2022年2月9日水曜日

ゲット・バックは終わらない。なぜなら。。。

 
<新譜「ゲット・バック」は遅れ、何が起こってるか分からなかった。>




↑ミュージック・ライフ1969年12月発売号?に掲載された広告。

ビッグ・ア・ポニー、テリー・ボーイ?
収録曲名はたぶん電話で確認した際、聞き間違えたのだろう。
「お待たせしました」と記載されている。
5月に日本でゲット・バックのシングル盤が発売。
続いてアルバム・タイトルが発表されたものの、一向に発売されない。

突然アビイロードが(日本では10月)に発売。
ゲット・バックのLPはどうなった?消えたのか?とみんな思っていた。
そんな時期にこの広告が出たわけだ。

この後、発売再延期が発表される。
イギリスではグリン・ジョンズが2nd.ミックスを制作したものの再び却下。
ジョンはセッションのテープをフィル・スペクターに委ねた。
そんなこと、当時の日本では誰も知らなかっただろう。

1970年3月、日本では1ヶ月遅れでシングル盤レット・イット・ビーが発売。
英国では5月にアルバム「レット・イット・ビー」発売。映画も公開された。
日本では6月にアルバム発売、映画公開は8月下旬と遅れた。



↑アルバムは当初、写真集付きのボックス入りで5000円で発売された。
中学生のお小遣いでは手が出ない。裕福な友人が買い貸してもらった。
(映画「ゲット・バック」で明らかになったが、写真集はジョンがジョン・
コッシュにデザインを依頼したもので、単独で発売するつもりだったようだ)


とりあえず新譜が出たことを喜び、何度も聴いた。
しかし、どうもしっくりこない。なぜかよく分からなかった。
「レット・イット・ビー」に違和感を抱いたファンは多い。
友人は「今までのビートルズのアルバムで最低」と言っていた。

そのうちフィル・スペクターによるリプロダクションだったこと、ポールが
その内容に激怒し(彼の知らない間にオーヴァーダブが加えられてた)、
脱退宣言に至ったことを知る。ビートルズは終わてしまった。



<ブートでだんだん見えてきたゲット・バック・セッション。>

高校に入ってすぐ、ヤマハの輸入盤セールで「KUM BACK」という簡素と
いうか雑な装丁のLPを見つけた。
店員に訊くと「試聴しますか?」と言うので、ヘッドホンで聴かせてもらう。
初めて聴く音源に驚き、友達と顔を見合わせた。




「KUM BACK」(1970年1月)はビートルズ初のブートレグ(海賊盤)だった。
盤質は悪く歪んでおり、カートリッジが上下しボツンボツンとノイズが入った。
ピッチもやや早め、スクラッチノイズもあり、音質も良くなかった。

しかし、この時「レット・イット・ビー」以外に音源があることを知っ

それらの多くはグリン・ジョンズのミックスで発表されるはずだったアルバム
「ゲット・バック」収録音源と同一。仮ミックスのためか違うテイクもある。

Side A
1.Get Back  2.Can He Walk (The Walk)  3.Let It Be   4.Teddy Boy  
5.Two of Us  

Side B
6.Don't Let Me Down 7.I've Got a Feeling 8.The Long and Winding Road
9.For You Blue   10.Dig a Pony  11.Get Back (Reprise)

I’m Ready (Rocker)/Save The Last Dance For Me/Don’t Let Me Down 
のメドレー、One After 909の屋上テイクは入っていない。
Can He Walkは2021リミックスのアウトテイクに収録されたThe Walk。
Let It Beはイントロが違うテイク。





「KUM BACK」は1969年9月22日にボストンのラジオ曲WBCNでオンエアされ
た音源が元になっている。

1969年1月下旬、セッション終了前にグリン・ジョンズは自主提案でミックス
(1969年5月1st.ミックスの前段階の試作)を行い4人にアセテート盤を渡す。
4人は却下。この時点ではまだ屋上コンサートは行われていなかった。
だから1st.ミックスのワン・アフター・909のライヴ演奏の当然まだ存在しない。

ジョンが9月12日プラスチック・オノ・バンドとしてトロント・ロックンロール
・リバイバルに参加した際、この仮編集のアセテート盤を関係者に渡したのが
流出した、つまりジョン本人が図らずもブート音源を流してしまったわけだ。


その後、流出したナグラテープを音源とした数多くのブートが出回ったが、粗悪
品に懲りて手を出さないようにしていた。



1980年代後半、ブートがCD化されてから音質も内容も格段に向上した。
Swinging Pig、Yellow Dog、Vig-O-Tone、Masterdisc、Quarter Appleなど
レーベルが生まれ、次々とレアな音源を発表。
この頃は買いまくった(笑)
中でもBBCとゲット・バック・セッションはコレクターズ・アイテム。




