FOでない終わり方
14. I Want To Tell You (Speech & Take 4) 
  →タイトルについて意見交換、演奏のみ、中断する ※
15. Here, There And Everywhere (Take 6)  
  →アンソロジー収録と同じだが、最後までポールのデモが聴ける
16. She Said She Said (John's Demo)
  →ジョンが自宅で録音したアコギ弾き語りデモ、歌詞が異なる
17. She Said She Said (Take 15 / Backing Track)  
  →演奏のみ、完成形に近い 





Want To Tell You は曲名がまだ決まっていない。(2)
ジョンが言ってるGrany Smith part friggin' two!(Grany Smithは林檎
の品種)はLove You Toの仮タイトルがGrany Smithだったから。
リンゴはTell Youを提案し、いいだろ?と言う。
ジェフ・エメリックがLaxton's Superb(これも林檎の品種)と呼応。


※ She Said She Saidはジョンと口論になってスタジオを飛び出した
ため録音に参加してない」とポール自身が告白している。
公式テイクのベースはジョージが弾いている。コーラスもジョージ1人。
しかしテイク15ではポールがカウントを取りベースを弾いている
公式テイクとほぼ同じ完成度。ジョンは「最後の曲だ!」と言っている。
この後、何で口論になったのだろう?




こうして見直すと、あえてアウトテイク2枚分も必要ないように思う。
2CDのDisc2ハイライトも半分は要らないと思えるくらいだ。



そんな中で白眉のレアテイクがあった。
ジョンがアコギ弾き語りで歌うYellow Submarineの原型である。
こんな音源、ブートでもお目にかかったこともない。驚いた。



↑Yellow Submarineの原型。ジョンによるデモが聴けます。



「僕が生まれた街は誰も人のことなど気にしない」という寂しげな歌詞
Nowhere Manや後のソロ作品にも通じる内省的なもの。
これが楽しいマーチのYellow Submarineになるとは想像できない。


In the place where I was born, no one cared, no one cared
And the name that I was born, no one cared, no one cared
In the town where I was born, no one cared, no one cared
If you're right, then you're wrong, no one cared, no one cared
In the town where I came from, no one cared, no one cared



この曲はポールがリンゴのために書いたというのが通説だった。
しかし、元ネタはジョン。
これ以上発展させられなかったのか、ポールが書き変え完成させたようだ。
Yellow Submarineとなった曲をジョンが歌いポールが意見を言い一緒に歌う
デモ音源も聴ける。
We all live in a Yellow Submarine♫の合間にLook out”、Get downの
合いの手?が入る。


↑Yellow Submarineとなった曲をジョンとポールが歌うデモが聴けます。



この2つのデモは貴重。
だけど、このためだけに5CDを買うのも。。。

2CDのDisc2ハイライトにもこの2つを入れてくれればよかったのに。
Yellow SubmarineのSEなしのテイク4は不要だった。
(早いテンポで演奏し、回転を落とし歌を録音している。
 歌入のまま演奏時のテンポに上げているから子供の声のようで不自然)




<5CDのDisc4 2022モノ・マスターについて>

1966年のモノラル・ミックスから起こしたマスター・テープを2022年の最新
デジタル技術で蘇らせた一枚。
つまりリミックスしたわけではない。
当時のモノラル・ミックスからマスタリングし直した、ということだ。


ジョージ・マーティンもジェフ・エメリックもリボルバーとサージェント・
ペパーズはモノラルで聴いてほしい、と言っていた。
音の万華鏡のようなサージェント・ペパーズまでモノ推しという。

ビートルズの作品はホワイト・アルバムまではモノラルを重視してた。
英国ではアメリカや日本に比べるとステレオの普及が遅く、多くの家庭でポ
ータブル・レコードプレーヤーで聴かれていたためである。
(ステレオ盤とモノラル盤の2種類が発売された)(3)




このためミックスダウンはモノラルに時間をかける
4人もモノラルのミックスダウンには立ち会っていたが、ステレオはモノラル
に準じるということでマーティンたちにお任せだった。
当時は手作業のミックスダウンでエンジニアはテープを回しながらフェーダー
を細かく調整し、かなり大変な作業になる。

結果としてステレオとモノラルではSEの入り方が違う、タンバリンが入るタ
イミングが違う、ギターの入り方や音量が違う、ヴォーカルがダブルトラック
か否か、フェイドアウトのタイミングが違う、時にはテイクが違う(4)という
こともあった。

時間がない中、ステレオ・ミックスは妥協、やっつけ仕事になりがちなので、
エンジニア、プロデューサーとしては納得してない面もあるのだろう。



1986〜1987年にビートルズが初CD化された際は初期4枚はモノラルのみ、
ルプ以降はステレオのみ。(ジョージ・マーティンによる判断)

