片岡義男氏の短編のタイトルが気に入っていたからである。(1)
リスナーから寄せられた失恋のエピソードを紹介しながら曲をかける。
ティーンエイジャーのケア用品やチョコレートのクライアント向きだと思う。
片岡義男さんに別な仕事でお会いした時にその話をしたら、彼はおだやかに笑み
を浮かべながら「そうですか」と言っていた。
いつかと暖めていたアイディアだが、残念ながらその機会は訪れなかった。
ビージーズの「How Can You Mend A Broken Heart」は1971年8月に発売され、
彼ら初の全米No.1ヒットとなった曲である。
邦題は「傷心の日々」。歌詞の内容からすればうまく日本語に収めたと思う。
しかし。演歌っぽいノリというかジメジメした私小説っぽいイメージがする。
バラードとはいえロックでしょ、この曲は。
ハートが壊れちゃった、みたいな感覚でもいいんじゃないかと思うけど。
↑壊れたハートをクリックすると曲が聴けます。
How Can You Mend A Broken Heart
(Robin Hugh Gibb - Barry Alan Gibb 対訳:イエロードッグ)
I can think of younger days when living for my life
Was everything a man could want to do.
I could never see tomorrow, but I was never told about the sorrow
若かった頃を思い出すよ やりたいことが何でもやれた満ち足りた日々
明日のことは分からなくても 悲しみがどういうものか知らずに済んだ
And how can you mend a broken heart?
How can you stop the rain from falling down?
How can you stop the sun from shining?
What makes the world go round? (2)
壊れちゃったハートはどうすれば癒せるのかな?
降りしきる雨をどうやって止ませよう?
まぶしぎる太陽をどうやって隠そう?
なぜ地球は周り続けることができるんだろうね?
How can you mend a this broken man?
How can a loser ever win?
Please help me mend my broken heart and let me live again
心が折れちゃった僕はどうしたら立ち直れるんだろう?
負け犬は這い上がることはできないのかな?
誰か助けてくれないか ずたずたに壊れた僕のハートを癒してくれ
もう一度自分を取り戻したいんだ
I can still feel the breeze that rustles through the trees
And misty memories of days gone by
We could never see tomorrow, no one said a word about the sorrow
木々をかさかさ言わせるそよ風を今でも肌で感じるよ
そして過ぎ去った日々のぼんやりした思い出たちもね
僕らは若く明日を考える必要がなく みんな悲しみとは無縁だった
And how can you mend a broken heart?
How can you stop the rain from falling down?
How can you stop the sun from shining?
What makes the world go round?
壊れちゃったハートはどうすれば癒せるのかな?
降りしきる雨をどうやって止ませよう?
まぶしぎる太陽をどうやって隠そう?
なぜ地球は周り続けることができるんだろうね?
最初のヴァースはロビン、コーラスのHow can you〜からバリーが歌う。
二人は声質が似ているがロビンの繊細でどこか折れてしまいそうな声に対して、
バリーは包容力のある温かい声だ。
三兄弟で最もハンサム(3)なバリーがAnd(Hah〜とため息のように)歌い出す
と女の子たちがキャーと歓声をあげるのがお約束だった。
↑ビージーズ初来日のパンフレット。
クリックすると1972年武道館での演奏(これは貴重!)が観られます。片耳を手で覆いながら歌うロビンに鶴田浩二か!とツッコミ入れたっけ(笑)
実はこの曲がアメリカでヒットしてる頃、日本ではぜんぜん違うビージーズの
曲が売れていた。
その曲というのは「Melody Fair(邦題:メロディ・フェア)」である。
この曲は彼らの4作目のアルバム「Odessay」(1969年発表)に収録されてい
たが、シングルカットはされていない。
日本で「メロディ・フェア」がシングルリリースされたのは2年後の1971年6月
10日で、映画「小さな恋のメロディ(Melody)」(4)の公開(6月26日)に合わ
せての発売であった。
映画「小さな恋のメロディ」はイギリス、アメリカではさんざんな結果に終わっ
たものの、日本では大ヒットした。
そして「メロディ・フェア」もオリコン・チャート3位の大ヒットとなった。
1971年夏の日米ヒットチャートを比べてみよう。
当時の空気を思い出す方も多いのではないだろうか。
◆ビルボード週間 TOP10 (1971年8月28日付)
1. How Can You Mend A Broken Heart - Bee Gees
2. Take Me Home, Country Roads - John Denver
3. Signs - Five Man Electrical Band
4. Mercy Mercy Me - Marvin Gaye
5. Mr. Big Stuff - Jean Knight
6. Sweet Hitch-Hiker - Creedence Clearwater Revival
7. Liar - Three Dog Night