ゲット・バック関連の音源はナグラテープ(映画撮影カメラにシンクロして記録
される音声)、特にトゥイッケナム映画スタジオでの音源は膨大な量だった。
ウダウダしたまとまりの悪い演奏が続くのだが、後にアビイロードに収録される
ことなる曲のデモやリハーサルソロ・アルバムで取り上げられることになる
なども聴け貴重であった。

さらにアップル・スタジオで1曲ずつテイクを延々と重ねる音源ルーフトップ
・コンサートの完全盤(ナグラテープ音源なので音量バランスが偏ってたが)
もブートCD化され驚かされる。





そして1990年代にはグリン・ジョンズ1st.ミックス「ゲット・バック」の高音質
ブートCDが登場。続いて2nd.ミックスも発売された。
本来発売されるはずだった幻のアルバム「ゲット・バック」がやっと聴けた。

1969年にもしこのアルバムが世に出ていたらどう評価されただろう?
自分たちはどう感じただろう?アビイロードは違った形になっただろうか。






<2021リミックス、ドキュメンタリー映画「ゲット・バック」で完結か?>

映画「ゲット・バック」はかなり満足度が高い。
一般の方が見たら、7時間50分もウダウダやってるのを見せられるのは苦痛だ
ろうが、ビートルズのコアなファンにとっては貴重なミッシングリンクである。

1969年1月の22日間を時系列で追体験できるのは、スタジオの一角でビートルズ
を見学しているような錯覚にとらわれる。




名曲が生まれる瞬間、アレンジを変えどんどん曲が形を変えていく過程。
こういう流れで、こんなやり取りが行われてたのか、と初めて分かった。

曲はぶつ切りであるが、見ているファンの多くは既にブートでよく知っている
音源であり、その映像版が見られるわけだから充分楽しめる。


         
↑Redbubble.comでは早速こんなものまで売られていた。これは何かというと。。。


↑アップル・スタジオでビートルズが使ってたマグカップのレプリカだった。

スタジオか部屋に置いておけばゲット・バック・セッション気分に浸れる?(笑)



中でもルーフトップ・コンサート完全収録は圧巻であった。
この40分だけでも見応えがあり、ビートルズの凄さとカッコよさを再認識した。





2021リミックスは何度も聴いたが、今までのリミックスほどの満足感はない。
アルバム「レット・イット・ビー」リミックスは妥当な落とし所だったと思う。
スペクター色は残しつつ全体にメロウで聴きやすくなった

グリン・ジョンズの「ゲット・バック」は音が貧弱すぎる
当時の音のまま聴かせたのかもしれないが、一緒にリミックスすべきだった。

アウトテイクの選曲はいいが、収録数が少なすぎる。4曲入りのEP盤も同じ。
ゲット・バック(シングル・ヴァージョン)のリミックスがないのは解せない。
ルーフトップ・コンサートを完全収録すべきだったと思う。


※ルーフトップ・コンサート完全版音源は1月28日から全世界でストリーミング
を開始した。ジャイルズ・マーティンとサム・オケルによりドルビーアトモス
でリミックスされた臨場感あふれる音を体感できる。
(Apple Music、Sportify、YouTubeMusic、deezer)

2021リミックス・スーパー・デラックスにルーフトップ完全版を入れなかった
のはこういう画策をしてたってわけね。あこぎだなー。
サブスクじゃなくダウンロードかCDで出して欲しい。






今回のリミックスでゲット・バックは完結したという気にはなれない。

「レット・イット・ビー」は本来あるべき形ではなかったと改めて思う。
グリン・ジョンズの「ゲット・バック」も残念な内容であった。

初公開のテイクやリハーサルも収録されているが、充分とは言えない。
アンソロジー3にしか収録されてない音源もある。ネイキッドもある。
完成度の高いルーフトップ・コンサートの8トラック音源があることも分かった。





要するに音源があっちこっちに散らばっていて集大成になっていない
マニアックなファンは知りすぎているだけに、物足りなさを感じてしまう。
「レット・イット・ビー」も「ゲット・バック」は(リミックスやリマスターで
音質的に向上しても)未完成のままである。ネイキッドもキワモノだった。