2009年、全作品がリマスターされる。
この時すべてステレオになるが、限定でモノ・ボックスも発売された。

モノラルに関してはこの2009年リマスターで充分だと思う。
(2022モノ・マスターと比較したわけではないが)





初期のビートルズは中域で塊になってガツンと前に出る音が魅力だった。
Please Please Meなんかは確かにモノの方がすごい。パンチがある。
2009年リマスターのモノラル盤は、英国盤1st.プレスを上質なオーディオ装置
でかけたのと同等の音質、と評論家たちも絶賛していた。


2009年リマスターはその良さ(野太い中域の迫力とふくよかさ)が味わえる。
ステレオ・リミックスなら分かるが、当時のモノ・マスターから最新技術でデジ
タルトランスファーしたのでよりクリアーです、と言われても触手が動かない。
なんか違うんじゃないか?と思うのだが。
当然、定位は今までと同じわけだ。やる必要があったのか?疑問。



<5CDのDisc5 EP盤について>

出ましたよ。またやっちゃいましたね。枚数稼ぎのあこぎ商法。
(Let It Beもこの手口でした)

80分入るディスクにPaperback Writer/Rainの2曲だけ。
それぞれステレオ(リミックス)とモノラルで計4トラック。10分程度。
もったいなーい。
ステレオだけDisc2か3の頭に入れておけばいいんじゃないの?
こんなんでCD5枚組ですって、胸張って言えるのか?



↑Rainのプロモビデオ撮影。


とはいえ、今回のPaperback Writer/Rainは聴きごたえがある
2CDのDisc2ハイライトの頭に収録されてるのでそっちで聴く方がお得。




<LPについて>

まず、デジタルでリミックスした音をLPで聴くことに疑問がある。
昔のプレス盤の方が音の親和性が高いような気がする。
(いわゆるアナログならではの温かみとか、ふくよかさとか)
それに高級なオーディオ機器じゃないとLPはいい音で聴けない。

LPを所有・収集する趣味もない。再生機もない。よって除外。




<結論(個人的見解)>

2CDと1CDとの価格差は400〜500円。
Paperback Writer/Rainも聴きたいなら(聴いた方がいいと思う)
2CDを買うべし
アウトテイクもそこそこ楽しめます。

完全制覇を狙いたいコレクターさんは5CDのボックスやLPをどうぞ。
そもそもリミックスに抵抗がある人は買わない方がいいです。




<続く>


<脚注>


(1)5CDボックス
ホワイト・アルバムは最初2CDを買ったが、アウトテイクを聴きたくて後から
5CDのボックスに買い直した。
レット・イット・ビーもグリン・ジョンズMixやアウトテイクは必聴だから、
5CDのボックスを買った。
両方ともボックスとブックレットは友人にあげた。音だけ聴ければいい。


(2)曲名がまだ決まっていない。
ビートルズはなかなか曲のタイトルを決められない傾向があった。
I Saw Her Standing Thereは録音時はSeventeenと呼ばれている。
昨年配信された映画「ゲット・バック」でも曲の呼び方がその都度変わる。
Don't Let Me DownはI'm In Love For The First Time、Get BackはJojo、
Let It BeはBrother Malcom、All Things Must PassはSunrise、For You 
BlueはGeorge's BluesとかBecause You Sweet、Two Of UsはOn Our Way
Home、SomethingはSomething In The Way She Moves、Dig A Pony
はAll I Want Is You、Dig ItはCan You Dig It?、Bathroom Windowなど。
中でもジョージは迷うらしくぎりぎりまで決められなかった。
安易に付けるタイトルを鼻で笑うような節もある。
「この曲のタイトルはI've Got A Feeling?」とポールに訊くシーンもあった。


(3)ビートルズのステレオ盤とモノラル盤
シングル盤はモノラルで初めてステレオになったのはHey Judeから。
(日本ではモノラルだった。ステレオになるのはGet Backから)
アビイロード、レット・イット・ビーはステレオ盤のみとなった。


(4)テイクが違う
有名なのはPlease Please Me。
ステレオ盤ではジョンが歌詞を間違え、笑いをこらえている。
ジョージのギターがハーモニカと違う箇所がある。
Love Me Doはシングル盤はリンゴ、アルバムはアンディ・ホワイト
がドラムを叩いている。


<参考資料:ユニバーサル・ミュージック、BARKS、Udiscovermusic.jp、
Rollingstone、Wikipedia、Amazon、YouTube、他>

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