8. Smiling Faces Sometimes - Undisputed Truth
9. Spanish Harlem - Aretha Franklin
10. Go Away Little Girl - Donny Osmond
◆オリコン週間シングル・チャート(1971年8月30日付)
1.わたしの城下町 /小柳ルミ子
(7月26日〜10月11日まで12週連続一位を記録する大ヒットだった)
2. 17才/南沙織
3. 小さな恋のメロディ/ビージーズ
4. さらば恋人/ 堺正章
5. さよならをもう一度 /尾崎紀世彦
6. サマー・クリエイション/ジョーン・シェパード
7. 昨日・今日・明日/井上順之
8. よこはま・たそがれ/五木ひろし
9. 男/ 鶴田浩二
10. バタフライ/ダニエル・ジェラール
ビージーズが1972年3月に初来日した際、「メロディ・フェア」を歌うよう
主催者側が頼むとバリー・ギブは最初難色を示したそうである。
日本だけの局地的ヒットでライブでの演奏曲リストにはなかったようだ。
しかしビージーズはちゃんと「メロディ・フェア」をやってくれた。
バリー・ギブがオープンDチューニングで弾いてるのもテレビ放映でしっかり
確認でき、あの響きはそういうことだったのかと納得した憶えがある。
「メロディ・フェア」のB面は「First of May(邦題:若葉のころ)」だった。
2年前に「Odessay」からシングルA面としてイギリスと日本で既に発売され
ている(5)のだが、「メロディ・フェア」と同じく映画「小さな恋のメロディ」
挿入歌だったため、日本ではカップリング曲に選ばれたのだろう。
この曲も日本では根強い人気だ。何回かリバイバル・ヒットしている。(6)
ちなみに原題「First of May」はバリー・ギブの愛犬バーナビーの誕生日が
5月1日だったからだとか。
↑バリーと愛犬バーナビーの写真をクリックすると「若葉のころ」が聴けます。
(1)ハートブレイクなんてへっちゃら
片岡義男著の短編作品「ハートブレイクなんて、へっちゃら」。
表題作を含む短編集「スローなブギにしてくれ」(1976年角川書店)に収録。
(2)What makes the world go round?
スキーター・デイヴィスでヒットした「The End of the World」(Sylvia Dee)
を彷彿させる一節だ。
Why does the sun go on shining and why does the sea rush to shore
Don't they know it's the end of the world
Cause you don't love me anymore
なぜ太陽は輝き続け波を寄せ続けるの?
みんな世界が終わったって知らないのかしら
だってあなたはもう私を愛していないんだもの
ビートルズの「Because」にも通じるところがあるような気がする。
Because the sky is blue, it makes me cry
思わず涙が出てしまう だってこんなに空が青いから
(3)三兄弟で最もハンサム
さらに美形だったのは三人の弟のアンディ・ギブである。
兄バリーの協力もあってアイドル歌手としてデビュー。
1988年にウイルス性心筋炎でわずか30歳で逝去した。
亡くなる直前ビージーズに加わることが決まっていたが叶えられなかった。
ビージーズは「Wish You Were Here」という曲をアンディに捧げた。
モーリスは2003年に腸閉塞のため53歳で他界。ロビンは 2012年大腸癌のため
62歳で他界。残ったのはバリー一人になってしまった。
(4)映画「小さな恋のメロディ」
1971年のイギリス映画。原題は「Melody」。
脚本は後にピンクフロイドの「ザ・ウォール」「エンゼルハート」「愛と哀し
みの旅路」の監督で成功したアラン・パーカー。
出演:マーク・レスター 、トレイシー・ハイド、ジャック・ワイルド
英国で1971年4月21日、日本では1971年6月26日に公開(配給はヘラルド)。
アメリカでの公開は英国公開に先立つ。
イギリスでは散々叩かれたが、日本では大ヒットした。
サウンドトラック盤も日本ではヒットした。
ビージーズの歌が全編を流れた。CSN&Yの曲も使われている。
(5)「若葉のころ(First of May)」のシングル・リリース
1969年のアルバム「Odessa」』に収録されシングル盤としても発売された。
バリー・ギブの作曲。ボーカルもバリーがとっている。
B面はロビン・ギブがリードを歌う「ランプライト (Lamplight)」だった。
この曲は、ロビン・ギブがビージーズを一次脱退する原因の一つとなった。
ロビンは自分の曲「ランプライト」をアルバムからの最初のシングル盤にと
望んでいたが、バリーは「若葉のころ」の方がよいと考えていた。
結局マネージャーのロバート・スティッグウッドによってバリーの判断が
採用され、このことから関係がこじれロビンは1970年春バンドを去った。
(同年9月にはロビンが戻り、三兄弟のビージーズが復活している)
(6)「若葉のころ(First of May)」のリバイバル・ヒット
1983年にトヨタ・カムリのCMソングとして使用されている。
1996年にはテレビ・ドラマ「若葉のころ」のテーマ曲として使用されたこと
でまたヒット。オリコンのシングル・チャートは最高位25位を記録している。
1969年にシングルA面でリリースされた時のオリコンのシングル・チャート
は最高位80位であった。
(全英シングルチャート6位、キャッシュボックス18位、ビルボード37位)
日本では1971年の「メロディ・フェア」のB面に採用されたおかげで多くの
人に聴かれ、その後も度々取り上げられることにつながったのだろう。
(参考資料:Tales from the Brothers Gibb、Bee Gees Days、Wikipedia他)
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