ベストテイクを収録した決定打のアルバムがない
これが「ゲット・バックは終わってない」と思わせるモヤモヤ感なのだろう。



<ゲット・バックは終わらない。で、どうする?>

ということで、最後に「こうだったら良かったのにゲット・バック」
公式音源から、これなら納得できた?架空のアルバムの編集をしてみた。




Side A
1. トゥ・オブ・アス(2021リミックス Disc1
2. アイム・レディ (aka ロッカー) 〜セイヴ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー
 〜ドント・レット・ミー・ダウン(1969グリン・ジョンズ・ミックス Disc4
3. ザ・ウォーク (ジャム Disc3
4. リップ・イット・アップ〜シェイク・ラトル・ロール〜ブルー・スエード・
 シューズ(メドレー アンソロジー3
5. オー!ダーリン (ジャム Disc3
6. ディグ・イット(1969グリン・ジョンズ・ミックス Disc4
7. レット・イット・ビー(テイク28 Disc3
8. フォー・ユー・ブルー(1969グリン・ジョンズ・ミックス Disc4

Side B
1. ゲット・バック(1st.ルーフトップ・パフォーマンスまたはテイク19 Disc2
2. ドント・レット・ミー・ダウン (1st.ルーフトップ・パフォーマンス  Disc2
3. アイヴ・ガッタ・フィーリング(1st.ルーフトップ・パフォーマンス※ Disc1
4. ディグ・ア・ポニー(ルーフトップ・パフォーマンス  Disc1
5. ワン・アフター・909(ルーフトップ・パフォーマンス  Disc1
6. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード (テイク19   Disc2)
7. アイ・ミー・マイン(1969グリン・ジョンズ・ミックス Disc4
8. アクロス・ザ・ユニヴァース(レット・イット・ビー・ネイキッド)  

1/28からApple Music、Sportify、YouTubeMusic、deezerで配信。
ウォミーングアップの部分的ゲット・バック以外、5曲9テイク、即興の英国国家
を入れて10トラック聴ける。CD化して欲しいところだ。
3-5.はレット・イット・ビー2021リミックスDisc1収録テイクでもいい。






基本的に当初の「オーヴァーダブしない一発録音」のコンセプトで通している。
A面はブルースやロックンロールのジャムなどリラックスした演奏中心に選曲。

1曲目は「レット・イット・ビー」のトゥ・オブ・アスでスタートしたかった。
冒頭のジョンのI dig a Pigmy....の喋りはカットしていいと思う。




オー!ダーリンはアビイロードで正式に録音されるが、ジョンとポールの和気藹々
の掛け合いが聴けるスローなリハーサルも捨てがたいので入れてみた。
ディグ・イットはグリン・ジョンズ版は長い。スペクター版でいいかもしれない。
次のレット・イット・ビーの引き立て役的な意味で挟んである。


レット・イット・ビー(テイク28)は公式発表されたテイク27終了後にそのまま
テイク番号を告げず続いて演奏された録音で、当初はテイク27-Bとされていた。
グリン・ジョンズの「ゲット・バック」、シングル盤、フィル・スペクターのアル
バム「レット・イット・ビー」に採用されたテイク27はどれも、程度の違いはある
がオーヴァーダブが行われている。

しかし、このテイク28はオーヴァーダブされていない
1970年の映画「レット・イット・ビー」で使用されたのはこのテイク。
ジョージのレズリー回転スピーカーを通したリードギター、ビリー・プレストン
のオルガンが際立ちゴスペル色が出ている
ジョンとジョージのコーラスは薄いが、それはそれでいい。
最後のヴァースでポールはThere will be no sorrowと歌詞を変えている。




シングル盤で出した曲はアルバムに入れないのがビートルズの方針だった。
だからシングル盤のオーヴァーダブを加えたテイク27とは趣が違う、素のビート
ルズが聴けるテイク28をアルバムA面のハイライトにしようと考えた。

A面はアコースティックで始まりアコースティックで終わらせたかった。
グリン・ジョンズ版のフォー・ユー・ブルーはジョージのギターがしっかり聴ける。
ボーカルも録り直しする前のものである。




B面はルーフトップ・コンサート中心に選曲

1曲目のゲット・バックは屋上での1回目
(1/28からApple Music、Sportify、YouTubeMusic、deezerで配信)
これで屋上で演奏した5曲がすべて聴ける
(2回、3回、演奏した曲もあるが一番出来がいいテイクだけでいいだろう)


CD化された音源で選曲するなら、1月27日に録音されたテイク19がいいと思う。
シングル盤は1月28日のベストテイクで、ブレイク後Oooh〜以降は27日録音のこの
テイク19の後半を編集でつなげてある。

前半は歌もジョンのギターも少しラフだがノリがいい。
特にブレイク後のポールのアドリブのボーカルがクロっぽくてカッコいい
後半のha-ha-ha-ha,Ho-ho-ho-hoは1970年の映画のエンディングで使われた他、
グリン・ジョンズの「ゲット・バック」では最後にリプライズとして入っている。
このテイクを推すのも「シングル盤とは違うテイク」をという趣旨である。





今回初めて音源が公式発表されたドント・レット・ミー・ダウン(屋上での初回
演奏)はシングル盤ゲット・バックB面のスローなテイクとは違った魅力がある。
ジョージも含めた3声コーラスが聴けるし、ジョンの歌詞忘れ誤魔化しもご愛嬌。

アイヴ・ガッタ・フィーリング、ディグ・ア・ポニー、ワン・アフター・909
アルバム「レット・イット・ビー」収録ヴァージョンである。
この3曲を屋上での演奏がベストと判断したフィル・スペクターはえらい。




白熱のルーフトップ・コンサートからチルアウトする意味で、ザ・ロング・アンド
・ワインディング・ロードを6曲目に選んだ。
このテイク19は実際にルーフトップ・コンサートの翌31日、スタジオでの録音。

グリン・ジョンズもフィル・スペクターも1月26日のテイクを使用したが、31日の
テイク19の方が出来がいい
ビリー・プレストンのゴスペル風オルガン・ソロが秀逸ポールによるカウンター・
ハミングとの絡みが素晴らしい点、ジョージがアコギでなくテレキャスター(レズ
リー回転スピーカーを通している)で音がクリアである点、ジョンの6弦ベースの
ミストーンが少ない点、などテイク19こそベストテイクではないかと思う。





ここで終わりにしてもよかった。
アイ・ミー・マインとアクロス・ザ・ユニヴァースはゲット・バック・セッション
での録音ではなく、オーヴァーダブも行われているからだ。
しかしこの2曲は多くの人にとっては「レット・イット・ビー」収録曲であり、
外すにはもったいないいい曲でもある。

アイ・ミー・マインはジョンを除く3人で録音しているため、また1970年1月のこの
セッションの時点では一発録音の約束は反故になってたため、オーヴァーダブによる
多重録音で完成させている。
それでもフィル・スペクターがブラスを加えたラウドなヴァージョンよりは、グリン
・ジョンズ・2nd.ミックスの方が音数が少ない

Disc2に収められたウェイク・アップ・リトル・スージー / アイ・ミー・マイン (
テイク11) は3人編成のベーシック・トラックは、残念ながらボーカルなしである。
これにボーカル、最低限のギター、オルガンだけを加えればシンプルなヴァージョン
が作れると思うのだが。





アクロス・ザ・ユニヴァースはゲット・バック・セッションの1年前、1968年初頭に
録音されたもので、ジョンはいろいろな楽器やコーラスをオーヴァーダブしたものの、
納得のいく出来にはならず放置していた。
WWFチャリティー・アルバム収録ヴァージョン、グリン・ジョンズ・ミックス、
フィル・スペクターがコーラスとストリングスを加えたヴァージョンといろいろある。

レット・イット・ビー・ネイキッドのヴァージョンジョンの歌とアコースティック
ギター、ジョージのタンブーラが広がり、シンプルだけど美しい
これで締めくくりたかった。

ホワイト・アルバム2018リミックス・スペシャル・エディションのDisc6に収録され
たアクロス・ザ・ユニヴァース(テイク6)も候補に挙がった。
ジョンの歌とギター(たぶん弾き語り)、リンゴのトムトムだけのシンプルな編成。
歌い方がややぶっきらぼうなのと、やはりギター一本だけで最後までは物足りない。
ジョージのタンブーラ入りのネイキッド・ヴァージョンの方にした。





以上、非常に個人的かつ独善的な観点による架空アルバムである。
今後、音源が発表されるならB面をルーフトップ完全版、A面はスタジオで録音した
完成度の高い曲で構成、という方法もある
グリン・ジョンズにプロデュース能力があればとっくにそうしていただろうが。

他のアルバムは完成されており、我々はアウトテイクを聴いて制作プロセスを楽しむ
くらいしかできない。
しかし「ゲット・バック」「レット・イット・ビー」は未完成のままだからこそ、
唯一ファンが弄れる余地がある、異色なアルバムなのではないだろうか。



↑この写真は合成。4人の後に写ってるのはスペインのセビリア大聖堂。
床にはビール瓶?が置いてある。いろいろなパロディーがあるものだ。
でも、4人のこの瞬間を捉えた写真はレアかも。初めて見た。

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